「私はここにいます。」

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「まおゆう魔王勇者」の経済について色々と。


まおゆう魔王勇者 1「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」

まおゆう魔王勇者 1「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」

エンターブレイン
ネット上から始まった、魔王VS勇者の次の物語!


 たまにラノベ感想っぽいものなど。
 2ch投稿された「魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」」という作品が話題になり、書籍化されたものです。
 略称の「まおゆう」に「魔王勇者」を付け加えて、正式タイトルが1巻のサブタイトルに、という感じ。
 個人的には冒頭部分をマンガの動画にした作品を見ていたので、書籍版も買ってみたという流れです。
 原作が登場人物の台詞だけで構成された戯曲形式という事で、書籍版でも上下二段に分かれた形式になっています。
 本編が長いので、冊数を抑えるとか、色んな理由があるのかも知れないけど、1行が短くなるので、台詞が長いの時に読みづらくなります。
 台詞が登場人物事に交互に網掛けがかかったりなかったりしているけど、その辺でミスが多いのも残念なところです。
 お子様にも読みやすいようにと、ほとんどのページに解説が付いているけど、読んでいれば流れで何となく意味が分かるような単語にも付いていたり、逆に何でこの単語に付いていないの? 的な事もちょくちょくあったり。
 もうちょっとギャグを織り交ぜてみたりとか、ひと工夫あってもよろしかったかなと。
 ストーリー的には、魔王を倒そうと乗り込んできた勇者だったが、魔王と手を組んで、貧しい農村を豊かにして戦乱の時代を終わらせようとするお話。
 以下、「まおゆう」の経済を始めとする世界観には少々疑問があるので、その辺について書こうと思います。
 腕のぷにぷに具合を気にする魔王かわいいよ、と言ってる分には全く無駄なお話なので、見ない方がよろしいかも。
 それでも読みたいという人は「続きを読む」をクリックしてみましょう。
 「まおゆう」第1巻第1章では、魔王が乗り込んできた勇者に、魔王である自分を倒しても世界が良くなる訳ではない事を説明します。
 ちなみにこの辺はニコ動で公開されているマンガ動画版、PDFで公開されているお試し版でも読む事ができます。
 まず魔王が一番最初に人間に戦争が必要だと説明した最初の根拠は、魔族に対して人間の国同士が協力し、物資や食糧を融通し合い、技術が交流する事でかえって飢餓や貧困で亡くなる人が減る、という事でした。
 しかし戦争で焼け出された技術者や農民が近くの国に移住したり、戦争していない国から物資や食糧が入ってくる、という事もあるでしょうから、魔族との戦争が始まった事で飢餓や貧困が劇的に減る、とするのは無理がある気がします。
 第2章で魔王は魔界から馬鈴薯を持ち込んで人間の国での生産を広めますが、そもそも馬鈴薯が伝わっていない原因は、人間と魔族の戦争ではないでしょうか?
 次に魔王が挙げたのは戦争の経済効果で、戦争がなくなれば経済的に破綻する、という理由です。
 中央大陸の国家から戦争をしている南部諸王国に義援金を送り、その金で自分の国の商品を買ってもらう、という構図があります。
 自分の国の商品を買ってもらったところで、もともと送った義援金以上に税収という形で返ってくるはずもありません。
 お金の流れだけを見れば、中央大陸の国家から南部諸王国に一方的に資金が流れている事が分かると思います。
 魔王は南部諸王国から中央大陸の国家に「安全」が輸出されている、という理論を挙げていますが、これは詭弁に過ぎません。
 中央大陸の国家が「安全」を輸入し、中央大陸から南部諸王国に流れるのと同程度の代金で、中央大陸から南部諸王国に何かが輸出され、南部諸王国から中央大陸に代金が流れなければ、貿易赤字が拡大していきます。
 戦争が長期化し、戦費がかさめば、いずれ中央大陸の国家が財政的に破綻するのは目に見えています。
 魔王が挙げた3つめの理由は、戦争が終われば「戦争による死者」がいなくなり、人間が爆発的に増え、食糧が足りなくなる、という事です。
 「戦争による死者」が食料自給率を左右するほど多いなら、前線でも戦争で死なない兵士と後方支援などで死ぬ可能性の低い兵士がそれよりずっとたくさん必要、という事になります。
 もちろん兵士にはそれだけの食糧を供給しなければならないし、長期的にそれができるなら、意外と食糧生産には余裕がある、という事ではないでしょうか?
 口減らしのための手段として戦争を考えてみれば、結果的に死なない兵士にも食糧を供給しなければならない以上、優れた手段とは言えません。
 むしろ戦争をやめて兵士を農民にして新しい土地を開拓させれば、魔族が攻め込んできて村が焼かれ、農民が徴用されるなどで食糧生産が減る部分がなくなり、餓死者は減ると考えられます。
 いずれにしろ、戦争の規模が大きくなければ経済効果や口減らしの効果も得られないけど、それなら戦争が継続できるはずはありません。
 戦争の規模が小さくなければ継続できないけど、それならやめたところで弊害は小さくなります。
 最後が人間が勝って魔界を植民地にした場合、あるいは魔族が勝って人間の土地を植民地にした場合、どちらにしろ争いを繰り返して最終的に滅んでしまう、という予想。
 不確定な要素が多い予想だけど、人間も魔族も一人残らずいなくなる、という可能性はかなり低そうな気がします。
 いくつかの勢力で戦争を繰り返すなら、どれかひとつの勢力が統一を果たすか、あるいは決着が付く前に戦争を継続する余力がなくなって戦争をやめる、という可能性が高い気がします。
 SFであれば地球全体を滅ぼす核戦争という予想はあるかも知れないけど。
 以上の反論で、「まおゆう」における、勝敗を決しない永続的な戦争が経済的な理由で必要、という世界観が間違っている事が説明できたと思いますが。
 実際のところ、これまで長々と述べてきた事はどうでもよろしい事なのだ。
 この後の展開で、戦争を続ける理由が中央教会の権威付けという事になるからだ。
 そう、最初からそういう風に書いてくれれば、こんなに長々と書く事はなかったんだよ!
 でもこうなってくると、人間の貧しい国を豊かにして戦争をやめさせるお話だったのが、貧しい国が富める国に反乱を起こすお話、という事になってしまうような。
 結局は勇者が魔王を倒して平和が訪れる勧善懲悪、という構図を否定したはずだったのに、貧しい国が富める国の支配者を倒して平和が訪れる勧善懲悪、という構図になっているような。
 まあ私はweb版は読んでなくて第1巻しか読んでないので、その先がどうなっているか分かりませんけど。
 そうなっていないといいなあと思いつつ、第2巻の発売を待とうと思います。

 でわでわ。
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