礎 (ISHIZUE)

                   久部蝉


目次

序章
第1章 旅立ち
〜瞳〜
〜アイツと茜〜
〜写真〜
〜あの空き地で〜
〜調和を乱す者〜
〜永遠〜
〜かつて輝いていた日々〜
〜継承〜
第2章 炎のさだめ
〜カオス〜
〜夏の夢〜
〜夕秋〜
〜幼馴染〜
〜精霊の森〜
〜再会〜
〜雨〜
〜カマ〜
〜亀裂〜
〜アカネ〜
〜時は死に時は生まれる〜
〜共生〜
〜我ここに神に誓わん〜
〜抗う者〜
〜SHI YOU AGEIN
(死が再び君にあらん事を)
〜初夢(心病む者)〜

〜名誉返上〜
〜汚名挽回〜
〜トライシーカー〜
〜胎動〜
〜絆と約束〜
〜とある日常〜
〜前哨戦〜
〜骸〜

〜傀儡(くぐつ)〜
〜蜜月〜
〜三下半〜
〜触発〜
〜発動〜
〜春の霞〜
〜そして始まる〜
〜Limitter OFF〜
〜明日見た夢〜





詩子の物語
(詩子・藍・共通シナリオ)

〜蒼月〜 

〜扉〜

〜依代〜

〜意地〜

〜いざよい〜

〜あとがき その1〜




アカネの物語
〜時の輪〜
〜逢瀬〜
〜ちはやぶる神代も聞かず竜田川〜
〜静粛の淵〜
〜魔女の大鍋〜
〜年上の妹〜
〜尾根 輝く季節へ〜
〜あとがき(い)〜

〜夢の跡〜
〜百花繚乱〜
〜アストレア〜
〜オート・リバース〜
〜和洋折衷〜
〜光の天使〜
〜迎撃! 頭上の敵機〜 
〜見えない虹〜 
〜あとがき(ろ)〜
刹那と永遠の物語
〜ナイト○ア〜
〜虚空の幻想〜
〜Kandow〜
〜あとがき(I)〜














茜の物語
〜昨日見る夢〜
〜捕まえてマイ・ハピネス〜

〜四輪のオフェリア〜
〜かつて虹をみた小径〜
〜雨に打たれて咲く花〜
〜約束の土地へ〜
〜あかね〜
〜カーニバル〜
〜フェスティバル〜
第3章 ONE
第4章 漂流(スカイハリケーン)
〜約束の土地より〜
〜名も無き孤高の英雄〜

〜あとがき〜



詩子シナリオ
〜巫女の伝承唄〜
〜鋼の翼〜 
〜HONEY MOON〜 
〜黒南風(くろはえ)〜
〜白南風(しろはえ)〜

〜あとがき その2〜 
藍シナリオ
〜AnotherONE〜
〜狂気を司る月の精霊〜
〜現実の虚構〜
〜昼行灯〜
〜古の牙〜
〜破壊神降臨〜 
〜病葉(わくらば)〜

〜あとがき その3〜

〜 天使の棲む家 〜
〜 夢幻 〜
〜 反面の 〜
〜 北の巫女 〜
〜 忍ぶ碧 〜
〜 北の巫女 〜
〜 それぞれの覚悟 〜
〜 聖父と聖子と聖霊の御名 〜
〜 鳥の詩 〜
〜 はじめまして 〜
〜 あとがき (U)〜


〜 序章 〜

ナレーション(BGM:永遠)

 ここは、人の満たされない想いが吹き溜まる場所
 ひとつの強い想いが流れ着いた時、そこは「世界」になる
 満たされない想いが、仮初めにその想いを実現出来る「世界」に

 それから、幾千、幾万の夜を越えて、新たな想いが「世界」流れ着いた
 その想いは、満たされない想いを束ね「永遠」になる

 「永遠」は、想いを飲み込み続けて、大きく膨れ上がり
 ついに、更なる力を求めて・・・人を そして 人は

〜 第1章 旅立ち 〜

 〜 瞳 〜

小学生の私とアイツ(二人にスポットライト BGM:雨)
髪は短く、顎に小さなホクロがあっていつも勝気だったアイツ・・・
 
 私  「私の瞳に映るのは全部、嘘だから・・・父さんと母さんが居なくなった
     あの日か ら

 アイツ「じゃあ、私達の事も嘘だと言うの?」

 私  「よくわからない、 でも、あなたは嘘じゃない
     他の子達は・・・ううん、大人だって、ボクに近寄ろうとしないのに
     ボクを嫌ってるのに、どうして、あなた達が、みんなと違っているか
     ・・・わからない」

 アイツ「あなたは、茜に似てる気がするから」

モノローグ:現在の私(BGM:追想)

 最近、昔のことを思い出す事が多くなった気がする
 私が両親を失って、私の養育と
 両親の財産管理を名目に親戚がこの家に来た日から10年

 いや「気味の悪い子」と呼ばれる様になってから
 10年と言った方がいいかも知れない

 その唯一の肉親の親戚でさえ逃げ出すように、この街から去っていった

 幸い、両親の残してくれた遺産のおかげで生活には不自由していない
 両親は幼い頃に家に押し入った強盗に殺された、私の目の前で・・・
 両親の必死の抵抗と、警報機のおかげで私は助かったらしい

 私自身、この事については、はっきりとは覚えていない
 覚えているのは、血の海に横たわった両親の姿だけ

 その時からまだ立ち直れていないと思う
 未だに目に見えるモノを信用できないでいる
 血の海の光景を「嘘だ」としてしまった、あの日から

 目に見えるモノを信用出来なくなった替わりに
 私の周りにあるモノの動きや、人の気持ちの動きを
 感じる事が出来るようになった

 目に見えるはずの無い場所にあるモノの動き
 他の人が私の事をどう思っているのかが、私にはわかる
 それで「気味の悪い子」と呼ばれる様になって誰も私に近よろうとはしなくなった
 アイツらだけを除いては・・・・・・
 実際、私とまともに付き合ってくれたのは、アイツと茜と詩子だけだったから

 高校に入ってからは、状況は多少変わった、昔の私を知らない人が多いのが一番の理由
 ・・・・いや、決定的な理由は別にあるが・・・
 私自身も日常生活に支障が無いぐらいの応対は出来るようにはなったと思う
 私に対する評価は「多少暗いヤツ」ぐらいには回復してると思う

 それに・・・私がかつて「気味の悪い子」と呼ばれてた事を
 覚えている人なんて誰も居ない

 「お願い、茜を・・・守って・・・お願い」

 「わかった、心配するな」

 「茜を守る」それがアイツとの最後の約束だったから

 最近、昔のことを思い出す事が多くなった気がする
 茜の気配が変わったせいだろうか?

 〜 アイツと茜 〜

モノローグ:現在の私(BGM:雨)

 私の左腕には大きな痣が残っていている
 子供(?)の頃、茜のスカートをめくったら、激怒したアイツに
 木刀で殴られて、その時の傷が痣になった

 アイツらと出会ってから3年余り、アイツらの前なら
 私はこんな子供らしい(?)悪戯も出来る様にはなっていた
 いや・・・・中学生になってまでやる事でもないか
 孤独だった時間の長すぎた私の精神年齢なんてこんなものだ

 アイツは茜の双子の姉、勝気な性格で、事あれば苛められる
 大人しい茜の事を必死で守っていた

 今にして思えば、「気味の悪い子」と敬遠されていた私は
 アイツの目には苛められる茜と同じように見えていたのかも知れない

 「あなたは、茜に似てる気がするから」

 私がアイツに救われたのは間違い無い・・・・

 アイツは、当時剣道を習っていて、それなりの腕前だったらしい
 アイツを怒らせると非常に恐い
 まぁ、動きが読める分 私には簡単には当たらなかったが

 詩子は詩子でただ五月蝿いだけだった・・・いや、
 五月蝿いほどに私に気をかけてくれたのは詩子だけ
 まぁ、今もそれは変わりが無いが・・・・・

空き地:中学生の私とアイツ、茜(BGM:A Tair)

 茜のスカートをめくった私を、激怒したアイツが木刀を持って追いかける
 アイツの木刀をかわして逃げる私を、また、アイツが追いかける

 茜  「きゃ!」

 その時、私の目の前に茜が居た、すぐ後ろではアイツの木刀が
 唸りを上げている、アイツも前に茜が居る事に気づいた様だ

 アイツの気配に焦りの色が表れた

 私はアイツの木刀を左腕で受け止めた、止めなければ茜に当たっていた

 ガス!!・・・・鈍い音と共に左腕が折れた

 アイツの気配が変わった・・・これは後悔?

 左腕が鈍く痛むのもあってアイツに

 私  「悪いのは私だから、茜に悪戯したのは私だから」

 それだけしか言えなかった

 アイツ「・・・・・」

 アイツは無言だった あんなに勝気だったアイツがとても か細く見えた
 目に見えるモノを信用出来ないはずなのにな

暗転

 〜 写真 〜

病院:中学生の私、私の母、茜の母

モノローグ:現在の私(BGM:A Tair)

 病院で治療をしている最中
 当時はまだ私の保護者を放棄していなかった親戚と
 アイツ(と茜)の母親とが、なにやら大人の話を
 していたようだけど・・・私にとってはどうでもいい事だった
 彼らにとって私は「気味の悪い子」でしかないのだから

 診断の結果 私の左腕はギブス取れるまで2ヶ月ということだ

 治療が終わっても大人の話は終わってない様なので
 さっさと家に帰る事にした

病院前の路地:中学生の私とアイツ

モノローグ:現在の私
 病院の外にはアイツが一人でか細いままの姿で待っていた
 まだアイツは無言だった 後悔がアイツの気配に表れていた

 私はアイツを家に誘った、家にたどり着くまでの間も
 アイツは無言だった

 家に着いた私は押入れからポラロイドカメラを取り出した

 私には、嘘には見えない 今のアイツの姿がとても大切なものに思えたから

 私  「記念写真を撮ろう」

 アイツ「どうして?」

(BGM:虹を見た小径)
 
 やっとアイツが口を開いてくれた・・・だけどいつもの勝気さは全くない

 私  「勝利記念さ いや 私の完敗記念かな?」

 アイツ「信じられない」

 私  「出来れば笑って欲しいな」

 アイツ「バカ・・・・・」

 私はセルフタイマーをセットして、半ば強引に写真を撮った
 そこには、嘘ではないアイツの姿が残されていた
 (情けないギブス姿の私といっしょに)

 アイツから、今まで感じた事の無い気配を感じた
 警告? それが何を表すのかは正確には判らなかった
 ”近寄るな”とでも言いたいのだろうか?

暗転

 〜 あの空き地で 〜

モノローグ:現在の私(BGM:追想)

 うちの親戚とアイツ(と茜)の母親との大人の話の結果
 アイツと茜は私と遊ぶ事を禁じられたらしく
 街中で出会う事も珍しくなっていた

 それでも同じ街には住んでいるし、学校も同じだから
 道ですれ違う事ぐらいはある

 そんな時、アイツが私の左腕のギブスを見た時の動揺と
 ふっと、消えてしまうような錯覚を覚えるか細さ

 「アイツは茜と同じなんだ、ただ強がってるだけなんだ」

 そして、後悔の中に微かに漂う、私にはまだ判らなかった
 気配を放つアイツの背中に私はいつも呟いていた

 「気にしないで、こんな怪我すぐに治るから
  そうしたら、前と同じなんだから・・・・」

 今にして思えば、それは、アイツを更に追い詰める為の
 呪いの言葉だったのかも知れない
 私の左腕には大きな痣が残ってしまったのだから
 怪我が治っても前の姿には戻らなかったのだから
 その気配・・・警告の意味を取り違えていたのだから

雨の空き地:

モノローグ:現在の私(BGM:雨)

 私は今、あの空き地に立っている
 商店街から私と茜の通う高校へ続く道の
 傍らにある空き地

 アイツらと私の遊び場だった場所
 私の左腕がアイツに折られた場所
 アイツとの別離が始まってしまった場所

 皮肉な話だ、この左腕の痣だけが誰もが忘れてしまったはずの
 アイツを覚えている

 そう、この空き地ですらアイツを忘れてしまっていると言うのに
 今は萱が生い茂るだけのこの空き地も、あの頃にはまだ
 空き地の片隅に古井戸があった あの日以来埋められてしまったが

暗転

 〜 調和を乱す者 〜

モノローグ:現在の私(BGM:海鳴り)

 あの日嬉々とした詩子が駆け込んできた
 詩子も私と遊ぶ事は親に禁止されてたんじゃなかったか?

 詩子の話では、いつもの空き地で遊んでいたら
 茜が古井戸に財布を落として困っているらしい
 アイツが何とかしようと頑張っているらしいが
 どうしようもないらしい

 話の内容と、詩子の放つ嬉々とした気配に違和感を感じた私が
 詩子に尋ねてみた

私の家:中学生の私と詩子(BGM:オンユアマーク)

 私  「もしかして、他人の不幸を喜んでいる?
     何をしてたら財布を古井戸に落とすんだ
     第一あの古井戸には蓋がしてあっただろ?」

 待ったましたとばかりに詩子が答える

 詩子 「あんたなら、きっと何とかしてくれると思って」

 詩子の気配が一段と輝いた・・・
 その輝きに私はすべてを察した

 私  「なるほど、口実という訳か、茜の財布を井戸に放り込んだのは
     詩子・・・オマエだな? 当然アイツには内緒か・・・・・・」

 「どうして」多分そう言おうとした詩子が口篭もった
 どうやら私が周囲からなんと呼ばれているのかを思い出したようだ

(BGM:海鳴り)
 「気味の悪い子・・・」替わりに詩子がそう呟いた
  さすがに詩子も気まずいと思ったのか必死に弁明を始めた

  結局、私の左腕が折れた日からアイツの元気が無い
  私とアイツを会わせて、アイツを元気付けたいのと
  親に対する私の印象を良くして戒厳令を解除したい
  詩子が音頭をとって、茜と一緒に実行したようだ

  一通り弁明しても詩子の気持ちはおさまらないらしい

 私  「私は私が気味の悪い子と呼ばれているのは知っているし
     私自身気味が悪いと思っている、でもね
     欠点を含めて人は人なんだよ 気味が悪くない私は、私じゃない
     詩子は私の友達だろ、だったら気味が悪いぐらいの事を言われても
     気にしないから、変に気を遣われる方が哀しいよ」

 詩子 「うん・・・」

  それにしても詩子の行動には考えが足りない
  左腕のギブスを見せながら

 私  「あのな詩子この腕で何とかなると思うか?
     アイツと同じで、どうしようもなくてオロオロするだけじゃない?」

 
 〜 永遠 〜

空き地を見渡せる路地:中学生の私と詩子
空き地:中学生のアイツと茜(BGM:永遠)

 詩子に連れられて空き地が見渡せる場所まで来た時
 空き地にの古井戸の蓋をずらして中を除きこんでいるアイツが見えた
 今のアイツに例の消えてしまうようなか細さは無い

 私  『ふーん、茜の為に何かしている時はいつものアイツに戻れるんだ』

 そんな事を漠然と考えていると、前からアイツと茜の母親が
 慌てて駆け寄ってくるのが見えた

 おおかた、古井戸の周りで怪しげな事をやっているのを
 見かけた誰かが母親に連絡したんだろう

 「私がやることは無いな」そう詩子に告げようとした時
 
 アイツの気配に動揺が走った、アイツは私を見つけてしまった
 空き地に視線を戻すと、アイツと目が合った
 しかも、アイツは古井戸に身を乗り出している・・・・
 バランスを崩したアイツはそのまま井戸の中に消えた

 古井戸に駆け寄る母親の姿が見えた、茜の泣き顔が見えた
 私の傍らから駆け出す詩子が見えた

 アイツからは、私の両親が死んだ時の血の海の光景に感じた
 死の芳香が立ち上っていた・・・・私は呟いていた

 私  『なにもできないのか・・・また、今度も・・・・』

暗転

アイツの病室:中学生の私とアイツ、アイツの母親(BGM:雨 SE:雨だれ)

 雨が降る・・・・嫌な雨だ
 あれから数日が過ぎた だがアイツの容態に変化は無い

 私と遊ぶ事を嫌っていた筈のアイツの母親に
 私は病院に呼ばれた、アイツが会いたがっているという

 アイツ「お願い、茜を・・・守って・・・お願い」

 そうなんだアイツにはこれしかなかったんだ
 茜を守る事、それがアイツのすべてだったんだ

 それでも私はアイツに尋ねてみた

 私  「他にやりたい事は無いのか?」

 アイツの答えは同じだった・・・・

 私の他にアイツのか細さを知っている人間はいるのだろうか?
 この母親は知っているのだろうか?

 茜を守る勝気な姉・・・その仮面を最後に私の前でも被るつもりだろうか?
 それとも、私を相手にしていることすら判らないのだろうか?

 私  「わかった、心配するな」

 私はアイツに応えた、それがアイツの望みなら

 私  「でも、私は強くは無い、だからこの木刀はもらうよ」

 その時、死の芳香の中に、私の左腕を折った時にアイツが後悔の中に
 漂わせた気配を感じた・・・・

 私  「オマエは・・・心配を?・・・いったい何を?」

 私はアイツを看取るのをやめた、アイツは最後まで勝気な姉の仮面を
 被り続けるだろう
 でも、アイツが最後に私に求めたのは別の事だ
 それが何なのかは判らないけど

 〜 かつて輝いていた日々 〜

モノローグ:現在の私(BGM:遠いまなざし)

 不幸と言うモノは一気に襲ってくるものだろうか
 アイツの死後、一月も経たないうちに今度は茜が
 高熱を出して倒れた茜の事は気にはなったが、
 今回は私の出番は無い茜の傍には詩子が付いていてくれる

 私にはアイツが最後に託した謎を解くことも重要だった
 あの気配の意味は「警告」だ・・・・
 しかし、何を警告している? アイツは何を知っていた?
 何から茜を守っていた? 判らないことが多すぎる

 いや、それ以上にアイツが私に見せた動揺は異常だと思う

 本当のアイツは茜と同じだ・・・・消えていくようなか細さ
 それを茜に感じた事は無いが、茜にも有ると言う事なんだろうか?

 アイツ「あなたは、茜に似てる気がするから」

 そして、アイツが茜に似ているという私にも・・・・・死人に口無しか

 この頃の私の立場はまだ「気味の悪い子」でしかなく
 私が茜の見舞いに行くと茜の母親はいい顔をしなかった
 茜の容態に付いては、詩子からの報告に頼っていた

 最近、茜の話をする詩子の様子がおかしい、私が茜達と出会う前
 例えば、幼稚園時代の話をさも私がその場にいたかのように話す

 私  「詩子ちょっとまて、いくらなんでも幼稚園の劇の話はわからないよ」

 詩子 「あれ?そういえばそうだね でも、茜の隣にいた子は誰だっだんだろう?
     あんただと思ってたんだけど・・・・あんたのわけはないよね・・・・うーん」

 すべてが動き始めた日、アイツが私の左腕を折った日から2ヶ月がたっていた
 茜の高熱も2週間以上続いてる事になるのだが、不思議な事に母親にも詩子にも
 動揺は無いようだ・・・・茜の熱がさも当たり前の様に振舞っていた

 そして、詩子の病状もピークに達してしまった・・・・
 詩子の中で私は幼稚園以来の幼馴染にされてしまったようだ
 傍若無人な性格にも限度があるとは思うのだが・・・・
 更に病状が悪化すると・・・・私は生まれた時からの幼馴染に
 なってしまうのだろうか?

 空き地の古井戸も、2度と事故が起きないようにと埋められてしまって
 今は跡形もなくなってしまった

 そして、左腕のギブスをはずす日がついに来た

 〜 継承 〜

モノローグ:現在の私(BGM:永遠)

 私の左腕のギブスが外れた日、茜の熱も嘘のように引いた
 アイツとの絆になってしまった痣との対面でもあった

 私  「結構、大きな痣が残ったなぁ・・・・」

 その痣は女の子の力で出来たとは思えないほど大きなものだった
 そして、私の身に劇的な変化があった

 詩子の記憶に起きた異変は、詩子だけのものではなかった
 茜の記憶の中でも私は幼稚園以来の幼馴染になってしまっていた

 アイツが関わっていた出来事のすべてが、アイツではなく
 私がやった事に摩り替わってしまっていた
 茜が熱を出していた間に何もかもが変わってしまった

 私の周囲の空気も・・・「気味の悪い子」として私を見るものはいない
 この街には「茜の幼馴染の私」しかいない事になっていた

 私を養育するために来た親戚ですら、この日に帰ってしまった
 茜や詩子いや、母親の記憶の中にすらアイツは居ない
 空き地の古井戸はとっくに埋められている

 残されたアイツが居た痕跡は・・・私の左腕の痣、二人で撮った写真・・・・
 学校にはアイツの名前が入ったものが幾つかは残っているだろう
 それと・・・アイツの木刀・・・・木刀?

 私  「でも、私は強くは無い、だからこの木刀はもらうよ」

 あの病室で、この木刀を手にした時アイツは私に警告を発した

 あの警告が最後まで仮面を被り続ける事を強いられたアイツの本心だったなら
 この木刀か・・・・
 アイツも誰かから木刀を譲られて、元の持ち主がどうなったのかを知っているから
 私に警告したのか・・・・なら、アイツが言いたくは無かったはずの最後の言葉が
 継承の内容・・・・

 アイツ「お願い、茜を・・・守って・・・お願い」

 「茜を守る事」か・・・・まるで呪いだな
 あの日アイツは私を木刀で殴り倒すつもりだったのか?
 私に継承させない為に・・・なのに私は茜を守って剣を止めた

 それがアイツの動揺の正体か

 ふん、誰が仕組んだのかは知らないが
 人の記憶の中から消したとしても
 ”気味の悪いクソガキ”は、まだ生きている事を教えてやるよ

 本当の意味で茜は守ってやるよ
 それがアイツとの最後の約束だから

第1章〜旅立ち〜 了
第2章に続く


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