礎 (ISHIZUE)〜 贄 (NIE)・詩子の物語 〜

〜 第2章 炎のさだめ 〜

 〜 蒼月 〜

(BGM:追想)

 あたしが居る・・・・空き地に・・・
 あいつと・・・茜と・・・茜と・・・茜・・・

 あたしが向かう・・・空き地に・・・
 あいつと・・・あいつと・・・ギプスをしたあいつと

 あたしが・・・・・・空き地に・・・
 あたしが見下ろしてる空き地に・・・

 あたしの上に蒼い月・・・蒼い・・・蒼・・・
 影・・・空き地に・・・私の蒼い影・・・

 ・・・ちゃん・・・ごめん・・・
 藍ちゃん・・・ごめんね・・・・

詩子の部屋:寝ぼけている詩子

 詩子 「・・・藍ちゃん・・・ごめんね・・・あたしのせいで・・・」
  ・・・・え???? 誰?・・・・藍って?・・・・・ぁぃ・・・
           ・
           ・
           ・
           ・
 詩子 「・・・そう・・だ・・・・学校に・・・・行かなくっちゃ・・・・」
 
詩子の家の前:私とアカネ(BGM:ゆらめくひかり)

玄関から出てくる詩子

 詩子 「・・・・あ・・・おはよう・・・」
 アカネ「詩子? なんか様子が変だよ?」
 詩子 「・・ア・・カネ・・・・?・・・・姉さん・・・ぁぃ・・・」
 アカネ「・・・その名前」
 詩子 「藍ちゃん?・・・・あ・・・・あたし・・・今何してた?」
 私  「寝ぼけてた様に見えたけど?」

 詩子 「目が覚めたとき何か思い出した様な気がしたら・・・・
     気持ちよくなってきて・・・・頭がボーっと・して・・きて・・・・あはは・・・」

瞳から光が失せる詩子・・・詩子の頬をつねる私

 詩子 「あたたた、何すんのよ!!」
 私  「お、正気に戻った」
 詩子 「痛いぃ・・・ヒリヒリする・・・手加減してよぉ」
 アカネ「詩子 姉さんの名前を思い出したんだ」
 詩子 「えっと・・・多分・・・思い出してる  里村ぁぃ・・・」

力無く私に倒れかかる詩子 詩子の身体を支えて反対側の頬をつねる私

 詩子 「うぅぅぅぅ・・・・とっても痛い・・・・」 
 アカネ「詩子可愛いよ・・・・うん、リンゴみたいにほっぺが真っ赤で」

 詩子 「・・・藍 それがあなたの名前・・・・・」
 私  「詩子・・・今度は頭を殴ろうか?」
 詩子 「・・・・あ あんた! いつまであたしを抱いてるのよ!!」

バックステップで退きながら平手を繰り出す詩子
詩子の平手を左腕でいなしながら踏み込む
進路を狂わされた平手が私の頬をかすめる
平手をいなした反動で跳ね上げた左肘を詩子の顎の下で止める
・・・・ひとときの静寂・・・・

 詩子 「ふえぇぇ・・・本気・・・出さないで・・・」
     (妙に強張った感触・・・・・
      あんたねぇ、女の子を抱き留める時はもっと優しくするモノよ)

 私  「目が覚めた?」
 詩子 「覚めた、覚めた」
 アカネ「・・・・・」

詩子 その場を取り繕いながら
 詩子 「あんた達 何か用があって来たんじゃないの?」
 私  「当分 詩子にアカネを預かってもらおうと思って」
 詩子 「当分ってどのくらい?」
 私  「7月15日まで」
 詩子 「そう・・・・もしかしたらその後もずっと って事ね」
 私  「そうなるかな?」
 詩子 「アカネはそれで納得してるの?」
 アカネ「納得はしてないけど・・・先輩と一緒だと昨日みたいに
     またみんなに迷惑かけるから・・・・・」
 詩子 「昨日? 迷惑?・・・・何の事?」
 アカネ「詩子・・・何も覚えてないの?」
 詩子 「何もって・・・昨日は学校に行っただけよ 始業式だもん」
 アカネ「そうよね・・・そう・・・2年生は昨日から新学期・・・」
 詩子 「ほらほら、あんた達もそろそろ行かないと遅刻するよ」

私とアカネ退場
 詩子 「あんた達・・・遅刻? アカネが遅刻? どうして・・・」

 暗転

(BGM:A Tair )

 月が見ている 蒼い月が見ている
 高くて・・・大きくて・・・蒼い・・・
 月が私を見ている
 
 ずっと・・・・ずっと・・・・昔から
 哀しい月が私を見ている
 
 月の光が私を照らす
 蒼い光が私を照らす

 私の影 蒼い影
 影の中から私を見ている
 ずっと・・・・ずっと・・・・昔から

 月が見ている 蒼い月が見ている 月の中からあなたが見ている

夜 詩子の部屋:詩子と荷物を抱えたアカネ(BGM:雪のように白く )

 詩子 「この部屋二人で使うのには、ちょっと狭いのは我慢してね
     あと 荷物はその辺に置いて・・・・・・うーん」
 アカネ「置くところ無いですね・・・」
 詩子 「とりあえずベッドの上に置いて で、荷物ってこれだけ?」

荷物を置いてベットに腰掛けるアカネ
 アカネ「当座の着替えと制服と・・・・身の回りの物が少し」
 詩子 「しょうがないかな? あいつと一緒に暮らしてたんじゃ
     あいつ 甲斐性無しだし」

詩子は荷物の中からアカネの制服を手に取る
 詩子 「でも、なんかいいわね この制服がこの部屋にあるのって
     あたしもこの制服を着たかったな」

詩子は改めて自分の部屋を見回す
アカネには個体判別すら困難であろう没個性の集団(アイドル)が撮されたポスター
旅行の記念に買ってきて棚に放置された置物、貼りっぱなしのペナント
無造作に積まれた雑誌・・・多分どんな子の部屋にもありがちな物

そんなありふれた物を物珍しげに眺めているアカネ

 詩子 「ねぇアカネ あたしの部屋がそんなに珍しい?」
     (あいつが起こした奇跡・・・か、この子が学校に通うなんて)

 アカネ「私の部屋も先輩の部屋もこんなに生き生きとはしてなかったから」
 詩子 「このぐらいの生活感があるのは普通なんだけどな
     あいつの部屋が殺伐としすぎてただけよ」
 
 アカネ「思い出の品物がいっぱい」
 詩子 「思い出って言うほどの物じゃないけどね」
 アカネ「思い出・・・・」

アカネが荷物の中に視線を投げる
制服を荷物の上に置いた詩子はアカネの視線の先にある物を手に取る
ギプスをした私とアカネが写った写真が入った写真立て

 詩子 「写真立て? あいつがアカネの写真を撮ったの?」
 アカネ「あ・・・・」

写真に見入る詩子
 詩子 「藍ちゃんの写真・・・・そっか、あいつの所には藍の写真も残ってたんだ」
 アカネ「今朝 詩子が姉さんの事思い出したって」
 詩子 「昨日 夢の中で・・・蒼い月の中からあたしを見守ってくれていた
     私が・・・・藍を殺したようなモノなのに・・・・都合のいい夢ね
     ね、少し外に出ない、きっといい月よ」
 アカネ「月を?」

詩子の家 庭:詩子とアカネ(BGM:遠いまなざし)

月を仰いで恍惚としている詩子(少しルナティック入ってます)

 詩子 「藍 あなたは そこに居るのね
           ・
           ・
     ごめんね・・・あたしずっと忘れてた
           ・
           ・
     うん大丈夫、あいつは元気だから心配しないで
           ・
           ・
     でもあいつ、あたしより茜の事が好きなんだ」

 アカネ「姉さんと話してるの? だけど誰もいないよ
     違うのね・・・私だって誰にも見えなかったじゃない
     詩子には月の中に姉さんが見えているんだね」

古来より西洋では月の光は人心を惑わすと言う
ただ月が人の琴線に触れるから ただそれだけ

蒼い月の光で出来た詩子の影の中に更に蠢く影・・・・・・

暗転

 〜 扉 〜

深淵の闇:私達(BGM:永遠)

 『扉が開く こんなに簡単に開くモノじゃないのに』
 『ボク達が茜の世界とここを繋ぎすぎたせいだね』
 『ねぇ アカネ』

 アカネ『何?』

1年の教室:授業中のアカネ

 『ボク達のせいで世界の壁が薄くなってきてる』

 アカネ『だから?何?・・・・茜と何か関係あるの?』

 『違うよ このままだと君達によくない事が起きる』
 『だから 気を付けて』

 アカネ『心配してくれるの?』

 『忘れないで・・・ボク達は元々ボクだって事を』 

 アカネ『よくない事って何?』

 『ボク達みたいなのが現れるって事』
 『アカネみたいなのが現れるって事』
 『ボク達の世界からこの世界に・・・・』

 アカネ『姉さんの事を言ってるの?』

 『あの子じゃない』
 『だからアカネも気を付けて』

昼休み 学食:私、Lim、アカネ(BGM:走る!少女たち)

 アカネ「それで、なんのことかしら?”よくない事”って」
 私  「さあ? アカネやヤツらと同じだと言うのなら
     とりあえずは元凶は”人物”と考えていいのかな?
     災害とか戦争とか そんなものでなけりゃ
     なんとかなるんじゃない?」
 Lim「でも・・・私達に恨みを持った人っているの?
     例えば・・・・先祖に恨みを持ってて代々祟ってるとか?」

 私  「別の可能性があるとしたら・・・・
     人間そのものに恨みや憎しみを持っている奴
     直接 私達が目的じゃないが
     壁の薄くなった所を破ろうとしている とか」

 アカネ「人間に恨みを持ってる奴・・・・」
 Lim「目の前に居るよね・・・そーゆー奴
     こんなのが出てくるのね・・・・すごーく災難だわ」

3人の様子を学食の隅から伺う茜
 茜  「みんな・・・楽しそう・・・・」

Limと茜の視線が合う
 Lim「里村さん?」
 アカネ「茜 来てたの?   ん?
     先輩ぃ 茜が居るのに気が付いてて無視してたでしょ?」
 私  「できれば自発的に声をかけて貰いたかったんだけど
     しょうがないか、ちょっと呼んでくるわ」

私 茜のところへ そして茜を連れてくる
 茜  「お昼はいつもみんなで食べているんですか?」
 私  「うーん 大抵はバラバラだよ」
 Lim「里村さんはどうして学食に?」
 茜  「なんとなく この人の事が気になって」
 Lim「ふーん トライ だったら最初から里村さんを学食に
     誘ったらよかったんじゃない?」
 私  「教室で誘ったら”・・・嫌です”って言われたと思うよ」 

 茜  「それは・・・最近あなたが私を避けているから」 
 私  「茜だけを避けているんじゃないんだけどな
     クラス替えで新しい人間関係が増えて正直参っている」
 茜  「でも みんなには会っています」
 私  「アカネが相談事があるって言うから」
 アカネ「ある人から”よくない事”が起きるって言われて」
 茜  「気になるの?」     
 アカネ「うん」

 茜  「あなたはアカネちゃんにどう答えたんですか?」
 私  「まだ答えてないけど・・・・
     情報が少ない現段階では色々悩んでも仕方無いと思う
     ま、事が起きた時に慌てないように用心しておくだけで
     いいんじゃない?」
 茜  「そう・・・ですね」

淋しげな視線を私に投げる茜

路地:商店街に向かう学校帰りの詩子(BGM:海鳴り)

モノローグ:詩子
 嫌な感じがする・・・・あいつが居なくなった時みたいな
 あいつ7月って言ってたのに・・・・こんなに早く・・・・・

とある民家の前 蠢く詩子の影 詩子に吠えかかる飼い犬

 昨日まで吠えられた事なんて無かったのに・・・・

喫茶ぬくれおちど:私

モノローグ:私
 詩子か・・・・・ヤツらが警告を出すなると事態はかなり切迫してる
 でも茜とLimに兆候はない、アカネは論外・・・・いったい何が来る?
 
詩子登場
 私  「当たり・・・か」
 詩子 「わざわざ呼び出して・・・・・
     ”放課後に会いたい”なんてメール打って来て 急用?」
 私  「心配事があったんで確認するつもりだったんだけど・・・・・」
 詩子 「心配事的中って顔してるわね・・・私に何か起きてるの?」
 私  「何かが出てくるらしい 警告してくれるのはいいけど
     ヤツら不親切だから 具体的に何が出てくるのかまでは教えてくれない」

 詩子 「あたし・・・さっきからずっと嫌な感じがしてる
     あんたが居なくなった時と同じ感じ・・・・」

 私  「敵の特定がしたいな 詩子・・・例えば詩子か、詩子の家族とか親戚とかが
     誰かに恨まれてるとか憎まれてるとか言うことは無い?」
 詩子 「いきなりな質問ね・・・・あたしの知ってる範囲じゃ無いわ」
 私  「だろうな 特定個人への恨みで世界の壁が破れるとは思えない」
 詩子 「出てくるのって 敵? 何者?」
 私  「Limに言わせると私みたいな奴だそうだ
     人間を恨んでて復讐する機会を狙っていた・・・・そんな奴」

 詩子 「それって 本当にそうなの? まだ考えられるケースってあるんじゃない?」
 私  「詩子自身もしくは詩子の周囲に居る人間に無関係な奴なら・・・・
     それさえ判れば十分 遠慮なく叩きのめせる」

 詩子 「でも、なんで あたしなのかな?」
 私  「ヤツらは自分達のせいで世界の壁が薄くなったって言ってたそうだ
     私がここからヤツらが向こうの世界から、二つの世界を結んでるから
     私の周囲が壁の薄いところ、その中で一番薄い箇所、私の弱点・・・・」

 詩子 「それがあたし?・・・・ふーん、あたしってあんたの弱点なんだ
     まぁ、茜もリムさんもアカネも みんな あんたの弱点なんでしょうけどね」
 私  「私を向こうから引き戻した実績があるからね 詩子には」

 詩子 「あ、そうだ・・・あたしを恨んでるかもしれない人が1人居るよ
     里村藍 あたしはあの人に恨まれても仕方ない」
 私  「アイツじゃないと思うんだけど なんか居るんだよね」
 詩子 「ちょっと、怖い事言わないで・・・・もう出始めてるって事?」
 私  「詩子の影がざわめいているからねぇ 後は時間の問題って所かな?」
 詩子 「つまり・・・あたしを囮にしようって魂胆ね
     ・・・・・はぁ・・・・もっと素直に助けてよぉ」

 私  「しかしだな 私は お払いなんて出来ないよ
     私に出来る事って言ったら出てきた奴を始末する事ぐらい」
 詩子 「えーっと あたしはあんたの事を信じていればいいのね
     だけど・・・・・物凄く頼りないんだけど・・・・大丈夫?」
 私  「前向きに検討し善処します」
 詩子 「ほんとに頼りないわ」
 私  「アカネに24時間体制で詩子についていて貰おうと思ってる」
 詩子 「それは止めて アカネは学校に通えるのを楽しみにしてるから
     それに出てくるまでは あんたには何も出来ないんでしょ
     だったらただ見張っているなんて無駄じゃないの?」

 私  「でも、最初に餌食にされるのは多分詩子だよ」
 詩子 「大丈夫、あたしはあんたを信じてるから・・・頼りないけど・・・」
 私  「根拠の無い自信だな」
 詩子 「ホントにそうね いったい誰に似たのかしら?」
 私  「それなら詩子と連絡つけられる状態にはしておきたいな」
 詩子 「うーん、ケータイなんて意味無いのよね あんたに直接会わないと・・・
     あたしには自分に起きてる事がよく判らないから
     じゃあ、あたしは毎日放課後ここに来るね
     来なかったらあたしに何かあったと思って」

 私  「何かあった時点で既に手遅れだと思うけど?」
 詩子 「あんたを信じてるから・・・あたしも信じて
     何が起きたって、手遅れになんて絶対にさせない
     あたしが頑張ってる間にきっと助けてくれるって信じてるから」
 私  「異常の発覚に最大24時間の遅延が生じる訳か
     致命的だとは思うが、詩子を信じてみるよ
     ・・・ふっ 最初から諦めていたら 何やったってダメだしね」
 
 詩子 「そうそう それじゃ今日は異常無しでいいのね
     ねぇ、折角だからこれからデートしない?」
 私  「詩子・・・それがオマエの目的か?・・・しかも毎日?」
 詩子 「嫌ネェ 変に勘ぐらないで ついでよ つ・い・で」

商店街:茜
ぬくれおちどから出てくる私と詩子

 茜  「あ・・・あの人と詩子・・・・
     ・・・・また私を独りにするんですか?」 

暗転

 〜 依代 〜

翌日の放課後 喫茶ぬくれおちど:

詩子登場(BGM:日々のいとまに)

 Lim「詩子遅いよぉ」
 詩子 「みんな????」
 私  「よぉ」
 詩子 「”よぉ”じゃないわよ どーゆー事?」
 私  「折角だからみんなで遊びに行こうと思って
     ”ついで”なんでしょ?」
 詩子 「うぅぅぅぅぅ  あんたねぇ」
     (ふぅ あんた気を使いすぎ)

 茜  「詩子 デートを楽しみにしてたんですよね?」
 詩子 「茜 あたしが昨日こいつと会ってたの知ってたんだ」
     (あんたも茜に見られたの知ってたんだ・・・・)
 
 茜  「昨日ここから仲良く出てきたのを見かけて・・・・・」
 Lim「昨日は何処に行ったの?」
 私  「日が暮れるまでカラオケやってお開き・・・2時間は居なかったと思う」
 アカネ「そっか、昨日 詩子さんにあの事を話したんだ」
 詩子 「そういや アカネ昨夜何も話さなかったわね?」
 アカネ「だって、最近夜になると、詩子さんおかしくなるし・・・・
     お月様に向かってぶつぶつ独り言呟いてたと思ったら
     なんかボーっとしてたりするし・・・・」
 詩子 「アカネちゃん 何時あたしがおかしくなったって?
     今晩覚悟しておきなさいよ」
 アカネ「ふぇぇぇぇ」
 茜  「詩子 楽しそうですね」

 Lim「トライ 昨日遊びに行くんなら私達も誘ってくれればよかったのに」
 私  「昨日は詩子に話をするだけのつもりだったんだけど
     成り行きでね だから今日はみんなを誘ったんだ」
 アカネ「それで、今日はみんなで何処行くの?」
 私  「さて、何処にしようかね? 詩子プランニングよろしく」
 詩子 「あんたねぇ・・・それをあたしに押しつけるの?
     じゃあねぇ 私達の買い物につき合って貰おうかしら」
 アカネ「先輩は荷物持ちに決定!」
 私  「そうだな・・・気晴らしには丁度いいか」
茜に視線を投げる私

商店街:一同(BGM:無邪気に笑顔)
大荷物を抱えてる私

 私  「しかしまぁ、よくもこれだけ買い込んだモノだ」
 詩子 「しっかり荷物持ちするのよ」
 私  「くっくっくっ・・・・私が独り暮らしと言う事をお忘れ無く
     宅配の義務までは無いのだがな 詩子君」
 詩子 「えーっ あたしに荷物を自分で持って帰れって言うの? 酷ぉい」
 私  「まぁ みんなの荷物を届けてからでいいのなら 届けてやってもいいが?」
 Lim「私はいいわ トライに家の場所知られたくないし」
 詩子 「なんで あたしのが最後なのよ? 茜の荷物の後に届けるつもり?
     その後に戻って来てあたしの荷物の番なの?」
 私  「詩子の傍に居られない時は出来るだけ身軽にしておきたい」

 アカネ「先輩 それって近いって事?」
 私  「そう・・・アカネ 出来るだけ詩子から目を離さない様にしてくれ」
 茜  「”近い”って何がですか?」
 私  「トイレ・・・・結構歩いたし、荷物を放り出して行くわけにもいかないし」
 茜  「私も自分の荷物は自分で持ちますから そんなに我慢しないでください」
 詩子 「うぅぅぅ、あたしだけあんたに荷物持たせるなんて出来ないじゃない」
 私  「詩子の荷物が一番でかいからなぁ・・・
     みんなのは、お菓子とかCDとかの小物なのに」

 詩子 「漬け物石を買わなかった事に感謝して欲しいわ」
 私  「雑誌の山で重量は十分匹敵すると思うが?」
 Lim「ラケットまで?・・・・詩子ってテニス部だったんだね」
 私  「悪霊部員で有名だけど」
 Lim「悪霊って?」
 私  「席だけある幽霊ならまだしも、幽霊に加えて素行が悪いから
     ”テニス部員の不祥事”って大会出場停止になる事もしばしば」

 Lim「幽霊部員に不祥事起こされたらたまったもんじゃないわね
     それで不祥事って?」
 私  「学校を無断欠席した上 他校に制服のまま不法侵入、暴行、器物破損」
 Lim「詩子 凄いわ 尊敬しちゃう」
 詩子 「あたしが何時 暴行事件なんか起こした!!」

 私  「丁度 去年の今頃、ウチの学校で男子生徒をモップで殴り倒そうとした時に
     勢い余って窓ガラス1枚と蛍光灯2本損壊」
 詩子 「あれは あんたが悪いんでしょうが!!」
 私  「あの時 私が隠蔽工作しなかったらいったいどうなった事か・・・・」
 Lim「トライ 隠蔽工作って何したの?」
 私  「窓ガラスは窓枠ごと外して、無人の教官室に侵入し窓枠ごと交換
     蛍光灯は廃物置き場の切れた蛍光灯を2本職員室に持って行って
     正規ルートで交換した」

 アカネ「あのー先輩・・・入学そうそうソレやったの?」
 Lim「なんか・・・せこい・・・
     でも それって暴行事件にはならなかったのね
     空振りした詩子のモップが窓と蛍光灯を割ったんでしょ」
 私  「ま、格闘は先読みと先行入力と間合いが肝心
     力の大小は関係ない 1ドットを守り1ドットを削る」
 Lim「削りのトライね 多段ヒット技はガードの上から
     削り殺すためにある だったよね?」

 詩子 「ねぇ あんたリムさんにつき合ってゲーセンに行って来たら?
     トイレもあることだし」
 私  「うーん 今日は止めておく」
 Lim「じゃあ 私はここで帰るわ 私の家 商店街の反対側だし」
 私  「じゃ、これがLimの荷物っと・・・・・」

みんなに荷物を配りはじめる私
 詩子 「途中まで持って行ってよ 荷物」
 私  「ちょっと手に入れときたいモノがあるんで
     私もここからは別行動」
 茜  「・・・手に入れておきたい物ってなんですか?」
 私  「茜? それって詮索するような事か?」
 詩子 「あんた 昨日あたしとデートしてしてたの茜に見られてるし
     今日もこれからあんたとリムさんは別行動だって言うし
     茜にしてみれば心配よね」
 茜  「詩子 それは違います・・・・ただ・・・」

 私  「硫酸と硝酸と脱脂綿 酸は学校に忍び込んで手に入れてくる
     薬局で買って足が付く事は避けたいと思う」
 茜  「何に使うんですか?」
 Lim「ニトロセルロース・・・・ポピュラーな推進薬よね
     トライ 密造銃でも作ってるの?」
 私  「まさか・・・ウチの設備じゃ砲は作れても銃は無理だよ      
     そんな精密加工は無理無理
     それと・・・手持ちの量じゃ薬が心細くてね」
 アカネ「これから起きる事を考えたら・・・・」

 詩子 「なんか あんたに狙われてる奴が可哀想になってきたわ」
 Lim「砲撃するの?・・・・・」

平凡な日常のひとときは静かに暮れる 

暗転 

(BGM:A Tair )

 月が見ている 蒼い月が見ている
 淋しくて・・・哀しくて・・・蒼い・・・
 月が私を見ている
 
 ずっと・・・・ずっと・・・・昔から
 優しい月が私を見ている
 
 あなたの視線が私を焦がす
 蒼い視線が私を焦がす

 私の想い 蒼い想い
 私の中から私を見ている
 ずっと・・・・ずっと・・・・昔から

 月が見ている 蒼い月が見ている 私の中からあなたが見ている

詩子の家 庭:詩子とアカネ(BGM:遠いまなざし)

月を仰いでいる詩子

 詩子 「あははは、今日 あいつったら大きな荷物を持って
           ・
           ・
     そうよね あいつあたしの荷物もちゃんと持ってくれたもんね
           ・
           ・
     バカみたいだね、あたし・・・あいつを怒らせたくて荷物を大きくしたのに
           ・
           ・
     わかってる でもあいつには茜が似合ってるわよ」

 アカネ『詩子 また姉さんと話してるんだ』

 詩子 「そんな事 無いよきっと
           ・
           ・
     だって・・・だったらあたしは何だったの?
     別の高校にまで通って・・・・・
           ・
           ・
     それで 茜からあいつを取り上げるような事をあたしは・・・」

詩子の影が大きく蠢き・・・・詩子を飲み込んだ

 アカネ「詩子!?」

影の蠢きが収まる 詩子の右手には抜き身の日本刀
駆け出す詩子 そして街中に消える

詩子退場

 アカネ「そんな・・・・早く先輩に知らせないと」

暗転

 〜 意地 〜

私の家 工作室:エプロン姿でニトロセルロースの生成をしている私
(BGM:雨 )

宙に姿を現すアカネ
 アカネ「先輩! 詩子が!!」

混酸(濃硫酸と濃硝酸のカクテル)と脱脂綿の入ったタッパを
冷蔵庫にしまう私

 私  「詩子は何処に行った?」
 アカネ「判らない いきなり駆け出して 何処に行ったか」
 私  「駆け出した・・・か
     武器は何にする? 武器庫に寄ってる時間は・・・無いな」

周りを見回す私

 私  「これでいいか・・・・」

作業台の上のバールを手にする

 私  「アカネ詩子を迎えに行くよ」
 アカネ「でも今詩子が何処に居るのか わかんないよぉ!」
 私  「何処でもいいんだ こっちの都合のいい所で待つ」
 アカネ「え? 何処?・・・」
 私  「詩子が最初に始末したい相手って誰だと思う?」

懐に手を入れ・・・小さな紙切れの感触を確かめる私

 アカネ「そうなの じゃ 私はここで待ってる いろいろと準備がいるでしょ?」
 私  「アカネ・・・オマエ・・・」

私退場    

空き地:私(BGM:偽りのテンペスト)

ゴム引きの緑のエプロンを着込んで、不法投棄されたTVに腰掛けている私
掛け込んでくる詩子

 私  「よぉ 早速だが詩子を返して貰えないかな?」

無言で斬りかかってくる詩子 軽くスウェイして凌ぐ私
日本刀の切っ先がエプロンをかすめる
                                       
エプロンを切った感触に違和感を覚えた詩子は
飛び退いて構えなおす

 私  「これか? 薬品にも熱にも強いし 金属加工時の保護用にも
     使えるように鋼線が織込んである
     そこそこの防刃性能が期待できる安全エプロンだよ」

TVから立ちあがり バールの短辺をトンファーの要領で持ち
少し腰を落として構える私

 私  「詩子 まだ手遅れで無いのなら オマエの意地を見せて欲しいな」
     
斬り込んで来る詩子
キン! 日本刀とバールのぶつかる乾いた金属音が空き地に響く

 私  「今の間合いは・・・・」

同じ間合いで斬り込んで来る詩子

詩子の手首を左腕でいなしながら踏み込む
手首をいなした反動で跳ね上げた左肘を詩子の顎の下で止める
・・・・ひとときの静寂・・・・

唇を噛み締めながらまっすぐに私を見る詩子

ゆっくりと離れて間合いを取りなおす二人

バールを左手に持ち替えて 右手は懐に収める
更に腰を低くして構える私

また同じ間合いで斬り込んで来る詩子

私に向かう日本刀の鎬をバールで打つ 左手はそのまま振り抜く
振り抜いた左手の反動を使って右の手刀が詩子の胸を狙う

刀を払われて態勢を崩しながらも、上体をそらして手刀を避けようとする詩子
・・・・次の瞬間 詩子は上半身を前へ折り込む
私の手刀が詩子の胸をえぐる

振り抜いた私の指先に滴る詩子の鮮血

バックステップで間合いを取りなおし 態勢をなおそうとする詩子
しかし・・・・そのまま前に崩れ落ちる

ただ、日本刀だけが宙に浮いたまま私を牽制していた

(BGM:乙女希望)

 私  「悪いけど詩子は返してもらうよ
     女の子の身体を冷やす訳にはいかないんでね」
                       
詩子を私の上に座らせる形で抱きかかえてTVに座る
まだ 切っ先を私に向け続ける日本刀

 私  「斬りたければ斬れよ 詩子を取り返した以上 あんたに興味は無い
     人間に復讐したいのなら 好きにすればいい 斬り殺してまわれよ
     だけど・・・私の周りに居る人に手を出したら容赦しない」

 詩子 「・・・ん・・・あれ?・・・・あたし・・・生きてる?」
 私  「詩子 おはよー」
 詩子 「・・・えーと・・・あんたに突かれて・・・
     胸が苦しくなって・・・目の前が真っ暗になって・・・」
 私  「心臓を狙ったけどね でも 私に素手で人間を切り裂ける腕は無いよ
     心臓なら大きな外傷作らずに詩子の動きを止められるから
     詩子の身体を動かせなくなれば、奴は離れると考えたから」

 詩子 「このイス堅くて座り心地悪い」
 私  「贅沢言うなよ 私だって無理してるんだから」
 詩子 「ふふふ、心臓の弱ってるあたしにもう手荒な真似は出来ないよね?」 

身体を起こそうとする詩子 胸の痛みを覚える

 詩子 「痛・・・・あれ? 何これ?」

詩子の胸に血糊で張り付いている小さな紙切れ

 詩子 「おみくじ?」
 私  「いちおー 神様の御札だし 大吉だし 御利益あるかなぁ?と思って」
 詩子 「待ち人来る・・・・そう書いてあった このおみくじ」
 私  「待ち人・・・来る・・・か」

 詩子 「ねぇ あたしの意地どうだった? あんたの声ちゃんと聞こえてたよ」
 私  「申し分無い なんせ一撃で詩子を仕留められたから」
 詩子 「なんか嬉しく無い・・・・
     で・・・さぁ さっきから気になってるんだけど あれ なに?」

こちらに切っ先を向ける日本刀に視線を投げる詩子

 私  「さぁ? さっきからずっと牽制してるんだけど
     斬りかかってくる気配は無いし・・・なんなんだろうね?」
 詩子 「つまり・・・あんたはあたしを盾に・・・して・・た・・・
     あぁ・・・ダメぇ・・・座ってても・・頭が・・クラクラする」

詩子をお姫様だっこに持ちかえて立ちあがる私

 詩子 「ふぅ・・・ありがと・・・楽になったわ」
 私  「悪いけど詩子の具合が良くないから帰らせて貰うよ」

日本刀に背を向けて立ち去ろうとする私

 『・・・・しあい・・・・』
 
 私  「試合?」

 『お前と・・・果たし合いが・・・したい』
 
 私  「おいおい 私とあんたが殺し合っても 共に得るモノは無いよ」

 『一片の・・・曇りも・・・無く・・・
  我道を・・・行くことが・・・何と・・・難しい・・・ことか・・・』

 私  「んーと・・・・実体の無い相手とやり合う気は無いよ
     厄介な相手はあいつらだけいいよ・・・・もぉ」
 詩子 「あたしはぁ あんたに怪我して欲しくないよぉ」
 
 『これで・・・どうだ・・・』

鎧武者の姿を現す

 私  「ふふふ・・・・・・人間を憎んでても恨んでても
     人間に復讐するつもりは無いのか・・・・・
     いいよ、あんたの未練を終わらせてやるよ 勝てたらだけどね
     でも 明日でいいかな? これから詩子の介抱しないと」

 鎧武者「わかった」
                                    
 私  「明日・・・今日と同じ刻限 ここで」
 詩子 「うぅぅぅ あたしの言う事 聞いてくれないぃ」
 私  「じゃ 明日・・・」

私と詩子退場 

私の家 キッチン:鍋を温めているアカネ(BGM:ゆらめくひかり)

詩子を抱えた私登場

 アカネ「おかえりー 早かったわね あれ?
     いいなぁ お姫様だっこ・・・・・」
 詩子 「どぉ 羨ましいでしょ」
 アカネ「ふーん 詩子とはそんな仲だったのね
     えーと シャワーの用意は出来てるわ
     それとおかゆはもう少し煮込んでね」

ソファーに詩子を寝かせる私

 私  「そうだな アカネ、詩子にシャワーを浴びせてやってくれ」 
 アカネ「嫌よ 先輩が詩子を殴り倒したんでしょ 自分で責任取りなさいよ
     それに私はこれから詩子の家に帰って
     詩子が居ない事をごまかさなくちゃいけないもの」
 詩子 「アカネぇ あたしを見捨てないで・・・・
     アカネに見捨てられたら あたしこいつに食べられちゃう」
 アカネ「しっかりと味わって貰いなさい お二人さんお幸せに じゃあね」

アカネ退場

 詩子 「あたしシャワーを浴びたいな」
 私  「おーい、詩子オマエまで・・・・」
 詩子 「何? 汗臭いままのあたしを食べるつもり?」
 私  「だから・・・苛めないで・・・・」
 詩子 「うふふ、じゃあ あんたはあたしの事をどう思ってるの?」

爪の中に残った血痕に視線を移す私

 私  「なぁ、詩子・・・・これ舐めてもいいか?」
 詩子 「何? えっ・・・・それってあたしの血?
     やめてよ なんか気味悪いよ・・・・
     でも・・・何でそんなモノ舐めたいの?」
 私  「血の契約・・・・詩子・・・・
     私が人間を憎めなくなったら、恨めなくなったらどうなると思う?」
 詩子 「あんたの心の病気が治るだけじゃないの?」

(BGM:追想)

 私  「私は・・・人間に復讐したい一心でこの世界に
     しがみついている様なもんだから それが出来なくなったら・・・・」
 詩子 「藍の時みたいにあたしがあんたを忘れるって事?」
 私  「多分・・・だから新しい支えが欲しい」
 詩子 「それって あたしに告白してるって考えていいよね?
     だったら・・・・あたしの胸の傷 まだ塞がって無いわ
     爪に残ったのなんかじゃなくて 直接舐めたら?」
 私  「だから・・・詩子・・・苛めないでくれるかな?」
 詩子 「そう・・・じゃ・・・これでどう?」

傷口に滲んでいる血を指に採る詩子
その指を私に差し出す

 私  「詩子・・・」
 詩子 「あんたの為に出来る事なら あたしは何でもするよ
     あんたに殺されたって構わない さっきだってそう思ってた」
 私  「すまない」

詩子の指をくわえる私

 詩子 「ね、おいしい?
     それから、やっぱりシャワーは浴びさせて欲しいな」
 

路地:月を仰ぐアカネ(スポットライト)

 アカネ「姉さん・・・・これでいいんだよね
     ・・・・でも・・・・なんか悔しい」
           ・
           ・
           ・
           ・
 アカネ「やっぱり、姉さんの声は聞こえないか・・・・」

暗転

 〜 いざよい 〜

私の部屋:ベットに腰掛けてパジャマ姿でおかゆを食べている詩子、私
(BGM:雪のように白く)

 詩子 「今日はあんたの部屋に泊まるんだ」
 私  「それじゃ 下に居るから何かあったら呼んでくれ」
 詩子 「いいのかな? あたしをほっとくと朝には冷たくなってるかもよ?」
 私  「詩子・・・私に何をさせたいんだ?」
 詩子 「今のあんたに出来る精一杯の事」
 私  「多分 詩子の期待にはそえないよ」

おかゆの入った丼をサイドテーブルの置く詩子

 詩子 「あたしの横に座って あたしの胸に耳を当てて
     あたしの鼓動を聞いていてくれるだけでいい」
 私  「無茶な注文を・・・・・」
 詩子 「あんたはもうあたしを抱いてるんだからね
     ちゃんと責任取ってよね」
 私  「詩子・・・」
 詩子 「やっと・・・言えた・・・・・
     あんたの気持ち確かめるまで言えなかったんだよ」

詩子の隣に座って胸に耳を当てる私
私の背中に手を回す詩子 そのままベットに倒れ込む

 私  「こら 詩子」
 詩子 「ごめんね でもね 座ってると血が下がるの」
 私  「その割には力強く脈打っているんだけど」
 詩子 「あら きっと 気のせいよ ゴホゴホ」

 私  「・・・・・・一安心・・・かな」
 詩子 「ねぇ もう終わりなの?」
 私  「空き地・・・から 無理が・・・過ぎた・・から・・・
     安心したら・・・・なんか・・・気が・・遠く・・」
 詩子 「もしも あんたの病気が治らなかったら
     責任取らなくていいよ あんたを苦しめたいんじゃないもの」
 私  「・・・・ん・・・なに?・・・しいこ・・・・?・・・」
 詩子 「何でもない おやすみ」

暗転

私の部屋 朝:眠っている私と詩子

紙袋を持ったアカネ登場
(BGM:潮騒の午後)

 アカネ「まぁ♪ 昨夜は激しかったのね」
 詩子 「重いよ〜 うぅぅぅ 漬け物になった夢を見たよぉ
     おーい 起きろぉ!!」
 アカネ「あのー・・・先輩は寝てるんじゃなくて
     ノビてるんじゃないの?」
 詩子 「起きろぉ! 起きろぉ! 起きろぉ!」
 私  「・・・・・・うにゃ・・・・」
 詩子 「”うにゃ”じゃない 起きろぉ!」
 私  「うぅぅぅ 寝た気がしないぃ・・・・・」
 詩子 「私の上は寝心地悪かった?」
 私  「気を失うぐらいに熟睡出来た」

 アカネ「詩子は今日 急な朝練思い出して朝早くに
     登校した事にしたから 口裏あわせてね」 
 私  「テニス部の?」
 アカネ「そーよ えーっと詩子の制服と鞄
     詩子の鞄がペッタンコで助かったわ」

紙袋から変装セット取り出すアカネ

 詩子 「アカネ ありがと」
 私  「詩子・・・・ここで着替えられると困るんだけど」
 詩子 「ケチ臭い事言わないで いいじゃない減るもんじゃないし」
 私  「”慎み”という詩子の魅力が激減してると思うけど」
 詩子 「あら? はじめから無いモノは減らないのよ」
 私  「そうか・・・じゃぁ好きにしろ 私は朝飯の支度をしてくる」

私退場
(BGM:海鳴り)

 詩子 「やっと出て行ったわ」
 アカネ「詩子 昨日はどうだったの?」
 詩子 「悔しかったよ あたしが刀であいつに切りつけてるなんて
     自分の身体なのに止められないなんて」
 アカネ「うーん・・・姉さんに関係のある人だったの?」
 詩子 「藍には関係ない・・・・と思う
     ただ・・・あの人を・・・あの人に救いを求めて出て来ただけの人」
 アカネ「そうなの・・・先輩はもてるのね」

 詩子 「一片の曇りも無く我道を行くこと・・・・その為に生きて
     人に妬まれて・・・・・そして・・・・」
 アカネ「殺された?」
 詩子 「怒りにまかせて・・・大勢の人を殺して
     それを悔やんで・・・・それを責めて・・・そして」
 アカネ「堕ちた・・・・」
 詩子 「哀しい人だった・・・・もしも、他の人みたいに
     割り切って考える事が出来たなら・・・・・
     自分を責め続ける様な生き方をやらなかったら・・・・」

 アカネ「一片の曇りも無く我道を行くこと・・・・限りなく純粋に
     だから・・・詩子の所に出てきたんだ
     先輩の所に 先輩の大切な人の所に
     先輩もただまっすぐに生きている人だから」
 詩子 「でも・・・・あいつの向いてる方向は間違ってると思うんだけどな」
 アカネ「先輩は詩子の方を向いてるんじゃないの?」
 詩子 「アカネちゃんからかわないで」
 アカネ「なんか悔しいんだよね 先輩と詩子が仲良くしてるのを見てると」
 詩子 「アカネも人間らしくなったのね」

キッチン:3人分のハムと目玉焼きのオープントーストを作る私

アカネと制服に着替えた詩子登場
(BGM:日々のいとまに)
     
 詩子 「うーん・・・アカネ 毎朝この調子だったの?」
 アカネ「なに? この調子って?」
 詩子 「朝ご飯・・・」
 アカネ「あれ? 詩子って洋食ダメだったの?・・・・ん?
     でも詩子の家でも 朝 洋食だった事って結構あったよね?」
 詩子 「そうじゃなくて・・・・こいつがご飯作ってたの?」
 アカネ「私より手際がいいから 朝は先輩が作ってたよ 朝はあんまり余裕も無いし」
 私  「生野菜のストックが無いから 漬け物で我慢ね」
 詩子 「漬け物??? 何処に?」
 私  「野沢名漬けをみじん切りにして、マヨネーズと和えて
     トーストに塗ってあるよ
     後、インスタントの紅茶も無いから詩子の分も
     ミルクコーヒーだけどこれも我慢ね」

 詩子 「はぁ・・・先々不安だわ いったいどんな子だったらあんたと釣り合うの?」
 私  「釣り合うって・・・あんまり意識したこと無いな」
 詩子 「茜ぐらいに料理が出来ないと あんたが料理した方がいいって事よね?」
 私  「楽が出来るのなら、私も楽な方がいいけど」
 詩子 「コレ美味しそうよね・・・・バケットのトーストにハムエッグ乗せて
     隠し味にピクルスのマヨネーズ和え それとミルクコーヒー
     で・・・・これにスープとサラダを用意できる子じゃないとダメでしょ?」
 私  「おーい そんな贅沢は言わんぞ それに・・・これはファーストフードだ」

自分の分の皿とコップを持って立ち去ろうとする私

 私  「そっちが朝飯食べてる間に着替えくるよ
     私が作るモノは片手で出来る食事と考えてくれていい
     多分詩子が作った方がずっと朝飯らしいモノになるよ」

 詩子 「じゃぁ あたしに明日の朝ご飯作らせてくれるのね?」
 私  「それは構わないけど・・・・?」
 詩子 「じゃぁ 今夜の試合絶対に勝つのね」
 私  「あぁ 明日の朝飯楽しみにしてるよ」

暗転

アカネにスポットライト
(BGM:追想)

 『アカネちょっと付き合って欲しいな』

 アカネ「何? 何の用?」

 『そんなに邪険にしないで欲しいな』
 『アカネに見ておいて欲しいモノがあるんだ』

放課後 私の家 武器庫:私と詩子 アカネ(スポットライト)

 詩子 「さっき見た工作室といい、ここといい、とんでもない家ね」
 私  「そう誉めるなよ」
 詩子 「誉めてない! 呆れてるの!!」
 私 「ところで詩子 コンスタントにダメージを狙える武器と
     一撃必殺の武器と、今日の試合はどっちを使った方がいいと思う?」
 詩子 「もうちょっと説明してくれないと よく判んないんだけど?」
 私  「装弾数10の格闘戦用パイルと単発の飛び道具ハートブレイカー
     ・・・心臓破砕砲と どっちがいい?」

 アカネ「あれが私に見せたいモノ? いつもの光景じゃない?」

 『そう・・・あれがボクの日常だった』
 『いつか人間に復讐する為に』
 『装備を整え 技術を身につけて』
 『でも・・・それを茜は認めてくれなかった』

 アカネ「茜が? 認める?」

 『高校2年の夏休みに入ってすぐの事だった』
 『茜が痴漢に襲われたのは』
 『人が通りがってくれたから茜は無事だったけど』

 アカネ「けど?」

 『数日後・・・・その痴漢がなぶり殺しにされた』
 『茜はその事実を認めようとしなかった・・・・』

 アカネ「先輩が? 先輩の仕業だったの?」

 『そう・・・茜に危害を加えたモノとして制裁された』
 『茜はボクの仕業だと気が付いても・・・認めようとしなかった』
 『茜はボクの生き様を否定したんだ』
     
 アカネ「待って・・・茜はそんなことはしない」

 『あの日・・・藍を切り捨てた様に・・・・』

 アカネ「あんた達がみんなから姉さんの事を忘れさせたんじゃない!!」

 『忘れたモノならば、また思い出せばいい』
 『そう詩子の様に・・・・いつか思い出す日も来る』
 『でも・・・切り捨てられた思いは、帰って来ない』
 『放っておけば・・・その思いは消えてしまうだけ・・・』

 アカネ「・・・・」

 『人間を恨むことでしか生きてこれなかったボクを・・・』
 『茜はボクの過去を切り捨てて、ただ幼馴染として見ようとした』
 『ボクの過去を認めてくれた上で嫌われた方がまだよかった』
 『最後の支えを無くしてからは・・・・はやかった』
 『夏休みが終わるまで持たなかった』 
 『この世界からボクが消えてしまうまで・・・・』

 アカネ「それじゃ・・・7月15日って・・・」

 『何十回 何百回 ボク達は何度 同じ人生を繰り返して来たんだろう?』
 『せめてボク達に出来た事は・・・・』
 『最期のイベントは起こさずに済む様に』
 『詩子がボクの生き様を認めてくれるなら』
 『願わくはボクにも幸せな未来を』
 『アカネには見届けて欲しい』
 『ボクの生き様と』
 『死に様を』

 詩子 「迷ってるんなら両方持って行ったら?」
 私  「それだと、装備が重くなり過ぎるんだよね
     防刃用のチェーンメールを着込む予定だし」
 詩子 「そう・・・じゃあね・・・」 *

暗転

*:武器にパイルを選択した場合は   〜 巫女の伝承唄 〜 へ
  ハートブレイカーを選択した場合は 〜 AnotherONE 〜へ


〜 あとがき その1 〜

礎・詩子編でぇす

ONE本編で詩子の行動で気になったのが2つ
1つ目が1月某日、登校中の茜が倒れた日
詩子は浩平に傘をを手渡すんだけど・・・・・
先に昇降ロに向った詩子は茜が登校中に行方知れずに
なった事は知らない
立ち聞きできるタイミングでは無かった筈だし
立ち聞きできたのなら、詩子が迎えに出て
昇降口で浩平と遭遇する事は無かったと思う

で、いくら茜の為とは言えこれから雨に身をさらす詩子が傘を手放すか?
私の答えはΝO 詩子らしくない

ではなぜ?  私の脳裏にフッと浩平が去った後の昇降ロの光景がよぎる
「何らしくない事やってるんだろう私 でもあんたならきっと・・・・そうするよね
 濡れて帰るのはシャクだなぁ  はやく止まないかなぁ・・・・・」
昇降ロから詩子は天仰ぐ どこかに居るはずの誰かに語り掛けるように(BGM:雨)

んで2つ目が・・・・・
茜シナリオのラスト 浩平再臨の一幕
詩子が茜よりも先に再臨に気がついたんだよね
忘れるのが最初なら思い出すのも最初
それが詩子なんだなって

某OVAでは詩子はバトミントン部の様だけど・・・・
詩子はスピードファイターではなくてパワーファイターだと思うので
礎ではテニス部です・・・・部活の話しなんて無いけど・・・

後は・・・・ONE本編の詩子は出力70%詩子
礎では多分悪い意味での出力100%の詩子です

では後半をお楽しみ下さい
(相変わらず茜は影が薄い)


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