礎〜第2章 炎のさだめ〜(6)

 〜 昨日見る夢 〜
私の家 居間 朝:朝食の準備をしている私
(BGM:日々のいとまに)

 私  「パンでいいよな」
 
アカネ登場
 アカネ「あ・・・あの・・せん・ぱい ・・・おはようございます
     私・・・昨日のこと覚えてます・・・ただ何処までが現実で
     何処からが夢なのか・・・・気が付いたら朝で、部屋で寝てて・・・」

 私  「先輩でいいよ、それがオマエの自信に繋がるのなら」

 アカネ「あ・・・・、はい」(キスは・・・現実だったんだ)

くるる〜ぅ 香ばしく焼けたパンの香りにアカネの虫が鳴く
 アカネ「ぁ・・・」
 私  「半日以上眠り続ければ・・・当然だろ」

少しボリューム多い朝食の中
 私  「アカネ、旅立ちの日が決まったよ 7月15日 あと3ヶ月と少し」
 アカネ「あなた・・・えっと先輩の誕生日ですね 私はどうすれば?」

 無理はしなくてもいいんだけど
 私  「好きにしていいよ、残りたければ残ればいい
     付いて来たければ付いて来ればいい」

 アカネ「先輩の希望は? あなたは私にどうして欲しいんですか?」
 私  「アカネの事は詩子に頼もうと思っている」
 アカネ「!! 私を・・・追い出すの?・・・酷い・・」
 私  「私は人間とは暮らせない・・・すまない」
 アカネ「・・・だけど・・・私にはここしか居場所が無い!
     詩子にだって家族は居るのよ 幽霊なんて飼えないわ!」
 私  「一応、人間の女の子として頼むつもりだけど
     従妹のアカネは詩子の家族とも面識はあるよ 幼馴染だからね」
 アカネ「・・・・・私はまだこの家に居たい」
 私  「ただ、私にも少し時間が欲しい、どっちの選択をアカネが選んでもいいように
     今のままだと、アカネに残る事を薦めるしかない」
 アカネ「”付いて来るなって言うぞ”って脅すのね・・・・あなたが独りでこの家にいて
     事態が変わるわけ無いじゃない」

 私  「アカネ・・・”先輩”・・・・
     ぷっ・・・オマエの本心か・・・・確かに独りで居ては事態は変わらんか
     今のアカネは間違いなく人間だよ・・・まだ、人間は苦手、まっ そう言うことだ」
 アカネ「なんか、企んでません? 私が居ない方が都合のいい理由があって
     納得出来たら・・・・詩子の所に行きます」
 私  「うぅ、直球勝負に出てきましたか・・・・
     理由は一つ、アカネがここに残る事を選んだ時に
     アカネの存在を支えてくれる人間は多いほどいい
     だから、詩子の家族と面識を深めておいて欲しい」
 アカネ「私は先輩と一緒に行くつもりです」

 私  「それでも・・・不測の事態が起きないとも限らない
     例えば私が事故に遭うとか・・・・」
 アカネ「あ・・・でも、それは考えたくない」
 私  「その時にアカネが一緒に消える・・・それだけは避けたいんだが・・・だめか?」
 アカネ「・・・・・判りました、詩子の所に行きます
     ここに遊びに来るのは構わないですよね?」
 私  「勿論」
 
詩子の家の前:私とアカネ(BGM:ゆらめくひかり)

玄関から出てくる詩子

 詩子 「みんなぁ・・・おばよ〜〜〜〜あうぅ〜〜〜〜」
 アカネ「詩子、おはよ 顔が赤いよ 大丈夫?」
 詩子 「夢の余韻が残ってるだけだけどぉ・・・・アカネは平気なの?
     あんただって同じなんでしょ・・・・」
 私  「詩子・・・・」
 詩子 「はぅっ!・・・・・あんたは喋るな! 姿を見せるな! 近づくなぁ!!
     はぁはぁはぁ・・・・ごめん・・・だけど・・・今はだめ」
 アカネ「えっと、多分私は生身の身体が無いから平気」
 私  「詩子 手短に用件を言う 当分アカネを預かって欲しい」
 詩子 「うぅぅ、目が回るぅ・・・・多分話は・・・理解できたと思う
     今のあんたは・・・刺激が強すぎるよぉ・・・・・あうぅ〜〜〜〜」

ずるずると崩れ落ちる詩子 それを支えるアカネ 
 アカネ「詩子、すごい熱・・・・・」
 詩子 「ちがうよぉ、あいつがベラベラ喋るから火照っただけ・・・
     うぅぅ、身体に力が入らないよぉ・・・アカネぇシャワー浴びるの手伝って」
 アカネ「それはいいけど、時間大丈夫?」
 詩子 「だけどぉ、こんなんじゃ学校に行けないよぉ」
 アカネ「はいはい、じゃ急ぎますよ」
 
 私  『アカネ、詩子の事よろしく』
 アカネ『ちゃんと、学校まで送るから安心して、この様子だとリムさんが心配』
 私  『Limの方は任せてくれ』
 アカネ『ダメだよ、先輩が近づいたらリムさんも倒れちゃうよ、
     茜に頼んで多分茜は平気だと思うから』
 私  『判った』
 
アカネと詩子家の中へ退場
 アカネ「おばさん、おはようございます ちょっとシャワー借ります
     詩子が貧血で倒れちゃって、詩子の着替え用意して下さい」
 詩子母「アカネちゃん? もう大丈夫なの? え?詩子の着替え?」 
 アカネ「おかげさまで学校にも通えるようになりました・・・・・」

 なんだ、アカネの奴 ちゃんと馴染んでるじゃないか
私退場

教室:茜と私(BGM:雪のように白く)
 私  「茜、おはよう」

ビクッ! 私の声に過剰に反応する茜
 茜  「っ!! ・・・・あ、ぁっ おはようございます
     あ・・あのう・・・私は昨日いったい・・・どうしてたんですか?」

 私  「さぁ?・・・私も昨日アカネに絞め落とされた後の事は覚えていない
     それにしても、オマエもか?」
 茜  「オマエも?」
 私  「あぁ、今朝アカネの様子がおかしかった、詩子に頼み事があったんで
     寄ったんだが詩子の様子も変だった で、オマエも」
 茜  「そうでしたか、私はもう大丈夫です」
 私  「Limが心配だから様子を見てきてくれないか?」
 茜  「私がですか?・・・・・あ、そうですね あなたが行くよりはいいでしょう」

茜退場
 茜は平気だ・・・・か・・・・なるほど
 HRが始まる前に茜が戻ってきた

 茜  「リムさんは今保健室に居ます 見舞ってあげてください
     そうリムさんに頼まれました」
 私  「判った 休み時間に行って来る」

保健室:ベットに横になっているLim(BGM:見た目はお嬢様)

 Lim「トライ来たの?」
 私  「良く判ったな」
 Lim「うん、神経過敏になってるから・・・・
     トライが居なくなるのは何時?」
 私  「7月15日・・・勘も鋭くなったか?」
 Lim「ううん、人質にされた私達が無事に解放されたされたのは
     きっとトライが連中と話をつけたから」
 私  「その状態で無事だと言うには抵抗があるよ、気分は?」
 Lim「いいわよ、良過ぎるから問題ね・・・7月15日・・・何か特別な日?」

 私  「すべての悪夢が始まった日」
 Lim「そういえば、その頃じゃなかったかな? 詩子がパーティの人集めしていたの
     私も参加しておけば良かったな、あなたの誕生パーティだったんでしょ?」
 私  「詩子が動くと目立つからな」
 Lim「ふふふ、そうね・・・・さすがに今年は無理よね」
 私  「ああ、パーティの最中に消えるなんてイベントは用意してない」
 Lim「でも、今年パーティが出来たら賑やかでしょうね」
 私  「詩子が参加してる限り、人数に関係無くいつでも賑やかさ・・・・」

 Lim「きっとそうね・・・・ううん、残念
     ねぇトライ トライはあの手の精神攻撃は平気なの?」
 私  「多分、人間自体には好意を持ってないから」
 Lim「私も平気だと思ってたんだけどなぁ・・・・現実はこのざまね
     でも、次はなんとかするわ 連中もう一回私達に仕掛けて来る」
 私  「Lim」
 Lim「余り近寄らないでね、今の私は正気じゃないから」
 私  「正気だよ」
 Lim「ん?こうやってトライの声を聞きながら
     夢の余韻に浸って居たいんだけど? 正気?」
 私  「その計算が出来れば十分」

 Lim「あ・・・詩子の様子どうだった? 詩子はもっと酷いんだと思う」
 私  「這いずりながら学校へ行ったよ 心配無いよアカネが付いている」
 Lim「どんなにリアルな夢でも実体験がなければ、空々しいもんだよ
     私は夢と現実の区別が出来るけど、詩子にとっては全部現実の筈だから」
 私  「そういや、茜は平気だったな」
 Lim「トライは里村さんには何もしてないもんね ふふふ」

 私  「そろそろ行くよ」
 Lim「私も一眠りしたらクラスに戻るわ」
 私  「豪勢な御身分ですね」
 Lim「暑気当たりと貧血よ・・・・優しくしてよね トライ」
 私  「4月に暑気当たりねぇ・・・ま、お大事に」
 
詩子の家 夕方:私と詩子、アカネ(BGM:潮騒の午後)
 私  「おばさん、アカネも元気になって女の子が暮らすには
     ウチは何かと不便なんで、アカネを預かって貰えませんか?」
 詩子母「それは構わないけど、あなたはどうするの?」
 私  「もともと一人暮らしでしたから大丈夫です」

 詩子 「私とアカネで時々様子を見に行くから・・・
     一人でほっとくとこいつは何するかわかんないし」
 詩子母「まぁまぁ詩子ったら・・・ごめんなさいね、この子なりに心配してるんですよ」
 詩子 「お母さん!」
 私  「それじゃアカネのことよろしくお願いします」
 アカネ「おばさん、お世話になります」
 詩子母「アカネちゃん、ここを自分の家だと思ってね」
 
私退場
 私  「あらあら、一緒に夕飯食べて行けばいいのに」
 詩子 「お父さん何時に帰ってくるか判らないじゃない、ダメだよ」
     (帰るって・・・・あんた、まだ人間だめなの? アカネの事どうするのよ)

 アカネ『詩子、私は先輩を信じてるから』
 詩子 『アカネあんた器用ね、でもねそうやって人の心を覗くような真似は止めて』
 アカネ『詩子・・・私は先輩の気持ちだって覗けないんだよ・・・・
     ただ・・・詩子が心配そうな顔で先輩を事見てたから・・・きっと・・・』
 詩子 『失礼なのは・・・私の方か・・・そうだよね
     あいつはアカネをこんなに・・・人間らしく育てたんだもんね』
 アカネ『人間らしく成り過ぎちゃったから・・・追い出されちゃった』
 詩子 『相変わらず無責任な奴ね・・・・・あ・・・責任・・・か』

 暗転

 〜 捕まえてマイ・ハピネス 〜
  
アカネが詩子宅に居候する様になっておよそ一ヶ月

公園 五月(さつき)の花見:一同(BGM:虹をみた小径)

 私  「今年の花見もこれで終わりだな」
 Lim「うん! それにしてもいい陽気になったね」
 茜  「今年はもう一回予定しています」
 私  「茜?この後に何か咲く花ってあったっけ?」
 茜  「いえ、木の実狩りを、今年はジャムを作ろうと思っています」
 詩子 「まさか・・・ソメイヨシノ?」
 茜  「はい」

 Lim「里村さん桜の実なんて食べられたの?
     昔試しに食べた時は、硬くて渋かった記憶が・・・・・」
 茜  「ちゃんと熟れていると結構美味しいんですよ
     それにこの人が好きな木の実ですから」
 Lim「トライ・・・相変わらずのゲテモノ趣味ね」
 私  「私の趣味はゲテモノ・・・・ですか?」
 アカネ「先輩酷い・・・・私はゲテモノじゃない!」

 Lim「それはそれで正しいんじゃない?
     特に私とアカネちゃんは、普通の人は相手にしてくれないでしょ?」
 アカネ「リムさんも酷い・・・私だってクラスじゃうまくやっているんですからね」
 Lim「”うまく”ね、私達はボロを出さないようにしておかないと
     普通の人の中には居られない だけどそれって・・・疲れるの」
 アカネ「リムさん」
 Lim「疲れちゃうとね、他の人の事はどうでも良くなって来るの
     自分の居場所さえ無事だったったら・・・・
     ううん、そんな意味の無い場所を守るのに他の人を犠牲にしても
     平気になって来るの・・・・・」 
 私  「Lim それ以上は言うなよ・・・ここに居るみんなは判っている」
 Lim「でもね・・・ みんなが居てくれても私が他の人を犠牲にしていた過去は消えない
     違う? トライ」

モノローグ:アカネ 
 ・・・あ・・・”私が人間を呪っていた過去は消えはしない”・・・
 リムさん・・・先輩に言わせたいんだ・・・”いつまでも過去に囚われるな”って

 私  「Lim・・・痛い所を突く・・・”所詮は過去だ気にするな”と言ってしまうは易いが
     でも、その拘りを捨てた時いったい何が残るんだろう?
     他人を犠牲にしても痛み一つ感じなくなった自分か?」

 茜  「そんな話もう止めてください 詩子も何か言ってください」
 詩子 「茜、大丈夫 あれってあいつとリムさんの日常会話だから・・・心配無い無い」
 茜  「詩子・・・あなたどうして?」

 Lim「トライあなたの方がやっぱり上手ね だけど、覚えておいてね私やアカネちゃんが
     無理をせずに居られる場所はここしか無いって事を」

 アカネ「せ・ん・ぱ・い そんな辛気臭い話は止めにしましょ
     せっかく楽しいお花見なんだもん」

 詩子 「それじゃ来週は桜の公園でサクランボ狩りね
     ・・・・うぅぅなんか周囲の目が痛そう」
 私  「それって桜の枝を折るのに相当する犯罪行為なのでは?」
 詩子 「たしかあんた子供の頃 平気でパクついてじゃない」
 私  「あの頃はまだ児童福祉法の適用年齢だったから、私の保護者の責任になっていただけ」
 詩子 「うううむ、ああ言えばこう言う」

 茜  「いえ、公園ではなくて、学校の桜で実を採ります」
 Lim「里村さん もう先生には話を付けてあるの?」
 茜  「はい」
 私  「だそうです詩子さん」
 詩子 「つまり、私は制服を着て行けばいいのね
     それで教師の面目を潰してやればいいのね
     休日に他校の生徒に校舎を荒されるなんて・・・・うふふふふ」

 茜  「詩子それは・・・・」
 詩子 「だって、学校に行くのに私服じゃ行けないでしょ
     私はあんた達の学校の制服は持って無いし
     それとも茜・・・私に”来るな”って言うわけ?」
 茜  「いえ、きっと実の汁で服が汚れますから
     体操服で作業する事になると思います
     詩子は制服でするのですか?」
 詩子 「うぅぅ茜・・・・あんたも最近誰かに似てきてない?」
 茜  「そうでしょうか?」
 アカネ「詩子さん、大丈夫ですよ」
 詩子 「アカネ?」

学校 一週間後:
ビニールシートを広げて実を採る準備を始める 私と茜 Lim
(BGM:日々のいとまに)

 Lim「こうしてみると熟れてるのって多くないわね
     ちょっと早すぎたんじゃないの?」

 茜  「実が落ち始めるようになってからでは掃除の意味が無いですから
     でも、これだけあれば十分ですよ」

 正門から玄関に続く坂道 その両脇に植えられた桜
 花の盛りの頃になれば勇壮(?)な姿も披露する

 しかし、生徒の使う通用門→昇降口ルートとは違い
 車用の滑り止めが施されたコンクリートの道は
 この季節桜の実による赤黒い染みで無残な姿をさらす事になる

 一度実が落ちてしまえば染みになる事は避けられず
 花びらの時の様な普段の掃除での対処には限界があった
 なぜなら・・・夜間のうちに落ちた実を翌朝掃除の前に
 教師の車が轢き潰すからである

 今回の茜の申し出が快諾されたのは言うまでも無い
 実が落ち始める前に落としてしまおうと言うのだから

詩子とアカネ登場

 詩子 「みんな、おはよー」
 茜  「詩子・・・その格好 いったいどうしたんですか?」
 詩子 「どぉ? 似合うでしょ」
 私  「詩子君、いったい幾つの学校の制服をコレクションしているのかね?」
 詩子 「人聞きの悪いこと言わないで、アカネに替えの制服を借りただけよ」
 茜  「詩子いつもは自分の制服なのに、今日はどうして?」

 詩子 「・・・茜の顔を潰したくは無いから・・・・さすがに今日は目立つでしょ」
 Lim「詩子・・・ふーん、そうなの? ふふふ、そうなんだ」
 詩子 「・・・・えっと、茜何処で着替えたらいい?」
 茜  「宿直室を提供して貰いました 場所は・・・」
 アカネ「場所は私が案内します」
 詩子 「で、あんた・・・いったい何処で着替えたのよ
     まさか宿直室使ったんじゃ無いでしょうね」
 私  「着替えてはいない、ただ脱いだだけだ・・・詩子君、私とてその程度の気は遣うぞ」
 詩子 「ふん! どうだか・・・着替えるのが面倒だっただけじゃないの?」

詩子とアカネ退場

 私  「なんか・・・詩子やけに気が立ってませんでした?」
 Lim「いったい誰の為に、詩子は制服を替えたんでしょうね?
     それなのにトライったらいきなり”変態コレクター”扱いなんかして」
 茜  「そうですね ”似合ってるよ”ぐらいは言ってもよかったでしょうに
     詩子だって・・・・」

 私  「詩子だってこの学校に通いたかった筈・・・・か・・・
     でも、それを選ばなかったのも詩子だ
     せめてその決意ぐらいは大切にしてやりたい」
 Lim「結局トライは詩子の気持ちを知っててからかってるんだね」
  
体操服に着替えた詩子とアカネ再登場

 詩子 「みんなおまたせ で、先に言っとくけど体操服もアカネに借りたんだからね」
 私  「同じネタで茶化すつもりは無いよ」
 詩子 「ふうん、そう・・・で、この竹竿で実をビニールシートの上に叩き落せばいいの?」

 竹竿で桜の枝を叩き始める詩子 ぼとぼとと実が落ちてくる
 Lim「この真黒いのが完熟した実ね」

 小指の先大、漆黒の実を1つつまんでほうばるLim
 Lim「そんなに甘くは無いけど・・・いい味ね、渋みも嫌味が無くて上品な感じ
     それじゃ、私達も収穫を始めますか」

 各々竹竿を手にとり、桜の実を落とし始める
 小一時間後 青い桜の実の山と一抱えの完熟の実が

 詩子 「それでこれからどうする? 加工は茜の家でやる?」
 茜  「いえ、私の家までは距離がありますから」
 私  「とは言っても 学校から一番近い我が家にはたいした道具は無いし
     詩子の家じゃ無理だろうし・・・・・」
 詩子 「失礼ね 何で あたしの家じゃ無理なのよ?」

 私  「詩子・・・ジャム作れるか?」
 詩子 「・・・う・・・」
 茜  「さすがにおまえの家で茜がでしゃばってキッチン使うのはマズイと思うぞ」
 詩子 「うぅぅ、じゃ、あんたはジャム作れるの?」
 私  「基本的な製法なら・・・材料の重量と同じだけの砂糖を用意
     非金属の鍋に材料全部と砂糖半分を入れて一時間放置
     材料から十分な水分が出たら着火
     煮溶けたところで、残りの砂糖を投入
     全体の量が半分になる所まで煮込んで完了
     時間にしておよそ20分 今回のような赤色系統の材料なら
     レモンを加えると発色が良くなる」

 詩子 「うぐぐぐぐぐぐ」
 Lim「トライ凄い 何処で覚えたの?」
 私  「一人暮らしが長いからね 手軽に入手出来る材料での保存食は作れるよ
     ま、ジャムに関して言えば材料によって最適な砂糖の量は
     それぞれあるようだけど その辺の細かい事は知らない」
 詩子 「じゃ、あんたの家で作ればいいでしょ」
 私  「今 家には、ガラス鍋もホーロー鍋も無いからジャムは作れない
     ガラス鍋は持っていたんだけど割っちゃってね」

 Lim「んー保存食って 干芋もトライのお手製?」
 私  「そうだよ」
 茜  「ジャムは家庭科実習室を使える事になっています」
 私  「Lim ジャムは作れる?」
 Lim「もちろん」

 私  「それじゃ、Limは茜のサポート、詩子とアカネは私と一緒にここの片付け よろしい?」
 アカネ「え〜 私もジャム作りに行きたいよぉ」
 詩子 「アカネ、それだけは止めて あんたと茜でジャム作ったら
     サクランボ風味のガムシロップになるわ」
 アカネ「ぶぅぅぅ」
 私  「茜、後で手伝いに行くから、こっちはその山をごみ袋に詰めて
     それとビニールシートを片付けるだけだからね」
 茜  「片付けの方はよろしくお願いします」

茜、Lim退場
(BGM:海鳴り)

 竹ぼうきで桜の実の山を麻袋に詰め込んでいく

  詩子 「・・・・7月15日 私には何も言ってくれないのね」
  私  「オマエの要望如何によっては7月15日の件は無くなって
      そのタイミングで最終決戦が始まる」
  詩子 「だから あたしに話さなかった?  あたしに”行かないで”って言って欲しいの?」
  私  「責任はあるから」
  詩子 「そうね・・・でも 正直迷ってる その切り札使うか
      あんたに責任を迫ったら・・・私は、私の負けを認めた事になる」

 詩子は天を仰ぐ
  詩子 「私は・・・・茜の姉さんには・・・死人には絶対に負けたくない
      私はまだ生きている、あんたと一緒に生きていける、だから負けたくない」

  私  「詩子・・・アイツの事を思い出したのか?」
  詩子 「ううん、アカネから聞いただけ 子供の頃
      茜といつも一緒に居た人が多分その人だと思う
      でも・・・やっぱり思い出せない」
  アカネ「詩子ごめんなさい・・・私が余計な事言ったから・・・」
  詩子 「このまま・・・私は・・姉さんを忘れた茜みたいに
      あんたの事も思い出せなくなるのかな?
      いつも傍に居てくれて、励ましてくれた人、慰めてくれた人・・・その人の事が・・・」

  私  「すまない・・・詩子」
  詩子 「だから、迷ってるの
      ”二度と会えなくなるぐらいなら負けてもいいんじゃない?”って」
  私  「こちらにはその用意はある」
  詩子 「今の台詞 一番聞きたくなかったわ ”頑張れ”ぐらいは言ってよね」
  私  「そうか・・・」
  詩子 「ふふふ、今の事 茜には内緒だよ」
  アカネ「詩子・・・もう決めているんだね・・・・」
  詩子 「何のことアカネ? ・・・・あたしは”迷ってる”って言った筈よ」

 桜の実を詰めた麻袋2つと丸められたビニールシート乗せた猫車を押して退場
 
家庭科実習室:茜とLim

私、詩子、アカネ登場(BGM:乙女希望)

 詩子 「茜、お待たせ・・・・ん? いい匂い もう煮込んでるの?
     確か1時間は砂糖に浸けておくって」
 茜  「そちらの鍋 お願いします」
 私  「了解 アクを取っておけばいいんだな? おぉ種ごと使ってるのか」
 茜  「ええ、ブドウジャムの手順で作ってみました 種と皮は最後にそこのふるいで濾します」
 Lim「里村さんブドウのジャムって最初に砂糖を使わないんだ 知らなかったよ」
 茜  「苺やオレンジのように水分の多い実では無いようでしたので」

 詩子 「茜、あたし・・・手伝う事無いの?・・・・」
     (なんか・・・立場無いよぉ・・・・あたしは女の子ぉ・・・・)

 茜  「えっと・・・・・あの・・・詩子に・・・ですか?・・・」
 詩子 「ううううう」 

 私  「詩子とアカネは目の前のコンロでお湯を沸かして、そこの空き瓶を煮沸してくれ
     そうだよな 茜?」

 茜  「えっ ええ、そうですね 詩子とアカネちゃんはビンの消毒をお願いします」
 
モノローグ:Lim
 トライ・・・あなたはそういう人なんですね 器用に何でもこなせるくせに
 人付き合いはとことん不器用・・・・

 詩子 「はぁ・・・あたしにはビンを茹でる位しか能が無いって言いたいのね」
 私  「当然だ」
 詩子 「・・・・恨みなら・・・・忘れずにすむのかも・・・か
     だからそう言うやり方は止めて」

モノローグ:詩子
 あんたの事、恨んで恨み続けて それで覚えていたって
 忘れてしまった方がまだ・・・・
 あ?・・・・あんた・・・茜の姉さんの事
 どれだけ哀しんだの? 哀しんで哀しみ続けて・・・・それで・・・

 私  「すまないな・・・これが精一杯だ」
 詩子 「もういいわ、これを煮沸をすればいいのね・・・
     それと、あたしは多分・・・別の道を選ぶから」

 茜  「煮込み終わったジャムを熱いうちに種と皮を濾してから
     ビンに詰めて完成です」

 ジャムの瓶詰め作業を行う一同(BGM:A Tair)

 アカネ「先輩・・・先輩はみんなの事をどうするつもりなんですか?
     もう・・・時間も無いのに・・・このまま全部終わりにするつもりなんですか?」
 
 茜  「アカネちゃん?」
 私  「それが人的被害が最小になる方法だと考えている」
 アカネ「いいじゃないですか・・・みんなが不幸になったって
     その代わり、誰か一人だけは幸せにして下さい
     茜さん、詩子さん、リムさん ・・・姉さんだってそう願ってます」
 私  「幸せは・・・他人の不幸の上にしか成立しない・・・・
     他人を不幸に突き落とした数しか、人は幸せになれない
     特に・・・ただ争う事を強要される・・・こんな社会においては・・・・」

 Lim「トライ・・・私は幸せだよ・・・・あなたに選んで貰えなくても
     あの日ロビーの雑踏の中でトライが私を見つけてくれなかったら・・・・
     だから、私は幸せだよ」

 詩子 「あんたがね まだ あかねの姉さんを忘れられなくても
     あたしはね、その人に出来ない事が出来るつもりでいるよ
     あぁあ こんな事になるなら、同じ高校に通うんだったよ」

 茜  「みんな・・・なんの話を?」

 私  「すまない・・・どうやら、みんなの傷を深くしてしまいそうだ
     静かに消えていく事にするよ」

詩子 「待って、これは持って行きなよ」

深紅のジャムの入ったビンを渡す詩子
    
 私  「ああ、そうだなこれは貰っていくよ」

ジャムのビンを抱えて私退場

 茜  「詩子どうゆう事なんですか?
     ”消える”ってなんなんですか?
     みんな、何を知っているんですか?
     私に何を隠しているんですか?」
 詩子 「私達からは答えられない・・・・あいつが話しに来るよ・・・きっと全部
     ふふふふ、茜が最後の砦なのかぁ」
 茜  「詩子?」

 Lim「そうだね、結局トライは里村さんを一番大事にしてたんだ」
 詩子 「茜に泣き付かれたら・・・あいつ茜を振り払えるのかな?」
 Lim「無理ね・・・だけどトライは、タイムアウト優勢勝ちを狙って来るわ」
 アカネ「先輩は茜さんに手を出したくないから・・・・」

 茜  「・・・・みんな・・・みんな嫌いです・・・」

 詩子 「今日はこれでお開きね」

 家庭科実習室の片づけを始める 詩子、Lim、アカネ
 そして、ただ佇む茜・・・・・

 暗転

第2章(7)へ続く


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