礎〜第2章 炎のさだめ〜(1)

 〜 カオス 〜

モノローグ:私(スポットライト BGM:海鳴り)

 あれから特に変わった事も無く、時は流れて
 私達は高校生になった

 私がアイツから「茜を守る事」を引き継いだのは中学生の時
 中学校には、アイツの痕跡は幾つか残っていた
 例えば、剣道部のアイツの賞状、私にはアイツほどの才能は無い
 私を試合に出すような無茶な真似をすれば、私は存分に粗を披露する
 つもりでいたから

 ま、この茶番劇を仕組んだヤツも万能では無いということか
 万能ではないからこそ、私達が高校に入ったタイミングで
 仕切り直しを仕掛けると睨んでいる

 舞台が中学から高校に変わるのだから

 詩子 「あんた最近暗くなったねぇ 失恋でもした?」
 
 詩子なりに心配そうに私に尋ねる

 私  「そうみえる? やっぱり詩子と別の学校になったのが堪えたな」

 詩子 「えぇ!それって?」

 私  「あぁ、その通り、最近退屈でしょうがない、騒ぎ箱が居ないと」

 茜や詩子の記憶の中にいる私の大部分は、アイツや
 幼稚園以来の幼馴染君の関わった出来事だ

 勝気で明るい性格だったアイツと
 どうやらお調子者でとぼけた性格の幼馴染君と
 私とでは性格にギャプがありすぎる

 そして、私と出会ってから、アイツが消えてしまうまでの
 3年間分の私との本当の記憶は無くなっている

 私自身は「気味の悪い子」と呼ばれていた時代に比べれば
 ずいぶんと明るくなったとは思っているのだが

 アイツが最初から居なくなってしまった事になった街
 でも一人の人間が居なくなってしまった事で小さな混乱が
 いくつも生まれている

 いずれにせよ混乱収拾の為にヤツが動いてくれれば
 それは私にとってもチャンスだから

 〜 夏の夢 〜

高校の教室:放課後の雑踏の中 私(BGM:虹を見た小径)

 雨が降る・・・・嫌な雨だ、左腕の痣が疼く・・・

詩子登場

 詩子は教室の入り口で何人か捕まえて話をしているようだけど・・・・
 やっぱり胡散臭いよな、他校の生徒がこうゆう行動をとると
 
 詩子 「あれ?一人?茜は?」
 私  「ん?図書室に行くって言ってたよ で、何の用だ?」
 詩子 「茜と放課後商店街に行く約束してたんだけど・・・・」
 私  「そっか、茜 本持ってたから、返却に行ったんだろ?
     じき戻ってくるさ」
 詩子 「うん、じゃ、待たせて貰うね」

 詩子 「茜が言ってたんだけど あんた部活やってないんだって?」 
 私  「やるも何も入部もしてないけど?」
 詩子 「だって、剣道部の新入部員狩りに捕まったって・・・茜が・・・」
 私  「見ての通り、無事生還して来ました」
 詩子 「勿体無いわね あんた結構強かったじゃない」

 そう・・・アイツは茜を守るのに必死だった

 詩子 「もう剣道やらないの?自慢の木刀は?」
 私  「木刀は朝顔の支柱になってるよ」
 詩子 「す・・凄いわね・・・そのセンス」
 私  「なに、花を愛でる事すら許されなかった戦士へのせめてもの手向けだ」
 詩子 「なにそれ?」

茜登場
 茜  「詩子来ていたんですか」
 詩子 「やっと帰ってきた・・・・それじゃ行くよ」
 私  「いってらっしゃーい」
 詩子 「あんたも行くの!!」
 私  「へ?」
 詩子 「”へ?”じゃない!!大体主役が居なくてどうするのよ!!」
 茜  「詩子それは・・・」
 詩子 「あわわわわ」
 私  「なんだ?荷物持ちでもさせるつもりか? 雨が降ってるから辞退したい」
 詩子 「あんた本当に今日が何の日か判らないの?」
 私  「授業があった所を見ると、今日は日曜祝祭日では無い、更に土曜日でも無い
     何の変哲も無い平日の雨の午後だ」
 詩子 「ほんと、あんた雨が好きよね」
 私  「雨の日は古傷が疼くから好きでは無いのだが」左腕を指差す
 詩子 「じゃ、雨に好かれてるのね まぁうらやましい
     雨は天からの恵みよ とにかくつべこべ言わずに付いて来るの!」
 私  「へーい」

一同退場

商店街:喫茶ぬくれおちど
私と茜、詩子(BGM:オンユアマーク)

 言わずと知れた不良学生の溜まり場”喫茶ぬくれおちど”
 そこに不良学生が3人

 詩子 「誰が不良学生よ!!・・・・あんただってここで食事してるんでしょ!」
 私  「詩子オマエか? この悪趣味な飾り付けは」

 天井から極彩色のツルが無数に垂れ下がっている様子は
 さながら異世界の密林に迷い込んだかの様である

不良学生の親分登場

 喫茶ぬくれおちどの経営者にして、街の世話役
 定休日には実費のみで店を開放してくれるので、金の無い学生の
 イベント会場になる事もしばしば・・・・

 マスター「いらっしゃい 君か今日の主役は」
 私   「異世界の密林の女王に捕まった地球人がテーマの演劇をやるようだ」
 マスター「いや、私は誕生パーティだと聞いて居たんだが・・・・」
 私   「そうやって人を騙すのがこの女の常套手段 マスターも気を付けた方がいい」
 詩子  「がぁぁ!! 人を極悪人みたいに言わないで!!」
 私   「自覚すら無いとは・・・・救い様も無い」
 詩子  「あぁぁ、頭痛くなってきたわ」

この様子を部屋の隅から見つめる少女(スポットライト BGM:永遠)
短い髪、顎に小さなホクロの有る茜とよく似た少女

ナレーション(リアプロジェクションでONE_DEMO.AVIを上映)

 繰り返す日常の中にある変わりないもの
 いつでもそこにある見慣れた風景
 好きだったことさえ気づかなった、大好きな人の温もり
 すべてがこの世界に繋ぎとめてくれるものとして、
 存在している
 その絆を、大切な人を
 初めて求めようとした瞬間だった
      ・
      ・
      ・
      ・
 時は巡り、やがて季節は陽光に輝きだす
 そのときどんな世界に立ち
 そして誰がこの手を握ってくれてるのだろうか

(BGM:日々のいとまに)

 茜  「お誕生日おめでとうこざいます」
 詩子 「お・め・で・と・う! ふんっ!、馬鹿にして!!」
 私  「冥土の旅への一里塚、めでたくもあり、めでたくもなし」
 詩子 「がるるるるるる!!」
 私  「ほい腕 噛み付くんだろ?」

 詩子 「あんた・・・」
 私  「詩子、オマエから貰いたいものが1つある
     一生消えない傷を頼む、この痣みたいなやつを」
 詩子 「ねぇ・・・コレかじっておなか壊さない?」
 私  「消毒はしてないよ」
 詩子 「じゃ、やめた・・・・これで、我慢してね」
 私  「ん? なに?」
 詩子 「たぶん、一生はもたないもの、だけどね」
 私  「真心は儚いからこそ意味がある」
 詩子 「あんたはそうやって、私をからかうのね」
 茜  「詩子、嬉しそうですね」
 私  「そうだよな、こいつはいぢめられて悦ぶ難儀な性格だから・・・」
 詩子 「だからあんたは!!」

ゆっくりと暗転
少女にスポットライト 瞳に泪

商店街:喫茶ぬくれおちど

 店内でイベントの片づけをする私と茜、詩子(BGM:雪のように白く)・・・・だから舞台は夏だって
 部屋の片隅で天井から下がったツルを外している少女

 私  「なぁ詩子、普通主賓に掃除まではやらせないと思うんだけど」
 詩子 「人手が足りないんだからしょうがないでしょ」
 私  「3人でこじんまりとやる宴会だったんなら、ここまで派手に飾り付けなくても」
 詩子 「あんたに友達がいないからでしょ!!」
 詩子 「あたしだって驚いたわよ、あんたのクラス 誰一人参加しようとしないんだから」
 私  「当日に人集めしようとすればそんなものじゃないか?」
 茜  「詩子? あなた天井のモール片付けました?」
 
 詩子 「まだだけど?」
 茜  「あれを見てください」
 茜が部屋の隅のテーブルの上に積まれた極彩色のツルの塊を指差す
 
 私  「おお、自律自走するほど悪趣味な仕様だったとは、あれがウネウネと動く様子を
     子供が見たら泣くぞ・・・・お年寄りが見たらお迎えが来るぞ」
 詩子 「ふうん・・・そーゆー失礼な事言うって事はあんたの仕業ね」
 私  「詩子さんに拉致されて懲役を課せられていた私にそれが出来ると思う?」
 詩子 「じゃいったい誰が?」
 私  「マスターが暇見て手伝ってくれたんじゃなのか?」
 詩子 「あ、そうかもね」

モノローグ:私
 私は人の気配が微かに匂う部屋の隅に視線を投げた
 この気配マスターでは無いな・・・誰だ?
 こうも希薄な気配だと・・・・目標の特定は難しいか
 ヤツ?・・・いや違うな・・・掃除の手伝いはせんだろう

モノローグ:詩子(スポットライト BGM:A Tair)

 ”一生消えないモノが欲しい”か、あんた何を焦ってるの?
 何を怖がっているの? あんたの腕の痣の思い出・・・・!!

 何? 今のイメージ? あんたをあんたが木刀で殴ってた
 違う・・・あんたを殴ったのは・・・・あんたじゃない
 じゃあ木刀を持っていたのは誰?
 その人に木刀で殴られた傷が・・・・痣になって残った?
 ”なに、花を愛でる事すら許されなかった戦士へのせめてもの手向けだ”
 木刀の本当の持ち主・・・私が思い出せない大切な人
 あんただけが、その痣だけがその人の事を覚えている
 一生残る傷跡があれば、忘れなくてもすむ・・・・
 大丈夫、そんなもの無くたって、あんたは大切な人の事
 絶対に忘れないよ
 あたしだって、あんたの事は絶対に忘れないから

暗転

 〜 夕秋 〜

空き地:私(BGM:潮騒の午後)
萱の上に無数の赤とんぼ

 黄金の海 夕闇に舞うは 茜色

 詩子 「あんたは夕焼けよりもこのくらい暮れた空の色が好きよね」

詩子登場

 私  「よっ これからお出かけかい?」
 詩子 「あんたを探してたんだけど? 付き合ってくれる?」
 私  「交際の申し込みか?」
 詩子 「今は茶化さないで欲しいわ」
 私  「了解 ぬくれおちどでいいか?」
 詩子 「この時間から喫茶店? 大胆ね ねぇゲーセンにしない?」
 私  「あぁ でも、ゲーセンもたいして変わらんと思うが」

暗転

商店街:ゲームセンターの対戦台 私と詩子(BGM:遠いまなざし)

 私  「で、茜がどうかしたか?」
 詩子 「相変わらず勘は鋭いわね」
 私  「オマエが一人で相談に来る理由を他に思いつかないだけさ」
 詩子 「なら、話は早いわ、明日茜とデートしてくれる?」

 私  「報酬は?」
 詩子 「”茶化さないで”って、言った筈だけど」
 私  「一応本気、オマエは私の状態を判って言っているかな?」
 詩子 「あんた、まだ人付き合いダメなの?」
 私  「長時間 人間と一緒に居るのは精神的に持たない」
 詩子 「相手が茜でもダメ?」
 私  「試したことは無いからなんとも言えない」
 詩子 「明日はダメ?」

 私  「いや、頑張ってはみよう、最近の茜の様子は気になるし」
 詩子 「あんたも気がついてた?
     茜 最近ボケがひどくなってるみたい
     あんたはいつも茜のそばに居るのに、ちっとも茜を構ってやらないから
     あんたさっきだって、空き地で一人でいたし
     折角の土曜の午後なのに、茜と散歩するぐらいの事はしたらどう?」
 私  「私のせいか?」
 詩子 「半分はあんたのせい だけど人間嫌いのあんたには辛いよね
     そんなあんたを選んだのは、茜の自業自得 それがもう半分」
 私  「で、私はどうやって責任を果たせばいい?」
 詩子 「単純に茜を愛してあげればいいんじゃない」
 私  「無茶な要求を言う だがな、わざわざ別の高校を選んだ
     オマエには言われたくは無い」

 詩子 「茜はあんたを慕ってたし、茜と一緒ならあんたの人間嫌いも治ると思ってたのに」
 私  「なら、1/3ぐらいは オマエにも責任は無いかな?
     私に人間の相手をさせる事自体が間違いだと思うんだけど」
 詩子 「繊細な茜 人間嫌いのあんた ほんとにあんた達は私が居ないと・・・」
 私  「そして、登校拒否児童(淋しがり屋)の詩子様 オマエだって威張れたもんじゃない」
 詩子 「ふふ、あたし達は3人で一人前か」

 私  「話を戻すが明日私は何をすればいい?」
 詩子 「責任ってそうゆう意味だったのね・・・イベントは用意してないわ
     明日一日 茜に付き合ってあげてそれで十分」
 私  「商店街を散歩でもしながら・・・・か?」
 詩子 「うん」
 私  「ま、頑張ってみよう」

 詩子 「・・・・半分はあんたを選んだ自業自得か・・・・
     でも、あたしの場合は全部自業自得かな・・・・・
     ねぇ、今度は私と付き合ってくれる?」
 私  「茶化してもいいか?」
 詩子 「・・・・ええ、喜んで」
 私  「その時は茶化す事にするよ」
 詩子 「期待しないで待ってるわ」

(SE:YOU LOSE PERFECT)

 詩子 「あっ・・・・あたしの・・・負けね・・・」

暗転

 〜 幼馴染 〜

商店街:私と茜(BGM:ゆらめくひかり)
物陰より二人をうかがう詩子
更にその様子を見つめる少女

 茜  「あなたから誘ってくれるなんて、どうしたんですか?」
 私  「詩子が最近オマエの元気が無いから、付き合ってやってくれって言うものだから」
 視線で茜に後方に注意を促すように合図する

 詩子 「詩子が・・・ですか?」

 私  「なぁ、茜 これでオマエは元気になるのか?
     無為に体力を消耗しているだけだと思うのだが」
 茜  「それでは、有意義に体力を消耗しましょう」

私の手を引いて駆け出す茜

 詩子 「えっ! なに? 茜!?」慌てて物陰から飛び出す詩子

茜は私の手を引いたまま路地を曲がる
路地に飛び込んで茜の姿を探す詩子

 私  「詩子君、茜に見つけられしまう様では探偵失格だな」(道化役ごくろうさま)
 詩子 「通りがかっただけよ、ただの通りすがり」(あんた一人じゃ心配だから)
 私  「商店街で暇潰して、ファミレスで暇潰して、とにかく暇を潰すのが今日の予定だ」
 茜  「・・・嫌です」
 詩子 「あんたねぇ映画館とか、遊園地とかなんか無いの?」(あんたがボケてどうすんの!)
 私  「人間の多い場所は嫌いだ」
 詩子 「じぁ、茜の希望にあわせるでいいよね! 茜 何処に行きたい?」(だから、ボケるな!!)
 茜  「詩子に任せます」
 詩子 「あたしに任せるって・・・・あっ!! あんた謀ったわね」
 私  「今日の予定を決める詩子様がここで帰るわけには行かないよね」
 詩子 「うぐぐぐぐぐぐ、あんたと茜のデートでしょうが!!」
 詩子 「余計な気遣いは無用 今日は3人で遊びに行く よろしい?」
     (余計な気を遣ってるのはどっちよ、あんたは人が多い程辛いんでしょ!!)
 私  「一人も二人も同じ事」
 詩子 「っ!!」

商店街:山葉堂:私と茜、詩子 (BGM:日々のいとまに)
今日の予定を相談している3人 その様子を見つめる少女
 
 誰かに見られている さっきは詩子だと思ってたんだが・・・誰だ?

 詩子 「まずあんたは人の多い場所はダメ、遠出が出来る時間じゃないから
     紅葉狩りなんかもダメ・・・・うーん」
 茜  「公園に行きませんか?」
 詩子 「茜???・・・さっき私に任せるって言って・・・??
     ああっ!茜もグルだったの!?」
 私  「詩子君、商店街で茜が駆け出した時に気付くべきだったな」
 詩子 「くっそぉ・・・・、じゃあ公園に行くんでしょ!!」
 私  「まぁ、詩子様お下品」
 詩子 「あんたに言われたか無いわよ!!」

 私の真後ろ・・・・誰も居ないはずだが・・・・
 どうも気配がハッキリしない・・・
 危害を加えるつもりは無いみたいだけど

 〜 精霊の森 〜

高台の公園:私と茜、詩子(BGM:日々のいとまに)

 うーん、山葉堂から付いて来たか・・・・
 この気配を強いて表現するなら・・・子供の頃の茜・・・
 いつもアイツの後ろを歩いていた頃の茜
 そいつが今私の後ろに居る

 詩子 「で、これからどうするの?」
 私  「ただここで暇を潰す私と茜を、オマエが囃したてる
     特別なモノは何も要らない、ありふれた日常」
 詩子 「でも、それはあんたが嫌いなもの筈よね」
 私  「いや、私が嫌いなのは、それしか選択肢の無い世界なだけ
     例えばここで、茜とオマエにワッフルを薦めると言う選択肢も有る」

 詩子 「あんた、何時の間に?」
 茜  「詩子それはさっき山葉堂で買うしかかなったと思いますが」
 私  「茜君、大正解 詩子君の膿細胞には難しすぎたかな?
     で、薦めているつもりなんだけど・・・どう?」
 茜  「いただきます・・・・・おいしい」
 詩子 「あ、うん、ありがと・・・・んぐ!!」
 私  「そうそう、これは詩子専用」

 詩子にブラックの缶コーヒーを手渡す

 詩子 「うぐぐぐ・・・甘すぎるぅ・・・・」
 私  「これで少し変化した日常が出来た」
 詩子 「コーヒーよりストレートティの方が良かったな」
 私  「ほい、ストレートティ」
 詩子 「・・・・あんた、あたしの好み覚えていて、先にコーヒー出したの?」
 私  「いや、どっちが好みだったたか うろ覚えだっただけさ」

 詩子 「その調子で茜を構ってあげたら? 今日はその為のデートだったんでしょうが?」
 私  「このまま流れに乗ってしまうのには抵抗が・・・・」
 詩子 「そうやって茜を泣かせるのね ねぇ今日ぐらいはその流れに乗ってあげたら?
     あたしを巻き込んであんたの気も晴れたんでしょ」

 私  「そのつもりここでのんびりしてるんだけど・・・」
 詩子 「だったら!!」
 私  「それだと、今度はオマエが退屈だろ?
     私と茜はこうやってのんびりしてる方が性に合ってるけど」
 詩子 「・・・・・って事は、わざと先にコーヒーを出したのね」
 私  「常に刺激を与えとかないとボケてしまうから」
 茜  「詩子嬉しそうですね」

 詩子 「あのう・・・茜の方がボケてません?」
 私  「詩子さんもそう思いますか・・・・私も実は・・・・」   
 詩子 「あなたが普段茜に刺激を与えてないせいじゃせいでしょうか?」
 茜  「詩子ひどいです」
 私  「いや、親友と離れ離れになった生活の方が堪えてるんじゃないかと
     詩子さんの方が私よりもずっと刺激的ですし」 
 詩子 「ボーっとしてるあんたと一緒に要るから茜もボケるのか
     それは、それで幸せなのかも」
 私  「さすがにその表現は酷いかも知れない」

 詩子 「ん?ワッフル一枚多いんだよね茜にもう一枚?」

まだ空になっていない山葉堂の包みを見て詩子が尋ねた

 私  「ああ、コレか? 詩子コーヒー飲まないなら返して貰うよ」
 詩子 「いいけど どうして?」
 私  「森の妖精さんにおすそわけさ」

私たちの座っているベンチの後ろの芝生の上にワッフルの包みと
詩子から受け取った缶コーヒーを置く

 茜  「妖精・・・さん? なにも居ませんが?」
 詩子 「あんたには何か見えるの?」
 私  「気配だけ、何が楽しくてこんなのんびりとした集団に
     付き合っているのか判らないけど それならコレぐらいはね」
 茜  「幽霊ですか?」

 私  「どうだろ? 私に判るのは生きている人間の気配だけのはずだけど
     この周辺に該当する人物はいなそうだから、人外の想いかな?ってね」
 詩子 「それで・・・妖精? あんたには妖怪の方が似合ってそうだけど」
 茜  「あなたには私や詩子には見えないモノが見えるんですね」
 私  「人間のドロドロした想いなんて見ずに済むのなら見ないほうがいい」

 茜  「私や詩子にもドロドロとしたものはありますか?」
 私  「・・・あるな 例えば今のオマエ、私がどう返答するかを不安に思ってる」
 茜  「だからあなたは人が嫌い? 私や詩子の事も・・・・」
 私  「いや、それ自体は嫌いじゃない、ただ人間の数が多くなると
     私が情報量を処理できなくなってパンクする それだけの話」

 茜  「今日は大丈夫ですか?」
 私  「大丈夫,大丈夫、100人200人ぐらいは平気、
     1000人ぐらいまでは何とか大丈夫・・・
     だけどそれ以上になると・・・ダメかな」

 茜  「私の気持ち判ってくれてますか?」
 私  「ああ判っているつもり、だけど今は応えられない」
 茜  「あなたの気持ちはどうですか?」
 私  「正直、人間は怖い 人間と付き合っていけるかどうかは自信が無い」
 茜  「そう・・・・ですか でも、私の事をどう思っているのかを
     尋ねたつもりだったのですが・・・・」

 私  「茜も詩子も人間だからね 二人の気持ちに応えられるか?
     その一歩はいずれ踏み出すさ 私が私である限り
     例え血を吐きながらでも未来を目指す それが私だから」
 茜  「未来ですか?」
 私  「”現在”は”過去”からの延長線上にあるけど
     ”未来”は”現在”の延長線上には無い
     そこに”不測の事態”が起きるから
     約束された未来なんて何の意味も無い」

 詩子 「やっぱ、見ない方がいいモノってあるんだ」

詩子が話に割って入る、話が深刻な方向へ行き始めたからだろう

 私  「詩子どうした?」
 詩子 「山葉堂の包みからワッフルがゴソゴソと這い出したと思ったら
     すーっと昇っていって端から少しづつ消えていくの・・・・」

詩子さん それはそれで深刻な事態だと思うのですが

カタン・・・コーヒーの缶が不自然に倒れる
当人(?)も詩子に見られていた事に気づいていなかったんだろう
気配に動揺の色が走る

 詩子 「あ、ごめん 脅かすつもりは無かったんだ、えっと妖精さん?
     こいつが警戒しない相手は怖くないのは知ってるから安心して」
 私  「詩子それはまずい、そいつだって隠れてるつもりなんだし」
 詩子 「妖精さんに最初にお供えしたのは誰でしたっけ?」
 私  「んーと、4人で食べたかったし、誰だかわからんが、そうゆう事だ 少し付き合え」
 詩子 「そうゆう事って、どうゆうことよ! あ・・・紛糖たっぷりのシナモンワッフル
     甘いのは茜の好み・・・シナモンは私の・・・・」

 茜  「ラカントのジャムが乗れば完璧ですね」
 詩子 「茜、それシナモンには合わない」
 私  「えっと、カラントってスグリ??それのジャム?
     野イチゴ系は好みだけど・・・私もシナモンには合わないと思う」
 茜  「でも、あなたの一番好きな果物はジャムも売ってませんから」

 詩子 「茜、あれは果物って言わない、ソメイヨシノのサクランボなんて」
 私  「完熟したやつしか食えないけど、控えめな甘さと上品な渋み
     あれに勝る木の実は無い 旬が非常に短いのが残念だが」
 茜  「あのサクランボもおいしいです」
 詩子 「茜、アレ食べたの? あんなもの食べたらおなか壊すわよ」

 ベンチに座った3人が後ろ向きに芝生に話し掛けている様子は
 鬼気迫るものがあるだろう、もしも季節が春先ならば
 「最近暖かくなったからなぁ」
 と通りすがりの人に言われてしまってるかも知れない
 いや、缶コーヒーが不自然(?)に上下している様は
 妖しげな儀式を彷彿させる・・・事実そうか・・・

 今日は茜とのデートの筈だったが・・・
 予定通り詩子を巻き込む事は出来たし
 正体不明の珍客もいて、見慣れた日常も暮れる

暗転

 〜 再会 〜

モノローグ:私(BGM:追想)
 最近、昔のことを思い出す事が多くなった気がする
 茜の気配が変わったせいだろうか?

 ふとした事で、アイツの事を思い出す
 出会った頃の事、別れ時の事・・・・

 感傷にふけっている場合では無いか

 「今年のクリスマスパーティはあんたんちでやる事に決まったから、よろしくね」

 一人暮らしの家だから溜まり場にするには丁度いいってところかな
 詩子らしいと言えば詩子らしいか

 えーっと、パーティの買出しは必要だな
 飲み物と袋菓子、ケーキの材料・・・茜も誘うか

茜の家:インターフォン越しに私と茜(BGM:無邪気に笑顔)
玄関にスポットライト

 私  「茜ぇ!買出し行くぞぉ!!」
 茜  「どうしたのですか?」
 私  「ケーキは持込かな?それとも現地生産かな?
     状況によっては荷物持ちが必要になると思ってね」
 茜  「材料はありますか?」
 私  「殆ど無いと思ってもらって構わない、それで買出しのお誘いだ」
 茜  「それでは、荷物持ちをお願いします」
 私  「了解」

電柱の影で二人を見つめる少女(スポットライト BGM:偽りのテンペスト)
私と茜退場 ゆっくりと暗転

私の家:エプロン姿でボールを持つ茜
ソファーに私、買い物袋数個 (BGM:日々のいとまに)
詩子登場

 詩子 「茜もう来てたんだ」
 茜  「ケーキはもうすぐ出来ますから」

冷蔵庫よりスポンジ台を取り出しデコレーションを始める茜

 私  「じゃ、詩子盛り付け手伝え」
 詩子 「うん、わかった」
テーブルに袋菓子を盛り付ける二人

茜退場 照明を少し落とす
舞台のすみで、この様子を見つめる少女にスポット
茜完成したケーキを持って再登場 照明もとの明るさへ

 茜  「ケーキ出来ました」
 詩子 「そうそう、クリスマスは茜のケーキじゃないとね」
 私  「いつも、茜が作るそばからつまみ食いをしているのは誰かな?」
 詩子 「あたしじゃないわね、こうゆうイベント用はともかく
     普段茜が作るお菓子は死ぬほどおいしいから・・・
     私だって命は惜しいわよ」
 茜  「詩子ひどいです」

パーティの演技はそれなりによろしく(茜、詩子)
照明をゆっくりとダウン
少女に視線を送る私、はっとする少女(二人にスポット)
パーティの残響を残しつつ ゆっくりと暗転

路地:私と茜(BGM:雪のように白く)
背後から二人を見つめる少女

 私  「すまなかったな茜、片付けまでさせてしまって」
 茜  「構いません、今日は楽しかったですから」
 私  「それにしても詩子のやつ相変わらず逃げ足は速い
     片付けを始めようとしたら、何時の間にかいなくなった」
 茜  「きっと、詩子は気を利かせて・・・・」

私に寄り添う茜、二人に歩み寄る少女
左腕を上げる私・・・・袖の下から大きな痣が覗く
その痣を見て少女の動きが止まる

 茜  「送って下さってありがとうございます」
 私  「暗くなったし、年末は何かと物騒だからな・・・・」背後に視線を投げる
 茜  「もうここで大丈夫ですから、今日は本当にありがとうごさいました」
 私  「そうか? じゃまたな」

茜退場
振り返って少女に対峙する私(BGM:永遠)

 私  「さてと、久しぶりと言うべきかな? はじめましてと言うべきかな?」
 少女 「あなたも私を忘れてしまったのね」
 私  「茜とのデートの時の事かな? それとも・・・
     今の君に良く似た人は知っているが、その人はこんな真似はしない」
 少女 「私はあなたを迎えに来たの」
 私  「断る・・・ま、そうゆう事なら、立ち話もなんだから家に戻ろう」

暗転

 〜 雨 〜

私の部屋:私と少女(BGM:偽りのテンペスト)

私は古びたノートの間から一枚の写真を取り出し少女に手渡す

 私  「この写真に見覚えはあるか?」
 少女 「!!」

少女の気配に動揺が走る

 私  「茜の家にあったアイツの写真は全部焼かれてしまった
     アイツの姿を残しているのはこの一枚だけだ」

そこには、生前のアイツとギプス姿の私が写っていた
 私  「アイツと二人だけで撮った写真だ・・・
     この写真の事は私とアイツ以外は誰も知らない」

 少女 「私にはもう時間が無いの、あなたを連れて帰らないといけないの
     そうでないと私は・・・・」

(BGM:雨)
雨粒が窓ガラスを叩く、ひとつ・・・またひとつ・・・

 私  「クリスマスの夜に雨か・・・雪にでもなれば
     風情が出るというものを
     そうだ、ケーキを食べていかないか?
     残り物だが茜の手作りだ味は保証する」
 少女 「私はあなたを連れて帰るの、独りぼっちは嫌なの・・・」
 私  「コーヒーは砂糖を多めに入れたのが好みだったよな
     少し待っていろ用意してくる」
 少女 「私は茜の姉! 向こうの世界にあなたを連れて行くために来たのよ!!」
 私  「泪雨か・・・」

私退場
モノローグ:少女(スポット BGM:A Tair SE:雨だれ)

 私は・・・・何を待っているのだろう?
 あなたを連れて帰ればいいだけの筈なのに
 あなたが居ないと消えてしまうだけなのに
 私は何に期待しているのだろう?
 ここには私の居場所はない筈なのに
 茜に捨てられた私の居場所なんて・・・・

私 ケーキとコーヒーを持って登場

 私  「私には・・もう時間が無いの・・・」
 少女 「今のオマエに少しでも時間が残っているのなら
     ケーキを味わってから行け あれからずっと
     食べる機会なんてなかったんだろ?」

 私  「あ・・ありがとう・・でも・・どうして?・・私は」
 少女 「オマエは、今ここに居る・・・それが理由だ」
  
 少女 「おいしい・・・」自称アイツがケーキをほうばる
 私  「茜や詩子はオマエに気づいた様子は無かったけど?」
 少女 「あなたにも見えないはずだったのに
     そうすれば、もっとずっとあなたのそばに居られたのに」
 私  「姿が見えなければ使者の役目は果たせない
     姿が見えてしまえば使者として私を連れて行かないと・・・って事か」

(BGM:遠いまなざし)
 少女 「そう、私は消えてしまう あなたと茜の幸せそうな姿を
     見せ付けられるのは嫌だし・・・・このまま消えてしまっても・・・」

自称アイツの身体が透け始める
 私  「また、来いよ」
 少女 「ありがとう ケーキもコーヒーも、とてもおいしかった・・でも
     ここに私の居場所は無いから・・・もう来れない」
 私  「そうでもないさ」

 少女 「えっ!?」

その言葉を最後に自称アイツは消えた

 私  「オマエが、この街に居たいと思うのなら
     この街にオマエの居場所はあるさ・・・」

暗転

 〜 カマ 〜

私の家(BGM:輝く季節へ)・・・暴挙かも?

 クリスマスから数日後、アイツが・・・・
 いや、自称アイツが再び現れた

 私  「おい、年明けパーティでもやりに来たか? 里村家の年中行事の中には
     大晦日から元旦にかけて甘い物を食べ続ける修行は無かったはずだが」

 少女 「あなたを迎えに来たの、連れて帰るまではここを離れないわ」

 私  「そうか、つまり年明けパーティをやるんだな
     それと当分は泊り込むと言う事なんだな  」

 少女 「えっ?えっ?えー!!」

うろたえる自称アイツの姿を改めて見る

 私  「泊り込み覚悟で押しかけてきた割には、手ぶらだな
     あのな、母さんが生きていたのは10年も前のことだ
     今のこの家に女物の生活用品は殆ど残ってないぞ  」

狼狽を続ける自称アイツを横目に時計を見る

 私  「3時過ぎか、今日ならまだ開いてる店も多い さっさと買出しに行こう」

私は自称アイツの手を取った そこには予想していなかった感覚があった

 私  「あ、一応実体はあるんだな・・・すり抜けるかと思ってたのに」
 少女 「どうして」自称アイツが呟いた
 私  「幽霊みたいなもんだと思ってたんだけど そんなに不思議か?」
 少女 「そうじゃなくて、私はあなたの敵なのよ   どうして?」
 私  「えっと実体があるんなら、それこそ身の回りの物は欲しいんじゃないのかい?
     細かい打ち合わせは後にしよう 店が開いているうちに買出しを済ませるぞ」
 少女 「は、はい」

 私  「こないだは、私以外の人間には姿は見えないっていってたけど
     見えるようにする事は出来るかい?」
 少女 「出来なくはないけど・・・疲れるから」
 私  「それはよかった、具体的にオマエが生活するのに
     どんなものがいるのかよくわからんから
     自分で使う物は自分で買い揃えて欲しい」

 私  「それから、多分私の方が先に買い物が終わるだろうから
     いつもの喫茶店でコーヒー飲みながら待ってる」

 自称アイツに少しカマをかけてみた

 少女 「うん、わかった」
 私  『・・・ほぅ、即答するか』

商店街:喫茶ぬくれおちど
モノローグ:私(BGM:虹を見た小径)

 自称アイツが商店街で買出しをしている間
 年明けパーティと正月用の食料の買出しを終えた私は
 喫茶店で自称アイツが戻ってくるのを待っていた

 ここは、茜や詩子とはよく来る場所だが
 喫茶店に出入りするようになったのは高校に入ってから
 中学の時に死んだアイツが ここがいつもの場所だと知っている筈が無い

 案の定派手な模様の巨大な紙袋を持った自称アイツが
 ためらいもせずに歩いてくる
 オマエなぁアイツを自称するなら役を作れよ
 誕生パーティをここでやった時は見つからなったつもりなんだろ?

 ん?少し顔色が悪いようだ、姿を見せているのは疲れると
 言っていたが、そのせいか? 
                                                
 私  「ご苦労様、姿を消していいよ
     荷物はそこにおいといて、私が持って帰るから」

 少女 「う・・うん」 自称アイツの様子がおかしい
 私  「顔色がよくないが・・・・辛いんじゃないのか?」

 少女 「優しいんだね・・・あの・・・えっと・・・ケーキが欲しい・・・」

 は??? ケーキ??? なんか唐突な要求を出された気が・・・・

 私  「ああ、テイクアウトので良ければ買って帰るが・・・」

自称アイツが首を横に振った
 少女 「そうじゃなくて、あなたと一緒に食べたい」
 私  「ここでか? ・・そうか、じゃあもう少しここにいるから、
     姿を消して休んでいろ 回復したら一緒に食べよう」

 少女 「うん」 自称アイツが手洗いに向かった、
 あそこで姿を消すつもりらしい

 私は時間つぶしにコーヒーのおかわりを注文した

第2章(2)へ続く


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