礎(ISHIZUE)

 〜灯(TOMOSHIVI)・刹那と永遠の物語 後編 Lim〜

〜 第2章 炎のさだめ 〜

 〜 天使の棲む家 〜

暗転(BGM:雨)

       空・・・・どこまでも高い空
       雲・・・・どこまでも白い雲

  私・・・・どこまでも・・・・小さな・・・私・・・
   刹那・・・とるにたりない・・・・・   モノ

            ・
            ・
            ・

 「そうでもないさ」・・・・・きっと、あなたはそう言う・・・

      でも・・・私は・・・・刹那・・・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

       誰に望まれる事もなく・・・・
       誰に求められる事もなく・・・
       誰に認められる事もなく・・・
       誰に惜しまれる事もなく・・・

            ・
            ・
            ・

 そして・・・・誰に傷つけられる事もない・・・・私は・・・刹那・・・・

            ・
            ・
            ・

    それ・・・なのに・・・・あなたは・・・・・
  ・・・・・だから・・・・私は・・・Limに・・・・なりたい

            ・
            ・
            ・

       誰に愛される事もなく・・・
       誰を愛する事もなく・・・

            ・
            ・
            ・

 ・・・・それでも・・・私は・・・Limに・・・・なりたい

            ・
            ・
            ・
            ・

私の家 居間:私とLim(BGM:8匹のネコ)

お持ち帰られて多少警戒しているLim
 Lim「あ・・・あの・・・・」
 私  「ん? どうした?」

 Lim「どうした?・・・・って・・・私をどうするつもり?」
 私  「どうするつもりもないけど・・・・どうされたい?」

 Lim「うぅ・・・・そうやって質問を質問で返すのはやめて」
 私  「まぁ 何をどうするつもりもないのは事実だし・・・・
     とりあえずゲームでも・・・・あっ・・・・」

オーバーアクションで自分の頭を押さえる私

 Lim「何?」
 私  「Limのゲーム機はちはやに譲っちゃたから新調しないと」

多少うんざりとした表情のLim

 Lim「・・・・そうやって 話をはぐらかす・・・」
 私  「いや・・・今ごろきっと ちはやがロビーで待ってるんじゃない?」
 Lim「え?」

 私  「いつぞやのLimみたく 独りでロビーに居るんじゃないかなと思ってね」

改めて私に問いただすLim
 Lim「トライ いったい・・・私に何をさせたいの?」
 私  「社会復帰」
 Lim「無理だと思うなぁ だってLimは刹那じゃないもの」

 私  「なら、刹那さんに出てきてもらうだけさ  無理やりにでもね」
 Lim「まぁ・・・怖い」

居間のTVの脇に置かれたゲーム機に視線を投げる私
 私  「とりあえず それを使っててくれ」

ちはやの部屋(旧Limの部屋):ちはやとちはや2(BGM:虹を見た小径)
(背中に翼が無い方がちはや 翼付きがちはや2)

慣れた手つきで(旧Limの)ゲーム機を操作してメモリーカードから788をロードする ちはや2

 ちはや 「・・・・・・・・・」
 ちはや2「あら ちはやどうしたの?」

多少怪訝そうな表情のちはや
 ちはや 「あなた・・・・帰ったのでは?」
 ちはや2「帰った振りしただけよ、なにかきっかけが無いとあの二人全然進展しないし」

絶句するちはや
 ちはや 「・・・・」

ちはや2ちょっと微笑んで
 ちはや2「まぁ 自分相手なら気を使って姿を隠す必要も無いし・・・
      ・・・・これでもリムさんが住んでた時は結構気を使ってたのよ」

ちはや、呆れ顔で
 ちはや 「リムさんも薄々は気がついていたようだけど」
 ちはや2「彼をアパートに寄せ付けないようにしてたから そうみたいね
      でも、私は彼に手を出すつもりは無かったんだけどな」

ネットゲームの画面から目を離して天井を見上げるちはや

 ちはや 「たぶん 彼が何者か?って・・・リムさんも気が付いていたのね」
 ちはや2「さあ? リムさん達の解釈じゃ ”彼”は”彼”なんじゃない?
      ”彼”は”彼”以外の何者でもない・・・・ ”永遠(とわ)”は”永遠”」
 ちはや 「”ちはや”は”ちはや”?」

 ちはや2「そう あの人達にとっては私達はただの”ちはや”」
 ちはや 「・・・・・ただの”ちはや”?」
 ちはや2「天使は彼の敵・・・天使は彼に囚われた者を救わなければならない
      彼がただ・・・・”敵”だから”敵”と言う立場の存在だから」

呟きながら顔を伏せるちはや2
 ちはや2「でも、私は彼への恨みがあるわけじゃない」
 ちはや 「悪魔・・魔物・・鬼・・人の悪意を統べるモノ
      人の善意を司る私達天使の敵 それが彼」

 ちはや2「それは”使命”って三文芝居で彼に無理やり押し付けた 役
      舞台を離れれば、”私”は”私”、”彼”は”彼”・・・・」

顔を上げるちはや2
 ちはや2「私達はその事に気が付くのが遅すぎたのね・・・・」

”ぐっ”と手を握りしめるちはや2
疑問の表情を浮かべつつ ちはや
 ちはや 「私達?」
 ちはや2「私達・・・・そう、私とあなた 部長を手にかけてしまった私達」

暗転

雲上の岩頂にたたずむ荒れ果てた神殿(BGM:永遠)
その神殿から更に天に向かって突き出した祭壇に寝かされている少年

祭壇の脇で祭事用の鉾を振りかざす翼の無いちはや
そして・・・・無言のまま、少年の胸に鉾を突き立てる

パッと少年の鮮血が辺りに飛び散る
(ちはやの表情はシルエットにして映さない様にする事)

飛び散った少年の鮮血が眩い光を放ち
少年の上に泣き崩れる様な格好で鉾を突き立てているちはやの背中に
光り輝く白い翼が現われる

ちはやの部屋:ちはやとちはや2(BGM:雨)

パッと純白の翼を広げるちはや
 ちはや 「私は後悔はしていません・・・・私はあなたとは違います」

優しい視線をちはやに投げ、同じく翼を広げるちはや2
 ちはや2「私は・・・あなたとは違う・・・・そうでしょうね
      私とあなたの違いは・・・ね、 私と部長に未来があったかもしれない
      幸せな未来があったのかもしれないって事を・・・・」

顔を伏せるちはや2
 ちはや2「知っている・・から・・・いえ、見せ付けられたから、思い知らされたから」
 ちはや 「いったい、何を言っているの?」

 ちはや2「そのうち、あなたにも判るわ・・・・・・」
 ちはや 「あなたが何を言っているのか判らないわ!」

顔を伏せたまま自嘲気味に笑う
 ちはや2「ふふ あなたも部長に”未練”はあるんでしょ?
      ”未練”は決して”善意”では無いわ・・・・
      未練を捨てきれなかった私は・・・彼に呼ばれた ふふ」

 ちはや 「未練なんて・・・・」
 ちはや2「もしも・・・の・・・話よ・・・ふふ」

顔を上げて光の鉾を抜くちはや2 そして愛しそうに白木の柄を指でなぞる
 ちはや2「あなたの鉾には、部長の血がまだ染みになって残っている・・・・・
      今までも、そしてこれからも、この染みが消える事は無いの これが私達の未練」

ネットゲーム 場末の酒場の雰囲気の漂う受付ロビー:(BGM:走る少女たち)
何処か勘違いなアメコミ風巫女服の788(ちはやのプレイキャラ)がぼーっと突っ立ている

Limと2nd(私のプレイキャラ)登場
 Lim 「ちーちゃん みっーけ!」
 788 「え? リムさん?」

 Lim 「セカンちゃん ちーちゃん見つけたから早速部屋作って
      ほらほら、ちーちゃんもぼーっとしてないでこっちこっち」

 788 「え? え? え?」

捲し立てるLimに困惑する788

ちはやの部屋:ちはやとちはや2(BGM:日々のいとまに)

TVに視線を投げるちはや2 画面上にLimと2nd登場
 ちはや2「リムさん達が来たみたいね」

 Lim 『ちーちゃん みっーけ!』
 2nd 『待つでし 画面分割されると操作がつらいでし 視界が狭いでし』

 Lim 『セカンちゃん ちーちゃん見つけたから早速部屋作って
      ほらほら、ちーちゃんもぼーっとしてないでこっちこっち』
 2nd 『待つと言ってるでし 狭いでし あわわ、文字ウインドーがはみ出たでし』
 Lim 『こらぁ!! セカン! 私の画面を侵食しないで!!』

ネットゲームに興じてる私とLimの様子を想像して、多少呆れ気味のちはや2
 ちはや2「あのふたり・・・ゲーム機の前で何してるの?」
 ちはや 「実況?」

呆れ顔を見合わせる天使2人

 Lim 『セカン! さっさと文字ウインドウを閉じなさい!!』
 2nd 『はいでし』
            ・
            ・
            ・
        しばしの沈黙 たたずむ788 Lim 2nd
            ・
            ・
            ・
 Lim 『セカンさん 部屋は?』
 2nd 『手続きしてる時に ”ウインドー閉じろ”と言ったでし』
            ・
            ・
            ・
        また、しばしの沈黙
            ・
            ・
            ・
げしっ!とLimに踏みつぶされる 2nd(互いの心象風景として)
 2nd 『痛いでし・・・・』

 Lim 『部屋作る前にウインドウ閉じてどうするの!?』
グリグリグリと2ndを踏み潰す足に力を入れる

 2nd 『うぎゅぎゅぎゅ・・・・ぎゅ・・・』
声にならない声を喘げる

ちはや2 TV画面上のLim 2ndの様子を見ながら呟く
 ちはや2「あれが本当のリムさん 彼は人の悪意を映す鏡・・・・彼に映ったリムさん自身」

泪をこらえる様に顔を更に上げる
 ちはや2「もしも・・・私の未練が彼に映ったのなら・・・・
      あの世界が私の未練だったのなら・・・・あなたはどうする?」

再び雲上の神殿(BGM:永遠)
その神殿の祭壇に寝かされている少年

祭壇の脇で祭事用の鉾を振りかざす翼の無いちはや
そして・・・・無言のまま、鉾を突き立てる

少年の上に泣き崩れる様な格好で鉾を突き立てているちはやが顔を上げる

 ちはや 「部長・・・・・」

鉾は少年の胸ではなく、祭壇の脇に突き立てられている

ちはやの部屋:ちはやとちはや2(BGM:雨)

 ちはや2「あれが私の未練・・・ もしも・・・生きていてくれたなら」
 ちはや 「・・・・だったら・・・何の為に・・・」

ちはや2はちはやに向き直す

 ちはや2「そう・・・未練を捨てきれないのなら 後悔するくらいなら・・・・・・
      "天使になんてなるんじゃなかった"」
 ちはや 「っ!」

 ちはや2「どんなに自分で否定しても それが あなたの中でずっと燻り続けている想い 
      彼はそんな行き場の無い想いの集まるところ」

遠い目でちはや2は天井見上げる

 ちはや2「たとえ・・・仮初めでもそんな想い・・・達の・・・安心出来るところ」

ふっと、ちはや2の色が抜けて、すぐに元に戻る

 ちはや2「そんな想いを”悪意”と呼ぶから 彼は抗い続けているんでしょうね」

ネットゲームのロビーでのクエストの受付が終わりLim 2nd 788がフィールドに転送される

暗転

 〜 夢幻 〜

ネットゲーム 転送先のフィールド 廃墟になった街の一角 教会の前エリア:Lim 2nd 788
(BGM:海鳴り)

 2nd 「受付に”最期の晩餐”って書いてたけど、今日のクエストは何でしか?」
 Lim 「手っ取り早く言うと吸血鬼退治 ここを荒らした吸血鬼を退治するの
      ちなみに吸血鬼はアイテムでしか倒せないからキャラのレベルは関係無し」
 2nd 「アイテムって十字架とかにんにくとか聖水とかでしか?」

 Lim 「そ、エリアに隠されてるアイテムを探し出すのがメインのクエストよ
      あ、それから吸血鬼に捕まると吸血鬼にされちゃうから気をつけてね」

 788 「”最期の晩餐”って私達が食べられる側という事ですか?」
 2nd 「だけど、セカンは(吸血鬼を)美味しくいただくつもりでし」

ピロロぉっと言う電子音と共に2つの武器を装備する2nd
一つは中折れ式の大口径単発銃ハートブレイカー、
もう一つは左肩に装備した肩当てに仕込まれたパイルバンカー

 2nd 「くふふ、ハートブレイカー(心臓破砕砲)もパルバンカーも対吸血鬼用に
      開発した武器でし、目標の心臓を原型とどめず粉砕するを目的とするでし」

 Lim 「だから、(対吸血鬼用)アイテムじゃなきゃ倒せないってば」
 2nd 「白木の杭を打ち込むより、破壊力はあるでし」

武器にうっとりと頬擦りする2ndの姿を見て シュッと光の鉾を振り出す788

 Lim 「ちーちゃんまで・・・・」
 788 「天に仇なすものは成敗します それが闇に蠢く眷属ならばなおの事」

2ndを眺める788の視線が何かを突き通すような鋭いものに変わる
788と2ndを結ぶ線 つまり788の視線の先にある茂みがガサガサと騒ぎ
2匹の吸血鬼が登場する

 2nd 「吸血鬼ってアイテムじゃないと 倒せないんでしよね?
      それなのに・・・転送ポイントに2匹でるでしか?」

まだ、ネットゲームのシステムを把握していない788が怪訝そうに尋ねる
 788 「????どう言う事なの?」

 2nd 「転送直後のこのタイミングで対吸血鬼用アイテムを
      持っている筈が無いのに吸血鬼が出たでし」

 Lim 「つまり、問答無用のクエストってことね」

2匹の吸血鬼は3人の中で弱そうな2ndと788(魔道士と巫女)に襲いかかる
光の鉾を構えて臨戦体勢に入る788(BGM:オンユアマーク)

2ndは身を屈めて襲い来る吸血鬼の懐に潜り込む

ガシュッ!!くぐもった爆発音と共に辺りに硝煙の香りが立ち込める
左拳で吸血鬼の胸を突き上げた特長の有るポーズでジャンプする2nd

 2nd 「しょ〜りゅ〜けんは上昇中無敵でし」

2ndは肩当てを左腕に装備し、その肩当てから突き出したパイル(杭)が
吸血鬼の胸から背中へと突きぬけている

カランカランカランとパイルを打ち出すのに使われた薬莢が楽しげに踊る

かぶりつこうとする吸血鬼をなんとか光の鉾で押しとどめている788

 788 「吸血鬼ごときに!」

押し返そうとする788の抵抗も空しく、吸血鬼の牙が鉾の柄越しに咽喉笛にジリジリと迫る

パン! 乾いた爆発音と共に788に迫る吸血鬼の頭が吹き飛ぶ

ハートブレイカーを二つ折りにして、空薬莢を排莢しながら着地する2nd

時間差でドサッっと音を立ててパイルに貫かれた方の吸血鬼が2ndの後方に落下する

頭を吹き飛ばされて体勢を崩した吸血鬼がもそもそと起き上がる

2ndはハートブレイカーに次弾を装填しつつ

 2nd 「頭が無くて、血が吸えるのなら吸ってみろでし」

 788 「後ろ!!」

チャキ 2ndがハートブレイカーに次弾を装填完了すると同時に
先ほど後方に落下した吸血鬼が背後から2ndの首筋にかぶりつく(BGM:雨)

 Lim 「だから、吸血鬼はアイテムじゃなきゃ倒せないって言ったのに
      もう!、これで1人やられちゃったじゃない」
 788 「そんな身も蓋も無い事を・・・・・」

背後から吸血鬼に抱かかえられて お食事されている2nd

 Lim 「私の言う事聞いてくれない人なんて 知らない ふん! 自業自得よ♪」

どこか楽しげなLim(声は多少上ずった調子で)

 2nd 「・・・・・・」

お食事されながら なにやらブツブツと呟いている2nd

 2nd 「セカンのちえんめいるに歯が立つなら・・・・・立ててみるでし!!」

半身をよじって吸血鬼の牙を振りほどく2nd(BGM:勝利のポーズ)
牙を振りほどいた拍子に破れた魔道着の下から鈍い金属色を放つチェーンメールが覗く

半歩バックステップして吸血鬼から離れる2nd
後ろ足に重心を残したまま左肘を上げ吸血鬼に突進する(SE”ざんえ〜けん!!” 幻聴?)

突進する左肘を吸血鬼の口へ叩き込む、へし折れた何本かの歯とともに
吸血鬼の牙が辺りに飛び散る

たまらず口を押さえて屈み込む吸血鬼
破れた2ndの左肘に、チェーンメールの鈍い金属色が覗く

 2nd 「(吸血鬼を)倒す必要は無いでし (吸血)不能にすればいいだけでし
      でも、心臓串刺しですぐ動くなんて思ってなかったでしが・・・・・・・」

 Lim 「・・・・呆れた・・・・」

どこか哀しげなLim(声は下げ調子で)

 Lim 「このまま、吸血鬼を殺さずにクエストクリアするつもり?」
 2nd 「セカンは無益な殺生はキライでし さっさと次のエリアへ行くでし」
 Lim 「・・・ダメね・・・ゲートは閉じたままよ、次へはまだ行けないみたいね」

ゲートは侵入禁止を意味する赤ランプ2つを点灯している(BGM:追想)
首無し、歯抜け吸血鬼に視線を投げる2nd

 2nd 「ランプは2つ・・・哀れな吸血鬼を殺せと言うでしか・・・・」
 Lim 「殺せって言う以上、このエリアに2匹分のアイテムはあるって事なのね」

吸血鬼殺害アイテムを探しに行こうとするlimに声をかける788

 788 「止めて下さい・・・いえもう止めましょう
      勝負はついたのに殺さなければ認めないと言うのは酷過ぎます」

 Lim 「あら? ちーちゃんは小さな悪でも許さないってタイプじゃなかった?」
 788 「そうだとしてもです」
 Lim 「意外だわ ちーちゃんが吸血鬼を殺し歩くクエストを止めようって言うなんて
      勝負がついても吸血鬼は吸血鬼じゃないの? プレイヤーが倒すべき敵よ」

 788 「倒すべき・・・殺すべき敵・・・だから・・・殺す」
 Lim 「実際 トライぐらいよ、こんなシステムの前提を覆すような事言い出すのってさ
      ”殺す相手”と決められてるんだから、”殺す”だけでいいのにね」

 788 「決める・・・・誰が???」
 Lim 「誰が?って ゲームデザイナーとか、ソフトハウスの偉いさんとかじゃないの?」

 788 「予め決められた敵と闘い・・・そして何も疑わずただ倒す」
 Lim 「それは、そういうゲームなんだから疑問持つ方が変だと思うよ」
 788 「ゲーム?」
 Lim 「そ、ただのゲーム」
 788 「ただのゲーム・・・・誰のゲーム?・・・・・」

2ndの方へ視線を投げる788
隙を見せた788の背後を歯抜け吸血鬼が襲う 先ほど2ndにへし折られた筈の牙で
788の首筋にかぶりつく

 Lim 「あらあら、もう再生したのねぇ」

明らかに楽しげなLim(声は嬉々として)
ガコンと言うSEと共にゲートの赤ランプが1つ緑色に変わる

 2nd 「・・・・そういう こ・・・・」

2ndがセリフを言いきる前に、真っ白な翼を広げた788がLimを抱かかえて飛びあがる

 Lim 「ちょっちょっとぉ」

やっぱり楽しげなlim

そして2ndを見下しながら正面からLimの首筋にカプっと ”いただきます”する788
(BGM:永遠)
 788 「立場は逆になってしまいましたが、あなたと私は敵同士の方がしっくり来ます」
 Lim 「きゃあぁぁぁ!」(歓喜の悲鳴)

再びガコンと言うSEが鳴り最期の赤ランプが緑色に変わる
そして、次のエリアへのゲートが開く

 2nd 「・・・敵じゃなくて味方がやられないと・・・ゲートが開かないでしか」

788を見上げる2ndの視界に、788とLimが敵である事を示すロックオンカーソルが浮かぶ

 2nd 「で、クエストのクリア条件は 吸血鬼を全滅させる事でしたよね?」
 Lim 「あは、こっちのクエストボードに今メッセージが出たけど
      人間を全部吸血鬼にしてもクエストクリアだってさ」

2ndに向かってジュルっと舌なめずりするLim
2ndはそんなLimの様子を受け止めつつ

 2nd 「これが”最期の晩餐”の本当の意味でしか・・・・・
      1人残った人間を狩るマンハントクエスト・・・・悪趣味でしね」

 Lim 「逃げるセカンを狩り出すのが、私達のクリア条件で、
      逃げながらエリア内に隠されてるアイテム使って、私達を倒すのが
      セカンのクリア条件みたいね」

 788 「私達以外の吸血鬼にセカンドさんが倒されるとクエスト失敗になるそうです」

 2nd 「あはは 周りは全部敵って事でしか なら、さっさと襲ってきたらどうでしか?」
 Lim 「ロックオンカーソルも出ないし、最後の1人はこのエリアじゃ襲えないみたい
      えっと、セカンが次のエリアに逃げてから30秒後に私達のスタートだってさ」

クエストボードに表示されるメーションメッセージを読み上げる

 2nd 「・・・逃げるって・・・画面分割してプレイしてるのにでしか?・・・・・
      セカンが何処にいるのかおねーちゃんには丸見えじゃないでしか」
 Lim 「そうよ、セカンはもう私から 逃・げ・ら・れ・な・い・の」
 2nd 「なら 逃げないでし 覚悟するでし」

そう言いつつ、2ndはゲートをくぐって次のエリアへ退場
空中に残り30秒を示すカウントダウンタイマーが現われる

788の方を向くLim(BGM:追想)

 Lim 「よくも 私を襲ってくれたわね」(親愛の情を込めてウインク)
 788 「彼を襲うよりはましだと判断しました」
 Lim 「そんなにトライと味方同士になるのは嫌?」

 788 「私は今でも彼の敵です」
 Lim 「”立場上”はね」
 788 「そんな考え方は私には出来ません」

 Lim 「状況が変われば、昨日の敵は今日の友よ もちろん、その逆もね♪
      今日こそはトライに勝つわ・・よ・・・・・・」

一瞬Limの動きが止まる

 Lim 「トライ・・・・それ反則」
 788 「どうしました?」
 Lim 「あのバカ!」

空中のカウントダウンタイマが0を告げると同時にゲートを潜ってLim退場
788もLimの後を追って退場
暗転

ネットゲーム 次のエリア 遠景に教会を望む街外れ:ゲート前で銃を構える黒揚羽
(BGM:走る!少女たち)

ゲートよりLim登場 同時にLimを狙撃する黒揚羽
サイドステップで黒揚羽のビームをかわすLim

この隙を突いてゲートから上空に飛びあがる788
そして上空には・・・・・唇を血で濡らし真っ黒な身体でドラゴンにまたがり
2匹の蛇が絡み付く錫杖を持った悪魔の姿が・・・・・

 788 「アスタロト・・・・」
 Lim 「トライ! 悪魔と機械人形なら血を吸われないって事!?」

上空の悪魔が答える

 悪魔  「いいや こちらの目的は別にある」

悪魔は手に持った蛇の錫杖をLimと788に向かって振り下ろす
2人の頭上に安っぽい矢抜きハートのシンボルが現われる

 788 「何???これ???」
 Lim 「チャーム(魅了)?」

状況を把握してない788が攻撃魔法を悪魔に向かって連射する
しかし魔法は悪魔には向かわずに、全てLimを襲う

 788 「え??? どうして???」

Limは両肩から短剣を引き抜き攻撃魔法を受けとめる
一瞬短剣が発光し、攻撃魔法をかき消す

 Lim 「アクティブ・シールドEZ  それにしても・・・・・」

ぴろろぉと言う電子音とともに矢抜きハートのシンボルを消すLim

 Lim 「ちーちゃん攻撃する前にチャームを回復して」

同じくぴろろぉと言う電子音とともに矢抜きハートのシンボルを消す788

 Lim 「トライ残念ね、私達に同士討ちさせるつもりだったの?
      今日はちゃんと回復薬を持ってきてるわよ
      それに巫女のちーちゃんは元々回復魔法を持ってるわ」

 悪魔  「それも違う」

悪魔は再び錫杖を2人に向かって振り下ろす
2人の頭上にまた矢抜きハートのシンボルが現われる

 Lim 「無駄な事」

Limと788がチャームを回復する間に
黒揚羽は飛行形態に変形しその場から飛び去る 黒揚羽退場

 悪魔  「黒揚羽が(対吸血鬼用)アイテムを探し出す間、君達の足留めが出来ればいい
      黒揚羽の機動力ならエリア探索はすぐに終わる」

2人にまたチャームの魔法をかける悪魔

 Lim 「くっ・・・・ちーちゃん、アイテムを(黒揚羽より)先に確保して」
 788 「わかったわ」

チャームを回復しつつ、黒揚羽を追って飛び去る788 788退場

 悪魔  「これで、まずは1人クリア」

微笑しながら悪魔はゆっくりと降下し2ndの姿に戻る

 Lim 「どういう事?」
 2nd 「吸血鬼を殺すアイテムを吸血鬼自身が手に入れたらどうなるでしか?
      どーしてわざわざ黒揚羽でアイテム探しに行く所を見せ付けたと
      思っているでしか?」

慌てて788の後を追おうとするLim
 Lim 「えっ? ちーちゃん待って!」
 2nd 「もう遅いでし」

私の家 居間:TV前でネットゲーム中の私とLim(BGM:虹を見た小径)

TV画面上半分には、対峙している2ndとLim 下半分には飛び去る黒揚羽を追いかける788が
表示されている

地表に何か光るモノを見付けた788が降下する
黒揚羽は空中で人型に変形して振り返りキャノンの射撃体勢に入る

 Lim 『えっ? ちーちゃん待って!』
 2nd 『もう遅いでし』

アイテムを拾ってその場に倒れる788
空中から深紅のビームを放つ黒揚羽

 Lim 「トライ 倒れたちーちゃんを撃つのはヤメテ!」
 私   「何を勘違いしてる?」
 Lim 「え?」

TV画面上半分 深紅のビームに貫かれるLim
ビームに貫かれたLimの胸には銀の十字架が突き刺さっている
TV画面上半分が真っ赤に染まり「ロビーに戻りますか? はい/いいえ」の
メッセージが表示される

 私   「2人目も撃破」
 Lim 「トライ・・・いつの間に・・・・」

 私   「街外れで30秒先行している時、Limが2ndの悪魔召還に気を取られている間にね
      銀の十字架は裏画面使って黒揚羽で探し出したよ
      黒揚羽の機動力ならエリア探索はすぐに終わると言ったんだけどなぁ」

TV画面下半分の画面を切り替えて上半分と同じ場所を2nd視点で表示する

 私   「まずアイテムを一つ確保した後、788を他のアイテムの場所に誘導して自滅させ
      次に手持ちのアイテムを使ってロングレンジからLimを狙撃
      アスタロトは黒揚羽の行動を隠すための囮」

 Lim 「うぅぅ・・・今度はトライに勝てると思ったのに・・・・」

私の方に向き直すLim

 Lim 「・・・悔しい・・・・」
 私   「基本戦力比が2対1なら、まずはそれぞれを分断し 各個撃破する」
 Lim 「私は悔しいの・・・トライに勝てなくて悔しいの・・・・」

Limの瞳に泪が溢れてくる

 Lim 「私が悔しいの・・・トライに勝てない事を悔しがってるの・・・・」

パッと私に抱き付くLim そして私の首筋に歯を立てる

 Lim 「血を吸ってやる」

そう言いながらゴシゴシと泪を私の服にこすりつける
暗転

ちはやの部屋:TV前のちはやとちはや2(BGM:ゆらめくひかり)
ちはや2の色は心持ち薄めに

真っ赤なTVの画面上にはニンニクの束を掴んで倒れている788
「ロビーに戻りますか? はい/いいえ」のメッセージが表示されている

 ちはや 「それで・・・これからどうすればいいの?
      あの2人も何も言ってくれないし・・・・」

 ちはや2「うーん、今2人で結構盛り上がってるみたい 今日はこれでお開きじゃない?
      それにしても・・・・」

にっと 不敵に笑いかける ちはや2

 ちはや 「・・・なによ?・・・」
 ちはや2「吸血天使 ニンニクを1人占めしようとし・・・頓死」
 ちはや 「・・・なによぉ!・・」

ちはや2は優しい表情をちはやに投げる

 ちはや2「楽しめた?」

ハっと我に返り顔を背けるちはや
その瞬間パッとちはや2の色が鮮やかさを増す

 ちはや2「まぁ、今日はこんな所かな?」

今の光景を不信に思ったちはやが尋ねる

 ちはや 「あなた・・・なにもの?・・・」

 ちはや2「私はちはや 私はあなた・・・・そして・・・・
      あなたが天使になる為に捨てたあなた自身 
      同時に あなたが未だに捨てきれないでいるあなた自身」

遠く私の家の方へ視線を投げるちはや2

 ちはや2「彼が居てくれるから私はこうやって私自身と話も出来る ・・・そして・・・」

ちはやと同じ様に顔を伏せるちはや2

 ちはや2「そして・・・私は未来のあなた・・・・・・」

暗転

 〜 反面の 〜

喫茶ぬくれおちど:私 茜 詩子 アカネ Lim ちはや(BGM:海鳴り)

どよんとした重苦しい雰囲気が漂う

 詩子  「・・・あんた、リムと同棲はじめたんだって?」

ちらっと、私の首筋についている歯型に目をやる詩子 

 詩子  「早速、そんなものまで付けて・・・・・なにやってるんだか」
 私   「吸血プレイ」

 詩子  「だからぁ、ヤルならヤルで、もっとコッソリとか穏便にとか出来ないわけ?
      退学になっても知らないから」

 私   「ん?”吸血鬼ごっこ”と言った方がよかったかな?
      昨日は逆上したLimに噛み付かれて大変だった」

 詩子  「へ?  リム・・さんが逆上?」

プルプルと小刻みに震えているLimに視線を投げる詩子

 Lim 「思い出したら・・・また、腹が立ってきたわ・・・・」
 詩子  「・・・・あんた・・・・リムに何したの?」
 私   「何って、昨日のクエストでちはや共々ハメ殺しただけ」

 ちはや 「まさか ニンニク拾ったらゲームオーバーになるなんて思っていませんでした」
 Lim 「まったく初心者相手に容赦無いんだから!!」

 茜   「あの・・・話がまったく見えませんが・・・・」
 Lim 「トライが陰険な手を使うから!! 自業自得よ!!」

 アカネ 「つまり、先輩がちはやさんとリムさんとゲームしてて
      卑怯な手で2人を倒したから、怒ったリムさんに噛み付かれた?」

 Lim 「本気で咽喉笛噛み切ってやろうかと思ったわ」
 詩子  「リム・・・さんもゲームの事になると人が変わる・・・・」

 茜   「あの・・・同棲しているって 本当なんですか?」

 私   「アパート追い出されたLimを置いてやってるんだから
      もう少しは大人しくしてくれると有り難い」

首筋の歯型に手をやる私

 Lim 「恩着せがましく言わないで、いったい誰のせいで追い出されたと思ってるのよ」
 私   「誰のせい???」

 詩子  「たぶん  あんたのせい」
 私   「身に覚えは無いが?」

そんな喧騒の中 カランとドアの鈴を鳴らして男がぬくれおちどに入ってくる
そして、私たち座るテーブルに背後から近づく(BGM:永遠)

 男   「ちょっといいかな?」
 私   「宗教関係の勧誘ならお断りだけど」
 男   「・・・貴方ハ神ヲ信ジマスカ?・・・・じゃない!」

 詩子  「なんか・・・どっかで見たような展開ね」

男の姿を見て萎縮するちはや 
その様子を見たLimがちはやと男の間に割り込む アカネは立ちあがって私に目配せをする

 男   「ちょっと待ってくれよ、何もそんなに警戒しなくてもいいじゃないか」
 アカネ 「だってちはやさんが怯えているもの」

腰を落として臨戦態勢に入るLim

 男   「おいおい・・・・僕は彼に話があるだけで・・・・・」
 茜   「貴方からは・・・・危険な・・・雰囲気を感じます」

 詩子  「だそうですよ どうします危険人物さん?」

 危険人物「まったく、君達は仲が良いのだか悪いのだか・・・・
      いや・・・よくぞ飼い馴らしたと言うべきか?」

ニッっと不適に笑う危険人物

 私   「それで 用件は?」
 危険人物「君を退治しに来た 立場上不意打ちというわけにも行かないので
      今日のところはご挨拶までに」
 私   「ご随意に・・・ただしこちらも精一杯の抵抗はさせてもらう」

 危険人物「いい返事だ そうでなければ面白くない」
 私   「にしても、いきなり最後通告とは・・・普通は交換条件ぐらい出すものだが」

 危険人物「そうか それが君の望みか? ならば君の一番大切なモノを僕の前に
      差出したまえ そうすれば、全てを不問に伏し君に白き翼を授けよう」

怯えていたちはやが搾り出すように危険人物の言葉を否定する
 ちはや 「・・・・やめ・・・て・・・」

その言葉と私の返答が重なる(BGM:勝利のポーズ)
 私   「断る」

 危険人物「もう、交渉決裂かい? まぁ期待はしていなかったが」

危険人物はちはやの方に向きを変える

 危険人物「ちはや帰るぞ」

そう言い放ち危険人物は踵を返す

 ちはや 「・・・・はい」

しぶしぶ危険人物の後に着いていこうとするちはやを私が制する

危険人物振り返りながら

 危険人物「何の真似だ?」
 私   「"断る"と言った筈だ」

 危険人物「ほう? ちはやが君の一番大切なモノと言う事か?」

危険人物の言葉にハッとする茜 詩子 アカネ Lim

 私   「私の意地と誇りに懸けて 私を頼って来てくれた人を見捨てたりはしない」
 危険人物「なるほど・・・・そのプライドが君の一番大切なモノか?」

危険人物は私に背を向けぬくれおちどの入り口へ歩いていく
 危険人物「ならば、その日が来るまで、ちはやは預けておく」

ちはやを庇いつつLimが口を開く(BGM:虹をみた小径)
 Lim 「挨拶に来たのなら、名乗ってから帰ったら?」
 危険人物「そうだな、アニスレイザと名乗っておこう」

Limとアニスレイザとの会話におどけて割って入るアカネ
アカネに便乗する詩子
 アカネ 「あにすれいさ? 零佐って?」
 詩子  「ほら昔は準佐って言われてた階級じゃない?」
 アカネ 「それって少佐の下、今の三佐の下って意味でしょ? なら四佐とか五佐じゃない?
      零って事は一より上って意味だから・・・・・」

 詩子  「なら上級大佐!」
 アカネ 「なによ?それ????」

アニスレイザ呆れ顔でぬくれおちど入り口へ アニスレイザ退場
詩子は話に夢中になってアニスレイザがいない事に今気が付いたふりをする

 詩子  「あ!逃げたな!! まぁ・・準佐しても上級大佐にしても自衛官って事よねぇ
      あんた自衛隊に目を付けられるような事なんかしたの?」
 茜   「退治すると言っていましたし」
 アカネ 「先輩ってもしかして国賊ぅ?」

 私   「言いたい放題のことを・・・・
      言っておくが私は国賊でも非国民でも売国奴でもない」
 詩子  「素直に自首したほうが罪が軽くなるよ」
 アカネ 「えっと、戦時逃亡罪は現場司令官の判断で裁判無しで処刑できます」
 茜   「情けない人です」

ちはやがゆっくりと口を開く(BGM:雪のように白く)

 ちはや 「あの人は・・・・私の・・・・」
 私   「ん? ナニ? 上司って感じじゃなかったよーだけど」

私にジト目を向ける詩子
 詩子  「まったく 人が話題を逸らそうとしているって言うのに あんたは!」
 私   「その為の山車に使われるのはご免こうむる」

 詩子  「あ・・・そ “私の”って旦那様って意味じゃないよね?
      親が決めた許婚かなんか? それとも弱みを握られてるとか?」
 茜   「詩子ぶしつけ過ぎます」

 Lim 「ふーん、とりあえずあれがステージボスってわけね」
 詩子  「ボスって?」
 アカネ 「つ・ま・り ご主人様」

詩子 Limとアカネをジト目で睨む
 詩子  「あんた達 いったい何知ってんのよ?」
 アカネ 「ちはやさんの正体」
 詩子  「醜態?」

 私   「それは詩子」
 詩子  「あんたにだけは言われたくは無いわ」

 ちはや 「みなさん・・・・」
 詩子  「で、ちはやさんの弱みを握った醜態の許婚が監視に来たわけだ・・・
      挙句に退治するって? 白き翼を授けようだぁ? 馬鹿にするんじゃないわよ!!」
 茜   「詩子言ってる事が無茶苦茶です」

 詩子  「あんた・・・あんなのに負けるんじゃないわよ」
 私   「前向きに検討し善処します」
 詩子  「よろしい」

 ちはや 「あの・・・みなさん あまりあの人に関わらないで下さい
      きっと・・・ひどい目に遭います」
 私   「どうかな? あいつには無抵抗の人間に手は出せんて
      そんな事をしたら自分の立場が危うくなる だから、わざわざ挨拶しに来た」

 詩子  「気に入らない奴ね あたしはあーゆータイプは大嫌い」
 Lim 「トライも似たようなタイプだと思うけど・・・・」
 詩子  「だから・・・あんたも だ・い・き・ら・い・!」
 私   「それは、どーも」

淋しそうにLimへ視線を投げる詩子

 Lim 「詩子・・・さん・・・」(BGM:雨)

詩子 一度目を伏せてから
 詩子  「それで、あいつはあんたをちはやさんの、恋敵だか、不倫の相手だかに
      勘違いしてるんだ まったく迷惑よね」

カラカラと乾いた笑いを振りまく詩子

おそらくは何処かの剣道場:アニスレイザ、ちはや兄、ちはや2(BGM:永遠)
 ちはや兄  「アニスレイザ様 神代道場へようこそ」
 アニスレイザ「うむ、ここに来る前に彼に会ってきた
        で、ちはやは何時から彼等と付き合っている?」

 ちはや兄  「征伐の命を受けてから すぐに接触したとは聞いていますが なにか?」
 アニスレイザ「そうか」

アニスレイザはちはや2へ視線を投げる
 アニスレイザ「結局 ちはやも君と同じ道を辿るのか」
 ちはや2  「さぁ あの子はあの子 私は私だと思うけど・・・
        貴方こそ、私の時と同じ事を繰り返すつもり?」

 アニスレイザ「僕には君が必要なのも事実だ」
 ちはや2  「私の身体だけが目的だったくせに・・・・それで実験は成功したの?」

 アニスレイザ「いや、今回も失敗だった」
 ちはや2  「でしょうね、貴方がここに居るんですもの
        成功していれば、貴方がここに来る必要は無いわ」
 アニスレイザ「僕が来た目的は彼を退治する為だよ」

 ちはや2  「表向きはでしょ?」
 アニスレイザ「我々に対して反抗の意思を示し続ける彼は粛清されなければならない
        少なくとも僕とちはやは その名目で来ている」

 ちはや2  「なら・・・やっぱり私は出来損ないの天使なわけね」
 アニスレイザ「君の様に反抗的な子ははじめてだよ
        白き翼に値する資質を持ちながら、そこまで自然に振舞える君に期待する
        そんなに不自然な事では無いだろう?」

 ちはや2  「自然ね・・・それともただの悪あがき? 
        昔々、神様は自分の姿に似せて人間を造った 
        そして今、その人間の中の優秀なモノに天使の資格を与える」

ぱっと、純白の翼を広げるちはや2
 ちはや2  「でも、似ていると言う事は違うと言う事 同じではないと言う事
        私はどんなに似ていても代わりにはなれないと思う」
 ちはや兄  「神話の時代なら まだ神の子が生まれる事もあったのでしょうが
        今となっては血が薄くなり過ぎたのではないでしょうか?」

 アニスレイザ「かもしれない そうではないかもしれない」
 ちはや2  「まぁ、貴方にとって天使も彼も単に道具でしかないのでしょうけど」
 アニスレイザ「僕がこんなに愛しているのに淋しい事を言ってくれるね」

両手を広げて大げさにポーズをとるアニスレイザ(バラの花を飛ばすエフェクト付)
ちはや2アニスレイザを制しつつ
 ちはや2  「私には部長が居たんですからね!」

 アニスレイザ「そう 君が僕に差し出した 君の一番大切なモノ
        そして差し出したのは君自身」

照明を落としてちはや2にスポットライト(BGM:鳥の詩)

 ちはや2「そう・・・あの時はそれが一番正しい事だと信じていたわ」

        消える飛行機雲 僕たちは見送った     *
        眩しくて逃げた いつだって弱くて     *

 ちはや2「だけど 部長を諦めきれずに 後悔し続けている私が居るの」

        あの日から変わらず いつまでも変わらずに *
        いられなかったこと 悔しくて指を離す   *

 ちはや2「部長を貴方に捧げた私は人には戻れない」

        あの鳥はまだ上手く飛べないけど      *
        いつかは風を切って知る          *

 ちはや2「部長を諦めきれない私は天使にはなれない」

        届かない場所がまだ遠くにある       *
        願いだけ秘めて見つめてる         *

 ちはや2「そんな私の・・・彼は最後の希望だから」

        子供たちは夏の線路 歩く         *
        吹く風に素足をさらして          *

 ちはや2「・・・・だから私は彼を守る」

        遠くには幼かった日々を          *
        両手には 飛び立つ希望を         *

 ちはや2「彼さえ無事なら いつか・・・必ず」

        消える飛行機雲 追いかけて追いかけて   *
        この丘を越えた あの日から変わらず    *

 ちはや2「そう・・・あの時の私には部長より大切なモノが確かにあったわ」

        いつまでも真っ直ぐに僕たちはあるように  *
        わたつみのような強さを守れるよ きっと  *

 ちはや2「それを貴方に捧げていれば よかったのね」

        あの空を回る風車の羽根たちは       *
        いつまでも同じ夢見る           *

 ちはや2「"ちはや"の・・・・ 神代の家に代々伝わる"ちはや"の使命」

        届かない場所をずっと見つめてる      *
        願いを秘めた鳥の夢を           *

 ちはや2「闇を討つ光の巫女の使命を」

        振り返る 灼けた線路覆う         *
        入道雲 形を変えても           *

 ちはや2「だから・・・貴方は私を楽にしてはくれなかった?」

        僕らは憶えていて どうか         *
        季節が残した昨日を            *

 ちはや2「それとも・・あの時も部長は私の一番大切なモノだった?」

        消える飛行機雲 追いかけて追いかけて   *
        早すぎる合図 二人笑い出してるいつまでも *

 ちはや2「ふふふ・・・だったら・・・答えは最初から決まっていたのに」

        真っ直ぐに眼差しはあるように       *
        汗が滲んでも 手を離さないよ ずっと   *

 ちはや2「私は永遠(とわ)の未練、私は永遠(とわ)の後悔」

        消える飛行機雲 僕たちは見送った     *
        眩しくて逃げた いつだって弱くて     *

 ちはや2「人間の女の子として、ずっと部長の傍に居たかった永遠の想い」

        あの日から変わらず いつまでも変わらずに *
        いられなかったこと 悔しくて指を離す   *

 ちはや2        「だから私は彼を守る」


照明を元に戻す、スポットライトは消灯(BGM:追想)

 アニスレイザ「だから僕は君に期待している
        白き翼持つ者でありながら、君はこんなにも自然だ」

 ちはや2  「なら、どうして"彼を退治する"なんて言うの?
        貴方が自然だと言う未練も後悔も、貴方の言う"悪意"の筈よ」
 アニスレイザ「そうだな・・・今回の件に関して言えば君を彼から取り戻すため
        君の逃げ場である彼が居なければ、僕は君を失う前のちはやを
        手に入れる事ができる」

 ちはや2  「無理よ、彼が居なくなれば
        私は彼が支えている他の行き場の無い想い達と一緒に消えるだけ」

 アニスレイザ「そう、今の君は消えるだろう しかし、今のちはやが君を失うことは無い」
 ちはや2  「なら、やっぱり私は彼を守るわ」

アニスレイザに背を向けるちはや2
 アニスレイザ「君はこのまま帰れるとでも思っているのかい?」

 ちはや2  「貴方にとって私はもう用済みの筈よ?
        それとも彼の側に付く私を始末するとでも言いたいわけ?」
 アニスレイザ「いや 君が僕の側に付いてくれるなら これを君に返そう
        もしも断るなら 君には消えてもらう」

 ちはや2  「"断る"きっと彼ならこう言う筈ね」

 アニスレイザ「おいおい、断るならせめて僕の条件を聞いてからにしてくれないか?
        君が失ったモノを全て君に返そう 君の身体 そして、君の一番大切なモノ
        そう、初めから何も無かった 君には何も起きなかった」

 ちはや2  「つまり・・・・最後まで部長を信じていられなかった私に戻れと言うのね」

ちはや2はアニスレイザに背を向けたまま一歩踏み出す(BGM:A Tair)

 ちはや2  「私は部長を貴方に捧げた女 だから私は人には戻れないの
        あの時に部長を選べる私しか 部長の傍に居る事を・・・私は許さない」

 アニスレイザ「そこまで自分を責めるのかい? それで消されても構わないと言うのかい?」

ちはや2はアニスレイザに背を向けたまま光の鉾を振り出す
白木の鉾の柄に愛しそうに指を滑らす

 ちはや2  「・・・なら私は貴方に手傷の一つでも負わせてみせる」
 アニスレイザ「ま、今ここで、君を消しても僕には何の得も無いからね
        今のままならいずれ、彼と一緒に君は消える
        その前までには僕のところに戻ってくれると期待しているよ」

 ちはや2  「本当に・・・嫌な人ね」(微妙なニュアンスで 親愛の情はあります)

ちはや2は光の鉾を収めつつ退場
神代道場に二人残ったアニスレイザとちはや兄(BGM:偽りのテンペスト)

 アニスレイザ「気丈な子になったね」
 ちはや兄  「アニスレイザ様に見初められておきながら
        あのような態度を・・・・お恥ずかしい限りです」

 アニスレイザ「君がそそのかしたとも聞くが?」
 ちはや兄  「滅相もございません」(揉み手に上目遣いの、悪徳商人越後屋風味で)

 アニスレイザ「まぁ、今はちはやの好きにさせておくさ
        それがいずれは彼を追い詰める事になる」(陰険な、悪代官風味で)
 ちはや兄  「お互い”立場”と言うモノがありますからな」

 アニスレイザ「最初にちはやを彼にけしかけたのはお前ではなかったか?」
 ちはや兄  「アニスレイザ様もお人が悪い
        そもそも彼の討伐令を出したのは アニスレイザ様でございましょう?」

一転穏やかな表情のアニスレイザ
 アニスレイザ「ああ、本当に今ぐらいは、ちはやの好きにさせてやるさ」

アニスレイザの後方に剣を持った7つの人影 暗転

*出典:PCゲーム「AIR」より 「鳥の詩」

 〜 北の巫女 〜

商店街:家電量販店 多分デート中の私とLim 背後にストーカーモードの詩子とアカネ
(BGM:日々のいとまに)

 詩子  「あの2人侮れないわね ついこないだ同棲したと思ったら
      もう家財道具を揃え始めたわけ?」
 アカネ 「詩子 それ多分違うよ えっとリムさんがちはやさんにゲーム機譲ったって
      言ってたから リムさんのを新調しに来たんだよ」

 詩子  「あんた、それ何処で聞いたの?」
 アカネ 「ほら、私って神出鬼没だから・・・ね・ね・ね」
 詩子  「つまり・・・・・あんた ちょくちょく2人を覗きに行ってるのね」
 アカネ 「今の詩子に言われたく無いわ」(アカネちゃん、多分に宿主の影響受けてます)

白、黒、赤、ピンクと4色並んだゲーム機を前に悩んでいるLim
 Lim 「ねぇ トライならどれにする?」

ピッと本体上面に”R7”と金文字で書かれた黒のゲーム機を指差す

 Lim 「はいはい、トライに聞いた私が悪かったわ
      それにしても、黒金に真っ赤にドピンク・・・どれもセンス悪いわね
      結局白にするしかないじゃない」

ひょいと白ゲーム機の箱を持ち上げてレジへと持っていくLim

 アカネ 「リムさん 明るい」
 詩子  「なんかイメージと違うわね・・・・あ、でもないか
      たしか 始めて会った頃のリムはあんな感じの子だったわ
      ”不信人物に名乗る名前は無いわ”確か初対面でそう言われたっけ・・・・・」

ジト目で詩子を眺めるアカネ ほんのりと頬を染めている詩子
 アカネ 「詩子・・・・今何を思い出してた?」
 詩子  「べ、別に思い出に浸るぐらい・・・いいでしょ!」
 アカネ 「昼間からは不健康だよ」

 詩子  「アカネは いったい私が何を思い出してたと思ってるのよ!!」

詩子の左腕を指差すアカネ
 アカネ 「きっと・・・服の下に傷跡が浮き出てる」
 詩子  「ぐ・・・・」
 アカネ 「図星ね」

話題をはぐらかす詩子
 詩子  「は、早く追いかけないと2人を見失うわよ」

レジに向かう私とLim
私とLimの後を追って姿を隠しつつ移動する詩子 詩子に付いて行くアカネ
そんな4人の様子を物陰から伺う、どこか北方の民族衣装を着た長い黒髪を後ろで束ねた少女

4人+1人は家電量販店を出て商店街のアーケードへ(BGM:虹を見た小径)

Limの荷物を持とうと手を差し出す私
荷物を両手で抱え込んで拒絶するLim
Limは自分の目の前に来た私の腕に自分の腕を絡めようとするが・・・
慌てて自分から私の傍を離れる

そんな2人を遠目で覗いている詩子とアカネ
 詩子   「なにやっての? あの2人?・・・・」
 アカネ  「でも・・・なんか初々しいなぁ
       リムさんって先輩と2人きりだとあんな風になるんだ」

詩子とアカネの間を一陣の風が吹き抜ける(BGM:海鳴り SE:ガラスの割れる音複数)
 アカネ  「痛っ・・・・」
 詩子   「アカネ? どうしたの?」

右腕を押さえてうずくまるアカネ
詩子とアカネの前方に先ほどの民族衣装を着た黒髪の少女
黒髪の少女は詩子に向かって

 黒髪の少女「はやくその子から離れなさい その子は人間ではありません」

キッと少女を睨み付ける詩子
 詩子   「あんたねぇ人様に手を上げといて その言い草は何!?」
 黒髪の少女「その子は危険です はやく離れなさい」

 アカネ  「詩子逃げて・・・」
 詩子   「”逃げて”って・・・そういう事・・・」

詩子はアカネを庇う様に黒髪の少女とアカネの間に割って入る
 詩子   「いつか・・・こんな事が起きるだろうとは思ってたけど・・・
       この子はね あたしの大切な人から預かった大事な子なんですからね
       あんたの好きな様にはさせないからね」

懐からなにやら香水瓶の様なモノを取り出し黒髪の少女の顔に向かってプシュッとひと吹き
 黒髪の少女「ゑ‰∂¶£∀∞♀ξ!!!!」

言葉にならない悲鳴を上げてうずくまる黒髪の少女
踵を返して、アカネを引きずりながら逃げ出す詩子
 アカネ  「痛い 詩子 痛いよ」
 詩子   「少しは我慢して、あのバカが気が付く前にここから逃げないと」

詩子がふと目をやると自分の掴んでいるアカネの右腕
その肩との付け根がパックリとひらいている

 詩子   「アカネ その腕・・・・」
 アカネ  「うん さっき斬られた」
 詩子   「血は出てないみたいだけど大丈夫?」

 アカネ  「多分 大丈夫じゃない 私は怪我なんかしないはずなのに」
左手で傷口を庇うアカネ

 詩子   「・・・・そう・・・」

走るのを止める詩子
 詩子   「痴漢撃退スプレーじゃ話にならない相手って事なのね」

一歩黒髪の少女の方へ踏み出す詩子(BGM:見た目はお嬢様)
 アカネ  「詩子 はやく逃げて!」

アカネの言葉を無視して歩き続ける詩子
 詩子   「アカネに何かあったら あたしはあのバカに言い訳も出来ないじゃない」
 アカネ  「逃げて!! 私だって詩子に何かあったら 先輩になんて言えばいいの」

やっと泪目を擦りながら立ちあがる黒髪の少女 詩子 黒髪の少女に向かって
 詩子   「あんた さっさとアカネの怪我を治しなさい!」
 黒髪の少女「その子からはやく離れなさい その子はあなたに災いを運びます」
 詩子   「まだ言うか! とうしてもアカネの怪我を治したくないみたいね」

詩子は今度はそっとアカネの左腕を掴む
 詩子   「アカネ私の中に入って ここが1番安全な所のはず」
 アカネ  「ダメだよ 私に何が起きているのか判らないのに そんな事出来ない」

詩子はグッとアカネの身体を引き寄せ抱きすくめる そして自分の中にアカネを押し込める
 アカネ  「詩子 ダメ!」

服の右袖が切り裂け 詩子の右腕がパックリと口を開き 鮮血が噴出す
・・・が、商店街のアーケードを行き交う人達は その光景がさも当たり前かの様に
あるいは何事も起きていないかの様に行き過ぎる

 詩子   「これでも まだ治さないつもり?」

右腕の傷口を誇示する詩子
 黒髪の少女「まだ判らないのですか? それがあなたの身に起きている厄災なのです」

傷口を盾ににじり寄る詩子の迫力に後ずさる黒髪の少女
何処からか声がする(BGM:遠いまなざし)

 声    「どうやら ここまでの様だ」

フィっと詩子の前に姿を現すアニスレイザ そして黒髪の少女に向かって

 アニスレイザ「君は本来の君の役目を果たせ」
 黒髪の少女 「はい アニスレイザ様」

黒髪の少女は風の様に走り去る 黒髪の少女退場
 詩子    「確か・・・零佐殿・・・でしたっけ?」
 アニスレイザ「君に危害を加えるつもりはなかったんだが
        部下が先走った真似をしたすまない」

 詩子    「あたしに手は出さなくても アカネには手を出すつもりだったんでしょ」
 アニスレイザ「勿論 アカネ君にも危害を加えるつもりはない
        いや、彼を退治すれば共に消え去るモノに労力を割くつもりはない」

詩子の傷口に手を添えるアニスレイザ すると傷口がみるみると塞がっていく
(奇跡の大安売りだぜ)
 詩子    「そう じゃこれはお礼」

プシュっと痴漢撃退スプレーをアニスレイザの顔面に吹き付ける
 アニスレイザ「それで君の気が済んだかい?」
 詩子    「そうね 今日はこの位で許してあげる」

詩子は右腕の傷口のあった場所を指でなぞる
傷跡を気にして隙のできた詩子の額に指を添えるアニスレイザ
 詩子    「ぁ・・」

小さな呻き声をあげて 糸の切れた人形の様に崩れ落ちる詩子
倒れた詩子の身体から突き出すような格好で立ち尽くすアカネ
 アカネ   「・・・・詩子に何を・・・・」
 アニスレイザ「何も そう、何も起きなかった それだけの事」

商店街のアーケード 倒れている詩子を気にもせず通り過ぎる人々
詩子の意識が戻る

 詩子    「あれ? 貧血?? あ、アカネ リムとあのバカどこに行った?」

詩子はそばに居るアニスレイザの事を気にかける様子は無い
 アカネ   「詩子大丈夫?」

アカネは詩子を抱き起こしながら、視線はアニスレイザを見据える
 詩子    「うぅぅぅ頭がクラクラするぅ・・・・あれ??? なんでこれが?」

手の中の痴漢撃退スプレーをまじまじと眺める詩子 そして・・・・
プシュっとアニスレイザに向かってスプレーをひと吹き

 アニスレイザ「何っ!!」

突然の詩子の行動にうろたえるアニスレイザ
 アカネ   「詩子? 判るの?」
 詩子    「判るって? なにが?」

詩子はアカネの視線を確認して、スプレーをもうひと吹き
 詩子    「でも、そこになにか居るんでしょ?」

そして、アカネとアニスレイザの間に自分の身体を割り込ませる詩子
 詩子    「アカネには 手を出させない」

見えない筈のアニスレイザを牽制する

後ろから詩子を抱きかかえるアカネ
 アカネ   「詩子もういいよ もう終わったの」

そしてアニスレイザを見据える
 アカネ   「もう終わったんでしょ!」

 アニスレイザ「そうだな 今回は僕の負けだ まったく君達には驚かされる
        詩子君といい、彼等といい 身を挺して君を庇おうとするとは」
 アカネ   「彼等?」

足元に散らばる無数の鏡の破片
 アニスレイザ「彼等が邪魔をしなれれば、君は楽になれていたものを」

 『ボク達の茜に手は出させない』

アカネにだけ届く小さな声
 『酷い子だ後ろから斬り付けるなんて』
 『茜の命をなんだと思ってる』
 『ボク達だってこんな目立つ場所に出たくは無いさ』
 『でも茜の命が掛かっているなら話は別』

 アカネ   「みんな・・・・」
 アニスレイザ「敗者は早々に立ち去ることにしよう」

パチンと指を鳴らしてアニスレイザ退場
アニスレイザの指の音にピクッと反応して瞳が虚ろになる詩子(BGM:潮騒の午後)
今度はすぐに詩子の意識が戻る

 詩子  「あれ? あたし 今 なにしてた????」
 アカネ 「・・・・」
            ・
            ・
            ・
          しばしの沈黙
            ・
            ・
            ・

 詩子  「・・・・!! なんでアカネがあたしに抱きついてるのよ!!」

慌ててアカネを振りほどく詩子
 詩子  「悪いけどあたしには そーゆー趣味は無いんですからね!!」
 アカネ 「ありがとう詩子」

 詩子  「なによ・・なんか気味悪いわね」
 アカネ 「ありがとうみんな」
 詩子  「みんな? みんなって誰よ???」

商店街のはずれ ちはや(旧Lim)のアパート前 私とLim(BGM:雪のように白く)

 私   「ふーん、真っ直ぐ家には帰らないんだ」
 Lim 「ちょっと忘れ物があるから」

ゲーム機の入った紙袋を両手で愛しそうに抱きしめるLim そしてアパートの中に退場
私もLimを追ってアパートへ退場

ちはやの部屋:ちはや(BGMは継続)

 Lim 「ちーちゃん 遊びに来たよー」

ノックもせずにいきなりドアを開けて部屋に侵入するLim
 ちはや 「え? ちーちゃん?? え?あ? リムさん???」

突然の来訪者に困惑するちはや
 私   「おじゃましまーす」

私も遠慮なく上がりこむ 入り口の扉に姿を現すちはや2
 ちはや2「一応女の子の部屋なんですからね 礼儀が無いにも程があるわ」

Limはちはや2を無視して今買ってきたゲーム機の包みを開けてセットアップを始める
 ちはや 「いったい何を?」

もともとあった今はちはやのゲーム機と新しいゲーム機をつないで電源を入れる
 Lim 「登録情報をこっちに移す間ちょっと待っててね」
 私   「・・・・そんな面倒な事しなくても 新しいのをちはやに渡して
      それを持って帰ればいいんじゃ??」

 Lim 「嫌よ」

ガバっと新しいゲーム機を庇うLim
 Lim 「せっかくトライに買って貰ったのに 誰にも渡さない!」

 ちはや2「それで・・・・今日のリムさんは妙に明るいと思ったら・・・
      それにしても、女の子への最初のプレゼントがこれ?」

新しいゲーム機を指差すちはや2
 私   「いや・・・プレゼントのつもりじゃなかったんだが・・・・・」

ピコピコと登録情報の移行操作をしているLim
 ちはや2「ねぇあんた達って仮初めの恋人じゃなかった?」
 私   「私はそのつもりだけど」

TV画面に向かったままLimが口を開く
 Lim 「トライ 私は最初から本気だよ それでもいいって約束だったよね
      トライの告白を断りさえしなければいいって約束だったよね」

最後の完了ボタンを押すと、作業状態を示す何本かのゲージが出た後
移行完了のメッセージと元のゲーム機の登録情報削除のメッセージが表示される
すっとLimの色が薄らぐ(BGM:永遠)

んーっと 伸びをするLim(色はまだ薄いまま)
 Lim 「んー・・・今まで長かったなぁ」
 私   「なにが? 移行ってそんなに時間掛かってないと思うけど」

 Lim 「あら? まだ気が付いて無いの」

アパートの中を見回すLim
そして写真立てを手に取り中の幼い頃のLimが両親と写った写真を引き出す
 Lim 「父さんに捨てられて、母さんに捨てられて、ちはやさんにここに連れて来られて
      その時の私に残ってたモノは・・・・このゲーム機とこの写真」

ビっと写真を引き破る
 Lim 「これで・・・私に残ってたモノは全部なくなった・・・・・・・」

一段とLimの色が薄くなる
 私   「いったい なにがやりたい?」
 Lim 「私は本気だって言ったでしょ・・・・・今の私を支えるモノは
      トライ以外に何も無いの・・・・私を捨てたければ捨てればいいわ
      でもね、その時 私は確実に消える その覚悟だけはしておいてね」

 ちはや 「捨て身の賭け・・・それとも・・・脅迫?」
 ちはや2「いいえ 捨てられない自信があるのよリムさんには」

 私   「・・・何があっても捨てるなと言いたいわけか」

登録情報の移行が終わった新しいゲーム機の箱詰めを始めるLimが自答するように呟く
 Lim 「そう 何が起きても 私は消えない それが不可抗力でも なんでも
      何が起きても・・・・・私はトライを消させない」

徐々にLimの色が戻ってくる

 ちはや2「なんか重い話になったわねー でさ こっちにも何か来たみたいよ」

部屋の入り口に張り付いて外を警戒していたちはや2が異変を察知した
物陰からアパートの中を伺う民族衣装を着た黒髪の少女 場違いな姿が周囲から浮いている

 ちはや2「あれじゃ隠れている事にならないって」
 私   「あれは?」
 ちはや 「アニスレイザ様の聖剣士 身分は天使より下 でも」
 ちはや2「早い話、戦闘専門の実戦部隊ね 私達の様な下っ端天使じゃ歯が立たない」

パッと黒髪の少女に向かって飛び出すLim 両手には土間ホウキとチリトリを逆手に持って
反射的に腰の後ろから短刀を抜き構える黒髪の少女
Limの後を追って飛び出す一同(BGM:走る!少女たち)

 黒髪の少女「あなたは!?」

無言で黒髪の少女に斬りかかる・・・・もとい、土間ホウキで殴りかかるLim
黒髪の少女はLimの土間ホウキを短刀であしらい、バックステップで間合いをあける
少女がピーっと口笛を吹くと何処からか鷹が飛んできて少女の頭上を旋回する

 黒髪の少女「お退きなさい あなたに刃を向けるつもりはありません」

そして、私に向かって
 黒髪の少女「彼女をけしかけて あなたは、恥ずかしくは無いのですか!!」
 Lim  「トライは手を出さないで!!
       私は・・・Limは・・・トライに支えられてるだけの女じゃない!!」

 私    「そう言う事だ、すまないがLimの気が済むまで付き合ってやってくれないか?」

絶句する黒髪の少女
 黒髪の少女「・・・・・・」

 ちはや  「止めさせて、リムさんが酷い目にあいます」
 ちはや2 「まぁ聖剣士なら、ただの人間に手は出せないから大丈夫だとは思うけど・・・」
 私    「この勝負、Limが勝つよ」

Limは土間ホウキを逆手に握って斬り上げる 黒髪の少女は上体を反らしてホウキをかわす
少女の上体が反り切った瞬間、Limは右の肘を折り少女の顔面に肘打ちを食らわせる
肘打ちを食らってバランスを崩した少女の脇腹にミドルキック
腹を押さえて屈み込んだ少女の後頭部を真上から両腕で地面に叩き付ける

 私    「ほらね」

黒髪の少女の動きを見てから反応するLimの速さに唖然とするちはや
ちはや2はそれがさも当然かの様に・・・・
 ちはや2 「リムさん相変わらず速いわね」

黒髪の少女は腕をクッションして地面との激突を防ぎ
後転をしながら起き上がり間合いをあける
黒髪の少女が何やら呪文を唱えると頭上の鷹が光を纏ってLimに飛び掛る
ジャンプして鷹をかわすLim 着地するLimの足元に鷹と同じく
光を纏った黒髪の少女が地表すれすれを突進してくる

土間ホウキを地面に突き立て身体を横に振って少女の突進を辛うじてかわす
が、少女の突進をまともに食らった土間ホウキは粉砕される

 私    「すまない、ホウキは後で弁償する」
 ちはや2 「いいよ、確か100円均一で買った奴だし
       元々あれ買ったのはリムさんだし」

間合いをあけ再び鷹を飛ばす黒髪の少女
そして自分も光を纏い地表すれすれを突進する

Limは猫手を自分の前方で上から下へと振り抜く
猫手の軌跡に添って空間にポッカリと黒い穴が開き
光を纏った鷹が穴に吸い込まれる

 黒髪の少女「ママハハぁぁぁぁぁ!!」

鷹を失った少女の悲鳴(悲鳴の内容は多分 鷹の名前)
Limは鷹を失ってなお突進を続ける少女の顔面にローキックを一発

 ちはや2 「ねぇ、あのままあの子も穴に吸い込んじゃった方がよかったんじゃないの?」
 私    「Limはそんな酷いことはしないよ」

絶句していたちはやが口を開く
 ちはや  「・・・今のリムさんの・・・なに?」
 私    「Limは向こうの世界に片足突っ込んでてね 何時消えてもおかしくないんだ
       で、その向こうの世界への入り口を開いただけ」

 ちはや2 「虚無の永遠・・・あれをあんな風に使おうとする人はあまり居ないと思うけど」
 ちはや  「自分が現実逃避で逃げ込む場所に・・・他人を突き落とすって言うの?」

 ちはや2 「これで、あの子は飛び道具も突進系の技も使えなくなったわね」
 私    「格闘戦に持ち込んでLimに勝てるかな?」

正面からダッシュで接近する黒髪の少女 あまりに直線的な少女の動きに躊躇するLim
その隙を突いて少女はLimの肩に跨り押し倒すように前転
Limの上に馬乗りになり 短刀を大上段に構え・・・・・

 ちはや2 「あの子本気になったみたいよ どうするの?」
 私    「大丈夫だって Limの反応速度は(あの子より)圧倒的に速い」

一気にLimの心臓めがけて振り下ろす

 黒髪の少女「大自然の お仕置きです!!」

ガチっ鈍い音を立てて、Limの胸の上でチリトリが少女の短刀を押しとどめる
Limが黒髪の少女を手玉にとる様子を見て、ちはやの言動に平静さが戻ってくる

 ちはや  「チリトリで受け止めた・・・・はぁ」
 私    「あのチリトリも100円均一?」
 ちはや2 「え? あれは・・・・アイデアショップで買った
       コンクリートに擦り付けても減らないチリトリで
       素材が確かポリカなんとかって言う 丈夫な・・・・」

 私    「ポリカーボネート?」

 ちはや2 「そうそう それそれ」
 ちはや  「ねぇ・・・ホウキ何処で買ったとか、チリトリ何処で買ったとか
       どうしてそんな事まで知ってるの?」

 ちはや2 「ほら、私って、天使失業中で暇だったから・・・・つい」
 ちはや  「ついって・・・・リムさんをずっと覗いていたのね?」
 ちはや2 「失礼ね 見守っていたって言って欲しいわ」

 私    「そろそろ勝負が付くよ」

Limは馬乗りになっている少女の目の前で猫手を振る(BGM:勝利のポーズ)
切り裂かれた空間がポッカリと黒い口をあける
慌ててLimの上から飛び退く少女
チリトリに突き刺さったままの短刀を残して

Limはチリトリから短刀を抜き構える
少女は着地後 即Limに向かって飛び込み鋭い抜き手を放つ

Limは身体を半回転して抜き手をかわす
少女に背を向けたまま短刀で少女の左太股を突き刺す

少女の返り血がLimの服を深紅に染める
Limは少女の太股に刺した短刀を引き抜かずに手を離し
少女の鳩尾へ肘討ちを一発 前屈みになる少女の顎に掌底を突き上げる
その場に崩れて昏倒する少女

 私    「一本目 それまで」

私の声に反応して振り返るLim(BGM:A Tair)
 Lim  「トライ・・・私・・・・」

少女の返り血を浴びた顔を拭いもせずに俯く
 Lim  「・・・私・・・今・・・何をしたの?」

 私    「ただの試合 結果はLimの勝ち」
 Lim  「私・・・人を・・・刺しちゃった・・・・・」

 ちはや2 「ちはや、リムさんの着替えとシャワーの用意して」
 ちはや  「え??」
 ちはや2 「はやく!!」
 ちはや  「は、はい!」

ちはや 慌ててアパートへ退場

ピクッ・・・小さく痙攣するLim

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

       誰に望まれる事もなく・・・・
       誰に求められる事もなく・・・
       誰に認められる事もなく・・・
       誰に惜しまれる事もなく・・・

 そして・・・・誰に傷つけられる事もない・・・・私は・・・刹那・・・・
 そして・・・・誰を傷つける事もない・・・・・・私は・・・刹那・・・・

            ・
            ・
            ・

    それ・・・なのに・・・・私は・・・・・

ピクッ・・・また小さく痙攣するLim

       誰に愛される事もなく・・・・
       誰を愛する事もなく・・・・・
       誰に傷つけられる事もない・・
       誰を傷つける事もない・・・・

            ・
            ・
            ・

    ・・・・・・・・私は・・刹那・・・・・・・・・・・・・
    それ・・・なのに・・・・私は・・・・・・・・・・・・・
 「刹那のクセに」・・・・・・私の中のLimがそう言う・・・・・

 Lim  「トライ・・・私・・・・人を・・・刺しちゃった・・・・・」

カクンとLimの膝の力が抜ける

 声    「まさか この子に倒されるとは思っていなかったよ」

声と共にアニスレイザ登場 倒れかけていたLimを支える

 Lim  「刹那のクセに・・・刹那のクセに・・・刹那のクセに・・・」

焦点の定まらない濁った瞳で繰り返し呟く アニスレイザの腕の中のLim

 アニスレイザ「少女よ 悔い改めるか?」

ゆっくりとアニスレイザの顔を見上げるLim(BGM:遠いまなざし)

 Lim   「・・・・・・・・・・嫌・・・後悔なんて・・・してない」
 アニスレイザ「そうか 君なら立派な剣士に成れたものを」

アニスレイザの腕から離れてふらふらと私の方へ歩きだすLim
ちはや2が白い翼を広げてLimの方へ向かう

アニスレイザが倒れている黒髪の少女をお姫様抱っこで持ち上げると
少女の太股に突き刺さったままの短刀がするりと抜け落ち
気絶してる少女の表情から苦悶の色が抜ける

Limはふらふらと歩きながらぶつぶつと独り言を繰り返す
 Lim   「・・・だから・・・・私は・・・Limに・・・・なりたい」
 Lim   「・・・それでも・・・私は・・・Limに・・・・なりたい」

到着したちはや2が足元がふらついてるLimを脇から支える
 Lim   「ちはやさん・・・私はLimになりたい
        傷つけられるのに怯えて暮らすのは・・・もう嫌」

Limの言動が次第にしっかりしてくる

 アニスレイザ「少女よ 人を傷つける事を怖れるのは 人からの報復に怯える為か?」

アニスレイザの言葉を聴いて少女の返り血に濡れた自分の手をじっと見る

 Lim   「私はトライに支えられてるだけじゃない・・・トライの支えになりたい
        だから・・・私は・・・消えない・・・諦めない・・・怖れない」

脇を支えているちはや2の腕を振り解いて、私の胸に飛び込むLim(BGM:輝く季節へ)

 Lim   「トライが居てくれるから 私は・・・・理想の私になれる」

Limに飛び込まれて、支えきれずに押し倒される私(SE:コミカルな破壊音を)

 Lim   「トライ・・・最低・・・・」
 私     「言うな」

この光景を見ながら、アニスレイザは黒髪の少女を抱えたまま天に退場
アニスレイザを見送るちはや2

 ちはや2  「アニスレイザ様 貴方はいったい・・・・?」

黒髪の少女が残した短刀を拾い上げる

 ちはや2  「宝刀チチウシ・・・・これをリムさんに?」

暗転

 〜 忍ぶ碧 〜
ちはやの部屋:ちはやとちはや2(BGM:虹を見た小径)
風呂場でシャワーを浴びているLim 私はアパートの外に放り出されて待機

 ちはや 「リムさん着替えはここに置いておくから」 (SE:ザー 水音)

黒髪の少女が残した短刀をタオルで巻いているちはや2
 ちはや2「聞こえて無いみたいね」         (SE:ザー 水音再び)
 ちはや 「その刀どうするの?」
 ちはや2「アニスレイザ様が置いて行ったのには なにか意味はあるんでしょうけど
      リムさんに使わせろって事なのかしら?」
 ちはや 「リムさんに? どうして?」

 ちはや2「チチウシ(刀の銘)が魔物を斬る刀だから」

アパートの外に居る私に視線を投げる
 ちはや 「リムさんに彼を?」

 ちはや2「人ならぬ魔物が斬れるチチウシは天使も斬れるから」

ちはやに視線を投げる
 ちはや 「私を?」
 ちはや2「裏切り者には死の制裁を・・・・・って
      まぁ、あの子の替わりにリムさんに彼を斬らせる為が正解でしょうね」

刃をタオルで巻いて一応の安全を確保したチチウシをちはやに手渡す
 ちはや2「これは、あなたが持っていて いつか役に立つ時が来るわ」
 ちはや 「・・・・・本当に役に立つの????」

?マークを3本ほど飛ばしながらチチウシを受け取るちはや

 Lim 「あのー・・・・」

風呂場のドアを開けてLimが顔を出す
 ちはや 「あ、リムさん着替えはそこに置いてあるから」

脱衣所の脇に置かれた服に視線を投げるちはや
視線の先を確認するLim
 Lim 「ちはやさん ありがとう」

しばらくして着替えの終わったLimが風呂場から現れる(BGM:見た目はお嬢様)

 Lim 「あのー・・・・この服・・・・」

過剰感のあるフリルが付いた淡いピンクのワンピースを着ているLim

 ちはや2「これ・・・登山部のクリスマスパーティに着た服・・・」
 ちはや 「私には・・もうこの服を着る資格は無いから リムさんにあげる」
 ちはや2「去年のクリスマスは仮装パーティだったよね」
 ちはや 「違うわ!!」
 ちはや2「確か部長に大笑いされたんだよね ”少女趣味は似合わない”って
      あの時、あなた真っ赤な顔してたんだっけ?」
 ちはや 「自分の事を他人事の様に言わないで!!」

優しい表情でLimに語りかけるちはや2
 ちはや2「リムさん、その服はね 私なりに女の子らしい服をって選んだの
      多少センスが悪いのは我慢して着てあげてね」
 Lim 「この服・・・ちはやさんの大切な服じゃ?・・・・」
 ちはや 「袖を通す勇気も無いのに・・・・後生大事に持っていた服
      大好きな人と一緒に生きていける人しか着てはいけない服
      ・・・・大好きな人のために・・・・着たかった服・・・」

すーっとちはや2の色が抜け落ちてゆく(BGM:雪のように白く)

 Lim 「ちはやさん!?・・・・・・・」

ちはや2どんどん消えながら
 ちはや2「やっと・・・自分の気持ちを認める気になったのね
      わたしはあなた 未だに捨てきれないでいるあなた自身」

自分の胸に手を当てて 目を閉じているちはや
ちはや2の姿が完全に消えるとゆっくりと目を開ける

ぱっと背中に白い翼を開く その数4枚

 ちはや 「私はリムさんが羨ましい・・・」(4枚羽根の天使が言う台詞か?)
 Lim 「ちはやさん・・・」
 ちはや 「今は素直にそう言えます
      リムさん早く行かないとぉ 外で彼が待ってるよ」
 Lim 「え?」

ポンとLimの背中を押すちはや
 Lim 「ちはやさん なんか二重人格みたい・・・・」

Limアパートの外に退場 部屋に一人残るちはや
 ちはや 「二重人格って・・・あなたに言われたくは無いわ」

アパート ちはやの部屋の前:私
扉を開けてフリフリピンクのLimがゲーム機の紙袋を下げて登場 (BGM:見た目はお嬢様)

しばらく じーっとLimを眺めてる私

 Lim 「あ・・あの・・トライ?」

そして、天を見上げ・・・・・クルリとLimに背を向ける

 私   「帰る」

そう言ってLimに背を向けたまま歩き出す 固まるLim
 Lim 「あ゛・・・」

私の進路を塞ぐ様に姿を現すちはや
 ちはや 「ちょっと どう言うつもり?」

自分の服の裾を広げる私
 私   「この服じゃ (Limと)釣り合わないから着替えてくる」

 Lim 「えっ?」
 ちはや 「あっ・・・」

ポッと頬を染めるLimとちはや(なんでちはやまで・・・・・・・)
 私   「Lim一人を晒し者にする訳にはいかない」

 ちはや 「・・・・それって・・・」

ちはやの形相が怒りに満ちてくる
慌てて、私の腕に自分の腕を絡めるLim

 Lim 「私はこのままで平気よ ね、ね、可愛いでしょ ね」

必死にブリブリしてみせる・・・が、不慣れなのがありありと見える

 ちはや 「はぁ・・・・リムさんまで その服を恥ずかしいって思ってるのね・・・」

ため息混じりに両肩を落とすちはや
 Lim 「トライ この服はちーちゃんの好意なんだから・・・あの・・・その・・・」

更に追い討ちをかけるLim
 ちはや 「もういいわ・・・・二人とも行って・・・・はぁ」

Lim 私を引き連れて商店街の方へ退場

商店街:何処かの営業らしき青装束の忍者が通行人を呼び止めている(BGM:潮騒の午後)

 青忍者  「ヘイユー この子知らないデスカー?」

よく見ると青忍者は金髪碧眼の南蛮人(もしかして差別用語?)で
通行人を呼び止めては、何やら似顔絵らしきものを見せている

そこに通りかかる女子生徒の集団

 青忍者  「ヘイ! そこのガール達」(日本語も英語もなんか変)

 女子生徒A「はい?」
 青忍者  「この子知りまセンカ? ここでハグレテしまって
       とってもとっても困ってイマース」

一団に似顔絵を見せる青忍者・・・・そこに描かれている得体の知れないモノ

 女子生徒A「・・・・これって生き物?」
 女子生徒B「ワカメのお化けかしら???」
 女子生徒C「これ 尻尾?」

 青忍者  「ノー! それは髪の毛デース 後ろで束ねてマース」

 女子生徒A「ぐむむむむむ」

謎の象形文字の解読に悩む女子生徒一団

オン! 何処かで犬が吠える

 青忍者  「Oh! パピー 静かにするデス」

オン! 街路樹の陰に居た犬がもう一度吠える そして犬の吠えた先には
フリフリピンクの物体が・・・じわりじわりと接近してくる(BGM:見た目はお嬢様)

グルルルルルゥ 警戒して唸る犬

フリフリピンクを見て目を丸くする女子生徒A
 女子生徒A「あなた・・・葛木さん?」

名前を呼ばれて進行方向を変えるフリフリピンク
 女子生徒A「やっぱり葛木さんだ えっと後ろに居るの城島君?」
 女子生徒B「えーっ ふたり付き合ってるの?」
 女子生徒C「なんか可愛い服着ちゃってー デート?」

 Lim  「あ・・・あの・・・えっと」
 女子生徒A「雰囲気違うからわからなかったよー」
 女子生徒B「城島君って、里村さんとだって思ってたのに」

戸惑うLimをお構い無しに捲し立てる女子生徒一団

 青忍者  「へ、ヘイ ガール達・・・・」

完全に無視されている青忍者

 女子生徒A「あの子達とはもう切れたんだ」

女子生徒Aの言葉に動揺を示すLim(BGM:海鳴り)
 Lim  「あの子・・・」

 女子生徒C「そうよねー、去年あの子達が里村さんに手を出した時の
       城島君って怖かったもんねー」
 女子生徒B「ねぇ、ふたりが付き合ってるのってあの時から?」

ひととーり捲し立てた後立ち去る一団
 女子生徒A「じゃ、デートの邪魔しちゃ悪いからまたねー」

取り残される 私と青忍者 少し離れて俯いているLim

 Lim  「・・・城島・・君・・・・城島・・・・じょう・・・」

Limの足元にポタ・・ポタ・・と染みが落ちる

青忍者は私に似顔絵(らしきもの)を差し出そうとして
 青忍者  「ヘイ ユー この子知りまセ・・・・・」

私の顔を見るなり態度を変える
 青忍者  「ユーは!!」

バックステップで間合いをあけ 背中の忍者刀に手をかける(BGM:走る!少女たち)
チョンチョンと青忍者の後ろを指差す私
青忍者が視線だけを動かすと・・・・そこに人だかりが出来はじめていた

 青忍者  「ノー!」(黒髪の少女程のステルス性能は無い様で・・・・)

自分が人目を引いている事にやっと気が付く青忍者 ンーと少し思案した後 ポンと手を打ち

 青忍者  「ヘイ! パピー」

街路樹の陰に居る犬を呼ぶ 犬は慣れた様子で皮製のカバンをくわえて来る
青忍者はカバンを開け 中の物を幾つか懐に仕舞い込み

カバンの蓋を開いたまま 人だかりの方に向けクロスを敷く・・・そして
営業スマイルを振りまき 人だかりに向かって、なにやら英語で口上を述べ始める・・・・が

聞き取れたのは最初の”レディス エン ジェントルマン”と最後の"マジックショー"ぐらいで
途中の口上は、とてもじゃないが普通の日本人には聞き取れるものではない

 青忍者  「Go! パピー」

青忍者が号令をかけて前方を指差すと 犬がボムっという音とも煙に包まれ姿を消す
その後空中からクルクルと回転しながら落下し スタっと着地する

人だかりから 「おぉ!」と歓声が上がり 時折クロスの掛かったカバンに
小銭が投げ込まれる

 青忍者  「ヘイ! ユー!」

私に向かって手招きしながら声をかける
そして、何処からともなく大根を取り出し(不意に出現した大根にまた歓声が上がる)
背中の忍者刀を抜きざまに一閃 真っ二つになる大根

忍者刀が本物である事を示した青忍者は私に忍者刀を手を渡す
そして、今渡した忍者刀で自分を斬れと言わんばかりに頭を指差す

 青忍者  「斬るデース」(あるいは「Kill Death」だったのかも・・・)

指示されるまま、青忍者に切りつける私 ボムっと言う音と煙と共に姿を消す青忍者
私が振り下ろした忍者刀は、青忍者の替りに出現した丸太に食い込んでいる

「オォ!!」と人だかりから一段の歓声が上がる

私の頭上に出現した青忍者は、私に渡したモノとは別の忍者刀で斬り付ける
私は長巻を振り出して、青忍者の攻撃を受け止める

 青忍者  「シット!!」

一瞬悔しそうな表情を見せる青忍者 だがすぐに元の営業スマイルに戻る

私の振り出した見慣れない武器に、また大きな歓声が上がる
(長巻:大太刀の柄を薙刀の柄の様に伸ばした 日本固有の長柄武器
 集団戦闘においては無類の強さを誇るが合戦その物が無くなった
 太平の江戸時代に多くの長巻が日本刀に打ち直されて姿を消した)

長巻の刃を上に、顔の横で水平にして構える私
私に向かって飛び込む青忍者

息を呑む観客達

大きく弧を描く長巻の切っ先が空中の青忍者を捕らえる
ボムっ! 煙と共に青忍者は消え同時に現れる先ほどの忍者刀が食い込んだままの丸太

              斬!

私の長巻は人の胴ほどもある丸太を真っ二つにする

マジックと剣劇のパフォーマンスに「オォォォ!!」と一段の歓声が上がる

観客から見てカバンの後ろに座っている犬がお辞儀をすると
それを合図に観客からカバンに向かって小銭が投げ込まれる

小銭の嵐が収まると 犬は器用にカバンを閉じ観客に向けてお辞儀をした後
小銭で重くなったカバンを咥えてトコトコと歩いていく

そして、犬の歩いて行く先に出現する青忍者
私は、長巻を掲げて誇示した後 フッと長巻を消してみせる

青忍者と私による終演のパフォーマンスに観客からまた歓声が上がる

ボム!! 大き目の爆発音と煙が青忍者の居る場所で立ち上る
観客がこれに気を取られている隙に私は俯いてるLimの手を引いて路地裏へ退避する
煙が消えた時にはお約束の様に居なくなっている青忍者と犬

Limの手を引いている私の手に冷たい物が落ちる(BGM:A Tair)

 私    「Lim?」

私に手を引かれながらポロポロと泪を落とすLim

 Lim  「私・・・里村さんに・・・謝らないと・・・・」

意味不明な事を口走る

 Lim  「城島君・・・私・・・里村さんに・・・謝らないと・・・・」

俯いてるLimの顎に指を添えて上を向かせる 瞳に泪を溜めているLimの顔が露になる

 Lim  「私・・・独りになるのが怖かった  だから・・・里村さん・・・・
       私が一番よく知っている筈なのに・・・どんなに辛いのか知ってる筈なのに」

錯乱気味のLimが泣きじゃくる

 私    「Lim」

私の呼びかけに反応は無い

 私    「刹那」

本名を呼ばれて ピクッと痙攣するLim

 Lim  「嫌・・・その名前で呼ばないで」
 私    「茜に何を謝る?」
 Lim  「城島君・・・私・・・あなたが・・・だから・・・里村さんに・・・」

 私    「刹那さん」
 Lim  「嫌ぁ!」

私の手を振り解くLim 
 Lim  「嫌、いゃ いやぁ!」

今度は両手で私の手を抱え込んで自分の胸に押し付ける
 Lim  「ぃゃ ぃゃ・・・ぃゃぁ・・・・」

一連のLimの仕草は背反する何かに耐えている様にも見える(BGM:偽りのテンペスト)
 Lim  「城島君、城島君、城島君、城島君」

私の名を連呼する(詩子の物語:贄 で私が"南"を名乗ったのは十分承知ですはい)
 Lim  「城島君 私を刹那って呼んで」

 私    「刹那さん」
名前を呼ばれた瞬間 反射的に私の手を離そうとするが、すぐによりしっかりと握り直す

 Lim  「もっと呼んで」
 私    「刹那さん 刹那さん 刹那さん 刹那さん 刹那さん」

本名で呼ばれる事は、余程の精神的負担なのか 次第にLimの息遣いが荒くなり
顔も上気して、脂汗が滲み出てくる(ガマの油状態とでも認識してください)

ついに、Limの両手から力が抜け落ち 倒れ掛かる様に私に身体を預ける

 Lim  「城島くん・・・」

Limの声が少し鼻にかかっている
 Lim  「私・・・里村さんに・・・謝らないと・・・・」

先程の意味不明な台詞を繰り返す
 Lim  「私が・・こんなじゃ・・・里村さんに・・・・」
 私    「Lim」

私の呼びかけに返事はせずにただ首を横に振る(BGM:遠いまなざし)
 私    「葛木刹那」
 刹那   「はい・・・」

最後の力を振り絞って短く返事をした後 刹那は静かに目を閉じる
顔を上げ上空の一点を見据える私 そこに4枚羽根の人影がある様にも見える
 私    「城島・・・・城島司・・・か・・・」

そう呟いて安らかな寝顔の刹那をそっと抱き上げる

神代道場前:路地を歩いてくる青忍者と犬(BGM:日々のいとまに)
青忍者は小銭の詰まったカバンをチャリチャリ鳴らしながら
犬に何やら英語で話しかけている どうやらさっきの大道芸の成功を喜んでいるらしい

そして、神代道場の引き戸を開ける
 青忍者  「ヘイ アイム バック」
 
神代道場:アニスレイザ ちはや兄 そして、布団に寝かされている黒髪の少女(BGM:雨)
入り口に青忍者と犬
黒髪の少女は時折苦しげに唸り声を上げる

 青忍者  「Oh!・・・・」

青忍者は商店街に何をしに行ったのかを思い出した様で、懐から似顔絵を取り出す
 青忍者  「ガッデム!」

踵を返して商店街戻ろうとする・・・・が
道場の引き戸が青忍者の目の前でピシャンと閉まる
後ろではアニスレイザが首を横に振っている

夜半 私の家 居間:ソファーに座ったまま眠っている刹那(BGM:見た目はお嬢様)
刹那の服をマジマジと見ながら、服のフリルを弄っているアカネ

刹那の目が覚める(刹那の起床時間は深夜です)
 刹那  「あ・・・城島君は何処?」

刹那の言動にギョッとするアカネ
 アカネ 「・・・城島って・・・リムさん大丈夫?」
 刹那  「大丈夫 それから私の事は刹那って呼んで」

再びギョッとするアカネ
 アカネ 「刹那って・・・ほんとに大丈夫?」
 刹那  「私は里村さんに謝らないといけないから」
 アカネ 「リ・・・えっと刹那さん 言ってる事が判らないよ」

アカネに"刹那"と呼ばれて一瞬嫌な顔をする
 刹那  「私は大切な人を名前で呼べないし、大切な人に名前で呼ばせない
      そんな可哀想な女だから、城島君は同情してくれた」

 アカネ 「・・・私はそんな風には思ってない、先輩だって
      ううん、詩子だって茜だってみんな同じだよ」
 刹那  「でも・・・私はそう思ってる・・・事実今までそうだった
      だからね、私はみんなと同じ所に立たないと
      私には城島君の資格が無いの」

 アカネ 「刹那さん・・・」

また"刹那"と呼ばれて嫌な顔をする
 刹那  「城島君だけかと思ってたのに アカネちゃんに呼ばれても堪えるわ」
 アカネ 「なら、今まで通り リムさんで・・・」
 刹那  「それは、ダメ アカネちゃんは私の大切な人なんだから」

 アカネ 「ふぇぇ・・・また 言ってる事が判らないよぉ」
 刹那  「私を”刹那”と呼んでくれた 私の人達は・・・・
      みんな私を捨てた・・・あの人も父さんも母さんも・・・
      私の大切な人でさえ 私を捨てた・・・だから・・・
      私を”刹那”と呼ぶ人は・・・・きっと私を捨てる・・・」

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

遠い目をする刹那(BGM:追想)
 刹那  「今までそう思ってた でも・・私はそろそろ刹那に戻らないと
      私の目指す刹那に戻らないとダメなんだと思う
      だから、城島君にもアカネちゃんにも里村さんにも詩子にも
      私の大切な人から”刹那”と呼んで貰いたい」

キッチンよりホットミルクを持って私登場
 私   「気が付いたんだ ほい」

ホットミルクを渡そうとするが、刹那は何かを訴えるような瞳で見つめるだけで
ホットミルクを受け取ろうとしない

 私   「刹那」
 刹那  「城島君ありがとう」

名前を呼ばれてはじめてホットミルクを受け取り 両手で抱えて飲み始める

 刹那  「温かい・・・」
 私   「私の事を“城島”と呼ぶのは止めてくれないか?」

刹那はホットミルクのコップをソファーの前のテーブルに置く
 刹那  「あら “司”って呼ぶ方がいいの?」
 私   「それも断る 今まで通り“トライ”と呼んでくれないか?」

(BGM:永遠)

 刹那  「私に名前で呼ばせてはくれないの?」
 私   「“城島司”は茜の幼馴染の名前だ」
 刹那  「え?」

自嘲気味に笑う私
 私   「私の名前じゃない」
 声   「でもそれが 今のあなたの名前」

声と共に姿を現すちはや
 私   「礼儀が無いのはいったいどっちなんだか」
 ちはや 「ここは女の子の部屋では無いわ」

 刹那  「ちはやさん 今の話・・・あの・・名前の・・・」

あくまでも私を名前で呼ぶ事にこだわる刹那
無言で成り行きを見守っているアカネ 心なしか唇の端を噛んでいる様にも見える

 私   「今となっては誰も覚えてはいない名前さ」
 ちはや 「そうね、あなたがそれでいいと言うのなら」
 私   「ああ、それで構わない」
 ちはや 「本当にそうかしら?」
 私   「今となっては ただの文字の羅列に過ぎない」

 刹那  「違う! 私は刹那 葛木刹那!!  あなたにそう呼んで貰いたい
      名前は意味の無い文字の羅列なんかじゃない」
 ちはや 「でしょうね 少なくとも意味はありそうよ 蛍人」

蛍人と呼ばれて顔を背ける私(BGM:遠いまなざし)
 ちはや 「“ほたる”の“ひと”と書いて蛍人(けいと)
      苗字は飛鳥 飛鳥時代の・・・“とぶ”“とり”の飛鳥(あすか)」

 刹那  「飛鳥・・・蛍人・・・」
 私   「人前で使うことすら許されないその名前に・・・・」

刹那は、ぱっと私に抱きついて私の身体をソファーの上に引き落とす
そして自分の口で私の口を塞ぐ

アカネは唇の端を噛むのを止めて、一度目を伏せ そして少しおどけて
 アカネ 「ちはやさん これって結構目の毒じゃない?」
 ちはや 「そ、そうね ・・・・・でも、なんか手慣れてるわね」
 アカネ 「あら、この2人 これ位の事はしょっちゅうやってるわよ」
 ちはや 「え? そうなの???? ええっ?」
 アカネ 「問題なのはあと一歩を中々踏み出さないことかしら」

まじまじと鑑賞モードに入るアカネとちはや
 アカネ 「ちはやさん ごめん 羽根の事先輩に言い出せなかった
      ほら、リムさんがちょっと大変だったから」
 ちはや 「別にいいわ さっきも大丈夫だって言ったでしょ」

自分の肩に手を置いて背中を少し気にするちはや

唇を離す刹那
 刹那  「ゴメン 蛍人」
 私   「好きにしろ」
 刹那  「うん 好きにする」

傍目には余りにもぶっきらぼうに聞こえる会話
それでも刹那は満足した様で静かに私の胸に顔を埋める(BGM:見た目はお嬢様)

 刹那  「今日はなんか疲れたなぁ・・・・け・い・と」

そのまま、私に身体を預ける

 刹那  「・・・・誘ってるつもりなんだけど」
 私   「よく言う お互いまだダメな筈だろ?」
 刹那  「私は蛍人とだったら大丈夫だとおもう・・・・」

私はピンクのワンピースの上から 刹那の胸の膨らみにそっと手を添える
刹那の背筋にピクンと反応が有った後 刹那は反射的に私の手を払いのけようとする
刹那の全身が硬直して辛うじて払いのけようとする自分の手を押さえ込む

乾いた笑いで苦笑する刹那
 刹那  「あははは・・・ほんと まだダメだ・・・・
      トライとだったら 大丈夫だと思ってたの・・に・・」

今自分が口走った台詞に動揺する(BGM:A Tair)
 刹那  「・・・・・私・・・まだ“トライ”って呼びたがってる」

私は刹那の胸に手を添えたまま抱き寄せ、唇を合わせる
身体と身体に挟まれて、胸を押さえつけている私の手に対して
刹那の背筋に、ビクン、ビクンと拒絶反応を示す痙攣が走る
見開かれた刹那の瞳に泪が溢れてくる

しばらくすると、痙攣の間隔が次第に長くなり 刹那の瞳が虚ろになってくる
そして、痙攣が治まって・・・ぐったりとした刹那から 私は唇を離す

 刹那  「・・・・トライ・・・ひど・・ぃ・・・・」

無意識に口走った自分の台詞に刹那は目を伏せる

ポタっ・・・何か温かいものが刹那の手の甲に落ちる
ポタっ・・・また一つ

刹那が手を上げると手の甲に二つの血の雫
慌ててソファーから身体を起こして自分の胸に添えられていない方の私の手をとると
手のひらに爪が食い込んでそこから出血している

傷口を確認する為に手の平を上にして開かせる
手のひらに血溜りが広がっていく

 刹那  「どうしてこんな事・・・」

顔を背けて答えない私 刹那はちはやとアカネの方を見る
 アカネ 「先輩だってあんな真似したら・・・・きっとツライ」
 ちはや 「彼は刹那さんの気持ちに応えたいのね」

        「先輩だってきっとツライ」

背けている私の顔 胸にまだ残っている手の感触 手のひらの血溜り アカネの言葉
色々なモノが、思考能力の無くなりかけている刹那の脳裏に交錯する

 刹那  「パンは我が肉・・・・ワインは我が血・・・・」

刹那は私の手を両手で包み・・・掌の血溜りに自分の口を近づける
ぎょっとした私は慌てて、自分の手を引き抜く

一瞬、物欲しそうな表情になり耳まで真っ赤になった刹那は、何やらブツブツと自分に
言い聞かせている そして・・・テーブルに置いてあるホットミルクの残りを一気に飲み干した

 刹那  「・・・・わたしは・・・トライと・・・ひとつに・・・」

また、意味不明なことを口走る

 ちはや 「神聖なるモノの肉を食べ 神聖なるモノの血を飲む事で
      神聖なるモノと一体化する・・・・思想的には珍しくはないけど」

 刹那  「そう・・・私はトライとひとつ・・・・蛍人をトライと呼びたい私は
      どこかまだ冷めていて蛍人を嫌うの
      蛍人もいつかきっと私を捨てるって言うの・・・・だから トライの血を」

私は首筋にまだうっすらと残っている刹那の歯形を気にする
 ちはや 「で、蛍人はこんな状態のせっちゃんをどうするつもり?」
 私   「どうしていいか判らないから困っている」

熱を帯びた潤んだ瞳で私を見上げる刹那
 ちはや 「せっちゃんを安心させてあげたら?
      蛍人を信じたい自分、蛍人に捨てられると心配してる自分
      今まで通りの一歩引いた付き合いをしたがってる自分が居て
      どれがせっちゃんの本心かって葛藤してるんだからね」
 私   「どうやって?」
 ちはや 「自分で考えなさい」
 私   「判らないから聞いてる」

 ちはや 「なら、せっちゃんが望む通りに貴方の血を飲ませてあげたら?」
 私   「流石にそれは・・・・」

私は掌の血溜りを見る そして・・・テーブルのテッシュで血溜りを拭い
刹那の頬に手を添える 傷口から新たに滲み出た血が刹那の頬に2条の跡を残す

私はゆっくりと刹那の頬から手を離す

 ちはや 「アカネちゃんは彼の手当てをお願い」
 アカネ 「あ、はい」

アカネはTV台から救急箱を取り出して私の手のひらの治療をはじめる

 少し恍惚とした表情を浮かべている刹那
 肌は真っ赤から少し落ち着いて、上気した桜色に染まっている

刹那は頬に描かれた深紅のラインに指でなぞる
刹那の体温で乾いたそのラインは指に触れられてハラハラと落ちる

浮かされた様に私に手を伸ばす刹那 刹那の手を取ろうとする私
 アカネ 「先輩まだ動いちゃダメ」

傷口の消毒を終わったアカネが私の傷口に絆創膏を張る
 アカネ 「はい 終了」
 私   「すまないな アカネ」
 アカネ 「先輩 こんな無茶はもうダメだよ」
 私   「気をつけるよ」

私は刹那の手を取る 火照った感触が心地よく暖かい(BGM:A Tair)
刹那は私の手を自分の胸に添えさせ、その上に自分の両手を被せて静に目を閉じる

 刹那  「Lim きっと・・・私は大丈夫・・・だから」

刹那の背筋にピクンとわずかに拒絶反応が走る

 刹那  「蛍人はトライと同じ人・・・だから」

刹那はゆっくりと私の手を下ろしていく

 刹那  「大丈夫 トライは・・・・」

ちょっと居心地が悪そうにしているちはやとアカネ

 アカネ 「さてぇ、邪魔者はそろそろ退散しましょうか?」
 ちはや 「そうですね、おいとましましょう」
 アカネ 「あのー・・・さっきから気になっていたんだけど
      ちはやさんって どっちのちはやさん?」

返事の代わりに4枚の白い翼を広げるちはや 4枚の羽根の内 1枚は力なく萎れている
無事な1組の羽根で一度羽ばたいて宙に浮き そして姿を消す

 ちはや 『そう 私は この人達を守りたい 私を私として認めてくれるこの人達を・・・』
 アカネ 「ねぇ、どーゆー事?」

アカネもちはやを追って姿を消す

暗転


中天に月 天駆る4枚羽根のちはや(BGM:偽りのテンペスト 翼は4枚とも完全な状態)
ちはやめがけて飛ぶ雷を纏ったクナイ
ちはやはそのクナイを光の鉾で叩き落す

 ちはや 「やっと出たわね」

地上に雷光が走る その明かりに浮かび上がる青忍者

 青忍者 「プラズマ・ブレイド!!」

青忍者の放つクナイに向けて光弾を撃ち返すちはや
クナイと光弾が交差し一瞬の閃光の後 再び闇のしじまが訪れる

闇に乗じて、犬、続いて青忍者がちはやを頭上から襲う
空中で一匹と一人をやり過ごしたちはやは落下する青忍者を追う

そのちはやの背中を・・・・・

 声    「カムイムツベ!!」

更に上空から黒髪の少女が襲う
羽根を一本折られて、キリモミしながら落下するちはや
地表ぎりぎりで、残り3枚の翼でバランスを立て直しなんとか着地する
(ちはやの翼は1枚肩からだらんと垂れ下がっています)

犬と青忍者と黒髪の少女、3方から攻められるちはや
ちはやに向かって飛び掛る犬 (SE:ガラスの割れる音)
犬は何かにぶつかり キャウンと情けない声を上げる

放射状に空中に浮かぶ3枚の鏡 その中心を貫く腕(BGM:A Tair)
その腕を振り上げると、3枚の鏡の後ろに同じく
放射状の鏡が3枚現れ、前の3枚と後ろの3枚がそれぞれ逆方向に回転を始める(二重反転ね)
腕が振り下ろされると、回転する6枚の鏡が黒髪の少女めがけて放たれる

 黒髪の少女「カムイリムセ」

黒髪の少女は掛け声と共に何処からとも無く外套を取り出し
その外套で自分に迫り来る鏡を払いのける

前列の3枚は外套で打ち返され・・・・・・

         ガチャァァン!!

後列の3枚の鏡に激突 互いにぶつかりあった6枚の鏡は
大きな音をたて、黒髪の少女の目の前で砕け散った

 声    「まずは・・・詩子の分・・・・」

抑揚の無い声を発しながら暗がりの中うっすらと姿を現すアカネ(アカネちゃん怖いって)
            ・
            ・
            ・
            ・
            ・
            ・
互いにぶつかりあった6枚の鏡は、黒髪の少女の目の前で砕け散った
まるで・・・対人地雷が爆発したかのように

砕けて飛散する鏡の破片を全身に浴びる黒髪の少女
破片は外套を衣装を突き貫け 少女の白い民族衣装が深紅に染まる

 青忍者  「ノォォォォォ!!!」

突き刺さる破片の勢いに押し倒される黒髪の少女
少女に駆け寄ろうとする青忍者

 アカネ  「つぎは・・・ちはやさんの分・・・・」

アカネの冷たい殺気に反応して身構える青忍者
突進してくるアカネに忍者刀を振りぬく
忍者刀は手ごたえ無くアカネの胴を真っ二つにする・・・・

アカネの姿が陽炎の様にゆらゆらと消える

 青忍者  「シット!」

チラッと倒れている黒髪の少女を一瞬気にして
青忍者は振り向きざまに一閃

        パリン

空中で切り裂かれる鏡 その鏡の後ろにアカネ
更に一歩踏み込みアカネに向けて忍者刀を切り上げる

ニッ・・・不敵に微笑むアカネ その瞳に意思の光は無い

忍者刀がアカネの喉元で止まる

 青忍者  「ゴフっ!!」

青忍者を背中から胸に向けて、鉾で串刺しにしたちはや
鉾を握るちはやの手に生暖かいモノが滴り落ちる
 ちはや  「・・・何度目でも・・・嫌な感触・・・・」

ちはやはアカネを非難しながら青忍者から鉾を引き抜く
 ちはや  「よくも、私にこんな真似させてくれたわね」
 アカネ  「ちはやさんなら・・・きっと助けてくれるって・・・信じていたよ」

青忍者の傷口から噴出した返り血を浴びて、アカネの瞳に意思の光が戻る
(BGM:遠いまなざし)

 ちはや  「アカネちゃん・・・あなた・・・」

少し顔を伏せながらおどけてみせる
 アカネ  「これで私も悪霊の仲間入り」

アカネの腕の周りをクルクルと鏡が回る
 アカネ  「私は先輩が欲しかった・・・先輩を連れて行きたかった・・・でも
       でも・・・先輩はとても儚い と思う だから私は・・・・
       まだ私は もう少し私は強くなれる・・・」

コツン つま先で青忍者を蹴るアカネ 蹴られた青忍者は唸り声を上げる
 青忍者  「・・グッ・・・」

そしてアカネは天を仰ぎ
 アカネ  「どうせ、高みの見物してるんでしょ あなたの部下達は死にかけてるわよ」

アカネの呼びかけに応じて姿を現すアニスレイザ
 アニスレイザ「君達にすら退けられてしまうとは まったく持って困ったものだ」

アニスレイザはブツブツと愚痴を零しながら青忍者と黒髪の少女に応急(恒久?)処置を施す
アカネの後ろから胸に手を回し そっとアカネを抱き寄せるちはや

 ちはや   「アニスレイザ様 ひとつお伺いしたいことがあります」

アニスレイザは黒髪の少女から鏡の破片を抜き取りながら
 アニスレイザ「なんだ?」
 ちはや   「なぜ この子をここまで追い詰める様な事をなさるのですか?」

アカネを抱くちはやの腕に力が入る
 ちはや   「この子はもっと平穏に日々を暮らしていけた筈です
        なぜこの子が剣を選ばなければならないのですか?」

 アニスレイザ「その理由は彼女自身に聞くがいい」

ちはやは一度アカネに視線を向けて、再びアニスレイザに視線を戻す
 ちはや   「アニスレイザ様でしたら、彼は既に・・いえ一瞬で処分出来た筈です
        なぜイタズラにこの子の不安を煽るような事をなさるのですか?」

 アニスレイザ「言うな 僕にも僕なりの事情がある」
 ちはや   「その事情を聞いています」

黒髪の少女から鏡の破片を抜き終わったアニスレイザが立ち上がる(BGM:永遠)
 アニスレイザ「君は彼の事をどう思っている? その子は彼の事をどう思っている?」

アニスレイザの問いに機械的に答えるアカネ
 アカネ   「先輩は私の一番大切な人です」
 アニスレイザ「だからどんな事をしてでも たとえ自らが修羅の道へ堕ちても彼を守りたい」
 アカネ   「・・・はい」
(ここのアカネの芝居はなんとなく違和感が有る程度に抑える事
 自我喪失があからさまになる様な芝居は避ける事       )

アニスレイザに返答してアカネは機械的に臨戦態勢に入ろうとする
それをアカネを抱きしめる事で抑えるちはや
 アニスレイザ「君達に想われている事に彼自身は気が付いているのかな?」

次に青忍者の傷口を塞ぎにかかるアニスレイザ
 アニスレイザ「彼には敵が必要だよ
        平穏な日々の中で彼は自分に向けられた暖かな想いに永遠に気づかない」

 ちはや   「いずれは処分をする彼に・・・なぜ?」
 アニスレイザ「君は彼を守りたいと言った
        なら君に、彼と彼の周囲の人間の想いの有様を見てきて欲しい」

アニスレイザは処置の終わった黒髪の少女と青忍者を両脇に抱えて立ち上がる
 ちはや   「アニスレイザ様! 私に!なぜ!!」
 アニスレイザ「そうだな・・・その"なぜ"には君が納得できるだけの答えは無い
        彼がいずれは処分される身なのだとしても、利用価値が有る間はどうだろう?」
 ちはや   「アニスレイザ様!」
 アニスレイザ「僕にも立場と言うものが有る その事だけは理解しておいて欲しい
        こんな不毛な戦いでも点数稼ぎの為にはやらなればならない」

2人を両脇に抱えたアニスレイザがふっと浮かび上がる
 アニスレイザ「無能な僕が失敗に失敗を重ねる分には何の問題も無い
        ただ、僕の評価が下がるだけの話だ
        でも何も行動を起こしていないと言うのは問題だと言う事さ」

上空に昇りながら姿を消すアニスレイザ
アニスレイザが消えるとアカネは止まっていた時計の針が動き出す様に(BGM:無邪気に笑顔)
 アカネ  「ちはやさん羽根の傷先輩に治して貰いましょ」
 ちはや  「アカネちゃん?」
 アカネ  「はい?」

アカネの行動に多少戸惑うちはや
 ちはや  「あ・・・えっと・・・彼って天使の怪我を治せるの?」
 アカネ  「多分・・・」
 ちはや  「多分って頼りないのね」
 アカネ  「ちはやさんが、先輩に治して欲しいって思ってるなら、多分・・・」
 ちはや  「願えば叶う・・・そういう事・・・
       でも大丈夫よ これぐらいなら自分で治せるわ」

白き翼をたたみ込むちはや そのちはやの背中を押すアカネ
 アカネ  「そんな事言わないで、私も先輩に会いたいんだし」
 ちはや  「私の事は彼に会う口実?」
 アカネ  「うん! 私先に行って先輩に話つけてくるから・・・・あれ?」

ちはやの背中を押していたアカネが立ち止まる
 アカネ  「私・・・なんで先輩に会いたいんだったけ???
       なんで ちはやさんが羽根に怪我したんだっけ???」

アカネは頭に?マークを飛ばしながら私の家の方へちはやを連れて退場
暗転

 〜 それぞれの覚悟 〜

私の家 居間:キスをした体勢の裸の刹那と私 (BGM:ゆらめくひかり)
床には脱ぎ散らかされたピンクのワンピースや下着が散乱している

しばらくはキスをしている体制のまま
刹那の方からゆっくり唇を離す

 刹那  「ごめんなさい・・・私・・・おかしかったでしょ?」
 私   「正直言って驚いた」

ちらっちらっと自分の胸を気にしている刹那
 刹那  「最近は少なくなったけど 時々ああいう発作が起きるの」
 私   「知ってる ただ今回はちょっと・・・困った」

手に残っている感触を気にしている私
コツン、私の胸にオデコを当てて下を向く刹那
 刹那  「それでも・・・いいですか?」
 私   「何が?」
 刹那  「私はまだ蛍人から返事を貰っていません」
 私   「交際を申し込んだのは私の方だった筈だが・・・・」

 刹那  「お芝居じゃなく
      私は本気です こんな私でも貰ってくれますか?」

私は感触が気になる手を収まりのいい場所に添える (BGM:輝く季節へ)

 刹那  「あ・・・」

痙攣を起こすことも無く顔を上げる刹那

 私   「刹那が居ないとこの手の置き場に困る」
 刹那  「・・・・・最低な返事・・・」
 私   「最低か?」
 刹那  「これよりダメな返事だったら 不合格」
 私   「そうか」

私の手にそっと自分の手を添える刹那

高校 1年(アカネ)の教室:自分の席に座っているアカネ クラスメイトのエキストラ多数
(BGM:日々のいとまに)

アカネの右腕に小さな鏡が張り付いている 鏡に話しかけるアカネ

 アカネ「昨日、あれから何があったの?」
 鏡  『何も覚えていないのかい?』
 アカネ「昨日・・・商店街で詩子と別れた後・・・・」

商店街のはずれ 昨日詩子と別れた後 屋根の無いベンチがある公園: アカネ(BGM:雨)

アカネが宙に向かって話しかける(あっぶないなぁ)

 アカネ「みんな 出てきて」

 『茜の方からボク達を呼び出すなんて』
 『どーゆー風の吹き回しやら』
 『ほんとにほんとに』

 アカネ「私にみんなの力を貸して欲しい」

ぐっと唇を噛みしめるアカネ
 アカネ「私に出来る事なら何でもするから、力を貸して!」

 『別に・・・』
 『茜が必要なら いつでもボク達を呼び出せばいい』
 『そうそう 今みたいに』

 アカネ「え?・・・あ・・・私は何をすれば?」

 『ボク達は茜の不幸は望まない』
 『それがどんなに小さな茜だったとしても』
 『今までも・・・これからも・・・・』
 『ずっと茜がボク達を拒んでいただけ』

 『ボク達は茜が欲しいだけ』
 『他に何もいらない』

 アカネ「・・・私は・・・茜じゃない・・・」

 『最後のボクと約束した』
 『約束の日まで茜に手は出さない』
 『それにボク達には君も茜だよ』

 『何もいらない・・・・・・・・・でも』
 『ボク達はいつでも力を貸す・・・でも』

 『人を傷つけるには覚悟がいる』
 『人を傷つけないで済むならその方がいい』

 アカネ「私はみんなを守りたい、先輩を守りたい」

 『できれば茜の手を血に染めたくない』

 アカネ「私は・・・せめて・・・先輩が愛した人達を守りたい」

公園で制服姿の女の子が宙に向かってブツブツ呟いている様は実に危うい

 アカネ「せめて 先輩を愛した人達を守りたい」

 『それが茜の幸せならボク達は構わない』
 『いつでもボク達を呼べはいい』

アカネの右腕の周りに3枚の鏡が放射状に現れ回り始める

 『でも、覚悟はすること』
 『それは修羅の道』
 『一度朱に染まったら もう戻れない』

3枚の鏡は小さくなりアカネの右腕に張り付く

再び 1年の教室:(BGM:日々のいとまに)

 アカネ「あの後・・・何が?」
 鏡  『思い出せないならその方がいい』
 アカネ「でも・・・血の味は覚えてる・・・目の前が真っ赤に・・・
     錆びた鉄の匂いが拡がって・・・・・それで・・・」
 鏡  『無理に思い出さない方がいい』
 アカネ「でも・・・」
 鏡  『まだ誰も死んでない』

ぐっと右手を握り締めるアカネ
 アカネ「私は先輩の役に立ってました?」
 鏡  『多分・・・』

刹那(Lim)の教室:すこし目つきがおかしい刹那(BGM:見た目はお嬢様)

コツン自分で自分の頭を小突くと刹那の目つきがいつもの状態に戻る
教室の入り口からちはや登場
見慣れない3年生の登場に、教室が若干ざわめく

 刹那  「ちはやさん?」

コトン 刹那の机の上に短刀を置く
ちはやの後ろにはもう一人ソバージュヘアの3年女子が2人の様子を見守っている

 刹那  「これはこのあいだの?」
 ちはや 「宝刀チチウシ 魔物を斬る刀」

常軌を逸したちはやの言葉に周囲の生徒が引く
 ちはや 「構えて見せて」

短刀を鞘から抜き刹那に手渡す
短刀を逆手に取って腰を落として構える刹那

 ちはや 「どぉ?」

ちはやは後ろにいるソバージュヘアの3年女子に声を掛ける

 3年女子「そうね、えっと刹那さん? でしたっけ?」

ちはやに向かって歩き出す3年女子
3年女子が歩いてくるのを見た刹那は慣れた手つきで短刀を鞘に収める

 3年女子「・・・・手馴れたものね  この子 神代のお弟子さん?」
 ちはや 「いいえ、この子はライバルのとこの師範代」
 3年女子「???・・・・え? ライバルって? この辺には神代道場しか無いじゃない」

 ちはや 「あら、町内会主催の剣道教室は結構あるのよ」
 3年女子「・・・・それは知ってるけど・・・・・
      総体優勝者まで居る神代道場のライバルが町の剣道教室?」

3年女子の言葉に少し表情を曇らせるちはや、しかしすぐにおどけてみせる

 ちはや 「総体優勝って言っても中学生よ 高校生は全然ダメ あはははは」
自分を指差しカラカラと乾いた笑いを振りまくちはや

 3年女子「全然ダメって、うちの高校に女子剣道部なんて無いじゃない・・・・」

コトン
刹那は2人の会話を遮る様に短刀を音を立てて机を置く
その音に我に返る(?)3年女子

 3年女子「あ、ごめんなさい 私は深山雪見 演劇部の部長をやっているわ
      ねぇ刹那さん 秋講演で主役やってみない?」

 刹那  「私が・・・ですか?」

 雪見  「アイヌの戦巫女のお話なんだけど、ホラうちの学校って女子剣道部が無いでしょ
      どーしても剣道の心得がある主役が欲しいのよ ちはやも今年は3年で・・・」

捲し立てながら主役の勧誘を続ける雪見に引いていた周囲の生徒に平静さが戻ってくる。

 雪見  「それでちはやに相談したら、心当たりがあるって言うでしょ
      だから早速刹那さんのところに交渉に来たと言うわけ」

雪見の剣幕に圧倒された刹那が懇願の瞳でちはやを見上げる
首を横に振るちはや

刹那は目を閉じて静かに深呼吸をする・・・・そして

 刹那  「私は帰宅部です」
 雪見  「了解、じゃ詳しくは放課後部室でね」

そう言い放って踵を返す雪見

 刹那  「????はい????だから私は帰宅部・・・・」

雪見はちはやにチラッと視線を投げる
 雪見  「演劇部に入れとは 一言も言ってないわよ あなた帰宅部で暇なんでしょ?」
 刹那  「え?」
 雪見  「帰宅部で暇なら 演劇部に付き合いなさい」

強引に話を進める雪見

 刹那  「私にも都合が・・・・」
 雪見  「あなたに都合なんて無いはずよね」

ハッと 雪見の応対の中に何かを感じ取った刹那はちはやに視線を投げる
(BGM:偽りのテンペスト)

 刹那  「ちはやさん、あなた雪見さんに何を」

両手を開いてヤレヤレのポーズを取るちはや
背後からポンと刹那の肩を叩く雪見

 雪見  「気が付いたのなら仕方ないわね」

咄嗟に雪見から身体を離して臨戦態勢に入る刹那

 雪見  「まぁ神代から"自信なくして落ち込んでる後輩が居る"って相談されてね
      刹那さんの話を色々聞いたら、秋講演の主役に向いていそう
      それならって思って どう? 本当に主役やるつもり無い?」

視界の端にちはやを捕らえつつ、臨戦態勢のままゆっくりと後退する刹那
トドメの一撃を放つ雪見

 雪見  「きっと彼も喜ぶと思うから」
(BGM:走る!少女たち)

ポッと真っ赤になる刹那

 刹那  「ち、ち、ち、ちーちゃん!! そんな事まで話したの!?」
 ちはや 「だって、相談するんだから ちゃんと説明しないと」

 雪見  「それにしても あの堅物の神代を"ちーちゃん"と呼び放つ2年生ねぇ」
 ちはや 「ほんと、生意気な子で困ってるのよ」

別の意味で周囲の生徒の興味を引き始めた3人
話題と周囲の視線で真っ赤になって俯いている刹那

 雪見  「"刹那のLim"それなりに有名人だけど、神代の知り合いなんて・・・・
      2人の接点がどうにも納得行かないわ」
 ちはや 「最初はね指導するつもりで会ったのよ でも
      "ゲームセンターに入り浸ってる不良"って噂ほど悪い子じゃなくてね」
 雪見  「ねぇ、神代は最近少し変わった・・・?・・・え?・・・最近?」
(BGM:追想)

自分の記憶に違和感を覚える雪見
少し表情を曇らせるちはや

 ちはや 「少しね・・・・」
 雪見  「今、神代とは随分会ってなかった様な気がしたんだけど きっと気のせいね
      ほら、昨日もクラスで・・・・・」

ここ数日の記憶を辿って納得する雪見

 雪見  「それじゃ、刹那さん放課後ね
      自分に自信の無い彼女なんて、すぐ彼氏に嫌われるぞ」

多少の演技を交えつつ雪見退場
雪見の退場で周囲の生徒達もチラホラと散って行き教室はいつもの喧騒に戻る
(BGM:永遠)

既にいつもの状態に戻っている刹那
(刹那はこうゆう切り替えが恐ろしく速いキャラです)

 刹那  「ちはやさん、私にいったい何をさせるつもり?」

ちはやは短刀を手に取り刹那に握らせて小声で囁く

 ちはや 「これを彼の為に使って」

刹那は先程の質問を繰り返す
 刹那  「ちはやさん、私にいったい何をさせるつもり?」
 ちはや 「それはあなた自身が今一番望んでいる事 人の世に有らざるモノを斬る刃
      それを彼を守る為に使うのも、彼に勝つ為に使うのも それはあなたの自由」

 刹那  「・・・私・・・私は・・・」
 ちはや 「あなたは・・・・」
 刹那  「・・・私は・・・トライに・・・勝ちたい・・・」

教室の静寂が掻き消え、何事も無いいつもの喧騒が戻る
暗転

放課後 学校の屋上:屋上のフェンスに寄りかかっている私(BGM:A Tair)

フィっと空中に姿を現すちはや

 私   「こんな所に呼び出して、何の用だ?」
 ちはや 「あなたには、幾つか話したい事があるから来てもらったの」

私は宙に浮いているちはやに話しかける
 私   「とりあえず、復学おめでとう神代永遠(とわ)さん しかし、こんな所を他人に
      見られたらどうするつもりかな?」

 ちはや 「今の私はあなたにしか見えないわ そうね他の人にはあなたが宙に
      向かって独り言を呟いているようにしか見えないでしょうね」

 私   「それは 困ったな」

私を無視して話を続けるちはや
 ちはや 「先ず、報告その1 今日から刹那さんが演劇部で練習を始めたわ
      彼女 秋講演の主役に抜擢されたの」

 私   「それはまたどうして?」

 ちはや 「それが彼女の望み あなたに出逢った日からずっと
      彼女の中で燻り続けている彼女の願い
      まぁ、詳しい事は今夜にでも彼女自身から聞いてみることね」

 私   「それが刹那が望んだ道なら聞くまでも無いさ」

 ちはや 「報告その2 私はあなた方の敵に戻ったから」

 私   「敵に戻ったわけでは無いだろう?」

表情を曇らせるちはや
 ちはや 「甘いのね蛍人 それとも"最初からずっと敵だと思っていた"と言うつもり?」
 私   「どうだか そうだな敵対行為のひとつでもをしてくれれば"敵"だと認めるよ」

 ちはや 「そう・・・じゃ報告その3 あなた方の敵の話・・・・・」(BGM:追想)
 ちはや 「アニスレイザ様と直属の聖剣士があなたを成敗するために来ているわ
      私はアニスレイザ様の下に戻ったわ 見て・・・これが今の私の姿」

宙に浮いたままのちはやが4枚の純白の翼を広げる
昨日黒髪の少女に折られた筈の翼は完治し、更にもう2枚
計6枚の翼を携えるちはや

神代道場で翼の治療を受けながら宝刀チチウシの鞘をアニスレイザから受け取り、
タオルで巻いたチチウシを鞘に収める場面の回想

 私   「その翼の代償に何を得た?」

 ちはや 「わかったでしょ アニスレイザ様の花嫁に見初められた私はあなた達の敵なのよ」

ちはやの言葉を無視する私
 私   「その翼の代償として、神代永遠(とわ)は何を手に入れた?と聞いている」

 ちはや 「え?」

 私   「なら 質問を変えよう 永遠はここに何をしに来た?」

 ちはや 「永遠って・・・私はあなた達に警告をしに・・・・」

私から顔を背けるちはや

 私   「そうか じゃぁ 報告その4を聞こうか?」
 ちはや 「もう話す事なんて無い・・・・」

ちはやは動揺の色を見せる

 私   「なら、耳を塞ごうか? 私は何も聞いていない」

私は両手で自分の両耳を塞ぐ
顔を背けたままのちはやがポツリと呟く
 ちはや 「・・・・助けて・・・ほしい
      こんな事言える立場じゃないのは判ってる・・・・でも、助けてほしい」

両耳を塞いだままの私が答える
 私   「高くつくぞ」
(BGM:オンユアマーク)

 ちはや 「あなたもせっちゃんもアカネちゃんも、あんなにあからさまにアニスレイザ様に
      逆らって無事に済むと思ってるの?」
 私   「それが翼の代償か 少なくとも私は我が身の安全の為に誇りを捨てる気は無い」

気丈に振舞うちはや
 ちはや 「人の気も知らないで」
 私   「自分1人が犠牲になることでみんなの安全を約束させた・・・・か
      それで永遠の気持ちはどうなる?」
 ちはや 「死んでしまった人より 今生きてる人の方が大事」(いいよね部長)

 私   「よし、ホントに高くつくけど・・・・いいな?」
 ちはや 「なに?」
 私   「私の目の前で自己犠牲なんてふざけた真似は許さない」

そして私はちはやに背を向け、両手を耳から離す
 私   「私は何も聞いていない」

私屋上の出口から退場

屋上から空に向かって視点を引く次第に小さくなるちはやと校舎
その映像とオーバーラップする劇稽古中の刹那と演劇部一同
全てがフェードアウトして白転?(ホワイトアウト)

 〜 聖父と聖子と聖霊の御名 〜

喫茶ぬくれおちど:私 茜 詩子 アカネ(BGM:潮騒の午後)

 詩子  「あ?何 今日リムと一緒じゃないの? あんたたちもう倦怠期?」
 私   「刹那は今部活に行ってる」
 詩子  「あれ? リムって帰宅部じゃなかったの?」
 私   「演劇部から 主役を頼まれたみたいでね」

 茜   「リムさんは大丈夫でしょうか? 人付き合いは苦手のようでしたが」
 私   「本人もやる気の様だから大丈夫じゃない」
 詩子  「呑気ねぇ そう言えば ちはやさんも居ないのね? 彼女は?」

 私   「おい詩子 何で私がみんなのスケジュールを把握して無いといけないんだ?」
 詩子  「だって、あたしはあんた達の学校の事は良くわからないし
      茜がちはやさんの予定の事知ってるとは思えないし」

 私   「それで私? んー・・・まぁ刹那を演劇部に紹介したのがちはやさんだから
      一緒に演劇部に居るんじゃない?」
 詩子  「ほーら、やっぱりちはやさんの居場所に心当たりが有るじゃ・・・・・」

何かに気が付いた詩子

 詩子  「あ、あ、あ、あんた今リムの事"刹那"って呼んでなかった?」
 私   「刹那がどうかしたか?」

 詩子  「やっぱりー! 確か昨日のデートの時はリムって呼んでたよーな・・・・・
      あんた昨日リムと何したのよ!」
 茜   「リムさんと何かあったのでしょうか?」

つーんと視線を泳がしながらダンマリを決め込んでいるアカネ 詩子は、がばっと立ち上がり
 詩子  「・・・・アカネ あんた何か知ってるわね  さっさと白状しなさい!」
 アカネ 「何をって私は刹那さんと先輩がシタって事ぐらいしか知らないよ」

一瞬凍りつく詩子 きょとんとしている茜
 詩子  「シタって・・・そうなの?  あ・・・そうよね、付き合ってるんだもんね」

自分の左腕を押さえながら、へなへなと座り込む
 詩子  「こ・・恋人同士なんだもんね・・・あはははは」

狼狽しながら乾いた笑いを振りまく詩子 事情が飲み込めてない茜

 茜   「そうなんですか?」

 詩子  「こんな所で管巻いてていいの!! あんたはさっさと演劇部の手伝いでも
      なんでも行ってきなさい!!」

詩子はいきなり声を荒げる

 私   「とは言っても 演劇なんてなに手伝っていいんだかわからないし」
 詩子  「ちゃんと責任とんなさいよ・・・・ごめん おせっかいだったよね」

詩子の言葉は途中で勢いが無くなる
 詩子  「あたし・・・何 期待してたんだろう?」

独り芝居を続ける詩子にアカネが耳打ちをする
 アカネ 「昨日ね、刹那さんと先輩は"お互い名前で呼び合おう"って約束シタの」

            ・
            ・
            ・
          暫しの沈黙
            ・
            ・
            ・

詩子がアカネの頭を力任せにモミクチャにする
 詩子  「アカネ!! あんたって子はぁ!!!!」
 アカネ 「きゃあぁぁぁ・・・・」(「でも本当にシタみたいだけど」ぼそっと言う事)

神代道場:アニスレイザ ちはや 布団に寝かされている黒髪の少女と青忍者(BGM:雨)

 ちはや   「アニスレイザ様これで2人を見逃して下さいますか?」
 アニスレイザ「ああそれが約束だからね、でも彼の方から手を出してくるのなら話は別」

 ちはや   「それでは、話が・・・・」
 アニスレイザ「別に騙したつもりはないよ、それに自衛は当然の権利だと思うよ」

 ちはや   「はい・・・・・」

俯いて言葉を詰まらせるちはや
道場の奥から、その昔長崎にやってきたオランダ人かポルトガル人の様な格好をした
バテレン男登場

 バテレン  「ひょ〜〜!!」

どこからともなく水晶玉を取り出し それを宙に浮かしつつポーズを決める
その姿といい言動といい実に妖しい

 バテレン  「我は高校とやらに行ってくるぞ 聖剣士を現地調達せねばならぬ事態に
        なろうとは、聖剣士が下級天使ごときに遅れをとるとは実に情けない」

バテレンは視線でちはやを責める

 アニスレイザ「そう責めるな、聖剣士の候補は既にちはやが確保してある」
       (アニスレイザの口調を変える事)

 バテレン  「その者の実力を見て来ればよいのであろう?
        まったく余計な仕事を増やしてくれるな」

ブツブツと文句を言いながらバテレン退場

演劇部部室:刹那、雪見、演劇部員一同(BGM:日々のいとまに)

思い思いに作業をしている演劇部員
刹那を演劇部員に紹介する雪見

 雪見  「みんな、ちょっと手を休めて」

作業を中断し、雪見に注目する演劇部員達

 雪見  「今回の主役をやって貰う事になった葛木刹那さん」
 刹那  「どうも・・・・よろしく・・・」

 雪見  「・・・・まったく 他に何か挨拶のしようが・・・・まぁ、いいわ
      そういうことだからみんな、よろしくね」

一応の紹介が終わり、演劇部員達はそれぞれの作業に戻る

 雪見  「刹那さんには、後で台本を読んで貰うとして、
      今は簡単に物語の説明をしておくね」

ナレーション:雪見 (BGM:永遠) 

時は江戸時代初頭 所は今の北海道の原野 カムイコタンと言う所に大自然を護る巫女が
住んでいて、この物語はその巫女の妹のお話

ある年 大異変が起きてその厄災を鎮める為に姉の巫女が向かったの
姉の巫女は厄災の元凶の魔物は倒したけど、大異変はおさまらなかった

姉の巫女は携えていた宝刀を自分の胸に付き立てて神様に祈ったの
「どうか私の命で大自然をお救い下さい」って その願いは天に届いて大異変はおさまった
でも、妹が待つ場所に帰ってきたのは巫女の証である その宝刀だけだった・・・・
姉から宝刀と巫女の使命を継いだ妹のお話

 雪見  「詳しいところは台本読んで理解してね、巫女を継いだ妹が
      使命の為に姉の様に命を投げ出すかどうかを迷うところは
      このお話の山場だから、しっかり役作りをしておいてね」

 刹那  「は、はい・・・・」

 雪見  「そんなに硬くならないでね はい台本」

刹那に台本を手渡すと雪見は作業を再開した部員達の所へ歩いて行く
取り合えず台本を読み始めた刹那の制服の裾を引っ張る女子部員

 刹那  「え? 何?」

女子部員は手に持ったスケッチブックを刹那に向けて広げる(BGM:日々のいとまに)

 女子部員『はじめましてなの』・・・と、スケッチブックに書かれた文字
 刹那  「あなた・・・?」

何を否定しているつもりなのか ふるふると首を横に振る女子部員
そしてスケッチブックのページをめくる

 『澪なの』スケッチブックにそう書かれた文字
 女子部員は刹那が持っている台本のキャストの欄を指差す
 女子部員が指差した役を読み上げる刹那

 刹那  「コンル(氷の精霊)・・・・上月澪」

うんうんと自分を指差しながら満面の笑みで頷く女子生徒
そしてもう1度 『澪なの』と書かれたスケッチブックを刹那に向ける

 刹那  「澪ちゃん?・・・・・」

そんな、演劇部の日常を窓越しに眺めるバテレンその傍らにちはや(BGM:海鳴り)
 バテレン「あの者が聖剣士候補かや?」
 ちはや 「彼女を甘く見ないほうがいいわ」
 バテレン「いずれにしても、仕掛けてみれば判る事よ」

 ちはや 「まって!」
 バテレン「ほう? 止めるかや?」

ちはや、バテレンから顔をそむけながら
 ちはや 「何もこんな人目の有る場所で仕掛けなくても」

 バテレン「ほーほほほほ、汝の心根はよぉく判ったわ」
 ちはや 「悪い? 私は最初からそのつもりよ」
 バテレン「ならば、我の邪魔をするでない あの者を連れ戻らねばなるまいや?」

 ちはや 「くっ」
悔しげに唇を噛むちはや

 バテレン「ほーほほほほ」

バテレンの高笑いが辺りに木霊する

商店街の外れにある公園: 下校中の刹那(BGM:雪のように白く)

トボトボとうなだれた感じで公園の入り口から刹那登場
公園のベンチに腰を下ろして、ふいっと空を見上げる刹那 
そして空に向かって危うげに話し掛ける(刹那の表情ははっきりと見せない事)

 刹那  「何してるの?」
 声   「浮気していないか監視してるの」

刹那の呼びかけに姿無き声が応じる

 刹那  「そう・・・そうよね」
 声   「こっちは、家とは反対の方角じゃない」
 刹那  「心配かけたみたいね」

 声   「なにかあったの?」
 刹那  「なんでもない・・・ただ・・・・」
 声   「ただ?」
 刹那  「私は、何をやっているんだろう? って思って・・・・
      蛍人と同じ場所に立ちたくて、演劇部に入ってみたけど
      なんとなくしっくりこなくて・・・・」

 声   「だって今日から部活始めたんでしょ、思い通りにならない事なんて
      あたりまえじゃない」
 刹那  「そういう事じゃないんだ・・・・・」

刹那は視線を更に遠く、天の彼方に向ける
 刹那  「私は、蛍人に勝ちたい・・・・蛍人に勝って同じ所に立ちたい・・・
      だけど・・・どうすればいいの?」
 声   「今のままじゃ駄目なの?」
 刹那  「今のままじゃ、私はあなたと同じ ただ、蛍人に寄りかかっているだけ」
 声   「だから、それじゃ駄目なの?」

声の主(アカネ)がふいと姿を現す
 アカネ 「私には、それ以上は・・・・何も無い」

刹那は姿を現したアカネを気にも留めずに天を見つめたまま(BGM:遠いまなざし)
 刹那  「たぶん、私がLimなら、Limになろうとしている私なら、それでもよかった
      でも、私は蛍人と同じ所に立たないとダメなんだと思う
      私が蛍人に寄りかからずに、生きていけないとダメなんだと思う」

刹那は視線を下げて目を伏せる
 刹那  「それなのに、まだ蛍人を"トライ"と呼びたいLimが居る
      "トライって呼ぶ方がずっと楽"って言っている
      でも、Limはアカネちゃんと同じ・・・・・・・・・」
 アカネ 「・・・私と同じ・・・先輩が消える時・・・いっしょに消える」

刹那は視線を下げたまま、しかし語気は強く
 刹那  「でも、私は消えない! 私は蛍人を消させない!
      だから、私は蛍人と同じ所に・・・・・・・
      だけどLimは・・・私はまだLimを吹っ切れてないから」

刹那の声を遮ってバテレンの声が響く(BGM:海鳴り)
 バテレン「汝の願い叶えてしんぜようぞ」

パッと身構えるアカネ、刹那は顔を伏せたまま
 刹那  「・・・無理ね あなたは蛍人には勝てない」
 バテレン「我が主の下へ来い、さすれば汝の願いは叶えられようぞ」

ひょっひょっと、手に持った水晶玉を振り回し、刹那の言葉を無視して話すバテレン
 バテレン「まずは、汝が力見せてもらおうぞ」

バテレンはヒョ〜ッと奇声を上げながら、手に持った水晶玉で刹那に殴りかかる
3枚2組の二重反転する鏡がバテレンの水晶玉に激突し、
砕け散る鏡の破片がバテレンを襲う
 バテレン「どこを見ている」

ボムッと煙と共に姿を消すバテレン、鏡の破片は、バテレンが居た筈の場所を通過する
再び煙が立ち昇り、アカネの背後に姿を現し、水晶玉を振りかざすバテレン
 バテレン「消え去れい!!」

          無言の刹那が、ツーっと空を猫手で斬る

刹那の猫手の動きに沿って真黒な空間の裂け目が、空中に口を開く
ヒョ〜ッと奇声を上げながら、目にも止まらぬ速さでバックステップをし
空間の裂け目から距離をとるバテレン

刹那がゆっくりと口を開く
 刹那  「・・・あなたに勝てても・・・・
      やっぱり私も蛍人には勝てない」

バテレンとの間合いを詰める刹那
左の猫手を振り、バテレンの背後に空間の裂け目を作り、右手でチチウシ(短刀)を抜く、
バテレンの水晶玉と刹那のチチウシがぶつかり合う

じりじりと空間の裂け目にバテレンを押し込んでいく刹那、
水晶玉で刹那を押し返そうとするバテレン
後一押しで、バテレンを裂け目に押し込める、そのタイミングでバテレンは
ボムっと煙と共に姿を消す 勢い余った刹那は自分の作った空間の裂け目に落ちていく

アカネの絶叫が響く
 アカネ 「刹那さぁぁぁぁん!!」

バテレンが誇らしげに嘯く
 バテレン「どこを見ている」

そのバテレンの頭上に、パックリと空間の裂け目が開き、そこから刹那が着地ざまに
チチウシでバテレンに斬り付ける
 バテレン「ぐっ・・・」

水晶玉を落とし、肩口の傷を押さえるバテレンに、刹那が振り返る
 刹那  「入口があるのなら、出口もあるわ」

猫手を振って、2つ空間の裂け目を作り、その一方に手を入れ、もう一方から出してみせる
 刹那  「あなたに興味は無いわ さっさとお帰り」

バテレンが空に向かって吼える
 バテレン「ちはや! なにをしている!!」

空中に姿を現す6枚羽のちはや    (BGM:永遠)
刹那は生気の無い目でちはやを見上げる(ここで初めて刹那の表情を見せる)
 刹那  「そう・・・やっぱり、あなたは敵なのね
      今更、何をしに来たの?」
 ちはや 「あなたを迎えに来たわ」
 刹那  「なんの為に?」

顔を刹那から背けて、吐き捨てるように
 ちはや 「あなたの願いを叶える為に」
 刹那  「そんな事、願ってないわ」
 ちはや 「あなたに、蛍人を倒せるだけの力をあげる」
            ・
            ・
            ・
          暫しの沈黙

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

       誰に望まれる事もなく・・・・
       誰に求められる事もなく・・・
       誰に認められる事もなく・・・
       誰に惜しまれる事もなく・・・

     そして・・・・誰に傷つけられる事もない・・・・私は・・・刹那・・・・
     そして・・・・誰を傷つける事もない・・・・・・私は・・・刹那・・・・

 ・・・・・だから・・・・私は・・・Limに・・・・なりたい
 ・・・・・それでも・・・私は・・・Limに・・・・なりたい

 刹那  「なんの為に?」

ちはや、辛そうに顔を歪めながら
 ちはや 「あなたの・・為よ・・・」
            ・
            ・
            ・
         また暫しの沈黙

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

        私の中のLimがそう言う
        Limは私の理想だから
           でも・・

            ・
            ・
            ・
            ・

           私は刹那・・
        Limは私の理想だから
         でも、私は刹那・・

 刹那  「そう・・・ちーちゃんに付いて行けばいいのね」

刹那の返事にはっと、息を呑むアカネとちはや(BGM:偽りのテンペスト)
ほくそえむバテレン
 ちはや 「私はあなた達の敵なのよ」
 刹那  「きっと、ちーちゃんは、蛍人にも同じ事を言ったのね
      それで蛍人はなんて言った?」

 ちはや 「せっちゃん!!」
            ・
            ・
            ・
         また暫しの沈黙

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

     Limでいる時     私は幸せだった
     Limを目指している時 私は幸せだった

            ・
            ・
            ・

     でも・・・理想の私は本当の私じゃない
     でも・・・Limは・・刹那じゃない

            ・
            ・
            ・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中のLimがそう言う・・・・・

 刹那  「私はちーちゃんに連れて行かれる、アカネちゃんは蛍人に知らせ行く
      蛍人が私を助けに来る・・・・きっとその時、私は蛍人の敵・・・・・」

 アカネ 「刹那さん!!」

刹那は、すっと微笑む
 刹那  「やっと・・・見えた気がする・・・ ちーちゃんが、敵だから・・・
      敵になるしか事しかなかった人・・・だからこそ蛍人は絶対に見捨てない!」

刹那はまっすぐちはやを見つめる
 刹那  「ちーちゃんを見捨てないって、蛍人はそう言ったでしょ」

刹那は手に持ったチチウシに視線を移す
 刹那  「やっぱり・・・私はLimになれなかったな・・・」

 アカネ 「刹那さん何を言ってるの?」
 刹那  「理想の私なら、ここでちーちゃんを倒してるんだよ
      蛍人が倒せなかった敵を私が倒して・・・それが、私が蛍人に勝った証
      それで、私は蛍人と同じ所に立てる」

また、刹那は天を見上げる(表情は誇らしげに)
 刹那  「ちーちゃん、私を何処へでも連れて行って、私をどーにでもして」
 ちはや 「せっちゃん!!」
 刹那  「ちーちゃんは、蛍人の所に私に殺されに行ったんでしょ?
      私の所に殺されに来たんでしょ?」

ニッと刹那が不敵に笑う
 刹那  「でも、そう簡単に楽にしてあげない、ちーちゃんはもっともっと苦しむがいいわ
      もっと、もっと、もっと、苦しみ続けるがいいわ」
 ちはや 「せっちゃん・・・だから!!・・・・」

刹那がちはやの言葉を遮る
 刹那  「蛍人は、誰の不幸も望まない
      幸せが望めなくても、蛍人は絶対に不幸は望まない」

刹那は、アカネに振り返る
 刹那  「アカネちゃんは、早く蛍人に知らせに行って"私が連れて行かれた"って」

そして、ちはやへ向き直す、バテレンを横目に
 刹那  「ちーちゃんは立派よ、そこの無能なオジサンと違って、私を手に入れたから」

アカネは少し考えて・・・・
 アカネ 「わかったわ、取り返しの付かない事態にすればいいのね」

ためらいを隠せないちはやを後にしてアカネ退場  暗転

 〜 鳥の詩 〜

雲上の岩頂にたたずむ荒れ果てた神殿:(BGM:永遠)

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

 誰に望まれる事もなく・・・・
 誰に求められる事もなく・・・
 誰に認められる事もなく・・・
 誰に惜しまれる事もなく・・・

 そして・・・・誰に傷つけられる事もない・・・・私は・・・刹那・・・・
 そして・・・・誰を傷つける事もない・・・・・・私は・・・刹那・・・・

 それ・・・なのに・・・・あなたは・・・・・

 ・・・・・だから・・・・私は・・・Limに・・・・なりたい
 ・・・・・それでも・・・私は・・・Limに・・・・なりたい

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中のLimがそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

     それ・・・なのに・・・・私は・・・・・

            ・
            ・
            ・

上空に天上人が姿を現す、刹那は彼を見上げ
 刹那  「・・・アニスレイザ・・・様・・・」

私の家 居間:私とアカネ(BGM:海鳴り)
 アカネ 「それで、先輩どうするの?」

上着を手に取り、踵を返す私
 私   「勿論、刹那を迎えに行くさ」
 アカネ 「・・・何の準備も無しに?」
 私   「準備をしてどうにかなる相手じゃないよ」

神代道場:ちはや バテレン ちはや兄 布団に寝かされている黒髪の少女と青忍者
(BGM:A Tair)

傷口を押さえながら呻くバテレン
 バテレン「おのれ たかが人間ふぜいが」
 ちはや 「"彼女を甘く見ないほうがいい"って言った筈よ」

板張りの道場の床が開き、刹那を連れたアニスレイザ登場
アニスレイザが刹那の背中を押す
 アニスレイザ「さあ 刹那 みんなに挨拶して」
 刹那    「皆さんはじめまして、葛木刹那と申します」

刹那の様子がおかしい事に気づくちはや(ちょっと取り乱しています)
 ちはや   「アニスレイザ様! せっちゃんにいったい何を?」
 アニスレイザ「彼女が望んだ事さ、彼女の望みを叶えただけだ
        ちはやだって、そのつもりで彼女を連れてきたんだろ?」

 刹那    「皆さんはじめまして、葛木刹那と申します」

高校1年の刹那(私と茜)の教室:(BGM:追想)
新学年、最初のホームルームでの自己紹介
 刹那  「皆さんはじめまして、葛木刹那と申します」

    そして・・・・誰に傷つけられる事もない・・・・私は・・・刹那・・・・
    そして・・・・誰を傷つける事もない・・・・・・私は・・・刹那・・・・

クラス女子の派閥抗争 女子生徒1の一派の入団式(?)
 刹那  「皆さんはじめまして、葛木刹那と申します」

     ただ、平穏な日常さえあれば それでよかったのに

激化する派閥抗争の中 出会い
 刹那  「里村さん、里村さんも私達と一緒に・・・・」
 茜   「嫌です」

    そして・・・・誰を傷つける事もない・・・・・・私は・・・刹那・・・・
    私は誰も傷つけたくは無い・・・・・傷つけたくは無いのに

再会
 私   「大丈夫、お友達の怪我はただの捻挫
      でも、次に茜に何かあったら、君の番だからね
      その時はこのぐらいじゃ済まないよ」
 刹那  「交通事故に遭って捻挫で済むわけ無いじゃない! あんたって最低ね!!」

    これが・・・彼との再会・・・・

そして、再会(BGM:走る!少女たち)
神代道場の引き戸が開いて、私登場
 私   「邪魔するよ」
 刹那  「城島君、いらっしゃい」

一応、それぞれの武器を構えて威嚇するちはやとバテレン
ちらっと、ちはやを気にする ちはや兄
正面から向き合う、私と刹那 そして暫しの沈黙

            ・
            ・
            ・

私は刹那を無視して、誰に言うとも無く話す
(絶対にアニスレイザの方には向かせない事、刹那の事は無視しているので、
 ちはやの方を向くことになるが "なんとなくちはやを方を向いてるなぁ"って感じで話す事)
 私    「刹那を返して貰いに来た」

機械的に応対する刹那(ただし、刹那に武器を構えさせない事)
 刹那   「城島君、帰って下さい 
       今まで色々とありがとうございました、でも帰って下さい」

 アニスレイザ「それが彼女の望みさ、恐怖も怯えも無い、ただ平穏な日常
        何一つ変わることの無い平和な日々を送る・・・ささやかな願いじゃないか」

 私     「その安息の日々が見果てぬ夢だと言う事を刹那は知っている筈なんだが」

悔しそうにちはやが会話に割って入る
 ちはや   「見果てぬ夢だから、アニスレイザ様が叶えて見せる・・・
        アニスレイザ様を裏切らない限りその夢は終わらない」

 アニスレイザ「ちはやそれは違うよ、刹那の望みは彼にも安息の日々を与えること」

私、ちはやに向かって
 私     「だから、見果てぬ夢だと言っている、安息では無い日々をさも安息の様に
        振舞うなんてできないね」

刹那はチチウシ(短刀)に手をかけようとして、カタカタと小刻みに震えながら
 刹那    「城島君、早く帰って」

ちはや兄はこれ見よがしに刹那を制しながら日本刀を抜く
 ちはや兄  「何故、この場所が判った? ここは貴様の来る場所では無い!」

呆れ顔で、さも当たり前の様に答える私
 私     「・・・・神代道場って看板が出てたから
        母屋へ行くとちはやさんが困るだろうし」
 ちはや兄  「問答無用!」

いきなり、上段から私に斬りかかるちはや兄
バックステップして、日本刀の切っ先をかわす私
 私     「自分から話題振っといて問答無用って・・・・」

ちらっと、刹那を気にする私 刹那は短刀から手を下ろし無表情で様子を眺めている
 ちはや兄  「ここは貴様の来る様な所では無い!」

更に一歩踏み込み水平に薙ぐちはや兄(BGM:追想)
その刃の下を潜って、小足払いの体勢に入る私
ちはや兄は、刃を返して横薙ぎから中段からの袈裟懸けに入る
私は、しゃがみの体勢のまま身体を半回転させ、ちはや兄に背を向ける
ちはや兄の鳩尾へ肘討ちを一発 前屈みになる ちはや兄の顎に掌底を突き上げる

     はっと、一瞬目を見開く刹那、でもすぐもとの無表情に戻る

ちはや兄、鳩尾と顎を押さえながら
 ちはや兄  「もう一度言う ここは貴様の来る場所では無い!」
 私     「刹那を返して貰えれば、すぐにでも帰るさ」

私の言葉に反応して、また、短刀に手をかけようとする刹那

 ちはや兄  「彼女の気持ちを判ってやれ」
 私     「刹那に呼ばれたから、ここに来た」
 ちはや兄  「どっちが彼女の本心かな?」
 私     「たとえ背反していても、両方とも刹那の本心さ
        だから、どっちも叶えてやるつもりさ」

アニスレイザに向かって大きく踏み込む私、そして長巻を抜く
(ここではじめてアニスレイザの方へ向く)
 私     「刹那を連れて帰る時は、勿論ちはやさんも一緒さ」

バテレンがアニスレイザと私の間に入り、私の長巻を水晶玉で受ける
バキンっ!! 私は、そのまま、水晶玉を叩き割る

アニスレイザは眉ひとつ動かさずに
 アニスレイザ「なら彼女の3つ目の願いも叶えてやってはどうだ?
        彼女は君を倒したいと願っている」

そして、アニスレイザは刹那に目配せをする
 アニスレイザ「だが、君と彼女の晴れ舞台に、ここは余りに殺風景だ
        どうだ、日取りと場所を改めないかね?」

短刀を抜き、私の背後から近寄る刹那
私はアニスレイザの方に向いたまま
 私     「刹那、背中から私を刺しても勝った事にはならないと思うよ」

刹那は背後から、私の首筋に短刀を当てる
 刹那    「城島君、今日は帰って下さい そうでないと私は・・・・」

短刀を握る刹那の手に力が入る
私の首の皮が裂け短刀に血が滲む
 私     「どうやら、今日は帰るしか無さそうだ、で、その晴れ舞台はいつ何処で?」
 アニスレイザ「3日後だ、3日後 場所は転生の祭壇で」

刹那は首筋から短刀を下ろし、背後から私を抱く
そして私の首筋に滲む血をペロっと舐める

     『パンは我が肉・・・・ワインは我が血・・・・』

ちはやは、私に向けて鉾を構えたまま
 ちはや 「蛍人・・・さん、ごめんなさい でも・・・私は・・・」

私はちはやに向かって
 私   「ちはやさんにとってどっちが正しい?」
 ちはや 「どっち・・・どっちって?」
 私   「自分の気持ちと、自分の理想」

ちはやは顔を背ける(BGM:鳥の詩)
 ちはや 「あなたはどうなんですか?」
 私   「どっちも正しくは無いさ・・・・それがやっと判った
      ボクにとって、ボク自身の事はどうでもいい事だったんだ」

        消える飛行機雲 僕たちは見送った     *

 私   「そう、呼ばれたから来た ボクにとって大事な事は ただ それだけだったんだ」

        眩しくて逃げた いつだって弱くて     *

 私   「それなのに、ボクを呼んだ人は"もう帰れ"と言う」

        あの日から変わらず いつまでも変わらずに *

 私   「その人が望む事を叶えてあげられれば、それだけでよかったんだ」

        いられなかったこと 悔しくて指を離す   *

私の線が背景に溶け込む様に細くなり・・・・そして消える

 ちはや   「アニスレイザ様、彼はいったい」
 アニスレイザ「簡単な話さ、彼はこの世界に絶望した8年前に、既に消えているはずだった
        両親を惨殺され失意の底に居た彼を救ったのは君達」

        あの鳥はまだ上手く飛べないけど      *

 アニスレイザ「君達が彼を必要としつづける限り、彼がこの世界から消える事は無い」

        いつかは風を切って知る          *

 アニスレイザ「しかし彼は刹那を選んだ」

        届かない場所がまだ遠くにある       *

 アニスレイザ「彼は自分の存在を賭けて刹那を選んだ 刹那に必要とされなくなる時
        自分自身がこの世界から消えてしまう事を承知で」

        願いだけ秘めて見つめてる         *

私を抱いたままの格好で固まっていた刹那が口を開く
 刹那    「トライはまだ諦めていません、トライはしぶとく、そして しつこい人です
        もしも運命があるのならトライは最期の一瞬まで抗う
        いえ・・・最期の一瞬を越えても抗い続ける そんな人です」
 アニスレイザ「そうだな、そうでなれば困る  だが・・・いやな相手だ
        例え肉の一片となっても、想いの欠片となっても意地を張り続ける
        そうだろ刹那 君の中にも彼は居る」

7月某日の午後 喫茶ぬくれおちど 学校帰りに寄り道中の詩子とアカネ(BGM:雨)
ウインドウの外を通り過ぎる私
(以下の演出は私が神代道場へ行く前、行った後の両方に取れるようにする事)

 詩子  「あれ? ねぇアカネ 今だれか通らなかった?」
 アカネ 「だれって 誰? 外は酷い雨だよ?」

ウインドウの外は、傘をさして歩く人も少なく、
時折 自動車が跳ね上げる水しぶきの音が聞こえるのみ
 詩子  「気のせい? だったのかなぁ? だれかが居たような気がしたんだけど・・・」

とある学校の放課後 演劇部部室:刹那 澪 雪見 他演劇部員一同(BGM:遠いまなざし)
(この辺りから現実世界での時間の前後関係が滅茶苦茶になって来ます)

刹那 演劇台本を片手に
 刹那   「私が巫女を継ぎます! 姉さんの遺志は私が引き継ぎます!!」
 演劇部員1「お前はまだ若すぎる、それに次の巫女はもう決まっておる」
 刹那   「長老様、私はあの人は認めません!」

 演劇部員2「生意気な事を言ってくれるわね あなた何様のつもり?」
 刹那   「姉さんはあなたの事だけは認めなかった だから私も認めない」
 演劇部員2「姉さん 姉さん 姉さん もううんざりだわ
       貴方の姉さんはもう死んだのよ」

 刹那   「あなたにだけは、巫女は譲れない」
 演劇部員2「なら好きにすればいいわ でも貴方が巫女の使命を誤ったら 殺すわよ」

稽古の様子を眺めている雪見と澪
 雪見   「彼女、最近生き生きしているわね」

澪は手に持ったスケッチブックを雪見に向ける
 澪    『元気なの』

空き地の前の通り:通りがかる私 通りの反対側からピンクの傘を差した茜(BGM:雨)
 茜   「どうしたのですか?」
 私   「散歩している」
 茜   「雨が降っています」
 私   「いきなり振り出したから困っている」
 茜   「ずっと前から降っています」
 私   「ずっと前にいきなり振り出したからなぁ・・・・」

            ・
            ・
            ・
          暫しの沈黙

 茜   「どこかで、雨宿りしませんか?」

すっと、私に傘を差し出す茜、茜の差し出した傘に入ろうとする私
 茜   「こうゆう時は持ってくれるものです」

背伸びをしながら、私の身長に傘を合わせようとする茜が抗議する
 私   「そうか」

私は茜から傘を受け取り茜を傍に寄せ、商店街の方へ歩き始める
 茜   「リムさんと喧嘩でもしたのですか?」
 私   「わかるのか?」
 茜   「幼馴染ですから 何を迷っているのですか?」
 私   「迷ってはいないつもりだよ」

 茜   「そうですか なら、リムさんに謝って下さい」
 私   「一方的に私が悪いと?」
 茜   「はい、きっとリムさん泣いていますよ あなたは悪い人ですから」

茜は雨空を見上げる

喫茶ぬくれおちど 詩子(BGM:海鳴り)
 詩子  「ねぇねぇねぇ だからさぁ・・・・あれ???」

誰も座っていない椅子に話しかけていた詩子
ただ、詩子が話しかけていた椅子の前には、ケーキの皿と飲み刺しのアイスティが置かれている
 詩子  「・・・・確か・・・だれか居た・・・はず・・」

自分の言葉に自問する詩子
 詩子  「だれかって・・・・誰?」

???を頭から飛ばしながら、詩子 ぬくれおちどの入り口から退場

ウェイトレスが無人になったテーブルから
詩子のケーキ皿とコーヒーカップを片付ける
テーブル上に残されるアカネのケーキ皿とアイスティのグラス

学校前(晴):部活帰りの刹那と演劇部員一同
 刹那   「私 こっちだから」

刹那が向かう先に神代道場
 雪見   「???葛木さん あなたの家は商店街の方じゃなかった?」
 刹那   「最近引っ越したんです 今は神代先輩の家にお世話になっています」
 雪見   「引っ越??? 神代の家に???」

雪見は刹那に近寄り耳元で囁く
 雪見   「彼はどうしたの? 一緒に住んでるんじゃ???」
 刹那   「別れました それじゃ、部長また明日」

刹那 神代道場の方へ退場
商店街の方へ去って行く部員一同に取り残される雪見
 雪見   「別れたって・・・・」

商店街(雨):傘を差しながら歩く私と茜 反対側から同じく傘を差して歩く詩子

怪訝そうな顔をしていた詩子がすれ違いざまに
 詩子  「誰?・・・この人・・・・・茜の、知り合い!?」
 茜   「詩子? だれって?」
 詩子  「だれって? 今茜とアイアイ傘してる人・・・っ!」

何かに気づいた詩子が目を閉じて大きく深呼吸する
 茜   「詩子 いったい何を言って・・・・」
 詩子  「あたしの知ってる人はね、彼女以外の女とベタベタしない人なの
      あんた一体何者? 刹那ほっぽいて何してんのよ!!」

詩子は無理やり私と茜を引き剥がそうとするがすぐに止める
 詩子  「まあ、いいわ 雨降ってるし、あんたずぶ濡れだし 今日だけは大目に見てあげる」

詩子の一人芝居に呆然とする私と茜
 詩子  「何ボーっと見てんのよ!! 行くとこあるならさっさと行く!!」

詩子に追いたれらる様に私と茜退場
詩子は私と茜の姿が見えなくなったのを確認して雨空を見上げる
 詩子  「アカネ・・・近くに居るんなら出てきて」

空中に半透明の姿を現すアカネ
 詩子  「あんたもなの?」
 アカネ 「違う、違う、今全部姿見せると私も濡れちゃうから」
 詩子  「そう・・・、あたし、今あいつの事が判らなかった
      アカネは何か知ってる?」

 アカネ 「刹那さん連れて行かれて・・・・」
 詩子  「それから?」
 アカネ 「ううん・・・・それ以上は知らない方がいいわ・・・・どっちでも同じだから」
 詩子  「同じって何よ!」
 アカネ 「先輩が刹那さんを取り戻せたら、今まで通りで何も変わらない
      取り戻せなかったら、みんな先輩の事忘れてしまうから
      何が変わったのかに気が付かない」

 詩子  「忘れてって・・・・」
 アカネ 「その時は先輩の事は私に任せて、私は先輩と何処までも一緒だから♪」

 詩子  「・・・・嬉しそうに言うな!!」
 アカネ 「だって私、刹那さんには勝てないし、詩子にも勝てないし、
      茜には負けたくないけど・・・・・ね、いいチャンスだと思わない?」

 詩子  「アカネ そんなに心配しなくて大丈夫 あの馬鹿はちゃんと刹那を助けるからね」
 アカネ 「心配なんてしてないよぉ」

学校 昼休み廊下:茜と刹那
 茜   「あの・・・リムさん」

茜に声をかけられて振り向く刹那
 刹那  「え? あ、里村さん 何か用?」
 茜   「あの人を見かけませんでした?」
 刹那  「あの人? 城島君なら今日は会ってないわ
      私、これから演劇部で稽古なんだけど 用はそれだけ?」

茜に背を向けて立ち去ろうとする刹那
 茜   「あの、あの、リムさん あの人は、悪い人だけどいい人ですから
      許してあげてください」

刹那 茜に背を向けたまま
 刹那  「里村さん自分が今 何言ったか判ってる?」
 茜   「判っています 間違ってはいません」
 刹那  「そう、じゃあ一つだけアドバイス
      どんなに想っていたって自分から伝えようとしないと
      その想いは相手には伝わらないよ」

 茜   「いいえ、リムさんの想いはあの人に伝わっています」
 刹那  「私は城島君を振ったのよ!」
 茜   「だとしてもです」

思わず振り返り罵声を上げる刹那
 刹那  「じゃぁ、里村さんあなたの気持ちはどうなのよ!!」
 茜   「あの人は、私の気持ちを判ってて無視しています
      きっと、私はあの人が許せない事を何かしたのでしょう
      だから・・・リムさんにはあの人を許して・・・・」
 刹那  「ごめんなさい こんな事言うつもりじゃなかったのに・・・・
      あの、私 稽古があるから・・・・・」

刹那 逃げ出す様に人ごみの中に退場
 茜   「どうかあの人を信じてあげてください」

暗転

空き地(雨):私とピンクの傘を差した茜(BGM:雨)
 茜   「やっぱり、ここに居たんですね」
 私   「よくわかったな」
 茜   「なんとなくです」

茜は手に持ったピンクの傘をすっと私に差し出す
 茜   「雨が降っています」
 私   「いきなり振り出したから困っている」
 茜   「ずっと前から降っています」

私は茜から傘を受け取り茜を傍に寄せる
 茜   「もう学校には行かないつもりですか?」
 私   「そうなるかも知れないな」
 茜   「どうしてですか?」
 私   「もうここ以外に居場所が無い」
 茜   「そうですか・・・・」

            ・
            ・
            ・
          暫しの沈黙

喫茶ぬくれおちど: 詩子とアカネ
 詩子  「アカネ あんたこんな事してていいの?」

アカネ アイスティのストローをくわえたまま顔を上げる
 アカネ 「こんな事って?」
 詩子  「だから、"あの馬鹿の所に居なくていいの?"って言ってるの」

アカネはプっとストローの先から息を吹き出す
 アカネ 「いいの 刹那さんが帰ってくる場所に私が居ない方がいいし」
 詩子  「アカネだって何かの役に・・・・」
 アカネ 「詩子だって知ってるでしょ 刹那さんは先輩と二人きりにしてあげないと
      私たちに気を使って自分の気持ちを隠しちゃうから」
 詩子  「だからって・・・アカネだってあの馬鹿の事心配なんでしょ だったら」

アカネ ニッと笑って
 アカネ 「そんなに心配なら詩子が先輩の所に行ったら?」
 詩子  「あ、あ、あたしは・・・ほら・・・その・・・もごもご」

 アカネ 「それに・・・もしも時は詩子と一緒に居たい」

チラリとアカネは自分の右腕に張り付いている鏡に視線を投げる

 詩子  「"もしもの時"って、そんな縁起の悪いこと言わないで
      そ、それに、あたしにはそーゆー趣味はありませんからね!!」

 アカネ 「あははは、詩子 大好き!!」
     (先輩、もしもの時は私が先輩の大切な人達を守るから・・・・)

空き地(雨):私とピンクの傘を差した茜(BGM:雨)
 茜   「ここは何処なんですか?」
 私   「ここは"空き地"と言う場所だ」
 茜   「そういう事を聞いているんじゃありません
      あなたにとってここはどういう場所なんですか?」

 私   「そうだな、嫌な思い出がたくさんある場所かな」

そう言って私は空き地の一角に視線を投げる
私の視線の先を目で追う茜
 茜   「嫌な思い出でもある方がましです・・・・」
 私   「ああ、その嫌な思い出のおかげでまだここには居場所がある」
 茜   「嫌な思い出って・・・リムさんと?」
 私   「振られたよ おかげでこのざまさ」
 茜   「でも、たぶん、きっと リムさんの本心じゃないですよ」
 私   「判ってる 判ってるから辛いんだ」

茜は少し目を細める
 茜   「たぶんあなたは、きっとここに来ていると思いました」

            ・
            ・
            ・
          暫しの沈黙
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            ・
            ・

 茜   「そんな理由の判らない確信があるんです 変ですよね?」
 茜   「待っていてくれるそんな確信があったんです」
 茜   「私を待っていてくれたんですよね?」

茜は独り言のように呟く

 私   「かも知れない 我ながら卑怯だな」
 茜   「そうですか? それでも私はたぶん 嬉しいと感じています」
 私   「やっぱり卑怯だな」
 茜   「少しは安心してくれましたか?」

青々と雑草の生い茂る空き地をアカネは見回す
 茜   「ここで私の知らない何かがあったんですよね」

私は空き地の一角に視線を投げる
茜は私の顔を見上げる
 茜   「あそこですか?」
 私   「ああ」
 茜   「あそこは、確か・・・あなたが古井戸に・・・・いえ、なんでも・・・」

記憶に蓋をする様に思い出す事を中断する茜 そして、その場を誤魔化す様に
 茜   「だから、嫌な思い出も無いよりはましです」
 私   「忘れてしまいたいと思う そんな思い出もあるんだろうな」
 茜   「だとしてもです」

先ほどの質問をもう一度繰り返す茜
 茜   「もう学校には行かないつもりですか?」
 私   「今は行けないな、賭けに負けたからね 当然賭代は保障されない
      もう・・・この空き地から出られないし」

私は傘を持ってない方の手を通りへ差し出す 差し出した腕の先が半透明になって消え始める
茜は驚いた様子は見せずに
 茜   「・・・なんだか不思議ですね こういう事 初めてじゃない様な気がします」

茜、雨空を見上げる
 茜   「大変な事が起きているんですよね でも、私は何が起きるのかを
      知っている気がします でも、ただ、哀しい気持ちだけが・・・・・」

茜の瞳から零れ落ちる大粒の涙
 茜   「いつまで、一緒に居てくれますか?」
 私   「ここにもそう長くは居られない」
 茜   「帰ってきてくれますか?」
 私   「約束は出来ない」

顔を下ろして私と向き合う茜
 茜   「・・・・その答えも知っていた気がします」

            ・
            ・
            ・
          暫しの沈黙
            ・
            ・
            ・

 茜   「教えてください 私は何を知っているんですか?」
 私   「茜自身が"無かった事"にしたかった出来事だろうな?
      でも茜は本当はその出来事を知っている」

茜は私が眺めていた空き地の一角に視線を投げる
一瞬、茜の脳裏に病院のベッドに横たわる自分と同じ姿の少女のイメージが走る
 茜   「それで(その出来事を思い出せば)あなたは消えなくて済みますか?」
 私   「無理・・・"城島司"という人物は初めから居なかったから」

今度は茜と詩子と男の子ともう一人 幼い頃この空き地で遊んだイメージが茜の脳裏に走る
 茜   「・・・司? 違う・・・・」

茜と同じ姿のもう一人が木の枝で男の子を殴り飛ばす
そこでイメージが砂の嵐になって途切れる
イメージの男の子と私の容姿とを見比べる茜
 茜   「あなたは・・・誰?」

小学生の頃、教室の隅でクラスメートに虐められている男の子のイメージが茜の脳裏に走る
茜と同じ姿のもう一人がおせっかいにもクラスメートへ突っかかっていく
彼女の方を振り向いた少年の顔は・・・・
 茜   「あ・・・・」
 私   「どうやら、時間の様だ」

手足の先から半透明になって消えていく私
 茜   「どうして・・・・」
 私   「まぁ、この空き地に残っていた最後の未練も無くなったからさ・・・・」

 茜   「待って」

私の持っていたピンクの傘がはらりと落ちる
私を抱き止めようとした茜の腕が空を掴む
しばし、空を抱き止めたままの格好で雨の中をたたずむ

            ・
            ・
            ・
           そして
            ・
            ・
            ・

空き地の一角に向かって駆け出し、雑草を掻き分ける
雑草の下から、丸く穴の開いた古井戸の基礎が顔を出す
茜は埋められた井戸の底に向かって叫ぶ
 茜   「姉さん! あの人を、蛍人を連れて行かないで!!」

声にならなかった私の最後の言葉が雨に舞う
   「この空き地に残っていた最後の未練も無くなったからさ・・・・そうだろ? 藍」

暗転

雲上の岩頂にたたずむ荒れ果てた神殿:(BGM:永遠)
その神殿の中 祭壇(一応「転生の祭壇」と言う名前らしい)の前に
アニスレイザと刹那とちはや 少し離れて私

 アニスレイザ「束の間の現世はどうだったかい?」
 私     「人を死人の様に言わないで欲しいな」
 アニスレイザ「時間の問題さ、いずれ言葉の通りになる」

アニスレイザの言葉を合図に私の方へ歩き出す刹那
 刹那    「どうして戻ってきた?」
 私     「約束だからな」
 刹那    「そんな約束・・・・破ってしまえばいいのに!!」

 私     「アカネが交わした約束だからな 刹那とちはやさんを助けると・・・・・
        それがアカネの願いなら」
 刹那    「っ!」

 アニスレイザ「まぁ、挨拶はそのくらいにして・・・
        そうそう、君の立会人には ちはやになってもらうよ」
 私     「お好きな様に、どのみちナブリ殺しにするつもりなんだろ?」
 アニスレイザ「人聞きの悪い事を言うなよ、作法に基づいた決闘なんだがな」

 ちはや   「今ならまだ間に合います、私と刹那さんの事は諦めて帰ってください
        あなたと刹那さん どっちが勝ったって・・・・・」

 アニスレイザ「彼に勝つ事 それは刹那の望みだ、その望みを叶える為に彼はここに居る」
 ちはや   「でも!」

 アニスレイザ「なら、ちはやが見た未来はどうだった? どちらが勝った?」
 ちはや   「それは・・・」
 アニスレイザ「そう、この勝負はデリケートな要因で勝敗が決まる
        刹那が勝つこともある、彼が勝つこともある、互いに倒れる事もある」

 私     「"神のみぞ知る"か? 悪い冗談だ」

アニスレイザが翼を広げて空中に浮かびあがる
 アニスレイザ「そろそろ、勝負を始めて貰おうかな
        両者構えて、いざ尋常に、1本目勝負!」

アニスレイザの掛け声共に短刀を抜いて私に斬りかかる刹那(BGM:偽りのテンペスト)
私は直線的な刹那の突進を小足払いで牽制する

バランスを崩しながらもバックステップで体勢を立て直す刹那
 刹那    「私は・・・私は幸せでした、演劇部も楽しかった・・・
        だから・・・だから トライ 私はもう十分です」

また、刹那は直線的な突進を繰り返す
私は刹那の突進を身体を90度回転させて半身でかわす
刹那の短刀が私を掠める 慌てて短刀を引く刹那

 私     「・・・・・まったく、刹那といい ちはやさんといい
        どうして私はこんなにも信用がないのかね?」

私は上空のアニスレイザを見上げる
 私     「あなたに負けるつもりでここに来たわけじゃ ないんだけどな」
 アニスレイザ「今の君の相手は僕じゃない」

アニスレイザはスッと手を上げ、刹那に攻撃を指示する
私に向かってまた直線的に突っ込む刹那
私は長巻を振り出して、その柄で刹那の短刀を受ける
 私     「まったく、信用が無いにも程がある」

短刀で長巻の柄を押し返そうとする刹那
ちはやは、アニスレイザに対峙する様に空に上がりながら
 ちはや   「アニスレイザ様があなたを一瞬で消し飛ばしてしまえる事を
        知っているから・・・だからその前に勝負を終わらせようとして」

アニスレイザと同じ高さまで昇ってちはやは止まり、光の鉾を振り出して構える
 ちはや   「アニスレイザ様 彼等を見逃すと言う約束を破るつもりですか?」
 アニスレイザ「おいおい 人聞きの悪い事は言わないでくれ
        彼に勝つ事は刹那の願いだ、それにここに来たのは彼の意思だ
        それに、彼等の意思ではじめた事までは責任もてんよ」
 ちはや   「それは詭弁です アニスレイザ様がそう仕向けています」

私は長巻の柄で短刀を刹那の腕ごと弾きあげる
 私     「長柄武器の基本は棒術にある」

腕を弾き上げられてバランスを崩した刹那の額を、長巻の石突で小突く
 私     「こういう近接戦闘の間合いは、意外と得意なのは覚えておいたほうがいい」

私は少し後ろに下がり、刹那との間合いを開ける
刹那が体勢を立て直すのを待って長巻で水平に薙ぐ
バックステップで難なく長巻をかわす刹那
 私     「この間合いが一番苦手だ、この間合いでは剣の重さのお陰で
        大抵の武器に振り負ける  ただし」

ブン!! 水平に薙いだ長巻の刃を翻して縦に振り、着地した刹那の目の前で刃を止める
 私     「これより広い、つまり普通の刀剣が届かない間合いは、長巻が一番得意な
        間合いだよ不用意に外側に回避はしないほうがいい」

刃を突きつけられた刹那は瞳を閉じて
 刹那    「・・・・・そのまま、突いて下さい」

チャキ 私は長巻の切っ先を落とす
刹那 その切っ先を閉じた瞳で追いながら
(長巻の動きと刹那の顔の動きのタイミングを合わせること)
 刹那    「私はトライに勝ちたい だけど」
 私     「勝てばいいさ それで刹那の気が済むなら勝てばいいのさ」
 刹那    「だけど私は・・・・」

背反する何かに耐える刹那
ニッと微笑むアニスレイザが呟く
 アニスレイザ「正義は何よりも優先する」

アニスレイザの呟きに反応して、私に向かって飛び込む刹那
私の懐で身体を180°反転し私に背を向けつつ、私の右の太ももに短刀を・・・・

 ちはや   「アニスレイザ様!!」

私は左足を軸に刹那が短刀を突き立てようとする右足を大きく引き身体を反転させる
半身ずらした状態で背中合わせになる私と刹那

 アニスレイザ「正義の為になら何でも・・・人殺しでさえも許されるのさ」

ピクっ アニスレイザの言葉に小さく反応する刹那、身体を私の方へ向きなおし猫手を振る
私と刹那の間に空間の裂け目が現れる
サイドステップで刹那の脇へ回り込む
私を一瞬見失って反応が遅れた刹那の足を私が払う

私の足払いを避けきれずに尻餅をつく刹那
刹那に手を伸ばす私、刹那は私の手を取ろうとしてためらう

 私     「刹那は誰よりも速い でも、自分で自分の視界を塞げばその隙に回り込まれる
        私は先読みをして先行入力をする、刹那はそれを見て反応すればいい
        私はまた先読みをする、刹那はまたそれを見て反応する・・・・・
        そのうち私には対処するだけの余裕が無くなる そうすれば刹那の勝ちさ」

私の話を聞いて刹那は私の手を取り立ち上がる双方間合いを取り直す
刹那は中距離の間合いから牽制しつつ私の攻撃を誘う

 アニスレイザ「君もかつては正義の為に彼の命を僕に捧げたんだ 刹那はどうするのかな?」
 ちはや   「せっちゃんはきっと・・・私とは違います」

私は長巻の刃を上にして肩に乗せ 刹那の誘いに乗って飛び込む
肩に乗せた刃を刹那に向かって縦に一振り 刹那はサイドステップで長巻の側面に回り込む

私は、長巻の振りを途中で止め、長巻の柄で懐に入り込んだ刹那を薙ぐ
刹那は長巻の柄を短刀で弾き上げて私の背後へと更に回り込む
私は右手を長巻の支点にして、刹那が柄を弾き上げた力で長巻を回転させ始める

刹那は背後から私に切り付ける
(刹那には微妙な表情をさせること:基本的には「勝ち誇った」でOK)

私は若干腰を浮かせてから、既に回転を始めている長巻を力任せに振りぬく
浮き気味になった私の足元が振り抜かれた長巻と反対方向に流れる
(AMBAC:質量移動による姿勢制御、いちおー私はこの地球上では人間にしか出来ない
 トリッキーな動きをします。)

予期していなかった私の水平移動に、背後からの刹那の攻撃が反れる
(ここでも刹那には微妙な表情をさせること:基本的には「安堵」でOK)

暗転(BGM:雨)

       空・・・・どこまでも高い空
       雲・・・・どこまでも白い雲

  私・・・・どこまでも・・・・小さな・・・私・・・
   刹那・・・とるにたりない・・・・・   モノ

            ・
            ・
            ・

 「そうでもないさ」・・・・・きっと、あなたはそう言う・・・

      でも・・・私は・・・・刹那・・・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

       誰に望まれる事もなく・・・・
       誰に求められる事もなく・・・
       誰に認められる事もなく・・・
       誰に惜しまれる事もなく・・・

            ・
            ・
            ・

 そして・・・・誰に傷つけられる事もない・・・・私は・・・刹那・・・・

            ・
            ・
            ・

    それ・・・なのに・・・・あなたは・・・・・
  ・・・・・だから・・・・私は・・・Limに・・・・なりたい

            ・
            ・
            ・

      誰に愛される事もなく・・・
      誰を愛する事もなく・・・

            ・
            ・
            ・

 ・・・・それでも・・・私は・・・Limに・・・・なりたい
 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・
 ・・・・・・・・私は・・刹那・・・・・・・・・・・・・
 それ・・・なのに・・・・私は・・・・・・・・・・・・・

            ・
            ・
            ・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

 ・・・・・だから・・・・私は・・・Limに・・・・なりたい
 ・・・・・それでも・・・私は・・・Limに・・・・なりたい

            ・
            ・
            ・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

        私の中のLimがそう言う
        Limは私の理想だから
           でも・・

            ・
            ・
            ・

           私は刹那・・
        Limは私の理想だから
         でも、私は刹那・・

            ・
            ・
            ・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

     Limでいる時     私は幸せだった
     Limを目指している時 私は幸せだった

     でも・・・理想の私は本当の私じゃない
     でも・・・Limは・・刹那じゃない

            ・
            ・
            ・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中のLimがそう言う・・・・・
 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

       誰に望まれる事もなく・・・・
       誰に求められる事もなく・・・
       誰に認められる事もなく・・・
       誰に惜しまれる事もなく・・・

            ・
            ・
            ・

 そして・・・・誰に傷つけられる事もない・・・・私は・・・刹那・・・・
 そして・・・・誰を傷つける事もない・・・・・・私は・・・刹那・・・・

            ・
            ・
            ・

    それ・・・なのに・・・・あなたは・・・・・
    それ・・・なのに・・・・私は・・・・・・・

            ・
            ・
            ・

 ・・・・・だから・・・・私は・・・Limに・・・・なりたい
 ・・・・・それでも・・・私は・・・Limに・・・・なりたい

            ・
            ・
            ・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中のLimがそう言う・・・・・
    それ・・・なのに・・・・私は・・・・・・・

            ・
            ・
            ・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中のLimがそう言う・・・・・
 「刹那のクセに」・・・・・・私の中のLimがそう言う・・・・・
 「刹那のクセに」・・・・・・私の中のLimがそう言う・・・・・

            ・
            ・
            ・

      ・・・私は・・・刹那・・・・
  誰を傷つける事もない・・・・・・私は・・・刹那・・・・
         誰を・・・・

            ・
            ・
            ・

         誰を・・・?

            ・
            ・
            ・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・
      ・・・私は・・・刹那・・・・
    ・・・・・・私の中の私がそう言う・・・

          「私は刹那」
         「刹那のクセに」
          「私は刹那」

       誰に望まれる事もなく・・・・
         誰に・・・?
         誰から・・?

            ・
            ・
            ・

    それ・・・なのに・・・・あなたは・・・・・
    それ・・・なのに・・・・あなたは・・・・・

            ・
            ・
            ・

       空・・・・どこまでも高い空
       雲・・・・どこまでも白い雲

  私・・・・どこまでも・・・・小さな・・・私・・・
   刹那・・・とるにたりない・・・・・   モノ

          「私は刹那」

            ・
            ・
            ・

 「刹那のクセに」・・・・・・私の中の私がそう言う・・・・・
    もういいよね 「私は刹那」なんだから

        そう思っていたのに
        もう諦めていたのに
        諦めていた筈なのに

    それ・・・なのに・・・・あなたは・・・・・

            ・
            ・
            ・

 「そうでもないさ」・・・・・きっと、あなたはそう言う・・・

           だから
            ・
            今
            ・
           私は刹那

       「だから 今 私は刹那」

(BGM:雪のように白く)

 刹那  「蛍人 覚悟!」(この台詞は迷い無く言い切る事)

長巻を振り抜いた反動を使って方向転換した私に向かって飛び込み、間合いを詰める刹那
長巻を構えなおす私

私が構えた長巻の切っ先に短刀を合わせて 流す刹那
長巻の柄を起こして接近戦に備える私

刹那は長巻の柄を起こした私を見て、小さくバックステップして中距離の間合いを取る
起こされた長巻の柄が止まり、再び動き始めるタイミングで
長巻の柄の動きとは反対の方向から間合いを詰める

回避運動の逆を突かれた私の反応が遅れるが、それでも柄と反対側
つまり刹那の方に動き始めている刃を振り上げる

ただ、牽制の為に振り上げられた刃かわして、私の側面より斬り付ける刹那
私は振り上げた刃をカウンターウエイトにして、半周させた長巻の柄を
刹那の短刀に合わせる

左の猫手を振り空間の裂け目を作り、そこに短刀を打ち込む
長巻の柄は短刀を打ち込んだ反対側から裂け目に入り短刀を受け止める事無く空振りする
私の背後にもう一つ空間の裂け目が現れそこから短刀が逆袈裟に斬り付ける

私は空振りした長巻を更に力任せに振り抜いて、長巻の反動を利用した回避を試みる
今度は回避が間に合わず短刀が私の脇腹を掠める

 私   「それでいい 刹那 そう、相手の行動を見て冷静に判断すればいい」
 刹那  「蛍人 そんなに余裕見せてていいの? 次は外さないわよ」

私と刹那 互いに間合いを取り直し構える

上空:私と刹那の戦いを観戦するアニスレイザとちはや(BGM:永遠)
バックに殺陣を演じる私と刹那

 アニスレイザ「ちはや どうだい? 彼らが互いに殺し合う様を眺める気分は?」
 ちはや   「どうして・・・・せっちゃん達をそっとしておいてくれないのですか?
        彼等はただ平穏な日々を望んでいただけです」

 アニスレイザ「だからだよ だからこそ彼等には戦って貰っている
        それに・・・だ 僕には君の願いも叶える用意もある」

 ちはや   「話が違います 私がアニスレイザ様の下に戻れば見逃すとおっしゃったから」
 アニスレイザ「その願いは既に叶えた 彼が今まで犯してきた罪は不問としよう
        しかしだ これから犯す罪まで見逃す約束はした覚えはない」

 ちはや   「アニスレイザ様!  これ以上私に一体何を!!」

祭壇:戦闘中の私と刹那(BGM:雪のように白く)

私は長巻を顔の横に刃を上にして構えた状態から、刹那に向かって平突きを放つ
左腕を身体の外側に振り、その反動を使い右手のみで長巻を押し出す
刹那は長巻の切っ先を半身をずらしてかわし私の懐に入り込む

私は右手のひらの上で長巻の柄を滑らせ柄口を掴む、そして左足を引き身体を半回転させ、
懐に入り込んだ刹那の後頭部を長巻の石突きで付く
刹那は腰を落として長巻と私の右腕の下を掻い潜り短刀を私の喉元に突き上げる

私はまた右手のひらの上で長巻の柄を滑らせ石付を掴み、外側へ大きく振る
長巻の反動で私の身体が左に流れ、刹那の短刀が空振りする・・・・が
刹那は短刀に両手を添えて頭上から私の顔面に向けて突き降ろす

息を呑むちはや フっと不敵な笑みを漏らすアニスレイザ  白転

白転(ホワイトアウト)後 一面が真っ白のままで(BGM:A Tair)

            ・
            ・
            ・
          暫しの沈黙
            ・
            ・
            ・

 刹那    「私の勝ちね」

白転の状態から、通常の風景に戻る

 私     「上出来だ 刹那」

私の額で短刀を寸止めにしている刹那(BGM:遠いまなざし)
アニスレイザ上空から
 アニスレイザ「さぁ 刹那 君の一番大切なモノを捧げよ さすれば白き翼を授けよう」

刹那は短刀を寸止めした姿勢のまま
 刹那    「なぜ? 私が一番欲しかったモノは手に入れたわ」

刹那は短刀を下ろし鞘に収める

アニスレイザは私にも同じ様に言う
 アニスレイザ「ならば 蛍人 君に白き翼を授けよう  さぁ」

私、立ち上がりながら
 私     「断る  それに欲しいモノがあれば実力で取りに行く」

ゆっくりとアニスレイザを見上げる私
 アニスレイザ「そうか闘うか・・・・ 蛍人 君は何故闘う?」
 私     「目の前に許せない奴がいる・・・・・」
        (この台詞は出来るだけ静かに、出来るだけ不気味に)

 アニスレイザ「君が翼を受け取れば全てが丸くおさまったモノを」
 私     「身使いの翼も悪魔の翼も要らない  見果てぬ空に憧れたヒトには
        全てのしがらみを断ち切って舞い上がる為の・・・・鋼の翼がある!」

 私は長巻を水平にして構える

         愛は光、すべてを切り裂く激情の刃
         優しさは闇、すべてを飲み込む底無しの檻
         人の魂の底に眠る砕かれし夢のかけら
         その無念我が元に集いて形となれ

私は長巻を大地に突き立てる
 私              「黒揚羽 換装」 (これも出来るだけ静かに不気味に)

長巻が背景に溶け込むように消え
私の周りにどこからとも無くガシャガシャと機械部品が集まって人型を形成する
背中に二つ折りのロングバレルキャノンと折りたたみ式の翼を携えた黒鋼(くろがね)の機体
2ndの黒揚羽と違うのは左肩に肩アーマー兼用の肩から膝まではあろうかと言う
巨大な盾を装備しており、その盾の頂頭に棒状の突起がある

黒揚羽が黒鋼の翼を開くと砂塵が発光して舞い上がり 機体がふわりと浮く(BGM:鳥の詩)

        消える飛行機雲 僕たちは見送った     *

ブンっ一段と大きく発光する砂塵を巻き上げて、アニスレイザへと突進する黒揚羽

 ちはや 「えっ!?」

黒揚羽が巻き起こす突風に煽られてバランスを崩したちはやが落ちる
黒揚羽は左肩の突起に右手をかけ、肩アーマーに内装されていた両刃の剣を引き抜く
アニスレイザはツヴァイハンダー(両手持ちの西洋大剣)を右手で振り出し
黒揚羽の打ち込みをツヴァイハンダーだけで受け止める
そして、左手から黒揚羽に光弾を放つ(アニスレイザの動きは優雅にかつ威圧的に)

        眩しくて逃げた いつだって弱くて     *

黒揚羽は機体を翻して光弾を避け、少し離れた場所で両手で剣を構えたまま
キャノンを腰溜めで振り出しアニスレイザ目がけて真紅のビームを放つ

ちはやはバランスを立て直して祭壇の脇に着地する

 ちはや 「黒揚羽って・・・・」
 刹那  「蛍人は本気 本気でアニスレイザ様を」

 ちはや 「だけど・・・」
  アニスレイザ『でも彼の方から手を出してくるのなら話は別』(ちはやの回想)

 ちはや 「だけど、アニスレイザ様は一瞬で彼を消し飛ばすことが出来る・・・」

        あの日から変わらず いつまでも変わらずに *

アニスレイザはツヴァイハンダーの一振りで黒揚羽のビームを四散させる

 アニスレイザ「そうだ、僕はこれを待っていた これでやっと君を葬ることが出来る」

また左手から黒揚羽に向けて光弾を放つ
黒揚羽はキャノンを後へ振りその反動で機体を前方向へ回転させ光弾をしのぎ
鋼の翼から粒子光を一段と輝かせアニスレイザに向かって突進する

両手に構えた剣の柄がテレスコ状に伸び、刀身が鎬から左右に分かれて水平に展開する

 黒揚羽   「バスターブレイド」(この辺の台詞は基本的に"渋く"だよ 悪役だからね)

黒揚羽の掛け声で水平に展開した刀身の界面から巨大な光剣が出現する

大きく開いた鋼の翼に粒子光を纏わせながら黒揚羽はアニスレイザへ向かう
黒揚羽自身の全長の数倍はある刀身のバスターブレイドをアニスレイザへ叩きつける

        いられなかったこと 悔しくて指を離す   *

アニスレイザは先程と同じに右手に握ったツヴァイハンダーのみでバスターブレイドを
受け止める
ツヴァイハンダーに受け止められたバスターブレイドが火花を上げる

 アニスレイザ「もう一度聞こう 蛍人 君は何故闘う?
        君には君へ与えた役割を果たす事を望まれている
        それを果たそうともせず 何故反発をする?」
 黒揚羽   「だからこそだ、だからこそ叶えてやるわけにはいかない
        その望み、小さき者達、力無き者達のささやかな願いを踏みにじる」

 アニスレイザ「傲慢な そして愚かな  君のその力 誰が授けたモノだと思っている?」

ツヴァイハンダーが、黒揚羽のバスターブレイドに食い込んでいく

        あの鳥はまだ上手く飛べないけど      *

 黒揚羽   「力は所詮・・・力だよ どんな力あれ、使えるモノならば使うだけ」
 アニスレイザ「そう・・・そうであるからこそ、君は危険なのだ」

アニスレイザはツヴァイハンダーに左手を添えて、一振りでバスターブレイドの光剣を斬り払い
剣に添えた左手を剣から離し黒揚羽へ向かって光弾を放つ

黒揚羽はキャノンを前に振り、その反動で機体を後ろへ回転させ光弾を避けつつ
正面を向いたキャノンから真紅のビームを放つ
アニスレイザはスッと身体を水平移動してビームを避けるが間に合わずに頬を掠める

 黒揚羽   「それで間に合う・・・か」("意味不明"となる様に表現すること)

祭壇:黒揚羽とアニスレイザの戦闘を見上げる刹那とちはや
刹那が黒揚羽の言葉に反応する

 刹那    「・・・時間を計っている」
 ちはや   「時間って?」
 刹那    「蛍人はアニスレイザ様が蛍人の動きに追いつけなくなる時間を計っている」

上空:戦闘中の黒揚羽とアニスレイザ
黒揚羽は機体を回転させながら飛行形態に変形し、両翼から粒子光を上げてアニスレイザの
頭上に舞い上がる

        いつかは風を切って知る          *

アニスレイザがビームが掠めて出来た頬のやけどを左手でなぞると火傷は跡形も無く消え
そして、頭上の黒揚羽に向けて光弾を連射する

黒揚羽は光弾の発射に呼応して期待の速度を上げる 黒揚羽の後方を光弾が抜けて行く

 アニスレイザ「それで避け続けられるつもりか?」

アニスレイザは右手のツヴァイハンダーを天にかざす 黒揚羽の後方を抜けて直進していた
光弾の起動が花の様に開き、黒揚羽に追従しながら包み込む様に取り囲む

 アニスレイザ「逃げ場が無くなればどうする?」

アニスレイザは天にかざしたツヴァイハンダーを振り下ろす それを合図に黒揚羽を取り囲んで
いた光弾がいっせいに黒揚羽に向かう

 黒揚羽   「だが、それぞれは一発一発の弾だ
        擦り抜けられる隙間が有るうちに擦り抜ければいい」

更に加速し、正面からの光弾をローリングでかわしつつ包囲陣を突破する黒揚羽
一旦、黒揚羽が居た筈の場所に収束した光弾は花火の様に四散するが
また黒揚羽を包み込む軌道に戻る

 アニスレイザ「君を追うモノは次第に増えていくよ いつまで逃げ切れるかな」

アニスレイザは光弾を打ち続け黒揚羽を取り囲む光弾は次第に数を増していく
光弾の収束、黒揚羽の回避、光弾の四散を繰り返す中 遂に光弾が黒揚羽を捕らえる

 アニスレイザ「これで終わりだ」

次々と光弾に撃ち抜かれ爆散する黒揚羽

        届かない場所がまだ遠くにある       *

祭壇:爆散する黒揚羽を見上げる刹那とちはや

 ちはや   「そんな・・・そんなことって」

刹那は動じもせずに呟く

 刹那    「まだ・・・まだ蛍人は終わらない」

        願いだけ秘めて見つめてる         *

上空:爆散しながら墜落していく黒揚羽を見下しているアニスレイザ
落ちていく黒揚羽を視線で追っているアニスレイザの頭上に空間の裂け目が現れる
そして、裂け目から落ちてきた私が長巻でアニスレイザに袈裟懸けで切りつける

 アニスレイザ「ぐっ!!」

不意を突かれたアニスレイザがうなり声を上げ
私は足元に鏡を出現させ鏡の上に着地(?)する

 私     「空蝉天舞」

着地体勢からゆっくりと立ち上がる(ここの芝居はケレン味たっぷりに)

 私     「まずは一太刀目」

        子供たちは夏の線路 歩く         *

祭壇:
私の無事な姿を見て安堵するちはや

 ちはや   「まったく・・・脅かさないでよ」

ちらっと一瞬ちはやの方に視線を投げて、すぐに上空に視線を戻す刹那

上空:
アニスレイザは肩口の傷から手を離しつつ、ぽっかりと開いた傷口を塞いでいく

 アニスレイザ「僕の不意を付く事は出来ても、僕に致命傷を負わせる事は出来ない
        君の力は所詮その程度さ」

 私     「そんな事最初から判っている 私を一瞬で消し飛ばせるのだろう?
        なら一瞬で消し飛ばして見せろ!」

私の言葉に呼応して光弾を放つアニスレイザ
私は足元に空間の裂け目を作りそこへ逃げ込む
再び、アニスレイザの頭上の裂け目から落ちて来る私
アニスレイザは体をかわして、私の斬撃を避ける

        吹く風に素足をさらして          *

 アニスレイザ「愚かな」

私は再び足元に足元に空間の裂け目を作りそこへ逃げ込む
そしてまたアニスレイザの頭上の裂け目から落ちて来る

アニスレイザの頭上からの落下を何度無く繰り返す内に、私の落下速度が上がってくる
(まぁ・・・グルグルとループしつつ落ち続けているわけですから)

空間の裂け目から落ちて来る私を狙ってツヴァイハンダーを構えるアニスレイザ

 アニスレイザ「なんとかの一つ覚えでもあるまいに」

祭壇:
剣を構えるアニスレイザを見て刹那が見透かした様に呟く
 刹那    「次は下から上に落ちる」

先ほどからブツブツと呟く刹那を不審に思ったちはやが尋ねる
 ちはや   「せっちゃん、さっきから何か変よ どうしたの?」

またチラッと一瞬だけちはやの方に視線を投げて、またアニスレイザに視線を戻す刹那

        遠くには幼かった日々を          *

上空:
アニスレイザの注意が頭上の裂け目に向いている中
逆立ちした体勢で私が落下速度を保ったまま足元の裂け目から
上に登る状態で私が飛び出してくる
そして、上下逆の体勢のままアニスレイザに斬り付ける

 私     「二太刀目」

私は足を上に向けた体勢のまま足元に鏡を出して落下速度(見た目は“上昇速度”)を
落としながら着地する

アニスレイザは私に斬られた脇腹を押さえながら光弾を乱射する
私は空中に鏡で足場を作りながら、光弾を避けつつ飛び移りアニスレイザとの間合いをとる
アニスレイザは私との間合いが十分に開いたところで、脇腹から手を離し傷口を塞ぐ

 アニスレイザ「まさか落下の方向を上下逆にするなんて思っていなかったよ」
 私     「こっちの手駒は少ないんでね あれで虚を突けるのなら突いてみるさ」

 アニスレイザ「しかし、いくらあがいても君に決定力が無い事実は変わらない」
 私     「勝算が無いわけじゃないさ、貴方が回復に掛かる時間だけ間合いを確保する
        必要が有るのなら、回復する間を与えずにナマス斬りにするのもよさそうだ」

 アニスレイザ「フッ なら試してみるかい?」
 私     「やめておくよ こっちは光弾一発掠めただけで終わりなんだ
        乱戦に持ち込むなんてリスクが大きすぎる」

 アニスレイザ「なら、そろそろ君には消えてもらおう 些か飽きたよ」

すっと左手を上げ光弾を放つアニスレイザ

 私     「アクティブ・シールド」

私の前面に展開した光の波紋がアニスレザの光弾を打ち消す
アニスレザは光弾が阻止されたにも拘らず、2発目の光弾を放つ
2発目の光弾はアクティブ・シールドを貫く
私は冷静に半身を引いてシールドを貫いた光弾を避ける

 私     「アクティブ・シールドが出力(パワー)負けするとはね・・・・
        ま、それなら被弾傾始を付けるまで」

        両手には 飛び立つ希望を         *

二つの光の波紋を組み合わせて楔形の傾斜装甲を形成する
アニスレザの光弾は、シールドの斜面に弾かれる

 アニスレイザ「賢しい小細工だ その盾に(光弾が)直交すればいいのだろう?」

アニスレザは2発の光弾を放つ、光弾はそれぞれ左右のシールド斜面に弾かれて軌道を変え
そのまま大きく弧を描きシールド面に直交する角度から再突入する

鏡の足場を蹴ってアニスレイザに踏み込む私

 私     「弾道を迂回させたから正面がガラ空きだよ」
 アニスレイザ「だから“賢しい”と言っている」

正面から突進してくる私に向けて3発目の光弾を放つ

        消える飛行機雲 追いかけて追いかけて   *

光弾の発生と同時にアニスレイザの目の前に空間の裂け目が現れ光弾を飲み込む
飲み込まれた光弾がアニスレイザの背後に現れた別の空間の裂け目からアニスレイザを襲う

背後からアニスレイザを襲う光弾 そして正面から斬り込む私

 私     「三太刀目・・・・と言うより光弾の方がダメージは大きいかな?」

また傷口を回復させるアニスレイザ

 私     「私の実力では届かない相手だと言うのなら より強力な力を利用するのみ
        力は所詮力だよ それに私は貴方が反応出来ない至近距離から
        貴方の死角を狙う事が出来る」

チラッと祭壇の刹那に視線を向ける

 私     「私の相棒は貴方よりも遥かに速い」

        この丘を越えた あの日から変わらず    *

 アニスレイザ「だが、私を倒す事の出来る力がここに無い限り 君に勝ちは無い」

アニスレイザはツヴァイハンダーを構え、そして一気に私と間合いを詰める
私は半身を引いてアニスレイザの斬撃を避ける
縦一文字(西洋ではどう呼ぶ?)を避けられたアニスレイザはツヴァイハンダーで水平に薙ぐ
私はアニスレイザの薙ぎをサイドステップでかわしつつ、足元に出現させた鏡に着地すると
同時に、鏡を蹴ってアニスレイザに斬り込む

アニスレイザはツヴァイハンダーを振り抜いた姿勢のまま後方に水平移動して
私の斬り込みから逃げつつ、牽制の光弾を放つ
私は、空間に出現させた鏡に次々に飛び移りながら後退するアニスレイザを追っていく

        いつまでも真っ直ぐに僕たちはあるように  *

祭壇:
光弾を避けつつアニスレイザを追う私を見て刹那が呟く

 刹那    「空中に足場を置いた高機動空間戦闘 アニスレイザ様はああいう鋭角に
        軌道を変える動きには慣れていない」

ちはやは様子のおかしい刹那を心配しつつ

 ちはや   「せっちゃん・・・さっきから何を言っているの?」

刹那は私を見上げたまま

 刹那    「私は・・・・」

上空:
アニスレイザ 後退しながら、ツヴァイハンダーを振り抜いた姿勢を戻しつつ

 アニスレイザ「それが彼女の力か?」

 私と刹那  「機能特化した複数のプロセッサによる並列分散処理
        シングルプロセッサで重い処理を捌いている貴方とは
        個々の処理のリアルタイム性に大きく差が出る」

 アニスレイザ「ならば!」

私が次の鏡へ飛び移ろうとした直後、アニスレザは私の進行先にある鏡をツヴァイハンダーで
薙ぎ払う、足場を失った私はジャンプ中の体制のままで足元に別の鏡を出現させ
そこからアニスレイザが薙ぎ払った鏡を飛び越える

 私     「私は貴方の動きを見てから対処すればいい
        刹那は極限まで贅肉を削ぎ落とした処理系を持っている
        多機能化の結果ぶくぶくと肥大化したOSで動いている私や貴方とは違う」

祭壇:

 刹那    「私は・・・・だから 今 私は刹那 ゲームの中にしか居場所が無かった私
        そんな私が嫌で私を変えようとした私 それでも変えられなかった私
        私を変えられない私に絶望した私・・・
        そんな私を私達をただ一人認めてくれた人・・・・だから」

 ちはや   「ッ!」

ちはやは改めて手に持った鉾の柄に染み付いた赤黒い染みを見つめる

 ちはや   「ただ一人認めてくれた人・・・・だから私は守る でも、私は守れなかった
        神代の家に生まれた私をただ一人の人として・・認めてくれた人だったのに」

鉾の白木の柄を抱きしめるちはや

        わたつみのような強さを守れるよ きっと  *

ネットゲーム受付ロビー:
場末の酒場の雰囲気が漂うロビーに独り佇む戦闘服姿の刹那

神代道場:
道場で白木の木刀を素振りするちはや

商店街のはずれ 寂れた未認可のゲームセンター:
アップライト筐体で名も知らぬ相手と格闘ゲームをする刹那

登山部室:
人気の無い部室で備品の整理をするちはや

商店街:
道すがら、干し芋を頬張る刹那

校舎中庭:
登山部員達と楽しげ雑談するちはや

校門:
校門の前で見ず知らずの他人の様にすれ違う刹那とちはや
すれ違った後、何かに気付いた様に互いを振り返る

        あの空を回る風車の羽根たちは       *

上空:
鏡から鏡へと飛び移り、アニスレザの光弾を避けつつ長巻で斬りつける私
ツヴァイハンダーで私をあしらいながら、何かを測る様に光弾を乱射するアニスレイザ

 アニスレイザ「君達が十分に速い事はよく判った しかし、君達に私を倒すに足る力を
        持っていない事実にかわりはない」

その場に静止し半身を反らして光弾を避ける私

 私     「私の勝利条件は貴方を倒す事じゃない」
 アニスレイザ「では、君達の勝利条件とは何だ?」
 私     「時間さ・・・」

不敵にニッと微笑む私

 私     「私が愛した人達、私を愛してくれた人達が一生を終えるのに必要な時間
        そう、100年程の時間を貴方から掴み取る事が出来れば私の勝ちだ」
 アニスレイザ「ほう? 面白い どうやってその時間を私から手に入れる?」

 私     「100年は身動き出来なくなる様な傷を負わせてやるよ
        貴方にとって100年は瞬きする程の時間だろうが、
        私に取っての100年は十分な時間さ」

アニスレイザは私を嘲笑する
 アニスレイザ「ふっ 今の君が私に付ける傷ではせいぜい数秒だな 
        ふふっこのまま100年戦い続けるとでも言い出すのかと思ったよ」

私も嘲笑を嘲笑で返す(性格悪いなぁ)
 私     「ふ 貴方が私に勝つ自信が無いのならそれでもいいさ
        100年の時間が手に入るなら、手段はどうでもいい」

        いつまでも同じ夢見る           *

祭壇:
光の鉾を抱きしめていたちはやが意を決した様に顔を上げる

 ちはや   「アニスレイザ様! 蛍人! 二人共剣を収めて下さい!!
        アニスレイザ様 私との約束を守って下さい どうすれば
        二人を見逃して下さいますか?」

アニスレイザはヤレヤレという表情でちはやを見下しながら
 アニスレイザ「私に剣を向けた罪 万死に値する」
 ちはや   「剣を向けた罪・・・・」

ちはやは少し思案して
 ちはや   「では、彼が剣を収めれぱ見逃して下さいますね?」
 アニスレイザ「そうだな、彼が先に剣を引くのなら考えてやってもいい」
 
ちはやは私に向かって
 ちはや   「蛍人! 剣を収めて下さい!!」
 私     「断る」
 ちはや   「このまま戦い続ければ・・・・
        アニスレイザ様は蛍人を一瞬で消し飛ばす事が出来ます」
 私     「一瞬・・・ね」
 ちはや   「だから!」
 私     「それでも断る!」

        届かない場所をずっと見つめてる      *

上空:
 アニスレイザ「まったくもって強情な・・・君が剣を引くだけで見逃そうと言っているのに」
 私     「剣を引くことで負けを認める意思表示をすれば見逃すと?」
 アニスレイザ「どの道 君達に勝目は無い」

私はアニスレイザを嘲笑して
 私     「ふ むしろ攻め手に欠いているのは貴方の方では?
        貴方が今の攻めを続ける限り私は永遠に避け続けることが出来る」
 アニスレイザ「愚かな 僕が何の策も無く空撃ちを続けて・・・・」

私はアニスレイザの台詞を遮りつつ
 私     「私を消し飛ばすなんて簡単さ、貴方には私の回避運動の様子を十分に見せた
        そう、私の回避運動の行動範囲より広いに範囲に私を消し飛ばすに十分な
        威力の攻撃をすればいい、広範囲かつ大出力それだけの話」

        願いを秘めた鳥の夢を           *

祭壇:
 ちはや   「だから! 意地を張らずに剣を引いてください!!
        せっちゃんからも蛍人に何か言って!」
 刹那    「蛍人はまだ諦めていない」
 ちはや   「なにをやったってアニスレイザ様には通用しない」

上空:
 私     「いいや、最初から私の勝ちは決まっていたさ それが辛勝になるか完勝に
        なるかの違いしかない、どう転んでも私の勝ちだ」

私は、つっと空を見上げる

        振り返る 灼けた線路覆う         *

 アニスレイザ「100年を手に入れることが君の勝利条件だったな・・・
        しかし“必勝”とは・・・この状況では虚勢にもならんな」
 私     「“完全勝利”のためには でも、刹那を取り戻せれば
        とりあえずの目的は果たせる そしてソレは果たした 
        後は完全勝利を目指すのみ」

 アニスレイザ「君が倒れた後に、僕が彼女を見逃すとでも思っているのか?」
 私     「いいや、“刹那は私に勝った”その事実さえあればいい
        闇は力を好む 悪意を統べるモノ この無間地獄から逃れる方法は一つ」

私は自嘲して冷笑する
 私     「私が倒されればいい、闇は私を倒した者へと引き継がれる・・・・が
        流石に貴方へは引き継がれないだろう なら、ソレは私に勝った
        刹那へと引き継がれる 悪意を統べるモノを聖剣士にも御使いにも出来まい
        ましてや、刹那を倒せば今度は適任者がいなくなる」

私アニスレイザに向きなおす

 私     「私が倒されようが、生き残ろうが、刹那だけは返して貰う」
 アニスレイザ「君はその宿命を彼女に科すことを勝利と言うのか?」
 私     「ああ、貴方に子飼いされるよりは自由はあった」(ここは過去形で)

私はちはやへと視線を流す

 私     「次はちはやを貰い受ける」

        入道雲 形を変えても           *

祭壇:
刹那は目を伏せる
 刹那    「蛍人・・・だから私の勝ちにこだわって」
 ちはや   「なにをやったってアニスレイザ様には通用・・・・」
 刹那    「蛍人は絶対に諦めない・・・どんな手段を使ってでも諦めない
        ちはやさんを取り戻すと言ったら絶対に取り戻す」

 ちはや   「だって、蛍人は自分から・・・自分を倒す方法を晒して」
 刹那    「そんな事、アニスレイザ様はとっくに気付いていたわ
        だから蛍人の動きを光の弾で測っていた」
 ちはや   「なら、勝目なんてもう残ってない・・・・」

 刹那    「私にはまだ、“蛍人を信じる”って選択肢が残ってるわ」

        僕らは憶えていて どうか         *

上空:
 アニスレイザ「まあいい、これから君は? もう逃げ続ける事も出来ないが」
 私     「私を消し飛ばせば? ふ、ただで消されるつもりは無いが」

私は帯状の空間の裂け目を出して、左手の動きに合わせて振り回して見せる

 私     「結局物質は空間上に存在する、ならその空間を物質ごと切り裂けば
        こいつで切れないモノは何も無い」
 アニスレイザ「それで、私に100年の深手を負わせられるとでも?」

 私     「ま、無理だろうな、貴方の身体を切り裂いたとしても、回復にかかる
        数秒を稼げるだけなのは長巻で斬った時に判っているし
        それに、重さの無い剣を振り回したりしたら、絶対に貴方には勝てない」
 アニスレイザ「ほう、それは何故?」
 私     「同じ条件で戦うには、貴方と私とでは機体の基本性能が違いすぎる
        共に重さの無い剣で戦えば勝目は無い」

 アニスレイザ「重さの無い剣とは妙なところに目をつける」
 私     「そんな大きさの両手剣(ツヴァイハンダー)を片手で振り回してれば
        剣に重さがないか、貴方がとんでもないマッチョかのどちらかだ
        でも、私の長巻には重さがある 重さがあるから、足場無しで振れば
        反動で体が流される、足場あれば当然流されない」

 アニスレイザ「それで?」
 私     「別に・・・貴方の攻撃が私に当たるなら反動を利用して避ける
        貴方が反動を利用すると読んでいるなら利用せずに避ける
        重さのある剣ならそういうデリケートな姿勢制御が出来る」

ブンっ私はまた帯状の空間の裂け目を振り回す
 私     「そう、貴方とは違う条件で戦うなら、こちらの選択肢は幾らかは増える
        ソレが勝機に繋がるさ」

ブン、ブン、ブン帯状の空間の裂け目を一段と振り回す
 アニスレイザ「言いたいことはそれで終わりか? 遺言にしては・・・・」

        季節が残した昨日を            *

私はアニスレイザの言葉を遮る
 私     「私はデリケートな制御が出来ると言ったつもりなんだけどな」

帯状の空間の裂け目は私の背後で同心円状に2重、3重と広がりながら展開する
 私     「エターナル・レンズ そう名付けてみた」

私は自嘲気味に笑う
 私     「私を消し飛ばすのなら、広範囲に大出力の攻撃をすればいい
        なら、私は消し飛ばされる一瞬にその攻撃を収束して貴方にぶつける
        私は貴方が反応出来ない至近距離から貴方の死角を狙える
        1点に収束されたソレは100年分のダメージを与えるには十分だと思うよ」

 アニスレイザ「しかし、それでは君自身も助からんな」

 私     「その時は私に・・・・“一瞬と言う時間”を
        “刹那”を与えた事を後悔させてやる」

        消える飛行機雲 追いかけて追いかけて   *

 アニスレイザ「何故 君は手の内を明かす? 私が警戒しては意味は無いだろうに
        不意を突けば君の望みは成ったかもしれないというのに」

私は悪徳商人越後屋風味で
 私     「抑止力は誇示してこそ抑止力としての意味をなす」

呆れる一同
 アニスレイザ「・・・抑止力? いままでの事は全てそのための布石だと・・・・
        痛い目に遭いたくなければ、彼女等を置いて帰れと言うか」

        早すぎる合図 二人笑い出してるいつまでも *

 アニスレイザ「まさかな こんな取引を持ち出してくるとは思って無かったよ」

しばし考えるアニスレイザ

 アニスレイザ「わかった」

アニスレイザは神殿のちはやの方を向き

 アニスレイザ「ちはや、お前の願いを叶えてやろう
        お前はその願いの代償に何を差し出す?」

ちはやは私と刹那の顔を交互にみる そして
 ちはや   「今の私にとって、一番大切なものを」

光の鉾の矛先を自分の胸にあてがいながら、天に向けて大きく胸を反らす

ちはやの方へ向かおうとする、私と刹那 しかしその進路を見えない壁に阻まれる

 私     「っ!」
 刹那    「ちはやさん!」

 アニスレイザ「君達はよく頑張った、そして存分に楽しませて貰った
        それに免じて君達のことは見逃す事にしよう
        でもね、ちはやまで君達に渡すわけにはいかない」

 私     「まだだ」

私は自分の背後に展開している空間の裂け目の中に姿を消す・・・が
何処にも移動出来ずに同じ裂け目からまた姿を現す

 アニスレイザ「無理だな 至近距離なら僕は反応出来ない
        なら、至近距離でなければ僕は反応できる 君が言った事だよ
        まぁ君達をちはやの所へは行かせない様にするぐらいは簡単さ」

私は無言のまま、帯状の空間の裂け目で見えない壁を斬り付ける

        真っ直ぐに眼差しはあるように       *

帯状の空間の裂け目は見えない壁に触れている部分からかき消されてしまう

 アニスレイザ「裂くべき空間が無限に収縮し続けるなら そこに出来た裂け目も
        空間ごと収縮し消える そして収縮し消え行く空間の流れが壁になる
        ふふふ 諦めないのなら“無駄な抵抗はよせ”と言ってやってもいい」

ちはやは胸にあてがった矛先ゆっくりと持ち上げ静かに目を閉じる

 刹那    「ちーちゃんやめて!」

拳を見えない壁に叩き付ける刹那
ちはやは頭をかしげて刹那の方を向き首を横に振る

 ちはや   「願い事はタダで叶ったりはしないわ、その代償は・・・・
        神頼みをする時の代償には、生贄が要るの!」

まだ帯状の空間の裂け目を見えない壁に叩きつけている私

 私     「だから私は何も望まない、何も願わない 失うモノの方が大きすぎる
        欲しいモノがあるならこの手で、この手だけで掴み取る!!」

白木の柄を握る手を伸ばしきったちはやは・・・・・

 ちはや   「アニスレイザ様、今度こそ二人を、せっちゃんと蛍人を今度こそ本当に!」

見えない壁に向かって猫手を振る私
ちはやは矛先を天に向けて反らした自分の胸に突き下ろす

 刹那    「ちーちゃぁぁぁぁん!!」

        汗が滲んでも 手を離さないよ ずっと   *

祭壇:
光の鉾に胸を串刺しにされたちはやを抱きかかえる私

 アニスレイザ「蛍人 君のやり方では物事が手遅れになる場合も多々あるだろう」

ちはやを貫く鉾の柄をつたって鮮血が流れ、白木の柄に残っていた赤黒い染みを押し流し一滴
・・・・大地に落ちる

何かにハっとする私

 アニスレイザ「しかし、どうやってあの壁を越えたのか教えて欲しいものだ」

まだ鏡で作った足場が残る空中に視線を移すアニスレイザ

 アニスレイザ「そうか・・・壁に穴を開けて、その穴が消える一瞬に飛び込んだのか・・・」

私が見えない壁に猫手を振って、壁に空間の裂け目を作る場面の回想

 アニスレイザ「だから穴が押し流されて消える時間を測っていたのか」

私が帯状の空間の裂け目を壁に叩きつけ続けている場面の回想

        消える飛行機雲 僕たちは見送った     *

私の腕に抱かれたちはやの背中から更に一組2枚の純白の翼が現れる、そしてまた一組、
一組と続けて翼が現れ ちはやの背中に薄汚れた6枚の翼とは別に8枚の純白の翼が広がる

その8枚の翼がゆっくりと上昇をはじめ 翼に引かれて翼と同じく純白の衣を纏った
無表情なちはやが腕の中のちはやの身体から抜け出してくる

もう一人のちはやが腕の中のちはやから完全に抜け出ると、腕の中のちはやは霧散して消え
胸を貫いていた光の鉾がストンと落ち地面に刺さる

 刹那    「ちーちゃん!、ちーちゃん!、ちーちゃぁぁぁぁん!!」

半狂乱になりながら、拳を叩きつけ叫ぶ刹那

鉾のクローズアップ、白木の柄に赤黒い染みは無い

アニスレイザの方へ登っていく8枚羽のちはや

 刹那    「ちぃ・・・・ちゃん・・・・」

刹那は見えない壁に拳を打ちつけた格好でよりかかる

        眩しくて逃げた いつだって弱くて     *

刹那を取り囲んでいた見えない壁が消え 刹那は大地に崩れ落ちる
刹那の目の前に地面に刺さった光の鉾がある

アニスレイザは8枚羽のちはやを連れて上昇を始める

 アニスレイザ「また・・・・だめだったか・・・・・・」
 ちはや   「・・・」

無表情な8枚羽のちはやはアニスレイザの呟きに応えない

 刹那    「ちぃちゃん・・・・どうして・・・」

すっと、光の鉾が地面から抜かれる

 声     「“どうして”って、ああでもしなきゃ誰も助からなかったでしょ」

声の方を見上げる刹那 そこに背中に翼の無いちはや

 刹那    「ちーちゃん!?・・・・どうして???」

頭の上に?マークを3つ程飛ばす刹那
ちはやは上昇を続ける8枚羽のちはやを見上げつつ

 ちはや   「私は私に捨てられた私 あのちはやには不要な私」

私 立ち上がりながら

 私     「すまなかった、結局ちはやを助けられなかった」
 ちはや   「私はこれで十分 蛍人のお陰でまだ私はここに居られる ・・・それに」

ちはやと8枚羽のちはやの視線が交差する

 ちはや   「あれは私の一番大切なもの 天使としての私 今までずっと・・・・
        誰かに求められ続けていた私  だけど・・・抜け殻の私」

ちはやは8枚羽のちはやから視線を逸らし私に向かって
 ちはや   「もしも、もしも蛍人がどこかであの私に逢うことがあったら
        その時は私を楽にしてあげて、たぶんあの私はソレを望んでいるはずだから」

フッとため息を漏らすちはや
 ちはや   「何も変わらなかったわ 私はまた私を紡いでいくだけ」

        あの日から変わらず いつまでも変わらずに *

ちはやは二人の様子を伺っている刹那を横目に捕らえつつ
 ちはや   「そう、私じゃダメだって事を改めて思い知らされたわ
        ほんと、アニスレイザ様をあそこまで追い詰めるなんて・・・・ね」

刹那の手をとって引き寄せ、私とちはやを抱き合わせる

 ちはや   「これで、二人はアニスレイザ様公認のカップルよ」

 刹那    「ちーちゃん!」
 私     「おい・・・」

神々しく、天に帰っていくアニスレイザと8枚羽のちはやを見送りつつ ゆっくりと暗転

 私     「結局・・・負けてしまったんだがな」
 ちはや   「いいえ 勝ったの 私達3人で勝ったの」

私と刹那の傍にいる今の立ち位置から一歩引くちはや

完全に暗転

        いられなかったこと 悔しくて指を離す   *

*出典:PCゲーム「AIR」より 「鳥の詩」

 〜 はじめまして 〜

9月某日 私の家 居間:TV前でネットゲーム中の私と刹那(BGM:虹を見た小径)
TVの向こうには788(ちはやのプレイキャラ)

 788 『で、あんたらなにやってんの?』
 私   「“なに”ってゲームを」

うんうんと頷く刹那

空き地の前の道路:登校中の茜 (BGM:雨)
ちらりと空き地の中に視線を向けため息をつく

 茜   「貴方は何処へ行ってしまってんですか?」

詩子の家の前:人待ちのアカネ

 アカネ 「ほら、詩子ぉ 早くしないと学校遅れちゃうよぉ」

玄関のドアを開けて詩子登場 

 詩子  「アカネ ごめーん ほらほらほら 急いで、急いで」

詩子はアカネの手を引きつつ駆け抜けて退場

私の家 居間:(BGM:虹を見た小径)

 788 『ゲームって、あんたら一日中ゲームばっかりやってるじゃない』

ブンブンブン否定の意を表しながら、刹那が首を横に振る

 788 『学校は一体どーしたのよ?』
 私   「学籍もう無いし と言うより、私と刹那はこの街に最初から居なかった事に
      なってるし」

うんうんと頷く刹那

 788 『だから、さっさと転校の手続きしろって行ってるでしょうが
      あんたらは現実にそこに居るのよ その事判ってる?』
 私   「めんどくさい」

 788 『あーっ!!! 私だって何時までもあんたらの面倒なんて見てられないのに」
 刹那  「ちーちゃん、どこかに行くの?」

神代道場:道場で座禅を組んでいる ちはや兄

 ちはや兄「・・・・」

道場の扉を開けて、制服姿の黒髪の少女登場
 少女  「師範代 庭の掃除終わりました 私はこれから学校に向かいますが
      何かご用はありますか?」

 ちはや兄「うむ・・・」

屋根裏より青忍者登場
 青忍者 「Hey! 連中 家でおとなしくしてるネ」

 ちはや兄「学び舎での仮の者達の監視 怠るでないぞ」
 少女  「お言葉を返すようですが師範代 彼等もちはや様も学校へは・・・・」

私の家 居間:

 788 『そろそろ旅に出ようかなぁって思って 私は部長と私が暮らしてる世界に
      私が天使になるの邪魔しに行かなくちゃいけないし』
 刹那  「寂しくなるね ちーちゃん何時帰ってくる?」

空き地の前の道路:立ち止まって空き地を見つめている茜(BGM:雨)
アカネの手を引きつつ走る詩子登場

 詩子  「茜 なにぼーとしてるの? 遅刻するよぉ」
 茜   「いえ なんでもありません」
 アカネ 「ハァハァ、詩子ぉ 私は歩いても間に合うんだから そんなに走らないでよ」

 詩子  「なにぃ あたしは遅刻しても構わないって言うの?」
 アカネ 「だって、寝坊したのは詩子なんだし」

茜 目を閉じて深呼吸をし、詩子達の方に向きなおして明るく(BGM:虹を見た小径)

 茜   「詩子行きますよ 本当に遅刻してしまいます」

私の家 居間:

 788 『寂しくって 私が居なくなってもハッピーなくせに』
 刹那  「そんな事ないよ、私はこんなに寂しいんだから ね、慰めてね、蛍人」
 788 『はいはい、お熱いことで それじゃ私は行くわ』
 刹那  「もう?」

 788 『誰かさんが見せ付けるから 部長が恋しくなったわ それに・・・』

 それに・・・私は私を紡ぐ いつか私がたどり着けるまで、私が求める私にたどり着けるまで
 何も望まず、何も願わず そしてこの手に掴み取るまで紡ぎつづける

神代道場:庭木の手入れをしているバテレン
道場の方から歩いてくる黒髪の少女
少女は何かの気配を察知して木戸の裏側に身を隠す

 バテレン「何をしている?」

少女が警戒して様子を伺う木戸の向こうの通りを横切る 茜と詩子とアカネ

 茜   「詩子何処までついてくるつもりですか?」
 詩子  「ん? うちの学校今日は創立記念日・・・・・」

 少女  「あの妖怪まだ人に憑いて・・・・」

懐の短刀の鯉口を切る少女

 バテレン「何処を見ている?」
 少女  「妖怪は見過ごせません」
 バテレン「それは我等が任ではないぞ」

 少女  「あの妖怪を見過ごせば、人々にどんな災いをもたらすか」

バテレンと少女がやり取りをしている間に茜達は通り過ぎる
短刀を抜いて通りに飛び出す少女
が、通りの人目を気にして短刀を懐にしまいこむ

 バテレン「埒も無い」


商店街のはずれ ちはやのアパート: (BGM:遠いまなざし)
ゲーム機の電源を落としちはやは部屋から外へ出る

 私は私を紡ぐ いつか私がたどり着けるまで、私が求める私にたどり着けるまで

陽光の中に溶け込む様に姿を消すちはや

茜の教室:HR中の茜と生徒一同と髭(担任教師)

 髭   「今日は転入生を二人紹介する 飛鳥蛍人君と葛木刹那さんだ」

教壇の脇に立つ、私と刹那 画面がパステル調になりつつゆっくりと白転(ホワイトアウト)

 ONE本編 茜シナリオへ 終幕 


〜 あとがき (U)〜

前作から随分たってしまいました(長かったです・・・えぐえぐ)
えっと本作で、女の子絡みのエンディングはおしまいです。
永遠(とわ)シナリオは、Limルートのバッドエンドシナリオですから

がんばるぞー!! オシ!

えー、当初Limシナリオは人間嫌いのLimを私が無理やりシタせいで
精神的に壊れるってエンディングだったのですが・・・・猛反対を食らってしまいました
誰にってそりゃ・・・・Lim本人に決まってるでしょ
(精神的崩壊エンドはLimにしてみれば苦しまずに済むのである意味幸せの筈だが)

後は私の本名がこのシナリオだけで明かされます(だからなんだ?)

さてさて、出典不明で正体が判らない謎の神様 "アニスレイザ様"
原作でも"善なる神"で聖剣士を引き連れているのだが・・・・

はてはて、原作繋がりで、てっきりアイヌの神様かアステカの神様か
どっちかだろうと調べてみたら・・・・どっちでもなかった????

某邪神様の御名がイタリア語の"神々の食物"を意味する単語だったから・・・
アニスって・・・香辛料のアニス? レイザってなに?
レイズ(上昇)する者って意味でレイザ?????

アニスレイザ様って・・・えっと"アニスを揚げる者"????カレー屋のバイト君?
なんだか意味不明なのでアニスについて調べてみる

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# 学名 Pimpinella anisum #
# 分類 セリ科一年草 #
# 原産 アジア東部 ヨーロッパ東部 #
# #
# 古代から男女共に媚薬として信じられていただけでなく #
# 薬としても使われていた、歴史の古いハーブです。 #
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はぁ・・・アニスって媚薬なのね・・・
レイザって事はアッパー系のおくすりでしたか・・・・・
結構 危ない御名前なのね アニスレイザ様

アニスレイザ = "レイズさせる媚薬"

この場合はレイズを「声を上げる」って意味で訳す方がいいのかな?

アカネ 「ちはやさんがおくすり効いて・・・ちょっとうるさいです」

と冗談はさておきアニスレイザ = "アニスを栽培する人" = "アニス農家" なのかな?

アニス農家様  ぷぷ、これは結構な嫌味だね

さて、後半武器格闘ゲーム風味シェフのおすすめで展開している「灯」なのですが
ゲームシステムとそれぞれのキャラステータスおば

えー、システムは必殺技ゲージ(MP)付き武器格闘です(説明完了・・・はや・・)
キャラステータス
 私:
  種族   : 不明(おいおい)
  武器   : 長巻
  通常必殺技: 無し
  (常時可)

  MP必殺技: アクティブシールド
 (ゲージ消費) 2nd(セカン)換装
         黒揚羽換装
         アスタロト換装・・・etc

  通常技(殴る、斬る、蹴る)のみで戦いを組み立てるキャラ
  アクティブシールドは本編の機能(物理及び魔法の完全防御+全属性物理攻撃)の他に
  MP増殖機能があります
  つまりアクティブシールドを出し続けることでMPゲージがどんどん溜まります

  セカン、黒揚羽、アスタロト換装は換装後からMPゲージが減り始め0になるまで有効

 2nd:
  種族   : 不明(私からの派生タイプなので・・・職業なら魔道士)
  武器   : 両剣の様な杖
  通常必殺技: 雷撃(ダメージは激小だけど、発動と同時に必中で防御、回避不能)
  (常時可)  火球(極普通の飛び道具)
         氷矢(凍結技)・・・etc

  MP必殺技: アクティブシールド
 (ゲージ消費) 黒揚羽換装
         アスタロト召還・・・etc

  こちらは必殺技メインで戦いを組み立てるキャラ
  雷撃は相手の足止めをしたり、必殺技の出だしを潰したりとテクニカルな用法が可能

  私→黒揚羽換装の場合はMP補充の手段が無いので黒揚羽の用法に時間的な制限有り
  私→2nd→黒揚羽換装の場合は2ndの特性が加味されて全部の魔法が使用可
  アクティブシールドも使えるので実質黒揚羽の用法に時間制限はなくなります
  (ただし黒揚羽単体で見た場合は、私→黒揚羽換装の方が強力)

 黒揚羽:
  種族   : マシンゴーレム(機械人形:黒揚羽自身はね 中身は不明)
  武器   : ロングバレル・キャノン
         (私→黒揚羽の場合+バスターブレイド)
  通常必殺技: 黒揚羽固有の必殺技は無し
  (常時可)  (私→黒揚羽の場合 キャノン ⇔ ブレイドの武器切替)
         (私→2nd→黒揚羽の場合 2ndの通常必殺技は全て使用可)

  MP必殺技: 赤き水銀の華(タイムアウト時、HPの残量に関わり無く黒揚羽が勝利)
 (ゲージ消費) (私→黒揚羽でブレイド装備 バスターショット:防御不能飛び道具
                       バスターソード :防御不能コマンド斬り)
         (私→2nd→黒揚羽の場合 アクティブシールド)

  キャノン装備時は通常攻撃が全てキャノンによる攻撃(つまり飛び道具)になります
  ジャンプすれば 今度は飛行形態に変形して飛び回るという・・・・反則キャラ

  2nd黒揚羽で赤き水銀の華を出して、雷撃で敵の足止めを続ければまず負けない
  ただ、黒揚羽の維持にアクティブシールドを使う必要があるのでここに反撃の隙あり
  (当然、タイムアウト前にMPが切れると赤き水銀の華の効果も無くなるので
   MP切れが起きる私黒揚羽の赤き水銀の華は余り意味が無い)

 アスタロト:
  種族   : 悪魔(アスタロト自身はね 中身は不明)
  武器   : 蛇を模した飾りの付いた杖
  通常必殺技: チャーム(魅了 味方にかける事も可能)
  (常時可)

  MP必殺技: 無し
 (ゲージ消費)

  攻撃する手段を持たない特殊キャラ ただ、毒の吐息で、自分とチャームの掛かった
  キャラ以外のHPを時間と共に削るので、タイムアウト優勢勝ちを狙うのは可能
  でもまぁダッグ戦専用のキャラと考えた方が無難でしょう

  チャームが掛かったキャラは全てのステータスが通常値の5倍になります
  ダッグ戦で相手を仲間割れさせたり、パートナーの強化の為に使う
  MPの消費量が多くアクティブシールドでも維持できないのでいずれMP切れになる
  アスタロト自身はHP無制限(一応無敵)キャラです

 Lim:
  種族   : 人間
  武器   : ダガー2本(2刀流)
  通常必殺技: エターナルシフト(永遠への移行: 全キャラ中唯一の即死技)
  (常時可)

  MP必殺技: アクティブシールドEZ(ただし、私とタッグを組んでいる場合のみ)
 (ゲージ消費)

  一応(出番はちはやの方が多い気がするので)メインヒロイン
  Limも私と同じく通常技で戦いを組み立てるタイプ
  このタイプは通常技の判定が強く 更にLimの場合は通常技に硬直時間が殆ど無いので
  プレーヤーの反応速度に応じていくらでも強く(速く)なります

  即死技エターナルシフト 本編では猫手から発生する空間の亀裂です
  MPゲージを使わない替わりにHPを1ドット消費します(つまり自殺技でもある)
  エターナルシフト→キャンセルエターナルシフトで連続発生可能
  連続エターナルシフトで多段ヒットの飛び道具も消せます(プレーヤが反応出来ればね)

  ラッシュで密着→エターナルシフト 飛び込んでくる相手の着地点にエターナルシフトを
  置く等の極悪即死技があります
  HP無制限を誇るアスタロトを殺せるのはLim(のエターナルシフト)だけです

 詩子:
  種族   : 人間
  武器   : 無し(というか口?)
  通常必殺技: わめく     (至近距離の全方位攻撃 飛び道具を消す効果もあり)
  (常時可)  痴漢撃退スプレー(射程のある(途中消滅する) 多段ヒット飛び道具)
         防犯ブザー   (2ndの雷撃と同じ性格の技)・・・・etc

  MP必殺技: 意地を張る(MPが0になるまで全ステータス2倍)
 (ゲージ消費)

  ノーマルヒロインの一人
  人間なので地味です・・・・武器格闘なのにはじめから素手だし・・・・
  でも・・・怖いキャラでもあります 私とタッグを組んでチャームの上に意地を張ると
  ステータス10倍・・攻撃力、HP共に全キャラ1(神をも超える)
  更に防犯ブザーのダメージも10倍になって無視できない事態に・・・・・

 アカネ:
  種族   : 残留思念(ってところだろうなぁ)
  武器   : 無し
  通常必殺技: プロテクト  (鏡で受ける)
  (常時可)  リフレクション(鏡で反射する)
         ハーフスルー (進行方向を曲げつつ半透過する)・・・etc

  MP必殺技: 透明化(と言うよりは実体化キャンセル)
 (ゲージ消費) パルスレーザー  (リフレクション→リフレクション)
         ホーミングレーザー(リフレクション→リフレクション→ハーフスルー)

  ノーマルヒロインの一人
  アカネ自身に攻撃力は無いので通常技無し 攻撃は全てオプションの鏡によるもの
  通常必殺技の連続入力がMP必殺技になるコマンドコンボも特徴
  パルスレーザーは2段目のリフレクションの後、ホーミングレーザーへ派生する為の
  ハーフスルーの待ち受け時間分発動が遅れます
  パルスレーザーは防御不能技で、破壊力はホーミングレーザーよりも高いです

  ホーミングレーザーは3段目のハーフスルーの入力完了時点で発動するので
  実質パルスレーザーよりも速く発射できます
  ホーミングの名の通り相手を捕捉するので回避不能技です

 ちはや:
  種族   : 天使
  武器   : 光の鉾
  通常必殺技: 光弾 (波動拳の様なモノ)
  (常時可)  掲げ筒(昇龍拳の様なモノ)・・・・etc

  MP必殺技: それなりに通常必殺技のパワーアップ版がいろいろ
 (ゲージ消費) 真空***とか暴風***とか・・・・・

  サブヒロインの一人
  多分・・・極々ノーマルなキャラだと思う(波動昇龍タイプ)ので特記事項無し

 藍:(隠しキャラ:おまけ)
  種族   : 幽霊
  武器   : 村正(日本刀)
  通常必殺技: 無し
  (常時可)

  MP必殺技: 無し
 (ゲージ消費)

  サブヒロインの一人
  幽霊(既に死んでいる)なので、最初からHP0 その代わりMPは最初からMAX
  実体化(姿を見せている)だけでMP消費するし、動いたり、攻撃したり、ガードしたり
  何か行動するとMPの消耗が激しくなり・・・・・MPが尽きれば終わり
  MPが尽きる前に敵を倒せるか?って事が全てのキャラ

  ガード時のMP消費は藍自身の行動に対する代償なので、相手の攻撃力に関係なく
  一定です・・・小パンチでも一撃死する様な大ダメージでもMPの消耗は同じって事ね
  なので、ボスとか10倍詩子とか鬼の様な攻撃力を持つキャラに対して相対的に強いです

ここから敵(神)サイド

 黒髪の少女:
  種族   : 聖剣士
  武器   : チチウシ(短刀)+鷹(オプション)
  通常必殺技: アンヌムツベ
  (常時可)  カムイムツベ
         アムベヤトロ・・・・etc

  MP必殺技: アペフチカムイリムセ ・・・etc
 (ゲージ消費)

  アニスレイザ七剣士の一人
  赤のストライプが入った、北方の民族衣装を着用
  聖剣士の制約で残りHPが10%になるまでは人間に攻撃は出来ません
  (しかし、人間のLimには即死技 詩子には一撃死技があるので・・・キツイと思う)

 青忍者:
  種族   : 聖剣士
  武器   : ジャスティスブレード(忍者刀)+犬(オプション)
  通常必殺技: レプリカアタック
  (常時可)  プラズマブレード
         ラッシュドッグ・・・・etc

  MP必殺技: メガストライクヘッズ ・・・etc
 (ゲージ消費)

  アニスレイザ七剣士の一人
  黒髪の少女とは相性がいい様で、ダッグを組んでいます
  結構オプションの犬がクセモノで体術系の技は青忍者自身に匹敵する・・・
  (レプリカドッグとかメガストライクドッグとか・・・・・)

 バテレン:
  種族   : 聖剣士
  武器   : ガダマーの宝珠(玉・・鈍器になるのか?)
  通常必殺技: 死霊刃
  (常時可)  汝暗転入滅せよ
         戒烈掌・・・・・・etc

  MP必殺技: 凶冥十殺陣
 (ゲージ消費)

  アニスレイザ七剣士の一人
  とりあえずあれだバテレンとはカトリックでの神父、プロテスタントでの牧師
  仏教での如来の事を・・・・・

 2nd 「それは違うと思うでし」

  いやだから、司祭職についてる人をバテレンと呼び、修道士をイルマンと呼ぶから
  悟りを開いた如来と修行中の菩薩との違いをだな・・・

 2nd 「なら、彼はバテレンでしか?」

  おう、彼なりの悟りは開いたと思うぞ 何せ初代のボスだし神の子と言う話だ

 2nd 「わけわかんないでし・・・・」

 アニスレイザ:(ボス)
  種族   : 神
  武器   : ツヴァイハンダー(長巻と同じコンセプトの西洋剣)
  通常必殺技: 光弾(それ以外は不明 本編でも使ってないし)
  (常時可)  

  MP必殺技: 無し・・と言うより神にMP消費なんて言う制限事項は無い
 (ゲージ消費)

  善なる神アニスレイザ いちおー私とちはやの直属上司(おいおい)
  左遷しても職務怠慢が続く部下を処罰する為に本社からやってきた(下賎な表現)が
  逆切れ部下の思わぬ抵抗に遭い 泣く泣く本社へ帰る羽目に・・・(なんか違うぞ)

次回予告 礎:灯(TOMOSHIVI) 後編 永遠(とわ)シナリオ


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