礎〜第2章 炎のさだめ〜(7)
〜 四輪のオフェリア 〜
(BGM:雨)
私の家の前:傘を持って家を見上げる茜
モノローグ:茜
私の家から学校へ続く道 ここにあの人の家がある
私にはわかります、今もそこからあなたが私を見守ってくれているのが
でも、どうして何も話してくれないんですか?
どうして居留守を使うんですか?
あなたが学校へ来なくなってしまって・・・・・
もう、雨の季節になってしまいました
詩子はあれから私の学校へは来ていません
リムさんは元気がありません
アカネちゃんは・・・・・いつもリムさんと一緒に居ます
みんなは何も話してくれません
私は・・・・何をすればいいんですか?
あなたの為に何が出来るんですか?
『今 茜に望むものは何も無いよ、みんなに望む事も無いよ
結局・・・・みんなをボクのエゴに巻き込んでしまった』
「何?・・・・あなた・・・なんですか?」
『昔から・・・・ずっとこうやって・・・・ここで茜を眺めていた
何年も何年も・・・・いや、もっともっと長い間・・・ずっと』
「何を言っているんですか? あの学校に入学してから
1年と少ししか経っていません」
『茜にとってはね・・・・でも、ボクにとっては・・・何千年もの月日になるんだ
でも、そんな羨望の日々も・・・もうすぐ終わる』
「家の中に入れて下さい、あなたに会わせて下さい、あなたと話をさせて下さい」
『そろそろ行かないと遅刻するよ』
「っ!!・・・・それが・・・・それがあなたの答えなんですか?
・・・・わかりました・・・・でも、また来ます」
茜退場
私の部屋:カーテン越しに立ち去る茜を見送る私
「・・・・まだ、早いんだ全部話すのは・・・茜・・・」
商店街:詩子とアカネ(BGM:追想)
アカネ「詩子これ」
詩子 「なに?」
アカネ「シナモンワッフルとストレートティ」
詩子 「ありがと」
アカネ「ねぇ詩子・・・詩子が先輩の事忘れたら・・・・
私はどうなるのかな?」
詩子 「幼馴染の従妹のアカネちゃんが幼馴染のアカネちゃんになるだけ」
アカネ「やっぱり、その為に追い出されたのかな?・・・・私」
詩子 「人的被害を最小に・・・・か・・・・でもね
あんたが傷つく事も人的被害なんだよ・・・・」
アカネ「自分は人間じゃない・・・・先輩は自分の事をそう思っている・・・・
かつては人であった化け物だと思ってる」
詩子 「あたしにとっては幼馴染、ずっと一緒に生きてきた・・・
だからこれからもずっと一緒に生きて行きたい・・・・
アカネはどう思ってる? あいつを化け物だと思ってる?」
アカネ「・・・・・はい」
詩子 「アカネ・・・・あいつが化け物でも・・・」
アカネ「私は先輩が好きです」
詩子 「リムさんにとってはあいつは・・・・」
Lim「私にとってトライは恩人」
Lim登場
Lim「こんな雨の中、何してるの?」
詩子 「人を待ってるの 買い物には来る筈だから」
Lim「無駄よ トライが本気で篭城戦をはじめたら・・・
2,3年は闘い抜ける物資を溜め込んでいるわ」
詩子 「こんな雨の中 何をしに来たの?」
Lim「人を探しに」
詩子 「その人は見つかった?」
Lim「ええ」
詩子 「なら、無駄じゃなかったよね ここで待っていたの
どこかに入る? 雨の中で立ち話もなんだし」
アカネ「リムさんこれ えっとシナモン大丈夫?」
Limにワッフルを手渡すアカネ
Lim「ありがとう シナモンは嫌いじゃないわ」
アカネ「手が冷たい・・・」
Lim「雨に打たれたせいね」
アカネ「ちがう・・・氷みたいに冷たいよ」
詩子 「リム あんた顔色悪いわよね?
天気のせいで、そう見えるわけじゃないよね?」
Lim「二人に会いたかったから 少し無理を」
詩子 「どこか悪いの?」
Lim「神経性かな?」
詩子 「そう、じゃ何処に行くか決まったね 行くよアカネ」
アカネ「え? 何処に?」
詩子 「あいつも、助けるなら どうして最後まで面倒見ないかな?
会えないだけでこんなになっちゃう子をほっておくかな?」
アカネ「先輩の所に・・・・・でも追い帰されるだけだ」
詩子 「少し違う、あいつは誰も追い返したりはしない
私達が諦めて帰るのをただ待ってるだけ・・・・」
アカネ「それは追い帰されるのと同じじゃないの・・・・ちがうの?」
詩子 「すぐにわかるよ」
私の家の前:茜(BGM:雨)
モノローグ:茜
・・・・・・・・・・・・どうしてなんですか・・・・
どうして・・・・私を避けるんですか?・・・・・・・
私は・・・・あなたに嫌われるような事を・・・・したんですか?
・・・・・私は・・・・・
一同登場
アカネ「茜さん・・・・」
詩子 「気高くも咲く・・・一輪の白薔薇(オフェリア)
だけど あいつの事心配しているのは茜だけじゃないんだけどな」
Lim「でも・・・私達は里村さんに酷い事をしたから・・・・・」
詩子 「おぉぉい! あかねぇ!!」
茜 「詩子・・・みんなも・・・でも・・・」
詩子 「あのね あたし達だって、心配してるんだけどな 茜と同じ様に」
茜 「だけど・・・みんなは私とは違います
私はあの人の事を何も知らない・・・・・」
詩子 「本当にそうね」
玄関のドアに手を掛ける詩子
茜 「詩子!」
詩子 「鍵なんて掛かってないわよ、あいつはね あたし達の勇気を試していたの」
私 「いらっしゃい」
詩子 「いい気味ね、あんたの思惑通りに行って満足でしょ」
私 「詩子そう責めるなよ」
詩子 「みんなあんたの気持ちには応えられるわよ
なんであんたは誰も頼ろうとしないの?」
私 「多分ね 私には求めるモノが何も無いから・・・・」
アカネ「ちがう・・・先輩はソレを認めようとしてないだけ
だって、先輩は茜さんの事が・・・・」
私 「・・・・茜が・・・欲しい・・・か
今となっては、私が私である唯一の理由
だからこそ、私に茜を渡さない
それが、私が私と闘う理由
結果、茜を誰かに託す事になっても
私にだけは絶対に茜を渡さない」
Lim「トライ、あなたは里村さんを守って闘える筈でしょ
トライなら誰が相手でもきっと勝てる それがかつての自分自身でも」
私 「Lim・・・・現実の私とトライシーカーは少し違う
私がかつての私と同じ道を歩まない保証は無い・・・・
それどころか、すべての私は結局同じ道を歩んでしまった
そういう前例しかない」
Lim「トライならそれでもヒロインを守って闘う無茶をやるんでしょうね
でも、現実のあなたは最悪の結果が出る事を怖がってる
いいじゃない 里村さんを巻き込んだら?
私の知ってる・・・私を助けてくれたトライはそうゆう人よ
現実のあなたの事なんて私は良く知らないもの」
アカネ「リムさんだって身体壊してるじゃない、どうしてそんなに?」
Lim「Limは現金な女よ だからすぐに元気になれるわ」
アカネ「・・・先輩の前でなら、あなたはリムでいられる・・・・の?」
Lim「トライらしくないトライに慰められたくない Limはそう思っている」
茜 「みんな何を言ってるんですか?」
詩子 「茜にも説明してあげたら?」
私 「ああ・・・いろいろと柵があってね みんなをそのゴタゴタに巻き込みたくは
無かったんだけど・・・・私の力不足で、結局みんなを巻き込んでしまった
でももうこれ以上はね」
詩子 「はっきり言ったら? 茜が美人だからいけないんだって
茜を守るのに必死なんだって 一緒に居ると茜が危険だったんだって」
Lim「そうね・・・・とんでもないストーカーに狙われていた里村さんを
トライは陰ながら守っていたんですよ」
茜 「ストーカー? 狙われていた?」
Lim「そう、そのストーカーと一騎撃ちで決着付けるって話を付けたから
とりあえず今は安全だけど・・・・でも、そのストーカーを刺激すると
どうなるか判らないから・・・決着を付けるまでは
トライは里村さんを避けるつもりでいたの」
私 「ストーカーは言い過ぎだと・・・」
詩子 「あら、ホントの事でしょ 庇いたい気持ちも判らなくないけど
私に言わせたら アレは間違いなくストーカーだけど 違う?」
私 「うぅぅぅぅ」
『ふぇぇぇぇ、ボク達はそんなに酷くは無いよぉ』
Lim「あら、お客さんが居たのね」
私 「えっと茜 なんか誇張表現の感はあるけど
おおむね、Limと詩子の言った通りだ・・・・
でもヤツは茜に直接危害を加えるつもりは無い筈だから
ストーカーは言い過ぎだと思うけど」
茜 「あ・・・朝の・・・あの声・・・」
Lim「あら、里村さんの前にも出たの? 節操無いのね」
茜 「でも・・・納得できない・・・・
どうして、あなたが決着つけなくちゃならないんですか?
ストーカーなら私の問題じゃ無いんですか?
どうして私に話してくれないんですか?」
私 「私が巻いた種だから・・・私自身が元凶だから・・・かな?」
茜 「・・・・あなたのせいでその人がストーカーになったって事ですか?」
私 「プライベートな問題なんで詳しくは話せないけど
そう考えて貰って構わない」
茜 「そうですか・・・・・やっぱり優しいんですね」
私 「ただ臆病なだけさ」
詩子 「それで、あんたはどうするつもりなの?」
私 「ん? このまま約束の日まで引き篭もっているつもりだけど」
Lim「あの・・・・トライ、ロビーには来てね・・・・・・」
詩子 「リムさんはあんた以上に人間苦手みたいだからね
助けたんなら最後まで面倒見てあげなよ
今日リムさん、私達を探して雨の中をさまよってたんだから」
私 「あのぉ 今日みたいに、ここに直接来てもらっても一向に構わないよ」
Lim「直接・・・トライ・・・それはやっぱりダメ
えっと、何されるか判ったもんじゃないし・・・ダメ」
モノローグ:茜
・・・あ・・・詩子の言っていた勇気を試すって・・・
もしも、この扉に鍵が掛かっていないの知っていたら
私一人で家の中に入れたの? 私はそれをためらっていたから
扉に手をかけなかった・・・あの人が中に入れてくれるのをただ待っていた
私 「どうしてもダメな時はここに来ればいい、私はいつもここに居るから
先ずは全力で示せ 道は必ず開く」
Lim「トライ・・・私は全力で示しても道が開かなかったケースを知ってる
どんなに足掻いても・・・ずるずると絶望に引きずりこまれた人達を知ってる
最後の一人も・・・もう諦めて、絶望に落ちるのを待ってるだけ」
(BGM:遠いまなざし)
私 「そうなのかもな・・・それで結果が出なければ
諦めているようにしか見えないだろうな」
アカネ「先輩・・・・」
私 「父さんと母さんが殺された日・・・・
アイツが死んだ日・・・・
私が失ったモノは戻ってはこない
恨み、嫉み、憎悪・・哀しみ・・・孤独・・・・狂気
そんなものしか残ってなかった私だけど、全力は示したつもり
力は所詮・・力だよ 今手元にあるモノを全部糧にして
それで勝てない相手なら諦めるさ・・・・
でも、私はまだ諦めていない」
Lim「全力じゃないよね? トライ 諦めてもいいって思ってるよね?
私達を犠牲にするくらいなら・・・違うの?
トライが今言った通りの人なら、里村さんのために平気で私達を犠牲にするよね?」
詩子 「何も言わずに あたし達を糧にする・・・・それが出来ない今のあんたは
強いのかな?弱いのかな?」
私 「さぁ? ただ新しい可能性ではあるよ」
アカネ「誰一人犠牲にしない・・・・無茶な話・・・ちがう
先輩一人が犠牲になって・・・私達みんなが取り残される」
私 「犠牲になる事無く勝ち残るかもしれない・・・」
Lim「その時、トライの傍に居るのは里村さんね・・・・
里村さんの為に闘って・・・里村さんの為に勝ったんだもん」
詩子 「それで、あたし達はみんな振られてハッピーエンド」
アカネ「だけど・・・先輩が茜さんに手を出さなかった理由」
Lim「里村さんがトライを異性として意識していない
それじゃ、最後の踏ん張りがきかないよ なにがなんでも勝ち残るって」
詩子 「えっと・・・リムさん身体は大丈夫?」
Lim「トライに会えたし、話も出来たから、また当分は平気」
詩子 「じゃ、あたし達はもう帰るわ 茜の事 よ・ろ・し・く・ね」
茜 「え? 詩子?」
詩子、Lim、アカネ退場
私 「茜も帰れよ 一応気は済んだだろ?」
茜 「だけど・・・」
私 「このまま事を運ぶつもりはない・・・・違うか?」
茜 「はい・・・」
私 「良くも悪くも幼馴染 急には変えられんよ」
茜 「・・・はい」
路地:詩子、Lim、アカネ
Lim「トライ里村さんに手を出したかしら?」
詩子 「無理無理、茜にその気が無かったら あいつは絶対に手を出さないもの」
Lim「やっぱり・・・でも詩子、なぜトライに里村さんを押し付けるような事を?」
詩子 「あのままだったら、茜は・・・・
ストーカーに狙われている・・・・それでいいじゃない
まんざら嘘でもないんだし 今は ね これで」
アカネ「茜さんも全部を知ってしまう時が来るんですね」
詩子 「7月15日 当日になるのかな・・・・あいつの事だから」
暗転
〜 かつて虹をみた小径 〜
モノローグ:詩子(BGM:偽りのテンペスト)
雨が降る・・・・この季節にしては冷たい雨が
少しまいってるなぁ・・・・あいつに会えないのがこんなに堪えるなんて・・・
喫茶ぬくれおちど:詩子とLim
詩子 「リムさん元気そうね・・・・あたしは結構滅入ってるんだけど」
Lim「今は私が頑張らないと、落ち込んでいられないわ」
詩子 「何を頑張るの?」
Lim「前回は簡単に落とされちゃったけど
今度はそうはいかないわよ」
詩子 「だから・・・何が?」
Lim「連中が最後に仕掛けて来るのが そろそろだから」
詩子 「判るの?」
Lim「トライに見えるモノはLimにも見えるわ」
詩子 「私達の事を清算するために動くって事ね
一番あいつらしい選択・・・」
Lim「でも、一番トライらしくない選択・・・・
トライは自分を嫌ってる、自分の気持ちも
自分のやってる事も全部嫌ってる・・・・」
詩子 「”茜が欲しい”か・・・・それがあいつの一番素直な気持ちなのね
それが・・・その気持ちが元凶だと自分を責めているのが
リムさんの言う”トライ”ね」
Lim「詩子・・・詩子の知っているトライはどんな人でした?」
詩子 「よく判らないわ・・・私の記憶はぐちゃぐちゃになってるから
幼稚園以来の幼馴染・・・・でもきっとそれはあいつじゃない
小学校の頃・・・暗い目をしてただ人間を恨んでいた子
多分それが最初に会った頃のあいつだと思う」
Lim「その恨みを糧にして・・・あの人なりに
なんとかしようとしたのね・・・トライ」
詩子 「でもそれが あいつだとは思えない
どんなに追い詰められても どんなに叩きのめされても 這い上がってくる
泥水をすすってでも立ちあがってくる 絶対に諦めない
そんな人じゃなかった もっと潔い人だった」
Lim「・・・・私のトライはそうゆう人だけど
でも、あの人の本質がそうなら・・・・今みたいな事は起きてない」
詩子 「そういう人間にあいつを変えた人が居るって事だね
その人が居るから今のあいつはあんなにも強いんだ・・・」
Lim「詩子には心当たりがあるんですか?」
詩子 「うん、一人だけ心当たりのある人が居るよ」
Lim「里村さんのお姉さん?」
詩子 「ううん、違うよ その人はね、あいつと同じ様に人間を恨んでいたんだ
その人は人間を恨んでいる自分を責めて責めて責め抜いて・・・・
この世界から消えようとしていた あいつはその人に自分を見たんだと思うよ
あいつは昔の自分・・・今までの自分に手を差し出した」
Lim「私・・・?」
詩子 「多分ね」
Lim「でも、私は・・・ううん、私じゃないと思う」
詩子 「あたしや茜、そしてアカネもだけど、3人は今までのあいつと出逢っていた筈よね
でも、今までのあいつはみんな諦めているし・・・
茜を手に入れる為には手段を選ばない・・・・あたしの知っているあいつはそうする筈よ
今のあいつは違う、必死に足掻いてる”諦めるもんか!”って
じゃ、今までのあいつと今のあいつの違いって何?
あいつに4人目の大切な人が出来たからじゃないのかな?って思うんだけど
茜の姉さんも入れると5人目になるのかな?」
Lim「Limはトライを継ぐ者だから・・・・・
Limはトライがこの世界に存在していた証・・・・」
詩子 「だからあいつはリムさんの為に必死に足掻いている」
Lim「私の為に?・・・・・」
詩子 「負けるにしても無様な負け方は出来ない、何もかも諦めてしまうような
そんな負け方だけは出来ない だってリムさんが見てるんだもんね
最後まで絶対に諦めない 諦めるな ・・・・」
Lim「そうじゃないと・・・・ 私が消えてしまうから・・・・」
詩子 「ふぅ・・・この辺が あたしが滅入ってる原因なのかな・・・・
”詩子オマエに教える事はもう何も無い”って言われたみたいでね
もう少しはかまって欲しいんだけどね・・・・・
リムさんが羨ましい あいつの為なら元気が出るんだもん」
Lim「詩子やアカネちゃんは私が守る トライの負担を少しでも減らさないと」
詩子 「そうやって元気出してるのね ねぇリムさんってこの近所に住んでるの?」
Lim「うん・・・・えっと・・・・・一人暮し」
詩子 「あれ? 中学もここだったんだよね?」
Lim「私もいろいろあって・・・・今は一人暮し
ただの家出少女だと・・・・・・
あ・・・えっと、詩子なら信じて貰えるかな?
帰れる筈の家が他人の家になっちゃっただけ
自業自得よね・・・・この世界から逃げ出そうなんてしたから」
詩子 「えーと・・・ゲーセンに入り浸って勘当されてしまった不良少女」
Lim「うん、そう言って貰えると嬉しい」
暗転
モノローグ:詩子(スポットライト)
雨が降る・・・・この季節にしては冷たい雨が
少しまいってるなぁ・・・・あいつに会えないのがこんなに堪えるなんて・・・
私 「詩子 ボーっとして・・・遅刻するよ」
詩子 「・・・・あ、ごめん 嫌な雨だなぁって思って・・・・」
路地:私と詩子(BGM:虹をみた小径)
私 「そりゃまぁ梅雨だからね・・・・でも、夏休みまであと少し
その頃には梅雨も明けてるよ」
詩子 「そうだね、 ね、夏休みどうする? 海に行こうよ みんなと一緒に」
私 「それもいいけど詩子と二人で行きたいな」
詩子 「それは怖いわ、何されるか判ったもんじゃない」
私 「大丈夫、生命の安全は保証してやる」
詩子 「他のモノが危険にさらされそうだし」
私 「うーむ・・・残念」
詩子 「それじゃ、また放課後ね」
路地を曲がろうとする詩子
私 「おーい、詩子何処に行くんだ? 寄り道してたら遅刻するぞ」
詩子 「え? あたしの学校はこっち・・・・」
私 「さっきもボーっとしてたし、詩子寝ぼけてる?」
詩子を抱き寄せる・・・そして
詩子 「んっ・・・・! ちょっと・・・あんた今なにをした?」
私 「寝ぼけてるお姫様におはようのキスを」
詩子 「人前でしないでよ」
私 「ちゃんと傘で隠したつもりだけど」
詩子 「傘なんかで隠したら、何やってるかバレバレじゃない
それに私達制服なんだよ」
私 「いいじゃない、付き合ってるんだし」
・・・え?・・・付き合ってる?・・・
それに・・・・私の制服・・・・・
私 「だからぁ・・・ボーっとしてると遅刻するって」
詩子 「う、うん」
教室:茜とLim
詩子 「茜 おはよー」
私と詩子登場
茜 「あいかわらず仲がいいですね」
Lim「ホント妬けちゃうわね」
詩子 「茶化さないでよ、それでさ夏休みなんだけど
みんなで海に行かない?」
茜 「詩子、夏休みの話もいいですけど、もうすぐあの人の・・・・」
詩子 「そっちの話は、あいつが居ないところでやるから後でね」
Lim「なになに? トライをどうにかするの? 面白そうね」
担任登場
詩子 「大変、リムさん 急いでクラスに戻らないと」
Lim「詩子? 私のクラスはここだけど?」
私 「今日の詩子は朝から・・・ボケが酷くて」
・・・・この教室は・・1年の・・・
・・痛・・・腕に何か刺さった?・・・
あれ?・・・何も刺さってないけど・・・・
・・・疼く・・・腕・・・が・・・
放課後 屋上:私と詩子(BGM:雪のように白く)
私 「詩子どうしたんだ、屋上なんかに呼び出して?」
詩子 「あなたはあいつなんだよね・・・ありがと でも さよなら」
私 「詩子・・・・」
詩子 「でも、あなたはあいつじゃ無い・・・腕の傷が教えてくれる
私の腕を掻き毟ったあいつじゃ無いって」
私 「そうだな・・・でもボクは・・・・」
詩子 「私を愛してくれたあいつ・・・・
でも、あなたは私を守ってくれなかったのね
ねぇ、これはあなたの未練?
それとも、あいつに愛して貰えない私の未練?」
私 「両方・・・・違うか・・・・ボクが守り抜けなかった詩子の未練
その詩子が夢見た未来・・・」
詩子 「あなたも諦めたのね・・・結局、私もあなたを守れなかったのね」
私 「すまない・・・詩子」
詩子 「あいつの痛みを・・・同じ痛みを知ってる人にしか、あいつは守れない」
私 「詩子どうする? ここに残るって選択もあるよ」
詩子 「ありがと でも あたしの世界に帰るわ
あいつから少しだけ痛みを別けて貰ったから
あたしはあなたの詩子じゃ無いもの」
私 「それが私の失敗かな?」
詩子 「あはは、恋人を大事にしすぎるのも考え物ね
でも、その失敗はあいつも一緒
あなたの詩子と一緒で、茜にあいつは守れない」
私 「それでも・・・詩子は帰るの・・・か」
詩子 「ん? 今のあいつには最強の相棒がいるから、今度は負けないわよ」
私 「”ガンバレ”私にそう伝えてくれ」
詩子 「伝言はダメかも・・・・・」
私 「そっか・・・その道を選ぶのか」
詩子 「ねぇ、目を閉じて」
私 「詩子 何を?」
詩子 「勿論 朝の し・か・え・し
お姫様には、目覚めのキスをするものよ」
私 「いいのか?」
詩子 「ここはあなたの詩子が夢見た未来なんでしょ
それに、あなたとあたしの未練なんでしょ
想いは叶えてあげなくちゃ」
私 「わかった・・・覚悟はいいか」
詩子 「そうそう、あんたはそうでなくっちゃ」
・
・
・
・
詩子 「素敵な夢をありがとう・・・・そして・・・・さようなら」
私 「詩子 愛しているよ・・・ここで、ずっと・・・・」
詩子の部屋:眠っている詩子とアカネ 二人の様子を伺うLim
(BGM:永遠)
詩子 「ん・・・・」
Lim「あ、起きた 詩子 おはよー」
詩子 「あぁ? リムさんおは・・・・・・って
リムさん! どうしてここに!?」
Lim「もちろん忍び込んだのよ」
詩子 「忍び込んだって・・・こーゆー時のリムさんって ほんと あいつにそっくりよね」
Lim「失礼ね私をゴキブリ扱いしないで」
詩子 「・・・・あいつってゴキブリなの?」
Lim「それはそうと、詩子 顔赤いよ大丈夫?」
詩子 「あ・・・夢見てただけだから大丈夫」
Lim「こないだみたいな夢?」
詩子 「もっと素敵な夢・・・でも、哀しい夢・・・・
って事はリムさんも?」
Lim「私は同じ手を二度と食わないわ」
詩子 「それで・・・・心配して来てくれたのね・・・
んーーーーつまりこの子は二度目の同じ手を食ってるわけね」
Lim「意外と・・・食らい尽くすつもりかも・・・トライの愛娘だし」
詩子 「うむむむ、大物ね」
詩子 「でもさぁ、そうなると厄介な連中って、今ここに居るんじゃないの?」
Lim「うん、うじゃうじゃと居るよぉ」
詩子 「って、リムさんって呑気ね」
Lim「だって、トライが話をつけた後だもん、連中は私達に危害は加えないよ」
詩子 「じゃぁ、乙女の寝室を覗き見する不届き者はやっちゃって」
Lim「りょおかい!!」
『困ったお嬢さん方だ・・・・何もかも忘れさせてあげようと言うのに』
『詩子・・・どうして君まで抵抗するのかな?』
『君はボク達の事を忘れるつもりでいるのに』
詩子 「忘れさせられるのは癪に障るからよ」
Lim「詩子 あなた・・・・」
詩子 「だから、そこの不快な連中はさっさとやっちゃって」
Lim「で、詩子の気が立ってるんだけど どうします?
さっさと引き上げてくれると私も嬉しいんだけど」
『君ごときに何が出来ますか?』
Lim「こぉんなことぉ♪」
リムさんから闇が広がった・・・・私にはそう見えた
詩子 「リムさんここは?」
Lim「んーとね 私の世界、現実から私が逃げ込もうとしてた場所
結局ここは私の中にあった場所、私の一部だったんだけどね」
詩子 「それって・・・私は危ない立場に居るんじゃないの?」
Lim「そぉ? ここは孤独を求めた私の世界だから・・・・侵入者は
追い出すか、消滅させるかのどっちかだよ・・・・」
詩子 「だから、危ないんでしょうが・・・・」
Lim「えぐっえぐっ、詩子も私を独りにするのね
そんなこと言うならここから出してあげないんだからぁ」
詩子 「え?」
Lim「そーゆー事なんで、さっさと逃げたら?
でないとここに居る連中みんな始末するよ」
モノローグ:詩子
・・・・あははは、ほんとに最強の相棒だわリムさん
あなたが居たからあいつは頑張れた
あいつが居たからあなたは救われた
なのにあいつはあなたも置いていこうとしてるんだね
『君はどうして・・・そこまで・・・違うんだね』
『君も最後のボクの力だと言うことだね』
『だったら、見せて欲しいな 君の力を』
Lim「魔道士トライのカオスワードを」
Lim「愛は光 すべてを切り裂く激情の刃 我が元に集いて力となれ」
Lim「切り裂け!」
二刃の閃光が交差した
『お見事・・・ボク達も今の君達と出逢える事があれば』
『無理だね、やっとここまでたどり着けたんだから』
『ほんとに長かったね・・・最初の過ちから』
『そうして・・・何百年・・・何千年・・・やっと』
二刃の閃光が不穏な気配と共に閉じる
Lim「・・はぁ・・はぁ・・・私のカラ元気も・・・ここまでね・・・」
詩子 「リムさんあなた知ってたの?
あの連中も諦めて無かったって」
Lim「トライはね、最善の結果を出すまで諦めない人なんだ
そして・・・・安易な妥協もしない人なんだ
あの人は里村さんに救いを求めたんだ・・・
あの人を許さなかったトライはずっと闘ってきたんだ
勝てる筈ないの闘いをずっと・・・・・」
詩子 「敵は本当の自分だから・・・勝てる筈がない」
Lim「私達にもあの人にも、諦めたように見えたかもしれない
でも、トライは最初からずっと諦めてなかったんだ
いつかきっと、必ず勝てるって・・・ずっと・・・」
(BGM:無邪気に笑顔)
詩子 「諦めた振りをする・・・せめて一矢報いる為に・・・
ははは、トライしか知らないリムさんだから判るんだ
あいつが何を自分の理想にしていたのか・・・・知りすぎてるってのも問題ね」
アカネ「詩子、先輩の事忘れるつもりって本当なの?」
詩子 「アカネ・・・・あんた狸寝入りしてたの?」
アカネ「私は寝てるとか起きてるとか関係無いんだけど・・・・
姿が見えてる時は何時でも同じよ」
詩子 「そっか・・・アカネは姿を消さないと休めないんだったね
最近、普通の女の子とぜんぜん変わらないから忘れてたよ」
アカネ「で、本当なの忘れるって?」
詩子 「そう、あいつに会えないと辛いんだ・・・・
それに あたしはあいつを引き止める切り札を持ってる
このままだと、きっと切り札を使っちゃうから」
Lim「”責任とってね”・・・・でもその切り札使ったら
トライは責任しか取らない・・・・
全力で責任を果たそうとするから・・・・・」
詩子 「励ましてもくれない、慰めてもくれない、愛してもくれない
あいつは必死に責任を果たそうとするだけ・・・・・
そうなったら、あたしは終わりだ・・・・・
それでも、あいつに傍に居て欲しいと思ってるあたしが居る・・・だから」
Lim「辛いわね 離れるしか救いの無い深すぎる絆・・・・」
詩子 「どんなに忘れても、あたしはきっとあいつの事を覚えているよ
ずっと一緒に生きてきたから、
困った時には 辛い時にはきっと助けくれるよ
あいつなら、こんな時どうする? あいつは あたしに染み付いてる筈だから」
Lim「羨ましいな・・・・
私がトライの事忘れたら・・・そのまま消えてしまうのねきっと」
アカネ「私は・・・・ここに残る」
Lim「アカネちゃん?」
アカネ「私は先輩の足手まといにしかならないし・・・先輩もそれを望んでる・・・」
Lim「この間はトライと一緒に行くって言ってたよね?」
アカネ「みんなを酷い目に会ったのも 先輩が居なくなるのも全部私のせいだ」
詩子 「ま、それを言うなら、全部茜のせいなんだろうけどね
茜がもう少し強い子だったら・・・・・ね
で、あいつはアカネに言わなかったのかな
アカネのやりたい様にすればいいって・・・・」
Lim「私の希望はアカネちゃんにトライに付いて行って欲しいな
向こうでトライを支えられるのはアカネちゃんだけなんだけどな」
アカネ「いいんですか? 私が付いて行っても・・・私は連中の手先なんですよ」
Lim「”私にはアカネちゃんを信じるって選択肢が有る”って言ってるつもりだけど」
アカネ「・・・・あ・・」
詩子 「ぷっ なにそれ? なんかあいつが言い出しそうな台詞ね」
Lim「そーなのよ、現実のトライから私が食らった殺し文句・・・これでコロっと・・・」
詩子 「あはははは、あいつらしいや 後先考えずにそんな事言うんだから」
アカネ「あの・・私は・・・」
詩子 「誰かがあいつを支えないと勝てないよ・・・・いいじゃない
アカネが行かないと負けるんだし 行っても負けるんなら同じでしょ」
Lim「でも、アカネちゃんが行ったら勝てるかも・・・・
分の悪い勝負じゃ無いんだけどな」
アカネ「何もしないで後悔するぐらいなら、やるだけやって後悔した方がいい」
詩子 「アカネにはそう言ったんだ・・・あいつは後悔なんかした事あんのかな?」
Lim「トライは後悔はしないと思う・・・・反省も後悔もしない人だよ」
詩子 「あいつは人の忠告も全然聞かないし・・・・なんか腹が立ってきたわ」
Lim「そうそう、性格悪いし、意地悪だし、陰険だし・・・・・」
詩子 「引き篭もりだし、暗いし、神経質だし」
Lim「悪賢いし、正義感なんて全く無いし エトセトラ、エトセトラ」
アカネ「先輩は、優しい人です!」
Lim「そうよね、無条件で優しいよね で、一緒に行きたくなった? アカネちゃん」
アカネ「あうぅぅぅ それは卑怯です」
Lim「人間をね十何年もやってると、このぐらいの知恵は付くの」
詩子 「ねぇアカネ止めを刺していい?」
アカネ「詩子?」
詩子 「茜に勝ちなよ アカネ」
アカネ「うぅぅぅぅ 茜には負けたくないけど・・・うぅぅ」
Lim「決まりね」
詩子 「リムさんありがと・・・・最後にあいつの事で大騒ぎ出来て
嬉しかった・・・本当に」
Lim「・・・・・・うん・・・私はもう帰るわ・・・もう・・・心配は・・・無いし」
詩子 「リムさん・・・どうしたの?」
Lim「詩子がトライの事を忘れたら・・・・私との接点も無くなる・・・それだけ
里村さんもトライの事は覚えてるかも知れないけど、私の事は・・・」
アカネ「リムさん・・・私は・・・・」
Lim「アカネちゃん、前言は撤回しない事・・・・決心が鈍るわ
詩子とは逆に私はトライの思い出を抱いていく、あの人じゃないトライの思い出を・・・」
詩子 「リムさん・・・気休めかもしれないけど・・・・・
人間に絞められて気を失ったあいつが相手だったから」
Lim「判ってる・・・それがトライの意思なら全部が変わっていたんでしょうね
私は現実のトライと出会う事も無く・・・
たまに遊びに来るトライをロビーで待って・・・・私にとってはありふれた日常
そして、私はこの世界でずっとトライを待っていられた・・・・」
詩子 「リムさん ごめん」
Lim「ん? ロビーでトライを待ちつづけて、トライと一緒に消えていった私と
現実のトライと出会って、トライの思い出と生きていく私と
どっちが幸せだと思う?」
詩子 「この世界であいつと一緒に生きていくリムさん」
Lim「あ、それいいね・・・・
じゃあ、トライと一緒に行く羨ましい子をどうしましょうか?」
詩子 「生意気にも贅沢な事言ってたし・・・・ふふふふ」
アカネ「詩子・・・リムさん・・・・ちょっとぉ・・・・」
Lim「アカネの処分は詩子に任せるわ」
詩子 「帰るの?」
Lim「うん」
詩子 「リムさん さよなら」
Lim「詩子もしも、何か覚えていたら・・・・ロビーに遊びに来てね
”さよなら”は言わないわ だから次は”はじめまして”よ」
詩子 「また友達になればいい それだけの話ね」
Lim退場
詩子 「アカネあいつの事お願いね、あたしの分もリムさんの分も」
アカネ「ねぇ”茜に勝て”なんて言っちゃっていいの? 親友なんでしょ」
詩子 「だいじょぶ、あたしは全部忘れるんだもん、問題無い無い」
アカネ「詩子・・・酷いです」
詩子 「あははははは」
暗転
〜 雨に打たれて咲く花 〜
7月12日(日) 私の家(BGM:虹をみた小径)
茜登場
茜 「おはようございます」
私 「茜おはよ・・・こんなに朝早くに・・・どうした?」
茜 「デートしませんか? ずっと家の中に居るのは身体に悪いです」
私 「断る理由は無いな・・・・で、プランは?」
茜 「ありません」
私 「なら近所を回るか・・・・雨が降らなきゃ公園で日光浴っていうのもいいな」
茜 「あ、背中にキノコが生えてますよ」
私 「食べられそう?」
茜 「きっと毒キノコです」
私 「残念、備蓄食料に頼らない自給自足の生活が出来ると思ったのに」
茜 「そうですね」
私 「バカな話はこれぐらいにして・・・出かけるかな?」
茜 「はい」
路地:私と茜
私 「そろそろ梅雨明けかな?」
茜 「日差しも強くなりましたね」
私 「商店街のファーストフードで朝飯・・・・まずはそれでいいか?」
茜 「はい」
私 「じゃ、場所は任せた」
茜 「アップルパイがいいです」
私 「んー?どこだっけ? アップルパイがあるとこ・・・・
牛丼屋のメニューには確か無かったと思う」
茜 「ハンバーガーシ・・・・」
私 「そっかそっか、あそこにはアップルパイもありそうだ」
茜 「はい」
商店街:
この時間に空いている店は少なく
コンビニ、ファーストフード、非認可のゲームセンター等が細々と
営業している程度で、ウインドウショッピングしても余り面白くはない
茜 「公園で食べませんか?」
私 「花見をした公園か・・・少し距離はあるけどいっか」
ハンバーガーショップに入ろうとした時、対面のゲームセンターから
見慣れた顔が出てきた
茜 「詩子・・・ですよね」
私 「しかし・・・この時間になんであんな場所から出てくるかな?」
詩子 「あ・・・・・茜・・・・おはよう」
茜 「詩子どうしたんですか? まさか一晩中ゲームセンターで?」
詩子 「違う違う、なんかムシャクシャしてたから・・・
一時間ぐらいやってたんだけど・・・ボコボコにされて落ち込んでるの」
茜 「詩子、もっと他に気晴らしする方法無いんですか?」
詩子 「あ・・・・あそこなら・・・誰かに逢える気がして・・・大切な・・・」
私 「誰かって?」
詩子 「・・・誰?・・・この人・・・・・・茜の、知り合い?」
私 「!!っ」
茜 「詩子どうしたんですか?」
私 『アカネ・・・近くに居るんだろ? 詩子の様子が変だけど?』
アカネ『うん・・・詩子はね決心したんだよ、先輩を忘れる決心を・・・・
だけど・・・まだ・・・・詩子はまだ荒れてるの・・・だからそっとしておいてあげて
私が詩子の傍に居られるのもそんなに長くは無いから・・・
それまでには落ち着いて欲しい・・・・』
私 『詩子の言う”誰か”って?』
アカネ『多分リムさん 詩子は先輩の事と一緒にリムさんの事も忘れたけど・・・・』
私 『Limが居そうな所で待ってる訳か・・・・無意識に』
アカネ『次は”はじめまして”って挨拶しようって、約束して別れたから
詩子とリムさんは・・・・・・』
私 『みんな、強いな』
アカネ『詩子もリムさんも先輩に鍛えられましたから・・・・私も・・・・』
私 「そうだよ、茜さんの知り合いだ、しかもデートの真っ最中だ 行くよ茜」
茜 「え? どういう事なんですか?」
私 「引き篭もりの登校拒否児童と交わす挨拶は無いんだとさ
あいかわらず詩子はきつい事をズカズカと言う
邪魔したな・・・・詩子」
詩子 「あ・・・・茜ぇ頑張ってね!」
茜 「詩子・・・・」
私と茜ハンバーガーショップへ退場
ゲームセンターよりアカネ登場
詩子 「アカネ・・・・あたしってダメだね・・・・今、あいつの事思い出しちゃった
バカね、庇ってくれなくてもよかったのに」
アカネ「詩子 本当に先輩の事忘れていいの? 凄く辛そうだよ」
詩子 「いいの・・・これで」
7月14日(火)(BGM:雨)
モノローグ:茜
・・・最初は詩子でした 詩子があの人の事を忘れて
・・・クラスメートもあの人の事を憶えていなくて
気がついたら・・・・・
私 「茜 学校は?」
茜 「早退しました・・・・・みんなが言ってたのはこの事だったんですね」
私 「さすがに、ここまで来ると茜にも隠し通せないか」
茜 「時間は有るんですか?」
私 「確実なのは今日1日、明日は無いと思った方がいい」
茜 「酷いですね・・・・黙ってるなんて」
私 「嫌って貰えたかな?」
茜 「いいえ」
私 「だろうな」
茜 「明日はあなたの誕生日です」
私 「そして約束の日だ・・・・外に出るか
手間は取らせない 最後に行っておきたい場所がある」
茜 「判りました 他に私に出来ることはありませんか?」
私 「さすがに制服でうろつくのはまずいか」
茜 「着替えは持ってきていません」
私 「アカネの服が残っているからそれを使ってくれ
体格は同じだからサイズの問題は無いだろう」
茜 「判りました・・・・着替えるまで待っていてくれますか?」
私 「ふふ、着替えてる間に私が居なくなるとでも思っているのかな?
そんなに心配なら着替えを手伝おうか?」
茜 「…嫌です」
茜退場
程なくピンクのブラウスに着替えた茜が制服を入れた
紙袋を下げてやってきた
茜 「制服を置きに家に寄っても構いませんか?」
私 「それは・・・構わないけど 家に寄るんならここで着替えなくても」
茜 「私は早退していますから」
私 「そうか・・・」
茜の家:
家人に見つからないように玄関に制服の紙袋を置いた茜が出てくる
私 「それじゃ 行くか」
茜 「・・・はい」
〜 約束の土地へ 〜
空き地:私と茜(BGM:雨)
茜 「ここが・・・最後に行きたい場所なんですか?」
私 「茜、私の左腕の痣の事覚えてるか?」
茜 「子供の頃・・・あなたが私のスカートを・・・!!」
私 「思い出させない方が良かったのかもしれない
でも、それでは納得も出来ないと思う」
茜 「あなたは誰なんですか? その痣は私のスカートをめくったあなたを
もう一人のあなたが木刀で殴った時に出来た痣」
私 「別に私が二人居たわけじゃない、今起きている事と同じ事が
昔にもあっただけの話」
茜 「みんながあなたの事を忘れて」
私 「でも、それでは不完全、私が関わった事件での私の役を
誰かに置き換えないと辻褄が合わなくなる
木刀で殴られたのは私、殴ったのは茜が忘れてしまった人」
茜 「今・・・みんながあなたを忘れてしまった様に」
私 「その人は茜の事をずっと守っていたんだ・・・・
そしてここはその人が死んだ場所
正確には、昔そこにあった古井戸に落ちて
死んだのは担ぎ込まれた病院だったが・・・・」
茜 「でもどうして、それがあなたが居なくなるのと関係あるんですか?」
私 「その人の遺言で茜を守る事を託された・・・・
そして私はストーカーと決着を付けなくちゃいけない それが明日」
茜 「・・・・・・」
私 「そう、そいつは人の記憶を操作できるほどに厄介な相手だ」
(BGM:炎のさだめ)
私 「これが、茜に隠しておきたかった理由
みんなはもう巻き込まれて、そいつの事を知っている」
茜 「あなたが消えるのは・・・・あなたが負けるから・・・」
私 「少なくともそいつは、私に勝つつもりでいる、だからみんなの記憶の操作を始めた」
茜 「勝てるんですか?」
私 「勝算は五分」
茜 「行かないで下さい」
私 「それも出来ない」
茜 「どうしてですか?」
私 「みんなを人質に取られてね、みんなに手を出さないかわりに
7月15日に決着を付ける事を約束させた
私が約束を破ったら、みんながどうなるか判らない」
茜 「だったら・・・帰ってくるって約束して下さい」
私 「約束は出来ない」
茜 「勝算が五分だったら・・・約束して下さい、必ず帰って来るって」
私 「そいつに消耗戦を仕掛けるのが私の勝算・・・長期戦になる」
茜 「待ってます、何時までも待ってます・・・・だから約束して下さい」
私 「勝負が付くまでに・・・・ざっと100年・・・・勝ったとしても
茜が生きている間には帰って来れない だから 約束は出来ない」
茜 「どうしてこんな時だけあなたは正直なんですか?
カラ約束の一つぐらいしてくれてもいいじゃないですか」
私 「オマエが私を待つのはオマエの勝手だ、だが私は約束はしない
オマエが私を待つ事を諦めたとしても約束を破った事にはならない」
茜 「していない約束は破れない・・・・そんな・・・・酷いです」
私 「なら・・・・一つだけ約束しよう・・・必ず勝つ」
茜 「もっと・・・酷いです・・・私には何も約束させてくれないんですね」
私 「茜・・・」
茜 「なら・・・一つ約束して下さい・・・今日・・・もしかしたら明日
あなたがここに居られるまでの間は私と一緒に居てください」
私 「わかった約束する・・・それが、約束できる精一杯だろうな」
大き目の石や不法投棄された電化製品を集めて座れる場所を作る
背中合わせに無言で座る 座ってしまえば萱に隠れて
人目につかなくはなるが、なかなかに妖しい光景である
私 「茜、すまないな話題の一つも無くて」
茜 「構いません、人の扱いが器用なあなたは あなたらしくありませんから」
そしてまた無言の時間が過ぎる・・・・・
〜 あかね 〜
空き地 深夜:私と茜(BGM:A Tair)
アカネ(音声のみ)登場
アカネ『やっと見つけた・・・探してたんだからねぇ・・・・・
で、何これ? 何かの儀式?』
私 『いや・・・この世界にいられる間は茜と一緒に居る約束をしたから』
アカネ『で、話もせずにじっと二人で座ってるわけ?』
私 『うん、まぁ・・・・』
アカネ『いつから居たのここに・・・・・』
私 『昼過ぎから』
アカネ『呆れた・・・・』
茜 「誰かいるんですか?」
アカネ「っと、さすがにこれだけ静かだと気配でわかるんだ」
茜 「アカネちゃん? 何処に居るんですか?」
アカネ「すぐ近くに居るよ、姿は見えないけど
今更 別にいいよね、話す事がもう無いって言うんなら
茜にちゃんと説明はしたんでしょ」
茜 「え?」
アカネ「”え?”って先輩 説明してないの? 私の事
長話するのも面倒ね 幽霊とかお化けとかその辺の類」
茜 「アカネちゃんってお化けなんですか?」
アカネ「ね、なんか今”カチン”って来たんだけど気のせい?」
茜 「祟るんですか?」
アカネ「ねぇ、茜 先輩から何か悪い病気を映されてない?
茜がしゃべるたびに”カチン”って来るんだけど」
私 『アカネ用件は何だ?』
アカネ『うん、詩子は落ち着いたから、安心して
リムさんなんだけど、先輩ロビーに行ってあげた?』
私 『いや、あれからロビーには行ってない』
アカネ『・・・・・リムさんが一番可哀想だ・・・・』
アカネ「昼過ぎから居るんなら食事はどうしたの?」
私 「携帯食は持ち歩いてるから2、3日は平気・・・」
茜 「アカネちゃんはこの人の事を忘れて無いんですね」
私 「まぁ、茜が忘れていない間は私も忘れないよ」
茜 「あ・・・雨」
ポツリポツリと振り出した雨はすぐに本降りになった
私 「茜 雨宿りの出来る場所へ・・・・」
茜 「約束を破らないで下さい 一緒に居て下さい」
私 「だから、二人で雨宿りを・・・・」
茜 「ここはあなたにとって一番大切な場所なんですよね
あなたが最後を迎えるために選んだ場所なんですよね
ここから私を追い出さないで下さい
最後まで私と一緒に居て下さい」
私 「せめて・・・傘を持ってくるんだったな・・・」
アカネ「茜を守ってあげなよ・・・この雨から
先輩の最後の仕事だよ」
座っている茜の身体を包み込むように抱きかかえる
茜を雨に濡らさない様に・・・・胸の中に茜の嗚咽が木霊する
茜 「うっ・・・うっ・・」
私 「茜、鼻水だけは勘弁して欲しい」
もう、茜は私の軽口に反応する事もなかった・・・・
雨は衰えることも無く・・・・まるで茜の嗚咽の様に
日付は既に変わっていた・・・・約束の日に
アカネ『先輩・・・・もう人間を抱きかかえても平気なんだ
守って欲しくない約束だけはきっちり守るんだから
ホントに嫌な人・・・・』
私 『出来れば傘を取ってきてくれるとありがたいんだけど』
アカネ『嫌よ、私は茜を見届けなくちゃいけないもの
ここに残るもう一人の私を・・・・・』
雨が降る・・・・この季節にしては冷たい雨が
あの人が抱いていてくれる
あの人の鼓動が聞こえる
あの人の吐息が髪を梳く
だけど・・・身体が軽くなった
雨が肌を叩く・・・・・・
雨が思い出を押し流す・・・
今日はあの人の誕生日
今年は私が準備をした
喫茶店を貸し切って
夜の内に飾り付けを済ませて
ケーキを焼いて・・・そして・・・
楽しい誕生日に・・・
・・・最初は詩子でした 詩子があの人の事を忘れて
・・・クラスメートもあの人の事を憶えていなくて
気がついたら・・・・・
あの人の所に駆け込んでいた
あの人は・・・・
あの人は・・・・
あの人は・・・・
雨が降る・・・・この季節にしては冷たい雨が
雨が思い出を押し流す・・・
気がついたら・・・・・
・・・私もあの人の事を・・・・
アカネ『あかね ガンバレ
私が忘れていない間はあかねも忘れないよ
あかねを守ってあげなよ・・・この雨から
先輩の最後の仕事だよ
さよなら・・・もう一人の私』
〜 カーニバル 〜
TVが1台ゲーム機が1台あるだけの殺風景な部屋
TVの片隅に表示されている時刻は既に0時を回っていた
Limの部屋:Lim(BGM:遠いまなざし)
うぅぅぅ、トライの馬鹿!! 私にはさよならも言ってくれないつもり?
あぁあ、私ったら何やってるんだろ?
今からでもトライの家に押しかけたらきっと間に合うよね
それとも・・・・今ごろは誰かと最後の一時をしっぽりしてるのかしら?
詩子もロビーに来てくれないし・・・・なんか・・・私は惨めだぞ
ふと窓の外の気配に気づく
雨?いつの間に・・・・窓辺に干していた洗濯物を取り込む
ううん、ただでさえこの季節は乾きが遅いのに・・・・・
部屋の中に干しなおそうとした時、目眩を覚える
え? 消えるの・・・・直感的に自分の身に起きた事を感じ取る
そして、そのまま床に倒れこむ 薄れ行く意識の中で・・・・・
あははは、まだ、トライが居ないとダメなんだ・・・私・・・・
暗転
Limの意識が戻る
学校:
えーっと・・・・ここって学校よね・・・ここが向こうの世界なわけ?
私の想像力ってこんなにも貧困なの
現実と全然変わらないじゃない・・・・・この時間って昼休みなわけね
学食へ向かう・・・・そういやアカネちゃんと幽霊騒ぎ起こしたっけ
雑踏の中に見知った顔を見つける・・・・・
あれぇ? なんであの子まで居るの?
学食:
Lim「里村さん今日は学食?」
茜 「誰?」
Lim「えーっと・・・覚えてないかな? 1年の時同じクラスだった」
茜 「・・・・リムさん?」
Lim「当たり」
茜 「何か用ですか?」
Lim「用は無いけど、珍しい人を見かけたから
里村さんって弁当派だったよね
学食で見かけたのは1年の時も無かったから」
茜 「今日は寝過ごしてしまって・・・・」
Lim「そうなんだ・・・じゃね」
茜 「一緒に食べませんか?」
Lim「いいの? クラスの人と一緒じゃないの?」
茜 「はい」
やっぱり・・・・トライは居ないよね・・・うーん
茜 「あのリムさんは何を?」
Lim「ん? 月見狐を蕎麦で」
茜 「卵と揚げですか、おいしそうですね 私もそれにします」
昼食を始める茜とLim
Lim「ねぇどうして寝過ごしたの?」
茜の表情が曇る
Lim「ごめん、もしかしてまずい事聞いた?」
茜 「いえ・・・ただ、昨日夜更かしをしたので・・・」
うーん・・・ますます訳が判んないぞ・・・・昨日って昨日だよね?
もしかしてここって現実?
Lim「ごちそうさま」
茜 「また一緒に食べませんか?」
Lim「それは構わないけど、私はいつも学食だから会わないんじゃない?」
茜 「そうですね・・・残念です」
Lim「じゃまたね」
放課後 Limの家
もしもここが現実なら・・・・昨夜倒れた時の洗濯物がそのままあるはずよね
よし、放置された洗濯物は無し、ここは私の貧困な想像力の産物と・・・
なんか・・・侘しい・・・・商店街にでも行くかな?
あれ?また雨・・・・・うーん
商店街:
商店街の中を歩くLim
それにしても・・・・Limはゲーマーだぞ、なんなんだこの面白くも無い風景は・・・
ここで怪獣の一匹でも登場させるぐらいの想像力も無いの・・・私には
(BGM:わくわく7アリーナステージ SS版のトラック13がベスト)
『眩しい朝日浴びて飛び出そう 無限に広がる今日が始まる くよくよ・・・』*
もう聞くことも無いと思っていた・・・・昔よく聞いた歌に気が付いた
Lim「え? まさか・・・アレはとっくに入れ替えられたはずじゃ」
歌が聞こえて来た所へ駆け込むLim
Lim「ねぇトライここって現実なの? それとも向こうの世界なの?」
私 「どっちでもいいんじゃないのかな?」
Lim「そーでもないのよ ここが現実ならいいんだけど」
私 「けど?」
Lim「じゃないと・・・こんなリアリティあふれる世界しか想像出来ない自分に
幻滅してたところなの」
私 「あははははは」
Lim「笑い事じゃないわ、で、どっちなの?」
私 「勿論ここは現実だよ」
Lim「じゃあ、一発殴ってもいい?」
私 「なんで?」
Lim「昨夜私の下着に手出したでしょ? だから」
私 「っても、いきなり卒倒したんだから不可抗力でしょ
それに生乾きの洗濯物をほっとくと臭っちゃうよ」
Lim「あぁ!! 女の子にそーゆー事言わないの!! 恥ずかしいでしょうが
まぁ、昨夜のことは許してあげる・・・・で、あなた何者?」
私 「Limが想像している人物と同じだと思う」
Lim「こんなに早く勝負がつくはず無いし・・・なんで私の所に出るわけ?
まずは里村さんの所に出るのが正解じゃないの?」
私 「意味も無くここに居るわけじゃないさ
仕返し・・・・したかったんだろ?」
Lim「あ・・・ 結局、陰険Tesse使いの正体はトライだったのね・・・」
私 「私も あの時のアリーナ使いがLimだったなんて気が付かなかった」
Lim「ね・・・知ってた?・・・あの時・・・私・・・・
死に場所・・・・探してたんだよ」
私 「・・・・そんな事まで判るわけはないよ」
Lim「そーよね・・・・でも、おかげで死ぬ前に1つ
やっておかなくちゃいけない事が出来たから
これって・・・運命なのかな?」
私 「Lim?」
Lim「トライに助けられたのは今日で3回目
3回とも私は綺麗さっぱり諦めてたんだけどな」
私 「もしも、本当にLimが諦めていたんなら・・・・
3回とも私が呼ばれる事はなかったと思うよ」
Lim「”誰か助けて!”って往生際悪く私は叫んでたのね」
私 「ま、先にやることやっちゃいましょうか」
『あ、 おきゃくさま ですよ。』
一時間後・・・・・
Lim「あぅぅぅぅ、勝てない・・・・・うぐぐぐぐぐぐ」
私 「外に出ようか」
Lim「こらぁ! 勝ち逃げは許さないわよ!」
私 「ごめん、こっちがタイムリミット」
Lim「アカネちゃんと同じなんだ・・・本当のトライじゃない」
トライ「これが精一杯なんだ 私は残り香・・・私の本体は闘いを初めた頃かな?」
Lim「いいの こんな事して? 元々勝ち目の薄い闘いなんでしょ
あ・・・私を犠牲にするぐらいなら・・・」
トライ「勝つさ・・・必ず」(それが茜との約束だから)
Lim「今日トライの誕生日なんだよね、プレゼントして欲しいモノが
あるんだけどな」
トライ「ほう? なかなか大胆な要求を・・・で、何?」
Lim「トライのゲーム機、と言うかトライシーカーのキャラデータを頂戴
あのゲームはネットにアクセスするのに本体のシリアルがいるから
一式遺産として私に譲ってよ」
トライ「うーん、昨日までに言って欲しかったな もう無理だよ」
Lim「なんで?」
トライ「説明するより、実際に見た方がはやいかな?」
〜 フェスティバル 〜
路地:私とLim(BGMはカーニバルから継続)
Lim「くよくよしてても夢は叶わない 泪の数だけ そうさ強くなるのさ・・・」*
トライ「アリーナステージの・・・・」
Lim「Limはアリーナみたいな元気で明るい女の子なの
私はいつかLimにならなくっちゃ
だけど・・・それってトライそのものだよね
元気でも明るくも無いけど、泪の数だけ強くなってきた人でしょ トライは」
トライ「真っ赤な夕日浴びて走り出そう 今日がダメでも明日が始まる
ずっと信じてる夢はきっと叶う 振り向いたなら ほら 独りじゃないのさ」*
Lim「えぐっ・・・・・トライだぁ・・・・ふえぇぇぇ・・・・トライが・・・
帰ってきてくれた トライ、トライ、トライぃ!・・・ふえぇぇぇ」
トライ「Lim人が見てる」
Lim「えぐっ・・・そんなの・・・気にしないよ・・・トライぃ」
トライ「私も気にはしないんだけど
かなりイッてる女の子が道ばたで妖しい一人芝居をしてる様子は
緑の救急車を呼ばれかねない状況だと思うけど・・・・」
Lim「ぐ・・・トライ・・・一気に気持ちが萎えるような事言わないで・・・
って 誰も見てないじゃないのよ」
トライ「んーーーーー、やっぱりダメ? 泣き付かれたくは無いんだけど」
Lim「びぇぇぇぇ・・・・トライぃぃぃ えぐっ、えぐっ・・・・びぇぇぇぇ」
トライ「とりあえず着いたけど」
Lim「あ、そう・・・・!っ・・・・ここはトライの家・・・だよね?
・・・どうして、別の家が建ってるの?」
トライ「ここには元々この家が建っていたって事なのかな・・・多分」
Lim「トライが居なくなったから本来の姿に戻った・・・・
じゃトライの家は?」
トライ「別の場所に建ってる・・・・この近所だ
ゲーム機もそこにある」
Lim「私に譲れない理由は?」
トライ「誰にも見えない、誰にも触れない・・・・今の私と同じ」
Lim「トライでもダメ?」
トライ「ああ、あそこに入れるのはアカネだけ でも、アカネは向こうに行った」
Lim「どうしてアカネちゃんだけ?」
トライ「あの家には私の骸がある・・・アカネの宿主は私だから」
Lim「骸ってトライの死体があるって事!」
トライ「向こうには生身の身体を持って行けないからね
ま、まだ生きてるか・・・生きてるって状態を維持するだけなら
10日や15日は保つかな? それだけだけどね」
Lim「諦めるのトライ?」
トライ「いや 身体はアカネの為に残す予定だったから・・・もう用無しだ
ここで生きて行くには、戸籍とか住民票とかやっかいな書類があるんでね
アカネが書類上私として生きていく分には困らないようにしておきたかった」
Lim「もしかして、みんなに何か残すつもりだったの?
例えば・・・・私にはあなたを・・・
今の私はトライが居ないと消えてしまうから・・・」
トライ「2ヶ月程考えて、準備はしたけどアカネと詩子に用意したのは無駄になった」
Lim「里村さんには?」
トライ「茜には新しい男を 名前も教えようか?」
Lim「名前はいいわ トライ・・・・里村さんにあなたを裏切らせるつもり?」
トライ「茜はそうは思わないさ
”おまえは捨てられた”と・・・きっとそいつが茜に言ってくれるよ」
Lim「辛いのね」
トライ「言うなよ・・・こればっかりは自業自得だ」
Lim「本当のトライの家が建ってる場所ってまだなの?」
トライ「そこの空き地」
空き地:
トライ「ここに私の家は建っていた・・・・あるいはいずれ建つ」
Lim「ねぇトライ、ここが空き地になる前にトライの家があったって事なの?」
トライ「私が調べた範囲じゃ、空き地になる直前に建っていたのは
茜の幼稚園以来の幼馴染君の家・・・幼馴染君が亡くなった後
両親は引っ越して・・・ここは空き地になった」
Lim「トライ・・・」
トライ「この街で私と幼馴染君は同一人物だと言うことになっているから
私の家はここにあるはず」
Lim「待って、トライの家の場所に建ってた家って」
トライ「幼馴染君の家・・・・私の家とこの空き地は同じ場所を示してた
この世界から私が居なくなって、幼馴染君の家は本来の場所に現れて
私の家は見えなくなった・・・・」
Lim「トライ・・・今危ない事考えてない?
”自分は元々居なかった人間じゃないのか?”って」
トライ「例えば、本当の私は20年ぐらい未来の人間で
この空き地にいずれ家が建って・・・ある家族が引っ越してきて
その家の子が7歳の時に惨劇が起きて・・・・」
Lim「例えば・・・本当のトライはずっと過去の人間で
向こうに旅立った後 無人になったトライの家は取り壊されて空き地になった」
トライ「あんまり意味無いよな、間違いなく私はみんなと一緒に居たし
今もLimと一緒に居る」
Lim「ねぇ また泣いてもいい?」
トライ「断る それより中に入ってみないか?
昨日の今日だメモリーカードぐらいは落ちてるかもしれない」
トライ「そうね でも雨降ってるけど平気?」
Lim「使ってたのは電池不要のx4メモリだから端子が錆びてなきゃ
少々濡れても平気だと思うよ」
空き地の中に踏み込む二人 萱の中に見慣れたピンクの傘を見つける
Lim「里村さん・・・・どうしてここに?」
茜 「リムさんこそ どうして?」
Lim「私は・・・・通りかがったらピンクの傘が見えたから
こんな所でなにしてるのか気になるでしょ ただの好奇心」
茜は不自然に積まれたガラクタの山を見つめながら
茜 「…待ってるんです」
Lim「待ってる?」
茜 「私の幼な・・・・どうして!?」
Lim「あの・・・何が”どうして”なの?」
茜 「あなたは私を知っているんですか?」
Lim「まぁ、1年の時は同じクラ・・・・」
茜 「違います! 私もあなたを知っているんですか?」
Lim「・・・里村・・さん・・・・・」
(私を友達として見てくれてるんだ・・・覚えていなくても・・・)
茜 「どうして・・・・あなたが・・・泣くんですか?」
Lim「こんな所で哀しそうに淋しそうにしているのを見たら
声をかけてしまう様な関係だったのよ・・・私達」
茜 「そんな・・・私は・・・」
Lim「もう、里村さんは覚えていないんでしょうけど・・・・
私は友達だと呼べる人・・・みんなから忘れられてしまったの」
茜 「リムさん・・・あなたは・・・」
Lim「あ・・・ごめん、里村さんを責めてるつもりじゃないの
えっと、普通に生活してたって忘れる事なんていっぱいあるし
里村さんは待ってる人との大事な思い出だけを忘れなかったらいいのよ」
茜 「リムさん それってやっぱり私を責めていますよ」
Lim「ごめん・・・私こういう事苦手で・・・・」
茜 「構いません、人の扱いが器用なあなたは あなたらしくありませんから」
Lim「里村さん?」
茜 「茜と呼んでください 私は名字で呼ばれるより
名前で呼ばれる方が好きですから
私はいい友達を持っていたんですね・・・なのに私はダメですね」
Lim「無理に思い出さなくてもいいよ、私に都合の悪い事いっぱいあったし」
茜 「判りました ・・・私はずいぶんとリムさんに苛められたんでしょうね」
あなたが・・・・リムさんの後ろからあなたが見守ってくれている
そんな気がします・・・・リムさんはあなたによく似た人ですね
不器用で優しくて意地悪で・・・・傍に居てくれるだけでほっと出来る人
ハンカチでLimの泪を拭う茜
茜 「泪を拭いてください」
Lim「なんか恥ずかしいよ」
茜 「昨日・・・私はここであの人と別れたんです
私の目の前で、あの人は消えたんです
あの人が消えると同時に、私の中からもあの
人の存在が薄らいでいった
・・・顔が、声が、思い出せなくなる…
・・・でも・・私は忘れなかった・・・・」
Lim「そうか・・・その人が最後に一緒に居たかったのは茜なんだ
他の誰でもない茜だったんだ」
茜 「リムさん・・・どうゆう事ですか?」
Lim「”さよなら”さえ言って貰えなかった人も居るんだろうなって思ってね
辛いけど せめて”さよなら”ぐらいは言って貰いたくて
ずっと待ってて・・・そんな気持ちさえ裏切られて
裏切られた事さえ 忘れさせられて 頬に残った泪の跡の意味さえ
思い出せなくなった・・・そんな人が・・・居るんだろうなって・・・」
茜 「リムさん・・・泪・・・・」
Lim「・・・私はこんなに泪脆くはなかった筈なんだけどな」
ぐっと、服の袖で力強くLimは泪を拭う
Lim「待つのもいいけど、風邪引かない様に程々にするのよ
その人は茜の不幸は ぜぇったいに望んで無いから」
茜 「はい」
Lim「じゃあね 私はもう行くわ
茜 あなたに明るい未来はきっとあるから」
ふふふ、みんなの不幸は絶対に望まない あなたはそんな人でしたね
リムさん ありがとうございます 大事なことを一つ思い出せました
Lim『トライ謀ったわね』
トライ『昨日の今日だしな・・・それに雨が降ってるし・・・』
Lim『これは許してあげるつもりだったんだけど
トライがそーゆーつもりなら・・・・
私が気が付いた時、学校だったんだけど どーゆー事?』
トライ『昨夜 倒れたLimを布団に寝かせて、洗濯物を干して
朝になっても気が付かなかったから 洗濯物を取り込んで
制服に着替えさせて学校に連れて行っただけなんだけど』
Lim『私・・・・ちゃんと下着まで着替えていたんだけど
つまり、私の事 全部、見たわけね・・・・』
トライ『堪能させて頂きました 使用済みの下着は洗濯機の中に・・・・』
Lim『がるるるるぅ・・・・あははははは』
トライ『Lim?』
Lim『あはは、人間嫌いもちゃんと治ってるのね』
トライ『まぁ・・・』
Lim『今夜から随分と楽しめそうね トライ?』
トライ『お手柔らかに』
WAKUWAKU哀しみなんか WAKUWAKUふっとばすのさ *
どんな出来事が待ってるんだろう? WAKUWAKUがもう止まらない *
幕
*出典:「わくわくがもうとまらない」より SUNSOFT わくわく7(SS版)
第2章〜炎のさだめ〜 了
第3章へ続く