礎 (ISHIZUE)〜 贄 (NIE)・詩子の物語 〜

〜 第2章 炎のさだめ 〜

 〜 巫女の伝承唄 〜

夜 空き地:ビニールシートを広げている 詩子、Lim、アカネ
少し距離を置いて鎧武者(BGM:永遠)

私登場

 Lim「やっと来たわ」
 私  「みんなは見物かい?」
 詩子 「”応援”って言って欲しいわね」
 Lim「実戦モードのトライなんて滅多に見れるもんじゃないし
     左肩のはパイルバンカーね それ付けたまま歩いて来たの?」
 私  「ウチは近所だから歩いて来たよ」
 アカネ「腰の後ろのは姉さんの木刀?」
 私  「これを使わないと勝負になりそうに無いし
     しかし・・・・弁当まで広げて宴会モード爆発状態で
     応援と言われてもねぇ」
 詩子 「こんな時間だし お腹すくでしょ
     それに宴会気分のまま終わらせてくれるんでしょ?」
 私  「御心のままに」
 詩子 「ヨキニハカラヘ」
 アカネ「お弁当は詩子が作ったんだよ」
 私  「詩子が? この時間に食べる弁当を作った?」
 Lim「そーよ詩子とアカネちゃんは 今日独り暮しの私の所に泊まる事になってるわ
     もっとも詩子が今夜 本当は何処に泊まるつもりなのかは知らないけど」
 詩子 「だから、勝ってね」
 私  「ああ」

鎧武者に向き直す私

 私  「待たせたな」 
 鎧武者「・・・・・」

ナレーション:
 修羅とは 大地を揺るがし 往く者のことなり  *
 羅刹とは 大海を切り裂き 逝く者のことなり  *

 血潮の海に身を沈め 目の前の敵 全てを    *

         斬る             *

 闇が垂れ込みはじめた 暗黒が光を徐々に    *
 飲み込んでいく 待っていた時が満ちた     *

        そして             *

     そのモノが動き始める         *

 私  「いざ尋常に 一本目 勝負」

(BGM:巫女の伝承唄)

両腕を組んで仁王立ちに構える鎧武者

鎧武者に対して腰を落として半身で構える私
左の拳は軽く握って肩の高さで前に突き出す
右の拳は身体の影に収める

鎧武者に踏み込む私 左の拳を真横に振り抜く
左の拳をカウンターウエイトにして
突進の体重を乗せた右の正拳を鎧武者に打ち込む

自らの腕をクッションにして私の拳を受け止める鎧武者

 私  「ふふふ・・・・止めたね・・・」

バックステップで間合いを取り直す私
左の拳を前に出して、同じ構えをとる私
先程と同じ様に踏み込み 左の拳を真横に振り抜く

 Lim「そんなに大振りしちゃダメ!!」

左の拳のガードの外れた私の顔面にカウンターを打ち込んでくる鎧武者
右正拳を右フックに切り替えて鎧武者の拳を弾き
踏み込んだ右足を軸に身体を回転させる私

振り抜いた左の拳が裏拳になって
カウンターを弾かれた鎧武者のこめかみを捉える
左裏拳はそのまま振り抜き 更に身体を半回転した右の正拳で
裏拳を打ち込んだこめかみに加重攻撃する

左裏拳のヒットで完全にバランスを崩した鎧武者に対して
私の右正拳は上から地面に叩き付ける形になった
骨の軋む嫌な音と共に鎧武者の首が不自然な方向に曲がる

 Lim「最初の大振りは・・・囮だったの?」
 詩子 「あいつとケンカしたくないなぁ」

地面に叩き付けられた鎧武者がゆっくりと起き上がり
2度首を横に振って、日本刀を抜く

 私  「クリーンヒットした筈なのにダメージ無しかい?」

上段から斬りかかってくる鎧武者
その斬撃を左腕で受ける私 切り裂かれる私の着衣
着衣の下のチェーンメールが刃との摩擦で火花を散らす

 私  「痛たたたたた・・・・なんて剣圧だい 腕が痺れちゃったよ」

大げさに左腕を上下に振る私・・・・そして
左肩のパイルを左腕に装備しなおす

横一閃に薙ぎ払う鎧武者
パイルの表面に施されたソードストッパーで鎧武者の斬撃を受け流す私

パン!

擦れ違いざまに乾いた爆発音が響き 硝煙の香りが立ち込める
甲冑を突き破り鎧武者の脇腹に深々とパイルが突き刺さる
だが、振り向き様に鎧武者は袈裟懸けに斬りつける
私の切り裂かれた着衣の下からチェーンメールの鈍い金属色が覗く

 私  「ふ、結局物理攻撃ではダメージにならないんだな」

打ち下ろした刃を逆袈裟に斬り返そうとする鎧武者の懐に飛び込み
正面からパイルを打ち込む

 詩子 「リムさん 今あいつのやってる事って無駄なんでしょ?」
 Lim「敵の動きにはダメージは感じられないわね
     でも牽制にはなってるみたいだから、まるっきり無駄でもないわ」
 アカネ「あの武者 私と同じで生身の身体が無いから
     姉さんの木刀じゃないと倒せない」
 Lim「真剣と木刀じゃ まともに斬りあったらトライに勝ち目は無いわね」
 詩子 「でも・・・あいつは勝つって あたしに約束した・・・・」
 Lim「ふふふ そろそろトライが勝負に出るわ」

中段に構えた鎧武者が突き込んでくる だがそれもチェーンメールに阻まれて
私の着衣を切り裂くのみにとどまる
数回の斬撃を受けた私の上半身の着衣はボロボロになり服としての機能を果たしていない
間合いを取りなおし上段に構える鎧武者

 私  『そう・・・・私を倒すにはチェーンメールに保護されていない場所を
     狙うしか無い・・・・・』

鎧武者の斬撃に呼応して左手で大地を蹴って踏み込む私 右手は腰の木刀にかける
地を這う様な低い姿勢の踏み込みは私の頭を狙った斬撃の下を潜り抜ける

狙うはさっきパイルが穿った甲冑正面の穴 鎧武者の心臓
藍の木刀を鎧武者の甲冑の穴に叩き込んで脇をすり抜ける私

 私  「勝負あったな」

背中越しに鎧武者に話しかける私
藍の木刀が鎧武者の魂を蝕み朽ち果てさせる

 鎧武者「おぉぉぉ・・・・・」
 私  「その木刀を引き抜けば助かるよ 私はあんた個人に恨みがあるわけじゃない
     勝負さえ付けば あんたは満足なんだろ?」
 鎧武者「・・・疲れた・・・もう・・人を恨み続ける事も・・・・無い
     真の・・・瞳を・・・失うこと無く・・・生きろ
     ・・・よくぞ我を討った・・・・感謝する・・・・」

ガラガラと崩れ落ちる甲冑 その甲冑のかけらも地面へ落ちると霧散する
全てが消え果ててから振り返り藍の木刀を手に取る私

 私  「これが・・・・私の行き着く先か・・・・
     破滅の中にしか救いの無い道・・・・・」

中天の月を仰ぐ私

 私  「藍・・・・」

 Lim「私とアカネちゃんは帰るから 詩子 トライをよろしくね」
 詩子 「細い・・・・あんなに線の細いあいつなんて 初めて見た・・・・」

 Lim「トライがただ闘う為にだけ闘った人 討たれる事でしか救われない想い
     トライの未来の姿 ・・・そのひとつ」
 詩子 「リムさんだって、アカネだってあいつの支えになれるじゃない」
 Lim「今回は私には無理 トライと傷を舐めあう事は出来ても支えにはなれない」
 アカネ「私は人間じゃないからダメ」
 Lim「それにね詩子 一番大事なのは トライが好きな子じゃないとダメなのよ」

宴会の片づけを始めるLimとアカネ
 アカネ「私は・・・先輩の・・・生き様と・・・死に様を・・・」

私の背中を抱く詩子

 私  「詩子・・・」
 詩子 「何も言わないで 今みたいに線の細いあんたは見た事なかったよ」
 私  「そんなに・・・細いか・・・」
 詩子 「今にも・・・どこかに消えてしまいそうなくらい」
 私  「・・・・アイツも・・・・藍もそうだった・・・」

暗転

*出典:「侍魂SAMRAISPIRITS」より SNK(HYPER NEOGEO 64 通称 N64)
   あと・・・MVS版侍魂 斬紅郎無双剣 からも引用有り


 〜 鋼の翼 〜

私の部屋:ベットに座っている私と詩子(BGM:A Tair)

 私  「さすがに今回は堪えたよ あれが私の末路なのかな?」
 詩子 「そうね 今のままなら そうなるのかもね
     でも、”今のまま”は何時までも続かないわ
     7月15日は必ず来るもの」
 私  「私との闘いの中に逃げるのもありか・・・」
 詩子 「責任は取ってくれるのよね?」
 私  「うん ひとつ ふたつ壁が残ってるから
     これからが大変だ・・・・」
 詩子 「壁って?」
 私  「人間と付き合う事 そしてその人を守る事
     その為に誰かを傷つける事になっても
     逃げ出す道を選ばない事・・・・」

 詩子 「それを判ってるんなら なんであんたの線がそんなに細いの?」
 私  「簡単だよ・・・・自信が無いから
     理屈では判ってもいても 今まで出来なかった事だから」
 詩子 「でも・・・昔のあんたならそれが出来たじゃない
     誰を傷つけても平気だったじゃない」
 私  「昔に戻りたい・・・そう言ってるんじゃ無いよ
     あの頃は・・・自分以外の人の事なんてどうでもよかっただけ
     今はみんなを傷つけたくない・・・・・そして
     大切な人の為に他の大切な人を傷つける覚悟が私に出来るか?」

 詩子 「そんな事言い出したら あたしにだって自信が無いよ
     あんたを責めるつもりで”責任取って”って言ったんじゃ無いのよ」
 私  「判ってる・・・でも7月15日は必ず来る
     詩子の為に茜を見捨てなければならなくなる日が」
 詩子 「あたしの為に茜を見捨てたあんたか・・・・見たくは無いわ」
 私  「詩子か茜・・・その二者択一を迫られた時の覚悟は必要だよ」

 詩子 「もっと素直に告白してよ」     
 私  「素直なつもりだけど
     代償を払わなければいけない事 それを今まで避けていた事
     自分の手を汚さずに人を好きにはなれない事・・・・いろいろと」
 詩子 「”真の瞳を失うこと無く”って・・・・まっすぐに生きる事じゃないの?」
 私  「まっすぐに生きる・・・しかし、それに縛れない事
     それが”真の瞳を失うこと無く”の意味だと思う
     人の恨みも憎しみも乗り越えていく事」
 詩子 「”生きろ”・・・・自分の様に憎しみに囚われる事無く
     哀しみに押し潰される事無く・・・・・・
     真の瞳を失うこと無く・・・・・まっすぐに」

 私  「詩子・・・あの時の・・・・病院でアイツが私に会いたがった時の
     アイツの気持ちがやっと判ったよ・・・・・
     アイツは自分の限界を感じてたんだな・・・・
     私はアイツの支えにさえなってやれなかったんだな・・・・」

 詩子 「あんたが頼りにならないんだったら 藍はあんたに茜を頼んだりしないよ
     もしも・・・そんな藍が普通の女の子に戻れる事があったんなら
     あんたと一緒に居た時じゃなかったのかな?」
 私  「そうかな? 私はただアイツを追いつめていただけじゃ無かったのかな?」
 詩子 「あたしなら・・・もしもあたしだったら・・・・
     強いあたしを演じなくても一緒に居られる人は、あたしの弱さを見せられる人は
     私を守って欲しい人だけ 私を愛して欲しい人だけ だよ」

 私  「なら・・・アイツを守れなかった私は・・・・アイツの気持ちさえ裏切ってたんだな」
 詩子 「結果なんてどうでもいいのよ
     ”私を愛してくれた人”じゃなくて
     ”私を愛して欲しい人”なんだから
     もしもね いつかあたしがその人に振られる事になっても
     今、私を愛して欲しい人には変わりないもの」
 私  「詩子・・・自分で言ってて恥ずかしくないか?」
 詩子 「ん? 少しは元気が出たみたいね
     いいじゃない 少しぐらい恥ずかしくたって それであんたに元気が出るなら」
 私  「ふふ・・・弱い自分を見せられる相手か・・・・」

 詩子 「そ、それが藍の本当の気持ち・・・・ちゃんとあんたはその気持ちを受け止めたじゃない」
 私  「いや・・・・そーゆーつもりで言ったんじゃないんだけどな」
 詩子 「その告白は気持ちを態度で示せるようになってから言った方がいいよ もっと素直な言い方で」
 私  「まずは、人間嫌いを治すところから始めないとな・・・・今夜は付き合って貰えるのかな?」
 詩子 「あたしは最初からそのつもりだけど」

暗転

朝 私の家 キッチン私と詩子(BGM:日々のいとまに)

 私  「しかし・・・朝飯がコーンフレークとは・・・・」
 詩子 「そりゃ 昨夜あたしをあんなに可愛がってくれたお礼よ」
 私  「詩子・・・怒ってる?」
 詩子 「情けないだけよ・・・・二晩続けて卒倒されたんじゃ・・・・あたしって何?」
 私  「そーゆー事態も想定してコーンフレークを用意してたって事かな?
     それとも始めからコーンフレークのみだった?」

 詩子 「何の事かな?」
 私  「何の事なんだろうね・・・・
     みんなの弁当作ったりして 練習はした筈なのに
     時間がかかり過ぎて・・・・朝飯に間に合うモノじゃなかった」
 詩子 「それなら・・・いっそ・・・・シリアルにでもした方が」
 私  「何か一品作ろうか?」
 詩子 「お願い」

フライパンでベーコンを炒めて卵を落としてスクランブルエッグする

 詩子 「速い・・・・フライパンで卵崩してスクランブルにするの?」
 私  「そ、速いし他に何も汚さないし
     まぁ手間かけて美味しい物作るのもいいけど
     そこそこの物をさっと作る方法も覚えたほうがいいよ」
 詩子 「アカネが朝ご飯をあんたに任せたのが良く判るわ」     
 私  「アカネにもプライドがある筈なんだけどね」

 詩子 「あの子も料理は得意な方なんだろうし・・・・・
     でもアカネは中学生の頃の茜なんだね
     藍が生きていた頃の茜・・・
     他人の顔色を伺って少しおどおどしてたけど明るかった頃の茜」

 私  「人間は変わって行くものか・・・良くも悪くも」
 詩子 「あんたには変わって欲しくないな」
 私  「ふふふ それも無理な話だよ もう変わりつつあるから」
 詩子 「正直・・・怖いよ  あたしが知らないあんたは」
 私  「そこまで大きくは変わらんよ」
 詩子 「でもね新鮮なんだよ あたしが知らないあんたは」
 私  「結局 詩子はどっちがいいのかな?」
 詩子 「それは あんた次第」
 私  「そっか じゃ朝飯にするか」
 詩子 「うん」

暗転

私の家 玄関:玄関より出てくる私と詩子

登校中の茜登場(BGM:雨)

 茜  「どうして・・・詩子が・・・・」
 私  「賭けに勝ったんで朝飯を作って貰った」
 茜  「・・・賭け?」
 私  「そう、昨日・・・・無敗の王者と勝負して
     勝ったら詩子が朝飯を作るって賭けをして」
 茜  「ゲームセンターで? 私も誘ってくれれば・・・・」
 私  「茜はあーゆー場所は好きじゃないからね」
 茜  「私は・・・・仲間外れにされる方が嫌です」
 私  「そっか・・・・次は気を付けるよ」

 詩子 「茜・・・・ごめん」
 茜  「詩子?」
 私  「詩子 私は嘘は付いてないつもりなんだけど?」
 詩子 「それは・・・そうなんだけど・・・
     やっぱり・・・茜 ごめん」

駆け出す詩子 詩子退場

 茜  「アカネちゃんは一緒じゃ・・・ないんですね・・・・」
 私  「ああ」
 茜  「だから・・・・詩子は・・・・」
 私  「茜・・・人には翼がある 空に憧れた人には
     そして、天使でも悪魔でもない人の背中には
     全ての柵を断ち切って舞い上がる為の鋼の翼がある」
 茜  「鋼の・・・翼? 何の事?」
 私  「ただその翼は時として他人を傷つける
     所詮 人は天使でも悪魔でもないのだから・・・・」

言葉をためらう茜 しばらくして
 茜  「あなたと詩子にとって 私は柵なんですか?」
 私  「そこまで酷いもんじゃない
     ただ詩子は茜を傷つけるかもしれない結果をためらってる」
 茜  「あなたは平気なんですか?」
 私  「平気では無いけどね・・・・
     でも、ためらっていては前には進めない」
 茜  「酷い・・・人ですね・・・本人の前でそんな事言うなんて」
 私  「嘘はつきたくは無い・・・でも、いつまでも隠し通せない」
 茜  「だから・・・アカネちゃんは一緒じゃ無いんですね・・・・
     私は・・・・・先に学校へ行きます・・・・」
 私  「茜・・・」

 茜  「私に構わないで下さい! 私をひとりにし・・・な・・・」

言葉を噤む茜 茜退場

 私  「あかね・・・・わたしは血を吐きながらでも・・・未来を目指すんだよ
     その重荷に わたしが耐えられないのだとしても」

暗転

 〜 HONEY MOON 〜

モノローグ:茜(スポットライト BGM:追想)
 あの人と詩子が・・・・・ううん、ずっと詩子はあの人の事を気にしてたじゃない
 あの時だって・・・元気の無かったあの人の為に私の財布を古井戸に詩子が・・・・
 あの人の為に・・・・?・・・・私は・・・?

 ・・・・ううん・・・・私は詩子におめでとうって・・・おめでとうって・・・
 言わなきゃ・・・・おめでとうって・・・・ううっ・・・おめで・・・とう・・って
 
泣き伏す茜

喫茶ぬくれおちど 土曜の午後:詩子とLim

 Lim「で、昨夜はどうだったの?」
 詩子 「一昨日と一緒・・・・あいつ途中で寝ちゃったの」
 Lim「あらまぁ、そんなに失礼な奴ならトライを私に譲らない?」
 詩子 「嫌よ あいつはあたしのモノだもん」
 Lim「そんなぁ少し分けてよ 詩子のケチ」

 詩子 「ねぇ・・・・リムさんあたしはどうしたらいい?」
 Lim「トライの人間嫌いを治す方法?」
 詩子 「リムさんにしか判らないと思って・・・・」
 Lim「それが判ってたら 私の人間嫌いも治ってるわよ」
 詩子 「リムさん あたしの事 好きよね だったら・・・・」
 Lim「それはトライも同じ でもそれと人間を受け入れられるかは別よ
     そーね・・・・私なら、多分トライとなら大丈夫だと思う
     そのチャンスは詩子にはあると思うわ だから無駄にしないで」
 詩子 「あたしとならあいつも大丈夫って言いたいの?」
 Lim「私の一番大切な人なんだから 乱暴に扱わないでね」

 詩子 「”たった1人の大切な人”でしょ?」
 Lim「人間は・・・他人を不幸に突き落とした数だけしか幸せになれない
     私はそう思ってきた 多分 トライもそう思ってる
     だから・・・私は不幸になっちゃいけない
     トライと詩子の事で私は不幸に突き落とされちゃいけない」
 詩子 「リムさんあなたは」
 Lim「私だって幸せになりたいのよ
     トライと詩子を祝福出来ないなら 私の人間嫌いはきっと治らない
     トライも詩子も私の大切な人だもの
     私はLimをトライと詩子を祝福できない人間だとは思ってない」

 詩子 「なんかやりにくいわね もっと私に食ってかかったら? リムさん」
 Lim「もしも・・・誰も犠牲にせずに幸せになれる方法があるのなら・・・・
     誰も犠牲に・・・誰も不幸にしない事が私の幸せなら・・・・」
 詩子 「うまく言えないけど リムさんそれ間違ってるよ・・・・
     間違ってると思う・・・・」
 Lim「そう だから詩子はもっと強くなって・・・そしてトライを支えてあげて
     あの人が誰かを犠牲にする その重荷を支えてあげて」
 詩子 「だからもっとあたしに・・・・”トライを取らないで!”って」
 Lim「私はトライと同じ・・・・あの人の苦しみは私の苦しみ
     あの人の哀しみは私の哀しみ・・・・でも
     私には勇気が無い 今のこの小さな幸せを壊すかもしれない
     一歩を踏み出す勇気が無い」

 詩子 「リムさんそれじゃダメだよ もっと元気出さないと」
 Lim「ふふふ、詩子 誰に向かって言ってるの?
     私? それとも トライ?」
 詩子 「うぅぅ・・・あたし・・・あいつに言ってるつもりになってた」
 Lim「だよね 私は詩子の恋敵だもんね」
 詩子 「だからもっと恋敵らしくしてね 不戦勝は嫌よ」
 Lim「トライの気持ちがはっきりしてるのなら 不戦勝も何も無いんじゃない?」
 詩子 「だからぁ・・・」
 Lim「トライが幸せなら私も幸せなの 私はまずここから始めないと」
 詩子 「リムさん自身はどう思ってるの?」
 Lim「私は悔しい・・・・でもそれは詩子には言えない
     本当の私はそれくらいイジイジした人間だもの・・・
     でもLimは笑って”おめでとう”って言えるよ
     恨んじゃいけない人だもの トライも詩子も・・・・」

 詩子 「結局 あたしはどうすればいいのよぉ!」
 Lim「詩子がトライの為にしたいと思った事 それをすればいい
     トライは詩子の気持ちを踏みにじったりしないよ」
 詩子 「あたしがあいつの為にやりたい事・・・・
     でも、それがうまくいかないから悩んでいるんじゃない」
 Lim「だったら・・・トライを信じて待っていればいいのよ」
 詩子 「うぅぅ それってあたしの性分に合わない」

暗転

アカネ(スポットライト)

 「私は・・・・先輩の生き様と死に様を・・・・」
 『そうやって思い詰めるのはやめてほしいな』
 「無茶な事言わないで 私が思い詰めるような事を言ったのはあんた達じゃない」
 『それについては謝るよ』
 『でも、ボク達としては茜にも認めて欲しかったんだ』
 『ボクの生き様を』
 「待って・・・もしも 茜が・・・私が先輩の生き様を認めたらどうなるの?」
 『どうにもならない』
 『何一つ変わらない』

 「・・・・落ち込んでる私を見て楽しんでるわけ?」
 『違うよ・・・今のまま何も変わらない』
 『そう、最後のボクと詩子の幸せは壊させはしない』

 「!?・・・茜を諦めるって言うの?」
 『ボク達は1人じゃない』
 『もしも、ボクに救われる道があるのなら』
 『反旗の一つぐらいは掲げるよ』
 「あなた達って、何者なの?」

 『何百人もいるボク達の中で』
 『まだ、こっちの世界に来る事が出来る』
 『君達が希望だと信じている極一部』
 『だからアカネには見届けて欲しい』

 「茜に・・・」
 『ボク達は茜が一番大事』
 『でも、アカネがボクの生き様を認めてくれるなら』
 『それで十分』
 『でもアカネには気負って欲しくないな』

 「私に何をさせたいのですか?」
 『なにも・・・ただ見届けて欲しい』
 『それだけ』
 『茜の様に否定する事無く』
 『拒絶する事無く』
 『ボクの生き様を』
 『願わくはボクにも幸せな未来を』

 「あの人の過去を認めて・・・許して・・・・」
 『お願い出来るかな?』

 「私にあの人の事を諦めろ そう言うのですか?」
 『いや、詩子と争いたいのならそれでもいい』
 『ボクをボクとして見ていて欲しかった』
 『茜には』
 『ボク達には茜しか居なかったから』

 「でもあなた達は私を連れて行くのでしょ?」
 『そうだね ボク達の総意としては』
 『でも、今ここに居るボク達は』
 『高校2年の夏休みを茜と過ごした』

 『あの時の・・・・・・』
 『あの時 茜が認めてくれたなら』
 『ボク達の闘いは終わっていた・・・・』
 『でもダメだった・・・・』
 『何度やり直しても』
 『茜は認めてくれなかった』

 『嫌われてもよかったんだ』
 『そ、輪廻を終わりに出来た』
 『茜への想いと共に・・・静かに・・・』

 「私は・・・茜に捨てられた茜
  あの人を認められなかった茜じゃない茜」
 『君達はボク達が守るよ』
 『それは違うよね』
 『ボク達の幸せはボク達自身で守る』
 『そうそう ははははは』

 『そう・・・・全てのボク達を道連れにして』
 『茜への想いと共に』
 『静かに消えていく』
 『あの時には出来なかった事を』
 『今度こそは・・・・・』

 『だからアカネには見届けて欲しい』
 『最後のボクの生き様と死に様を』

 「願わくはあの人に幸せな未来を」

再び 喫茶ぬくれおちど:詩子とLim(BGM:潮騒の午後)

私登場

 私  「よぉ」
 Lim「あら 邪魔者は退散したほうがよさそうね」
 私  「からかうなよLim」
 Lim「なに? 二人の仲を私に見せつけるつもり?」
 私  「だから からかうなって」

二人の対面に座る私

 Lim「まさか、二人きりになったら間が持たないなんて
     言うんじゃないでしょうね」
 私  「カラ元気も度が過ぎると痛々しいよ」
 Lim「そう・・・じゃ、やっぱり当てつけ?」
 私  「そうじゃないが・・・・・こうなる事が判っていてやっているんだから
     どう思われても弁解のしようが無い」

 Lim「おめでと・・・・でもね、今の私にはこれが精一杯のカラ元気よ」
 私  「すまないな・・・・」
 Lim「いいの・・・次は私の番だから・・・・きっと
     トライの行く道は私の行く道だから」

 詩子 「リムさん・・・・えーと・・・」
 Lim「そーね、トライは詩子にあげるから
     そのかわり いい人を私に紹介しなさいよ
     詩子の学校にだってそれなりに居るんでしょ い・い・ひ・と」 
 詩子 「えーっ 根暗好みの変態なんて居ないよぉ」
 Lim「ひどーい・・・誰が根暗ですって?」
 詩子 「えーと リムさんならゲーセンでいくらでも釣れるんじゃないの?」
 Lim「私に勝てる人が居るなら・・・・ね・・・・?」

 詩子 「どうしたの?」
 Lim「ゲーセンで私に勝った人・・・・」

私の顔を見上げるLim

 Lim「ねぇ トライ 中学3年の春休みにゲーセンで女の子と勝負しなかった?」
 私  「中学卒業した後? ・・・・・確かしつこいアリーナ使いに絡まれた事が」
 Lim「やっぱり・・・そうだったんだ  そのアリーナ使いは私」 
 
 私  「でも、雰囲気が全然違うんだけど・・・なんか思いつめてた風で
     やたらと私に突っかかってきて・・・・・」
 Lim「持っていた小銭全部使い切っても1勝も出来なくて 悔し泪を浮かべて逃げ帰った」
 私  「なんか後味が悪い勝負だったな」
 Lim「ちょっとね、仲の良かった子と別の高校になってむしゃくしゃしてた時だったから」

 詩子 「別の高校って?」
 Lim「同じ高校に行くって約束してたんだけど・・・・
     その子ほんとは別の高校受験してて・・・」
 私  「なんか どっかで聞いたような話だな 詩子
     オマエも茜と同じ高校に通うって約束してなかったか?」
 Lim「詩子の裏切り者ぉ」

 詩子 「私は別に・・・ただ、あんたと茜を・・・・・
     ”裏切り”って・・・そっか・・・リムさんにもいろいろあったんだね」
 Lim「あ・・・うん でもいいの おかげでトライにも みんなにも出会えたし」

 詩子 「初恋の人・・・・か・・・」

 Lim「え? なに? 詩子よく聞こえない」
 詩子 「仲の良かった子に裏切られてむしゃくしゃしてたのね リムさん」
 私  「あの時の・・・気配はもっと鬼気迫るものがあった」
 Lim「恥ずかしいからそんな昔話はもうしないで
     ゲーセンで憂さ晴らししてた時に、私より強い人にあたって
     ボコボコにされただけだったんだから」

目を伏せるLim 

 Lim「そっか・・・あの時 私を助けてくれたのもトライだったんだ」
 詩子 「リムさん大丈夫?」
 Lim「大丈夫・・・大丈夫だけど、二人の仲を見せ付けられるのは辛いなぁ」
 詩子 「うぅぅぅ じゃ、これからカラオケに行こ もちろんこいつの奢りで」
 私  「詩子ぉ・・・・」
 Lim「私の失恋祝賀会ね」
 詩子 「リムさん・・・・それ日本語の使い方間違ってる」
 Lim「あら? 二人の仲を見せつける会かしら?」
 詩子 「あの・・・リムさん怒ってる?」
 Lim「うん ちょっとだけ」

一同退場

私の家:私と詩子(BGM:A Tair) 

 詩子 「今日は家に帰るわ あたしに手を出すなら今の内よ」
 私  「だから、それはまだ無茶な要求だって」
 詩子 「今あたしを愛してくれないならリムさんを選んで・・・・
     彼女友達に裏切られて自暴自棄になってたって言ってたじゃない
     今彼女を楽にしてあげられないなら、彼女を選んで」
 私  「Limが頑張っていられる間に・・・・か」
 詩子 「今日は暗くなる前に帰りたいからよろしくね」
 私  「ギャラリーが約一名いるんだけど平気かな?」
 詩子 「????アカネが覗いてるの?」

 アカネ登場

 アカネ「覗いてなんかないわよ 様子見に来ただけじゃない」
 詩子 「これって・・・・この間と同じ」
 アカネ「私はシャワーの用意をしてここで待ってるわ
     詩子! あんたはやる事 さっさとやって来たら!! へへ」
 詩子 「アカネ・・・あなた・・・」
 アカネ「あの時 私はちゃんと見届けなくちゃいけなかったんだ
     なのに詩子にあたってばかりで・・・私は・・・・
     だから、仕切りなおさせてね」
 詩子 「覗かないでね」
 アカネ「そこまで悪趣味じゃないわ」
 私  「・・・・逃げ場は無しか」 
 詩子 「観念してね」

詩子 私を引きずりつつ退場
アカネにスポットライト(BGM:永遠)

 「私はちゃんと先輩の生き様を見届けるわよ だから、みんなをちゃんと守ってね」

 『約束は約束だ、ボク達に出来る限りの事はする』

 「私 ひとつ思い出した事があるの・・・・・
  向こうの世界の事・・・・・真っ暗で何も無かったけど
  不思議と安心出来た・・・・今先輩の傍に居る時みたいに」

 『別に・・・ただボク達は茜が不幸になる事を望まないだけ』
 『それがどんなに小さな茜だったとしても』

 「あなた達が守ってくれなかったら、茜に捨てられた私は消えていたんでしょうね」

 『忘れたモノなら 思い出せばいい』
 『捨てられたモノは戻って来ない』
 『君が茜だったから』
 『ただそれだけ』 

 「でも・・・ありがとう・・・あなた達が居なかったら私はみんなに遭えなかった」

 『うれしいな』
 『はじめてだね』
 『アカネがボク達にそんな事を言うのは』
 『十分過ぎるね』
 『見届けてくれるだけでよかったんだから』
 『きっと終わらせるよ』
 『全ての柵を』
 『今、ここに居るアカネの為に』
 『願わくはアカネに幸せな未来を』

 「・・・あ・・・・」

 『人として生きて 人としての幸せを』
 『ボク達の分も』
 『捨てられて吹き溜まるしかなかった』
 『想い達の希望を』
 『願わくはアカネに幸せな未来を』

 「うん・・・みんなの分も頑張ってみる」

 『アカネはいい子だ』

 「子供扱いしないで」

 『子供だったんだ』
 『ボク達の所に来た頃のアカネは』
 『こんなに立派になって・・・』
 『ふふふふ、邪魔したね』
 『もう ここに来る事も無い』
 『全てが終わったなら』
 『もう2度と』

 「待って」

 『何?』

 「痴漢はどうするの? このまま夏休みに入ったら 茜が痴漢に襲われるんでしょ?」
 『問題無いよ』
 『普通の人から見たらボク達は幽霊みたいなモノだから』
 『幽霊らしく振る舞っていれば』
 『痴漢も逃げるさ』
 『アカネ 用はそれだけかい?』
 『ボク達に何か頼みたい事は無いかい?』

 「挨拶ぐらいして行ってよ」

 『じゃぁ・・・また遭う日まで』
 『so LONG. GOODBYE』

 「いつか、きっとお礼を言いに行くから  それまで・・・さよなら」

バスルームから髪を拭きながら詩子登場(BGM:遠いまなざし)

 アカネ「詩子・・・・もう・・・終わったの?」
 詩子 「アカネ 泣いてるの?」
 アカネ「古い友達が遠くに行くからって、さよならを言いに来たんだ」
 詩子 「古い友達?・・・そうなの・・・・」
 アカネ「先輩は?」
 詩子 「今シャワー浴びてる」
 アカネ「一緒に浴びればよかったのに」
 
 詩子 「あいつ 一緒に入るの嫌がってねぇ」
 アカネ「・・・・・・」

私登場

 私  「とりあえず 日が暮れる前には間に合ったぞ」
 アカネ「そんな・・・ムードも何も無い事を・・・・・
     あ・・・先輩・・・みんなが”さよなら”って・・・・」
 私  「みんなって?」
 アカネ「みんな・・・・」
 私  「????」

 詩子 「それじゃ あたしを送って行ってね」
 私  「ああ」
 詩子 「空き地に寄っていこ 藍に報告したいから
     それと よかったね アカネ みんなと仲直り出来て」
 アカネ「うん」

暗転 

 〜 黒南風(くろはえ) 〜

 雨が降る・・・・この季節にしては冷たい雨が
 雨が思い出を押し流す・・・
 ・・・最初は詩子でした 詩子があの人の事を忘れて
 ・・・クラスメートもあの人の事を憶えていなくて
 気がついたら・・・・・

空き地 夕暮れ:私と詩子(BGM:雪のように白く)

 詩子 「あんたは夕焼けよりもこのくらい暮れた空の色が好きよね」
 私  「夕焼けよりは夕闇の持つ儚さの方が好みかな」
 詩子 「違うよ・・・あんたは茜色の空より藍色の空の方が好きよね」
 
詩子は夕闇に白く浮かぶ月を仰ぐ

 詩子 「藍・・・こいつはあたしが面倒見るから安心して
              ・
              ・
     大丈夫 みんなも応援してくれてるから
              ・
              ・
     ちゃんと こいつを幸せにするから そこから見ていて」

目を伏せる詩子

 私  「もういいのか?」
 詩子 「うん 藍があんたをあたしに任せるって」
 私  「なんか 都合のいい解釈だな」
 詩子 「ね キスしよ」
 私  「おいおい さっきあれだけの負荷を私にかけておいて
     まだ足りないって言うのかな?」
 詩子 「藍に見せつけるの あんたとあたしを」
 私  「そうか」

路地:
モノローグ:茜(BGM:雨)

 あの人と詩子が・・・・・ううん、ずっと詩子はあの人の事を気にしてたじゃない
 あの時だって・・・元気の無かったあの人の為に私の財布を古井戸に詩子が・・・・
 あの人の為に・・・・?・・・・私は・・・?

 ・・・・ううん・・・・私は詩子におめでとうって・・・おめでとうって・・・
 言わなきゃ・・・・おめでとうって・・・・ううっ・・・おめで・・・とう・・って

路地から私と詩子のキスシーンを見つめるピンクの傘をさした茜

 私は詩子におめでとうって・・・おめでとうって・・・言わなきゃ・・・・

 雨が降る・・・・この季節にしては冷たい雨が
 雨が思い出を押し流す・・・
 ・・・最初は詩子でした 詩子があの人の事を忘れて
 ・・・クラスメートもあの人の事を憶えていなくて
 気がついたら・・・・・

 私は詩子におめでとうって・・・おめでとうって・・・言わなきゃ・・・・

 ・・・最初は詩子でした 詩子があの人の事を忘れて・・・・・

 詩子 「茜? 傘?」
 私  「どうした?」
 詩子 「茜が傘をさして・・・こっちを見てる」
 私  「傘って・・・雨も降ってないのに?」

 茜  「詩子・・・おめでとう」
 詩子 「茜? なんか変」
 茜  「詩子も水くさいですね 南さんと付き合ってたなんて」
 私  「南さんって・・・茜?」

 茜  「詩子 あの人を見かけませんでした? ずっと探しているのですが」
 詩子 「え? こいつは・・・ここに・・・」
 茜  「そうですか 詩子も知りませんか
     いったい何処に行ったんでしょう 困った人ですね ふふふ」

 ・・・誰?・・・この人・・・・・・茜の、知り合い?
 ・・・最初は詩子でした 詩子があの人の事を忘れて・・・・・

 茜の手をとる私

 私  「茜 どうした 様子が変だぞ」

 怯えて私の手を振り払う茜

 茜  「離してください!」
 私  「あ・・・すまない・・・・」
 詩子 「茜・・・・」
 茜  「詩子 あの人を見かけたら私が探してたって伝えてください」

 詩子 「う・・・うん・・・」

茜退場     

 詩子 「茜 あんたの事を”南さん”って なんかあんたの事が
     全然判らないって感じだった・・・・・」
 私  「・・・・これが代償か・・・・・」
 詩子 「代償って?」

 私  「判っていた事とは言え現実として付きつけられると辛いな
     ・・・・茜の気持ちを踏みにじって詩子を選んだ代償」
 詩子 「わたしが茜を傷つけた・・・・」
 私  「人は・・・万能じゃないか・・・」
 詩子 「わたしが・・・」

 私  「なぁ詩子・・・・ここで詩子にも落ち込まれると 物凄く辛い」
 詩子 「でも・・・・・」
 私  「ひとつだけ約束して欲しい」
 詩子 「約束?」
 私  「誰も傷つけずに、誰一人不幸にせずに、ただ一人で静かに消えていく事が
     私の幸せだったと・・・・後悔させないで欲しい」
 詩子 「あ・・・・うん あたし・・・あんたを支えるってリムさんと約束したんだった
     あんたを幸せにするって藍に誓ったんだった・・・・」

 私  「ここで別れるか」
 詩子 「お願い そうして・・・ちょっと一人で考えたいから」
 私  「そっちの意味でとりましたか」
 詩子 「意地悪な人・・・茜とあんた・・・幼馴染二人を無くしたくはないもの」
 私  「じゃぁ 考えるまでも無いな 答えはもう出ている」
 詩子 「そうね・・・でも、やっぱりまだ割り切れ無いかな?」

 私  「心に降る雨か・・・・」

私は星が瞬きはじめた空を仰ぐ

 〜 白南風(しろはえ) 〜

雨の空き地:茜(BGM:海鳴り)

空き地の前を通りがかる私と詩子

 私  「またか・・・・」
 詩子 「茜はあんたが帰ってくるのを ああやって待っているんだね」
 私  「ちょっと行ってくる」
 詩子 「あたしはここで待ってる あんな茜を見るのは辛いから
     雨さえ降らなければ・・・・いつもの茜なのに・・・」

空き地の中に踏み込む私

 私  「…よお、何やってんだ こんな所で」
 茜  「誰?」
 私  「誰って・・・クラスメイトの南君」
 茜  「それで?」
 
 私  「これでも礼儀は重んじる方なんだけど
     里村さん こんにちは」

 茜  「用があるの?」
 私  「そーだな、少し話をしたくて」
 茜  「何?」
 私  「こんなところで何してるんだ?」
 茜  「・・・・・」
 私  「そうか、邪魔したな」

立ち去ろうとする私

 茜  「…待って」
 私  「…なんだ?」
 茜  「ごめんなさい、やっぱりいいです…」
 私  「礼には礼をもって返して欲しいな なんだ?」

暫しの沈黙

 茜  「…待ってるんです」
 私  「待ってる?」
 茜  「私の幼なじみ 
     …この場所で別れた幼なじみを待ってるんです 
     ここが最後にその人と別れた場所だから
     私が好きだった人だから…
     だから、私はこの場所で待ち続ける…」

 私  「それにしても こんな雨の中で突っ立ってると、風邪ひくぞ」

 茜  「大丈夫です…
     馬鹿は風邪ひかないらしいから…」

 私  「結局 私の事は眼中に無いわけか・・・じゃあな」

私 空き地の外へ(BGM:偽りのテンペスト)

 私  「詩子 これからは二人一緒で茜に会うのは止めよう
     今の茜を刺激したくは無い」
 詩子 「あんたはどうなるの?」
 私  「クラスメイトの南でいい それでも茜を見守ってやれる」
 詩子 「あんたホントにそれでいいの?
     茜があんたの事判らなくなったままでいいの?」
 私  「茜の気持ちを知ってて踏みにじったのは私だ」
 詩子 「それは、あたしだって同罪じゃない」 

 アカネ『詩子それで自分を責めちゃダメだよ
     先輩は1人しか居ないんだから
     先輩が誰かを選んだら他のみんなは傷つくわ』

姿を現すアカネ

 アカネ「詩子おめでと」
 詩子 「アカネ・・・あんたは茜と同じなんでしょ?
     あんただって茜と同じ様に傷ついたんでしょ
     なのにどうして・・・・」
 アカネ「傷ついてもね、私はよかったって思ってるよ 
     ちゃんと・・・おめでとうって言えるよ
     傷ついてもね 私は不幸なんかじゃないよ
     やっと、先輩が幸せになれるんだもん
     相手が私じゃないのがちょっと悔しいだけ」

 詩子 「アカネ ありがとう だけど茜は・・・・」
 アカネ「茜だって頑張ってるよ だからああやって耐えてるじゃない
     茜はね先輩の事を許せなくても 詩子の事は許したいんだよ
     茜は壊れるギリギリの所で頑張ってるんだよ
     だから、いつもの詩子でいてあげて」
 詩子 「私を・・・許す?」
 アカネ「詩子の事が好きな先輩・・・には耐えられない・・・でも
     先輩が好きな詩子には・・・・・・
     クラスメイトの南さんを好きな詩子には”おめでとう”って
     茜はきっとそう言いたいんだと思う
     だから・・・茜の気持ちを無駄にしないで」 

 詩子 「・・・・アカネ・・・今のままでいいって言うの?」
 アカネ「うん・・・だって先輩が誰か1人を選んだら・・・・
     こうなるのが判ってた・・・・
     もしも、詩子と茜の立場が逆だったら
     詩子は茜に先輩と別れて欲しい?」
 詩子 「多分・・・あたしは別れて欲しいと思う
     茜と別れて あたしと付き合って欲しいと思う・・・・
     でも、もし、あいつとあたしが付き合ったら
     ・・・それで傷ついた茜を見たら・・・・・・」

 アカネ「先輩はそれを判ってたんだよ
     だから・・・誰か1人を選ぶ事をずっと避けてきた
     詩子もっと誇らしげな顔をしたら? あなたは勝ったのよ」
 詩子 「勝った・・・勝った人が居れば・・・負けた人が必ず居る・・・」
 アカネ「そう・・・もう勝負はついたの 詩子まで負けなくていい
     ねぇ 詩子 詩子は茜の為にやりたい事 何も無いの?」

 詩子 「茜の為に・・・あ・・・ちょっと、茜の所に行ってくる」

詩子退場

 アカネ「それにしても なんで ふられた私が骨折らなくちゃならないわけ?」
 私  「ご苦労様」
 アカネ「アフターケアは先輩の仕事でしょ もう」

 
空き地の中:茜と詩子(BGM:虹をみた小径)

 詩子 「茜ぇ これあげる」
 茜  「詩子 どうしてここに?」
 詩子 「だからぁ 茜にこれあげる」

茜にお守り袋を手渡す詩子

 詩子 「とっても御利益のあるお守りなんだからね 元気出してね」
 茜  「交通安全? 御利益って? 詩子は交通事故に遭った事が無いから?」
 詩子 「袋は交通安全なんだけど、中身が違うの」

お守り袋の中をあける茜 中から紙切れを取り出す

 茜  「この染み・・・もしかして血?」
 詩子 「うん・・・肌身離さず持っていたら、怪我した時にあたしの血がついちゃって
     でも、御利益あったから捨てられなくて・・・・・」
 茜  「これは、何ですか?」
 詩子 「初詣の時の大吉のおみくじ」
 茜  「御利益って?」

 詩子 「”待ち人来る”」
 

そして季節は巡り 初冬(BGM:ゆらめくひかり)

学食へ向かう私とLim

 Lim「最近里村さんの様子はどぉ?」
 私  「うーん小康状態って所かな?」
 Lim「詩子とは?」 
 私  「茜がいる所では会わない様にしてる」
 Lim「二股かけると大変ね アカネちゃんも居るから三股かしら?」
 私  「相変わらず 人聞きの悪い事を・・・・で、そっちは?」

 Lim「軟弱な男ばっかりでダメね」
 私  「ゲームが弱くても軟弱とは言わないと思うけど・・・・」

廊下の先を指差すLim

 Lim「ねぇこっちに来るの里村さんよね?」
 私  「最近 教室で弁当食べてないみたいだけど」
 Lim「あら、ちゃんと監視して無いとダメじゃない」
 私  「いいんだ、保護者が付いたから 小康状態って言ったろ」
 Lim「それって好転って言わないの?」
 私  「私は楽観主義じゃないんでね」
 Lim「でも、里村さん楽しそうね」
 私  「ああ」

二人とすれ違って中庭に向かう茜

学食:浩平と南(私) 

 南  「あんな楽しそうな里村、初めて見た」
 浩平 「…は?
     何言ってるのか意味不明だぞ、南」
 南  「いや、さっき廊下で里村とすれ違ったんだ
     でな、その時の里村が、やけに楽しそうだっ
     たんだ」
 浩平 「スキップでもしてたのか?」
 南  「いや、弁当持って普通に歩いてた」
 浩平 「……どのあたりが楽しそうなんだ?」
 南  「いや、何となく雰囲気がな
     オレは1年の時から里村とは同じクラスだか
     らな。何となく分かるんだ」
     (・・・よかったな 茜・・・・・・)

 ONE本編 茜シナリオへ 終幕


〜 あとがき その2 〜

ONE本編における謎の人物
恐らくは里村茜研究家でなければ判別出来ないであろう
茜の感情の変化を読み取る事が出来る南氏・・・・・

という事で、「消える」という事に対する解釈の別パターンです
茜(ヒロイン)は消えたと認識しているけど
現実には消えたわけじゃない
だけどヒロインの視点で語れば消えたという事になる

えっと・・・・後 消失にはもうひとつパターンがあってこれはアカネシナリオで使います
と言うよりは3パターンしか思いつかなかったから・・・

黒南風、白南風って言うのは、黒が梅雨入りを知らせる南風で
白が梅雨明けを知らせる南風で 俳句の季語になってます
南君=幼馴染君としたら、白黒のハエは使わないと・・・・ブーン ブーン

んー このパターンでONE本編を考えると詩子の後ろには黒幕の南君がいて
いろいろと糸を引いていると・・・・んーなんか燃えるなぁ

南君が幼馴染だとバッドエンドと辻褄は合わなくなるんだけどこれは良しとします
分岐後の各シナリオのクロスオーバーは想定していないので
(この辺が私の限界 クロスオーバーを想定してシナリオ間のザッピングを
 保証しないと・・・真のマルチシナリオとは呼べない)

鎧武者相手に「私」が最後に使った技はアンヌ・ムツベです・・・・はははは
シカンナカムイ流刀舞術をいったいどこで身に付けたんだか・・・・
藍シナリオでは牙神幻十郎と化してしまってるし・・・・はははサムスピ万歳
私のプレイキャラはタムタム全6作(新章を含めると7作)の内2作しか出てないけど
私はタム使いです(うーむ、これのどこが後書きなんだろう?)

ちゃんちゃん


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