礎〜第2章 炎のさだめ〜(2)

 〜 亀裂 〜

商店街:喫茶ぬくれおちど
モノローグ:私(BGM:虹を見た小径)

 自称アイツが近くにいるのは気配でわかるが
 私にも姿が見えないとは、よっぽど疲れていたのかな
 こんなに消耗が激しいのなら、外出する時は
 気をつけてやらないとまずそうだ

 それとも、隠れて見張っているつもりか?

 自称アイツの回復時間を潰していると
 喫茶店に茜と詩子が入ってきた
 どうやら向こうも私に気づいたようだ

 詩子 「久しぶりー、元気だった?」

 どうやら詩子には時間の感覚が無いらしい

 私  「クリスマスパーティ以来だから、かれこれ7,80年ぶりになるか」
 少しいぢめてみる

 詩子 「う゛・・・・」 目標沈黙、口封じ成功

(BGM:海鳴り)
 茜  「何をしているのですか?」茜が怪訝な表情で尋ねる

 ん? 何か不可解な事でも・・・ただコーヒーを飲んでいただけだが
 怪訝そうな茜の視線の先を追ってみるとそこには・・・

 派手な模様の巨大な、明らかに女物の紙袋が鎮座して・・・
 おおぉ、これってもしかして、とっても恥ずかしい事か?

 私  「あの袋か? まぁ、立ち話なんだから席を移ろう」
 平静を取り繕いながら、茜達に4人がけの席を示して移動した

 (こっちに来いよ)自称アイツに視線で合図を送る
 気配に僅かな変化がある、やはり見張っていたのか

 私の正面に茜と詩子、隣に姿を消した自称アイツが座る

 詩子 「あんたに あんな趣味があったんだぁ・・・
     うーん、夜な夜なほうずりして、”へへへ”って笑ってるとか?」

 詩子復活・・・なかなか楽しい事を言ってくれる

 私  「ここの所、満足に掃除もしてなかったからね
     母さんの部屋と父さんの書斎を綺麗に掃除して
     せめて、身の回りの物を飾って新年を迎えたくて
     買い揃えて来た」

モノローグ:私(BGM:永遠)

 茜と詩子の気配が変わった・・困惑の色に
 そう、二人記憶の中の私は、いや、この街での私の立場は
 「茜の幼稚園以来の幼馴染」になっている、その両親は
 今この街に住んでいないものの健在だ
 幼馴染君を失った両親がこの街を離れる事になった理由に関する事を
 忘れてしまっているだけなのだが

 しかし、私に関する記憶はもうひとつある、10年前にこの街で起きた
 忌まわしき猟奇殺人事件、両親が惨殺され、子供が一人生き残った
 少し調べれは、その時の資料が幾らでも出てくる
 被害者の名前も周知の事実だ
 今の私と、事件の被害者とを関連づけて考える事はタブーになってる
 でも、その疑問を投げかける事は出来る

 さて、どちらを選ばせる? 幼馴染君の両親の話と解釈させるか
 本当の私の両親の話と解釈させるか?

 詩子 「ごめん・・・忘れてた・・・・
     私はあんたの友達なんだよね?・・・なのに・・・どうして
     こんな大事なこと忘れてたなんて・・・友達だって思ってたはずなのに」

 詩子の方が反応が速い、それにいい判断だ
 そう、幼馴染君なら生きている両親の為に身の回りの物を
 買い揃えたりはしない
 しかし、それは私が幼馴染君では無い事を暗示している

 茜  「私、手伝います」
 少し遅れて茜が反応した なるほど、両親の話題については避けるか
 茜に対しては、タブーはタブーとして押し通したようだ

 私  「気持ちは嬉しいけど、私がやり通さないといけない事だから
     今回は辞退させて貰うよ」

 タブーとして押し通した以上意味は無いと思うが
 追い討ちはかけておくことにしよう

 茜  「そう・・・ですか・・・・」
 茜と詩子はそのまま喫茶店を後にした
 粗探しをはじめた私の相手はさせられないってところか?

 茜が見えなくのを待っていたんだろう、自称アイツが姿を現した
 顔色は大分良くなっていた、これなら心配はないだろう
 私は約束のケーキを注文した

 少女 「あなたは怖い人ですね」

 さっきの茜達とのやりとりを非難してるのだろう

 少女 「あなたは、優しい人なんですか? 冷たい人なんですか?」

 初対面から数日程度の相手から聞きたくは無い質問だが
 ある意味、長年の付き合いでもあるから真面目に答えておく

 私  「不用意に他人に冷たくあたるつもりはない、
     だけど、必要なら冷酷にはなれると思う」

 少女 「茜や詩子相手にその必要があるんですか?」

 私  「アイツが死んで以来、アイツは初めから居なかった事に
     しようとしているヤツが居る
     私は、この茶番を仕組んだヤツが残した矛盾を粗探しする」

 少女 「茜がいつか苦しむ事になるのを知っててやっているんですか?」

 私  「知っててやっている、与えられた幸せの中で安穏と過ごすより
     苦しみを知った上で乗り越えて欲しいから 茜には」
 少女 「あなたは怖い人ですね」

 私  「でも 茜が苦しむ日が来ないのならそれが一番
     ま、ケーキを食べながらする話題じゃないな 細かい話は帰ってからにしよう」

ケーキを平らげた後、私達は長居しすぎた喫茶店を後にした

 自称アイツは気づいているだろうか、私の注文したケーキは
 常人には耐えられないほどに「甘い」という事に
 そう、茜のお気に入りのあのケーキは 

 〜 アカネ 〜

私の家:私と少女(BGM:走る!少女たち)

 家に帰り着いて早々、私は自称アイツに最後のテストをした

 私  「オマエには母さんの部屋を使って貰おうと思っている
     あの部屋には、衣装タンスも鏡台もある
     掃除に人手が要るのなら手は貸すよ」
 少女 「部屋は何処?・・・・あ、私はお母様の部屋を知っている筈なの?」
 私  「親に止められていたんだろう、人殺しの起きた家には
     茜も詩子も近寄ろうとはしなかった
     親戚ですら気味悪がって放置した母さんの部屋と
     父さんの書斎を掃除してくれたのはアイツだけだった」
 少女 「あなたは私を誰だと思っているの?」

 私  「私の予想に間違いが無いなら オマエは茜の記憶の一部、
     茜が忘れた アイツの記憶だ
     だから、オマエは茜の知らないアイツの事は判らない
     私と二人でとった写真の事も、母さんの部屋も 違うか?」
 少女 「私は・・・茜の・・・・姉・・・・
     私は・・・茜に見捨てられたお姉ちゃんの思い出・・・
     だから・・・私は茜のことを・・・ずっと・・・嫉んでた・・・」

 私  「”お姉ちゃん”か久しぶりに聞いたな、アイツの事を茜が忘れて
     しまってから聞くことも無いと思っていたけど」
 少女 「私はあなたが欲しい、連れて帰りたい
     あなただって向こうの世界のほうがずっと・・・」

 私  「安易に安住の地を求めるつもりはないよ
     それに永遠なんて何処にでもある 人間が予定調和・・・
     約束された未来の中に安住の地を求める限り
     その人間にとってそこは永遠の場所になる」
 少女 「でも、どうして? ここはあなたにとっても住み難い場所じゃないの?
     向こうの世界なら誰もあなたを傷つけないのに・・・」

 私  「なに、父さんと母さんを殺された時に私が選ばなかった選択肢だからね
     虚無の永遠に安住を求める事を」
 私  「アイツが死んだ時に選ばなかった選択肢だからね
     約束された未来に安住を求める事を」
 少女 「私と一緒に帰って欲しい 私と一緒に暮らして欲しい」

 私  「”一緒に暮らすか”・・・・
     ここで私は未来を目指す・・・道は長いよ ほんとに
     気長に行こうよ・・・ね」
 少女 「私に未来も希望も無いわ・・・無いと思う・・・私にはあなた以外何も無いもの」
 私  「希望なんて普段は判らないよ、絶望の中に・・・・
     どうしようも無い程の絶望の中に居ても消される事の無い灯火
     そんなもんじゃないかな? 希望なんてね」

 少女 「私は向こうの世界で永遠にあなたと一緒に居られるのよ」

 私  「そんな予定調和には何の意味も無いな、そして、その予定調和から
     這い出そうともしないのなら、消えてしまったのと同じ
     オマエは私が欲しくて そこから這い出して来たんじゃないのかい?」     

 少女 「私は・・・あなたが欲しい・・・だけどここに・・・私の居場所は無い
     あなたは一緒に来てくれない・・・・私は・・・・」

 私  「オマエの事を”アカネ”と呼んでいいかな?」

 少女 「???アカネ????」

 私  「えっと、今日のオマエの様子は見せてもらったよ
     人格はハッキリしてるし、実体もある
     時間制限はあるが他人に姿を見せることも出来る
     この世界で1個の人間として生活してみる気はない?」

 少女 「1つ聞いていい? あなたにとっては、私が居ない方が
     都合がいいはずよね? なぜ 今の私にこだわるの?」

 私  「アカネが、今ここに居るからさ それに一緒に暮らすのがアカネの目的なら
     それぐらいのことはここでも出来るさ」

 少女 「クリスマスの時もそう言ってくれたね ”私がここに居るから”
     消えなくていいって・・・・それにアカネって呼んでくれるんだね」

モノローグ:アカネ(BGM:永遠)
 あなたは強くなった、私の知っていた頃よりもずっと・・・・
 だけど、茜・・・ううん私はお姉ちゃんを殺したんだよ
 だから、私はお姉ちゃんの事を忘れたんだよ・・・・それなのに
 ”苦しくても乗り越えて見せろ”って言うのね・・・支えてはくれるんだよね?

 少女 「だけど、この世界に”アカネ”はもともと居ないはずよね、どうするの?」
 私  「まぁね、アカネにはもう一人強い味方が居るよ」
 少女 「味方?」

 私  「この街には、予定調和を乱される事を極端に嫌うヤツが居る
     そして、私は事ある毎にヤツの矛盾をつついて
     神経を逆撫でしてやっている」
 少女 「それがどうして味方なの?」

 私  「かつて、この街には、茜と同じ姿で、違う所といえば
     髪が短くて顎に小さなホクロのあるぐらいの女の子が居た
     今は、最初からそんな女の子は居なかった事になっているが
     その女の子がこの街に居たという痕跡はいくつも残っている
     ヤツはその矛盾を埋めるためにはどんな事でもするだろう」

 私  「そして、私の目の前には、茜と同じ姿でホクロのある女の子が居る
     その子が望むならこの街にはその子が居る場所はある」

(BGM:潮騒の午後)

 私はアカネ・・お姉ちゃ・・ううん、姉さんじゃない、茜でもない、アカネ

 アカネ「私は姉さんの後を歩いていただけだったけど
     私の事を必死で守ってくれていた姉さんを忘れない
     姉さんを忘れてしまった茜じゃない
     それに、今でも姉さんの事を大切に想ってくれている
     あなたを知っている私は・・・アカネだから」

 私  「そっか、まぁ無理はするなよ 
     話を戻すけど、オマエの居場所なんだが
     ヤツにとっては気に食わないだろうが
     アカネという女の子がこの街に以前から居た事にしてくれる」
      (”姉さん”か・・・・オマエの決意だと受け止めておくよ)

 アカネ「あなたの思惑通りに行かなかったら」
 私  「その時はアイツの思い出の場所で矛盾を暴いて
     ヤツを追い詰めてやる
     アカネは存分にヤツを利用してやればいい」

 アカネ「ふふふ、やっぱりあなたは怖い人ですね」
 私  「誉め言葉として受け止めておくよ」 

 〜 時は死に時は生まれる 〜

私の家:私とアカネ

モノローグ:私(BGM:日々のいとまに)

 これからアカネが生活する母さんの部屋を掃除した後
 年明けパーティの準備を始める
 とは言っても、山葉堂等々で揃えた来た焼き菓子を温めなおすだけ

 もともと、アカネが正体を明かさなかった時の
 尋問の小道具に茜の好物を揃えたのだが
 それは、いい意味で無駄になった

 新学期になったらアカネを学校に連れて行きたいが
 今日の様子だと、人前に姿を見せていられるのは2時間ぐらい
 学校生活は無理・・・残念だ

 ま、アカネとの奇妙な共同生活がこれから始まる

 私  「なぁ、アカネ オマエに確認しておきたい事がある」

 アカネ「ん? ひゃに?」
 ワッフルをほうばりながらアカネが応える
 これがアカネの地なんだろうか?

 私  「私の事をどう思ってる?」

 アカネ「ふぎゅっ・・・っっ・・・はい?」
 慌ててワッフルを飲み込んで答える

 私  「喫茶店のケーキもそうだが、今オマエの持っているワッフル
     そこにある菓子は全部茜の好きなものだ
     私にはオマエが茜と同じ様にしか見えない」

 アカネ「うぅぅぅ・・・・なんか物凄く失礼な事を言われた気がするんですけど」

 拗ねるアカネを無視して話を続ける

 私  「正直な所 茜の気持ちに違和感を感じている
     アカネの気持ちが参考にならないかな?って思ってね」

 アカネ「えっと、茜と比べられるのは嫌だけど・・・違和感って何?」

 私  「私が茜に好意を持たれる理由が、判らない」
 アカネ「それって、私に好かれる理由も判らないって事ね なんか失礼ね」

 私  「ごめん、ただあまり人に好かれる性格だとも思ってないんで」
 アカネ「結局、茜じゃなくて 人に好かれる事があなたの違和感なのね」
 私  「大抵の人間は私の事を嫌っているからね」
 アカネ「だったら自分で確かめてみたら? ね、目を閉じて」
 私  「こう?」

 アカネ『そうそう、ね、聞こえる?』
 私  『いきなり人の中に入ってくるとは・・・』
 アカネ『いきなりじゃなくて・・・お昼からずっとここに居たんだけどな
     それに・・・あなたが私を呼んだくせに』
 私  『呼んだって?』
 アカネ『クリスマスの後、行き場の無くなった私は消えてしまう筈だったんだ
     でも 宿主様が呼び止めてくれたから 消えずにすんだのよ』
 私  『そんなことした覚えは無いんだけど』
 アカネ『だから、あなたは茜や詩子に好かれている理由に気が付かないの
     そうね 私の気持ち全部見せてあげる』
 私  『いいのかアカネ・・・プライバシーも何もあったもんじゃ無いぞ』

 アカネ『向こうに無理矢理連れて帰る事も出来ないし
     こうでもして宿主様の信用を貰っておかないと・・・・
     もう他に行き場所無いもの・・・・』
 私  『いや、だから・・・そこまで自暴自棄にならなくても』
 アカネ『ぷっ・・ねぇ自分で気が付いてる? 私みたいな幽霊もどきを
     どうして心配するのかな? そーゆー優しさが好かれる理由だと
     思うけど・・・茜や詩子みたいにあなたとつきあいの長い人なら
     好きになって当然だと私は思うんだけどな』

 私  『そんなもんか?』
 アカネ『普通は誑かしたり色仕掛けしたりで宿主に契約させて憑依く
     ものだと思うけど・・・無条件で私を助けてくれたでしょ』

 アカネ「それとさっき言った事は本気だから、私の事を信用出来ない
     って言うんだったら私は何でもするつもりよ」

 私  「いきなり”向こうの世界に連れて行く”って言っておいて
     ”信用しろ”って言うのは無理があると思うけど」
 アカネ「私もそう思うんだけど・・・こーゆー状態が成立するのはなぜ?」
 私  「さぁ?」

アカネはテーブルの上の菓子類の山を指さして

 アカネ「それとぉ 気になるのが、どーして何も食べないの?
     こんなに沢山用意してくれたのに?」

 私  「えっと、アカネのために用意したんで・・・・私は別に・・・・」

そして・・・1997年は静かに暮れる?????

 私  「うぁぁぁぁあ、だからアカネそれはオマエの為に買ったんだって
     私は食べなくていいんだって・・・・・うぁぁぁ!!」

 アカネ「そんなこと言わずに一緒に食べて下さい、とってもおいしいんですから」

          静かに????暮れる???

 私          「うぁぁぁぁあ」

               暗転
 〜 共生 〜

私の家:
 モノローグ:私(BGM:オンユアマーク)
 うげぇ・・・どうやら年中行事の中に
 「行く年来る年甘味大会」が追加されてしまったようだ
 アカネは買い込んできた量にはあき足らず
 自分で色々と作り始めるし・・・・
 早急に殺人菓子以外の作り方を覚えて貰わねば
 一年の計は元旦にあり・・・・

 「初詣いこー!!」妖怪”近所迷惑”が駆け込んで来た
 「誰が近所迷惑よ!!」どうやら妖怪には自覚が無いらしい
 「誰が妖怪よ!!」自分の事を人間だとでも思っているのだろうか?
  ふてぶてしいヤツ 
 「う゛むむむむむぅ」

玄関の騒ぎに気がついたアカネが顔を出した
 アカネ「あけましておめでとうございます」

 詩子 「なんで茜が???あれ?・・・あんた、確か昨日一人で年越すって・・言っ・て・・・
     ・・・・ぁ・・あ・・・アカネちゃん、来てたんだ、久しぶりー」

 ふふふ、辻褄合わせご苦労様 予定調和を守るのも大変だね

 それにしても、アカネやつ、自分の居場所があるかどうかを
 早速試したのか

 私  「初詣か アカネもいっしょに行くか?」
 アカネ「私は構いませんから、行ってきてください」
 私  「そうか? じゃ、詩子少し待ってて 準備してくる」

 アカネと奥に戻る、少し詩子の様子が気になるが
 リアルタイムに記憶のすり替えなんかしたら
 無理が残るだろう? いくらなんでも

 詩子 「あ・・・うん、 茜? アカネちゃん? アカネ? ???」
 
 私  「なぁ、アカネどうする? 姿を消してついて来るか?」
 アカネ「えっと、あなたと一緒に行くのはダメ?」
 私  「構わない それに”アカネちゃん”のキャラ設定は自分で
     確認しておいたほうがいいだろうし」

 アカネ「うぅぅぅ・・・どうしてそんなに無防備なのかな?」
 私  「アカネを危険な相手だと思ってないからだけど ダメか?」

 私  「おおい 詩子待たせたな これから茜を迎えに行くのか?」

私は詩子と一緒に茜の家に向かった
一同退場

路地:私と詩子、アカネ(音声のみ)
(BGM:見た目はお嬢様)

 詩子 「ねぇ、アカネちゃんの具合どぉ?」
 私  「家で生活する分は問題無いけど、長時間の外出は無理だな」
 具合かぁ・・・アカネは病弱な子って事になってるのか

 私  『だそうですよアカネさん』
 アカネ『私は病弱なんですか あなたは、どんな病名がお好みですか?
     私は白血病が可憐でかわいいと・・・』

 詩子 「アカネちゃんは何時までいるの?」
 私  「当分はうちで暮らすことになる」
 詩子 「長期療養なんだね、この街は空気がいいもんね」

モノローグ:私
 は????空気???うーん・・・
 工場はないものの交通量もかなりあるし、排気ガスも蔓延してる
 この街の空気がいい?
 どうやらヤツの想像力はかなり貧困らしい・・・・・
 それとも、辻褄合わせに疲れたか?
 なんか、やつれたヤツの姿が目に浮かぶようだ

 アカネ『ぷっ・・・あははは、なに?このイメージ、ぷはははは』
 私  『なかなか元気のいい患者さんだ、だけど、人の中で
     大笑いするのは止めてくれないかな?』
 アカネ『あっごめん、ぷっ、だって、あはははは』
 とりあえずほうって置こう

 詩子 「アカネちゃん学校とかどうするの?」
 私  「休学中 もう少し体が丈夫ならうちの学校に編入させたんだけど
     新学期が始まるとアカネが一人で家に残ることになるから
     詩子、暇見て遊びに行ってやってくれ」
 詩子 「ちょとぉ、あたしだって学校あるんだけどぉ」
 私  「いや、詩子さんは自分の学校さぼって、ちょくちょくうちの学校に遊びに来てるから」
 詩子 「そりゃぁ・・・あんたと茜がいるから って・・・じゃなくって、えっとえっと
     あんただって、従妹のアカネちゃんに手を出したらダメなんだからね!」

 私  『はじめまして、従妹のアカネさん』
 アカネ『いえいえ、こちらこそはじめまして お従兄さま
     えっと 手を出して下さいます?』 
 私  『前向きに検討し善処します』

 私  「詩子さん 手を出したら、そのままアカネにトドメを刺してしまうことに
     なるんじゃないでしょうか?」
 詩子 「ごめん、アカネちゃんに失礼だよね、聞いてたら怒るよね」
 私  「いや、本人は結構喜んでると思うよ」
 詩子 「え?」

茜の家:私と詩子、アカネ(音声のみ)
(BGM:日々のいとまに)

そんなたわいの無い世間話をしているうちに茜の家に到着した

 詩子 「茜ぇ! あいつを連れてきたよぉ!!」

 正月早々妖怪”近所迷惑”が吼える
 しかし・・・”連れてきた”か、詩子一人で来たのはそうゆうことか
 茜は茜で玄関の向こうから妖しげな気配を漂わせているし

振袖姿の茜登場
 茜  「あけましておめでとうございます」
 私  「なかなか、立派なものだ よく似合ってるよ」
 ここは、社交辞令の一つでも
 次は詩子退場の一幕か?

 アカネ『あ、私・・・綺麗・・・』
 なるほど、茜の嗜好はアカネの嗜好か
 となると、詩子は確保しておいたほうがよさそうだ

 詩子 「じゃ私帰るから」詩子が立ち去ろうとする
 私  「詩子、初詣は3人で行こう 変な気は使ってくれるなよ」
 詩子 「えっ、それじゃあんたと茜を二人っきりにできないじゃ・・・・ん?ん?ん?
     あんたぁ・・・何時から気づいてた?」
 私  「そだな、妖怪”近所迷惑”が”あいつを連れてきた”って吼えた時だな
     茜に”あいつを連れてくるから待ってて”とでも言ってうちに来たんだろ」
 詩子 「誰が妖怪よ! それにしてもこの詩子様の完璧な計画を見破るとは」
 私  「詩子様は私がここで見破ることくらいは計算済みなんだろ
     次はどう展開するのかな?」
 詩子 「ぐむむむむむむむむ」

 私  「茜、すまないが普段着を用意してくれ、荷物は私が持つから」
 茜  「はい? 普段着ですか? でもどうして?」
 私  「今うちに留守番しているやつが居るんだがな
     うちには振袖なんてないし、私には着付けなんて出来ないし
     正月気分ぐらいは味わせてやりたくてね
     初詣の後で構わないから その振袖着付けてやってくれないか?」
 茜  「留守番ですか?」
 詩子 「あぁ、茜、今アカネちゃん来てるんだよ」
 茜  「失礼なのは承知の上だが頼む」

 アカネ『えっあ・・ありがとう』
 私  『ま、気にするな 後で茜にも紹介するから』
 アカネ『従妹の病弱なアカネちゃんでぇす だけど私に演技力があると思う?』
 私  『別に・・・設定に無理があるならヤツの方が修正するさ
     アカネはアカネであればいい』
 アカネ『それが一番難しいわ、私らしさって何?』
 私  『本人に判らない物が私に判るか?』
 アカネ『なんか、無責任ね』
 私  『アカネは茜から見たアイツなんだろうな・・・仮面のアイツ』
 アカネ『姉さんの仮面って何?』
 私  『長くなるから後で説明するよ』
 アカネ『あなたにとっての私は、姉さんの出来そこないって事なのね
     でも、私らしさってもう一つあると思うんだ・・・プラスあなたの陰険さ』
 私  『いい返事だ、それだけ自己主張出来れば十分』

暗転
       
 〜 我ここに神に誓わん 〜

神社の参道:私、茜、詩子、アカネ(音声のみ)
(BGM:遠いまなざし)

 うううぅ・・・・人が・・・人が・・・人が多いぃぃ
 うみぃ・・・気が滅入るよぉ・・・・うみぃ・・・

 アカネ『あなたってそんなに人間が苦手なんだ ふぅん、そうなんだ』
 私  『今は話し掛けないでくれ・・・うっぷ・・・』
 アカネ『ああぁ! 吐き気催さないで、一緒にいるんだから』
 私  『ごめん・・・だけど・・・はぁ・・・はぁ
     これだけ人間が多いと、人の気配にむせるんだ・・』

 詩子 「ふふふ、気分悪さそうだね」
 私  「詩子、私が人ごみ苦手なの知ってて誘っただろ?」
 詩子 「そうよ、二人で初詣に来て気分が悪くなって倒れたあんたを
     茜が介抱して二人は急接近  どぉ、この完璧な計画は?」
 私  「正月らしい 実におめでたい計画だ
     計画通りに私が倒れたら、この人ごみの中で茜一人で
     対処出来ると思うか?」
 詩子 「きっと、大丈夫だよ、うん」

 茜  「顔色悪いようですけど、戻らなくて大丈夫ですか?」
 私  「茜、気にしなくていい ノルマは果たす願掛けとおみくじでいいか?
     それ以上のイベントの用意があるなら、その時は休ませて貰う」

 アカネ『ねぇ、そうやって無理するところ、あなたのいいところ?悪いところ?』
 私  『うううぅ・・・たぶん、悪いところ・・・いい結果が出た試しがない』
 アカネ『そぉ? 私は、いいところだと思うけど』

 詩子 「ねぇおみくじどうだった?」
 茜  「私は吉です」
 私  「凶だな、今年は災厄の年になるそうだ」

なるほど、私の未来を暗示しているか・・・おもしろい
 詩子 「あんた、日ごろの行いが悪いから、神様も見放したのね」
 私  「そういう詩子さんは他人に言えないようなくじが出たようですけど」
 詩子 「あんた、なんでそれを・・・あっ」

隠すようにおみくじをポケットにしまう詩子

 私  「やっぱり大吉か」
 詩子 「そうよ、あたしにあんたの厄移さないでよね!!」
 私  「いい判断だ 今年はなるべく私に関わりを持たないほうがいい」
 詩子 「・・・・あんたいったい何をするつもり?」
 私  「些細なことさ」

モノローグ:私
 願掛けか・・・・神頼みは性に合わないが
 神様とりあえずあんたには宣言しておく私の勝利を

 〜 抗う者 〜

神社の境内:私、茜、詩子、アカネ(音声のみ)
(BGM:虹を見た小径)

 私  「詩子すまない 少し休ませてくれ」
 詩子 「いいのかな? アカネちゃん、淋しく一人で待ってるんでしょ」
 私  「そうなんだけど、やっぱり少し休ませて」

 私  『アカネ少し時間稼ぐから、先に帰って準備しておいてくれ』
 アカネ『あなたは、そうやって人を・・・・』
 私  『おいおい、気分が悪いのは事実だよ、嘘はついてないつもりだけど』
 アカネ『じゃ、先に帰るね そうだあなたのそーゆー所なおした方がいいよ
     大切な人に嫌われるよ』
 私  『これから起きる事を考えたら茜や詩子に嫌われた方がいいかもな』
 アカネ『哀しい事言うのね・・・ねぇ本当に勝てるつもり?』
 私  『人間の寿命は有限だからね、100年食い止めれば
     茜の寿命は尽きる、私の勝ちさ』
 アカネ『その100年後あなたはどうなるの? あなたの大切な人はもう誰もいないのよ』
 私  『後の事は考えてない、その時は後悔でもするさ”茜を助けるんじゃなかった”ってね』
 アカネ『ふふ、哀しい事言うのね じゃもう行くね』

モノローグ:アカネ
 何もしないで後悔するよりは、やるだけの事をやって後悔したほうがいい そう言うのね
 でもほんとうにそれでいいの?あなたは

 茜  「大丈夫ですか?」
 私  「少し休めば大丈夫 流石に人が多いと疲れるなぁ」
 詩子 「人間嫌いだからねぇ、だけどあんたってこうゆうイベントは
     不思議と断らないよね なんで?」
 私  「いっしょに居られる間は、出来るだけいっしょに居たいからね」
 詩子 「まるで何処かに行ってしまうような口ぶりね」
 私  「ま、何が起きるか判らないからね ほい飴やるよ」茜と詩子に飴を手渡す
 詩子 「あんた、いつもこんな物持ち歩いてるの?」
 私  「今日みたいな外出の時は、携帯食は持ってるよ、何が起きるか判らないからね」
 詩子 「結構肝が小さいのね」

 私  「私一人なら何が起きても切り抜ける自信はあるけど
     茜や詩子の身に何か起きると大変だから」
 詩子 「なに?私や茜のこと心配して、気疲れして、気分が悪くなってのびてるの? 呆れた」
 茜  「ありがとうございます」
 詩子 「茜、さっさと行くわよアカネちゃんが待ってるんだから こんなバカほっとけばいいわ」

モノローグ:詩子
 あんたは昔からそう、誰もあんたに・・・って・・違うか
 今はあたしや茜が危ない目に遭うかもってピリピリしてるのか
 初詣に誘ったの失敗だったかなぁ あんたの神経刺激しない
 もっと静かな場所にすればよかった

モノローグ:アカネ(スポットライト BGM:偽りのテンペスト)

 それにしても「準備」って何すればいいのよ?
 ええっと、お茶菓子は昨日の残りがあるけど
 ちょっと足りないかな?
 お湯沸かして お茶菓子を作り足して待ってればいいの?

 あ・・・・私・・・何やってんだろう? 私はあなたを連れて帰れば
 それだけでいいのに、茜に見捨てられた私には何もなかった筈なのに
 私は何を待っているのだろう?
 「今ここに居るから」だからあなたは構わないと言う
 あなたを信じてもいいですか?
 あなたは私に何を求めますか?
 ここに居てはいけない筈の私はあなたを苦しめるだけじゃないですか?

ゆっくりと暗転

 〜 SHI YOU AGEIN(死が再び君にあらん事を) 〜

私の家:私、茜、詩子、アカネ
(BGM:潮騒の午後)

 詩子 「アっカネちゃぁん!! たっだいまぁ!!」妖怪”近所迷惑”が吼える
 アカネ「おかえりなさい」
 私  「茜、どうぞ」
 茜  「お邪魔します」

コポコポコポとアカネがお茶を注ぎながら
 アカネ「初詣どうでした?」と空々しい話題を振る
 詩子 「こいつがねぇ、神罰食らって白目剥いて倒れたから・・・」

 などと言う微笑ましい会話よりも、私はテーブルに盛り付けられた
 謎の物体が気にかかる・・・・昨日より増えている気がする

 私  「なぁ、アカネ あのドーナツ状の物体は増殖してないか?」
 アカネ「増殖って・・・あれはれっきとしたドーナツ 足りないと思ったから作ったの!」
 詩子 「アカネちゃんお菓子作れるんだ」詩子がドーナツを模した物体に手を伸ばす
 私  「よせ、詩子死ぬぞ!」私の忠告を無視して詩子が物体を貪る

 詩子の気配に驚愕の色が走る、失意に満ちた瞳が茜を見つめる
 そして、ゆっくりとアカネを見つめる、再び瞳が茜を捉えた時
 詩子は無言で物体を薦めた 茜が物体をほうばる
 「おいしいです」 その言葉を聞いて詩子は静かに瞳を閉じた
 詩子・・・君の事は忘れない
 私  「死が再び君にあらん事を」

 詩子 「なに不吉な事言ってんのよ!!」
 それにしても茜と同じ味覚の人がいるなんて驚きだわ
 それとも”あかね”って人はあの味覚なの?(全国のあかねさんごめんなさい)

 私  「一応復活の呪文のつもりなんだけど、効いたようだし よかった、よかった」
 詩子 「今度はその呪文自分の為に使ったら? 茜とアカネちゃん怒ってるわよ」
 私  「それじゃ、茜、詩子、アカネの着付けよろしく」
 詩子 「こら、逃げるな!!」

モノローグ:私(スポットライト BGM:永遠)
 先は長いが残された時間は短いか・・・・
 出来れば半年ぐらいの猶予があればいいのだが

 永遠に茜を誘う意思、その危険から茜を守る意思
 その両者の対立が事の発端・・・・
 虚無の永遠、あそこには時間の概念は無い
 だから・・・事の発端は未来の・・・・・

 偏執的に茜を求めるヤツ、同じく偏執的に茜を守ろうとするヤツ
 心当たりのある人物は共に居る・・・・
 いや、真実は私の予想とは違っている事を祈ろう
 私自身の為に・・・・

 茜を守り抜いた・・・100年後・・・私だけが独り残された世界で
 私は何を望むのだろう?
 いや、真実は私の予想とは違っている事を祈ろう
 私自身の為に・・・・

(BGM:潮騒の午後)
 詩子 「アカネちゃんの着付け終わったわよぉ」
 今、この時の幸せが、せめても救いになる事を
 大切な人の温もりがその思い出が、渇望を産まない事を祈ろう

 死が再び君にあらん事を

 アカネ「茜さん、詩子さんありがとう、とても嬉しい」
 詩子 「ねぇねぇ、この振袖、茜よりも似合ってるんじゃない?」
 茜  「知りません」
 あかね「あははは、そっか私 茜さんより似合ってるんだ」

 私  「アカネの方が髪が短い分、和服向きだけじゃないのかな?」
 茜  「長い髪は嫌いですか?」
 私  「いいや、それだけのボリュームの髪がちょっと和服に似合ってないだけさ」
 茜  「どんな髪型が好きですか?]
 私  「三つ編み」
 茜  「嫌です 手間がかかるから嫌です」
 私  「そうか・・・残念だ」
 茜  「・・・でも、どうしてもと言うのでしたら」
 私  「そうだな、いつか見せてくれ、茜の気の向いた時にでも」
 茜  「はい」 

モノローグ:私(スポットライト BGM:永遠)
 繰り返される日常の中にある変わりないもの
 その約束された幸せの中に安住を求める事
 それは虚無の永遠に安住を求める事と・・・・
 違いはあるのだろうか?
 私はその選択肢は選ばなかった筈だ
 予定調和の中に安住を求める事は何よりも嫌っていた筈だ
 血を吐きながらでも前へと進む道を選んだ筈だ・・だった
 なのに私は・・・・

 大切な人の温もり・・・それを求めるのか永遠の孤独に
 落とされた時に・・・・私は

 自分自身が元凶である事を知っても、それでも茜を
 守ろうとするのか 私は・・・・

 そう、アイツを犠牲にしてまで・・・
 いや、真実は私の予想とは違っている事を祈ろう
 私自身の為に・・・・
 今、この時の幸せが、せめても救いになる事を

 詩子 「それじゃ、私達もう帰るから」
 茜  「お邪魔しました」
 私  「茜、振袖の件、無理言ってすまなかったな」
 茜  「構いませんから」

茜、詩子退場

 私  「アカネ、オマエも少し休んだ方がいい」
 アカネ「うん・・・ねぇ、この世界での私の居場所はここにしか無いのかな?」
 私  「茜や詩子がオマエの事を支えてくれると思うよ」
 アカネ「そう?・・・例えばあなたが居なくなってしまっても?」 
 私  「それは、オマエ次第だろうな・・・きっと大丈夫さ オマエなら」

暗転

 〜 初夢(心病む者) 〜

私の部屋
 床に入ってる私、枕元にたたずむアカネ(BGM:A Tair)

 私  「アカネさん枕元に立たれると、物凄く怖いんですけど」
 アカネ「いっしょに居させて欲しい・・・・・えっと、・・・退屈だから」
 私  「退屈ねぇ・・・一緒に居ると嘘には意味が無いと思うけど?
     いいよ、オマエの魂胆の予想はつく・・・・」
 アカネ「魂胆?」
 私  「アカネは ただ淋しがっているだけ」
 アカネ「私はあなたさえ居ればよかった、あなた向こうの世界に連れて帰ればよかった」
 私  「オマエの淋しさを癒せるのは・・・茜や詩子の方が適任だと思うけどな」
 アカネ「そんなことないよ」

 アカネ『そんなこと無いよ そんなこと無いんだよ みんなあなたの事を
     頼りにしているよ私も茜も詩子も』
 私  『誉め言葉として受け取っておくよ、それと今日は寝かせて貰うよ
     昨日は徹夜だったし、今日の初詣は疲れたしな』

モノローグ:アカネ(BGM:永遠)
 私が気が付いた時、私の居た場所は真っ暗な闇の中だった
 だけど、そこは不思議と安心出来る場所だった
 ずっとそこに居てもいいと思っていた

 次に気が付いた時に・・・・そこには、私とあなたが居た
 私の知っていた頃のあなたじゃない、成長したあなたが
 同じ様に成長した私と一緒にいた・・・私はこの私は独りなんだ
 あなたのそばにはもう一人の私が居る・・・私は無性に淋しくなった

 私はずっとあなたを見ていた、夏の日も、秋の日も・・・・
 私の姿は誰にも見えない・・・だけど私はあなたを見ていた
 もう一人の私があなたを思う時、私はあなたのそばに居られた

 そしてクリスマスの夜、私はどうしてもあなたが欲しくなった
 私はむこうの世界にあなたを連れて行くつもりだった
 だぶん、もう一人の私も同じ気持ちだったから
 あなたを取られたくはなかったから・・・・・

 クリスマスパーティが終わった後
 私があなたのそばに居られる時間は僅かだった
 もう一人の私があなたを思っている間だけ
 パーティの余韻に浸っている間だけ

 私はあなたを連れて帰ることは出来なかった
 ずっと闇の中に居るのだと思っていた
 闇の中に消えてしまうのだと思っていた
 あなたともう一人の私の幸せそうな姿を見るのは嫌だったから
 だから、それでもいいと思っていた

 でも、奇跡は起きた・・・私の前にあなたが居た
 私はあなたのそばに居た

 クリスマスの夜、消えていく私にあなたは
 なんと言ってくれたんだろう?・・・
 きっとその言葉が奇跡を起こしたんだ
 消えていく私にはもう届かなかったその言葉が

 私  『オマエが、この街に居たいと思うのなら
     この街にオマエの居場所はあるさ』

 アカネ『って、寝たんじゃなかったの?』
 私  『この状態でぶつぶつと独り言を呟かれると』
 アカネ『気になる?』
 私  『私にも興味深い体験だし』
 アカネ『起きてるんなら いくつか聞きたいことがあるけどいい?
     昼間言っていた”姉さんの仮面”って何?
     それと・・・あなたの敵って具体的には何なの?』
 私  『解答の順番は逆になるけど敵の話から
     まず茜の身に危険が迫っている、私にとってのオマエの様に
     茜を向こうの世界に引き込もうとしているヤツが居る』

 アカネ『私と同じって・・・その人は茜の事が好きだって事?』
 私  『そう、そしてその想いはかなり偏っているけど純粋だよな
     まぁ純粋なだけに厄介だね』
 アカネ『その人があなたの敵?』
 私  『先ずは決着をつけなくちゃいけない直接の敵』
 アカネ『他にも敵が居るって事?』
 私  『もう一人・・・あるいはもう一組 茜を守ろうとしてるヤツがいるが
     こいつは周囲の被害を全く無視するから これも厄介な相手
     アイツはこいつに巻き込まれた』
 アカネ『姉さんが巻き込まれた?』
 私  『ああ アイツの前は、多分幼稚園以来の幼馴染君
     ”茜を守る使命”に絡む記憶のすり替えが私を含めた
     この3者共通で起きてるから それ以前に関してはデータ不足で判らない』
 アカネ『・・・あなたも姉さんと同じように・・・嫌です・・・』
 私  『私は私のやり方で茜を守る アイツの二の舞にはならないよ』
 アカネ『ホントに? 大丈夫? 私は・・・また独りになるのは嫌』
 私  『アイツの人生は絶対に無駄にしない』
 アカネ『うん 信じる あと あなたの二人の敵って何者なの?』

 私  『この街は基本的には平和 心を病んでるような連中が
     うじゃうじゃと居るような環境じゃない
     実際、茜の周囲に居て該当する人物には一人しか心当たりが無い
     なぁ アカネこの家の場所、茜にとっては鬼門だと思わない?』

 アカネ『唐突に何? この家の場所って?』
 私  『この家は、茜の家と学校を結ぶ通学路上にある
     そこの道を朝晩通る茜を眺めながら想いを馳せているヤツが居たとしたら』
 アカネ『!!っ その人って・・・』

 私  『そいつは、子供の頃に両親を殺されたせいで、他人と満足に話も出来ず
     周囲からは”気味の悪い子”と呼ばれ、学校にも行けずに・・・・
     大抵は一日中この家の中で過ごすだけだった』
 アカネ『でも! でも、今のあなたはそうじゃない』
 私  『茜達と出会う前の私は事実そうだった
     私と茜達との出会いは印象的ではなかったかな?』

 アカネ『姉さんがずっと独りぼっちで居たあなたに声をかけて
     私や詩子はあなたには近寄りにくくて・・・!!』
 私  『そう、もしその時にアイツが茜や詩子のような普通の女の子だったら
     私に声をかけただろうか?
     今の私と違ってアイツに出逢うことも無く
     アイツに救われる事のなかったそいつがこの世界に絶望し
     向こうの世界を望んだとしたら?』

 アカネ『あなたが?』
 私  『茜を求める想いだけが虚無の永遠に
     飲み込まれてしまったのが・・・・最初の私』

 アカネ『で、もう一人の変質者って誰?』
 私  『もしも、茜が危ない目に有ったら 私はどうすると思う?』
 アカネ『茜を守ろうとするんでしょ』
 私  『その元凶が私自身だったら?』
 アカネ『どうゆう事?』
 私  『自分で自分を止めようとして、止めきれずに足掻いている
     その上 止めきれないから周囲の人間をどんどん巻き込んでいる』
 私  『次は仮面の話だね アイツは茜を守る事を強要されてたんじゃ
     無いのかな? って思うんだ
     そして直接は動けないヤツの手駒として使われてたんじゃないかってね』
 アカネ『姉さんの気持ちとは無関係に・・・・だから仮面』
 私  『回りまわって、やっと引き継ぐべき奴の所に戻ってきた
     数え切れないほどのかけがえのモノを犠牲にして・・・・』

 アカネ『あなたの言う二人の変質者って・・・・』
 私  『ひとりの人間の光と影・・・・暴走する光を
     影が押し留めようとする・・・・・
     アカネ オマエは誰の使者だ?
     私を向こうの世界に引き込んだ後、こっちの世界で何が起きる?
     オマエの利用価値が私の足止めをすることだとしたら・・・・
     それを望むのはいったい誰だ?』
 アカネ『私はあなたと一緒に居たいだけ・・・足止めなんて考えてない!』
 私  『それは判ってるよ・・・そんなアカネの気持ちを利用した最低の奴が居る
     そして、そいつを止めるためには手段を選ばない
     同じくらいに最低の奴が居る 両方とも私だ・・・・
     いったいどのくらいの間そんな不毛な争いを続けてきたんだろう?』
 アカネ『どのくらいの間って?』

私  『500年か、1000年か・・・あるいはもっと長い間
     向こうの世界では、時間は無意味・・・現在と過去の区別がない
     勝負が付くまで何度も何度も繰り返される』
 アカネ『茜を狙う 茜を守る 勝負が付かない 寿命が尽きる 仕切直し
     これを繰り返すのね でも 今のあなたはどうなの?
     このまま行けば あなたと茜はゴールインして
     ハッピーエンドで終わるんじゃないの?
     だって、あなたは茜を守り抜いて手に入れる事になるのよね』

 私  『ま、それが理想的な終焉かな、では、アカネ オマエはどうなる?』
 アカネ『私? 悔しいけどその時は身を引くわよ
     私が居てはいけない存在なんだって事は判ってるわよ』
 私  『そして、茜の記憶の欠片であるオマエを私は守れない訳だ』
 アカネ『!!・・私の為にあなたも始めからやり直すっていうの?・・・』 

 私  『茜の寿命が尽きるまで守りきれば 私の勝ちさ
     茜を守るために他人を巻き込んだり
     無理矢理 予定調和を確保するような真似はさせない』
 アカネ『それじゃ、今までのあなたと同じ結果にしかならないじゃない
     孤独に耐えられなくなったあなたは 茜を求めて仕切直す・・・ちがう?』
 私  『でも、今の私には、茜も居る、詩子も居る、アイツも居る、オマエも居る
     それが茜の寿命が尽きた100年後、孤独の中に居る私の救いにはならないかな?
     以前の私と比べたら決定的な違いだと思うけど』
 アカネ『でも、思い出だけじゃ・・・淋しさを紛らわせる時間の
     100年が1000年になるだけじゃない
     だめだよ・・・思い出だけじゃ・・・思い出?』

 私  『きっと大丈夫、ダメでも最悪の事態は回避してるから、ハッピーエンドまた目指せばいい』
 アカネ『私の居場所・・・・姉さんの思い出でしかない私の居場所、私にしか出来ない事・・・
     私の存在理由・・・姉さんが一番大切な人の為に残した可能性・・・・
     どうしようも無い程の絶望の中に居ても消される事の無い灯火・・・・』
 私  『アカネ?どうした?』
 アカネ『あ、ちょっとごめん、考えたい事があるから』
 私  『そうか・・・えーっと質問の答えはこれでいいのかな?』
 アカネ『うん、ありがとう なんとなくだけど雰囲気は判ったから』

モノローグ:アカネ(BGM:偽りのテンペスト)
 あなたの言う事が正しいのなら
 茜が忘れた姉さんの記憶を手先として
 使っているのが私

 でも、姉さんがあなたの為に最後に残した希望が私なら
 私には、たったひとつ出来る事がある・・・・
 だけど、私が単に手先だけだったら・・・
 茜の寿命を待たずにあなたは永遠に飲み込まれて
 あなたの消滅ですべてが終わってしまう
 やり直す事も出来なくて終わってしまう

暗転

雨の公園の風景
茜と少年 それを見つめる私
アカネにスポットライト(BGM:無邪気に笑顔)

モノローグ:アカネ
 なに? 茜とあれは誰?・・・キスしているの?
 あなたは覗いてるの?・・・・あっ雨があなたの身体をすり抜けている
 振り向いた・・・・泣いてるの? ううん、笑ってるの?
 何かあなたの雰囲気が違う・・・・今にも消えてしまいそうな・・・

 そうか・・・覗いているんじゃないんだ、茜を見守ってるんだ
 あなたの姿が雨にかすんで・・・・消えた・・・・
 なに? 今の光景は・・・・
 あ、茜の髪・・・・三つ編みだった・・・・

 アカネ『ねぇ、あなたは何を知っているの?』
 私  『えーと、そうゆう唐突な質問は、返答に困るんですが』
 アカネ『じゃあ、唐突じゃない質問、あなたに好きな人います?』
 私  『アカネさん十分に唐突な質問だと思いますが・・・寝ぼけてます?』
 アカネ『あ、うん 夢をみてたみたい』 
 私  『さっきの質問の答えだけど・・・・7歳の子供に恋愛が出来ると思います?』
 アカネ『出来ないと思う』
 私  『その子供が知識だけは身につけたとしたらどうでしょう?』
 アカネ『やっぱり出来ないと思う』
 私  『それが今の私 人並みに恋愛が出来るようになるまでは
     もう少し時間がかかるよ・・・・・・』

 アカネ『不思議な夢を見たの、雨の公園に茜と男の人と居て・・・』
 私  『知らない人?』
 アカネ『そう、その人と茜がキスしてるのをあなたが覗いてた』
 私  『ぐぉ!! 恐ろしい初夢を見る人だな・・・・
     他人の睦言に聞き耳を立てるような悪趣味な真似はしないつもりなんですが』
 アカネ『えっと、覗いてるって言うよりは見守ってるって感じだった
     泣いてる様な笑ってる様な表情をしていたあなたが雨の中に消えていった
     だから、茜の事が好きだったのかなぁと思って』

 私  『・・・・未来の記憶かな?
     かつての私が経験した記憶で同時にこれから起きる事を暗示してて・・・
     幸せそうな茜の姿を見て安心して消えていったんだと思うよ その私は』
 アカネ『そのあなたは茜の事が好きだった?』
 私  『多分ね それにしてもオマエの立場って複雑だね』
 アカネ『複雑?』

(BGM:永遠)
 私  『今の私が未来の記憶を持つ事は無いから
     未来の記憶を持っているのは、永遠の中に居るかつての私』
 アカネ『私が夢をみたのは・・・・私がそいつの手先だから・・・そんな』 

 私  『私にとっては貴重な情報だよ、茜には明るい未来もある
     私の居ない世界の茜には暗い未来しか無いって言うのなら
     頭の痛いところだけどね 茜に新しい出会いがあって、幸せになれるなら』

 アカネ『私が手先なら、あなたはどうなるの?』
 私  『心配無いよ、”アカネを信じるって”選択肢が私にはあるから』
 アカネ『だけど私に・・・・その資格があるの?』
 私  『それだけ私を心配してくれれば十分資格は有るよ
     それに ただの夢さ そんなに気にするなよ』

暗転

第2章(3)へ続く


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