礎〜第2章 炎のさだめ〜(3)

 〜 名誉返上 〜

朝の教室:私と茜、アカネ(音声のみ)
(BGM:日々のいとまに)

 新学期も始まり私はアカネと一緒に登校する事になった
 と言ってもアカネは憑依いているだけなんだけど

 アカネ『ここが高校かぁ・・・・』
 私  『やけに感慨深げだな』
 アカネ『もしも、姉さんが生きていたら
     どんな生活してたんだろうなぁ?って思って』
 私  『そうだな、高校生のアイツが居た、そんなケースは
     あった筈だけど でもその時の私はここに居たのかな?』
 アカネ『・・・そんなつもりじゃなかった・・・・ごめん』

 私  『アイツの人生が幸せだった、そんな話も見てみたいそれだけだよ』
 アカネ『今の姉さん幸せだと思うよ あなたに出逢えたから』
 私  『不幸の始まりだったような気もするけど?』
 アカネ『そうね、でもあなた言ってたよね
     ”どうしようも無い程の絶望の中に居ても消される事の無い灯火”
     それが希望だって・・・・
     姉さんはあなたに出逢って希望を見つけたんだと思う
     でないと、私はここに居ないと思うもの』

 私  『希望にすがる必要の無い人生と言うのも
     それなりに幸せなものだと思うよ』
 アカネ『だけど、あなたはその幸せを自分の幸せとは思っていない』
 私  『アカネにはそう思われてるわけか、ちょっと哀しいかな』
 アカネ『ちがうの?』

 私  『そうだな、既得権益を守る事と新しい可能性を開拓する事の違いかな?
     当事者以外にはこの違いは判らない、同じ様な事をしてるようにしか
     見えないものだから その二つを同時にやろうとすれば 他人には余計に判らない』
 アカネ『うーん、なんか難しい』

 茜  「おはようございます」
 私  「茜、おはよう」

 その時私は異様な気配を感じた・・・
 その気配はかつて私に向けられていたものと同じだ
 なぜ茜に?誰が? 教室の入り口居る女子生徒の
 一団が不快な気配を発している

 このクラスでは陰湿な派閥抗争が起きている
 始めは二人の女子生徒の意地の張り合い
 そして、それが両者の取り巻き達による
 グループ抗争に発展し互いにその勢力を拡大していった
 3学期初頭の現在に至って、茜の様にボーっとしている
 数名を除いてクラスの女子はどちらかのグループに所属している事態に達している

 私  「なぁ茜あの連中となんかあったのか?」
 茜  「別に何も・・・ただ誘われたから断っただけです」

 ”嫌です”茜の事だからその一言で一蹴したんだろうな
 その時の光景が目に浮かぶようだ

事件はその直後に起きた、茜が自分の席に座ろうとした時
 茜  「きゃ!!」 イスが崩れて茜はそのまま尻餅をついた
 私  「大丈夫か?茜」
 茜  「大丈夫ですから・・・心配しないで下さい」

 イスは支柱の溶接部分が折れていて、錆まで浮いている
 倉庫にでも置いてあった壊れたイスとすり替えたのだろう
 冷ややかな視線が一斉に茜を責める
 その中で大きく不快な気配を放つやつが2人・・・
 恐らくは・・・実行犯と首謀者  一人の気配は”助けて”か・・・

 私  「”心配しないで”って、茜? 今までにも似たような事があったのか?」
 茜  「心配しないで・・・・下さい」
 私  「そうか、じゃ頭脳労働は止めて肉体労働を始める事にしよう
     茜、私のイスを使っていろ 私は新しい椅子を取ってくる
     担任にはそう伝えておいてくれ 証拠の壊れたイスもある事だし」
 
 私は不快な一団を牽制して教室を後にした

私退場

場面は朝の教室のまま
アカネが私のイスに座り
担任が登場HRを始める情景

ダイアローグ:私とアカネ(共に音声のみ)
(BGM:A Tair)

 アカネ『どうするつもり?』
 私  『とりあえず首謀者の方に呪いをかけておく
     あのイスと同じように右足を挫いて貰おう』
 アカネ『呪い?』
 私  『茜が”大人しい子”それだけの理由で苛められていた子供の頃
     苛めっ子が私に手を出さなかったのは何故だと思う?
     私を苛めた子供達を次々と不幸が襲ったからさ』
 アカネ『私は、そんな事・・・・知らない だって、私の知っているあなたは』
 私  『”気味の悪い子”そう呼ばれるに相応しい理由があっただけの話
     ま、アイツと出逢った後は、他人を呪う必要は無くなった・・・ただそれだけ』
 アカネ『茜がどうして”心配しないで”と言ったと思うの?』
 私  『自分の力で何とかしようと思っているから・・・・
     茜も強くなった、昔は泣いてアイツの後ろに逃げるだけだったのに』
 アカネ『それが判っていて・・・茜が哀しむような事をするの? 私だって・・・』

 私  『そう・・だな”茜を守る”それは私がアイツから引き継いだ使命
     同時に私の気持ちでもある・・・でもね、普通のやりかたじゃ
     アイツと同じ最後が私に待っているだけ 実力行使を避けるやりかたでないとダメなんだ』
 アカネ『・・・・ダメなのかな? 姉さんじゃないとダメなのかな?
     私じゃ・・・ううん茜や詩子でもダメなのかな? あなたを助けられないのかな?』
 私  『アイツが生きていたとしてもダメだと思う・・・・
     そして・・・オマエ達でも十分出来ると思う・・・・
     だだ、時間が足りないだけ、最悪の事態を避けるのがやっとの
     時間しか残されていないだけ・・・』
 アカネ『時間って何よ・・・何時なのよ!?』
 私  『ヤツが求めているのは”幸せな茜”相手が私でも、オマエがいつか夢に見た男でもいい
     その時が茜が消される時、そして私とヤツとの直接対決が始まる時』
 アカネ『だから茜に嫌われたいって言うの? だけど茜は哀しむだけだよ・・・』
 私  『”哀しんでいる茜”は”幸せな茜”じゃない、少しでも時間が稼げるのなら
     この機会は利用させてもらうよ それにこれがきっかけで茜に
     新しい出逢いがあるのなら・・・・かなりの時間が稼げる』

 アカネ『哀しい事言うのね・・・・そんな時間稼ぎをしてなんになるの?』
 私  『可能性は広がる 無理な挑戦でも確保できる時間が多いほど実現する可能性は高くなる
     オマエが私を救いたいと思うのなら試してみればいい
     現状では無理だと思う でも、その為の時間は稼いでみる』
 アカネ『例え血を吐きながらでも未来を目指す・・・・バカだよあなたは!』
 私  『同感だ、私もそう思う』
 アカネ『やっぱり、バカだよ・・・・』

暗転

 〜 汚名挽回 〜

放課後の教室:私と不快な一団(女子生徒1〜4)
(BGM:雨)

 私    「今朝は茜に楽しい事をしてくれてありがとう」
 女子生徒1「里村さんの事はただの事故よ、それとも証拠でもあるのかしら?」
 私    「君達が証拠を残すようなヘボな真似はしないと思っているよ」
 女子生徒1「つまり、ただの言いがりと言う訳ね 迷惑だわ」
 私    「まず、首謀者は君、実行犯は君だ」
 女子生徒2,3を指差す 一同に動揺が走る

 女子生徒1「まるで現場を見ていた様に言うのね それでどうするつもり?
       まさか担任に告げ口するなんて事は言わないでしょうね」
 私    「そうだな、首謀者の君にはあのイスと同じ様に右足を挫いて貰おう
       実際にイスをすり替えた君には・・・君は今回はいい 何もしない」
 女子生徒1「呆れた暴力でも振るうつもりかしら? それともハッタリかしら?」
 私    「私も証拠を残すようなヘボはしないよ それに今回はただの警告
       大きな怪我をさせるつもりは無いから安心していい」
 女子生徒1「私にはハッタリとしか思えないけど?」
 私    「これはただの警告さ、無視するのならそれでもいい
       今度茜に何かあったら、きっちりと報復させて貰う よろしい?」
 女子生徒1「里村さんが太り過ぎてイスが壊れただけの事故よ 何ムキになってるの? バカみたい」
 私    「用件はそれだけだ邪魔したな」

私退場

雨の下校路:私とアカネ(音声のみ)
(BGM:雨)

 アカネ『茜 先に帰ちゃったね
     あなたがあいつらと談判してる所 茜はじっと見てたんだよ
     私もさっきみたいなあなたは見たくないな』
 私  『じゃあどうすればいい? いや、こんな場合私はどうすると思ってた?』
 アカネ『落ち込んでる茜のそばに行って、なんか訳の判らない理屈を並べて慰めてる
     意味なんか判らないけど、一生懸命慰めてくれるから安心出来て・・・』
 私  『・・・・直接対峙すべき敵が居ない時はその行動をとると思う
     私にとっては次善策 原因を排除しない限り事態は収束しない』
 アカネ『あなたはそのためには、どんな事でもする
     私はそんなあなたを見たく無い 茜だって見たく無いんだと思う』

 私  『今回の件は連中がよっぽどのバカでなければ明日終わるよ』
 アカネ『あの子が足を挫くだけで?・・・・終わるの?』
 私  『それ以上の血は流さないつもり』
 アカネ『でもあなたは人を傷つけるつもりでいるんだよね・・・やっぱり見たく無いな』
 

翌日の学校朝のHR:(BGM:雨)
女子生徒2は欠席

 アカネ『あの子休みなの? 足を挫くだけって言ってたじゃない』

 私  『怪我自体は右足首の捻挫・・・・シップでも張れば
     すぐ歩いても支障の無い程度の軽いもの・・・ただ・・』

担任の元へ連絡の教師がとびこんで来る
登校中の女子生徒2が交通事故に遭って病院に担ぎ込まれたと言う

 私  『精密検査と経過を見るのに2,3日は入院しないとダメかな?
     ま、死の恐怖は存分に味わって貰えたと思うよ』

担任と連絡に来た教師が慌てて退場

私 席を離れて実行犯の女子生徒3の所へ歩いて行く

 私    「大丈夫、お友達の怪我はただの捻挫
       でも、次に茜に何かあったら、君の番だからね その時はこのぐらいじゃ済まないよ」
 女子生徒3「交通事故に遭って捻挫で済むわけ無いじゃない! あんたって最低ね!!」
 私    「すまない悪い冗談だ 気にしなくてもいい 
       君のお友達は日ごろの行いがいいから きっと大丈夫」
 
担任再登場し事故の経過報告を行う
女子生徒2は奇跡的に軽い捻挫ですんだが、念の為精密検査を行う
と病院から報告があった事が伝えられる

教室は安堵の雰囲気に包まれる ただ 不快な連中の視線が私に集まる
それに対して満面の笑みで応える私

 アカネ『交通事故は本当にあなたの仕業なの?』
 私  『最小の人的被害で最大の効果を得たと思っている』
 アカネ『自慢するつもり?』
 私  『いや、事実は見ての通り 自慢も弁解もしない』
 アカネ『・・・私にも嫌われたいんだね
     あぁ、嫌だなぁ・・・・嫌だよ こんなのって』
 私  『アカネ?』
 アカネ『こんな酷い事はやらない人だと思ってたのに
     卑怯だよ 私にはここしか居場所が無いのに目の前でこんな事をするなんて』

 私  『人間がどんなに目を背けても、事実は事実としてそこにある
     それを覚えてる人間が居なくても私が人間を呪っていた過去は消えはしない 
     判って欲しいとは言わない でも 隠しているよりはましだと思う
     私にはそれ以外に闘う方法が無いから』

 アカネ『もし、あの子達があなたの警告を無視したら、今度は本当に殺すつもりなのね』

 私  『?????いや、なんか誤解がある気がするよーな
     あの子が誘いを断った茜に向けた”少し痛い目にあわせてやれば”って悪意が
     あの子自身に跳ね返って少し痛い目にあった・・・・
     ”殺してやる!”ぐらいの強い悪意を持ったのなら死んでしまうんだろうな
     だけどグループ入るのを断ったぐらいで殺意までは持たないと思うんだけど』

 アカネ『え? それで・・・軽い捻挫なの? その情けないのが呪い?』

 私  『んーと”悪意を写す鏡”かな、茜に向けられた悪意が本人に返った結果がアレ』

 アカネ『じゃ さっき”今度はオマエの番だ”って脅してたのは?』
 私  『だから、ちゃんと”悪い冗談”って言ったじゃない
     んーと、冬なのに蚊に刺されるとか、ドアに挟まって髪の毛が2,3本抜けるとか
     そんなもんだよ不幸って言っても』

 アカネ『呪いより あなたの方が怖いわ!』
 私  『世間から冷たい目で見られ続けていた子供が身に付けた自衛手段だと思ってくれたまえ』

喧騒の中の教室(暗転)
女子生徒3にスポットライト

 女子生徒3「トライ・・・私はどうすればいいの?」

 〜 トライシーカー 〜

場末の酒場の雰囲気の漂う受付ロビー
胡散臭そうな連中の中に戦闘服姿の女子生徒3(BGM:偽りのテンペスト)

モノローグ:女子生徒3

 私の名前はLimこの世界でそう名乗っている
 ここはありふれたネットゲーム・・・固定のチームに入っていない私は
 こうやってロビーでメンバーを集めてから、受付でクエストを選ぶ

 今日みたいに運の悪い日は誰も集まらずに、ただボーっとロビーで時間を潰すだけ

 「トライ・・・今日は来てくれないのかな?」

 トライ・・・トライシーカー、あの人と最初に逢ったのも、今日の様に誰もメンバーが集まらない
 運の悪い日だった・・・・もう帰ろうかと思っていた時
 私の端末にメンバー参加のメッセージが届いた 早速メンバーのプロフィールを確認する

 [トライシーカー:戦士 レベル23]
 今日私が受けようとしたクエストにレベル23では少し辛い気もするけど、
 それ以上に「シーカー」と言う名前が気になった
 「シーカー」その単語はこのゲームでは「弄る者」を意味して
 複数スキルを持つキャラを蔑んで呼ぶ為に使う隠語だったから

 新しくキャラを作るときに以前のキャラから継続して作ると
 以前のキャラは削除されて、新しいキャラにその能力が継承される
 同じタイプのキャラで継続すればレベル1で攻撃力MAXなんてキャラになるし
 別のタイプで継続すると、僧侶(補助、回復魔法)や魔道士(攻撃魔法)スキル
 を持った戦士等が誕生する

 チームプレイが基本のネットゲームでは一人でなんでも出来てしまうキャラは
 嫌われてしまう傾向があって・・・弄る者(シーカー)と蔑まれている
 勿論ただの隠語だから知らない人が居ても不思議じゃないし
 運悪く知らずに「シーカー」なんて名前をキャラにつけてしまう人もいるはず
 もし知らずに「トライシーカー」を名乗っているのなら教えてあげなくちゃ

 クエストを始めて・・・・私の心配はただの心配で終わってしまった
 トライシーカーの持っていた武器はジェノサイド、単体攻撃の武器の中で
 最大の破壊力を持つ銃、レベル23では装備できる代物じゃない
 こいつは技師スキルを持っている、しかも自ら「シーカー」を名乗る確信犯だ

 なんて運の悪い日なんだろう、散々待たされた挙句、やっと参加したのが
 こんな奴だったなんて・・・・
 私は営業スマイルで応対しながら淡々とクエストを進めていった
 私がクエストを放棄しなかったのはトライシーカーは、ザコ敵相手には
 ジェノサイドを使わずに普通の武器を使う最低限のマナーは持っている人だったから

 そしてボス戦、トライシーカーはついにジェノサイドを振りかざした
 「もう勝手にして」私はそんな気持ちでいっぱいだった

 技師スキルで装備は出来ても、レベル23じゃジェノサイドは当たりはしないし
 ボスにボコボコにされて死ぬといいわ、私はあんたを嘲笑ってこのクエスト終わらせてやる

 そうやって、無茶な装備をして頓死するシーカーを何人も見てきたから

 トライシーカーはジェノサイドを振りかざしたままボスに突っ込んで行った
 そして空に向かって一撃・・・・・・
 「空に?」
 そしてそのままジェノサイドを振り下ろした
 断末魔の悲鳴と共にボスは両断された・・・・・
 その光景は私の知っているジェノサイドとは違っていた

 トライ「酷いなぁ援護してくれないんだもん、間合いに入るまでにボスに攻撃されたら死んでたよ」
 
 飄々とした態度でトライシーカーは私を非難する
 Lim「レベル23でジェノサイドを使う人なんか死ねばいいと思ったからよ
     でも、なに?その武器ジェノサイドじゃないわよね?」

 トライ「ん? これ? ライフルのジェネレーターの出力をノーマルセイバーの発振器で
     連続発振させて、ジェノサイドの集加速器を通した試作剣
     燃費が悪くてピンポイントでしか使えないというまだまだ問題の多い代物」

 Lim「試作剣?・・・武器製造って・・・最高の技師スキル持ってるの? それで戦士やってるの?」
 トライ「そんなに不思議かい? 私は君と同じただのプレーヤーだよ
     最初このゲームを技師ではじめて、行きつくところまで行って、クリエーターになるのも
     キャラを冬眠させるのも嫌だったから、新しいキャラに引き継いだだけだけ」

 クリエーターはゲームサーバー内でオリジナル商品の店を開ける資格、技師スキルなら武器屋
 僧侶スキルなら寺院(店なの?)等、 そして二つ以上のクリエーターの資格があれば
 ゲームマスターとしてサーバーを立てることも出来るけど・・・・
 オリジナル商品の店なんてメーカー公式サーバーにしか無いし
 クリエーター資格2つで権利を得て運営してる個人サーバーなんて無い
 (今あるのは個人とはいってもメーカーからのライセンスでやってるとこだけだから)

 キャラの継続は最初は、過去のプレイ時間を無駄にしない様に考えられた物だって
 聞いた事がある・・・・ただその仕様を悪用してキャラを育てずに低レベルスキルで
 継続するプレーヤーが増殖してシーカーと蔑まれるようになったって・・・・

 Lim「じぁ"トライシーカー"って名前は?」
 トライ「このキャラに継続する時に、精一杯の皮肉を込めて"トライシーカー"と命名した」
 Lim「3つ目が今の戦士スキルで、技師の他にも最高のスキル持ってて・・・サーバーも開けるわけ?」
 トライ「内緒だよ サーバー開くとなると、設備が必要になるし、
     プレーヤーとしてゲームが楽しめなくなるからね」

 それからトライとは良くチームを組むようになった、Limにとっては大先輩
 ある意味私が理想としていたプレイヤーの姿だったのかもしれない
 クリエイターやゲームマスターになるためではなく
 ただ純粋にプレーヤーとしてゲームを楽しむ
 行きつくところまで行けば、そのキャラを見捨てることはせずに
 新しいキャラに継続して、そして、また単にプレーヤーとしてゲームを楽しむ・・・そんな姿が

 トライは飄々として人を食った態度をする 私もカチンと来る事は良くある
 でも、困った事があれば親身に相談にも乗ってくれた いつしか、ゲームの事ばかりではなくて
 私個人の相談もするようになっていた 

 「トライ・・・今日は来てくれないのかな?
  相談したい事があるのに・・・・・・
  明日、私はクラスの子を苛めなくちゃいけない
  正直、そんな事やりたくはないけど・・・
  私が苛められる様な事にはなりたくない」

 あ・・・勝手な言い草だ・・・やりたくないのなら、やらなければいい
 トライならそう言う もしも、これがこの世界での話だったら
 「思った通りにやればいい、何かあれば守ってやるよ」
 あなたはそう言ってくれますよね
 だけど、向こうの世界にはあなたは居ないから・・・

 〜 胎動 〜

教室:(BGM:A Tair)

 このゴタゴタのおかげで授業は自習になった
 登校中に生徒が事故にあったとなれば教師もいろいろと
 大変なのだろう、所詮学校もお役所なんだから

私と茜にスポットライト
茜が哀しい瞳で私を見ている・・・・・

 昨日の連中とのやり取りを見ていたのなら当然の反応だろう
 女子生徒3が茜の所へ歩いて行く

 女子生徒3「里村さんごめんなさい あのイスは私がやったの だから・・・・」

 女子生徒3が私を伺う その様子を見た茜が彼女と共に
 私の所へ来る スポットライトOFF

 茜    「どうゆうつもりなんですか?」
 私    「他人の不幸に便乗して事態の収束を謀ったつもりだけど」
 茜    「どうしてあなたはいつも哀しい事を言うんですか?」
 私    「それに理由があるのなら・・・私の性分だから・・・かな?
       茜の力でも事態は収束できたと思う
       でも人的被害はもっと大きくなったとも思う」
 茜    「私が我慢すれば、それだけでよかったんです」
 私    「茜 その子が謝っているんだから、応えてあげようよ
       君もあの連中からは手を引いた方がいい
       今のままじゃ、今回みたいな後味の悪い作業に使われるだけだよ」

 茜    「どうゆう・・・つもりなんですか?」
 私    「ん? その子は謝っている だから茜ちゃんはその子と仲直りをする よろしい?」
 女子生徒3「ごめんなさい、里村さんごめんなさい 私は仲間はずれにされるのが怖かった
       イスを取り替えるのを嫌だと言えなかった」

 茜    「気にしないで下さい私も気にしていませんから
       それよりも・・・あなたがどうして人を脅すような事を言ったのかが気になります」
 私    「茜・・・おまえが連中を無視し続ければ、いずれオマエに構う事もやめただろう
       だけど・・・その時この子はどうなる?」
 茜    「脅せば謝りに来ると思いました? でも、他の方法もあったんじゃないですか?」
 私    「他の方法ね・・・直接本人にプレッシャーを与えるのが最適だと思っただけ
       これで行動を起こさない人なら見捨てていたさ」

 女子生徒3「”このぐらいじゃ済まない”ってハッタリだったの!!」
 私    「”悪い冗談”だと言ったはずだけど
       そうそう 君が連中と手を切るのに支援が必要なら協力は惜しまないよ」

モノローグ:女子生徒3
 ・・・・トライ?・・・”思った通りにやればいい、何かあれば守ってやるよ”
 トライみたいな人もまだまだ居るのね ふふふ

 女子生徒3「里村さんもこの人から手を切った方がいいわよ」
 私    「やれやれ 嫌われたものだな」 
 女子生徒3「・・・ありがとう」
 私    「嫌われた・・・ものだな・・・・」

暗転

 〜 絆と約束 〜

朝の教室:私と茜、女子生徒1〜4
モノローグ:私(BGM:日々のいとまに)

 2日後 女子生徒2は全快し学業に復帰する事になる
 女子生徒3は連中とは手は切ってはいないけど
 連中が茜に手を出す気配は無い
 彼女なりに連中の牽制しているつもりなんだう

 茜には友達は多くは無い
 私と関わりを持っているせいだろうな
 いや茜自身がボ一っとしているせいなのかも・・・
 どちらにしろ茜に友達増えるのはいい事だ

 女子生徒3「里村さんおはよう」
 茜    「おはようございます」
 私    「おはよう  君の友達なら連中の面目も立つわけか・・・」
 女子生徒3「嫌な言い方するのね」
 私    「ま、性分だからね」
 女子生徒3「ふうん 治すつもりは無いのね」
 
 私    「ん一・・・・・ もしかして私もお友達?」
 女子生徒3「あたりまえでしょ!!」
 私    「つまり・・・私もあの連中の身内って事なのか・・・しくしく」
 女子生徒3「ほんとに嫌な言い方 里村さんこいつと幼馴染みなんだって?」
 茜    「はい」
 女子生徒3「早くこんなのとは手を切った方がいいよ」
 私    「早くこんなのとか・・・・さんざん人から言われた気がするよ
       茜が私の影ロを聞かされたのはさんざんでは済まないと思うが」
 茜    「そんなことはないです」
 私    「そうか?私が直接聞かされた数よりは多いと思うが」
 茜    「私はさんざんだとは思ってはいません」
 私    「なるほど私の影ロを楽しく聞いている訳だ」
 茜    「哀しいこと言わないでください」

 女子生徒3「ねえ あんたの目的って何?」
 私    「茜が苛められなければそれでいい 実カ行使するつもりは無い
       私が他人からどう思われようが知った事じゃ無い ざっとそんなところかな?」
 女子生徒3「あんた・・・嫌な事でもあったの?」
 私    「うん いちお〜当りかな」
 茜    「そんな話やめてください」
 私    「ま、確かに朝からする話じゃ無いね」

担任登場 HRへ突入
ダイアローグ:私とアカネ(BGM:オンユアマーク)
 
 アカネ『ねぇ姉さんとの約束あなたはどう思っているわけ?』
 私  『ん? 今回ちゃんと茜を守り抜いたと思うけど?』
 アカネ『ずっとこんなやり方を続けていくつもり?』
 私  『私が実力行使に出れば、アイツが木刀で苛めっ子を追い払っていた
     程度の人的被害では済まないはずだし、もし私が誰かに負けるような
     ことでもあれば「力の継承」って悲劇も起きるよ』

 アカネ『結局あなた自身が救われる方法は無いと思ってるの?』
 私  『救われてはいるさ、とっくにね私の人生が”気味の悪い子”のままで
     終わらなかったのは誰のおかげかな?』
 アカネ『やっぱり「人生は終わった」って思っているのね
     「後は最後の瞬間を静かに迎えるだけだ」って思っているのね』
 私  『ま、その通りかな・・・こっちの世界に居る間は静かに終わって欲しいと
     思っているよ、ここでは私にとって不利な闘いを強いられる』
 アカネ『茜を愛して、茜と幸せになってそれで茜を守って行くんじゃダメなの
     姉さんだってそれをあなたに望んだ筈なのに・・・・』

 私  『アカネ・・・その時オマエの幸せは何処にある?
     私がオマエを見捨てた時アイツの幸せは何処にある?
     オマエもアイツも最初から居なかった、だから茜の幸せだけを願っていればいい?
     オマエもアイツも見捨ててしまった私の幸せは何処にある?』
 アカネ『全部を手に入れようとして、全部がダメになるよりましじゃない
     私も姉さんもそれならきっと・・・諦められる』
 私  『そこに残るのは、「幸せな私」ではなくて「抜け殻になった私」だよ
     オマエとアイツに信じてさえ貰えなかった私しか残らない』

 アカネ『じゃぁ、あなたの考えてる茜の幸せって何?』
 私  『私が居なくなったこの世界で、茜に新しい出逢いがあって
     茜にまとわりつく柵に無関係な人間と恋に落ちてゴールインする』
 アカネ『茜があなた以外の人を好きになると本気で思っているの?』

 私  『ああ、茜がより自分に相応しいと思える人物なら』
 アカネ『より相応しい?』
 私  『平たく言えば・・・・私よりも好きな人が茜に出来ればいい』
 アカネ『あなたの事も好きなままで?』
 私  『そう、それが私が望む「茜の幸せ」だと言うことは覚えておいて欲しい
     そしてその望みがオマエの言う「私と茜が結ばれる私の幸せ」と
     どれだけの違いがあるのか』

 アカネ『でもそれって・・・・』
 私  『当人がそれを幸せだと感じられること・・・それが幸せの唯一の条件
     状況が自然発生したものであれ、故意に仕組まれたものであれ関係無い』
 アカネ『じゃぁ、あなたの幸せは?』
 私  『ん? その時私の傍にはアカネさんが居ると思うのですが
     こっちの世界に残ることを望むのならそれはそれでいいけれど・・・・・』
 アカネ『あぅぅぅ・・・その答えは卑怯です・・・・・』
 
暗転

 〜 とある日常 〜

夕方 私の部屋:私とアカネと詩子(BGM:潮騒の午後)

 私  「詩子 申し訳ないがこの部屋に食べ物は常備してないぞ」
 詩子 「失礼ね、それが久しぶりに会った幼馴染に言う言葉?」
 私  「えっと・・・冬休み以来だから・・・・一週間は経ってないと思うけど」
 詩子 「ねぇ、これ何?」

  うむむむむむ、人の話聞いちゃいないな・・・こいつ

 私  「これはゲーム機という文明の利器だ」
 詩子 「そーゆー意味じゃなくて、なんでこんな物あんたが持ってんの?」
 私  「ひとつ質問、ゲーム機を所有するのに理由がいるのかい?」
 詩子 「あんたがこのパッドを握り締めている姿はなんか怪しい」
 アカネ「そういえば、私もこれを使ってるところは見たこと無いです」
 私  「アカネがこの家に来てから何かと忙しくて暇がなかったからなぁ」
 詩子 「大体、アカネちゃんが来るまでこの家あんた一人だったんでしょ
     なんでこの部屋にもテレビがあるのよ」
 私  「居間のTVは接客用だから、普段はこっちで済ませてるよ」
 詩子 「あっ・・・ゲーム入ってるぅ・・・・ふむふむ、君はどんなゲームが好みなのかな?」

 ゲーム機の電源を入れる詩子

 詩子 「こ・・・これは・・・? 確かあんた人間苦手だったわよねぇ
     なんでこんな社交的なのが入ってるわけ?
     なんか、じとーっとせせら笑いながら、パズルでも解いているのかと思ったのに」
 私  「えらい言われ様だな 大体多すぎる人間が問題であって・・・・・」
 アカネ「あのー・・・メール届いてるみたいですけど」

  ゲーム機の繋がったTVを指差すアカネ
  ゲームパッドで操作を始める詩子

 詩子 「どれどれ・・・・・うーむ・・・」

 『今まで何やってたのよ! 今からそっちに行くからね Lim』

 詩子 「うむむむ、リムって・・・・女の子・・・だよね・・・・うむむむむ
     スイッチ入れたとたん 女の子からメール・・・・ここまで堕落しているとは」
 私  「男の部屋に入り浸っている奴には言われたくない台詞だな」

 アカネ「あのー・・・リムさん来たみたいですけど」
 詩子 「それにしても、人間嫌いのあんたがネットゲームかぁ」

 Lim『いったい何日待たせるつもり?』
 私  『ゴメン、ちょっと身内の事でゴタゴタしてて
     今も、従妹と幼馴染に部屋を物色されてる真っ最中なんだ』
 アカネ「私は物色なんてしてません」
 Lim『トライ? 従妹と幼馴染って?』
 私  『去年の暮れから、従妹が療養に来てて、あと欠食児童の幼馴染が
     食べ物を物色して・・・・』

 詩子が打ちかけのキーボードを取り上げる
 詩子 『リムさん 私は欠食児童じゃありませんからね』

 なるほど・・・・遊びたいわけか
 詩子が抱え込んだキーボードを横から片手でタイプする
 『Lim 詩子の相手をよろしく』

 私  「アカネお茶の用意を、あっちは長話になりそうだ」
 アカネ「はい」

 Lim『わっ 子守りを押し付けないでよ > トライ』
 詩子 『リムさんひどぃぃぃ』 
 詩子 「ねぇねぇ、音符ってどーやって出すの?」
   
 喧騒の中ゆっくりと暗転

私の家 玄関前 夜:私とアカネと詩子(BGM:無邪気な笑顔)

 詩子 「リムさんっていい人だね 私もあのゲーム買おうかな?
     ねぇネットワーク引くのにどのぐらいかかる?」
 私  「ん?うちみたく回線を引いてあれば、追加の費用はかからないけど
     そうでないと通信費は馬鹿にならないよ」
 詩子 「んーーー、無理か じゃ、時々電話借りに来るね」
 私  「電話でも無いんだがな」

 詩子 「だけど・・・あんたもちゃんと女の子の相手できるんだ少し安心したよ
     いつまでも あの頃のあんたじゃないか・・・・・」

 私  「ん? 詩子 何? よく聞こえない」
 詩子 「じゃ、またね リムさんにもよろしくね」

詩子退場

 アカネ「リムさんって何処の人?」
 私  「さぁ? 個人情報はあまり知らないよ」
 アカネ「だからですか? あなたが平気なのは」
 私  「ん?」
 アカネ「私と同じ様に人間として意識しなくてすむ相手だから平気なんですか?」
 私  「どうだろう、Limの後ろには現実の人間がいるわけだし
     アカネだって元々人間なんだしね」
 アカネ「現実のリムさんを前にして同じ事が言える?」
 私  「特に問題は無いと思うけど」
 アカネ「そう・・・・ならいいけど」
 
私とアカネ家の中へ退場

 〜 前哨戦 〜

ナレーション(BGM:海鳴り)

 暗闇に落ちる滴
 ポツリ また ポツリ

 幾万幾億の夜を越えて世界を満たす
 ポツリ また ポツリ

 運命(さだめ)に抗う者よ、運命(さだめ)に殉ずる者よ 
 儚き滴よ世界を満たせ
 ポツリ また ポツリ

アカネの寝室 うなされて目覚めるアカネ(スポットライト)

 アカネ「何・・・今の?・・・・夢?・・・まさか」

スポットライト移動 自室の窓から天を仰ぐ私

 私  「ついに・・・動くか」

 庭のプランターに刺さった木刀に視線を移す

 私  「やっと痺れを切らしてくれたよ・・・なぁ、オマエの仇討てるといいな」

私の部屋に駆け込んでくるアカネ

 アカネ「早く逃げて!   っ!! どうして・・・・」

 すでに消え始めている私を見て驚愕するアカネ

 アカネ「どうして・・・私だって、茜だって、きっと詩子だって
     あなたの事を大切に思っているのに・・・・どうして!!」

 私  「それが私の選んだ道だからさ、座して死を待つは趣味じゃない
     ならば、闘って勝ち取るのみ もしも敵わぬ相手でも一矢は報いてやる」
 アカネ「だったら、私も連れてって」
 私  「どうやら向こうもそのつもりらしい」
アカネ 「・・・・っ!!」

 私と同様に消え始めるアカネ・・・・二人が消えると同時に暗転

詩子の寝室(BGM:雨) 

 ベットにうな垂れている詩子
 詩子 「嫌な・・・・夜・・・空気がこんなにぺタつくなんて・・・・」

 枕元に置いてあったおみくじを胸の前で握りしめる
 詩子 「あたしの運は大吉なんだからね・・・・あんたに何があったって
     あたしが不幸になることなんて無いんだからね・・・・だから・・・」

 詩子の涙がシーツを濡らす
 ポツリ また ポツリ

 詩子 「だから・・・・無事でいて・・・」

深遠の闇:私とアカネ(BGM:永遠)

 私  「ん−・・・・やけに殺風景な場所だな ここがアカネの居た世界?」
 アカネ「あ、うん・・・でも・・・なんか感じが違う・・・」
 私  「虚無の永遠とはよく言ったものだ・・・ほんとに何も無いや
     そして、吐き気を催すほどの悪意に満ちた空間か」
 アカネ「悪意?そんなもの・・・無い・・・違う、ここにはこんな暖かな空気は
     無かったはずなのに・・・・あなたはいったい何を」
 私  「何を?って単に自己主張しただけさ、それで私の周囲に私のテリトリーが出来た
     で、元々の空間との境界面には呪いの鏡を形成してある」

 アカネ「私はそのテリトリーの中に居るって事?」
 私  「居心地は現実の世界とあまり変わらないと思うけど・・・どぉ?」
 アカネ「どぉ? って あなたには緊張感ってものは無いの?」
 私  「緊張・・・それこそ、向こうの思う壺でしょ・・・この、のほほんとした空気で
     永遠を蝕んでやるのさ・・・・といいたいけど」
 アカネ「何?」
 私  「見くびられたものだな こんな限定空間で閉じ込めたつもりかね
     いや、ここに連れ込む事が目的で、閉じ込めるつもりは無いって事か」

 アカネ「意味が解らない」
 私  「理由がどうであれ、私は望んでこの世界に来た、向こうに帰る手段は無い
     この世界に私を誘い込めれば目的は達成される 私と茜を引き離しておいてから
     ゆっくりと茜を仕上げればいい これでどう?」
 アカネ「まんまと引っ掛かった訳ね で、どうするの?」
 私  「私に帰る手段が無いのなら、強制送還させてやるさ 
     そう、この世界から追い出されればいい
     ここには私が守るモノは無い・・・だから全部を破壊してやるよ
     そのうち耐えられなくなって私を追い出すさ」
 アカネ「この何も無い世界を壊すの?」

 私  「物は無いが、人の意思はあるよ 私に悪意を向ける人の意思がね
     ただその悪意は呪いの鏡で災いとなって、悪意を放つものを襲う」
 アカネ「じゃぁ、あなたのテリトリーってその災いで無人になった場所・・・」
 私  「そう、今も徐々に永遠を蝕み続けている ま、ここまでは向こうも予想してるだろ」
 アカネ「!!」
 私  「だから、こんな限定空間を用意したのさ 本体に被害が及ばないようにね
     次はオマエを私から引き離して人質にして揺さぶりをかけてくる」
 アカネ「あなたのテリトリーなんでしょどうやって・・・・」
 私  「ん? 地の利は向こうにあるさ」

  不意に地面の感覚が無くなり、闇の底へ落とされる(私退場)
  悪意がアカネに纏わりつく
 
 『茜だ・・・茜が帰ってきた』
 『もうすぐだ・・・もうすぐ、ぜんぶの茜が来るよ』
 『茜がボクの物になる ふふふ ふふふ』
 『おかえり茜・・・・優しくしてあげるよ』
 「私は・・・茜じゃない」
 『君は茜・・・・茜の捨てた茜』

 ・・・・あの人の一番嫌なところ、あの人が悪意だというあの人自身
 そうなんだ・・・ここはあの人の世界なんだ・・・
 ただ、茜を求めつづけている あの人の世界なんだ
 
 アカネ「私はアカネ、あの人がそう呼んでくれるアカネだ!」

闇の底:私(BGM:乙女希望・・・・ヴムムムムム)
 私  「うーむ・・・落とし穴とは古風な手を使う
     それはさておき・・・・・アカネを返してもらえないかな?」

 『どうして君は運命に逆らう?・・・・君はボクなのに・・・
  君もすぐにボクたちの仲間になるのに・・・・』

 私  「それが運命だからさ、例え敗北する事はあっても屈服しない
     そして、屈服する事はあっても服従はしない」

 『ふふふ ふふふ』
 『ここはあいつの望んだ世界・・・ボクたちの世界なのに』
 『ふふふ ふふふ 茜 茜 あいつあんな事言ってるよ』

 アカネ「私に構わないで!!」
 私  「アカネちゃぁん "助けて!"と言ってくれたほうが張り合いも出るのですが」
 アカネ「えっと、えっと、そうじゃなくって、ここに居る連中が鬱陶しいからで・・・」

 私  「目標の現在位置を確認 アカネを返してくれないのなら、
     実力行使に出ますけど よろしい?
     この次はもう少し歯ごたえのある相手をお願いね」

  陽光が走った、白き闇が静寂をうむ もはや物音をたてる者もいない

(BGM:遠いまなざし)

 アカネ「今・・・何をしたの?」
 私  「この空間いっぱいにテリトリーを広げただけ」
 アカネ「何人・・・殺したの?」
 私  「アカネが感じた数だけ、オマエに接触してきた連中は逃げ遅れたと思う」
 アカネ「恐ろしい事を平気で言うのね・・・」
 私  「生きて帰れない覚悟も、この手を血で汚す覚悟もしているつもりさ
     闘う道を選んだ以上 奇麗事は言わない」

 白き闇が崩れ始める 
 私  「早いな、もう追い出す気か・・・・・どうする? ここに残るなら・・・・」
 アカネ「嫌です」
 私  「そうか・・・・じゃ後は頼む・・・」
 アカネ「!!」

 〜 骸 〜

詩子の寝室(BGM:雨) 

 まだベットにうな垂れている詩子 シーツには泪のシミが広がっている
 詩子の目の前・・・空中に姿を現すアカネ

 詩子 「アカネちゃん!?」
 アカネ「詩子さん・・・助けて・・・・あの人が・・・・」
 詩子 「あいつが?・・・・だから、こんなに嫌な感じが」
 アカネ「あの人が目を覚まさない・・・・」

 詩子 「えっと・・・真夜中だし・・・起きなくても問題にはならないよーな・・・」
 アカネ「そうじゃなくって・・・」

身支度を始める詩子

 アカネ「詩子さん?」
 詩子 「行くんでしょ? あいつのとこへ」
 アカネ「ハイ」 

詩子はおみくじを握り締める
 「あの人が・・・・」
 
暗転

私の家 応接間:
ソファーに寝かされている私 アカネと詩子

 詩子 「何? 生きている感じがしない・・・」
 恐る恐る私の手を取る詩子

 (BGM:虹をみた小径)
 私  『接触回線オープン!! お? 詩子か えっと こんばんわ かな?』
 詩子 「えっ? えっ? えっ?」
 慌てて手を引く詩子 相変わらず死んだように眠る私
 再び私の手を取る

 私  『身体は動かないし、何も見えないし、何も聞こえないから困ってたんだ』
 詩子 「あんたいったい何やってんのよ!?」
 私  『何やってんでしょう? それが判らないから困ってるんですけど』 
 詩子 「アカネちゃん、こいつ心配は無いみたい」
 アカネ「え?」
 
 詩子はアカネの手も取る
 私  『よっアカネ心配かけたな』
 アカネ「さっきは何も起きなかったのに」
 私  『私も始めての経験なんでよく判らん』

 詩子 「で、アカネちゃんって何者? いきなり私の部屋に現れて
     しかも宙に浮いていたんだけど・・・・・」
 私  『うーむ・・・後先考えずに行動する奴だな・・・
     アカネは私に憑いている幽霊みたいなもんだ
     それがらみのゴタゴタがあって 今起きてるのはその後遺症だな』
 詩子 「つまり、アカネちゃんに手を出して憑り殺されかけた訳ね」
 私  『どーしてそうなる!?』
 詩子 「アカネちゃんは根が優しいから、ケダモノの事なんかほっとけばいいのに
     私のところに駆け込んできた・・・・どーぉ 図星でしょ」
 私  『ぐむむむむ、私は一方的に悪者ですか』
 アカネ「詩子さん・・・それは・・・えーっと」
 詩子 「アカネちゃんは黙ってて、どうしてこんなケダモノを庇うかな?」
     (こんなところでどぉ?)
     (上出来だ・・・)

 詩子 「これからどうするつもり?」
 私  『そうだな、アカネは私の身体を使ってくれ、詩子にはアカネのサポートを頼む』
 詩子 「アカネちゃんにあんたの身体に憑依せて学校に行かせる気ね」
 私  『細かい打ち合わせは明日学校で・・・・時間遅いんだろ、帰って寝た寝た』
 詩子 「じゃ、明日ね・・・・それと送ってくれなくていいから」
 私  『ううむ、残念』

詩子退場

 アカネ「ねぇ、詩子に私のこと話してよかったの?」
 私  「・・・・・・・・・・・・」
 アカネ「ねぇ、返事してよ、ねぇ」

私の身体を揺さぶるアカネ
 アカネ「え?」

 暗転

第2章(4)へ続く


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