礎(ISHIZUE)

 〜灯(TOMOSHIVI)・刹那と永遠の物語 前編〜

〜 第2章 炎のさだめ 〜

 〜 ナイト○ア 〜

中学の教室:中学生のLim エキストラ数名(BGM:追想)

 女子生徒 「せっちゃん 進路決まった?」

”せっちゃん”と呼ばれて振り返るLim

 Lim  「私は・・・・別に・・・・進路なんてどうでもいいから」
 女子生徒 「彼と同じとこ?」
 Lim  「家から一番近い高校に・・・・・
       いえ・・・何処でもいいわ 行ってさえいれば世間体は・・・・・」
 女子生徒 「あ そ あいかわらず暗いわね そんなんじゃ彼も逃げるわよ」

Limに蔑みの視線を投げる女子生徒

 女子生徒 「ねぇ せっちゃん」

少しとぼけた感じの少年が教室に入ってくる

 少年   「よせよ 刹那が困ってる」
 女子生徒 「じゃあ あなたの進路は?」
 少年   「俺は刹那と同じ学校へ行くんだよ」
 女子生徒 「よくこんな暗い子と付き合ってられるわね」
 少年   「刹那は凄いんだよ ゲームセンターじゃ誰にも負けない」
 女子生徒 「いくら強くてもねぇ せっちゃん自身がこんな子じゃねぇ」

唇を噛んで女子生徒の蔑視に耐えるLim

 少年   「誰にだって取り柄の1つぐらいはあるさ」
 女子生徒 「たったひとつ取り柄がそんなんじゃ 可哀想ね せっちゃん」
 Lim  「あなたに言われたく無いわ それに私は可哀想じゃない」
 女子生徒 「何? 生意気ね!」

Limの髪を掴んで引き上げる女子生徒 女子生徒を冷たい瞳で見上げるLim
この様子を見て見ぬ振りするクラスメイト達

 女子生徒 「何よ その目は!」
 少年   「よせよ 刹那が困ってる」

しぶしぶLimの髪を離す女子生徒

 女子生徒 「せっちゃん 見ているとイライラするのよ!」
 少年   「刹那をおまえのイライラの捌け口にしてるだけだろ」
 女子生徒 「あんな暗い子のどこがいいの!」
 少年   「どこって 刹那を連れて歩くと 俺は鼻が高いんだ」

照明を落としてLimにスポットライト
モノローグ:Lim(BGM:永遠)

 あの人は私を必要としてくれる・・・・それが、どんな理由でも
 学校なんてどうでもいい・・・・・世間体なんてどうでもいい
 私は・・・・私を見ていてくれる人がいてくれれば それだけでいい

暗転

Limの実家:中学生のLimとLimの母(BGM:追想)

 母  「刹那 母さんはもっと上の学校を受けて欲しいの」
 Lim「滑り止めに受ける公立なんて何処でもいいんでしょ?」
 母  「刹那には実力があるんだから あんな学校を受けて欲しく無いのよ」
 Lim「母さん ”あんな”って・・・・」

 母  「刹那 世間体って言うものがあるの
     あんな学校を受けたなんてご近所に恥ずかしくて」
 Lim「”ご近所に自慢できなくて”の間違いじゃないの?」

母親に冷たい態度をとるLim

 母  「刹那! あなた親に向かって!!
     あんな学校 母さんは許しませんからね!!」

淋しく微笑むLim

 Lim「私の受験なのに・・・子供の人生は親の世間体の為にあるのね」
 母  「刹那 母さんはねあなたの為を思って」
 Lim「母さんは今 ”世間体がある”って言った」
 母  「刹那 それは言葉のあやで・・・・」

 Lim「滑り止めに受ける公立ぐらい 私の行きたい学校を受けます」
 母  「刹那! ”行きたい学校”って・・・あなた私立を落ちるつもりじゃ無いでしょうね
     母さんは絶対に許しませんからね!!」

 Lim「母さんが許さなくても試験は時の運ですから」
 
照明を落としてLimにスポットライト
モノローグ:Lim(BGM:永遠)

 刹那・・・・まず名前を呼んでから話し始めるのが母さんの癖だった
 刹那・・・・こう呼ばれるのが私は嫌いだった
 母さんの話はいつも私を哀しい気持ちにした・・・
 世間体って何?・・・・・私よりも大切な事?

暗転

Limの部屋:現在のLim(BGM:ゆらめくひかり)

布団の上に身体を起こしているLim

 Lim「嫌な夢・・・・」

家を出て・・・独り暮らしの今の部屋を見回す ゲーム機とTVしか無い殺風景な部屋

 Lim「これのせいで友達を無くして・・・・これのおかげで生きていられる」

ナレーション:
 ゲーム機に電源を入れるTVの片隅に表示される時刻は午前3時
 これから日の出までがLimの仕事の時間 懸賞付のタイムアタッククエスト
 上位入賞すれば1ヶ月分の生活費ぐらいにはなる

 ただ問題なのは運を要求される事 最短ルートで攻められるマップを引き当てないと
 腕だけでは上位タイムは狙えない タイムアタックを狙う以上回線の質も要求される
 回線が込んでいればそれだけでロスタイムになる 電話回線で接続しているLimには
 深夜から早朝にかけてのこの時間帯しか満足できる回線の質を得られない

 最短のマップを引き当てるまでサーバーへの接続 切断を繰り返す
 数10回試行した後 最短のマップを引き当て黙々とクエストをこなしていく
 この間 何人かからメールが入る しかしそれにLimが返信する事は無い

 固定のチームには所属していないLim
 その場限りのパーティを組んだ行きずりのプレイヤーも
 その後メールに返信しない事のあるLimと親睦を深める事も無い

 今日のクエストの結果はトップから2秒差の2位

 Lim「ショートカット出来るルートがまだあるみたいね」

ナレーション:
 ゲームを始めてから2時間 時計は午前5時を回る 窓の外は白み始めている
 もう一度タイムアタックをするか 登校時間まで仮眠を取るのかを悩む

 とりあえずトライシーカー宛にメールを打ってロビーで待ちながら仮眠する事にする

布団に横になるLim

 Lim「現実のトライに逢ってから・・・・ネットに来てくれた事は無いけど」

TVのブラウン管に照らされて心地よく意識が遠くなってくる

 Lim「Lim 戦士 LV82 迷彩柄のキルト製アンダーウェアに・・・・・
     レザーアーマー 両手の手甲にはソードストッパー・・・・
     軽くて丈夫・・・・トライに作って貰った装備・・・・」

ピピ メールの着信コールが鳴る 顔を上げて差出人を確認する

 Lim「トライじゃない・・・・」

ゆっくりと瞳を閉じて睡魔に身を任せる

 Lim「今日は・・・なんか・・・疲れたな・・・・
     あれ???? なんで疲れてるんだっけ? えっと 始業式の後・・・
     始業式? なにがあったんだっけ? 校長の長話・・・・あれ? ちがう・・・
     始業式はサボったんだった・・・・でも・・どうしてサボったんだっけ?」

寝返りをうつLim ハッと身体を起こして制服をかけてあるハンガーの方を見る
(BGM:海鳴り)

 Lim「リボンが2本・・・私のとアカネちゃんの・・・・
     トライは・・・無事?・・・・無事よね・・・・私が無事なら・・・・」

コテンと布団に横になるLim

 Lim「私・・・なんか変・・・なんでこんなに落ち着いてるの?
     ・・・・・えーと・・・なんでだっけ???・・・・?・・・」

寝息を立て始めるLim 暗転

ゲームセンター:中学生のLim エキストラ数名(BGM:追想)
 
対戦台で男の子を次々となぎ倒しているLim
Limの隣に自慢下な少年

 少年1「お前の彼女強いな」  
 少年 「だろ」  
 少年1「で、彼女とお前 どっちが強いんだ?」  
 少年 「もちろん俺」  
 少年1「信じられないな 彼女と勝負して見せろよ」  

 少年 「いいよ」
 
Limの対面に座る少年

 少年 「刹那 俺に恥かかせるなよ」  
 Lim「無理」
 少年 「何?」  
 Lim「私が手を抜いたらすぐにわかるし
     手を抜かなかったらあなたは勝てない
     どちらにしてもあなたは恥をかく」
  
 少年1「やっぱりな お前は強くないもんな」  
 少年 「何を・・・・」  
 少年1「なら 彼女に本気で相手してもらうか?」  

 少年 「刹那 俺に恥じかかせやがって」  

席を立ち ポンとLimの頭を小突いた後 エキストラを連れて退場する少年
後ろ手にVを作ってLimに向かって振る

対戦台に独り残されるLimにスポットライト

ポツリと呟くLim

 Lim「誰でもいい 私と一緒に居てくれる人だったら」
              ・
              ・
            誰でもいい
              ・
              ・
            誰でも・・・

暗転

中学の教室:中学生のLim エキストラ数名(BGM:追想)

Limに絡んでいる女子生徒

 女子生徒 「ねぇ せっちゃん模試の結果よかったんでしょ?」
 Lim  「模試なんてどうでもいいわ」
 女子生徒 「たいした自信ね 模試に一喜一憂してる私達を馬鹿にしてるのね」
 Lim  「・・・・・・」

冷たい瞳で女子生徒を見上げるLim

 女子生徒 「せっちゃんはもっと自分の実力に見合った上の学校狙ったら?」
 Lim  「・・・よけいなお世話よ・・・」
 女子生徒 「せっちゃんは幸せね 何も知らないから幸せね」
 Lim  「・・・・何?」

醜隈な女子生徒の顔にスッと影が入る

 女子生徒 「今日の模試の結果で公立の願書を何処に出すか決まるわ
       せっちゃんは幸せね・・・・あの学校志望でずっと模試受けて
       今更志望校変えるなんてバクチ・・・考えて無いでしょ?」
 Lim  「私の事を・・・・どうして・・・そんなに?」
 女子生徒 「せっちゃんの事を虐めるネタを探してただけ」
 Lim  「?????」

 女子生徒 「ふん! どーせ せっちゃんには公立なんてただの滑り止めなんでしょ!?
       有名私立でも何でも好きな所に行けばいいわ!!」

教室の外から少年登場

 少年   「刹那どうだった?」

Limの手から模試結果を取り上げる少年

 少年   「TOPかぁ・・・刹那凄いな 俺も鼻が高いよ」
 女子生徒 「・・・・そんな酷い事 よくも出来るわね」
 少年   「刹那の事嫌ってたんじゃないの?」
 女子生徒 「あんな暗い子 大嫌いよ」

Limの髪を掴んで引き上げようとする女子生徒 だが髪を掴んだその手を離す

 女子生徒 「せっちゃん 今のままじゃあんた終わりよ」

自分の模試結果をLimに手渡す女子生徒
Limの志望校より2ランク程上の学校の合格ラインに入ってる

 女子生徒 「せっちゃんは私より成績いいんでしょ」

そう言い放って教室より退場する女子生徒

 少年   「何? あれ?」
 Lim  「・・・・・・」

照明を落としてLimにスポットライト
モノローグ:Lim(BGM:永遠)

 刹那・・・・こう呼ばれるのが私は嫌いだった
 刹那・・・・1よりも小さいモノの意味
 刹那・・・・限りなく小さいモノ
 刹那・・・・取るに・・・足りないモノ
 刹那・・・・今の私・・・私の名前・・・
              ・
              ・
 刹那・・・・

暗転

ピピピ 目覚まし時計が鳴る

朝 Limの部屋:現在のLim(BGM:日々のいとまに)

ネットゲームをセーブ終了してゲーム機の電源を落とす
未読のオンラインメールはセーブもされる事なく
ゲームの終了と共に闇の中に消える
初めからそんなメールは存在してなかったの様に

 Lim「また トライは来てくれなかった」

身支度を整えて学校へ向かうLim

Limの教室:Limと私(BGM:雨)

 私  「よぉ 元気か?」
 Lim「そっちは?」
 私  「今朝 アカネを詩子に預けてきたよ」
 Lim「いよいよなのね それで何時?」
 私  「7月15日 まだ日はあるけど それまでにアカネには
     人間として生きていける様になってもらいたい」

 Lim「それで詩子さんに頼んだの?」
 私  「他に頼める人が居なくてね」
 Lim「私は?」
 私  「Limの家族の事はよく判らないんだけど いいのか?」
 Lim「独り暮らしだから平気 けど・・・」
 私  「けど?」
 Lim「生活がギリギリだから・・・その・・・」

 私  「アカネを引き取るかわりに 生活費の面倒見ろと?」
 Lim「・・・・あ・・・・今私が言った事忘れて・・・・
     なんか・・・夢見が悪かったみたい」

 私  「悪い夢でも見た?」
 Lim「悪い夢? いい夢? どっちだろ?
     でも・・・・私が誰かを頼りにした事なんて無かったのにね」
 私  「そうか・・・」
 Lim「ねぇ 生活費出してくれなくていいから
     今度、イベント手伝ってよ 懸賞付のクエストなんだけどさ
     チーム参加が必須で私1人だと参加も出来なくて」
 私  「ふーん 懸賞って幾らぐらい?」
 Lim「最初にクエストをクリアしたチームなら・・・・
     2人で分けても2、3ヶ月分ぐらいの生活費になるわ」

 私  「Limってバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)で生計立ててるんだ」
 Lim「昼間は学校あるし アルバイトするにも接客業に向かない性格だし
     毎月のタイムアタッククエストが続いてる間は何とか食べていけそう
     私・・・・ゲームしか取り柄がないから・・・・・」
 私  「クエストは付き合うよ 賞金はLimが全部持って行っていい
     こっちは生活には困ってないから」

 Lim「半分は持って行って 私にもプライドはあるから」
 私  「プライドって・・・・さっき生活費を取引の条件に出したくせに」
 Lim「だから! それは忘れて!! 私がどーかしてただけだから」
 私  「じゃ 賞金は要らないから賞品を貰おうかな?」

 Lim「賞品? 副賞のレアアイテム?」
 私  「いや 懸賞取ったらLimに交際申し込むから断らないで欲しい」
 Lim「は??? 私が??? 賞品??」
 私  「断りさえしなければ のらりくらりとあしらってくれていいよ
     勿論クエスト達成後の成功報酬と言う事で」

 Lim「トライ どう言うつもり?」
 私  「私の取り分で一芝居打って欲しい 7月15日まででいいから」
 Lim「そう言う事ね ねぇトライ誰にも何も言わないつもり?」
 私  「騙しきれるのなら騙しきりたいよ」
 Lim「7月15日に私に振られたトライは それを苦にして失踪? それとも自殺?」
 私  「悪くはないシナリオだろ?」
 Lim「もう一つシナリオ用意してもいい?」

 私  「もう一つ?」
 Lim「私とトライが駆け落ちして2人で失踪するの」
 私  「駆け落ちって 誰から逃げるの?」
 Lim「家出娘を探しに来たウチの親から」
 私  「Limは今 家出中?」
 Lim「みたいなモノ ただ私を探したりはしないでしょうけど
     私の事なんてもう誰も覚えていないから」
 私  「そうか・・・色々あったんだな」

 Lim「駆け落ちして私もトライもみんなから忘れられておしまい それが私のシナリオ」
 私  「いいのか? それで」
 Lim「昨日アカネちゃんには”しぶとく生き残る”なんて言っちゃったけど
     トライが消えちゃって・・・・ね その後・・・私が
     生きていられるか・・・正直自信が無い・・・・
     それに・・・生き続けてたとしても 多分昔の暗い私に戻るだけだろうから」

 私  「出来ればLimにも元気でいて欲しいな」
 Lim「それは無理 トライに捨てられた事を忘れても 忘れられなくても
     そこに元気な私はいないから トライに出合う前の私に戻るのか
     トライを引き止められなかった事を悔やみ続けるのかのどっちか・・・・」

 私  「なら・・・次善の策 茜を見捨ててLimを選ぶ」
 Lim「それは嫌・・・・里村さんを守れなかった事を悔やみ続けるトライは見たくない
     それと 里村さんを切り捨てて平気な顔しているトライも見たくない」

顔を上げて私に向かって微笑むLim

 Lim「だから 里村さんを守りきった上で私を選んで」
 私  「その芝居はクエストの成功報酬の筈だけど?」
 Lim「前金で半分は払っておくわ」
 

ゲームセンター:中学生のLim 女子生徒(BGM:追想)
 
 女子生徒 「せっちゃんは私と勝負して 私が勝ったら
       せっちゃんは私の受ける学校に願書を出すのよ!」
 Lim  「何故?」

 女子生徒 「高校に行ってもずっとせっちゃんを虐めていたいから」

醜猥な笑顔をLimに向ける女子生徒

 Lim  「バカな事・・・・」
 女子生徒 「やるの やらないの どっち?」
 Lim  「・・・・・私が勝ったら もう私には構わないで」
 女子生徒 「い・・・いいわよ 約束する」

アップライトの対戦台 女子生徒の対面に座るLim
コインを投入しウサミミのキャラを選ぶLim

女子生徒の選んだ背中に女の子を背負った得体の知れない動物キャラに向かって
ジャンプして飛び込む 
対空技で迎撃しようとする動物キャラ 空中で飛び道具を空撃ちして
降下タイミングをずらしかわすウサミミ 対空技を出して硬直している動物キャラの
直前に着地しラッシュ攻撃に入る 必殺技用のゲージが溜まっている事を確認したLimは
アリーナ・カーニバル(乱舞系必殺技)のコマンド入力をする
そしてアリーナ・フェスティバル(同じく乱舞系必殺技)へ繋ぐ
HPゲージを半分ほどに減らされて気絶している動物キャラに
アリーナ・スペシャル(超必殺技)でトドメを刺す この間ゲーム開始から数秒

2戦目に入らずに席を立つ女子生徒

 女子生徒 「こんな時ぐらいわざと負けたら!
       私が本気のせっちゃんに勝てるわけが無いじゃない」
 Lim  「私は虐められるのは嫌」

 女子生徒 「もう どうなっても知らないから!」

Limに罵声を浴びせてゲームセンターから退場する女子生徒

1997年 3月 公立高校受験日:(BGM:追想)

 他校の生徒 何人かのクラスメイトに混じって ポツンと試験を受けるLim

             受験番号4219

 試験中のLimから上空に向かってパンアウト
 次第に豆粒のようになって消えていくLimの姿 校舎 日本 そして地球・・・
 漆黒に星の瞬く中暗転

モノローグ:Lim(BGM:永遠)

 ゲームで私は友達を無くした・・・・
 あの時は”友達”だなんて思ってなかった・・・・大切な人を
 1人・・・たった1人だけ 私の事を気にかけてくれた大切な人を・・・

 刹那・・・・こう呼ばれるのが私は嫌いだった

 私を”刹那”と呼ばないでくれた・・・たった1人の大切な人を・・・・

喫茶ぬくれおちど:茜 詩子 アカネ
少し離れた喫茶店用のテーブル筐体のゲームに私と現在のLim(BGM:潮騒の午後)
2プレイヤープレイを交互に行う面クリアタイプの
年代モノのシューティングゲーム 私の自機が撃墜されてLimの番になる

ゲームが始まるとすぐに撃墜されるLim

 Lim「あ・・・・」
 私  「今 寝てた?」 
 Lim「うん・・・今朝 2度寝したのが良くなかったみたい・・・」

テーブル筐体に表示される”GAME OVER”の文字

 私  「みんなの所へ行こうか?」 
 Lim「そうね」

茜達の座っている4人掛けのテーブルへ向かう私とLim

 詩子 「何? もう終わったの?
     ”5人座ると狭いからゲームでもやってる”とか言ってたくせに」
 私  「Limが寝不足なんだって」

心なしポーっとしているLim

 詩子 「あんた リムさんに何したの?
     リムさんも何されたか知らないけど泣き寝入りはダメよ」
 Lim「え? 何??? 詩子??」

じとーっとジト目で私を睨む詩子

 私  「だから私は何もしてないって Limが寝不足でゲームにならなかっただけ」
 Lim「トライは・・・何もしてない・・・何もしてくれないから・・・
     昨日だって・・・一晩中ロビーで待ってたのにメールすら出してくれない」
 
 詩子 「あんたねぇ リムさんの夜遊びの相手ぐらいしてあげなさいよ
     リムさんってテレホーダイの時間帯しかネットゲーム出来ないんでしょ?」
 Lim「最近は少し落ち付いたから・・・でも・・・前は・・・・」
 詩子 「まさか・・・家にいる間ずっと繋いでたの?」
 Lim「うん・・・現実のトライに逢うまでは・・・・
     あの・・・ずっとロビーでトライが来るの待ってて」
 詩子 「電話代・・・・いくら掛かってたのよ それに電話1人占めして
     家の人 何にも言わなかったの?」

 Lim「私・・独り暮し・・・」
 詩子 「ん? あんた達の学校ってアパート借りてまで通うような有名校?」
 Lim「えっと・・・今・・家出して・・」

詩子がLimの言葉を遮る

 詩子 「ちょっとリムさん そんなプライベートな事まで私達に言っちゃっていいの?」

私の方を見るLim

 Lim「友達だから大丈夫」
 詩子 「あっそ じゃ遠慮無く聞くけど 家出の理由は?」
 Lim「ウチの学校に通うって強情張ったら勘当されたの
     ”あんな学校なんてご近所に恥ずかしい”って」

 詩子 「で ”恥ずかしい学校に通ってる”皆様の御意見は?」
 茜  「知りません」
 私  「立つ瀬無いですな まぁ家柄とか血筋とかの選民思想に
     振りまわされてる人は少なくないって事なんでしょうかね?」

 アカネ「あの・・・そこまでしてウチの学校に通いたい理由って何?」
 Lim「通いたい理由なんて無かったわ・・・あ・・・今は有るかな?」
 
チラッと私の方を見るLim

 Lim「でも・・・どうしても受験したい理由はあったの
     ”一緒に同じ高校に行こう”って言ってくれた人がいてね」
 詩子 「その人って男の子?」
 Lim「そう男の子 親の反対押し切って受験したのにね
     私立の試験だって白紙で出したのに・・・・」
 茜  「その人は・・・・合格しなかったのですか?」

 Lim「ううん 振られちゃった その人もっと上の学校受けてて 合格して・・・」
 詩子 「何それ? 許せない奴ね」
 Lim「あはは 嘘を見ぬけなかった私がバカだっただけ
     忠告してくれた友達もいたんだけど
     その友達の言葉を最後まで信じられなかったのが悔しくて
     あははバカね私って」

カラカラと乾いた笑顔を返すLim 

 Lim「振られた事より 友達を信じられなかった自分が悔しくて」
 茜  「その友達とは?」
 Lim「友達は彼と同じ学校に通ってる・・・・
     中学卒業してから会ってない なんか顔合わせられなくて」
 茜  「リムさん・・・・」

ポンと膝を叩いて立ち上がるLim 

 Lim「話題変えましょ ハイ アカネちゃん昨日借りたリボンありがとね」

1年生用の制服のリボンをアカネに手渡すLim

 Lim「アカネちゃん今日学校に行かなかったの?」
 アカネ「今日は詩子さんの家に引越してたから 学校には行ってない」
 詩子 「学校に行く行かないを都合で選べるなんて贅沢ねぇ」
 アカネ「詩子さん 私はまだ入学式前なんですからね!」
 私  「まぁ 入学式前に新入生が登校する方が問題視されると思うが」

 茜  「アカネちゃんが詩子の家に?」
 私  「下宿させて貰えるように今朝頼みに行ったよ
     復学出来るぐらいに健康になった女の子を
     独り暮しの男の家には置いておけないからねぇ」

 アカネ「ぐすっ 先輩に捨てられちゃった わたし」
 私  「いい人に拾ってもらうんだよ」
 茜  「従兄妹同士でしたら一緒に暮らしても問題無いでしょうに」
 私  「従兄妹って法律上では結婚できる関係なんだけど」
 茜  「結婚するつもりだったのですか?」

 私  「まさか・・・」
 アカネ「酷い!! 先輩! 私の事はただの遊びだったの!?」
 私  「また人聞きの悪い事を・・・・」
 Lim「トライ 私の事も遊びだったの? 毎晩会いに来てくれるって
     あんなに・・・・約束したのに・・・・」
 私  「Limまで・・・・」

 詩子 「リムさん・・・・"毎晩 遊びに行く約束"だったんでしょ?
     だから・・・・それって・・・やっぱり”遊び”じゃないの?」
 Lim「・・・・・あ・・・・遊びを本気にした私がバカ?」
 私  「詩子まで・・・・だから捨てたつもりも無いし 遊んだつもりも無い」

 詩子 「だったら あんたは私達の誰を選ぶのよ?」
 私  「そんな事・・・決まりきってる 誰も選ばない」
 詩子 「開き直ったわね でもねそのうちあんたは誰かを選ぶのよ
     いつまでも私達を生殺しにしておくつもりも無いんでしょ?」
 私  「ずっと今のままじゃダメなのかな?」

 詩子 「まともじゃないあんたと違って・・・私達は まともな”女”だから・・・・ね」

自分の二の腕に手を添える詩子

 私  「前向きに検討し善処します」

1997年 3月 20日  中学卒業式:(BGM:追想)

校長の挨拶 来賓の挨拶 送辞 答辞 蛍の光 つつがなく進む卒業式
唇を噛むLimにスポットライト

卒業式の後 校庭の一画:卒業証書を持ったLim 少年 女子生徒(BGMは継続)

 少年   「刹那 俺はこいつと同じ高校に行くから」
 女子生徒 「・・・・・・」

 Lim  「・・・・最後まで・・・黙っていてはくれないんですね」
 少年   「最期だから告白するんだよ」
 Lim  「収穫のつもり?」

 少年   「いったい 何時から判っていた?」
 Lim  「・・・馬鹿な人・・・・高校の受験日にも・・・合格発表にも顔を出さないで」
 少年   「ふふ・・・刹那はもっと前から気が付いていたと思ってたよ」
 Lim  「それでも信じていました・・・だから最後まで・・・黙っていてくれたら・・」
 少年   「それだと面白くない まぁ 今の刹那の反応も面白くはないんだけどな」

 女子生徒 「・・・よくも・・・そんな酷い事ができるわね!」
 少年   「なんだよ・・・お前だって刹那を虐めてたじゃないか」
 女子生徒 「私は! ・・・・私は・・・・ただ・・・ 何されてもじっと我慢してる
       せっちゃん見てたら・・・・イライラしてくるのよ!」

Limから顔を背ける女子生徒

 Lim  「・・・・あ・・・・ぁ・・・」
 少年   「刹那 いい顔してるよ こいつも刹那を虐めてた1人だと思ってたんだろ?」
 女子生徒 「っ!! だから あんたは私と同じ高校に!?」
 少年   「さぁ? 俺は俺の成績で受かる学校を受験しただけ」

Limに微笑みかける少年

 少年   「刹那は今までどれだけこいつの気持ちを踏みにじった?」
 Lim  「・・・・ぁ・・・私・・・」

咄嗟に醜猥な笑顔をLimに向ける女子生徒

 女子生徒 「ふふん ねぇせっちゃんこの人は私が貰うからね ざまぁみろ!」
 少年   「ふふふふ 下手な芝居をする それで刹那がごまかせるのかな?」
 女子生徒 「どうしてぇ せっちゃんにぃ こんな事ぉ したのぉ?」
 少年   「お前と同じさ 何されても我慢してる刹那にイライラしたから」

爽やかな笑顔を2人に向ける少年

 少年   「だから・・・今みたいな顔の刹那を見たくなった
       刹那は自分が何をされても我慢できるんだよね?
       でも・・・刹那の事をずっと心配していたこいつに刹那は何をしたのかな?」

パン! 少年を平手打ちにする女子生徒

 少年   「ふふふ 自分で認めたね 刹那が心配なんだって
       なぁ 刹那 こいつは刹那に何をしてくれた?
       そんなこいつに刹那は何をした?」
 Lim  「・・・・心配してくれた・・・のに・・・・私・・は・・・」

カタン 卒業証書の入った筒を落とすLim Limに駆け寄る女子生徒
 
 女子生徒 「せっちゃん!」
 Lim  「・・・・ごめんなさい・・・・私・・・
       何も判らなくて・・・・ごめんなさい・・・・・・」

 女子生徒 「せっちゃんは謝らなくていい」
 Lim  「誰でもいい・・・・誰でもよかった・・・・・」
 女子生徒 「誰でも??・・・・何???・・・」
 Lim  「一緒に居てくれる人なら誰でもよかった
       友達でなくてもいい 一緒に居てさえくれれば」

 女子生徒 「せっちゃん 何言ってるの?」
 Lim  「ごめんなさい・・・・ただ一緒に居てくれた・・・・
       ただそれだけの人の為に・・・・・
       友達だった人に気が付かなかった・・・・
              ・
              ・
       刹那・・・・こう呼ばれるのが私は嫌いだった
       私を”刹那”と呼ばないでくれた・・・たった1人の友達だったのに・・・・
              ・
              ・
       ごめんなさい・・・・」

 女子生徒 「・・・・私を 友達と思ってくれるなら」
 Lim  「あなたを裏切ったのは私・・・・・」
 女子生徒 「私は裏切られたなんて思ってない!」

爽やかな笑顔のまま少年が話す

 少年   「面白くないな 刹那 自分を悪者にしてしまえば我慢出来るか?」
 Lim  「そう 悪いのは全部私 あなたの嘘を見抜けなかったのも
       友達の気持ちを・・・踏みにじったのも・・・・・」

 女子生徒 「せっちゃん!」

Limを平手打ちにする女子生徒

 Lim  「ありがとう・・・でも・・・さようなら」

2人に背を向けて立ち去るLim

 女子生徒 「せっちゃん・・・・」

暗転

商店街:トボトボと歩くLim(BGM:永遠)

 Lim「刹那・・・・私の名前・・・取るに足りないモノの意味
     助けて・・・誰か・・・助けて・・・・」

卒業式帰りの中学生で賑わう商店街 その中をあてもなくトボトボと歩く

 Lim「我慢なんか・・・・出来るわけ・・・・無いじゃない
     友達は・・・・私が・・・私の・・・1番・・・・・」

人の流れに逆らい歩き続ける アーケードの両脇には
造花の桜並木が艶やかに並ぶ そして ”春の大売り出し”の文字

 Lim「・・・桜の下には・・・・死体が・・・・埋まってる
     桜の木の下・・・・公園に行こうかな?・・・・あはは」

Limの乾いた笑いが雑踏の中に消える

 Lim「あはは・・・あは・・あははは・・・桜の下・・・
     公園だったら・・・いいかも・・・・桜の・・・木の下・・・・」

浮かされた様な乾いた笑いを振りまきながら ふらふらと商店街の中を彷徨う
ピキーン、キョポポポポホ・・・・と、耳慣れた安っぽい電子音がLimの意識に届く

商店街 人通りのまばらになった一画 否認可の場末のゲームセンター

 Lim「・・・あ・・・・・私・・・・こんな所に・・・・
     あははは・・・・そうか・・・・私 後悔してるんだ
     志望高賭けて 勝負した時の事・・・・」

Limゲームセンターに退場

ゲームセンター:Lim エキストラ数名(BGM:遠いまなざし)

背中合わせに置かれたアップライト筐体の対戦台
アップライト筐体は対戦相手が筐体の陰に隠れる
対戦相手待ちをしている筐体に付きコインを投入し
ウサミミのキャラを選ぶLim

数秒後に1戦目が終わる そして2戦目も数秒
3本勝負を2本先取したLimの勝利

何人かが続けざまにLimに勝負を挑むがことごとく秒殺にされる
Limの快進撃にギャラリーが集まってくる

何人目かの挑戦者が対戦台に座る
そして栗毛でピンクのエプロンドレスを着たメイドロボを選ぶ

 Lim  「2PカラーのTesse?」

メイドロボは最大級の挑発メッセージをウサミミに送る

 メイドロボ「・・・・・・えーっと 勝っちゃったら ごめんなさい」

 Lim  「この人・・・・ 相当慣れているみたい 私に勝って・・・・」

1戦目の開始 いきなり注射器を装備しウサミミに突進するメイドロボ
注射器をガードし ガードキャンセルをかけてメイドロボに必殺技を決めるウサミミ

 Lim  「あ・・・いきなりHP吸収」

ダウン状態から起き上がりバックダッシュをかけるメイドロボ
反射的にメイドロボの追撃に移るウサミミ
メイドロボはバックダッシュをキャンセルして極太の注射器を装備しウサミミに突進する
不意を付かれたウサミミに深々と突き刺さる巨大注射針
先程ウサミミにカウンター攻撃食らって減ったメイドロボのHPが見る間に回復する

注射器をまともに食らってダウンしたウサミミは後方に転がりながら起き上がり
巨大なハートの飛び道具を打つ メイドロボは巨大注射器でハートに向かって突進する

 Lim  「馬鹿な人・・・・」

しかしLimの予想に反して注射器はハートを突き破りながら突進し
また深々とウサミミに突き刺さる 2発の注射器を食らって気絶したウサミミに
超必殺技を打ち込むメイドロボ

 Lim  「く・・・屈辱技ばかり・・・」

HP吸収技は敵に与えるダメージは少ないらしく
超必殺技を受けてもウサミミのHPは1/5程残っている
ウサミミは反撃を試みるが攻撃の出だしに巨大注射器を重ねられ気絶した所に
2発目の超必殺技を打ち込まれ1戦目が終わる

 Lim  「・・・パーフェクト・・・・・」

メイドロボの無血勝利を告げる”PERFECT!”の文字を思わず読み上げるLim
2戦目に向けてLimの目の色が変わる

 Lim  「次は・・・・負けない」

しかし決心も虚しく2戦目も同様に超必殺技を2発打ち込まれて パーフェクト負けをする

今まで数人を倒してスコアを上げていたLimの筐体にネームエントリーの催促画面が出る

 Lim  「リミッター解除します・・・・・」

2戦で4発食らったメイドロボの超必殺技発動時の台詞がLimの耳に残る
そして・・・ネームエントリーに”LIM”と打ち込む

Limはコインを投入し再戦を挑む Limの頬を伝う一条の泪
しかし再戦の結果も初戦と同じにLimの惨敗
次々とコインを投入しては惨敗するLim

Limは自分が泣いている事に気付く・・・・ 

 Lim  「悔しいの?・・・私が???・・・・・」

泣きながらゲームを続ける鬼気迫るLimの姿にギャラリーが引き始める
何回目かの再戦時にLimがコインを投入しゲームが始まるまでの間
対戦者はAとDとスタートボタンの3つを押し続ける
ゲームが始まった時 ウサミミのステージの下段に
BGMの歌詞がカラオケよろしく表示される

 Lim  「裏技???・・・・この人いったい・・・・・・」

そのうちLimの小銭が尽き・・・・華やかな宴も終演を告げる
対戦相手を確かめようと席を立ち背中合わせのアップライト対戦台の対面側に向かうLim
そこにはもう誰も座ってなく・・・・立ち去る少年がLimに後ろ手を振っている

 少年   「”リミッター解除”じゃなくて”リミッターカット”だから
       確かに聞き取り辛いSEだけどね」
 Lim  「次は絶対に負けないから!」
 少年   「いつかまたどこかで 楽しみにしているよ」

後ろ手を振りつつ少年は一度も振り返らずに退場 

 Lim  「次は・・・・次は・・・・
       ”次は”って言った・・・私が?・・・・・」

 刹那・・・・取るに・・・足りないモノ
 刹那・・・・私の名前・・・

       いつかまたどこかで 楽しみにしているよ

 約束・・・私が・・・諦めなれけば・・・果たされる筈の・・・約束
 小さな・・・約束

暗転

私の家 居間:私 現在のLim アカネ(BGM:潮騒の午後)
 
ソファーに腰掛けている3人
自分の部屋からTVとゲーム機を居間に持ち込んでいる私
自宅からゲーム機を持ち込んで居間のTVに繋いで・・・・うつらうつらしてるLim

 Lim「あっ・・・・・」
 アカネ「リムさん 先輩が困ってたよ ゲームしてる時に寝ちゃうから」

TVの画面の中ダンジョンの壁ぶつかってなおその場で走り続けているLimのキャラに
モンスターの攻撃が集中している
Limのキャラに回復魔法をかけ続けている私のキャラ

 私  「寝落ちはよくある事だから 困ってはいないんだけど」
 Lim「・・・・ごめん・・・この時間 いつもなら寝てる時間なの・・・・」

チラリと時計を確認するアカネ

 アカネ「”寝てる時間”って まだ6時前だよ?」
 Lim「私は早寝早起き」

 アカネ「????この時間に寝てて 何時に起きるの?」
 私  「午前1時か2時ぐらい?」
 Lim「そう そのくらい いつも待ってるのにトライは来てくれないのぉ・・・・ぐすっ」
 私  「その時間は私の方が寝てるよ」
 Lim「私はこの時間帯しかネットに繋げないのにぃ」

 アカネ「????先輩はいつでも平気に繋いでるよ」
 私  「ウチは定額料金の常時接続だから いつ繋いでも平気なんだけど
     Limの所は電話接続でテレホーダイ使ってるんだよね」
 Lim「そう だからネットゲームは深夜から朝にかけてしか出来ないの」

あからさまに妖しく時計を確認するアカネ

 アカネ「そろそろ6時かぁ 私は詩子の家に戻らないと お2人さん仲良くしてね・・・」

じっとLimの瞳を見つめるアカネ

 Lim「アカネちゃん?」
 アカネ「リムさんって先輩と同じなんだよね・・・・
     いくらいつもなら寝てる時間だって言っても
     安心できない所でうたた寝なんかしないよね?」
 
 Lim「・・・・・」
 アカネ「先輩 リムさんを襲っちゃダメだよ」

アカネ退場

 私  「まったく・・・余計な気を使う」

手元のコントローラーを見つめているLim

 Lim「私も・・・帰ります・・・・」
 私  「別に襲うつもりは無いけど?」

TV画面のLimのキャラがくるりとこちらを向く
Limは俯いたまま

 Lim「アカネちゃんに見透かされちゃいました だから帰ります・・・・・」
 私  「それはいいけど・・・・帰る前に懸賞付きクエストの説明してくれないかな?」
 Lim「あの・・・・」
 私  「その日は夜中も付き合うから」

 Lim「あ・・・・えっと・・・2月に配信されたクエストなんだけど
     まだクリアしたチームがいなくて、2月と3月分の賞金が繰り越されて
     今月・・・4月分と合わせて・・・・60万」
 私  「山分けにしたとして1人30万・・・で、それが3ヶ月分のLimの生活費?」
 Lim「だいたいそのくらい・・・・それで・・・いつクエストに付き合ってくれるの?」

 私  「明日でもいいかな? 準備は必要でもなさそうだけど・・・今日は・・・・」
 Lim「きょ・・う・・は・・?」
 私  「Limが眠そうだから」
 
顔を上げて半分濁った瞳で私を見つめるLim そして静かに瞳を閉じる 
 
 私  「帰るんなら 仮眠してからの方がいいよ」
 Lim「うん・・・」

私の肩に頭を預けるLim Limの手からカタンとゲーム機のコントローラーが床に落ちる

 私  「えっとLimさん 出来れば寝床まで自分で歩いて行って欲しいのですが」
 Lim「・・・・・・」
 私  「ううぅぅ〜」

Limを抱え上げる私 私の首に腕を絡めて身体を支えるLim

 私  「あのぉ・・・・」
 Lim「Limは今眠っているので お返事出来ません」
 私  「うーん・・・・」
 
唸りながらLimを抱えてアカネの部屋へ退場する私

アカネの部屋:私とLim(BGM:永遠)

抱えているLimを畳に座らせようと腰を落とす私
私にしがみつくLim そしてゆっくりと濁った瞳を開ける

 Lim「私に抱きしめられるのは平気よね
     私もトライと同じで誰も信用してないから」
 私  「Lim・・・・・」
 Lim「今は”刹那”と呼んでくれていいわ 刹那は結局 誰も信用できなかった馬鹿な子
     トライにさえ・・・どこか距離を置こうとしている」
 私  「でも・・・・そう言う付き合い方をしてくれた方が私も助かる」

片膝をついてLimを抱えている私の胸に顔を埋めるLim 私の身体が強張る

 Lim「でも・・・それじゃトライも刹那もダメ・・・・」

濁った瞳で私を見上げる腕の中のLim

 Lim「ねぇトライの部屋へ連れていって」
 私  「何をする気だ?」
 Lim「詩子がしたのと・・・・同じ事」
 私  「よく言う・・・・・」

そのままLimを抱え上げて私の部屋に退場する私

私の部屋:ベッドに腰掛けている私とLim(BGM:海鳴り)

 私  「それで?」

フラっとベッドに倒れ込むLim

 Lim「ここで寝たかっただけ・・・・」
 私  「あ・・そ・・・それじゃお休み」

ベットから立ち上がる私

 Lim「誘ってるつもりなんだけど」
 私  「よく言う・・・・・お互い 人間は苦手の筈だろ?」
 Lim「よく言うわ・・・・お互い それじゃダメだって判ってる筈でしょ?」

Limの額に手を当てる私 そして自嘲気味に言葉を吐く

 私  「誰も信用出来ないクセに・・・・」

額に置かれた私の手を取って 私をベッドに引き倒すLim 

 Lim「それでも・・・信用したい人も信用して欲しい人も居るの」

ベットの上で私に抱きつくLim 暗転

深夜 私の部屋ベットの上:ノビている私 私を抱き枕替わりにしているLim
(BGM:雪のように白く)

目を覚ますLim

 Lim「あ・・・」

ベットサイドの午前1時を回っている目覚まし時計を見る

 Lim「仮眠のつもりだったのに・・・・・・」

腕に残っている温もりを確かめる 

 Lim「・・・熟睡・・・出来たのね・・・・私」

ノビている私を抱きしめるLim 身体が強張る私

 Lim「拒絶・・・反応・・・そう・・・なの・・・」

私の唇に自分の唇を重ねるLim そして私の鼻をつまむ
口と鼻を塞がれた私に痙攣が走り始める

ゆっくりと私に息を吹き込むLim 私とLimの胸が呼応して上下する
私に覆い被さって無理矢理の人工呼吸を続ける

スポットライトをゆっくりとLimの口元に絞りつつ暗転

 〜 虚空の幻想 〜 

朝 私の部屋ベットの上:人工呼吸を続けているLimと私(BGM:8匹のネコ)

 私  「Lim・・・・?」

ゆっくりと私から体を離すLim

 Lim「トライ おはよう」
 私  「あぁ・・・おはょ なぁLim 頭が重いんだけど
     さっきの・・・・一晩中やってた?」
 Lim「私は・・・トライとだったら 多分・・・大丈夫だから・・・」

濁った瞳で私を見つめているLim

 私  「まったく・・・脳味噌が・・・酸欠・・・起こしているのか・・・・
     ・・・ふたりとも・・・・・」
 Lim「あ・・・・そうね・・・・きっと」

自分の唇に指を添えるLim

 Lim「今夜 楽しみにしてるよ」
 私  「退屈はさせない」

ベッドから立ち上がるLim Limの手を掴む私

 Lim「・・・・ん? なに?」

そのままLimを抱きしめる

 私  「・・・・・」
 Lim「もう 拒否反応は無いみたいね」
 私  「・・・なんか 慣らされちゃったみたいだし」
 
Limを抱く腕に力を込める

 私  「Limも慣れちゃってるみたいだし」
 Lim「ううん Limは最初から平気・・・・
     だけど・・・刹那はやっと・・・・」
 私  「それで刹那さんLimはまだ寝てるんですか?」
 
Limを抱く腕を緩める私 私から身体を離すLim

 Lim「トライも刹那は嫌いなのね・・・・・」
 私  「Limが嫌ってる刹那なら・・・・
     でもまぁ私は人工呼吸器を嫌って窒息死する・・・・
     そんなバカな事はしなかった筈だけど」

静かに瞳を閉じるLim

 Lim「・・・・・1度 家に帰るわ・・・・
     また後でね・・・・その時の私は・・・・Limの筈だから」
 私  「私は刹那のままでも構わないんだけど
     じゃ、刹那さん いつかまたどこかで 楽しみにしているよ」
 
 Lim「え?・・・」

暗転

放課後 喫茶ぬくれおちど:私 茜 詩子 アカネ Lim(BGM:潮騒の午後)

 アカネ「ねぇ リムさん昨日あのまま泊まったんだって?」
 Lim「ん???・・・あのまま???」

 アカネ「朝帰りしてるリムさんを詩子さんが見かけたんだって」
 Lim「朝帰りはしたけど・・・・12時前には起き出して・・・」

 詩子 「12時って夜の?」
 Lim「そう それから朝までずっとゲームしてただけだけど?」
 詩子 「あんたは?」

私に視線を投げる詩子

 私  「ん? Limの夜食作ってから 自分の部屋に引き上げたよ
     夜行性のゲーマーなんかに付き合ってられない」
 Lim「酷いぃ・・・今晩 クエストに付き合ってくれるって約束したのに」
 私  「深夜に突入したら・・・・寝かせてもらうよ」
 Lim「ううう・・・私に割引時間外の電話代払えと言うのね?」
 私  「タイムアタックのクエストじゃないんだから、
     回線が空いてなくても えっと、11時から2時間も付き合えばいいだろ?」
 
 詩子 「・・・つまり・・・・あんたは一晩中リムさんに何もせずにほっといたわけ?」
 茜  「非常識です」
 私  「真夜中に女の子を家から放り出す方が非常識だと思うが?」

 詩子 「あんたが送って行けばいいだけでしょうが!」
 私  「Limが私に家の場所知られるの嫌がってねぇ
     で、夜が明けて人通りが多くなってから帰ってもらったわけだ」

 Lim「危ない人には住所なんて教えられないもの」
 茜  「本当にそれだけですか?」
 Lim「本当にって?」

 詩子 「昔こいつに住所を教えたばっかりに・・・・
     高利貸しのダイレクトメールは舞い込むは
     妖しいビデオのチラシで新聞受けがいっぱいになるわ
     保険のオバちゃんの団体さんに襲われるわで散々な目に遭った人がいるのよ」
 私  「誰だよ・・・・そいつは?」

 詩子 「そういや あんた小遣い稼ぎに中学の卒業アルバム売ったんだって?」
 私  「それは・・・・詩子だろ?」
 詩子 「あら? いったい何の事かしら?」
 茜  「話がそれています」

 詩子 「えっと 小遣い欲しさにあいつがリムさんを大陸に売り飛ばしたって話だったけ?」
 Lim「私は・・・カラユキさん?」

 詩子 「アカネがあいつとリムさんとの情事を覗いたって話だったけ?」
 アカネ「私は覗きなんてやってない」

カラカラと他愛のない話を続ける私達に1人の少女が近づく

 少女 「ちょっといいかしら?」
 私  「宗教関係の勧誘ならお断りだけど」
 少女 「・・・貴方ハ神ヲ信ジマスカ?・・・・じゃない!」

 詩子 「なんか やけにノリのいい子ね 知り合い?」
 Lim「私は知らない・・・里村さんは?」
 茜  「私も知りません」

 詩子 「あんた達の学校の子よね?」
 アカネ「うん ウチの制服・・・3年生?」
 詩子 「なに? あいつ年上にまで手を出したの?」

 少女 「悔い改めなさい!」
 私  「・・・・おたくのとこは 一応神道じゃなかった?」

 詩子 「やけに親しそうだけと 茜ほんとに何も知らないの?」
 茜  「そうは言われても・・・」

私と少女との会話に割って入る詩子

 詩子 「盛り上がってるとこ悪いんだけど その子あたし達に紹介してくれないかな?」
 私  「神代・・・・・えーと、どっち?」
 少女 「ちはや 神代ちはやです」

 詩子 「じゃ ちはやさん こいつとはどーゆー関係?」
 ちはや「彼を退治しに来ました」
 詩子 「は??? 退治??? あんた ちはやさんに何したの?」

 私  「何も・・・・第一今が初対面だけど・・・・・・」
 詩子 「??? あんた・・・・見ず知らずの女の子と漫才してたの?」
 私  「”見ず”は正解 でも・・・”知らず”じゃない」
 詩子 「なによそれ?」
 
 Lim「あ・・・・もしかしてネットの人?」
 私  「正解 僧侶系のキャラやってる ま、巫女さんね
     大体のプロフィールは聞いてたけど 現実に会うのは今がはじめて」

 ちはや「・・・・・」
 詩子 「つまり・・・・リムさんのお仲間」

ジト目でちはやとLimを交互に眺める詩子 詩子の雰囲気に圧倒されるちはや

 ちはや「うぅ・・・き、今日のところは、み、見逃してあげるわ・・・・・」
 私  「”見逃す”って言われても 悪さは何もしてないけど」
 ちはや「あなたの存在自体が許されないの!」

 詩子 「リムさん こーゆー”成りきり”の事なんて言うんだっけ?」
 Lim「ロールプレイ・・・・ ただ 現実の世界でやる人は少ないけど」

Limもジト目部隊に加わってちはやを眺める

 ちはや「・・・・うぅ・・・」

詩子とLimの視線に耐え切れなくなったちはやがその場から立ち去ろうとする

 私  「ちはやさん 肝心な台詞忘れてるよ」
 ちはや「台詞?」
 私  「”おぼえてやがれ!!”」
 ちはや「っ!・・・・・」

ちはや顔を真っ赤にして退場

 アカネ「先輩 今の人・・・・・」
 私  「ああ 敵・・・・だな・・・・」

暗転

ネットゲーム 場末の酒場の雰囲気の漂う受付ロビー:
胡散臭そうな連中の中に戦闘服姿のLim(BGM:偽りのテンペスト)

 人待ちのLimに小さな女の子が声をかける

 少女 「おねーちゃん 暇でしか?」
 
 質素な魔道士の衣装を纏った少女はLimの返事を待たずに言葉を続ける

 少女 「おねーちゃんは冒険に付き合うでし」
 Lim「ゴメン 私 人待ち また今度誘ってね」
 少女 「うぅぅぅ・・・じゃあ それまで あたしとお話しするでし」

 Lim「なら 連れが来たら一緒にクエストやらない?」

そう言いながらLimは端末で少女のプロフィールを確認する・・・・
 [2nd:魔道士 レベルUnlimited]

 Lim「!っ あ、アンリミテッド?・・・限定解除キャラ・・・・・」
 少女 「あうぅぅ・・・・かってに覗くのはヤメテ欲しいでし」
 Lim「セカンドさん なんで・・・限定解除キャラがロビーでチーム探してるの?」
 2nd「だからぁ・・・ぷらいばしぃを覗くはよくないでし・・・・
     それとセカンって呼んで欲しいでし」

 Lim「プロフィールなんて公開情報じゃない それで文句言わなくても・・・・
     第一限定解除キャラとなんて遊べないよ・・・・
     瞬殺の上に殲滅だなんてゲームが成立しない」
 2nd「ただし、今回のクエストは別 クリアしたチームが皆無って事は
     当然限定解除キャラのチームでもクリア出来なかったって事さ」

 Lim「・・・・・もしかして・・・あなた・・・トライ?」
 2nd「せーかーい ぱちぱちぱち」
 Lim「・・・・・恥ずかしくないの?」
 2nd「このキャラで男言葉使う方が恥ずかしいよ
     それに 私とてこの程度のロールプレイは出来る・・・・」

 Lim「はぁ・・・取り合えずセカンって呼べばいいのね」
 2nd「おねーちゃん だーいすきでし」
 Lim「・・・つ・・疲れるわ・・・・じゃなんで そのキャラで来たの?」
 2nd「ファーストは技師でし だから戦力にならないでし サードはレベル低いでし」
 Lim「じゃ どーしてセカンは小さな女の子なの?」

 2nd「魔道士はHP少ないでし 身体の表面積減らして避弾性能を上げるでし
     でぇ1番小さいキャラが作れる魔道士がこの子だったでし」
 Lim「もういいわ・・・・なんか頭痛くなってきた」
 2nd「まぁ大変 おねーちゃん 回復魔法いるでしか?」
 Lim「い・ら・な・い・! さっさとクエストの受け付け済ませるわよ」

ロビーのカウンターでクエストの手続きをするLim Limと2ndがフィールドに転送される

夜の湖:Limと2nd(BGM:潮騒の午後)

 霧の立ちこめる森の中の湖 中天に満月
 ただ周囲の空中にいくつかのモニタウインドウが浮かび
 他のチームの様子を映している
 それとは別に 制限時間を示す電光文字がカウントダウンを続ける 89:28

 Lim「ネットに出てた攻略マップを見ると・・・・森を抜けた所に城があって
     城の地下ダンジョンを抜けてクリアらしいけど・・・・
     ラスボス前まで言ったチームはあっても みんなラスボスでやられいるみたい」

 2nd「そぉなんだぁ 極悪なボスなのでしね」
 Lim「ねぇトライ・・・・・真面目に聞いてる?」
 2nd「おねーちゃん 今日はその名前で呼んじゃヤダー」

ジト目で2ndを眺めるLim

 Lim「・・・・・これでも私は本名系のプレーヤーなんだけど・・・
     本名系の人がそう言うロールプレイを嫌っているの知ってる?」
 2nd「おねーちゃんだって普段から”Lim”のロールプレイやってるクセに」

 Lim「私は・・・ロールプレイをしてるんじゃない 遊びでLimをやってるんじゃない」
 2nd「そうね でも 遊びでさえロールプレイは嫌われるのにね
     現実の人はどう思ってるのかしら?」
 Lim「・・・それは・・」
 2nd「まぁ・・・それはそれとして 悩みがあるなら現実で聞くよ
     今日はあそぼーでし おねーちゃん」

 Lim「こらぁ! 口調を混ぜるな! 気色悪い!!」

バツが悪くなってキョロキョロと周囲を見回すLim

 Lim「そ、そ、そ、それにしても あのモニタは何?」
 2nd「きっと プレイヤーを煽るためのえんしゅつなのでし
     ”はやく行かないと他のチームにクリアされちゃうよー”って」
 Lim「あざとい演出ね」

 ガサガサと周囲の茂みが騒ぎワーウルフが出現(BGM:走る!少女たち)

 Lim「え? 転送ポイントなのにモンスターが出るの?」
 
柄の両側に刃の付いた両剣状の武器をワーウルフに突き立てる2nd
2ndの背中に500の緑色文字が表示され 2ndが3回斬り付けた所でワーウルフが倒される
 
その後4,5匹のワーウルフが現れるがLimと2ndの前に倒され 森は再び静寂に包まれる

 Lim「ねぇ 限定解除キャラって魔道士でも格闘戦出来るだけの攻撃力があるの」
 2nd「無いよ」

ポイっと自分の持っていた武器をLimに渡す2nd 武器のステータスを確認するLim

 Lim「何よ・・・この 攻撃力−(マイナス)350ってのは?
     さっきダメージ500出してたよね? キャラの攻撃力が900近くあるの?」
 2nd「武器の攻撃力落とした分を命中に回してあるでし」
 Lim「????確かに命中は高い武器だけど・・・だからって何?」
 2nd「その杖の特殊攻撃がHP吸収なのでし HP吸収はプレイヤーの攻撃力も
     相手の防御力に関係なく吸収するでし 固定ダメージになるでし」

 Lim「防御力無視の固定ダメージ・・・・それに杖? これって杖なの?」
 2nd「そ、杖のモーションは隙が無いでし 反撃は受けないと思うでし
    (攻撃が)当たりさえすれば魔道士は単体格闘最強なのぉ・・・・でし」

 Lim「で・・・固定ダメージ狙いだから 必要の無い攻撃力を最低にして
     HP吸収の特殊攻撃を確実に当てるのに全部命中に回したの?
     それにしても・・・この杖単体で命中700超えてるのね
     キャラステータス、武器ステータス込みの銃士の命中だって400前後なのに」

杖を装備して2、3回素振りをした後に2ndに返す

 Lim「杖って言う割には戦士でも装備できるのね」
 2nd「ふぁーすとは ゆーしゅーな技師でし」
 Lim「はいはい、セカンちゃんは、限定解除でシーカー
     (弄る者:多重スキル所持キャラ:一応差別用語)だったのよねぇ」
 2nd「うみぃ おねーちゃんがいぢめるぅ」
 Lim「いじめてなぁい! トライその疲れるキャラはやめて・・・・・」

 2nd「うぅぅ おねーちゃんがいぢめるでし ・・・・いじいじ」

座り込んで地面に”の”の字を書き始める2nd(いちおーセカンの心象風景として)

 Lim「・・・・・なにか・・・変な気分になってきた・・・・・」
 2nd「おねーちゃん セカンの事 好きでし?」

上目使いにLimを見上げる2nd(BGM:追想)

 Lim「うぅぅ・・・・他の人のロールプレイなら平気
     でも・・トライのイメージが壊れるからやめて・・・・」

 2nd「壊してくれていいよ それで刹那が救われるなら」
 Lim「え?・・・なに?」
 2nd「Lim・・・自分を嫌うモノじゃないよ
     それと・・ロールプレイは嫌いなキャラには成りきれないよ
     お互い役者じゃないんだから」

 Lim「私は・・・・自分が嫌い Limは・・・明るくて元気なLimは私の理想
     トライはLimの事は好きよね? でも刹那の事は?」
 
 2nd「おねーちゃん セカンの事 嫌い?」
 Lim「トライふざけないで!!」
 2nd「セカンの事 嫌い?」
 Lim「・・・・嫌いなわけないじゃない・・・セカンはトライだもの・・・」

 2nd「刹那はLimだもの・・・」
 Lim「でも・・・トライは刹那の事は知らないでしょ?」
 2nd「去年は同じクラスだったよ」
 Lim「私が刹那だったのは、その前・・・知らないでしょ 昔の私の事」

 2nd「3月14日 私の中学の卒業式・・・・」
 Lim「何? え? 卒業式がホワイトデー?・・・・・」
 2nd「で、卒業式から一週間ぐらいだったかなぁ
     ふと立ち寄ったゲームセンターに異様な雰囲気出してた女の子がいてね
     結局その子を泣かせちゃったな・・・よかったんだか、悪かったんだか」

 Lim「・・・・・・トライ???・・・・・あのTesse使いが?」
 2nd「”いつかまたどこかで” やっと約束を果たせた・・・・ね」
 Lim「でも・・・・・あの時トライだって私の顔は見ていないのに・・・・」

 2nd「気が付いたのは昨日・・・・いや今朝か・・・
     Limがあの時の女の子と同じ雰囲気を出してたから・・・・・
     まったく人に人工呼吸しながら、死に場所探してるような
     雰囲気を出すもんじゃないよ・・・・・」

 Lim「あ・・・・でも・・・・・今朝は本当に死にかけたてかも・・・・
     トライに酸素全部吸い尽くされて・・・
     頭がボーっとして気持ちよくなってたし・・・・」

とLimが言いかけて いきなりダッシュし 湖との境界の見えない壁にぶつかったと思ったら
パパパと周囲に攻撃魔法を乱射する
(BGM:乙女希望)
 
 2nd「わぁ!でし おねーちゃんが・・・・こわれた? でし」
 Lim「あ〜〜っ! コントローラーに泪が!!」

今度はピョンピョンと周囲を跳ね回るLim 

 2nd「おねーちゃん(コントローラーの)水切りしてるでしか?」
 Lim「うぅぅ やっと(コントロールが)回復した」

飛び跳ねるのをやめて周囲をうろつきコントローラーの具合を確かめるLim
カウントダウンを続ける電光文字が74:16を告げる
空中表示されているモニタの他のチームの様子を見ている2nd

 Lim「トラ・・・えっとセカンちゃん クエスト諦めたんじゃ?」
 2nd「ん? 他のチームの様子をリアルタイムに見せつけるあざとい演出なんでしが
     でもぉ他のチームをセカン達の斥候に使えるでし」

 Lim「中ボスかしら みんな森の真ん中で足留めされてるのね」
 2nd「おねーちゃん 気が付いたのはそれだけ?」
 Lim「ん? 他に? 中ボスの割には・・・・やけに強い・・・・ぐらい?」

 2nd「先ず他のチーム キャラにステータス強化の魔法が掛かってないでし
     次に回復魔法の効きが悪いでし」
 Lim「僧侶系・・・・補助回復魔法が制限されてる?」
 2nd「せーかーい たぶん先に進むと他のキャラにも制限られてそうでし
     ショップも無さそうでし・・・手持ちのアイテムだけでクリアしろって事でし」
 Lim「クリアするのは無理って事?」
 2nd「だからぁ クリアしたチームが居ないんじゃないでしか?」

空中のモニタ上には森の中ボスに壊滅したチーム
中ボスを突破したチームの明暗が映し出される
     
 2nd「そろそろ セカン達も行くでし おねーちゃん」

なにやらブツブツと呪文を唱え始める2nd

 2nd「人の魂の底に眠る砕かれし夢のかけら
     その無念我が元に集い そして誘え
     我が血肉を糧とし 深淵の闇より 冥府の王を・・・・でし♪」

2ndの身体がブクブクと膨れ上がり
唇を血で濡らし真っ黒な身体でドラゴンにまたがり
2匹の蛇が絡み付く錫杖を持った悪魔に姿が変わる

 Lim「あはあはあは・・・セカンちゃん・・・また仰々しいモノに変身したわね」

悪魔出現と同時にLimの左肩に乗っている人魂 その人魂が口を開く

 人魂 「自分の身体を依代にしての悪魔召還なのでし」
 Lim「それで・・・魔法使った本人は人魂になってるわけ?」
 2nd「せーかーい じゃおねーちゃん行くでし」

 Lim「・・・・・・さっきの事・・・・何も聞かないのね」
 2nd「Limが泣いてた事? まぁ慰めに駆け付けてやれる訳でもないし
     今はこのクエストを楽しんでもらう方が建設的だと思う」
 Lim「そうね・・・・でも 泣いていたのはLimじゃなくて、刹那」

悪魔に身体を預けるLim

 2nd「そうか」

Limを抱きかかえた悪魔はふわりと舞い上がり森の中央に向かって飛び立つ
悪魔に抱かれると同時にLimのHPがみるみる減っていく

 Lim「な、なに?え? HPが??????」
 2nd「この悪魔の特性は、HPとMPが無制限でし・・・・・
     息には毒が混じってるでし・・・近寄ると敵味方関係なくHPが減るでし」

 Lim「わっわっわっ ちょっと降ろしてよ悪魔に抱かれたまま削り殺されたくない!!」
 2nd「そーゆーわがままな事言う おねーちゃんには・・・エイッ!」

2ndの掛け声と共にLimの頭上にキャラのステータス異常を示す
実に安っぽい矢の突き刺さったハートのシンボルが現れる

 Lim「は? チャーム(魅了)? なんでチャームが味方にかかるのよ?」
 2nd「だってセカンは限定解除の魔道士だもんなのでし
     これでおねーちゃんはセカンのモノでし」
 Lim「・・・・で 味方を魅了してなんか得があるの?」

 2nd「悪魔の吐息は敵味方関係無くHP削るでしが 自分のHPは減らないでし」
 Lim「悪魔が自滅したら話にならないから・・・・それはそうだろうけど・・・あれ?」

HPの減少が治まり、回復しはじめている事に気が付くLim

 Lim「HPが戻り始めた?」
 2nd「おねーちゃんは セカンのモノでし 悪魔の所有物でし」
 Lim「・・・・あはは・・・・HPの自動回復コンボ?」
 2nd「それだけじゃないのぉ・・・おねーちゃんのステータスをよく見て」

自キャラのステータスを確認するLim ・・・・攻撃力、防御力等のステータスが
通常値の5倍程に跳ね上がっている

 Lim「なによ???? このステータス???」
 2nd「おねーちゃんは悪魔に魅了されたでし 不浄の力を得たでし」
 Lim「でもステータス強化の魔法はこのクエストじゃ使えないんじゃないの???」
 2nd「だって・・・・チャームはステータス異常を起こす魔法でし
     チャームを回復しないとステータス異常は元に戻らないでし」

 Lim「は? で、チャームって回復は? 私、回復薬持ってないわよ」
 2nd「回復魔法に制限がかかってるこのクエストじゃ魔法じゃ回復できないと思うでし」
 Lim「・・・・・ははは・・・これだから限定解除キャラって言うのは・・・・」
  
そんなほのぼのとしたやり取りの中 悪魔は中ボスの待つステージへ到着する
(BGM:走る!少女たち)

 2nd「行くでし! セカンのおねーちゃん」
 Lim「そーゆーふーに言われるの 物凄く嫌」

なぜか”***ベア(熊)”と言う名前のゴリラ状の中ボスに 1人立ち向かうLim
悪魔は上空待機して観戦モードに入る

不意にハイジャンプしたゴリラがLimとの間合いを詰めそして必殺のゴリラパンチ放つ
Limを捉えるゴリラパンチ パンチをかわし切れなかったLimにガードエフェクトが走る

 Lim「まともに当ったのにノーダメージなの?」

パンチを振りきって技後硬直に入ってるゴリラ向かって
Limは両方の二の腕に装備した短剣で斬り付ける・・・・7桁のダメージ表示し絶命するゴリラ
(あのぅ・・・・いちおー僕にはベアって名前が付いているんですけど:ゴリラ談)

 Lim「は・は・は・・・・仮にもボスを一撃・・・」

笑顔が引きつっているLim(BGM:勝利のポーズ)

 2nd「よくやったでし それでこそセカンのおねーちゃんでし」
 Lim「こっちもなんかキャラ変わってるし」
 2nd「苦しゅうない ささ ちこうよれ」 
 
左肩の人魂をむんずと掴んでペシっと地面に投げつける(いちおーリムの心象風景として)

 2nd「貴様 主に向かって何をするか!」 
 Lim「このまま踏み潰してあげようかしら?」

右足を上げるLim Limの右足の影が卑屈に媚を売る人魂の上に垂れる

 2nd「うふっ あのね あのね おねーちゃん パンツ見えてるで・・・・」

げしっ! 最後の一言を口にする事無く人魂は通常の5倍のエネルギーゲインで踏み潰され
帰らぬ人魂となった・・・・・(いちおー互いの心象風景として)

 Lim「さてと」

モニタ上の他チームの進行状況を確認するLim

 Lim「ねぇ他のチームがステージボスに着くまで待つの?」
 
そう言いながら中ボスゴリラを倒して現れたワープゲートを潜り
次のエリアに向かう 電光文字が72:47を告げる

暗転

おそらくは何処かの剣道場:巫女姿のちはや(BGM:永遠)

板張りの床が穴だらけになっている道場で光の鉾を研いでいるちはや

 ちはや「悪突(あづき)研ぎましょか」

シャッ シャッ と鉾と砥石の擦れる音が不気味に響く

 ちはや「罪人(ひと)捕って悔いましょか」(ちはやさん間違ってます)

シャッ シャッ

格子戸の窓からこぼれる月明かりに鉾をかざし研ぎ具合を確かめる

ツツーッと鉾の刃に指先を滑らせた後 鉾を頬に当て優しく微笑む
鉾の柄には真新しい血痕が赤黒く浮かぶ

たおやかな月明かりに映える妖艶なまでのちはや

ネットゲーム 森 中ボスを倒したワープゲートの先:
悪魔が到着するのを待っているLimと人魂(BGM:ゆらめくひかり)

 Lim「セカンちゃんどうしたの?」
 2nd「・・・身体(悪魔)がワープゲート潜れないでし」
 Lim「クエストの制限?」
 2nd「はいでし ここからは魔道士も制限受けるでし・・・・召還魔法禁止でし」

 Lim「どうするの?」

 2nd「えーと・・・このまま、チャームで愛のバーサーカー(狂戦士)になった
     おねーちゃん1人でクエストを進めるか」

 Lim「・・・愛の狂戦士・・・・とっても嫌・・・・」

魅了中を表す矢抜きハートがクルクルとLimの頭上で回る

 2nd「悪魔召還を止めて・・・セカンも自分の身体に戻ってクエスト続けるかでし」
 Lim「そのどっちかよね? 私は独りになるのは嫌よ」
 2nd「ううん 3つ目の方法なのでし」

ポンとLimの肩から飛び降りる人魂
人魂の周りにどこからとも無くガシャガシャと機械部品が集まって人型を形成する

 2nd「マシンゴーレム(機械人形)黒揚羽でし」
 
背中に二つ折りのロングバレルキャノンと折りたたみ式の翼を携えた
2ndの容姿を忠実に再現した黒鋼(くろがね)の機体

 Lim「・・・・召還魔法は禁止じゃなかった?」
 黒揚羽「召還なんかしてないでし この場で組立てたでし」
 Lim「ファースト(技師)のスキルで?」
 黒揚羽「せーかーい おねーちゃん セカンに乗って」

翼を広げてホバリングを始めた黒揚羽はキャノンを伸張して飛行形態に変形する
変形した黒揚羽を跨ぐ様に腰掛けるLim
Limを乗せた黒揚羽は翼から粒子光を撒き散らし飛び立つ

 Lim「セカンちゃん 黒揚羽(変形ロボ)って世界観ぶち壊しにしてない?」
 黒揚羽「剣と魔法の世界でも 鳥さんも虫さんも羽ばたいて飛ぶでし」
 Lim「それが??? 何か??」
 黒揚羽「だからね この世界でも物理法則は有効 黒揚羽はイオンクラフトで飛ぶでし」

粒子光の尾を引きながら一路城を目指す黒揚羽

 Lim「これだから限定解除キャラはゲームバランスを崩すのよ」

地上ではLimのパーティの進行に呼応してモンスターが出現するが
黒揚羽はその頭上を飛び越えていく・・・・・
また時折進路上に仕掛けられたトラップが爆発する様を眼下に見下ろす
城の手前にステージボスのドラゴンが鎮座してプレイヤーの到着を待つ

中ボスからステージボスまでの間1戦も行っていないLimのパーティは
戦力を温存した状態でドラゴン戦に挑む
(BGM:走る!少女たち)

ドラゴンの正面より低空進入する黒揚羽 ドラゴンは鎌首を持ち上げ
ファイヤーブレスで黒揚羽の進路を蹂躙する

黒揚羽は砂塵を巻き上げ急上昇し 巻き上げられた砂塵が一斉に発光する
発光する砂塵の尾を引きながら上昇する黒揚羽はドラゴンの直上より急降下に入り
発光する尾の中を突き抜ける

 Lim「うぅぅぅ・・・上がったり下がったり・・・なんか3D酔いしそう・・・・」

尾の中の発光物質を全て翼に付着させた黒揚羽がドラゴンの頭上に迫る

 黒揚羽「どぉっかぁぁん!!」

掛け声と共に黒揚羽の翼が一段と眩く発光 ロングバレルが火を吹きドラゴンの翼を
撃ち抜き地面に着弾する 着弾により舞い上がった砂塵の中を突っ切り黒揚羽は
急降下の体勢から急上昇に入る

 黒揚羽「頭狙ったのに・・・照準が狂ったでしか? デスウエイトが増えてるでしか?」

着弾と急上昇で発生した大量の砂塵が一段と大きな光の尾となり上昇する黒揚羽

 Lim「ぷにゅるるる・・・ドライぃぃ ぎもぢわるいぃぃ・・・」
 黒揚羽「おねーちゃん 次決めるでし 我慢するでし」
 Lim「うっぷ・・・・ふぁぁぃ・・・うっぷ・・・」

ドラゴンの頭上で急降下へ移行する黒揚羽 振り落とされたLimが宙に舞う

 Lim「はえぇぇぇ〜〜〜」
 黒揚羽「デスウエイト排除完了でし」

光の尾を突き抜け翼に光を纏った黒揚羽がドラゴンに迫る

 黒揚羽「砂塵を固体電離し粒子ビーム砲の種とする開放型粒加速器
     黒揚羽の翼は飛行用ではなく空間粒子の収束器 そしてロングバレルは加速器
     人間サイズの機体にビーム砲を実装したファーストの傑作」

大気を電離したプラズマ雲が黒揚羽を包む 黒揚羽の後を追うように落下するLim

 黒揚羽「どぉっ・・・・くわわわああぁぁぁん!!」

2度目の咆吼と共に黒揚羽のビームがドラゴンの頭を貫く
黒揚羽は急降下の体勢から機体を起こし地面すれすれを飛行する
その翼には今の砲撃で使われずに残った粒子が光の斑模様となり尾を引く

鎌首を上げ怒りの叫びを上げるドラゴン
人型に変形し着地した黒揚羽の翼から残った発光粒子がパッと飛散する

             ごいん!

安っぽい音を立ててドラゴンに雪崩式フェイスクラッシャーを決めるLim
(自分の顔潰してどーする?)

(BGM:勝利のポーズ)

どっさぁ! っと崩れ落ちるドラゴン LV83にレベルアップするLim

 黒揚羽「おねーちゃん レベルアップおめでとぉ」

ロングバレルを折りたたみながら振り返る黒揚羽

 Lim「・・・・よくも私をドラゴンにぶつけてくれたわね!」
 黒揚羽「今のおねーちゃんドラゴンよりも防御力もHPも上でし」
 Lim「だからって・・・・ううぅ まだなんか 気持ち悪い
     トライ・・・あんなに激しく動いてよく3D酔いしないものね」

 黒揚羽「セカンレーダーしか見てないもん」
 Lim「レーダーって・・・・ただのマップ表示じゃ・・・・」
 黒揚羽「おねーちゃん ノリが悪いでし」

 Lim「あ・・・そ・・・じゃ なんでドラゴンにトドメ刺さなかったの?
     ビームの出力落としてたでしょ? パワーもかなり残してたみたいだし」
 黒揚羽「それは・・・おねーちゃんにトドメを刺して貰いたかったから
     ドラゴンを死なない程度に弱らせて・・・・・」

 Lim「私の方がキャラのレベルが低いから?
     トライは今小さな女の子のロールプレイをしてるんじゃないの?
     まったく・・・・ノリが悪いのはどっちかしら・・・・」
 黒揚羽「あの・・・・・」
 Lim「何?」
 黒揚羽「Lim ゴメン・・・と、と、と、取り合えず幼女に化けている
     老婆のロールプレイと言う事で」
 Lim「・・・・また・・・妖しげな・・・」

 黒揚羽「おねーちゃん セカンにひれ伏すでし!!」

ごっ!! また5倍のエネルギーゲインで・・・・・

電光文字が68:03を告げる 暗転

おそらくは何処かの剣道場:巫女姿のちはや(BGM:永遠)

格子戸の窓からこぼれる月明かりの中 光の鉾を持って舞うちはや

シュッっと振りぬかれた鉾から水滴のような光の飛沫が舞う

その飛沫が板張りの穴の中に消える(板張りの穴をクローズアップ)
カメラは板張りを舐めるように移動して道場の神棚の下を映した位置で静止

恍惚とした表情で画面を踊りながら横切るちはや

神棚の後ろに大きな岩の映像を重ねながらゆっくりと暗転

ネットゲーム 城:
石造りの通路を進むLimと黒揚羽(BGM:雨)

 Lim「あうぅぅ・・・ステータスが全部半分になった・・・セカンちゃんはどぉ?」
 黒揚羽「セカンはへーきでし」
 Lim「今度は戦士の番って事? でも魔道士のステータス減らないのはどうして?」
 黒揚羽「たぶんセカンがここに居ないからでし」
 Lim「????居るじゃない・・・・ここに」

 黒揚羽「セカンはゴリちゃんの所で足留めされてるでし・・・・ね」
 Lim「じゃぁ・・・・黒揚羽って・・・・」
 黒揚羽「無敵のオプションでし!」
 Lim「・・・・本体を安全な所に置いて無敵のオプションだけで先に進むなんて」
 黒揚羽「えぐえぐ・・・好きで足留めされたんじゃ無いのにぃ・・・
     おねーちゃんひどいでし・・・・・」

黒揚羽の翼が開いて粒子光を上げる
背中のロングバレルを腰の横から振り出して腰溜めの体勢で撃つ
真紅のビームが薄暗い通路を照らす
そのビームが一瞬弾けて通路の闇に消える
闇の中モンスターのダメージを示す白数字と取得経験値を示す紫数字が続けて表示される

 Lim「暗いのによく判るわね」
 黒揚羽「セカンのレーダーからは逃げられないでし」

頭上のモニタを見上げるLim

 Lim「無茶なショートカットするから 私達の方が先行しちゃったみたいね」
 黒揚羽「90分のクエストなのにぃ そろそろ30分なのにぃ
     みんな森で迷子になってるでし」
 Lim「つまり・・・・限定解除キャラがチームに居ないと時間が足りないって事?」
 黒揚羽「それで毎月毎月賞金が繰り越されていくでし」
 Lim「賞金を払わずに話題だけが盛り上がる・・・・・・はぁ・・・」
 黒揚羽「とっても大人の小賢しさが す・て・き」
 
時折真紅の閃光を放ちながら少女達の古城散策は続く

 Lim「あのぉ・・・私も経験値欲しいんですけど」

遠距離レーダーに捕捉すると同時にモンスターを狙撃する黒揚羽を非難するLim

 黒揚羽「おねーちゃん さっき言ってる事が違うでし」
 Lim「違うって?」
 黒揚羽「おねーちゃんはセカンに”女の子らしくしなさい”って言ったでし」
 Lim「???さっきトライに”女の子のロールプレイをちゃんとやって”って言った事?」
 黒揚羽「そーでーす セカンはわがままで欲張りな子なのでし」

 Lim「は・は・は・は」

乾いた笑いと共に眉間をひくつかせる(いちおーリムの心象風景として)

 Lim「セカンちゃーん そういういけない子にはお仕置きぃ・・・・」

Limを上目使いに見上げている黒揚羽 

 黒揚羽「おしおき・・・へへ おねーちゃん やさしくしてね」
 Lim「ぐ・・・ぁ この子がトライだって思ったら 変な気分になるよぉ!」

ジーっとLimを見上げている黒揚羽

 黒揚羽「おしおき・・・まだ?」
 Lim「トライ・・・・今から家に来てくれない? 刹那がトライに逢いたがってる」
 黒揚羽「あのぅ・・・Limさん?」
 Lim「あははは・・・・昨晩のキス思い出しちゃった」
 黒揚羽「”家に来て”って言われても 私はLimの家を知らないんですけど・・・・・」
 Lim「うん・・・判ってる 言ってみただけ・・・ただ・・・」
 黒揚羽「ただ?」

 Lim「・・・・独りは・・・・淋しい・・・・ってさ」
 黒揚羽「刹那が?」
 Lim「うん・・・・やっと・・・・素直に”淋しい”って言ってる」

薄暗い古城の中 真紅の閃光が走る 一瞬閃光が弾けて・・・・・

 Lim「だから私にも経験値まわしてよぉ」
 黒揚羽「経験値が欲しいでしか? ならボスはおねーちゃんにまわしてあげるでし」
 Lim「私はトライと一緒にゲームをやりたいだけ・・・・だから
     自分独りでゲームをしないで 私独りにゲームをさせないで」

 黒揚羽「えーとぉ そーゆー事なら フィールドモンスターの殲滅はセカンに任せるでし
     ボスはおねーちゃんお願いするでし」
 Lim「だから そういうのをヤメテって言ってるの」
 黒揚羽「これが時間制限の無いクエストじゃなかったら セカンだっていい子にするでし
     おねーちゃんに捨てられたくないでし」
 Lim「ん?????」
 
 黒揚羽「どこにモンスターが出てくるのが判らないフィールドでは射程が長いセカンが有利
     ボスとのタイマンならバーサーカーのおねーちゃんの方が有利
     悪平等することが ちぃむぷれいじゃ無いでし」
 Lim「うっ・・・正論ポイ事言うわね」
 
 黒揚羽「ステータスを半分にされても 元々5倍でし
     1撃死するボスが2撃死するだけでし どっちにしても1コンポ持たないでし
     それに・・・・・」

ピロロぉ と言う電子音と共に巨大なモグラのようなモンスターがLimの隣に出現する
Limの一閃にモグラが断末魔の悲鳴を上げる

 黒揚羽「人型形態のビームは飛行形態より空間粒子の収束に時間がかかるでし
     だから おねーちゃんの方が攻撃の初動時間は短い
     敵がショートレンジに出るなら おねーちゃんの仕事でし・・・・・適材適所でし」
 
 Lim「適材適所って・・・・もっと気楽にゲーム出来ないの?」
 黒揚羽「このクリア条件がシビアなクエストで?
     ここ抜けてもラスボスまで1ステージ残ってるのに?
     ゲームは遊びですって? その遊びで生計立ててる人に言われたく無いわ!」

 Lim「・・・・・セカンちゃん・・・・また・・・キャラ変わってる・・・・・」
 黒揚羽「きゃぁ・・・・どういたしましょう・・・・・これは困りましたわ」
 Lim「・・・・・」

真紅の閃光がまた薄暮を貫く

 Lim「・・・・・はぁ・・・・」

城の最深部 地下水路に面した船着場:(BGM:海鳴り)

 黒揚羽「ボス ボスですわ おねーちゃんのふらすとれぇしょんを発散する時が来ましたわ」

チラリと残り時間を示す電光文字を見上げるLim

 Lim「・・・・まだ1時間近く残ってる・・・・城を抜けるのに10分かかってない」
 黒揚羽「セカン達がゆーしゅーだからですわ」
 Lim「反則キャラがチームに混じってるだけ・・・・
     他のチームはやっと森を抜けたあたりなのに」

 黒揚羽「ひどいですぅ セカンは反則じゃないですぅ」
 
 Lim「さてと・・・・」

手持ちの武器を範囲攻撃用の長柄武器に持ちかえるLim 

 黒揚羽「無視しないでくださぁい」

T字の長柄の先端にスコップが付いた長柄武器

 Lim「それにしても、この武器いったい何に使うのかしら?」

ブツブツと呟きながら船着場に係留されたイカダに乗り込む
Limの後を追ってイカダに渡る黒揚羽

 黒揚羽「プスっと刺して T字の柄をクルっと回すと円筒状に肉が削げ落ちるでし
     こんな形に傷が出来ると塞がりにくいでし
     スコップに馬糞を塗っておくと塞がらない傷が腐って破傷風になるでし」

 Lim「・・・・・はぁ・・・・そんな生々しい解説はしないで」
 黒揚羽「でも武器とはそういうものでし」

黒揚羽が乗りこむとイカダは地下水路を下り始める
巨大なムカデ状のボスがイカダの周囲を泳ぐ
(BGM:走る!少女たち)

 黒揚羽「すてーじボスの登場でし」
 Lim「で・・・このボスも瞬殺されるわけ?」

自分の頭の上でクルクルと回る矢抜きハートをうんざりとした面持ちで見上げる
そんな中 ボスがイカダの縁に乗り上げる

ボスに向かって走り込むLim ボスの触手がLimを捉える
Limはボスの攻撃をモノともせず武器を振り上げる
武器を振り下ろすLim がLimの攻撃が届くよりもはやく
イカダの縁を離れたボスは水路に戻る

 黒揚羽「もびるすぅつの性能が戦力の決定的差ではないことを教えてやるでし」
 Lim「・・・・・・・」
 黒揚羽「当らなければどうという事はないでし」
 Lim「・・・・味方に・・・・言うな・・・・・」

イカダに併泳(?)しながら飛び道具を放つボス 

 黒揚羽「落ちろ! 落ちろ! 落ちろ! でし」

 Lim「くっ・・・なら・・・MPも精神力も2.5倍なのよね?」

攻撃魔法の詠唱に入る・・・・・が・・・・ぷすっと不発に終わる

 黒揚羽「なんじゃくものぉ! でし」
 
 Lim「魔法禁止? 銃しか通用しない?・・・・ちょっとセカン ビームで・・・」
 黒揚羽「ボスはおねーちゃんのエモノでし」
 Lim「・・・・判ったわよなんとかすればいいんでしょ?」

武器を短剣に持ちかえるLim

 黒揚羽「血迷ったかぁ! でし」
 Lim「何とでも言いなさい」

再びイカダの上に乗り上げるボス
Limはボスに駆け寄り攻撃モーションに入る
Limの攻撃が届く前にイカダより離れるボス

 黒揚羽「このままタイムアップまで粘れば勝負あったでし」

ボスの飛び道具を掻い潜りタイミングを計るLimが攻撃モーションに入る
Limの舞がイカダに乗り上げたボスを掠める 
ボスの受けたダメージを示す7桁の白数字が表示されボスの甲羅がバラバラとはげ落ちる

 黒揚羽「オヤヂにだって殴られたことはないのにでし」
 Lim「先ずは第一形態撃破・・・・
     どぉ? イカダに乗り上げた瞬間を狙えば逃げる暇は無いはずでしょ?」

イカダに併泳する第二形態ボスの飛び道具が苛烈を増す

 黒揚羽「卑怯ものぉでし ゆるさんぞぉでし」

そしてバチバチっと電気回路のショートする電子音で地下水路の明かりが消える
イカダの後方で鎌首を持ち上げ紫色のビームでイカダの上を薙ぎ払うボス

 Lim「このビーム・・・固定ダメージ攻撃のはずよね? HP殆ど減らないじゃない」

本来ならHPの半分程度は削るボスの固定ダメージ回避不能攻撃
(HPが低いと更に1撃死のオマケまで付く)も2.5倍のHPの前には効果が無い

 黒揚羽「蚊が刺した程にも感じぬわぁでし」
 Lim「・・・・その口調で喋るのはボスの台詞だけにして」
 黒揚羽「小娘がいきがるなぁでし」
 Lim「・・・・・・・・」

ビーム攻撃の後再びバチバチっと電気回路のショートする電子音で地下水路の明かりが点く
イカダと併泳するボスがイカダに乗り上げる瞬間に呼応して攻撃するLim
再び7桁のタメージ表示をして断末魔の悲鳴を上げるボス

 黒揚羽「おぼえていろぉでし いつかきっと仕返ししてやるでし」
 Lim「・・・・はぁ・・・・」

ボスを倒した後も地下水路を下り続けるイカダ(BGM:ゆらめくひかり)

 黒揚羽「このままラスボスの所まで続いているのかな?」

地下水路の水面を薙ぎ払う真紅の閃光
噴き上がる水柱の中に白数字と紫数字が浮かぶ

 Lim「だから・・・・私にも・・・経験ちぃ」
 黒揚羽「おねーちゃんが雑魚を始末するでしか?
     なら、おねーちゃんにまかせるでし」

地下水路の水面を魚群がイカダと併泳する

 Lim「剣じゃ・・・届かない」

そのうち魚達からの雷撃が始まる

 Lim「くっ・・・とことん戦士を馬鹿にしたステージね」
 黒揚羽「お魚さんは雷の魔法使ってるでし おねーちゃんも魔法使うでし」
 Lim「???魔法禁止じゃないの?」
 黒揚羽「きっと攻撃魔法禁止はさっきのボスだけでし」

指先から火の玉を発射する黒揚羽 火の玉が水面に飛び上がった魚を捕らえる
 
 黒揚羽「お魚さんの丸焼きでし」
 Lim「は? 魔法を使うロボット?」
 黒揚羽「セカンはセカン言うでし セカンは魔道士でし」
 Lim「・・・・・・はぁ・・・とっても可愛いわよトライ」
 黒揚羽「だからぁ 今日はセカンと呼んで欲しいと言ってるでし」

Limを中心に炎の渦がまきおこる

 Lim「範囲攻撃の魔法はこれが一番攻撃範囲が広かったよね?」
 黒揚羽「全体攻撃の魔法は使わないでしか?
     今のおねーちゃんは その辺の魔道士よりも強いでし」
 Lim「私は戦士 魔法はあくまでサポート用」

2人の会話の中ゆっくりと広がる炎の渦が魚群を焼き尽くす

 黒揚羽「雑魚倒してもたいした経験値にはならないでし
     最短時間でボスまで行ってボスだけ倒した方が効率のいい経験値稼ぎになるでし」

イカダの中央から赤い衝撃波が周囲に広がる 衝撃波が新しく出現した魚群を薙ぎ払う
Limと黒揚羽の炎の競演がイカダの上で繰り広げられる 

おそらくは何処かの剣道場:巫女姿のちはや(BGM:永遠)

珠の汗を舞い散らせながら 光の鉾を身体の前にかざすちはや
鉾から飛散する光の飛沫が珠の汗に映える
緩やかに明滅する鉾・・・そしてその柄に赤黒い染みが浮かぶ

恍惚とした表情のままちはやが呟く

 ちはや「・・・・・ぶ・・・ちょぅ・・・・・」

道場の影でちはやを伺う男

 男  「気にするな 正義の為の尊い犠牲だ」
 ちはや「ええ そうね でも・・・・この染みが消えないの」
 男  「それは お前の心に迷いがあるからだ」
 ちはや「迷い?」

 男  「ちはやよ闇を討て」
 ちはや「はい 兄さん」

道場の天上を見上げる男

 男  「けど・・・・迷うから人間なんだけどな」
 ちはや「兄さん?」
 男  「あ・・・・今のは聞かなかった事にしてくれ 俺にも立場というモノがある」
 ちはや「兄さん・・・・私は間違ってた?」
 男  「正しい事さ そう、何よりも・・・・絶対的に正しい事だったさ」

 ちはや「私を見て」

巫女装束の背中から真っ白な翼を広げるちはや

 男  「ちはや綺麗だよ」
 ちはや「そう言ってくれるのは兄さんだけ・・・・私は正しかったのよね?」

 翼で自分の身体を包み込むちはや

 ちはや「私は正しい
       ・
       ・
     私は正しい
       ・
       ・
     私は正しい
       ・
       ・
     私は正しい
       ・
       ・
       ・
       ・」

 男  「・・・・俺の・・・・立場か・・・・」

暗転

ネットゲーム 地下水路:
Limと黒揚羽(BGM:オンユアマーク)

地下水路の突き当たりワープゲートの前に停泊しているイカダ

 Lim「情報ならこの先がラスボスね」

空中に表示されているモニタを見上げるLim そして残り時間を表示するカウンタを確認する

 Lim「28:53・・・30分ちかく地下水路を流されたのね」
 黒揚羽「逆に言うとでし 1時間以内に城を抜けないと水路でタイムアップなるでし」
 Lim「つまり・・・他のチームはみんなタイムアップ・・・」

もう一度モニタを見上げてため息をひとつ

 Lim「・・・・・はぁ・・・・・」
 黒揚羽「おねーちゃん負け犬はほっといて行くでし」

ワープゲートの中に入る黒揚羽 

 Lim「みんなヤキモキしながら地下水路で終わるのね・・・・」

Limがワープゲートに入り2人がラスボスステージに転送される 

おそらくは何処かの剣道場:巫女姿のちはやと男(BGM:永遠)

 ちはや「私は正しい
       ・
       ・
     私は正しい
       ・
       ・
       ・
       ・」
 男  「ちはやすまないな 俺が贄になる筈だったのに」
 ちはや「いいえ正義は何よりも大事です 誰が儀式に捧げられても関係ありません」
 
パッと翼を広げるちはや

 男  「永遠(とわ)・・・・すまない」

広げられた翼から光の粒が飛散する

 ちはや「兄さん永遠は死にました・・・・・永遠は部長と一緒に死にました」

ちはやは愛おしそうに鉾の柄に残る赤黒い染みに指を這わす

 ちはや「ちはやが突き刺したのは・・・部長の心臓と永遠の心・・・気持ち」

恍惚とした瞳で天井を見上げるちはや

 ちはや「だから・・・私は正しいんです
     そうじゃないと 部長も永遠も浮かばれません」

目を伏せるちはや

 ちはや「それが部長でなくても・・・兄さんでも同じです
     ・・・・・でも・・・・兄さんじゃなくてよかった
     もしも・・・兄さんだったら・・・私・・・独りになってた」

鉾の柄 赤黒い染みの上を伝うモノが床を濡らす

 ちはや「・・・・部長・・・・・・」
 男  「永遠・・・・」
 ちはや「わた・・し・・・いえ ちはやは絶対に正しくなくちゃいけないんです」
 男  「永遠!」

暗転

ネットゲーム ラスボスステージ: Limと黒揚羽(BGM:走る!少女たち)

なんとも形容のし難いラスボス・・・・あえて表現するなら

三菱上に並んだ3匹のナメクジの上に・・・・・・
孔雀の羽を装備したリオのカーニバルのダンシング・サンバ・オネーチャン
彼女の上半身を乗せた様な   おぞましく・・・・そしてケバゲバしいラスボス

 Lim「デザイナーのセンスを疑いたくなるラスボスね」
 黒揚羽「このゲームのメーカーはセンスが無い事で有名でし  のーてん直撃でし」
 Lim「なに? それ?」
 黒揚羽「ゲームが面白くないのはハードのせいでし」
 Lim「だから なに?」

 黒揚羽「このゲーム作ったメーカーのキャッチコピーでし
     ほんとに・・・・センス無いでし・・・・・
     だから ゲーム機市場から撤退したでし
     ごんごどーたんでし じごーじとくでし 」

黒揚羽の罵詈雑言に怒りの咆哮を上げるラスボス そして最終決戦がはじまる

 Lim「セカン援護して」
 黒揚羽「わかったでし」
 
短剣を両手に装備したLimがステージ中央のラスボスに突っ込む
黒揚羽は黒鋼(くろがね)の翼を広げロングバレルを腰溜めに振り出す
黒揚羽の周囲が発光しそして 広げられた翼に集約され
ロングバレルより放たれる真紅の閃光

真紅のビームは突進するLimの肩口を掠めラスボスを捉える
しかしボスにはダメージを与えていない事を示す0の白数字が表示される

 黒揚羽「物理攻撃耐性でしか? ならばでし」

黒揚羽の詠唱と共にラスボスの頭上を雷(イカヅチ)が襲う
しかしこれも0ダメージに終わる

 黒揚羽「うむむむ・・・・・」

火の玉 氷槍 光弾 岩銛 闇風  火 水 光 地 闇 そして最初の雷
全ての魔法攻撃が0ダメージに終わる

 黒揚羽「物理攻撃耐性の上に魔法攻撃耐性でしか・・・」

駆け込むLimの短剣がラスボスを斬り付ける が、黒揚羽のビームと同様に0ダメージに終わる

 Lim「陰険なボスね」

バックステップでラスボスとの間合いをとりなおすLim

 黒揚羽「おねーちゃん 武器をスコップに換えるでし」
 Lim「換装しても (ダメージが)0行進なのは一緒でしょ?」
 黒揚羽「スコップには馬糞が塗ってあるでし スコップの特殊攻撃は
     毒を伴なった地属性の物理攻撃でし」

 Lim「特殊攻撃すればいいのね」

武器を長柄スコップに持ち換えて、間合いをつめラスボスに斬り付けるLim
Limの攻撃に30の白数字が表示される

 黒揚羽「属性付きの物理攻撃はゆーこーでし」
 Lim「でも(ダメージが)30ぽっちじゃ 0行進と変わらない」

ラスボスの反撃 サンバ・ネーチャンの孔雀の羽(触手とも言う)がLimに向かう

 Lim「シールド!」

物理攻撃耐性の呪文を唱えるLim が・・・ぷしゅぅと情けない電子音と共に不発に終わる

ドカ!っ 孔雀の羽を食らったLimのHPが4800減らされ
ステータスの表示色が危険を示す赤に変わる

 黒揚羽「ヘルメット(チャームの状態異常)が無ければ即死だった でし」

相変わらずな黒揚羽

 Lim「回復 回復・・・・・」

しかし、回復魔法もぷしゅうと・・・・不発に終わる

 Lim「くっ・・・・」

孔雀の羽の攻撃範囲外に逃げようとするLimに孔雀の羽が連続して襲う
体(たい)を左右にさばいて羽を回避するLim

 黒揚羽「おねーちゃん 戻って来るでし」

羽をさばきながら黒揚羽の方へ向かうLim

 Lim「なによ このステージ補助回復魔法 全面禁止なの?」
 黒揚羽「よく逃げながらキーボード使う余裕があるでし」
 Lim「ダメージ量はともかく攻撃パターン自体は単調だから」

黒揚羽の影に逃げ込むLim 羽は黒揚羽の機体を打ち付ける

 Lim「セカン あれ食らってよく無事でいられるわね」
 黒揚羽「黒揚羽は無敵のオプションでし セカンの本体は森で足留めされたままでし」

キン! キン! と黒揚羽の機体を打ち続ける孔雀の羽

 黒揚羽「それにしても、うっとーしいでし あくちぶ・しぃるど でし」

黒揚羽の前面に光の波紋が広がる その波紋を打ち付けた羽にダメージを示す2000の
白数字が表示される

ラスボスは羽による物理攻撃から、魔法攻撃に切り替えるものの光の波紋に阻止される

 Lim「あのさ・・・・補助回復系は禁止じゃないの? HP回復魔法すら使えないのに
     なに? その凶悪なシールドは? 物理耐性と魔法耐性の両方持ってるの?」

ピロロっとLimは回復薬を使ってHPを回復する

 黒揚羽「あくちぶ・しぃるどは攻撃魔法でし 相手の魔法に反属性の魔法を重ねて
     相殺するを目的にするでし 更にしぃるど自身を相手にぶつける
     しぃるど・あたっくは全属性物理攻撃でし
     だからラスボスはもう羽は使わないでし」

 Lim「自分からアクティブ・シールドに攻撃しかけてダメージ受けたのね
     それでボスは魔法攻撃に切り替えたのね・・・・それで?
     シールド・アタックでボスを倒す気?」

 黒揚羽「セカンのおねーちゃんをいぢめたボスは許してあげないでし
     黒揚羽の最終へーきでしかえししてやるでし 花弁展開でし!」
 Lim「・・・・はぁ・・・・」
(BGM:勝利のポーズ)

黒揚羽の正面に花びらの様な板が同心円状に展開される
その中心にプカプカと呑気に浮かんでいる円筒形状の物体

 Lim「これが・・・最終兵器????・・・何も起きないじゃない」
 黒揚羽「発射まで10分かかるでし」
 Lim「10分????? それにプカプカ浮いてるあれは何?」

 黒揚羽「あれはボムトラップの一種でガンバレル言うでし
     ガンバレルが爆発するのに10分かかるでし」
 Lim「”頑張れる”?」

 黒揚羽「広島型原爆と言った方がいいでしか? 核爆発のえねるぎぃに
     周囲の制御板を使って指向性を与える つまり核パルスエンジンを
     武器に転用したのが黒揚羽の最終へーき”赤き水銀の華”でし」

 Lim「発射に10分かかるって?」
 黒揚羽「破壊力の大きなボムトラップほど設置してから爆発するまでに時間かかるでし
     ガンバレルは10分、爆縮レンズなら15分、水爆なら20分 
     純粋水爆なら30分かかるでし」
 Lim「ふーん爆発まで10分ねぇ  それで 私に10分間ぼーっとしてろって言うの?」

ピコ 電子音と共に緑色のアイテムボックスが黒揚羽の足元に現れる

 黒揚羽「おねーちゃんにあげるでし 使って欲しいでし」

アイテムボックスを確認するLim”アクティブ・シールド”と表示される
 Lim「魔道書?・・・・アクティブ・シールドの?」
 黒揚羽「はいでし」
 Lim「使用条件は?」

 黒揚羽「今のおねーちゃんの精神力なら大丈夫でし きっと覚えられるでし」
 Lim「今の精神力って・・・ちょっとこれどのくらいMP消費するの?」
 黒揚羽「1秒間に500でし」
 Lim「500って・・・今のMPでも5秒持たないって事? 使い物にならないわ」

 黒揚羽「些細な事でし」
 Lim「些細って・・・・セカン 毎秒500削られて よくMPが無くならないわね」
 黒揚羽「悪魔召還してる間はセカンのMPは無制限でし」
 Lim「はいはい ごちそうさま どっちにしろ使えない魔法は要らないわ」

 黒揚羽「わがままなおねーちゃんでしね こっちはどーでし」

ピコ 二つ目のアイテムボックスが黒揚羽の足元に現れる

 Lim「なに”アクティブ・シールドEZ”?」
 黒揚羽「廉価版でし 省エネ版でし そぞーらんぱつ版でし」
 Lim「で・・・わざわざ出して来た意味は?」
 黒揚羽「物理攻撃耐性は無いでし 魔法攻撃耐性は70%しか防御できないでし 
     30%のダメージは確定でし 使えるものなら使ってみろでし」
 Lim「シールド・アタックは?」
 黒揚羽「オリジナルの様な範囲攻撃にはならないでし、手持ちの武器に全属性をつけるでし」
 Lim「MPの消費は?」
 黒揚羽「1秒間に5でし 範囲効果を単体効果に変更して消費MP下げたでし
     射程0の単体攻撃魔法はMPコストが安いでし」

 Lim「・・・・・使えるじゃない 相手の武器に自分の武器を当てれば
     物理攻撃耐性と同じ効果になって、更に全属性攻撃のダメージも追加でしょ?」
 黒揚羽「しかしですね おじょー様にはこんなバッタものより
     ブランドモノの方がお似合いでし・・・・・・・」
 Lim「・・・・はぁ・・・それが言いたくて・・・・先にオリジナルを出したのね
      あ・り・が・た・く EZ版の方を頂くわ」

 黒揚羽「このぉ! びんぼーにんは一昨日くるでし!!」

ピロロぉ EZ版の魔道書を使うLim

 Lim「赤き水銀の華が発射される10分以内にボスを倒せれば・・・倒せばいいのね」

ピコっ ピコっ ピコっ 連続して黒揚羽の足元に幾つかのアイテムボックスが現れる

 黒揚羽「手持ちのMP回復薬全部でし それと赤き水銀の華は元がボムトラップだから
     敵味方の区別が無いでし 射線上に居ると巻き添え食らうから注意するでし」

 Lim「どうも」

MP回復薬を回収するLim

 Lim「核ってあのボスに通用するの? 物理攻撃耐性持ってるんでしょ?」
 黒揚羽「核には熱、放射線、衝撃波、突風・・・etcの複合作用があるでし
     衝撃波以外は有効ダメージになるでし 熱と放射線は特にキツイでし」

 Lim「ま、核が爆発する前に私が倒せばいいんだけどね」

アクティブ・シールドEZを発動して再びラスボスへ突っ込むLim
ボスの羽がLimを襲う羽に短剣を合わせるLim 羽の上に200の白文字が浮かぶ

 Lim「200? さっきは2000ダメージ出てたたよねぇ?」
 黒揚羽「だからEZ版なんでし ですからおじょー様にはプランド品をおすすめしたでし」
 Lim「ま、こっちは暇つぶしだからどーでもいいけど」

ひょいひょいとボスの攻撃をかわしながら200づつダメージを切り刻んでいくLim
そんな中・・・10分が経過し 1つのキノコ雲がラスボスステージに立ち上る
核爆発の衝撃を受けて制御板が後ろに吹き飛ばされラスボスステージ境界の見えない壁に
叩きつけられる

正面にはオーバーフローして文字化けした白文字がラスボスの受けたダメージ告げる

 黒揚羽「赤き華散る時・・・また誰かが天に召される・・・・・でし」
 Lim「・・・・まったく・・・・”核を使うと人が死ぬ”ぐらいにしときなさい」

天を見上げ咆哮を上げるラスボス ラスボスの身体がグスグズと崩れ始め
中から白い衣を纏った女性が現れる

 黒揚羽「ラスボスの第2形態でしか?」
 女性 「よくここまで来ました しかしここまでです」
(BGM:ゆらめくひかり)

ラスボスステージの背景が一面の花畑に変わる 女性は花畑の中央
何かの墓標とおぼしき場所に静かに腰掛けている
14:32 上空の電光文字がクエストの残り時間を告げる

 黒揚羽「ここで、長話をはじめてタイムアップするようなトラップはやめてほしいでし」
 女性 「いえ・・・・そのような事はありません 最後に私と戦ってただきます」
 Lim「あれ? この人誰かが操作してるの? 会話できるみたいだけど?」

 女性 「あなた方の戦い方は見せていただきました その全てを禁止させていただきます」

女性の言葉が終わると同時に2ndの姿に戻る黒揚羽

 2nd「あはは・・・無敵の上にHP/MP無制限はお気に召しませんでしか?」

頭の上の矢抜きハートシンボルが消えるLim

 Lim「あ・・・・・・・」

 女性 「私とは正々堂々と戦っていただきます」
 2nd「別に不正行為をしたつもりは無いでし 全部システムの許容内の筈でし
     システム管理者の想定外の使い方はお気に召しませんでしか?」

無言で2ndとの間合いを詰める女性 女性と2ndとの間に割り込み短剣で斬り付けるLim
女性の上にノーダメージを示す0の白数字が表示される

 2nd「おねーちゃん EZも禁止されてる?」
 Lim「EZは生きてるけど・・・・・」
 2nd「物理攻撃の属性耐性を持ってるでしか・・・・・」

一通りの攻撃魔法を女性に放つ2nd結果は全て0ダメージ

 2nd「魔法攻撃耐性も相変わらずでしか・・・・・」
 Lim「どうするの?・・・・・」

女性の放つ雷撃が2人を襲う 2ndの前面に展開した光の波紋が雷撃を阻止する

 Lim「オリジナルのアクティブ・シールド MP大丈夫なの?・・・・・」
 2nd「このゲームには面白い仕様があるでし・・・・
     時間単位でMPやHPを消費する特殊効果は時間と共にMPやHPが減るでし」
 Lim「それは・・・そうでしょ? そーゆーものでしょ?・・・・・」
 2nd「だから、時間が減らないと、MPもHPも減らないでし」

 女性 「!っ」

 2nd「だから、同一時刻内に発動して解除すれば 
     あくちぶ・しぃるどはMPを消費しないでし
     時刻が変化する1秒未満でのピンポイントなら無制限に使えるでし」

 女性 「不正行為は許しません!」
 2nd「不正と言うなら処罰してください それを、不正と判断できるのならば でし」
 女性 「ぐ・・・・・・・」

ライフルを振り出して女性を狙撃する2nd 上空に飛びあがって回避する女性
(技師のスキルを持っているので2ndはどの職業の武器でも装備可能)

 2nd「システム管理者は何でもありでしねぇ 魔法も物理も属性も・・・・
     全部の攻撃を無効にする耐性と・・・更に空まで飛ぶでしか・・・・・
     おねーちゃん あれを倒せる攻撃は3つしか無いでし
     即死の特殊攻撃と毒の状態異常と・・・・・・」
 Lim「HP吸収の特殊攻撃」
 2nd「でし」

Limに双剣状の杖 クエストのはじめワーウルフを倒した杖を渡す2nd

 2nd「あれの足はセカンが留めるでし おねーちゃんは存分に削り殺すでし」

上空を飛ぶ女性に向かってライフルを乱射する2nd 女性に当った弾は特殊効果発動失敗を示す
MISSの文字を表示し 女性に当らずに壁に当った弾は即死の特殊効果の発動を現す
紫色のモヤのエフェクトを表示する

 2nd「あんまり攻撃食らってると即死しちゃうかもしれないでし」

2ndの対空砲火に堪らず地上に降りて墓標の影に隠れる女性
女性に刃物を振りかざし襲いかかるLim(BGM:勝利のポーズ)

 2nd「勝負あったでし おねーちゃんとのプレイヤースキルの差は歴然でし」

女性を切りつけたLimの背中にHP吸収を示す500の緑数字が浮かぶ
しかしLimの2撃目、3撃目はMISSに終わる 1コンボの攻撃が終わって
Limが硬直している隙に Limの攻撃が届かない空中に逃げようとする女性

 2nd「あの杖の命中でもミスするでしか よっほどキャラの回避ステータスを
     上げているんでしね ならばでし・・・・」

ヘロヘロヘロと弱々しい1本の雷(カミナリ)が女性の上に落ちる 女性は防御姿勢に入って
雷を受ける ノーダメージである0の白文字を表示する
立て続けにヘロヘロ雷が女性の上に落ちる ことごとく0の白文字を表示する

 女性 「無駄な事はやめなさい こんな事をしても私は倒されません」
 2nd「無駄ではないでし」

コンボ後の硬直の解けたLimがヘロヘロ雷を受けてガード硬直に入っている女性に斬りかかる

 2nd「連続攻撃されると防御姿勢に入って硬直し続けるバグをそのままにするから
     こーゆー事になるでし」

両腕を身体の前に組んで防御姿勢のままLimにナマス斬りにされる女性
女性の頭上には女性を呪縛する為のヘロヘロ雷が絶え間無く落ちる

 2nd「後は制限時間内に削り殺せるかどうかでし」

女性を切り刻む光景の照明がゆっくりと落ちて暗転

 〜 Kandow 〜

放課後 喫茶ぬくれおちど:私 茜 詩子 アカネ Lim(BGM:潮騒の午後)
少し離れたテーブルから一同の様子を伺うちはや(あんたはストーカーですか?)

 詩子 「それで懸賞クエストの結果はどうだったの?」

頬を染めて俯くLim

 詩子 「なに???? まさか昨夜も泊まり込んでゲームしてたわけ?」
 Lim「違います・・・・だだ」

ちらっと私の方に視線を投げるLim

 私  「では、刹那さん私と付き合って貰えますか?」
 Lim「はい・・・・喜んで」

 詩子 「・・・・なに???? ええ????? どうして・・・・」
 Lim「クエストを成功したら告白してくれるって約束だったので・・・・」
 茜  「そういうのを”告白”とは言いません」
 Lim「”賞金は全部やるから 告白した時に断るな”と脅されていたので・・・」
 アカネ「こういうのは”告発”と言います」

 私  「リムぅ・・・それは内緒にしておいて欲しかったのに」
 詩子 「リムさん・・・あんた幾らで自分をこいつに売っちゃったわけ?」
 Lim「60万円 トライの取り分って言う意味なら30万円」
 詩子 「リムさん・・・それっぽっちで自分の将来をめちゃくちゃにするつもり?」
 Lim「でも・・・私は・・・自分でお金稼がないと生きていけないんです」

 詩子 「まったく・・・女の子の弱みに付け込むなんてゲスな真似するわね」
 私  「詩子・・・・人聞きの悪い事を  双方合意の上での話なんだか・・・」
 Lim「・・・・もういいんです 私なんてどうなっても・・・・」

一同の話に聞き耳を立てていたちはやがズカズカと近づく(BGM:オンユアマーク)

 ちはや「悔い改めなさい!」
 私  「だから 宗教の勧誘ならお断りと・・・・・」
 ちはや「お黙りなさい!! こんな人身売買が許されると思っているのですか!」
 私  「別にLimを買ったわけじゃ無いんだけど・・・・・
     ただクエストの賞金を全額Limの取り分にしただけで・・・・」
 ちはや「それを条件に交際を迫るのなら同じ事です 恥ずかしいとは思わないのですか!」

 アカネ「あのー・・・リムさんからも何か言った方が・・・・
     だいぶ話がこじれてるみたいなんですけど」
 Lim「でも・・・このまま成り行きに任せるのもなんか面白そうだし」

 ちはや「え? 話がこじれる???」
 Lim「ちはやさん でしたよね」
 ちはや「はい」
 Lim「私達4人が彼に交際申し込んだとして 彼の返事が今の話ならどうでしょう?」
 ちはや「それって?」
 アカネ「えーとですね 例えばテニスの大会で混合ダブルスで優勝して
     賞金をパートナーに全部渡してプロポーズしたら・・・・それは人身売買?」

 ちはや「ええ?? だって・・・”自分を売る”だの・・”弱みに付け込む”だの・・・」
 アカネ「私達だって妬むぐらいはします」
 詩子 「別にあたしはあいつに交際申し込んだ覚えは無いけど」
 茜  「私もです」

 ちはや「・・・・あの・・・・本当に?」
 Lim「”本当に”です」
 ちはや「あ、あの・・・ごめんなさい」
 詩子 「で? まさか”ごめんなさい”だけで済ますつもりじゃないでしょうね?」

ちはやに絡む詩子

 ちはや「・・・・そうですか・・・・やはり、そうなのですね」

リンと背筋を伸ばすちはや

 ちはや「悔い改めなさい!」

 詩子 「ぷっ・・あはははは ちはやさん 最高!」
 アカネ「詩子さんダメですよぉ 年上の人からかっちゃ」
 詩子 「だって、だって、だって・・・・あははははは
     こんな真面目な子があいつの知り合いだなんて・・・あははははは
     ちはやさん あなたいったい何処であいつと知り合ったの? あははははは」

(BGM:ゆらめくひかり)

 ちはや「ど、何処って・・・・それは・・・その・・・」
 詩子 「ん? ん? ん?」
 ちはや「・・・その・・・私の・・・宿敵・・・・」
 詩子 「宿敵?」
 ちはや「私の家の・・・神代の家の・・・宿敵」

 詩子 「あのさ・・・ちはやさん ひとつだけ聞いていい?」
 ちはや「はい」
 詩子 「ちはやさん自身はあいつに恨みか何かあるの?」
 ちはや「いえ・・・・・ただ家の仇なだけで・・・・」
 詩子 「じゃ、私達 友達になれそうね」
 ちはや「え? 友達?」

ピっとLimを指差す詩子

 詩子 「リム あたしの目の黒いうちはあんたなんかに・・・・うーん」
 Lim「詩子?」
 詩子 「よく考えると・・・・あたしってあいつの事で苦労しか・・・して無い気がする」

Limの両手を取ってブンブンと上下に振る詩子

 詩子 「そーよね、これで厄払いが出来たと思えば バンバンザイね」
 ちはや「・・・・それで・・・あの・・・私はどうなるんでしょう?」

 詩子 「えーと・・・なんだっけ?」
 アカネ「詩子さんがちはやさんと友達になるって話」
 ちはや「・・・・はぁ・・・・・」
 詩子 「そうそう 私は柚木詩子 よろしくね」
 茜  「里村茜です」
 アカネ「里村アカネです」

 ちはや「2人ともあかねさん?」
 アカネ「わざわざ確認しなくても判るでしょ?」
 ちはや「まぁ・・・」
 茜  「????」

 Lim「Limです・・・・・」
 詩子 「リムさん・・・本名はまだダメ?」
 Lim「はい・・・ごめんなさい」
 詩子 「この子ちょっと訳有りだからリムって呼んであげて」
 ちはや「はい」

私の方に視線を投げる詩子

 詩子 「あれは紹介しなくていいよね 家の仇って言うぐらいだから」
 私  「・・・・・」

 ちはや「改めて 神代ちはやと申します・・以後・・・・・」

バッと 後ろに飛び退くちはや

 詩子 「あの・・・? ちはやさん?」
 ちはや「あの・・・その・・・私・・・・」

 詩子 「家の仇の一味とは付き合いたくない?」
 ちはや「あの・・・その・・・そう言う意味じゃなくて・・・ごめんなさい・・・・」
 詩子 「もう一回聞くけど あいつに個人的な恨みでもあるの?」
 ちはや「・・・・・ないです・・・でも・・・」
 詩子 「立ち入った事聞くけど あなた友達居るの?」
 ちはや「え?・・・それは・・・」

 詩子 「居ないよね・・・ちはやさん・・あなたはあいつや リムさんや アカネと
     同じ匂いがする 悪い人じゃないけど 人付き合いは苦手よね」
 ちはや「・・・・・・」
 Lim「・・・・友達・・・欲しくないの?」
 ちはや「っ!・・・・私は・・・・だから・・・・その・・・」

ちはやの耳元に寄るアカネ(BGM:偽りのテンペスト)

 アカネ「私だって人間じゃないわよ でもみんな人間として扱ってくれるよ」
 ちはや「それはあなたがみんなを騙して・・・・」
 アカネ「私の正体を知らないのは本人の茜だけ 他のみんなは知ってるよ
     淋しいのは嫌でしょ? 私も先輩もあなたに危害を加えるつもりは無いわ」

 ちはや「そんな事 信用できない」
 アカネ「あなた自身に個人的な恨みがあるわけじゃないもの」
 ちはや「それは・・・そうだけど・・・・でも・・・私は・・・」
 アカネ「天使だから? それを言ったら私は亡者よ・・・・どう私を成敗してみる?」
 ちはや「・・・・・・・」
 アカネ「昔・・・人間だった頃の思い出を持ってる分・・・・お互い辛いよね
     私はみんなのおかげで私を捨てた私自身とも付き合っていられるよ
     でも・・・・いつか私は茜に復讐しようとするかも・・・・・」

 ちはや「アカネ・・・・あなたを成敗します」
 アカネ「今は無理 私は今の生活に満足してるから
     でも先の事は判らないよね 今はなにもしていないが将来何をするか判らない私を
     禍根を断つ理由で成敗します?」
 ちはや「・・・・・・・できません」
 アカネ「だから ちはやは私を監視していないとダメよね」
 ちはや「私は・・・」
 アカネ「口実としては十分じゃなくて?」
 ちはや「!っ」
 アカネ「ほんと・・・私もバカみたい いったい誰のバカが移ったのかしら?」

 ちはや「私は あなた達を裏切るかも知れないのに・・・」
 アカネ「ふふふ・・・今の台詞は”友達になりたい”って解釈していいのね」
 ちはや「あ・・・・・」

ちはやの耳元を離れてみんなの方へ戻るアカネ(BGM:虹を見た小径)

 アカネ「ちはやさんOKだって」
 詩子 「よく説得出来たわね 家の事でガチガチだったみたいなのに」
 アカネ「わ・た・し 年上の女性(ひと)の扱い得意なのぉ」
 詩子 「よく言うわ」

 ちはや「あの・・・・その・・・・・えっと・・・・・」
 詩子 「ん? ん? ん?」

腰を折って下からちはやの顔を見上げる詩子

 ちはや「はぁ・・・・・・神代ちはやと申します・・・改めてよろしくお願いします」

暗転

1997年 4月 某日(ちょうど1年前あたり) Limの実家:(BGM:追想)

 Lim「いってきまぁす♪」
 
玄関の引き戸を開ける制服姿のLim

 母  「刹那ちゃん 母さんはあなたを責めているんじゃないのよ」
 Lim「母さん 何?」
 母  「だから・・・・その・・・・」
 Lim「あぁぁぁ 遅刻しちゃう!! 母さん用があるなら
     学校から帰って来てからでいい?」

 母  「母さんが悪かったわ だから無理に明るく振舞うのはやめて」
 Lim「無理なんかしてないよ 刹那は母さんの自慢の娘だもん
     私立は落ちちゃったけど へへ」

首をすくめて ペロっと舌を出しながら笑うLim

 Lim「あぁ! 本当に遅刻しちゃう それじゃ母さんいってきまぁす♪」

学校に向かって駆け出そうとするLim

 母  「刹那・・・・あなた・・・・・」
 Lim「母さん もう私は大丈夫 ちゃんと友達も出来たの 母さんは何も心配しないで」
 母  「あなたは・・・刹那じゃない 刹那は・・・もっと・・・自分に素直な子だった
     あなたみたいに 人の顔色伺って日和見る子じゃなかった」

 Lim「虐められるのはもう嫌 だから生まれ変わる事にしたの」
 母  「でも、あなたは・・・刹那じゃない」
 Lim「でも、私は母さんの自慢の娘よ 明るくて素直で元気で成績も良くて・・・・・
     母さんが御近所に幾らでも自慢出来る娘になってあげる」

 母  「自慢だなんて」
 Lim「だから・・・・もう私に構わないで 御近所に恥ずかしい学校に通ってる分
     いい子にするから・・・母さんの世間体は守るから・・・・」

 母  「刹那・・・・」
 Lim「お願いだから 私をひとりにして・・・・」

Lim退場

ポツリと呟く母

 母  「・・・・あなたなんて・・・・・ウチの子じゃない」

Lim(いちおー私と茜)の教室:(BGM:追想)

口論をしている女子生徒1と女子生徒A

 女子生徒1「ねぇ そのハンカチ拾ってくれない?」

自分の足下に置かれたハンカチに視線を投げる女子生徒1

 女子生徒A「これの事かしら?」

ハンカチを上履きで踏みつける女子生徒A

 女子生徒A「馬鹿な虐めをするのね貴女って」
 女子生徒1「別に・・・・ただあなたが私の友達になってくれない事は判ったわ」
 
2人の様子を伺っている一団の中にいるLimに声をかける女子生徒1

 女子生徒1「あなたは 拾ってくれるわね?」
 Lim  「これですか? どうぞ」

上履きの足形の付いたハンカチを拾い女子生徒1に渡そうとするLim

 女子生徒1「ありがとう これであなたは私の友達よ」
 
取り巻きに目配せをしてハンカチをLimから受け取るように指示する女子生徒1
Limからハンカチから受け取る女子生徒2

 女子生徒1「悪いけどそれ捨てておいて  それから えっと・・・あなたお名前は?」
 女子生徒A「最初のHRで自己紹介は済んでるわ 刹那さん あなたも
       クラスメートの名前すら覚えようとしない人と友達にはならない方がいいわよ」
 女子生徒1「刹那・・・そう、そうでしたわね 刹那には私の友達になる資格があるわ」
 女子生徒A「友達? ただ貴女の取り巻きを増やしたいだけでしょ?」
 女子生徒1「刹那も私の友達になれて光栄でしょ」

 Lim  「たしか・・・・貴女のお父様は名士の方ですよね?」
 女子生徒1「ええ、私の友達になって下っさたら 刹那の待遇は保証するわ」
 Lim  「進学するにも 就職するにも・・・・世間体も・・・・」

 女子生徒A「呆れた・・・・刹那さんも御同類って事?」
 女子生徒1「あなたも友達は選ぶ事ね」
 女子生徒A「ご忠告ありがとう 私は妥協や打算で付き合う人を選ばない様に気を付けるわ」
 女子生徒1「残念ね あなたとはいい友達になれると思ったのに」
 女子生徒A「配下に 優秀な人材が欲しい?」

 女子生徒1「配下だなんて 私はたくさん友達が欲しいだけよ」
 女子生徒A「そう・・・・・貴女の言いなりになる と・も・だ・ち・ね」
 女子生徒1「何の事かしら? みなさん私の大切なお友達よ」
 女子生徒A「よく言うわ・・・・・・」

踵を返して退場する女子生徒A

照明を落としてLimにスポットライト
モノローグ:Lim(BGM:永遠)

 ・・・・・私は・・・・・私を・・・・必要としてくれる人が欲しい・・・・・
 だから・・・・・私は・・・・・
 
 暗転

とあるアパートの一室:布団に横なっている高校1年のLim枕元にちはや(BGM:永遠)

 ちはや「リムさん起きて」

ちはやに呼びかけられて目を覚ますLim 怪訝そうに周囲を見まわす

 Lim「・・・・・ん???? ここは?・・・・・あなたは?・・・・」
 ちはや「私の事・・・・覚えていません?」

小首を傾げるLim しばらくして

 Lim「ちはやさん????   え???? どうして 私は あなたの名前を?」
 ちはや「私は・・・・あなたの友達ですから」
 Lim「あの・・・・・」
 ちはや「来年の今ごろに・・・・あなたは私を友達にしてくれましたよ」

ちはやの言動に警戒態勢に入るLim

 Lim「あなた・・・・何者?  それに・・・ここは何処?・・・・・」

Limへの返答の替わりに パッと背中の羽を広げるちはや

 Lim「・・・うそ・・・・天使?・・・・」
 ちはや「あなたがこの世界から消えた日の事を覚えていません?」
 Lim「私が・・・消えた日?・・・・・え?・・・あ・・・・」

暗転

ゲームセンター:挑戦者をさばきながら誰かを待っている高校1年のLim(BGM:追想)

 Lim「あの人は・・・・今日も・・・・来てくれない・・・・・」

ブツブツと独り言を呟きながら格闘ゲームを続けているLim
そんなLimに小学生高学年程度の少年が声をかける

 少年 「ねーちゃんが真面目にしないから またかーさんが怒ってるよ」
 Lim「誰?」
 少年 「ふーん・・・実の弟を忘れたって言うんだ」
 Lim「弟???私に弟なんて居たかしら?」

小首を傾げながら少年にウインクをするLim

 少年 「今はね・・・・でも、ねーちゃんは僕の替わりなのに
     こんな不良みたいな事してるから かーさんが怒ってるよ」
 Lim「生意気言うわね あんたなんて子 知らないわ!」
 少年 「ふーん・・・・そーなんだ 僕はどっちでもいいけどね
     でも、かーさんだってねーちゃんよりも僕の方が欲しかったと思うよ」

 Lim「で? あんたいったい何しに来たのよ!」
 少年 「ねーちゃんの様子を見に・・・・
     ”最近ゲームセンターに入り浸ってるって”ねーちゃんの噂を耳にして
     とーさんが心配してるから 」

 Lim「私と母さんを捨てておいて ”心配”してるって?」
 少年 「親だから当然なんだってさ でも、その親の都合で家族をバラバラにしたくせにね」
 Lim「孝明 元気にしてた?」

一転して穏やかな表情で少年に話しかけるLim

 少年 「あんまり・・・元気でもないよ 来年は受験だから」
 Lim「やっぱり 私立中学?」
 少年 「そう・・・・小学校の失敗を取り戻すんだってさ」
 Lim「結局・・・・それが離婚の原因だったものね
     孝明が落ちたのは父さんのせいか母さんのせいかで 言い争いになって」

 少年 「あれはただのきっかけだったと思うよ 夫婦仲はもう冷めてたし」
 Lim「・・・・ちょっと合わない間に・・・・ずいぶん耳年増になったわねぇ」
 少年 「まぁね 外面(そとづら)ばかり気にする親の面倒を見てたら耳年増にもなるよ
     いろいろ知ってるよ 例えば・・・・ねーちゃんが毎日ここで男待ってるとか」

 Lim「たかあきぃ!」
 少年 「”刹那”ってゲーマーが復讐の相手を探してるって噂は有名だモノ」
 Lim「復讐って・・・・私はもう一回 あの人に会いたいだけよ」

 少年 「それに・・・僕が私立落ちたのはねーちゃんのせいだもの」
 Lim「・・・・私の?」
 少年 「あの頃のねーちゃんは僕に冷たかったなぁ ねーちゃんの刺すような目が怖くて
     でも、公立小学に通うようになってからは僕に優しくしてくれるようになったよね」

 Lim「孝明・・・・・」
 少年 「ねーちゃんが僕に嫉妬してたのは判ってた・・・・
     ”ウチの子じゃありません” ”お前は橋の下で拾ってきた子”・・・・
     かーさんは機嫌が悪いといつもねーちゃんにそう言ってあたってた
     とーさんは、そんなかーさんを見てみないふりしてた」
 Lim「やめて・・・・」

 少年 「僕はねーちゃんに・・・優しくして欲しかった・・・
     どうしたらねーちゃんが優しくしてくれるか考えた・・・・
     だから僕は私立には行かなかった でも、結局 とーさんと、かーさんが離婚して」
 Lim「孝明は父さんに 私は母さんに引き取られる事になって」

かがみ込んでLimの顔を下から見上げる少年

 少年 「ねーちゃん・・・・ここで、毎日男を待ってるんだ・・・・
     かーさんとは・・・うまくいってない?」
 Lim「私は・・・・ずいぶん頑張ったと思う・・・・成績だって良くなったと思ってる
     ・・・・でも 母さんにはそれが当然の事だった 成績が良くて当然
     自慢できる子供で当然・・・そうじゃないと”ウチの子じゃない”って言われる
     母さんに捨てられたくなくて必死だった でも母さんにはそれが当然の事だった」

 少年 「ねーちゃんには・・・・僕がいるよ 僕がずっとそばにいてあげるよ」
 Lim「ありがと、でも無理 私達がそれぞれ引き取られたのは裁判所の命令よ
     父さんが2人とも引き取る事も 母さんが2人とも引き取る事も出来ないわ」

 少年 「ひどいな・・・ねーちゃんはホントに僕の事忘れちゃったんだ
     今日 僕はねーちゃんを迎えに来たのに」

 Lim「ん? 迎えに? 父さんの所に? でもさっき様子を見に来ただけって?」
 少年 「ねーちゃんが幸せそうなら そのまま帰るつもりだった 
     でも・・・ねーちゃんが辛いのなら僕はねーちゃんを連れて帰る」
 Lim「そーね 久しぶりに父さんにも会いたいわ 母さんに断わるから 一緒に来て」
 少年 「かーさんには会わない方がいいと思う」

 Lim「何照れてるのよ 孝明が尋ねて来たら母さんだって喜ぶって
     それに、心配しないで 私は母さんとはうまくやっているから」

消沈気味の少年を引き連れながらLim退場

Limの実家:Lim 少年(BGM:海鳴り)

Limは玄関の引き戸を開けようとするが鍵が掛かっている

 Lim「あれ?鍵?」

玄関脇の植木鉢を持ち上げるLim

 Lim「鍵置いてないわね 母さん鍵持ったまま出かけちゃった?」

庭から土間の方へと向かうLim 庭で洗濯物を干していた母と鉢あわせになる

 Lim「なんだぁ 母さんここにいたんだ 玄関に鍵掛かってたから
     てっきり出かけたんだと思ったのに ねぇ・・・孝明が尋ねてきたんだよ」

母親に少年を紹介するLim Limの様子を怪訝そうに伺っている母

 母  「どなた? あの子のお友達ですか?」
 Lim「母さん? 何言ってるの?」
 母  「あの子が行ってしまってから・・・・ずいぶんになります」

 Lim「孝明は隣にいるじゃない」
 母  「1人しか居ませんが・・・・」

 Lim「え?」

隣の少年に視線を投げるLim 少年は淋しげに首を横に振る

 母  「お友達でしたらお線香を上げて行ってはくれませんか?あの子も喜びます」

母は庭から仏間に上がり仏壇をあける 仏壇の引出しから遺影のような写真立てを取り出す

 母  「あの子の写真こんなものしか残ってなくて」

母の差し出した写真立てを受け取る少年 写真立てには、
動物園の象の前で父と母と・・・・2人と手を繋いでいるLimの写真

 少年 「それで、ねーちゃんはいつ?」
 母  「いつ? え?」
 少年 「5年前? 10年前?・・・・それとも今日?
     病気で?・・・・それとも・・・事故で?」

 母  「え? 刹那が・・・いつ? どうやって?????」

1度Limの方に視線を投げて・・・・母親の方に視線を戻す少年

 少年 「かーさん 判ったから・・・ねーちゃんはもうこの世には居ない」
 母  「孝明・・・・」
 少年 「もういいよ かーさんは仕事を続けて」

 母  「・・・はい・・・・」

フラフラとそして何事も無かったかのように洗濯物干しの作業に戻る母
母から受け取った写真立てをLimに手渡す少年

 少年 「はい ねーちゃんが映っている最後の写真」
 Lim「・・・どーして・・・なにが・・・・・・」

少年の背中にパッと白い羽根が広がる

とあるアパートの一室:高校1年のLim ちはや(BGM:永遠)

 両手でLimの頬を包んで Limの瞳を覗きこんでいるちはや
 熱に浮かされているようなLimが呟く

 Lim「た・・か・・あ・・き・・・・」

Limから身体を離すちはや ゆっくりとLimの意識が戻る

 Lim「・・・ちはやさん・・・今の・・・・」
 ちはや「あなたが消えた日・・・・つまり今日の出来事」
 Lim「うそ・・・」
 ちはや「そう・・・うそよ・・・でも、大筋はあってるわ」

 Lim「私は・・・孝明には会ってない」
 ちはや「さっきの弟さんは私」
 Lim「それで・・・ゲームセンターから家に帰った・・・私は・・・」
 ちはや「お母さんに会って・・・・そして・・・消え・・・・」
 Lim「!っ」

 ちはや「・・・・・何も覚えてない?
     自分を・・・・ずっと、自分を取るに足りないモノだと
     思い続けてきたリムさんは・・・・・」
 Lim「”あなたみたいな子はウチの子じゃない”・・・最後の母さんの言葉がそうだった
     母さんに捨てられたくなくて必死で頑張ってきたのに・・・
     それなのに・・・・母さんに捨てられた
     父さんにも捨てられた私には・・・・もう母さんしか居なかったのに・・・・」

Limは写真立てを持っている事に気が付く

 Lim「あ・・・私の・・・写真 父さんと母さんと私の写真」
 ちはや「消される前に回収できて良かったわ・・・・・」

 Lim「あの・・・ちはやさん あなたは誰? それにここは何処?」
 
 ちはや「だから、私はあなたの友達のちはや ここは今日からあなたが暮らすアパート」
 Lim「友達って・・・そんな・・・」
 ちはや「1年後にあなたに友達になって貰わないと私が困るのよ
     だから、今あなたに消えられても困るの 納得出来ないなら 納得してもらうけど」

 右の翼でLimの眉間を指差すちはや

 Lim「無理やりはやめて」
 ちはや「でも、説明するの面倒だし やっぱり手っ取り早く理解して貰う方が・・・」
 Lim「私はもうあなたに弄られているんでしょ 私をいたぶって楽しい?」
 ちはや「そうそう リムさんはそうでなくっちゃ
     私の都合のいい様に少しだけ弄らせて貰ったわ
     でも、安心して 今あなたが消えない様に細工しただけ」

 Lim「勝手な言い草ね」
 ちはや「天使は勝手なの 人間はみんな私の下僕よ」
 Lim「ふふふ 私達いい友達になれそうね ”人間は下僕だ”って言う割には
     ”私に消えられると困るって”言うのね」

吐き捨てる様にちはやを嘲るLim

 ちはや「勿論! 優秀な人材は人間でも天使でも貴重なのよ
     契約成立でいい? リムさんが消えるのを助ける代償に1年後私と友達になる事」
 Lim「今から友達でもいいけど・・・・私の荷物も運んでくれてるみたいだし」

枕元に置かれたTVとゲーム機に視線を投げるLim(BGM:ゆらめくひかり)

 ちはや「まだ消されずに残ってた荷物は実家から運んでおいたけど これだけ? 殺風景ね」
 Lim「余計なお世話よ」

ゲーム機とTVに電源を入れるLim 2画面モードでゲームを立ち上げて
2つあるコントローラーの一つをちはやに渡す

 Lim「私がやるのと同じ様に操作して」
 ちはや「同じ様にすればいいのね」

ネットゲームのキャラクターメイクをはじめるLimとちはや

          ・
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          ・

 ちはや「で・・・最後に"Lim"って入力すればいいのね」
 Lim「ちはやさん・・・・あなた・・判っててやってるでしょ?」
 ちはや「ん?」

Limに言われてきょとんとしているちはや

 Lim「ホントに判ってないの?」
 ちはや「なにが?」
 Lim「私と同じキャラ作ってどーするのよ!!」
 ちはや「だって・・・同じ様に操作しろって・・・・・」
 Lim「はぁ・・・・」

上下2画面に分割された中に双子のようなキャラが表示される

 Lim「いいから 自分の好きな様にキャラメイクやりなおして」
 ちはや「なによ・・・・同じ様にしろって言ったくせに」

再びネットゲームのキャラクターメイクをはじめるちはや

          ・
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          ・

 ちはや「この子の名前は”788”」
 Lim「788って」
 ちはや「ち(7)、は(8)、や(8) よ」
 Lim「センス悪い・・・・」

ジト目でちはやを眺めるLim

 ちはや「どーせ・・・・私はセンス悪いですよ」

ブツブツと文句を呟きながらTV中の巫女風のキャラをクルクルと回すちはや

 ちはや「それでさ リムさん・・・・今日の事は忘れて欲しいんだけど・・・・」
 Lim「言うだけ無駄だと思うけど・・・・"嫌よ"」
 ちはや「忘れてくれないと困るんだけど・・・・・
     大丈夫 一年後に再会した時に私の友達になる様に仕掛けておくから」

 Lim「それだと 私はあなたの友達にはなれないと思う・・・
     あなたの言いなりになる人形になら・・・・なれるのかもしれないけど」
 ちはや「それでいいのよ 私に逆らう人間なんて友達になる資格は無いわ」
 
 満面の笑みをLimに向けるちはや そしてLimの頬を両手で包み込む
 ちはやを睨み付けながら されるがままに身を任せているLim
 
 ちはや「あら・・・”嫌だ”って言った割には素直なのね」
 Lim「どうせ逆らうだけ無駄なんでしょ」
 ちはや「いい心がけね すぐに”嫌だ”なんて思わない様に・・・楽にして あ・げ・る」

Limの頬を両手で包み込んだまま 翼でLimの身体を包み そしてLimの瞳を覗き込むちはや

 ちはや「リムさん 今日の事は全部忘れて 誰もあなたの事を見捨てたりはしてないの
     それと、リムさんはずっと前からこのアパートに住んでいたのよ」

Limを包み込んでいる翼を広げて身体を離すちはや 怪訝そうな表情でちはやを見ているLim

 Lim「ちはやさん・・・・今の?」
 ちはや「リムさんは今日起きた事は全部忘れたの ”その事は忘れないでね”」
 Lim「あの・・・・」

 ちはや「もしかしたら 私って記憶の操作に失敗するかもしれないけど 気にしないでね」
 Lim「・・・・」
 ちはや「家賃は毎月ちゃんと払ってね・・・・それから・・・・それから・・・えっと」
 Lim「ちはやさん?」

 ちはや「・・・・・・」
 Lim「これ・・・・・」

ゲーム機のメモリーカードをちはやに手渡すLim

 Lim「あなたにも事情はあるんでしょうけど」
 ちはや「そーね・・・これは今の私に渡しておくわ」
 Lim「今の?」
 ちはや「リムさんと同じ時間を生きている私 まだこの翼を持っていない私」

パッと広げたちはやの翼からいくつかの羽根が舞い散る

 ちはや「・・・788は再会の時に友達の証として受け取っておくわ」
 Lim「ちはやさん・・・・羽根で部屋を散らかさないで」
 ちはや「あ・・・そーゆー事を言う? 生意気な子ねぇ」

床に落ちたちはやの羽根を摘みあげるLim

 Lim「天使ってほんとに居たのね・・・・・なら・・・神様も?」

俯いてクルクルと指先でちはやの羽根を回すLim

 Lim「私には・・・・神様なんて居なかったけど」
 ちはや「信じる者は救われるのよ リムさんには信心なんて無いでしょ?」
 Lim「信じない者は救わない? 現金なモノね」
 ちはや「それも・・・・違うわね 救済は誰の上にも平等に訪れるわ
     ただ、それを・・・その人が救いと思うか思わないかの違いだけ
     だから・・・・リムさんには信心は無いでしょ?」

 Lim「じゃぁ・・・ちはやさんは私を救ってくれたんだ」
 ちはや「そうよ・・・・でもね・・・・違うの」
 Lim「救ったの? 救わなかったの? どっち?」

天井を見上げるちはや

 ちはや「今日消えるはずのあなたを助けに来たのは事実 そして・・・助けたのも事実
     あなたの記憶を操作して・・・・私の仕事は終わり
     後は・・・・救われたと思うかどうかはあなた次第」

 Lim「余計なお世話よ・・・・私は・・・・神様に助けて欲しいなんて思った事は無い」
 ちはや「・・・・でも、私はリムさんを助けたりなんかしてない・・・・・」
 Lim「なに?・・・・・」

 ちはや「私はね・・・・1年後にリムさんに友達になって貰わないと困るの
     でないと・・・私は本当に天使になっちゃうから」

 Lim「・・・・・」
 ちはや「私には私の都合があるの  リムさんに消えられると困るの
     だからリムさんが消えない様に仕組んだだけ
     替わりに私も助けて欲しい・・・・それだけよ」

 Lim「取引?」
 ちはや「そうね・・・・私は出来れば天使はなりたくない
     ・・・・リムさんを救うんじゃなくて交換条件を出しているつもりよ」
 Lim「”交換”って言う割には先に恩を売っておいて”義理を果たせ”と迫るのね」
 ちはや「人間臭くていいでしょ?」
 Lim「まぁね・・・」

 ちはや「扱いにくい人ね 天使として話すと警戒したままだし
     人間として話しても自暴棄になるだけだし・・・・・」
 Lim「・・・・人間は嫌いだもの・・・・そしも本当に天使が居たとしたら
     天使も嫌い・・・・」
 ちはや「私が嫌い?」
 Lim「?」
 
 ちはや「私が・・・嫌い?
     私が天使でも人間でも・・・・ねぇ 私が信じられない?」
 Lim「何それ?」
 ちはや「・・・・うん 人間だから嫌い 天使だから嫌い・・・・
     私は? リムさんは? 人間 天使・・・そんな言葉で一括りにして欲しくない」

 Lim「・・・・・」
 ちはや「ねぇ 私が嫌い?」
 Lim「・・・・・判らない・・・・」
 ちはや「ありがと それだけ聞ければ十分 じゃそろそろ行くわ」

 Lim「・・・・・堕天使ね・・・・・」

パッと翼を広げて ふわりと浮き上がるちはや

 ちはや「堕ちたわけじゃ無いわ 昔・・・・人間だった頃の私に帰って来ただけ」

ちはやを見上げるLim 先程の質問をはじめて尋ねる様に繰り返す

 Lim「ねぇ 忘れて欲しい事って何?」
 ちはや「リムさんは今日起きた事は全部忘れたの ”その事は忘れないでね”
     私があなたを救ったんんじゃなくて取引をしたと言う事・・・を
     ちゃんと忘れてよね 私の立場がなくなるんだから」

先程と同じ様に答えるちはや

 Lim「はは・・・・・あなたの事は嫌いじゃないわ」

素直に応じたLimに 優しく微笑みかけたちはやは
ゆっくりと天井に向かって昇っていく そして天井をすり抜けて消える

ちはやとの微妙な応対の後 Limは俯いてため息をひとつ

 Lim「ここが今日から私の家」
 
ゆっくりと顔を上げて部屋を見回すLim

今は動けない それが運命だけど あきらめはしない もう目覚めたから      *
燃えるときめきは 時代を写し 色あざやかに 燃えさかる炎           *
Crying 今は見えなくとも Serching 道しるべは浮かぶ      *

I wanna have a pure time.              *
 Everyones noble mind.                *

暗転

現在の放課後 喫茶ぬくれおちど:私 茜 詩子 アカネ Lim(BGM:日々のいとまに)
少し離れて体裁が悪くてモジモジしているちはや

 ちはや「あの・・・やっぱり・・・こういう場所に制服のまま入るのは・・・」
 Lim「あ? 別に禁止はされてないと思うけど?」
 ちはや「いや・・・その・・・・」
 私  「んー・・・・ここって ごく普通の喫茶店だよね どーしてダメ?」
 ちはや「だから 学生は学生の本分を」
 私  「えーと、学校の最寄駅の商店街が学生相手の商売をしていて
     ここ(ぬくれおちど)もだしバタポ屋も山葉堂もねぇ
     その地域経済に学生が貢献するのは本分じゃないのかい?」
 ちはや「うぅぅ」

 Lim「ちはやさん あんまり堅苦しく考えなくていいと思うの
     犯罪行為をしている訳じゃないんだし 授業をサボって来てるんでもないんだし」
 ちはや「でも・・・・」
 詩子 「嫌なら帰ってもいいんだけど?」

詩子の言葉にピクっと反応するちはや

 ちはや「あ・・・・嫌だって・・・ことでは・・・・」

ニっと妖しくちはやに微笑みかける詩子

 詩子 「なら決まりね」

ちはやの肩を抱いて長椅子に座らせる詩子

 詩子 「んー ちはやさんが仲間に入ってくれて 大助かりよ」

そう言いながら喫茶店のテーブルを2つ並べて8人掛けの場所をつくる

 詩子 「5人じゃ 4人掛けの席しか使えなくて 狭かったの」
 ちはや「仲間って・・・・そんな・・・・」

ちらっと私の顔を見上げるちはや そして茜に視線を投げる

 茜  「もう慣れました」

ちはやの視線の意図を察した茜が答える

 ちはや「はぁ・・・・」(深いため息をひとつ)
 アカネ「ちはやさんはもう私達の な・か・ま よ」
 ちはや「はぁ・・・・」(ため息をもうひとつ)

 詩子 「なに? あたし達とは付き合えないって?」

詩子がちはやに絡む また、チラッと私を見上げるちはや

 詩子 「なによ? やけにあいつの事 気にするわね?」
 ちはや「この人と一緒にいるところを家の誰かに見られでもしたらと思うと・・はぁ・・・
     しかも・・・・喫茶店でなんて・・・・・はぁ・・・・」

ブツブツと呟きながらため息を吐きつづけるちはや

 詩子 「だからいいんじゃない ちはやさんは私達を更正させる為にここに居るんでしょ?」
 ちはや「!っ・・・・」
 アカネ「そ・し・て ミイラ取りがミイラになった」
 Lim「なんにしろ”正当な理由”って言う”口実”は必要よ」

 ちはや「はぁ・・・・茜さん・・・・よくこの人達と付き合って・・・・」

この中では1番まともに見える茜に話題を振る

 茜  「もう慣れましたから」
 ちはや「慣れって・・・それでいいの?」
 茜  「???・・・・なにがですか?」
 ちはや「だから・・・彼のこと」

私に視線を投げるちはや

 茜  「はい?・・・・あの人がなにか?」
 ちはや「あ・・・いや・・なんでも・・・・」

茜とちはやの話にLimが割って入る

 Lim「ちはやさん 後で私の家に来て それからトライも」
 ちはや「え?・・・ええ・・・でも?・・どうして?・・・・」
 Lim「約束だから・・・・・・」
 ちはや「約束?」
 Lim「・・・・そう」

ふっと顔を上げたLimの視線がぬくれおちどの天井越しに空へ投げられる

 茜  「あの 私は?・・・・えっとあの人の事って?」
 ちはや「・・・・あ・・・その・・・えーと・・・」

 私  「Lim・・・・たしか私に家の場所知られたくなかったんじゃ?」
 Lim「そうね 昨日まではね 
     だけど、今日トライとちはやさんに逢わせたい人が来るの」
 私  「誰?」
 Lim「ふふふふ、天使様になりきれなかった堕天使 私って変?」

Limの様子を伺う私

 私  「天使って・・・見た感じ・・・Limは正気の様に見えるけど」
 Lim「私自身・・・それには自信は無いわ 確実に一度は彼女に弄られてるし
     私が気が付いて無いだけで何度も弄られてるのかも・・・・」

ちはやに視線を投げるLim

 Lim「確かめ様が無いのなら 気にする必要も無いんでしょうけど・・・・」
 私  「Limを操り人形にするつもりなら もっと上手に弄るんじゃない?」
 Lim「そうなんでしょうね 最小限みたいな事言ってたし・・・
     でも・・・すこし不安なのもホント・・・・」

 ちはや「あの、あの、茜さん・・その・・彼を・・あの
     このままだと・・・えーと・・彼を・・リムさんに盗られるわよ」
 茜  「? 盗られるのですか? あの人はリムさんに告白して・・・・
     私は別に”盗られた”だなんて思っていません」
 ちはや「うぅぅ」
 アカネ「ちはやさんの負けぇ♪」

詩子が自分の二の腕に指を添えてポツリと呟く そして自分に言い聞かせるように

 詩子 「あいつはリムさんを選んだ・・・・これで・・・いい
     誰も選べないあいつよりも・・・・ずっとまし・・・・・
     これで・・・あた・・・わたしはあいつを忘れられる・・・・
     やっと あの人を忘れられる・・・・」

暗い街角 開く空から ひどく虚ろに星が揺れても そこに残った若さ取り出し   *
Believe sign of Z                      *
beyond the hard times from now.        *

高校一年のLimの教室:(BGM:追想)

またもや(しょーもない)口論をしている女子生徒1と女子生徒A
高飛車な態度を取りがちな女子生徒1に付いていけない女の子は
自然と女子生徒Aの元に集まり・・・・なにやら派閥の構造を呈している
この雰囲気が読めない一部の鈍感な女の子達を除いては

 女子生徒1「やはりクレープはバタポ屋のキャメル・チーズ・ナッツが一番じゃなくて?」

自分になびかない女子生徒Aに何かと食ってかかる女子生徒1

 女子生徒A「バタポ屋?」
 女子生徒B「駅前商店街のクレープ屋」

取り巻きの女子生徒Bが女子生徒Aに耳打ちをする

 女子生徒A「ああ・・・あそこね」

女子生徒Aは女子生徒1に向き直す

 女子生徒A「ごめんなさい
       私はいたずらにカロリーの高い脂肪と小麦粉の固まりには興味無いの
       そーね、クレープならクリィーミーのコンビーフがよかったわ
       きっと、貴女は知らないのでしょうけど」

 女子生徒1「なによ それ?クリィミー?」
 女子生徒A「カロリーの固まりみたいなクレープを自慢げに話してたから
       ”きっと本物のクレープは知らないのね”と思ったからよ」
 女子生徒1「きぃぃ」
 女子生徒A「くりみヶ丘に行くことがあったら 一度クリィミーへ寄ってみるといいわ」

 女子生徒1「きぃぃ 刹那ジュース買ってきて!」

投げつける様に小銭をLimを手渡す女子生徒1

 Lim  「はい!」

明るく返事をして立ち去ろうとするLim

 女子生徒A「大切なお友達にそういう態度はとらない方がいいわよ」

女子生徒Aが女子生徒1の神経を逆撫でする

 女子生徒1「きぃぃ・・・・」
 Lim  「私が好きでやってる事だから気にしないで」
 女子生徒A「・・・・・」

背中越しに的外れな返答を女子生徒Aに向かってするLim

照明を落としてLimにスポットライト
モノローグ:Lim(BGM:永遠)

 ここには私を必要としてくれる人がいる・・・・・
 それがどんな理由だったとしても
 私を・・・・・捨てないでほしい・・・・ずっと

刻の海越えて 宇宙の傷口見れば人の過ちを知る事もあるさ            *
今を見るだけで悲しむのやめて 光に任せ 飛んでみるもいいさ          *

現在のLimの家:私とLim ちはや(BGM:無邪気に笑顔)

 私  「それにしても・・・・殺風景な部屋だな」
 Lim「トライに言われたくないわ  トライの部屋だって似たようなモノじゃない
     生活感のかけらも無い まるで・・・・・」
 ちはや「・・・・まるで 生きている人の部屋じゃないような・・・・」

ちはやは言いかけた言葉を噤む

 ちはや「ごめんなさい・・・・・」
 私  「ま、生活感が無いのは事実だしな でLim 逢わせたい人って?」
 Lim「ちょっと待っててね」
 
顔を上げたLimが天井に向かって叫ぶ

 Lim「あなたが私の事を覗いているのは知ってるんだからね いい加減 姿を見せたら?」

空中に姿を現す白い翼を広げたちはや・・・・(えっと便宜上”ちはや2”って事で)

 ちはや2「”覗き”だなんて人聞きの悪い
      私はあなたが思い余った事をしない様に見守ってただけよ」
 ちはや 「私が・・・・ふたり?・・・」
 ちはや2「んー・・・・厳密にはひとりのちはやが2重に出現してるんだけど
      私にとっては過去のあなたと あなたにとっては未来の私 ふたりのちはや
      はい、これ」

ちはやにゲーム機のメモリーカードを手渡すちはや2
メモリーカードを受け取り何かを思い出した様に呟くちはや

 ちはや 「これは?・・・・・・788のメモリーカード でも、どうして?」
 ちはや2「私達はひとりの”ちはや”だから あなたが体験していない事でも
      私が体験したことなら記憶として残る・・・・
      後は思い出すきっかけさえあれば・・・・そうでしょ?」

私に視線を投げるちはや2

 私   「そういうものか?」
 ちはや2「あなた達もひとりのあなただから」
 私   「認めたくは無いが・・・・それが・・・・現実か」

 ちはや2「私達もあなた達も時間の概念がない・・・・」
 私   「それは少し違うかな? 少なくとも私には・・・・・」
 ちはや2「未来が無い? それは本来未来であるはずの出来事が全部過去になったからでしょ
      ちはやにとってのメモリーカードが過去の出来事になった様に」
 私   「救いのない話だな どう頑張ってもすべての結果は予め用意されている」
 ちはや2「それでも・・・あなたは抗うのね・・・・・・・」
 私   「思い出せない過去なら起きてないのと同じ
      なら、同じ過ちを繰り返してみるのもまた一興」

 Lim 「なんか私忘れられてない?」
 私   「私とちはやを未来のちはやに会わせるために呼んだんだろ?」
 Lim 「それはそーとして」

(BGM:オンユアマーク)

ゲーム機に電源を入れて、ちはやと私にコントローラーを渡すLim

 ちはや2「あのう・・・・私の分は?」
 Lim 「するの?」
 ちはや2「ちはやちゃぁん リムちゃんがいぢめるのぉ」

ちはやにすり寄るちはや2

 ちはや 「この人が・・・本当に・・・未来の私?」
 Lim 「そうみたい」
 私   「自分のメモリーカード持ってきてないから 私はいいよ
      そっちのちはやさんと替わろうか?」

 Lim 「あのね788はレベル1なの だからトライも新キャラ起こすの」
 私   「サードじゃだめ?」
 Lim 「だめ!」

 ちはや 「いやぁ! ちはやさん やめて」
 ちはや2「いいじゃない ちはやちゃん 自分同士なんだし」

 私   「あの・・・ゲームするよりこっち見てる方が面白いんだけど」
 Lim 「何が起きると人間がこうも変わるの?」
 私   「・・・・Limにだけには言われたくないだろうなぁ その台詞」
 Lim 「あら、私はちはや様に改造されたから変わったのよ」
 私   「・・・・あのぅ ちはやさん 有ること無いこと言われてますけど」

 ちはや2「本質的には間違ってないと思う・・・・というか私がリムさん弄ったの事実だし」

ちはやの髪を手櫛でイジイジし始めるちはや2

 ちはや2「やっぱり ガチガチに堅いわねぇ この あ・た・ま」
 ちはや 「いたい! 頭 掴むのはヤメてぇ!!」

 私   「指圧?  Limの時の洗脳もあんな感じ?」
 Lim 「もっと優しくしてくれたと思ったけど」

グリっ! 耳に触る嫌な音が部屋に響く

(BGM:A Tair)

 私   「今 凄い音がしなかった?」
 Lim 「あぁ! ちはやさん白目剥いて泡吹いてる」

ちはや2は白目を剥いているちはやの瞳を手で閉じて口元の泡をハンカチで拭う
そして自分の膝の上にちはやの頭を乗せる

 ちはや2「この頃の私ってこんなに酷かったのね」
 私   「言うほど酷い人じゃないと思いますよ」
 ちはや2「ありがと・・・でも、部長の事を後悔するのなら何もしない方がよかったのにね」
 私   「部長?」
 ちはや2「そう・・・・この翼と引き替えに私が天に捧げた人」

ふぁさ ちはや2は静かに翼をゆする

 Lim 「泡吹いてたけど ちはやさん大丈夫?」
 ちはや2「大丈夫 今、夢を見て貰ってるわ 私が天使にならずに済んで
      部長と一緒に楽しくやっている・・・・そんな夢」
 Lim 「気休めだね」

 ちはや2「そうでも無いわ きっかけさえあれば 記憶は思い出せる
      私が人間のままでいられた そんな世界もあったって事」

遠い目で天井を見上げるちはや2

 ちはや2「私が人間のままで・・・・そんな世界も・・・・」

ふぁさ ちはや2の翼がまた静かに揺らぐ
そして、ちはや2はチョイチョイとLim向かって手招きする

 ちはや2「次はリムさんの番」
 Lim 「嫌よ さっきの”グリっ!”っていうの 凄く痛そうだったもの」
 ちはや2「でも 私 彼に内緒の話があるんだけど」
 Lim 「そんな理由で人を失神させないで下さい!」

 ちはや2「じゃあ仕方ないわね 聞いて後悔しても知らないから」

私の方に向きなおすちはや2

(BGM:雪のように白く)

 ちはや2「あなた リムさんの事どうするつもり? 私としては全部あなたに任せたいのよ」
 私   「任せるって?」
 ちはや2「リムさんを引き取って面倒みて欲しいの」

 私   「これはまた いきなりな話を」
 ちはや2「リムさんが情緒不安定なのはあなたも知ってるわね
      落ち込んだ時に何するか判らないのよ」

 Lim 「・・・・・」
 私   「今まで通りちはやさんが面倒見るという案は?」
 ちはや2「却下 私だと・・・どうしてもやり過ぎるの と言うよりは
      私達にして見れば適切な治療って事になるんですけど」

 私   「不浄なるモノは排除する」
 ちはや2「そう、病巣を全部切り取ってしまえば 私達の立場での治療は終わり
      ・・・・でも その後の彼女にどれだけのリムさんらしさが残ってるか」

 Lim 「あのぅ・・・なんか酷い事言ってません?」
 ちはや2「だからリムさんには前後不覚になって貰いたかったのに」
 Lim 「あうぅぅ」

 ちはや2「今までに何回か発作が起きたわ その度に少しづつ病巣を切り取ってきたけど
      次に発作が起きたら・・・彼女の人格に影響が出ない様に治療するのは
      無理だと思う  いいえ・・・今でさえ・・・いいえ
      病巣を少しでも切り捨てた時点で彼女への影響はあると思う」

 Lim 「私が・・・私でなくなる・・・・」
 ちはや2「私が面倒を見ていたら いずれそうなるわ」
 Lim 「でも・・トライには迷惑かけたくない」

 ちはや2「あなたがあなたでなくなる事とどっちが彼にとって迷惑だと思う?」
 Lim 「・・・・・」
 ちはや2「結局 私がした事ってリムさんをいたぶり続けただけ・・・・
      病巣を切り捨てていく事しか出来ないんだから
      だったら 始めから 全部の病巣を切り捨てて 楽にしてあげた方がよかった」

 私   「ホントにそう思ってる?」
 ちはや2「いいえ でも私はあなたの様には成れなかった・・・・堕天使なのが精一杯」
 私   「で、私にLimを任せた後ちはやさんはどうする?」

ちはや2は膝の上のちはやの頭を撫でながら

(BGM:遠いまなざし)

 ちはや2「そうね この子が気が付いたらあなたの所に帰るわ」
 Lim 「・・・・・それって・・・・」
 私   「”このアパートをちはやに使わせる為にLimを追い出したい”と
      遠まわしに言っているんだな」

 Lim 「そうじゃなくて ”トライの所に帰る”って?」
 ちはや2「私の世界にも 私の世界の彼が居る それだけの事
      ただ、天使でさえ住めないような酷い所に住んでるから
      出来れば一緒に暮らしてあげたいけど 私も通ってあげるのが精一杯で・・・・」

 Lim 「ゴキブリが絶滅してもトライだけは生き残る・・・・」
 ちはや2「そうそう まったくそんな感じよ よくまぁあんな所に住めるものね
      ああいう場所をきっと地獄って言うのね」

 私   「あのぅ・・・なんか酷い事を言われているような気が・・・・」
 ちはや2「気のせいよ」
 私   「うみぃ・・・ ま、それはそれとして ちはやには家はあるんだよね?
      なぜ わざわざ ここに住まわせる?」

 ちはや2「ちはやはもう居ないはずの人間だから・・・・
      人間のちはやはもう居ないから 今のこの子はね神代の道場を仮住まいにしてるの
      兄さんが面倒は見てくれてるけど 道場なんて住む為の建物じゃないから」

 私   「住む場所が無いならそれこそ天に昇れば?」
 ちはや2「部長のこと忘れられない堕天使には無理な話・・・・
      部長と一緒に過ごしたこの街から離れたくないの」
 私   「自分の居場所がなくても・・・か」

 ちはや2「はっきり言っちゃえば この街に限っては居場所が無いわけじゃないのよね
      私やアカネみたいな宙ぶらりんの半端モノの居場所だってあるのよね
      私達が”ここに居たい”と願うのなら・・・ね」
 私   「・・・・・」

 ちはや2「だからね・・・・Limさんを引き取って 
      あなたの側に 彼女の居場所を作ってあげて」

 私   「天使・・・らしくないな」
 ちはや2「私は天使になりきれなかった堕天使だもの」

私はちはや2の膝の上のちはやに視線を投げる
 
 私   「で、そっちのちはやはどうする?」
 ちはや2「あなた達に任せるわ 立派な堕天使にしてやってちょうだい」
 私   「・・・・おいおい」
 ちはや2「ありがとう」

 私   「ん? なにが?」
 ちはや2「ありがとう・・・・・ただそれだけ」
 私   「”それだけ”・・・か」

 ちはや2「この街で部長と一緒に過ごしている私が居る それが私の居場所
      ”ただそれだけの事” だから ありがとう・・・・・」
 私   「心当たりは無いけどね」
 ちはや2「そうね でもあなた達と関わったこのちはやが・・私の居場所を作ってくれる」
 私   「難儀な奴・・・・・」
 ちはや2「いったい誰のせいかしら?」

(BGM:偽りのテンペスト)

 私   「さあね・・・・・で、さぁ 天使のちはやさんに聞きたいんだけど」
 ちはや2「なに?」
 私   「始まりって何だろう? 私は茜を守る事とその為の力を
      アイツ・・・茜の姉さんから引き継いだ
      その事の始まり・・・闇を・・・人の悪意を統べる事を
      最初に強いられたのは誰だったんだろう?」

 ちはや2「下っ端の私には判らないわ」
 私   「そうか・・・」
 Lim 「里村さんの事気になるの?」

 私   「茜の事もだけど 結局 全てが私から私へ引き継がれてる気がして
      今の私が消えて 次の私が現れるまでの間の仮初めの持ち主を
      アイツや幼馴染君にして・・・・ね」
 ちはや2「あなたが一番適任なんでしょ 丈夫で長持ち しかもリサイクル可能」
 私   「私は資源ゴミですか?」
 ちはや2「例えばね 能力はあっても反抗的な性格は天使には不適格 そんな人間を
      厄介払いと見せしめの目的に闇を統べるモノに選び 忌み嫌わせる」

 Lim 「・・・・・・」
 ちはや2「時にトカゲの尻尾として始末し”悪は滅ぶ”とプロパガンダを掲げる」
 Lim 「・・・・ちはやさん・・・あなたほんとに天使?」
 ちはや2「あら だ・て・ん・し・よ」

純白の翼をパタパタとさせるちはや2

Crying 今は見えなくても Seaching 道しるべは浮かぶ      *
I wanna have a pure time.              *
Everyones noble mind.                 *

高校一年のLimのアパート:(BGM:追想)

明かりも点けない暗がりの中 TVの画面に照らされるLim
明滅する光陰に焦点の定まらない妖しげな瞳が映える
        ・
        ・
        ・
        ・
       そして
        ・
        ・
        ・
        ・

ぴょぴょぴょぉぉぉぉっと軽快かつ軽薄な電子音が響く
TVの画面が真っ赤に染まり「ロビーに戻りますか? はい/いいえ」のメッセージが表示され
倒れたLimのキャラの上に魂らしきモノが浮いている

 Lim「・・・・だ・・ダメージが・・0行進ってどーゆー事!?
     何? このゲーム? 敵にダメージ行かないなんて
     敵倒せないでどーやって先に進むのよ! ゲームになってないじゃない!!」

ゲーム機のコントローラーを握るLim脇に無造作に置かれたゲームのパッケージを持ち上げる

 Lim「(ネットに繋いで)オンラインでやらないとダメだって事?
     人付き合い苦手なんだけど・・・・・」

パッと部屋の明かりが点く 蛍光灯の紐を握って宙に浮いているちはや

 ちはや「人が苦手って言う割にはネットゲームなんてやっているのね」
 Lim「また覗いてたの?」
 ちはや「見守っていたの!」
 Lim「そう じゃそう言う事にしといてあげる それで何か用?」
 ちはや「様子見に来ただけ それにしても電気ぐらい点けた方がいいわよ」

プラプラと蛍光灯の紐を揺らすちはや 
ちはやに言われて天井の蛍光灯を見上げ目を細めるLim

 Lim「あ・・・・・眩しい」
 ちはや「ん? 暗くなってたのに気が付かなかったの?」
 Lim「う・・うん・・・・・そうみたい」
 ちはや「そうみたい? そうみたいって?」

 Lim「暗くなってたのは知ってたけど・・・気が付いてなかったみたい」
 ちはや「変な事言うのね」
 Lim「うん・・・暗くなったけど・・・その後どうするのか考えてなかった」

 ちはや「リムちゃん 暗くなったら電気点けるのよぉ」
 Lim「・・・暗くなったのは・・・判っていたつもりなんだけど」

ポンっと Limの頭の上に手を乗せるちはや

 ちはや「そんなに 気にしなくてもいいわ」
 Lim「・・・そういう病気・・・だから?」
 ちはや「病気って言う程じゃないわ」

 Lim「自覚はあるつもり・・・卒業式の時も・・・母さんの時も・・・・
     私は・・・おかしかった・・・・そう思ってる」
 ちはや「自分の事を冷静に見ていられる内はまだ病気じゃないわ
     そうね 半病人ってとこね 自虐的な発作が起きるようなら誰かが側に居ればいい
     でも、リムさん死にたくなっても死ぬのは嫌でしょ 独りは嫌でしょ
     あなたは捨てられる事を極端に恐れるから ただ自分を誇示したいだけ
     ふふ それにね あなたは側にいる人に危害は加えないわ
     直接誰かに迷惑をかける様な事はしないから あなたは病気じゃないわ」

 Lim「・・・・・・」
 ちはや「もうすぐね あなたのいいひとが現れる 私はそれまでの代用品」
 Lim「・・・・・・捨てられるのは・・・・・もういや・・・だから」
 ちはや「だから人間を避けようとする ・・・・捨てられない唯一の方法は
     あなたを捨てる人間を作らない事 家族も友達も・・・そして恋人も
     でもあなたは人間が嫌いじゃない いいえむしろ欲しがってる
     だから・・・・淋しさに耐えられない あなたが身を寄せられる人は必要ね
     あなたが捨てられる事を怖がらなくて済む人が・・・・・ね」

 Lim「無理よ・・・家族だって・・・父さんだって私を捨てた・・母さんだって・・・」
 ちはや「私なら?」
 Lim「!っ・・・」
 ちはや「そ・・・人間ならどうしようもない事だって起きるわ
     あなたの事を捨てたくなくても捨てざるを得ない事も・・・・」
 Lim「でも! あなたは!」
 ちはや「私は人間じゃないわ・・・あなたは私にすがる程は壊れていない
     ・・・・いるのよ・・・私と同じ宿命を背負った人で・・・・」

遠い視線を暮れきった空に投げる

 ちはや「そして・・・その宿命に抗い続けている人・・・人間が・・・ね
     その人は私と違って・・・・・人間よ」
 Lim「あの・・・」
 ちはや「・・・・その人は・・・あなたと同じで 壊れていな・・・・・
     いいえ、あなたと同じで程良く壊れていたから 人間に執着してる
     人間に執着しているから 人間である事に拘り続けている・・・・
     ほんとにあなた達 お似合いのカップル」

 Lim「おたがいの傷を舐めあう・・・・・」
 ちはや「こういうのを共依存って言ったかしら・・・ま、どうでもいいけど」
 Lim「それは・・・たしか・・・・病気の・・・症状の・・・・はず・・・」
 ちはや「完全な人間なんてどこにもいないわ 目の悪い人は眼鏡をかける
     喘息の人は薬を飲む ちょっとした手間で普通に暮らせるなら
     それでいい 何の問題も無いわ
     人にすがらないと生きていけないならすがればいい
     それで普通に暮らせるなら それは病気でもなんでもない」

 Lim「”完全な人間はいない”・・・・それをあなたには言われたくない」
 ちはや「”人である事を捨てた天使には”ね 
     でもね 天使だから見えるモノがあるわ 天使だからあなた達が羨ましい
     天使だから彼が羨ましい・・・・」

 Lim「なら・・・天使なんてならなければよかったのに」
 ちはや「それも違うわ・・・・ね   天使じゃない私はあなた達を羨ましがりはしない
     天使の私にしか・・・天使じゃない私の幸せは判らない・・・・
     幸せな時にはそれが幸せな事だなんて気が付かないのね」
 Lim「・・・・ちはや・・・・さん」

 ちはや「あはは こうやってあなた達と付合っているとね 私は幸せになれるの」

ちはやはカラカラと乾いた笑顔を振りまく

 ちはや「私が・・・・殺してしまった人が・・・・死なずに済むの
     だからね・・・・これ・・・」

ゲーム機のコントローラーを持ち上げるちはや

 ちはや「オンラインで遊びましょ・・・・ねぇ・・・・あなただって
     一緒に遊んでる人が人間だって事を意識しないで済むから
     このゲームを買ったんでしょ?・・・」

 Lim「あの・・・・ちはやさん 私のいいひとって ここで?」

 TVに映し出されるネットゲームのオープニングデモに視線を投げるLim

 ちはや「あら、未来の事をそんなに詮索するものじゃないわ」

ジト目をちはやに投げるLim

 Lim「・・・あれだけ 自分からペラペラ喋っておいて・・・・・・・」
 ちはや「まぁ怖い ささ788(ちはや)も一緒に行ってあげるからね」

自分のメモリーカードをゲーム機に刺し ネットゲームのオンライン登録を済ませるちはや

 Lim「ああ! 勝手にオンライン登録しないで まだ心の準備が・・・」
 ちはや「”心の準備”って いったい何を期待してるの?」
 Lim「あの・・・・やっぱり怖いの・・・人が・・・・」

 ちはや「・・・・刹那のリムさんは ゲームセンターで男の子を薙ぎ倒してなかった?」
 Lim「敵なら・・・倒せばいいだけだから・・その・・オンラインでパーティ組むのとは」
 ちはや「あきれた・・・でも、もうオフラインじゃゲーム先に進めなくなったんでしょ?」
 Lim「うん・・・ゲームレベルがハードになったら ダメージが0行進で・・・・」
 ちはや「オンラインで経験値稼ぐんでしょ?」
 Lim「うん・・・でも・・・・」

場末の酒場の雰囲気の漂うロビーで788(ちはやのプレイキャラ)が叫ぶ

 788「私達 オンライン初めてなんです どなたかエスコートしていただけません?」

肩が触れ合い言葉なくして刻が残した熱い命を この手のひらで明日に残そう    *
Believe sign of Z                      *
beyond the hard times from now.        *

現在のLimの家:私とLim ちはや(BGM:A Tair)

 Lim 「ちはやさんはこれからこの部屋で暮らすのね」
 ちはや2「兄さんにも迷惑かけたくないし やっぱり無人の道場に生活臭がしたら変でしょ」
 私   「どちらかと言うと・・・・御使いが普通に生活してる方が変だと思う」

 ちはや2「まだ、この子天使の生活に慣れてなくて・・・・・
      食べなくても、眠らなくても平気なのに・・・・・
      身体なんて・・・・とっくに無くなっているのに 認めたくなくて」

 Lim 「ちはやさん・・・・・」
 ちはや2「永遠(とわ)・・・神代永遠はね 人間の私はね 部長と一緒に死んだのにね」
 私   「”生まれ変わった”なんて思わない方がいいよ
      それじゃ”元に戻れない”って諦めてる事になるよ」

 ちはや2「そうよ・・・何を悔やんでも私の部長は帰って来ない
      あなたに部長を生返らせる事が出来て?
      それが出来るのなら私は悪魔に魂を売ってもいいわ」

 Lim 「あのぅ・・・ちはやさん・・・・ドサクサに紛れてトライに告白してません?」
 ちはや2「あら ばれた?」

んべっと舌を出すちはや2

 ちはや2「この人 私の目の前で何人か生返らせてるから・・・
      アカネちゃんでしょ 藍さんでしょ モーちゃんでしょ・・・・・」
 Lim 「藍? モー? 誰? それ?」

 私   「藍・・・・そうなのか?」
 ちはや2「そーなの あの時あなたが斬り殺した雑兵天使の中に私も居たの」
 Lim 「・・・・・死んだり 生返ったり 寝返ったり 堕ちたり 忙しいわね」
 ちはや2「もうあなたに逆らう気は無いわ 殺されるのはたくさん それに・・・・」
 Lim 「それに・・・・トライに付いていたほうがいい事がある?」
 ちはや2「そう! 部長を助けてくれたお礼もしたいし」

 私   「なんか・・・身に覚えの無い事を言われている様な そうでない様な・・・」
 ちはや2「酷い! 私の事は遊びだったって言うのね!」
 私   「やけに俗っぽい御使い・・・」
 Lim 「品の無い天使・・・・」

 ちはや2の言葉に反応するちはや

 ちはや 「悔い・・・改めな・・・さい  女性を・・・弄ぶ・・・など・・・あれ?」

ちはや2の膝から頭を上げてきょろきょろと辺りを見まわすちはや

 ちはや 「あれ? ぶちょうは?」
 ちはや2「ちはや いい夢見れた?」
 ちはや 「そう・・・よね・・部長は・・・・私が・・・・」

私の方に向きなおすちはや

 ちはや 「あなたの事を認めたわけじゃありませんから!」
 ちはや2「あら ちはやちゃん 挨拶はそれだけ?」
 ちはや 「あの・・・・部長の事はありがとう ございます」
 私   「やっぱり・・・身に覚えの無い事を言われている様な・・・」

 ちはや2「ちはやも目を覚ましたし そろそろ私は帰るね ちはやちゃん判ってるわね?」
 ちはや 「そんな事 納得出来ない 出来るわけ無い」
 ちはや2「あら・・・部長が助からなくてもいいの?」
 ちはや 「それは・・・・あなたには天使の・・・光の巫女の誇りは無いんですか!」
 ちはや2「無いわよ そんなプライドが部長を助けてくれて?
      いいえ あなたはそんなモノの為に部長を手にかけたんでしょ」

 私   「流石に自分自身だけあって1番弱い所を攻めますな」
 LIM 「ちはやさんに説得されたちはやさんがちはやさんを説得してるちはやさんなのよね
      なんか・・・・とっても複雑・・・・」

 ちはや 「くっ・・・・」
 ちはや2「部長どうなってもいいならあなたの好きにしなさい
      そのかわり後悔するのも止めなさい 私が惨め過ぎるもの」
 ちはや 「でも・・・私は・・・天使・・・」

ちはや2はちはやが握っていたメモリーカードを取りゲーム機にセットして
ネットゲームを起動する

 ちはや2「リムさんこのゲーム この子に譲ってあげてね
      大丈夫新しいのをきっとそこのパトロンが買ってくれるわ」 
 私   「パトロン・・・・私は愛人じゃなくて恋人・・・」
 ちはや2「”仮初めの”恋人なんだから・・・・愛人と大して変わらない
      どーせ、今は本気で付合う気じゃないでしょ 御二人さん」
 私   「いったい何処まで知ってるんだ?」
 ちはや2「全部よ 全部」
 私   「・・・・・・」

呆然とする私とLimを尻目にネットゲームを操作するちはや2

 ちはや2「このゲームの向こうには結構気のいい仲間がいてね・・・・
      楽しく遊んでくれるわよ」
 ちはや 「仲間?」
 ちはや2「そーね、Limとかトライシーカーとかね」

はっとして私とLimの方を向くちはや

 ちはや 「その人達って・・・・・」
 ちはや2「これはただのネットゲーム 現実で操作してるのが誰かなんて
      野暮な事は言いっこ無しよ 788にとってはLimとトライでしかないの」

こつんとちはやの頭を小突くちはや2

 ちはや 「痛・・・・・」
 ちはや2「その堅い頭をなんとかしなさい
      でないとさっきのマッサージをまたするわよ」

ガシっと両手でちはやの頭を鷲掴みにするちはや2

 私   「今度は自分を脅してる」

 ちはや 「うぅぅ・・・・」

ついに観念して頷くちはや

Crying 今は見えなくても Seaching 人を変えて行く       *
I wanna have a pure time.              *
Everyones noble mind.                 *

(BGM:遠いまなざし)
 ちはや2「さてとちはやはこれでOK 次はリムさんね
      ねぇ、あなたちゃんとリムさんの面倒見てあげてね」
 私   「私はLimを連れて帰ればいいのかい? で、Limさんのご意見は?」

 Lim 「え??? ええ!」
 ちはや2「今更・・・・・うろたえるような仲でもないでしょうに 付合ってるんでしょ?」
 Lim 「で・・・でも・・・その」
 ちはや2「彼と一緒に居る事が不安? 見られたく無い自分を晒すのが不安?」
 Lim 「・・・・・・」

私の方へ向き直すちはや2

 ちはや2「だそうです どうします?」
 私   「どうもこうも無い 無理強いはしたくない
      それに今まで通りここで暮らしても問題は無いだろ?
      独り暮しが2人暮しになるだけだ」

 ちはや2「せっかく人が気を利かせてやってると言うのに
      そーゆー事を言うかね この朴念仁が」

 ちはや 「これが・・・・本当に私?」

まじまじとちはやを眺めるLim

 Lim 「・・・・・・あのちはやさんにこんな時代もあったのね」
 ちはや2「あらぁ・・・・リムちゃんったら安心しきってそんな生意気な事言うのね
      でもね彼は”リムさんに任せる”って言ってるのよ卑怯な男よね」

 Lim 「え?・・・・・・」
 ちはや2「リムさんは彼を受け入れるの?拒絶するの? どっち?」
 Lim 「あ・・・・・・」
 ちはや2「リムさんが先に彼を捨てたのなら彼に捨てられても文句は言えないわね?」

 ちはや 「そんな脅迫まがいの事は止めなさい あなたは・・・・」
 ちはや2「あら、2人の仲がこじれたら部長がどうなるか判ってる?」

プルプルと青筋を震わせるちはや

 ちはや 「あなたは・・・絶対に 私じゃありません!」
 ちはや2「・・・私には部長しかいなかった事を思い知った時に
      あなたにも私の気持ちが判るわ
      あなたの信じる正義がどれだけ薄っぺらな物かを思い知った時に・・・・
      そんな物の為に部長を手にかけた事を思い知った時に・・・・」

 ちはや 「そんな事はありません」
 ちはや2「なら、今はそういう事にしておいてあげるわ」

ちはや2翼を広げてふわりとし浮き上がり見下す様にLimに視線を投げる

 ちはや2「で、リムさん 彼にお持ち帰りしてもらう?
      それとも、この部屋に残る?」

ちはや2そのまま天井を突き抜けて退場

 Lim 「私は・・・・」                          &

乾く唇 濡れているなら刻を乗り越え熱い時代へと移るだろうと信じているから   *
Believe sign of Z                      *
beyond the hard times from now.        *

暗転

*出典:「機動戦士Zガンダム」より 「Z・刻をこえて」

&:「お持ち帰り」を選択した場合は   〜 ***** 〜 (Limシナリオ)へ
  「部屋に残る」を選択した場合は   〜 ***** 〜 (ちはやシナリオ)へ


〜 あとがき (I)〜 

長かったですぅ・・・・途中めいっぱい煮詰まったですぅ
複数タイプに完全変形するヒロイン同士の絡みは・・・・・頭痛いですぅ

劇中のネットゲームはめいっぱいPSO(ファンタシー・スター・オンライン)ですぅ
なのでゲーム機はドリーム・キャストですぅ
でも劇中(1998年春)はサターンの時代なので・・・へへへ

で私がちんたらちんたら書いている間に世間様ではONEフルボイスが出
ONE2のリメイクが出 ONE祭りかと思いきや今一つ盛り上がりに欠けて・・・とほほ

次回予告 礎:灯(TOMOSHIVI) 後編 Limシナリオ

なんだけど・・・・ちょっとインタバール置きます
今回 煮詰まっちゃった反省でもう少しキャラを練り込んでから手を付けます

多分その間某天使のお話がTV版30分シナリオとして出てくると思うでし

ちゃんちゃん


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