この小説はTacticsより発売されたWindows95用ゲーム「ONE〜輝く季節へ〜」をもとに作成されています。
 ゲーム中のテキストから引用した文章、あるいは改変された文章が含まれています。


いつもそばにいる君へ(前編)

 きーっ。
 金属のきしむ音。
 錆びた鉄と汗の匂い。

「ずっと……一緒だと思っていた」

 きーっ。
 金属のきしむ音。
 錆びた鉄と汗の匂い。

「幸せは終わらないと思っていた」

 きーっ。
 金属のきしむ音。
 錆びた鉄と汗の匂い。

「永遠はあると信じていた」

 きーっ。
 金属のきしむ音。
 錆びた鉄と汗の匂い。

「でもそんな物はなかったんだ」

 きーっ。
 金属のきしむ音。
 錆びた鉄と汗の匂い。

「永遠なんてなかったんだ」

 きーっ。
 こーっ。

「永遠はあるよ」

 きーっ。
 こーっ。

「永遠はあるんだよ」


「こらっ! 浩平! 早く起きないと遅刻するよ!」
 ぐらぐらぐら。
 身体が揺れる。
 まさか地震か?
 それなら早く逃げないと! ……んなバカな。どうせ長森が俺を起こそうとしているに決まってる。
「浩平、おはよう」
 俺が身体を起こすと、長森は何がそんなに嬉しいのか、にこにこ笑って俺の顔をのぞき込んでいる。
「ほら、起きたらベッドから出て顔洗って……」
「くかーっ」
「ちょっと浩平! ベッドに座ったまま寝ないでよーっ」

 結局、二人で学校まで走る事になった。
「長森がしっかり俺を起こさないから、遅刻寸前じゃないか!」
「浩平がすぐに起きないからだよっ!」
 俺が家の事情でこの街に引っ越してきて、一番最初に話しかけてきたのがこの長森だった。
 それ以来、何かと俺につきまとっては世話を焼きたがる変な女だ。
 時々うざったく思う時もあるが、それで色々助かっている。
「間に合わなかったら長森のせいだからな!」
「えーっ! どうして私のせいなのよ!」
「何でもいいから長森のせいなんだ!」
「違うよ! 浩平のせいだよっ!」

 何だかんだと滑り込みセーフで学校に着いた。
「ふう、何とか間に合ったな」
「まだ心臓がドキドキしてるよ」
「いい運動になっただろ」
「はあ……浩平の彼女になる人は、きっと運動不足にならないよ」
 口の減らない奴だな。
「八時半までに教室に行かないと遅刻だぞ」
「うん、急がないとね」

「おはよう、お二人さん」
 教室に駆け込んだ俺達に、同じクラスの氷上シュンが話しかけてきた。
 見た目が軟弱そうな男で、友達は少ない。
「今日も二人で登校か。仲がいいんだね」
 仲がいい? そんなの初耳だぞ。
「そんな事ないよ。浩平は誰かが起こしてあげないと学校に来れないから、私が起こしてあげてるだけだよ」
「長森、好き勝手な事言うな。お前が起こしに来なくたって、俺は一人で……」
「一人で?」
「……………」
 起きれないな。絶対に。
「ねえシュン君、誰かしっかりした女の子知らない?」
「どうして?」
「浩平の恋人にピッタリの女の子」
「うん……そうだね。考えておくよ」
 二人して好き勝手言うなよ。全く……あ、チャイムが鳴った。

 あっという間に昼休みだ。
 ずーっと居眠りしてたから、一瞬のように思えるぜ。
 さて、売店行ってパンでも買ってくるか。
「ねえ浩平、お昼一緒に食べようよ」
 長森だ。手に小さな弁当箱を抱えている。
「嫌だよ」
「えーっ、どうして?」
「お前に構ってるヒマなんかない。売り切れちまう」
 ふくれっ面をする長森を置いて、俺は売店まで走っていった。
 ふう。走った甲斐があった。何とか充分な食料を買い込む事ができた。
「あ、浩平? お昼買えた?」
 長森……お前、いつのまに俺のストーカーになったんだ?
「……………」
 こうなったら無視してやる。俺は無言で歩き始めた。
「ねえ浩平、お昼一緒に食べようよ」
「……………」
「ねえ浩平、どこ行くの?」
「……………」
「ねえ浩平、聞いてるの」
「……………」
「ちょっと浩平!」
「……………」
「浩平ってば!」
「……………」
 こいつ、どこまで付いてくる気だ?
 自分でもよく分からないうちに屋上に着いていた。
「あ、わかった! 屋上で景色を見ながら食べるんだね!」
「……………」
「でも浩平、ちょっと寒いよ〜」
 ちょっとどころじゃないぞ、この寒さは。
「さて、飯でも食うか」
 適当な場所に座ってパンの袋を破る。
 長森も当然のように俺の隣に座って弁当を広げる。
「う〜、本当に寒いよ〜」
 しかも冷たい牛乳なんか飲んでるんだから。救いようのない奴だ。
「そんなに寒いんなら、教室で食えばいいのに」
「じゃあ浩平はどうして教室で食べないの?」
「……………」
 何だかつまんない意地を張ってひどい目にあっているような気が……。
「なあ長森」
「なに?」
「よくそんなちっちゃい弁当で腹いっぱいになるな」
「浩平こそ毎日パンばっかりだと栄養失調になっちゃうよ」
 ……確かにここ数日、パンばっかりだったような。
「今度、私がお弁当作ってきてあげようか?」
「いらねえよ」
「えーっ、どうして?」
「恥ずかしいじゃないか」
「よく私のお弁当からおかず取るくせに!」
「いちいち細かい事言うな……じゃあな、俺はもう食い終わったから、先行くぞ」
「あーっ、待ってよ! 私、まだ食べ終わってないよ!」
「相変わらずトロい奴だな」
「浩平が早いんだよ。パンだけだし」
「しゃーねーなあ。食い終わるまで待っててやるから、さっさと食え」
「うん」
 ……よく考えたら、俺が待ってやる必要がどこにあるんだ?

 放課後だ。これから部活の長森はほっといて、寄り道でもして帰るか。
「浩平君」
 振り返ると、氷上シュンが立っていた。そういえばこいつ何が楽しいのか、いつもにこにこ笑っているな。
「良かったら一緒に帰らないか?」
「別にいいけど……家って一緒の方向だっけ?」
「そうだよ」
 そうだったのか。全然知らなかった。

 シュンと並んで外に出ると、辺り一面、夕焼け色に染まっていた。この日最後の陽光が街路樹や人影に投げ掛けられ、地面に長い影を落としている。
 夕暮れの街を歩いていると、どうして泣きたいような気持ちになるのだろう。別に夕暮れに辛い思い出があるわけでもないのに。
「浩平君」
「なんだよ」
「こう考えた事はないかい? 自分の周りの世界はみんな誰かが作った偽物で、自分一人だけがその事を知らないで生活している。
 周りの人はみんなその事を知っているけど、僕をだますために知らないふりをして生活しているって……」
「誰がそんな暗い事考えるかよ」
「いや、そんなはずはないよ。きっと君だって同じ事を考えていたはずだ」
「考えねえよ」
「それなら知らないか忘れたか……きっと覚えていないだけだよ」
「……………」
 なに考えてるんだ? こいつは。
 探るようにシュンの表情をうかがったが、いつもの笑顔は変わらない。
「そんな暗い事ばっか考えてるから、友達ができないんだぞ」
「そうだね。僕の場合はきっと……でも君だって同じ事を考えていたはずだよ」
「どうしてそう思うんだよ」
「だって僕と浩平君はよく似ているから……おっと、一緒に帰れるのはここまでだ。じゃあね」
「……………」
 俺とシュンが似てる? 一体どこが?

「こらっ! 浩平! 早く起きないと遅刻するよ!」
 長森の声。
 俺は布団をがばっとはねのけて上半身を起こした。
「おはよう、長森」
「す、すごい! 今日は一瞬で起きた!」
「ハッハッハッ! この折原浩平に不可能はない! ではさっそく学校に行くぞ!」
 俺はベッドから下りると、部屋を飛び出した。
「あ、ちょっと浩平! 急ぐと足を滑らせて……」
 ドンガラガッチャン……。
「あ〜あ、やっぱり寝呆けてたんだ。階段から落ちちゃった」

「ほら、浩平! 急がないと遅刻するよ!」
「イテテテテ……長森! そんなに腕をひっぱるな! 俺は階段から落ちて身体中が痛いんだぞ!」
「寝呆けてた浩平が悪いんだよ!」
「俺は知らないぞ!」
「覚えてないだけだよ!」

 ふう、なんだかんだでぎりぎりセーフ。
 いやあ、世の中ってのはうまくできてるなあ。

 さあ授業が始まった。
 昨日は一日中寝てたから、今日は頑張って勉強するぞーっ。
 ……………。
 …………。
 ………。
 ……。
 …。
 飽きた。やっぱり寝る。
 ぐーっ。

 待ちに待った昼休みだ!
 ……………。
 俺はこんなちっぽけな小麦粉のかたまりのために生きているのか?
 なんだか虚しくなってきた。
「浩平、お昼一緒に食べようよ」
 長森だ。
「やだよ。しっしっ」
「私は犬じゃないよ!」
「俺は今、窓の外の景色を見てアンニュイな気分で昼飯を食べたいんだ」
「アンパンとウインナーロール食べながら? 似合わないよ」
「うるさいな。いいからあっち行け」
「もう……」
 長森はぶつぶつ文句を言いながら行ってしまった。
 ふう、これで今日は一人静かに昼飯を食える。
「浩平君、今日は一人なのかい?」
 ……隣の席がシュンだった。忘れてた。
「たまには一人で昼飯を食いたい時もあるんだよ」
「そういう物なのかな」
「お前にはないのか?」
「僕はいつも一人だから」
 ……こいつ、寂しいぞ。
「でも浩平君が羨ましいよ。長森さんみたいな人がいて」
「あいつはただの幼なじみだよ」
「僕にもああいう人がいたら……もしかしたら……」
「なんだお前、長森が好きなのか?」
「そういう事じゃないよ。僕には幼なじみなんていえるような人はいないから」
「友達もいないじゃないか」
「そうだね」

「こらっ! 浩平! 早く起きないと……」
「おはよう」
「……………」
「どうした、長森」
「こ、浩平が早起きしてる……」
「おう。しかもきちんと椅子に座ってコーヒー飲んでるな」
「……………」
「さて、そろそろ学校に行くか」
「う、うん……」
「まだ驚いてるのか。しょうがない奴だな。明日からは迎えにこなくていいかもな」
「うん、そうかもね。これからも真面目にしていれば、きっと彼女ができるよ」
「まだそんな事言ってるのかよ……うっ!」
「ど、どうしたの?」
「急に腹が……トイレトイレ……」
「良かった。やっぱり本物の浩平だ!」
「どういう意味だ!」

「長森、同じクラスに氷上って奴がいたよな」
「うん」
「あいつ、お前に気があるかも知れないぞ」
「えーっ、嘘だよ。シュン君とはあんまり話した事もないのに」
「いや、話した回数は問題じゃないぞ。一目見た時から始まる恋、とか」
「でも私のタイプじゃないよ」
「そういや長森って、どんな男がタイプなんだ?」
「え? 私のタイプ? う〜ん、え〜と……運動神経が良くて……」
 うん、まさに俺にピッタリだ。
「優しくて……」
 うん、まさに俺にピッタリだ。
「強くて……」
 うん、まさに俺にピッタリだ。
「だらしがなくて……」
 う〜ん、それは違うなあ。
「ちょっと鈍感で……」
 う〜ん、それも違うなあ。
「他の人より傷付きやすい人」
 なんだそりゃ? よく意味がわからん。
 え〜と、全部合わせると……運動神経が良くて優しくて強くてだらしがなくてちょっと鈍感で他の人より傷付きやすい人?
「長森、あきらめろ。そんな妙な男は世界中探したって存在しない。だからお前には一生、恋人はできないな」
「……………」
「なんだその呆れきった表情は」
「……ううん、なんでもないよ」

 さあ授業が始まった。
 今日も一日、はりきって居眠りするぞーっ。
 ぐーっぐーっぐーっ……………。
 ぐーっぐーっ……………。
 ぐーっ………………。
 ……………。
 ………。
 ……。
 …。
 ばきっ。
 イテッ。
 誰だよ。人が気持ち良く熟睡していたのに……。
 げっ。担任のヒゲじゃないか。
「折原、今日もよく居眠りしてるなあ」
「いやあ、それほどでもありませんよ。ハッハッハッ」
 なんだか周囲の空気が急速に冷え込んでいく……。
「どうせ授業を聞く気がないなら、氷上を保健室まで連れていってやれ」
 氷上? ありゃ? なんだか顔色が悪いな。
 こりゃ保健室に行った方がいいかも。
 面倒くさいけど……別にいいか。授業聞かなくていいし。

 せっかく保健室まで連れてきたのに、保健の先生はいなかった。
 ちえっ、ついてないなあ。
「大丈夫だよ。横になってれば良くなるから。浩平君は先に教室に戻ってよ」
 シュンはそう言うが、先に帰るのも心配だ。
「いや、保健の先生が戻ってくるまで待つよ」
「そうか、嬉しいよ」
「決して授業に出るのが嫌だからじゃないぞ」
「ふふ、それが君らしい」
 ちえっ、知ったふうな口聞くなよ。
「僕ね、子供の頃はひどく病弱だったんだ」
 シュンが何やら話し始めた。
「今だってそうじゃないか」
「今は病弱じゃなくて虚弱……まあ似たような物か。それで子供の頃はしょっちゅう熱を出して寝込んだりしてたんだ」
「ふーん」
「生まれたばかりの頃は、この子は三歳まで生きられない、三歳になると五歳までは生きられない、五歳になると十歳までは……って言われてたらしい。子供の頃の話だからよく覚えてないけどね」
「なんだか大変だなあ」
「本題はこれからだよ。周りからどう思われていたかはよく覚えてないけど、一人でベッドに入る前、やけに不安になった事は覚えている。
 今から眠って……もう二度と目が覚めないんじゃないか、このまま目を覚ます事なく死んじゃうんじゃないか……って」
「……………」
「今でも時々、同じように不安になる事があるんだ。目が覚めた時、そこには誰もいないんじゃないか、家族も、友達も、この街も、僕一人を置いてどこかに消えてしまうんじゃないか、ってね」
「……………」
 気が付くと俺は、息を飲んでシュンの話に聞き入っていた。
 シュンが一人抱えた、くだらない妄想。
 特に話すのがうまいわけでもないのに。ただの妄想に過ぎないのに。
「君も同じように考えた事はないかい?」
「ないよ」
「そうかな?」
「大体、俺はお前と違って身体は丈夫なんだ。そんな弱気な事は考えねえよ」
「それなら知らないか忘れたか……きっと覚えていないだけだよ」
「またわけわからん事を言う。お前がどれだけ俺の事を知ってるっていうんだよ」
「みんな知ってるよ。君の事は何もかも。だって君と僕は同じ目をしているから」
「……………」
 俺は呆然と口を閉ざし、シュンはただ嬉しそうに、でもどこか寂しそうな笑顔で俺を見ている。
 ドアが開いた。保健の先生が帰ってきたようだ。
 動揺した心を隠すように、俺は意識して明るく言った。
「んじゃ俺はそろそろ教室に戻るぞ……それからな、シュン。そんな縁起でもない想像をしているヒマがあったら、運動して身体でも鍛えておけ」
「そうだね。ぜひそうするよ。今度からは……今度っていう物があったらね」

「こらっ! 浩平! 早く起きないと遅刻するよ!」
 長森の声。
 ゆさゆさゆさ。
 どうせ長森の奴が俺を起こそうと俺を揺すっているのだろう。
 しかしそう簡単に起きては楽しくない。
 根性だ! 根性で寝続けてやる!
 ぐーぐーぐー。
「浩平、早く起きてよ〜」
 ぐーぐーぐー。
 ゆさゆさゆさ。
「本当に遅刻するよ〜」
 ぐーぐーぐー。
 ゆさゆさゆさ。
 長森め、なかなかしつこいな。
「ね〜、早く起きてよ〜」
 ぐい。
 ほっぺたを左右にひっぱられた。痛い。
「遅刻〜」
 ぐい。
 必死で閉じているまぶたを開かれた。
 たぶん白目をむいただろう。自分じゃ見えないけど。
「はあ、どうしよう……」
 腕を組んで困っている。
 長森の奴、そろそろあきらめるかな?
 そろそろ起きてやろうか。
「こうなったらしかたない……えいっ!」
 長森は右手で鼻をつまんだ。
 んが。
 こうなったら口で呼吸を……。
 ばふっ。
 布団の上から口をふさがれた。
 むぐ。
 ……………。
 …………。
 ………。
 ……。
 …。
 んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ〜〜〜〜〜。
 ぶはっ。
 やっと呼吸ができるようになった。
「長森! 俺を殺す気か!」
「あーっ、やっと起きた!」
 長森! 頼むからはしゃがないでくれ!
 マジで死ぬかと思ったんだぞ!

「浩平、明日はクリスマスだね」
「え〜? なんだって?」
 学校へ走っていると、長森が話しかけてきた。
 走りながらだと会話しづらい。
「もうすぐクリスマス!」
「ああ、そんな日もあったっけ」
「浩平はどうするの? クリスマス」
「予定ならねーよ」
「ふ〜ん」
「長森は? 友達と一緒か?」
「そのつもりだけど……やめてもいいよ」
「やめてどーすんだよ。一緒に過ごす男もいないくせに」
「……う、うん、そうだけど……」
「ほれ、急がないと遅刻するぞ」
「うん……」

 放課後。
 ふう、これでやっと二学期の授業が終わった。明日から冬休みだと思うと、ウキウキするぜ。
「浩平君、良かったら一緒に帰らないか?」
 氷上シュンだ。
「おう、いいぜ」

「浩平君、明日のクリスマスはどうするんだい?」
「どうするって? ……パーティーの誘いなら断るぞ。野郎ばかりのパーティーに出席するつもりはないからな」
「そうか。やっぱりね」
 何故か一人楽しそうにうなずくシュン。
「やっぱりって?」
「瑞佳さんと一緒なんだろ?」
「瑞佳……ああ、長森の事か。どうしてあいつと一緒なんだよ」
「え? 瑞佳さんと付き合ってるんじゃなかったの?」
「あいつはただの幼なじみで、恋人でもなんでもない。それにあいつだって、友達とパーティーをやる予定なんだよ」
「ふ〜ん、そうだったのか……」
 おいシュン、どうしてそこで寂しそうな顔するんだよ。

 ふふふふふ、今朝は長森が来る前に目が覚めたぜ!
 いやあ、今日から冬休みだと思うと、ついウキウキして早起きなんかしてしまうんだよな。うん。
 さて、ただ長森が来るまで待っていても楽しくない。
 何か楽しいアイデアはないか……。
 よし、先に学校に行く事にしよう。
 いざしゅっぱーつ。

 でも長森が遅刻したら悪いよな。
 終業式に遅刻するなんて、カッコ悪いの極致だし……。
 まあいっか、どうせ笑い者になるのは俺じゃないし。

 結局、長森は遅刻ギリギリで教室に駆け込んできた。
 おーっ、にらんでるにらんでる。
 せっかくだから手でも振ってやろうか。

 さて、終業式も終わった。帰るか。
「浩平、一緒に帰ろうよ」
 長森だ。にこにこと楽しそうに笑っている。
「お前、部活じゃないのか」
「終業式だからやすみだよ」
「これから友達の所じゃないのか?」
「一回家に帰って、着替えてからだよ」
「ふーん」
「だから一緒に帰ろうよ」
「やだ。俺は一人で帰りたい気分なんだ」
「あー、ちょっと待ってよ!」
 俺は長森を置いて教室から歩き去った。
 さて、帰ってもヒマだからゲーセンでも行ってくるか。

「はあ〜、退屈だなあ〜」
 ポテチをつまんでテレビを見ながらソファに寝転がっていると、なんだか情けない気持ちになってきた。
 今夜はクリスマスだってのに一人きり。
 恋人がいる奴は、今ごろ二人で楽しく過ごしていたりするんだろうなあ。
 ちくしょう。俺も恋人の一人でも作っておけば良かった。
 ピンポ〜ン。
 チャイムが鳴った。
 一体誰だ? こんな時間に。
「はいは〜い」
 玄関のドアを開けた。
「こんばんは!」
 にこにこ顔の長森が立っていた。
「あがっていい?」
「ああ、いいけど……」
「お邪魔しま〜す」
 俺の返事を聞くと、長森は勝手に家に上がり込む。
「おい長森、今日は友達とパーティーじゃなかったのか?」
「もうとっくに終わったよ。ほら、これ見て」
 いつのまにかテーブルの上にケーキが置かれていた。
 クリスマスケーキが四分の一だけ。
「あまったからもらってきたんだよ」
「お前なあ、相変わらず貧乏性だなあ」
「浩平、マッチかライターどこ?」
 ちえっ、俺の言う事なんか聞いてねえな。
「確か台所の戸棚に……」
「あ、あった」
 長森はマッチを持って戻ってくると、手際よくケーキにローソクを立てて火をつけ、部屋の電気を消した。
「ほら浩平、ふ〜ってやって。ふ〜って」
「やだよ。長森やれよ」
「私はもうやってきたもん。ほら浩平、早く!」
 本当にしようがない奴だなあ……。
 やればいいんだろ。やれば。
 ふ〜〜〜〜〜っ。
 パチパチパチパチパチ。
「じゃあ食べようか。えーと、包丁包丁」
 長森はまた台所に戻っていく。
 ま、何かと口うるさい奴だけど、一人よりは寂しくないからいいか。


いつもそばにいる君へ(前編) 了
後編に続く


あとがき

 ど〜も、wen-liです。
 「いつもそばにいる君へ(前編)」いかがだったでしょうか。

 断っておきますが、私はこのゲーム、あんまり好きじゃありません。
 NewsGrupeで話題になったので買ってみましたが、あんまり感動できず、悔しいのでさんざん「ここがダメ、あそこもダメ」と投稿しまくりました。
 でも結局、言いたい事があんまり伝わらなかった気がして、「よ〜し、それなら自分で書き直してやろうじゃないか!」と思って書き始めたのがこの小説です。

 本当は最後まで書いてから公開したかったのですが、予定より長くなりそうで、さらにホームページそのものもさっさと公開したかったので、前後編、分割しての公開になりました。
 小説の内容についてのあとがきは、後編までとっておきます。
 ご意見、ご感想についても後編が公開されるまで待っていただけると幸いです。

 でわでわ。


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