殺 (AYAME)〜礎:贄(NIE)・藍シナリオ外伝 〜
久部蝉
目次
〜 アンダー・ザ・テーブル 〜
〜 デコイ 〜
〜 夕立 〜
〜 欲望の陰 〜
〜 あとがき 〜
〜 アンダー・ザ・テーブル 〜
どこかの庭:麦わら帽子を被って草むしりをしている男
男 「暑い・・・暑いぞ・・・・雑草が蔓延りやがって・・・・・」
Limの部屋:ちゃぶ台を挟んで、アカネとLim
ちゃぶ台の上には番茶と皿に盛られた串団子
(BGM:雨)
アカネ「あなた達に始末して欲しい人が居るの」
詩子 「あたしとリムさんに? どうして?」
アカネ「人間の女の子だから・・・・」
Lim「誰を始末するの?」
アカネ「判らない・・・・けど 茜が狙われるから」
藍 『茜が狙われるのに 私に声をかけないなんて・・・・』
アカネ「私や姉さんは人間じゃないから・・・・・」
藍 『痴漢は人間の女の子が好き? でも・・私は2人よりは役に立つわ』
Lim「失礼ね・・・藍 私に勝てる?」
ちゃぶ台の串団子を頬張るLim 姿を現す藍
藍 「私が勝ったら代わって」
詩子 「そうね・・・藍が勝ったら 私がリムさんと代わるわ
リムさんが勝ったら 藍と代わるわ」
アカネ「詩子・・・私の事・・・馬鹿にしてる?」
詩子 「どう考えても 藍とリムさんが適任じゃない?
囮兼実戦部隊なんでしょ?」
アカネ「うぅぅぅ・・・エサは新鮮な方がいいのぉ」
詩子 「大丈夫 疑似餌で見事釣り上げてみせるわ」
藍 「それはそれとして リムさん勝負して・・・」
Lim「・・・・藍さん・・・・もしかして欲求不満なの?」
藍 「血が騒ぐの」
Lim「トライは・・・相手して・・・・
んー・・・トライは手合わせなんかしないか・・・」
Limはもう一本串団子を方張る
藍 「私・・・・淋しい・・・」
Lim「模擬戦ね・・・いつでも付き合うわ」
2本の団子の串を手に収めるLim
Lim「空き地へ行きましょうか・・・・・」
商店街の傍らにある質素なアパート 玄関の脇に置かれている土間ほうきを手にして
アパートを出る藍
路地:
詩子 「藍が持ってるの100円ショップのほうき?」
Lim「ちょっと・・・生活苦しいから・・・・・」
詩子 「あいつに養って貰ったら? 金回りだけは良さそうだし」
Lim「詩子・・・・私にもプライドはあるから・・・・」
詩子 「ま、どーでもいいんだけどね でも・・・リムさんが消えちゃった時に
誰がリムさんが消えた事に気が付くのかな?って思ってね」
Lim「たぶん・・・誰も気が付かない・・・・・」
詩子 「だけど 誰かがリムさんの側にいたら
リムさんが消えるの食い止めてくれないかな?」
アカネ「誰か・・・誰? 先輩、姉さん、詩子、私・・・・
姉さんは先輩を見張ってるんだし・・・・詩子はダメだし・・・
私は・・・・・」
詩子 「リムさんの経済状態だと・・・2人は暮らせないよね?」
Lim「だから・・・トライに養って貰えって?」
詩子 「リムさんが居なくなったら・・・あいつが一番哀しむんだろうな
あいつ・・・忘れるって事が出来ないから・・・・・」
アカネ「詩子・・・でも、どうして」
詩子 「あいつの辛そうな顔見たくないから・・・・
たぶん・・・なんであいつが辛いのかが判らなくなってるから
・・・・藍の時みたいに・・・・・」
藍 「・・・・着いたわ・・・・空き地」
空き地(BGM:A Tair)
空き地に対峙している藍とLim 脇で応援モードの詩子とアカネ
土間ほうきを中段に構える藍 2本のだんごの串を両手にそれぞれ逆手に握るLim
Limに向かって前傾して踏み込む藍
袈裟懸けに斬り付ける 藍の剣圧にほうきのシュロの毛が飛び散る
藍の斬撃に向かってサイドステップを踏んで間合いを詰めるLim
ほうきがLimが居た筈の場所を斬る 斬り付けた体勢から
回避したLimに向かって逆袈裟で追い打ちをかける藍
その藍の腕をLimのエモノがかすめる
逆袈裟を真上に跳ね上げて凌ぐ藍
回り込んだLimの左のエモノが藍の喉を突く
Limの左の猫手が振り下ろされる
弾け飛ぶ様にバックステップで緊急回避を試みる
緊急回避の着地に失敗する藍
藍 「とんでもなく速いわね・・・トドメは刺さないの?」
Lim「私の身体能力は高くないから・・・・・追撃はダメよ」
藍 「敵にそんな事言っちゃっていいの?」
Lim「藍さんは味方でしょ・・・」
藍 「その割には容赦なかったけど・・・・・・」
喉の傷に手を当てる藍
Lim「竹串で幽霊が殺せるなら手加減したよ」
藍 「怖いわね・・・・でも・・・
あなたの間合いに入らなければいいのよね」
攻撃を一撃離脱に切り替える藍 しかし初段の攻撃はLimにかわされる
Limも藍に初段攻撃後即回避運動をとられると迎撃出来ない
路地を歩いている長いお下げの少女
少女は空き地で展開している土間ほうきと竹串のチャンバラに目を移す
少女 「あの子・・・藍」
Limの間合いの外から飛び込む藍 藍の斬撃を回避しないLim 藍に動揺が走る
藍 『リムさん!! よけて!』
寸止めをしようとする藍 体(たい)を右にさばくLim
Limの左のエモノが藍の喉を突く そして藍の背後に回り込んだLimの
右のエモノが藍の頸動脈を切り裂く・・・・
エモノが団子の串ではなく短刀であったのなら
パチ パチ パチ 拍手をしながら歩いてくる少女
少女 「久しぶりね・・・・藍」
〜 デコイ 〜
空き地:(BGM:勝利のポーズ)
少女 「それにしても凄いわね・・・・
総体全国優勝の藍に剣で勝てる子が居るなんて
体さばきはともかく、目と手は恐ろしく速いわね」
藍 「この街には私に勝てる人がもう一人居るの この子はその人の弟子」
少女 「藍の先生?」
藍 「ううん 高校生」
少女 「ここには、そんなに強い人が居るんだ・・・・楽しみね
藍 あんたあれから総体に出なかったね 身体 壊しでもしたの?」
藍 「うん・・・まぁ・・・そんなところ・・・・」
少女 「あたしも腰痛めちゃって・・・もう剣道やってないんだ」
アカネ「姉さん・・・この人誰?」
少女 「この子 藍の妹? あたしはね中1の剣道全国総体で藍と試合して負けたの
藍 あたしの名前覚えてる?」
藍 「権田藁蜂兵衛」
少女 「がぁぁ!! 誰が権田藁よ!!」
藍 「じゃぁ 池田屋主人惣兵衛」
少女 「あたしは江戸時代の人間じゃないわ!!
それに・・・男の名前で呼ばないで」
藍 「それなら・・・・・」
少女 「忘れたんなら 忘れたって言って!! ・・・・・あんた性格ちょっと変わった?」
藍 「七瀬留美」
少女 「まぁ・・・・いいわ・・・もうからかわないで」
藍 「留美がどうしてここに?」
七瀬 「あたしもうすぐこの街に引っ越して来るんだ
だから夏休みを利用してどの学校に編入しようか調べに来たの」
藍 「引っ越しはいつ?」
七瀬 「11月か12月」
藍 「いつまで居られるの?」
七瀬 「2、3日かな? でも藍があたしの泊まる所紹介してくれたら
もっと延ばしてもいいよ 夏休みだし」
Limに視線を投げる藍
藍 「リムさんの所はどぉ? 独り暮らしなんだけど・・・・
女の子の独り暮らしは私達も心配してたところなの」
七瀬 「藍よりも強いんなら心配ないと思うけど・・・・・えっとリムさんよろしくね」
Lim「こちらこそ・・・・留美さんしばらくこの街に居るんなら手伝ってくれない?」
七瀬 「何を?」
Lim「痴漢狩り」
七瀬 「いッ・・・・・痴漢狩りって この街って痴漢が出るの?」
Lim「そろそろ出るんだけど 出る前に先手を打っておこうと思ってるの」
七瀬 「え??? そろそろ?? 毎年夏になると痴漢が出るの????」
詩子 「アカネ、痴漢が出るの今年だけだったよね?」
アカネ「うん 連中はそう言ってたよ」
七瀬 「えぇっ?????」
藍 「とりあえず宿になるリムさんちに行くよ」
七瀬 「う、うん・・・???」
暗転
Limの部屋:一同(BGM:海鳴り)
七瀬 「ふーん ここがリムさんの家ね・・・・ゲーム機以外何も無いのね」
藍 「でも留美の部屋も似たようなモノじゃないの?
剣道グッズ以外何も無いんでしょ?」
七瀬 「藍の部屋と一緒にしないで・・・・・
でも・・・じゃリムさんって?」
詩子 「”刹那”の通り名を持っているゲーマー」
Lim「刹那なんて名乗った事無いんだけど・・・・私はLimだから」
七瀬 「通り名が付くぐらいのゲーマーね 通りで目と手が速い」
アカネ「それで痴漢撃退大作戦はどうする?」
Lim「そうね 詩子は里村さんに付いていて
里村さんが人気の無い所には行かないように気を付けてね
それと必要な武器は私が調達するわ」
藍 「・・・・武器?」
Lim「警棒タイプと剣タイプとどっちがいい?」
七瀬 「警棒がいいわ あたしは藍と違って殴る方だから」
藍 「剣タイプって?」
Lim「警棒と同じ振り出し式だけど断面が丸じゃなくて楕円なの
藍さんのモーションは打撃じゃなくて斬撃だからこっちの方が
合ってると思う」
七瀬 「リムさんってただのゲーマーじゃないよね?」
藍 「彼女の師匠は更にとんでもない人で・・・・
武器全般の知識に精通して しかも実際に使いこなせて・・・・」
七瀬 「そいついったい何処のテロリストよ!」
詩子 「この街に巣くってるフリーのテロリスト」
アカネ「そうなの 私達は先に痴漢を見つけないといけないの
じゃないと痴漢がテロリストに殺されちゃうから」
七瀬 「それで さっきは稽古してたの? 土間ほうきと竹串で?」
藍 「うん でもリムさんが私が追いつけないほど速いとは思わなかった」
七瀬 「最後の一撃 藍 あんたためらったでしょ」
藍 「だってリムさんに怪我させるわけには・・・・」
七瀬 「そこまで読んでたんなら 食えない子ね」
詩子 「明日から私は茜に付いてるわ アカネちゃんは連絡係をお願い
藍達は痴漢の燻り出しをよろしく」
アカネ「了解」
藍 「判ったわ 私達はこれで帰るわね リムさん留美をよろしくね」
Lim「うん じゃまたね」
詩子、藍、アカネ退場
どこかに電話をかけるLim
Lim「うん そうそう そっちの調査をお願い
それと例のヘアコームと警棒、護身用の中国剣を調達して」
七瀬 「今の電話 リムさんの師匠? それとも彼氏?」
Lim「うん まぁそんなところ」
七瀬 「え? どっちよ? ??両方?」
暗転
翌日 商店街:
人待ちのLim 少し離れて待機している藍と七瀬
住井登場
住井 「待った?」
Lim「遅刻ね」
住井 「厄介な買い物押し付けておいて そんな言い方しなくても・・・・」
Lim「でも遅刻でしょ」
住井 「はいはい 遅刻しましたよ で、これが注文の品」
紙袋をLimに手渡す住井
Lim「ありがとう・・・・それで情報は?」
七瀬 「あの人リムさんの彼氏?」
藍 「彼はリムさんが飼ってる情報屋 痴漢の事調べさせてるのかな?
あの紙袋・・・・武器の調達も頼んだみたいね」
七瀬 「情報屋って・・・リムさんって何者?」
藍 「昨日言ったでしょテロリストの弟子だって」
七瀬 「・・・・・冗談じゃなかったの?」
住井と別れて2人の所に歩いてくるLim
紙袋の中から警棒を取り出して七瀬に手渡す
Lim「留美さんスタンガン付きの方がよかったかしら?」
七瀬 「スタンガンって・・・・この警棒だけでも十分物騒だと思う・・・」
警棒を振り出してみる七瀬
Lim「これは藍さん用 必要だったらトライに頼んで刃を付けて貰うけど」
西洋刀剣の柄の部分だけのような棒を藍に手渡すLim
藍 「刃は要らない 斬るつもりなら最初からモーちゃんを使うわ」
七瀬 「藍・・・・トライって誰?」
藍 「リムさんの師匠兼恋人」
七瀬 「噂のテロリスト・・・・・」
Lim「あら・・・恋人なのは藍さんの方じゃない」
七瀬 「藍・・・・あんたもそんな危険人物と付き合いがあるの?」
藍 「とってもいい人よ」
七瀬 「・・・・・」
藍 「ねぇ リムさんのエモノ見せて」
Lim「はい」
2本のヘアコームの内1本を藍に手渡すLim
Lim「ペーパーナイフ付きヘアコーム」
藍 「普通ヘアコームにペーパーナイフなんて付ける?」
ヘアコームを抜く藍 ヘアコームの櫛の部分からプラスチック製の刃が現れる
藍 「タガー(刺突用の短剣)じゃないこれ・・・何処がペーパーナイフよ」
Lim「プラスチック製で金属探知器にも引っかからないから
飛行機に持ち込んでも平気」
七瀬 「ハイジャックでもするつもり・・・・・・?」
自分の首に手を当てて 生唾を飲み込む藍
藍 「昨日リムさんが竹串じゃなくてこれ使ってたら・・・・・」
刃を収めてヘアコームをLimに返す
七瀬 「痴漢の情報 何か有ったの?」
Lim「何も無いわね 流石にまだ動いてない痴漢の事は判らないわ
予定通り私達3人で痴漢を誘い出すのね」
七瀬 「あたしにも情報くれない? 藍とリムさんて同じ学校?
それで、どんな学校?」
藍 「私は学校に通ってないから・・・リムさんはすぐそこの高校
で、昨日会った詩子は隣の高校に通ってるわ・・・・」
七瀬 「学校通ってないって?」
藍 「私 一日数時間しか外出できないから学校には行けないの」
七瀬 「病気? でも 顔色は悪くは見えないけど・・・・
運動しても平気なの? だって・・・昨日・・・リムさんと」
藍 「心配しないで、私にあるのは外出の時間制限だけだから
制限時間内だったら何やっても平気・・・・・」
七瀬 「正義の宇宙人みたいな病気ね・・・・免疫不全とかそんなもの?」
藍 「まぁ そんなところね だから留美が来てくれて助かったのよ
私がタイムオーバーしたらリムさんが独りで痴漢を誘う事になったから」
七瀬 「じゃあ 藍 あたしがカラータイマープレゼントしてあげようか?」
藍 「丁重にお断りします」
七瀬 「そっか、リムさんの居る学校と詩子さんの居る学校か・・・・」
Lim「アカネちゃんも私と同じ高校よ」
七瀬 「じゃ決まりね」
藍 「そんなに安直に決めていいの?」
七瀬 「転校先に知り合いが居るって言うのは大切よ」
藍 「せっかく時間の都合付けたのに拍子抜けね」
七瀬 「え?」
藍 「こんな昼間から痴漢が出ると思って?
留美の転校先探すの手伝うつもりだったのに
こんなにあっさり決めちゃうなんて・・・・・」
Lim「痴漢は出ないけど・・・・幽霊なら昼間から出てたりして・・・」
七瀬 「幽霊???も出るの??? なんか退屈しない街ね」
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3人の脇を通りすぎる男
男 「暑い・・・・暑いぞ・・・・道端でキャンキャンがなりやがって・・・」
〜 夕立 〜
商店街:詩子と茜 アカネ(音声のみ)
(BGM:虹を見た小径)
詩子 「あぅぅぅ 暑いよぉ 茜どっかに入ろうよぉ」
茜 「嫌に空気がべたつきます 降り出す前に帰った方が良さそうですね」
詩子 「そんな事言わずに涼しい所に入ろうよ」
パタパタとスカートをはためかせる詩子
茜 「詩子 はしたない事はやめてください」
詩子 「だって暑いんだもん・・・・」
茜 「わかりました でも雨が降り出す前に帰りますよ」
詩子 「OK OK 茜大好き!」
ぬくれおちどに入っていく茜と詩子
アカネ『とりあえず異常無し・・・・と』
とある庭:刈り込みばさみで庭木の手入れをしている男
男 「暑い・・・・暑いぞ・・・・刈っても刈っても伸びやがって・・・・・」
ゲームセンター:藍、Lim、七瀬
七瀬 「藍・・・あたし達がリムさんに勝てるゲームって無いの?」
藍 「この間 私はパンチボールで勝ったわ
腕相撲でもやったら? 基礎体力なら留美の方が上でしょ」
横綱君に視線を投げる藍
七瀬 「あたしは乙女を目指してるの 腕相撲なんて・・・・」
藍 「その辺にある音感ゲームせいかしら・・・リムさんの動きが速いのは」
七瀬 「体さばきは異常に速いものね 特に1歩とか半歩ステップの動きは
それにしてもまだ終わらないの?」
藍 「男の子が群がってるよねぇ リムさんの前に・・・・・・」
七瀬 「なんかうらやましい・・・・・」
藍 「留美だって腕相撲なら その辺の男の子には負けないでしょ?」
七瀬 「そんなの乙女じゃない!! ・・・・・あれ雨 夕立?」
(BGM:雨 SE:ザーと言う雨音)
路地:軒下で雨宿りをしている茜と詩子
茜 「だから、早く帰ろうと言ったんです」
詩子 「茜ごめーん でも、夕立だからすぐに止むよ うん」
茜 「まったく・・・・詩子は・・・・」
家の中から軒下の2人を見ている男
男 「暑苦しい髪しやがって・・・・」
雨足が通り過ぎて 再び夏の日差しが照りつける
詩子 「ね 言ったとーりすぐに止んだでしょ」
茜 「でも 空気はまだべたついたままです 次が降る前に帰りましょう」
詩子 「あ、ちょっと待ってよ茜」
ゲームセンター:藍、Lim、七瀬
七瀬 「雨止んだね・・・・」
Lim「帰ろう・・・・」
七瀬 「もういいの?」
Lim「飽きた・・・・」
藍 「贅沢な台詞ね あれだけ男の子に囲まれてて・・・・」
Lim「藍さんや留美さんと遊んでた方がずっと楽しいわ」
七瀬 「ごちそうさま」
ゲームセンターを出る一同
夏の日差しが夕立の残り香を炙る
虹色の油が浮いた水溜り 鼻腔を突く臭気
熱を持ったアスファルトに陽炎が立ち昇る
むせ返るような湿気 そして熱気・・・・
男 「暑い・・・・暑いぞ・・・・暑苦しい髪しやがって・・・・」
刈り込みばさみを持って路地に出てくる男
〜 欲望の陰 〜
路地:茜と詩子 アカネ(音声のみ)
背後から刈り込みばさみを持った男
(BGM:永遠)
男 「暑苦しい髪しやがって・・・・・刈り取ってやる・・・・
刈っても・・・・刈っても・・・・伸びやがって・・・・」
男の気配に気が付くアカネ
アカネ「!? 何? この気配・・・・痴漢?」
茜達のかなり後ろを歩いている藍達
アカネ『姉さん! 痴漢が出た!! 大きなはさみを持って歩いて来る!!』
藍 「痴漢が出たわ 今茜達の後ろにいるみたい」
Lim「アカネちゃんから? 場所は?」
藍 「場所はこの先まっすぐ・・・・」
七瀬 「えっ? アカネちゃんって何?」
(BGM:約束の土地へ)
ああ 約束の土地へ どうぞ 導いて 罪人の群れを *
螺旋階段へと 非常口を 飛び出したら *
42階から見降ろすのは 欲望の町誰も気づかないけど *
滅亡(ほろび)の唄が 低く 流れてる *
Lim「留美さんは私より足は速いわね」
七瀬 「たぶん」
Lim「じゃあ先に行って逃げ込んでくる痴漢の退路を断って
こっちに誘導して 私と藍とで始末するわ」
駆け出そうとする七瀬
Lim「誘導するだけでいいから無理はしないで」
七瀬 「判ったわ」
七瀬退場
Lim「藍さんはアカネちゃんの所へ飛んで痴漢の頭を押さえて追い返して
追い返したら留美さんのサポートに回って」
藍 「こんな時のリムさんってあの人にそっくりね」
紙袋の中から白い手袋を取り出してはめるLim
同じく白装束を取り出して頭から被る
藍 「それ何?」
Lim「痴漢に顔を見られたくないから・・・・」
姿を消す藍 Limは紙袋を路地の脇に置き2本のヘアコームを抜く
路地 茜達の後方 茜達との間合いを詰める男
ブツブツと呟きながら刈り込みばさみを開閉する
男 「刈り取ってやる・・・・暑苦しい髪なんか・・・・刈り取ってやる」
空中に姿を現す藍 剣を振り出して 男の刈り込みばさみに叩き付ける
金属同士のぶつかる派手な打撃音が辺りに響く すかさず姿を消す藍
背後で起きた大きな音に振り返る茜と詩子 男と茜の視線が交差する
茜に顔を見られた男はきびすを返して逃げ出す
茜 「なに? 今の音????」
詩子 「最近 暑いから・・・・・」(あれが痴漢?)
姿を消したまま痴漢を追走する藍
路地の脇道に待機している七瀬
警棒を振り出して構える
駆け込んで来る男 男は七瀬の姿を見つけると
自分の家にも逃げ込まずにそのまま路地を駆け抜ける
七瀬 「え? 今のが痴漢? 何????」
藍 『普通 人影をみつけたら・・・・そのまま逃げるわね』
男の進路を塞ぐ白装束を纏ったLim
逃げ道を塞がれた男は刈り込みばさみを振りかざしてLimを襲う
Limは身体を半回転してはさみをかわす
男に背を向けたままヘアコームで男の左太股を突き刺す
Lim「これで あなたは逃げられない」
男の返り血が白装束を真紅に染める
Limは男の太股に刺したヘアコームを引き抜かずに手を離し
男の鳩尾へ肘討ちを一発 前屈みになる男の顎に掌底を突き上げる
その場に崩れて昏倒する男
Lim「風邪ひかないでね」
返り血に染まった白装束を男にかけるLim
Lim「藍さん 人が集まってくる前に留美さんを迎えに行くわ」
姿を現す藍
藍 「文字通り瞬殺ね それにしても身体の使い方まであの人にそっくり」
路地脇の紙袋を持って立ち去る藍とLim
ああ 約束の土地へ どうぞ 導いて 罪人の群れを *
ああ 汚れひとつない 人はいない *
生きていく その事が 闘いだから *
*出典:「機動警察パトレイバー(劇場版)」より「約束の土地へ」
〜 蜉蝣(かげろう) 〜
駅のホーム:藍、Lim、アカネ、詩子、七瀬(BGM:遠いまなざし)
七瀬 「あれからあの痴漢はどうなったの?」
Lim「あの人は痴漢じゃないわ、通り魔に襲われただけの可哀想な被害者」
七瀬 「え?」
アカネ「痴漢なんて最初から居なかったの」
七瀬 「?????」
Lim「あの人を”痴漢”だって責める人は誰もいないって事」
詩子 「結果的には 誰も襲われなかったから」
アカネ「あれだけ痛い目に遭ったら二度と女の子を襲ったりしないでしょ」
詩子 「ふふふ、女性恐怖症になったりして・・・・」
Lim「里村さんが痴漢に襲われたなんて トライに知られたら・・・・・」
七瀬 「あんた達・・・怖いわね・・・・
あれ? そうなると 通り魔事件・・・・証拠がいっぱい残ってるんじゃない?」
Lim「大丈夫、いろいろ買い揃えたのは住井君だから
足が付いても彼の所まで・・・・彼は事件には無関係だし」
アカネ「リムさんはいざとなったら情報屋を切り捨てるつもりでしょ?」
七瀬 「ますます 怖いわ・・・・でも・・・・楽しかったわ」
藍 「留美・・・・あなたに逢えてよかった・・・」
七瀬 「なんか 湿っぽいわね」
ホームに列車が到着する
七瀬 「次は10月頃に編入試験受けに来るから その時またね」
詩子 「留美さんまたね」
Lim「その時はうちに泊まって構わないから」
藍 「留美・・・私・・・病気じゃないの」
アカネ「姉さん・・・・・」
列車に乗り込む七瀬
七瀬 「藍 元気になるのよ そしたら あたしと勝負だからね」
走りはじめる列車
アカネ「姉さんは騙してなんかいないよ 姉さんは今ここに居るんだから」
藍 「そうね でも やっぱり留美を騙したわ・・・・
今度は私が幽霊だって事 判ってもらわなきゃ
長い付き合いになりそうだし・・・・・・・・・」
景色の中に消えていく列車を見送る一同 終幕
あとがき
「殺」の主人公は・・・・・たぶん藍です
でも・・・・痴漢(というよりは変質者)事件に絡めているんで
Limの活躍が・・・・・合掌・・・・なむなむ
痴漢は人間の女の子が始末しなければいけないと言う私の信念が・・・・・
よくよく考えるとオリジナルキャラで人間の女の子ってLimだけだったり・・・・
ぐむむむむむ
えーっと武器の所持に関して、日本の法律では「護身」と言うことが
正当な理由として明記されていないので幽霊の藍はともかく
警棒持った七瀬が痴漢を殴ると武器の不法所持及び過剰防衛になりかねません
(正当防衛が成立しても武器不法所持で捕まるかも・・・・って事)
でLimの使った仕込ヘアコーム(実在します)はプラ製なので
今のところ武器扱いにはならない(武器では無いので所持携帯に正当な理由も不要)
でもLim自身が無傷なので・・・・過剰防衛にはなるかも・・・うーむ
んー、人間を敵に置いて話を作るのは難しいなぁ・・・・・・
今、万感の想いを込めて 汽笛は鳴る
今、万感の想いを込めて 汽車は行く
さらば七瀬 さらば旧国有鉄道・・・・・
ちゃんちゃん