螢 (HoTaL)

                    久部蝉

〜 永遠のある場所 〜 

          えいえんはあるよ ここにあるんだよ

                どこに?

            ここは終わった世界だから

       まだ終わってない それに あなたには渡さない

            ここはあの人が望んだ世界

     私との約束も破ったわ だから あなたもきっと裏切られる
  
             この世界がきらい?
       
          あなたが いる せかい だから

          「永遠はあるよ」
          「ずっと、わたしがいっしょに居てあげるよ、これからは」
          ちょこんとぼくの口に、その女の子は口をあてた。

  
〜 水平線しかない世界 〜 

 私は今も・・・そして私を裏切った人を・・・ただ・・・見守り続けている

           でもね、旅立ったんだよ、遠い昔に
 
           そうね・・・私にとっては・・・・
          
           でも、遠い昔はさっきなんだよ

           そうね・・・あの人にとっては・・・

 天を突く入道雲が暗く影を落とす海の風景
 額に飾られた様な風景を映す窓を背景に
 年にして7,8歳の少女と14,5歳の少女が対峙する
 そして海には少年が浮かんでいる
 
           どこまでもつづく海を見たことがある。

 14,5歳の少女が吐き捨てる様に呟く
 「みずか・・・あなたには渡さない」

 ”みずか”そう呼ばれた7,8歳の少女が答える
 「でも ここはあの人が望んだ世界」

 「そうかしら? 海があって 空があって 雲があって ここが彼が望んだ世界?」
 「そう あの人が望んだ えいえん」

          そう、そこは確かにもうひとつの世界だった。
          あれこそが永遠を知った、最初の瞬間だった。

 蔑む様な視線でみずかを見据える少女
 「もう一度言うわ ・・・あなたには渡さない」
            
          大海原に投げ出されたとき、ぼくは永遠を感じる。

 窓の風景の中に溶け込んでいくみずか そして少年のもとへ向かう

          でもそこへ、いつしかぼくは旅立っていたのだ。

〜 夕焼けに染まる世界 〜

          どれだけ歩いていっても、あの赤く染まった世界にはたどり着けないのだ。
          そこには暖かな人々の生活がある。
          でも、そこにはたどり着けないのだ、ぼくは。

          「あそこには帰れないんだろうか、ぼくは」
          「わかっているんだね、あそこから来ってことが」

 「そう・・・あなたは私を裏切って あそこから来た・・・」
 少女は背景の中のみずかと少年に向かって呟く
 「あそこには あなたの事を大切に思ってる人があなたを待っている」

 少女は夕焼けに染まっている風景に両手をつく
 「だから! はやく! 思い出して!!」

 風景の中 何かを感じた少年が窓の外の少女に向かって顔を向けた

          ころころ・・・。
          微かな音がした。

          「どうしたの?」
          みずかが尋ねる

          「なにか・・・・懐かしい音が聞こえた」
          それは確かにこちら側の音だ。

 少年は首を傾げながら夕焼けの風景に視線を戻す
 「私の声が届いたの?」
 少年の様子に少女は驚きの表情を見せる

          「世界はここまでなんだね」
          「飽きたら、次の場所へ旅立てばいいんだよ」
          「いや・・・もう少しここにいるよ」

〜 ひとが存在しない場所 〜 

 「あなたもこっちにおいでよ」
 みずかが少女に話しかける
 「私と顔を合わせたら 困るのはみずかの方じゃない?」
 「あの人もよろこぶわ でもあなたが”誰か?”なんて思い出さない」

 「たいした自信ね それとも焦っているのかしら?」
 「あはは あたしがあせる?」みずかは少女を一笑に伏す

 「彼は向こうの世界を恋しがってるんじゃないの?」 
 窓の風景の中もう一人のみずかと話をしている少年に少女は視線を投げる

          「ひとが存在しない場所にどうしてぼくは存在しようとするのだろう。
           もっと、ひとの賑わう町中や、暖かい家の中に存在すればいいのに」
          「さぁ・・・よくわかんないけど。
           でも、あなたの中の風景ってことは確かなんだよ」

 みずかは少女に対して虚勢をはる
 「そうかしら あの人はあなたではなくて あたしを選んだの」 

          「でも、こんな世界だからこそ、ぼくは求めたんだろうけどね」
          ぼくはぼくを好きでいてくれるひとだけの存在を、もっと切実に思うのだ。
          きみと一緒にいられること。

 「あなただって独りで淋しいんでしょ あたしがあなたもしあわせにしてあげるわ」
 みずかの焦りを見透かした少女が挑発する
 「みずかだけじゃ 彼を繋ぎ止められなくなりそうだから・・・私が欲しいの?」

 「あの人に捨てられたクセに・・・・・」遂にみずかが禁句を口にする
 「だから・・・みずかには絶対に渡さない」
 少年は届かない筈の少女の声に反応する

          ころころ・・・。
          微かな音がした。
          懐かしい音が・・・・なんの音だったかな?

〜 空を 〜 

 ここは・・・・私がいるここは・・・・真っ暗な場所・・・・
 でも・・・1つだけポッカリと窓が開いている 書き割りの背景の様な窓が
 今日は窓の向こうに空が見える・・・・・草むらに彼がみずかと一緒に寝そべっている

 この窓の向こうには・・・・あなたを大切に思っている人が待っているの
 だから・・・・その人をはやく思い出してあげて

          彼女が僕の背中に回って、そして両腕で僕の体を抱く。
          「雲が見えるよね・・・」
          「見えるよ」
          「あれは、何に押されて動いているのかな」
          「風」
          「そう、風だね」
          「風は、雲を運んで・・・ずっと遠くまで運んでいくんだよ・・・」
          「・・・世界の果てまでね」
          草の匂いが、鼻の奥を刺した。
          それは風に運ばれてきた匂いだ。

 世界の果て・・・この世界の果て・・・その向こう・・・・
 あなたを待っている人の・・・・世界・・・・

 少女の瞳から伝う涙

〜 羊 〜 

          「今の僕が海に浮かぶ羊なんだと思う」
          海に浮かぶ羊。それは唐突にしっくりくる、たとえだという気がした。
          「・・・羊たちは自分の立場をわきまえた上で、海を選ぶんだ」
          「それも自分のひゆ・・・?」

          つまり僕は、自分の立場をわきまえてこの世界を選んだのだと。
          それはこの世界を蔑んでいることになる。
          彼女を含むこの世界を。

 「そう・・・・私を捨てて 私裏切って・・・この世界を選んで・・・」
 呟く少女にみずかが声をかける
 「あなたも羊になったら?」
 「やめておく・・・・それに私は窓の向こうには行けない」

 みずかは少女の背中を抱き耳元で囁く
 「わたしがつれていってあげる 独りは淋しいでしょ」
 「私は彼に捨てられた事を忘れるつもりは無い」
 「ざんねんね」

 少女はみずかを振りほどき立ち上がる
 「みずか あなた・・・なりふり構わなくなって来たわね そんなにこの世界が大事?」

〜 雲の上から 〜 

 一面の雲海を見下ろす風景を映している窓を挟んで対峙しているみずかと少女
 緊迫した空気の中みずかが口火を切る

 「あなただって・・・・あなただって! ここに居るんじゃない なのにどうして
  あたしと同じで・・・あなただってここにしか居られないじゃない!!」

 「だから?」
 「だからって・・・・私達の居場所はここにしか無いじゃない!!」

 少女は興奮気味のみずかとは対照的な冷笑を浮かべる
 
 「彼の居場所はここ以外にもあるわ 私達よりも相応しい人が彼を待ってる」
 「だからって・・・・・だったら・・・私達は・・・・・
  あたしは・・・あの人の・・・なに?」

 「彼はあなたを裏切るわ・・・・私が彼に捨てられた時の様に」

 みずかの表情が哀しみにゆがむ
 少女はそんなみずかに淡々と言葉で嘲る 冷笑を絶やさずに

 「覚悟しておく事ね・・・・彼があなたを捨てる日を・・・・」 

 窓の外で雲海を見下ろしている少年

          たとえば泣きたいときがある。
          なにを思って泣けばいいのだろう。
          虚無からは幸せは生れない。

          空虚は、ぽっかりと胸に空いた穴。
          それが完全な形なのだろうか。
          なにも失わない世界にいるぼくは
          空虚だったんだ。

〜 家路 〜 

          帰り道を見ている気がするよ。
          うん。遠く出かけたんだ、その日は。
                ・
                ・
                ・
          ぼくはね、最後まで頑張ったんだ。
          あのとき、がんばって、自分の街に居続けられることを願った。

          「そんなことわざわざ言ってほしくないよ・・・」

          ただね、もっとあのときがんばっていれば、
          ほんとうに自分をあの場所に繋ぎ止められたのか、
          それが知りたかったんだ。
                ・
                ・
                ・
          この世界を終わらせることはできたかもしれない。
          いや、できる、かもしれない。

〜 大切な人 〜 

          今さらキャラメルのおまけなんか、いらなかったんだ。

          「たくさんあそべるのに?」

          おとなになるってことは、そういうことなんだよ。

 窓の外から少年とみずかを眺めている少女は・・・・・
 ・・・少年に向かってポツリと呟く・・・・

 少女の声に少年が振り向く・・・・・そして・・・
 少年とみずかの居る夕焼けの風景が・・・・真っ白な光に飲み込まれる

 少女は少年に向かってポツリと呟く

 「・・・兄さん・・・・私を・・・・思い出して・・・・」

 
          うあーーーん…
          うあーーーーーーーんっ!
          泣き声が聞こえる。
          誰のだ…?
          ぼくじゃない…。
          そう、いつものとおり、みさおの奴だ。
                ・
                ・
                ・
                ・
                ・
                ・

 めまぐるしく情景を変える窓の外側にたたずむ・・・・二つの影
 少女とみずか 肩を落としているみずかが少女に声をかける

 「もう・・・おしまい・・・これで・・・・」
 「あなたは私の身代わり・・・・だから 兄さんが私を思い出せばあなたは用済み・・・・」

 「あたしだって・・・・なりたくて・・・みさおの身代わりになったんじゃない」

 みさおと呼ばれた少女は窓の中の情景にみずかを促す 

 「ねぇ 見て」

 窓の外の情景の中に1人の少女が現れては消える

 「みずか・・・兄さんが彼女を選ぶにしても この世界に残るにしても・・・・」
 「言われなくても わかってるわ あたしの居場所はもうどこにもない・・・・
  あたし・・・だって・・・ずっと・・・・あの人の事を・・・・ずっと・・・それ・・・なのに」

みさおはうなだれるみずかに嘲笑を投げる みずかはそんなみさおに食ってかかる

 「みさおは いいわよね! 帰る所があって!!」

みさおの嘲笑が妖しくゆがむ

 「なにか誤解があるようね あなたは私の身代わり みさおがおにいちゃんに捨てられた時から
  ”みさおなんて妹は最初から居なかった”事にした時から みずかをみさおの身代わりにした時から」

みさおの嘲笑が一段と嘲りの色を増す

 「みずかには帰る場所はあるでしょ? おにいちゃんの思い出の中 あそこにみさおは居ないから
  兄さんは・・・・元気になるって約束してくれたのに・・・・結局 この仕打ち 勝手なモノね」

じわじわと窓がその面積を増していく 窓の向こうには夕焼けの中を少女と連れだって歩く浩平の姿
 
 「みずかはみさおの身代わり」
 「あ・・・・じゃぁ・・・・みさお・・・・あなたはどうなるの?」

みさおは目を伏せて言葉を紡ぐ 窓がみさおとみずかの居るこの場所を浸食していく

 「みずかの知らない遠い街に小さなお墓があるの
  そこにお父さんと私が眠ってる・・・私はそこに帰るだけ・・・・」

 「みさおちゃん・・・・・」

 「今日まで・・・・本当に・・・・長かったわ・・・・
  みずかちゃん 兄さんに変な事したら 化けて出るからね」 

 「それで・・・いいの?・・・・・」
 「お墓参りぐらいには来て欲しいわ みずかちゃん よろしくね」
 「・・・・・」

 浸食する窓が2人を包み込む・・・・
 少女と連れだって歩く浩平の後ろを季節外れの2匹の螢が舞う

 1匹は浩平の肩に・・・・そしてもう1匹は夕闇迫る空へと昇る

 ゆっくりと・・・・・そして・・・・儚げに・・・・

Fin


あとがき

はぁい 「みずかVSみさお」因縁の対決でし
ONEフルボイス記念(対抗?)

みずか:ヒロイン
みさお:悪役(悪役の幽霊 略して悪霊?)
浩平 :浮気者でわがままで・・・・考え無しで

しかし・・・・全体の半分ぐらいが引用テキストだぁ・・・・うむむむむ

現在進行中のもう一本・・・・がラブストーリーで煮詰まって・・・・
気分転換に手を付けて一気に書き上げた代物だなんて言わないだぉ

ちゃんちゃん


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