はぷにんぐいんとぅざれじぇんど

「突然ですが、わたくし、外国に留学する事になりましたわ」
「は?」
 時間は朝で、場所は大学のカフェテラス。
 目の前には四字熟語で表すと「喜色満面」しかあり得ない美夏ちゃんの笑顔。
 たぶん、俺の顔はぽかんと目と口を開けて間抜けな表情をしていたに違いない。
「留学?」
「そう、その留学ですわ♪」
 どの留学かよく分からないが、ずいっと身を乗り出す美夏ちゃん。
 俺と美夏ちゃんの間を隔てる物は、厚さ五センチくらいの空気だけになる。
 その気になればキスできそうな距離だけど、俺と美夏ちゃんがそんな事しようとしたら、鼻と鼻がぶつかって終わる気がする。
「ああ……愛し合う二人を引き裂く非常な運命……だけど二人の絆は海さえも越えるのですわ♪」
 頬を赤くして身体をくねらせる美夏ちゃん。
 高校生なのにとてもそうは見えない、フリフリドレス姿の美夏ちゃんにはよく似合っている仕草だけど、場所は考えた方がいいと思う。
 視線を横にずらす。
 美夏ちゃんの隣にはメイド服姿のかなちゃん。
 秋葉原だと自然な格好かも知れないけど、言うまでもなく大学のカフェテラスには似合わない格好である。
 かなちゃんが涼しい顔で紙コップの紅茶をすすっている仕草を見て、何となく状況は飲み込めた。
「そうか。美夏ちゃん、外国に行っちゃうのか」
「そうですわ。直也様、わたくしがいなくなると寂しいですか?」
「んで、なんて国に行くんだ?」
「え? えっと……」
 美夏ちゃんは一休さんよろしく、両手の人差し指でこめかみをぐりぐりする。
 しかし何も思い付かなかったのか、助けを求めるようにかなちゃんの方を見る。
 相変わらず涼しい顔のまま、かなちゃんはそっと助け船を出す。
「そうですね……ロンドンなんてどうでしょう?」
「そう! それ! ロンドンですわ!」
「ロンドンっていうと、やっぱり首都のスリジャヤワルダナプラコッテだよな?」
「そう! そのスリジャ……なんとかですわ!」
「……ちなみに本当はイギリスの首都がロンドンで、スリジャヤワルダナプラコッテはスリランカの首都だ」
「……………」
 しばらく首を捻って、ようやく俺の言葉を理解できたのか、美夏ちゃんは猛然と俺に噛み付いてくる。
「むむっ……騙しましたわね!?」
 ……騙される方がどうかと思うけど。
「まあとにかく、その手には乗らないから諦めるように」
「うう〜〜〜〜〜っっっっっ……………もう直也様なんて知りませんわ!」
 言うが早いか、びゅーっという擬音を残しつつ、素晴らしいスピードで美夏ちゃんは走り去っていく。
「……行っちゃったな」
「行っちゃいましたね」
 かなちゃんがのんびりと答える。
「ところで美夏ちゃんは昨日の夜、どんなテレビ見てた?」
「昨日の夜は大流行の戦国ドラマ『冬のそなた』が最終回でした」
 ちなみに漢字で書くと「冬の其方」になるので要注意。
 決してカタカナで書いてはいけないのが大人の事情という奴だ。
 戦国時代を舞台にした純愛ドラマで、若い女性から中年女性まで幅広い支持を集めている……らしい。
 俺は見てないからよく分からないけど。
「……留学とかそんな話だっけ?」
「最終回が近付いて、突然そういうお話になりました」
「なるほど」
 で、ドラマを見てすっかり影響された美夏ちゃんは、俺が涙ながらに「行かないでくれ! 美夏ちゃん、愛してる!」とか行ってる様を妄想したんだろう。
「でも直也様もひどいですよ」
 おや、かなちゃんはご立腹らしい。
「少しは美夏様に付き合ってあげればいいのに」
「そう……なんだけどなあ……」
 付き合ってあげれば良かった。
 俺だって鬼じゃないし、悪い事したなあという気持ちは確かにある。
 だけど……。
「あそこまでボロボロだと……なあ」
「そうですよねえ……」
 はあっと二人一緒にため息。
 顔は笑ってたし、留学先も決めてないし。
 そんな美夏ちゃんの猿芝居に付き合うのは、まあ人間としてプライド的にどうかと思うわけですよ。
「後で謝っておくかな」
「その方がいいと思います」
「んじゃお昼おごるから、美夏ちゃんに伝えておいてくれないかな?」
「ええ、わかりました」
 さて、そろそとゼミに行かないと。
「んじゃ俺はそろそろ行くけど、かなちゃんは?」
「私は散歩がてら美夏ちゃんを探してきます」
「そうか。それじゃ美夏ちゃんによろしく」
「はい。直也様、いってらっしゃいませ」
「………」
 一瞬、足が止まる。
「あの、直也様? どうしたんですか」
「いや、なんでもない。じゃあまたお昼に」
「はい。楽しみにしてます」
 ……メイド喫茶に通い込む人の気持ちがちょっとだけわかったような気がしたのは、ここだけの秘密という事で。

「留学?」
「そ、留学」
「誰がですか?」
「君だよ、君に決まってるじゃないか。伊藤直也君」
「はあ……」
 目の前にいるのは俺のゼミを担当している助教授。
 ボサボサの髪に無精ヒゲとずれ落ちかけたメガネという三点セットを装備した三十代後半の独身男性という助教授は、三流大学に相応しく有名だったりするはずもない。
「直也君の卒論のテーマは戦後日本の外交史だったね?」
「はい……」
「私の古い知り合いがアメリカの大学にいてね。君の事を話したら、とても興味があるらしくてね。君もアメリカに行ってみたいと言っていただろう?」
 戦後日本の外交において最も大きな存在だったのは、言うまでもなくアメリカである。
 多角的な視点による研究を求めるなら、アメリカに渡ってそちら側の視点に立った研究をする、というのは避けては通れない道だった。
 確かに俺もずっとそれを望んでいた。
 だけど、それが実現するという段階になって、何故か心は重く沈んでいた。
「先方の家にホームステイしてもいいという話だから心配する事は何もないよ」
「はあ……」
「向こうの生活が気に入らなければすぐに帰ってきてもいいし、気の済むまで研究に没頭してくれてもいいんだから」
「あの……少し考えさせてもらえないでしょうか……?」
「ああ、構わないよ。将来に関わる事だから、後悔しないようにじっくり考えればいいさ。でも先方の都合もあるから……そうだな、二、三日中に返事をもらえないかな?」
「はい、わかりました」
 そう答えて、俺は助教授の前を辞した。
 留学……か……。

「留学……ですの?」
「うん、そう」
「またまたぁ〜直也様ったら、冗談がお上手ですわ♪」
「………」
 やっぱり信じてもらえなかった。
 時間はお昼時、場所は学食。
 目の前にいるのは、カレーライスをスプーンでつついている美夏ちゃんと、天ぷらそばをすするかなちゃん。
 「かなちゃんの作るカレーの方がおいしいですわ!」とか言いつつ、誘えばちゃんと付いてくるのが美夏ちゃんらしいところ。
 ……まあ、かなちゃんの料理の方が美味いというのは心の底から同意だけど。
「今朝、私が言ったばかりの冗談をそのままマネしても無駄ですわ」
「………」
 冗談じゃない……んだけどなあ。
 全く、俺の方が信じられないよ。
 美夏ちゃんがドラマの影響で「留学しますわ」とか言ったすぐ後に、本当に俺が留学する話が出るんだから。
 冗談だったら、どれほど気が楽か。
「わたくし、お水をもらってきますわ」
 そう言って美夏ちゃんは空になったコップを持ってテーブルを離れていく。
 美夏ちゃんが向こうに行くのを見計らって、かなちゃんが口を開く。
「もう直也様ったら、いくら美夏様でもひっかかりませんよ。ついさっきの事なのに」
「………」
「あの……直也様? まさか本当に……」
「冗談だったら良かったんだけどなあ……」
 かなちゃんが短く息を飲む音がして、立ち上がった拍子にイスがずれる音が続く。
 そして瞳からじわっと溢れる大粒の涙……。
「かなちゃん、まだ行くって決めたわけじゃ……」
「ご、ごめんなさい!」
 メイド服のスカートをひるがえして走り去っていくかなちゃん。
 あ、いや……何だか俺が泣かせたみたいじゃん……。
 その時、首筋に感じる殺気!
 とっさに飛び退くと、鼻先をすごい勢いで何かがかすめていく。
 一瞬遅れてテーブルがひとつ粉々に砕ける。
 テーブルを打ち砕いたのは凶悪なトゲトゲ付きの巨大な鉄球。
 そしてそこから伸びた鎖の先には……。
「直也様〜〜〜〜〜よくもかなちゃんを泣かせましたわね〜〜〜〜〜」
「美夏ちゃん、落ち着いてくれ。俺が泣かせたわけじゃない」
 ……って、あれ? 俺が泣かせたのか?
 泣かせたのが俺だったとしても、俺が悪いわけじゃないはず……。
「問答無用!」
 鉄球を引き寄せる美夏ちゃん。
「ですわ!」
 そして鉄球を振り回す!
 たちまち大騒ぎになる昼食時の学食。
「誤解だって! 美夏ちゃん!」
 叫びつつ、俺は学食から逃げ出した。

「はあ……ここまで来れば大丈夫か」
 場所は中庭。
 カップルだったりグループだったりの若者達が、思い思いのスタイルで昼ののどかな一時を過ごしている。
 ……きっと食堂の方は阿鼻叫喚の地獄絵図になっていると思うが。
 空いているベンチを見付けて、どっかりと座り込む。
 途中の自販機で調達したコーラを喉に流し込む。
 炭酸の刺激は喉に心地好いが、今、俺が抱えた問題を忘れさせてはくれない。
「留学……かあ……」
 何年か前にゼミに入ってから思い描くようになっていた夢。
 だけど本当に叶うとは思っていなかったから、困った事になっている。
 美夏ちゃんとかなちゃんの事である。
 留学して離れ離れになったらどうなるのだろう?
 恋人ならきっと、離れ離れになってもお互いを信じて絆を保てるだろう。
 友達ならきっと、何年も音信不通になったとしても、再会した時には昔と同じように笑い合えるだろう。
 だけど俺と美夏ちゃんとかなちゃんはどうだろう?
 美夏ちゃんが好き勝手に追いかけてきて、俺は適当にそれをあしらいながら決定的に拒絶はせずに受け入れ、かなちゃんはそんな俺たちを見てのんびりと笑っている……。
 恋人とは呼べない、友達とも違う、曖昧で中途半端な俺達三人の関係は、離れ離れになったらどうなってしまうのだろう?
 太平洋ひとつ挟んだ日本とアメリカという距離は、俺達三人の関係をどう変えてしまうのだろう?
「お困りのようですな、婿殿」
「うわっ!」
 いきなり背後からかかった声に、驚いて飛び上がった。
「……なんだ、美夏ちゃんの親父さんか。びっくりしたなあ。コーラが零れちゃったじゃないか。もったいない」
「普通は零れたコーラよりも、コーラがかかった私の紋付き袴の方を心配する物じゃないかね? 直也殿」
「ところで俺に何か用ですか?」
「直也殿、冷たい……でもそんなつれない態度もまたス・テ・キ♪」
「………」
 さよなら、まだ半分くらい残ってた俺のコーラ。
「む、婿殿……そんな冷静な顔でコーラをかけようとしないで下さい」
 よけられたか。ちっ。
「話は聞きましたぞ。直也殿。何でも留学されるとか」
「いや、まあ、行くって決めたわけじゃないけど」
 伝わるのが早いなあ。
 美夏ちゃんとかなちゃん、どっちから聞いたんだ?
「美夏の服にこっそり付けた盗聴器から」
「………」
 美夏ちゃんの将来を思うなら、この親父を今の内に葬るべきだろう。
 だけどそうすると俺は将来を棒に振る事になるので、美夏ちゃんのため、美夏ちゃんの親父さんのせいで、という二重の意味でそれだけは避けなくてはならない。
「それで直也殿は自分の夢を叶えるか、愛しい恋人をとるか、迷っておられるのですな?」
「………」
 それは多分、ちょっと違う気がするが。
「行けばいいのでは?」
「え?」
 びっくりした。
 美夏ちゃんの親父さんの事だから、「美夏を置いていくとは薄情な! 婿殿!」とか泣きながら言ってくるに決まっていると思っていたのに。
「留学は直也殿の夢。チャンスが目の前にあるのなら、ためらっている場合ではないと思いますが?」
「………」
「なあに、美夏の事なら心配しなくても大丈夫。美夏は多少の距離に負けるような、薄情な娘ではありませんぞ」
「………」
「それに、今の中途半端な関係を打ち切るいいチャンスなのでは?」
「………」
 まだ心の整理はつかない。
 だけどひとつ確かな予感がある。
 留学したら、きっと俺達の関係は変わる。
 もう二度と会わなくなるか?
 もう二度と離れたくないと思うか?
 それはわからない。
 どちらに転ぶにしろ、今のままの関係ではいられない。
 そんな気がする。
「正直、どうしたらいいのか、まだわからない」
「じっくり悩めばいいでしょう。直也殿はまだ若い。悩んで悩んで悩み抜いて、自分の答えを見付ければいい」
「………」
 ふと疑問に思った。
 俺の目の前にいる紋付き袴の紳士は本当に美夏ちゃんの親父さんなんだろうか?
 どこぞの神様かもののけの類が美夏ちゃんの親父さんの皮をはがして被っているのではないのだろうか?
 あごの下に指をかけて、ぴーっとめくってみたい衝動に駆られる。
「なんだったら直也殿、美夏も連れて行ってはいかがかな? きっと喜んでついていきますぞ」
 ホームステイ先がなんて言うかはわからないけど。
「それじゃあ、かなちゃんも一緒じゃないと可哀想だな。連れて行っていいかな?」
「ダメ」
 即答だった。
 ああ、この人は間違いなく美夏ちゃんの親父さんなんだと思って、安心した。
 安心して思わず笑みをこぼしながら……。
 俺は残りのコーラを美夏ちゃんの親父さんの頭にぶちまけた。

 翌日、俺と美夏ちゃんとかなちゃんの三人は、とある喫茶店に来ていた。
 俺と美夏ちゃんの前には慎ましやかなコーヒーがひとつずつ。
 対する美夏ちゃんの前には、顔くらいの大きさはあろうかという巨大なパフェがひとつ。
 スーパースペシャルスイートパフェというやる気のない正式名称と、SSSパフェという色気のない略称を持つ、ひとつ三千百五十円(税込)のパフェである。
 ……ちなみに俺のおごりである事は言うまでもない。
 それを美夏ちゃんは素晴らしい勢いでかき込んでいく。
 かなちゃんは呆れ顔でため息をつく。
「美夏ちゃんったら……ほっぺたにクリームがついてますよ」
「かなちゃんもコーヒーじゃなくて何か頼めば良かったのに」
 こんな非常識な大きさとプライスの物じゃなくて。
「いえ、私はいいんです」
「もしかして、甘い物は嫌いとか?」
「い、いえ、そういう訳ではないんですけど……」
「かなちゃんはダイエット中ですわ」
「み、美夏ちゃん! それは言わないでって!」
「かなちゃん、ダイエット中なの? 太っているようには見えないんだけどなあ」
「あ、いえ、その……」
 顔を赤くして小さくなるかなちゃん。
 ……………。
 …………。
 ………。
 ……。
 …。
 か、可愛い!
 殺人的に可愛い!
 家に持って帰っていいですか!?
 ……などと我を忘れている場合じゃなくて。
「それに引き替え、わたくしはもっと成長して直也様にお似合いのレディにならなくてはいけないので、たくさん食べてなくてはなりませんわ」
「………」
 だからって食べ過ぎると、縦じゃなくて横にばっかり成長しちゃうぞー。
 ……とか言いたくなったが、これ以上ないくらい幸せそうな美夏ちゃんの笑顔を見て、やっぱり黙っている事にした。
「多分、少し食べ切れなくて残ってしまいますので、かなちゃんにあげますわ」
「そ、そうですか? もう、仕方ありませんね、美夏ちゃんは……」
 少しも衰えないペースでSSSパフェとの格闘を続ける美夏ちゃんと、口ぶりとは裏腹に嬉しそうなかなちゃん。
 出費は痛かったけど、二人が楽しそうだから、いいか。
「あ、あの、直也様……」
 恐る恐るといった態で、かなちゃんが言う。
「留学の話は……その……どうなったんでしょう?」
「留学? ……ああ、やめたから。安心して」
 あっさりと俺は言った。
 一晩考えて、答えは出た。
 留学するのはやめた。
 そう、伊藤直也は留学はしない。
 まだこの町にいる。
 留学したら、しなかったら、どうなるか、色々なパターンを考えてみた。
 だけど思い描いたあらゆるパターンの中で、最も素晴らしいと思えた。
 何の事はない。
 この俺、伊藤直也が望んでいるのは、美夏ちゃんが好き勝手に追いかけてきて、俺は適当にそれをあしらいながら決定的に拒絶はせずに受け入れ、かなちゃんはそんな俺たちを見てのんびりと笑っている、曖昧で中途半端な関係に他ならないのだ。
 誰か一人が傷付くからとか、本当はこのままじゃいけないと思いつつとか、そういった後ろ向きな気持ちは一切なくて、ただ純粋に今のままでいれたらなあと願っている。
 ずっとこのままなんて無理なのかも知れない。
 だけど今回の留学というのはまだ違う気がする。
 まだこのままでいられるのなら、もうしばらく続けていてもいいと思う。
 もともと、そんなに真剣に留学したいと思っていたわけでもない事だし。
「大体、直也様はわたくし達二人を置いていくような薄情な方ではありませんわ。そうでしょう? 直也様?」
「………」
 確かにその通りなんだが。
「美夏ちゃんに全てを見透かされたように言われるのはムカつくっ」
「ふにっ! はひふるんでふのっ!」
 美夏ちゃんのほっぺたを左右に引っ張っただけなんだけど。
「何するんですのっ! と美夏ちゃんは言ってます」
 丁寧にかなちゃんが通訳をしてくれる。
「生意気な事を言う口はこうしてやるっ」
「ひたひ! ひたひでふわ!」
「痛い! 痛いですわ! と言ってます」
「はにゃひゃん! ふうやふひなひでふだはひ!」
「かなちゃん! 通訳しないで下さい! と言ってます」
 かなちゃんも楽しんでるし。
 いい加減、指が疲れてきたので放してあげた。
「ううっ、ほっぺたが腫れ上がってお嫁に行けなくなったら、直也様、お嫁にもらって下さいね?」
「もうちょっと成長してからだな」
「ぶう」
 不満げに頬を膨らませる美夏ちゃん。
 相変わらずのんびりと笑っているかなちゃん。
 俺はそんな二人の前に手を差し出す。
 きょとんとした目になる二人だったが、俺が「これからもよろしくな」と言うと、にっこりと笑った。
『はいっ!』
 と、二人の声が見事に重なった。

はぷにんぐいんとぅざれじぇんど 了


「はぷにんぐ」シリーズ完結記念座談会

美夏「ううっ……ついに『はぷにんぐ』シリーズも最終回……涙なくしては語れないお話でしたわ……」
wen-li「そうだな……不治の病に倒れるかなちゃん……自分の気持ちを隠しながら看病する直也……愛し合う二人にいずれ訪れる悲しい結末を知りながら、見守る事しかできない美夏ちゃん……」
かな「……あの、私って不治の病だったんですか?」
wen-li「しっ! 今、後書きから先に読んでいる人を騙している最中なんだから。かなちゃんは黙ってて!」
かな「はあ……」
美夏「……時は華やかなりしルイ王朝……これこそわたくしに相応しい時代ですわ、うん」
wen-li「……時は正に世紀末。核の炎に焼かれた大地に降り立った救世主……」
かな「……二人はほっといて、お茶請けに買ってきた羊羹でも食べちゃいましょうか」

 1時間くらい経過したようなしないような。

wen-li「というわけで、今度こそ最終回です」
美夏「ううっ、名残惜しいですわ……」
wen-li「決して『はぷにんぐ』の後に付ける前置詞が思い付かなくなったからではないような気もしないでもない」
美夏「それが真相ですの?」
wen-li「真相は闇の中に」
美夏「まあいいですけど……それより! わたくしと直也様のらぶらぶなエンディングはどうなったんですの!?」
wen-li「却下にして不許可にして永久封印指定」
美夏「むきーーーーーっっっっっ!」
 ぺちゃ。
wen-li「……………」
美夏「……………」
かな「あら? またやっちゃいましたね」
美夏「ついついやってしまいましたわ」
かな「wen-liさんも疲れているでしょう。このまま安らかに眠って下さい」
美夏「ですわ」

 1分間黙祷。

美夏「モニターの前のみなさん、長い間、応援ありがとうございました!」
かな「『はぷにんぐ』シリーズは今回で最終回を迎えますが、小説の更新がなくなっても、私達三人はどこかでドタバタ大騒ぎしている事と思います」
美夏「そう信じていてくれると、とても嬉しいですわ」
かな「それではみなさん……」
美夏&かな『さよなら!』


あとがき

 ど〜も、wen-liです。
 はぷにんぐシリーズ第6話「はぷにんぐいんとぅざれじぇんど」いかがだったでしょうか。
 1999年の第1話「はぷにんぐふろむ落とし物」の掲載以来、長くオリジナル連載小説の2本柱の内の1本として当ホームページを盛り上げてきました「はぷにんぐ」シリーズもついに最終回です。
 ……期間的には長いのに、6話しかないじゃん、というツッコミはなしという事で。
 思い付きで第1話を書き上げ、成り行きで連載を始めて、とうとう力尽きて第6話にて完結、というところでしょうか。
 ついつい続き物の「二人の英雄」を優先させたり、ゲームを作ったり、個人的に忙しかったりと、困難な道のりでした。
 何せ最初から連載を想定していなかったので、何かと不都合が出まくり。
 前置詞も思い付かないし。
 ちなみに個人的にお気に入りは、言うまでもなくかなちゃんと、美夏ちゃんの親父さんの相手をしている時の直也君だったり。
 ところでみなさんのお気に入りは誰、もしくはどのシーンですか?

 座談会の最後でも同じ事を書きましたが、小説の連載は終わっても、3人組はここじゃないどこかで仲良くやっている事と思います。
 そう信じてくれると、生みの親としてこれ以上の幸せはありません。

 感想お待ちしてます。
 でわでわ。


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