雨上がりの街角にて
明け方近くまで降り続いた雨が上がった街角は、どこもかしこもまぶしく輝いて見えた。
建物や木々に貼り付いた水滴が太陽の光を弾き返し、あちらこちらに咲いている笑顔の花を照らしている。
きっと道行く人達の笑顔がこんなにまぶしいのは、今日のデートが雨で中止にならないかと、ゆうべ遅くまでやきもきしていたからかな?
その気持ちはすごくよく分かる。
かくいう、私も「今日の天気にやきもきしていた」一人だったから……。
ふと腕の時計を見る。
待ち合わせの時間まであと三十分。
あと三十分で、向こうの歩道橋を渡って彼がやってくる。
いつも学校で会って、時には他の友達と一緒になって遊んだりしてるのに、初めて二人で待ち合わせしたりすると、彼が来るのが待ち遠しくなる。
もうすぐ彼が来ると思うと、もうすぐ彼が歩道橋を渡って来ると思うと、それだけで心臓がドキドキしてくる。
変なの。普段は平気な顔で会って、おしゃべりしてるのに……。
ふと顔を上げてみる。
待ち合わせのメッカであるこの場所には、あちこちに彼氏彼女を待っているらしい人がいる。
……他の人も、私みたいな気持ちなのかな?
明日の天気にやきもきしたり、いつも平気な顔でおしゃべりしている相手にドキドキしてみたりとか……。
あっ、今も男の人が来て、待っていたらしい女の人を連れて行った。
二人とも幸せそうに笑いながら、腕を組んで歩いていく。
彼が来たら、私もあんな風にしてみよう。
きっとお似合いの恋人同士みたいに見えるよね?
また時計を見る。
待ち合わせの時間まであと十五分。
彼、遅いなあ。
私は一時間も前から待ってるのに、彼の姿はずっと向こうにも見付からない。
彼、どうしたんだろう?
デートの約束、忘れてるのかな?
時間、間違えたのかな?
だけど……。
もし彼が一秒後に姿を見せるとしても、一秒前の私にはわからない。
例え今が彼が姿を見せる一秒前だとしても、彼が姿を見せる一時間前だとしても、この胸が張り裂けそうな不安はきっと変わらない。
もう少し、彼を待ってみよう。
彼の事を信じて……。
また時計を見る。
ちょうど待ち合わせの時間。
今すぐ彼が現れても遅刻になる時間。
そして私達のデートのための時間が、秒針が進む度に一秒ずつ減っていく。
本当にどうしたんだろう?
すっぽかされたのかな?
ううん、そんな事はないはず。
昨日の放課後、耳まで真っ赤になってデートの事を切り出した彼の顔を思い出す。
ただ「うん、いいよ」って答えただけの私の顔も、きっと彼の顔を鏡に映したように耳まで真っ赤になっていたと思う。
あの時、私が感じていたドキドキを彼も同じように感じていたのなら、すっぽかすなんてできないはず。
そしたら……。
もしかして、来たくても来れないのかも。
寝坊したとか?
急に家族に不幸があったとか?
それとも……。
まさかここに来る途中、交通事故に遭ったとか?
ううん、そんな事はないとわかってはいるけど……。
どうしてだろう?
どうして泣き出しそうなくらいに胸が痛いのだろう?
ふと顔を上げてみる。
雨上がりの街角には、今も変わらずに笑顔の花が咲き誇っている。
この眩しい笑顔達も、裏側には誰にも言えない不安を隠しているの?
誰かを好きになったら、こんな誰からも気付かれない不安を抱えながら生きていかなくちゃいけないの……?
その時、ポンと肩を叩かれて、私は跳び上がる。
振り返ると、息を切らせた彼が立っていた。
しばらく呆然とする私をよそに、彼は荒い呼吸を抑える合間に弁解を始める。
ふと時計を見る。
約束の時間より、五分だけ進んだ短針。
必死で弁解する彼を遮るように、私は言った。
「ううん、気にしないで。私も今、来たばっかりだから!」
雨上がりの街角にて 了
あとがき
ど〜も、wen-liです。
「雨上がりの街角にて」いかがだったでしょうか。
ポルノグラフィティが歌う「アゲハ蝶」という歌に、次のようなフレーズがあります。
「もしこれが戯曲ならなんてひどいストーリーだろう。
進む事も戻る事もできずにただ一人舞台に立っているだけなのだから」
というわけで「雨上がりの街角にて」もそんな感じのストーリーですが、それでも起承転結の構成になっていたりします。
漫画やアニメにしても全然面白くないと思いますが、小説だとちょっとは楽しめるんじゃないでしょーか。
八十行にも満たない小説ですが、「小説じゃないと書けない面白さ」が凝縮されてると思います。
どこにでも転がっていて、だけど本人しか知らないささやかなストーリー。
何度も繰り返し読んでみると、また新しい面白さが見付かるかも……。
あまり長々と書くと本体より長くなりそうなので、この辺で。
感想お待ちしてます。
でわでわ。
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