わらしべレミィの大冒険

 ある日の放課後、宮内レミィが校内を歩いていると、クラスメートの藤田浩之が歩いているのに気付いた。
「ハァイ! ヒロユキ!」
 半分とはいえアメリカンらしく、陽気に挨拶する。
「よお、レミィ……ところで手に持ってんの、何だ?」
 浩之はレミィが持っている何かの植物の茎らしい物について聞いた。
「ワラシベチョージャネ!」
「ワラシベ……? ああ、わらしべ長者ね」
「イエス!」
 浩之はようやく日本の昔話のひとつに思い当たる。
 浩之の記憶にあったのは、一本のわらを出会った人々が持っている物と交換していき、だんだんと高価な物になっていって、最後には億万長者になるという話だった。
 ……しかしレミィの奴、日本らしい物にこだわっているのは弓道とことわざだけだと思ったら、昔話にも興味があったのか。
「わりいな、オレ、交換するような物、何も持ってないや」
「そう、残念デス……」
「じゃあな。がんばれよ、わらしべ長者」
 浩之は手を振ってレミィと別れた。
「イエス!」
 レミィからはいつものように陽気な返事が返ってきた。

 わらしべを片手に校内をぶらぶらと歩くレミィ。
 すると困り顔で歩いている来栖川芹香と出会った。
「ハァイ! 来栖川サン!」
「………」
 ひたすら明るく陽気で明るい声のレミィに対し、芹香は聞こえるか聞こえないかの小声で答える。
「ところで来栖川サン、何か困っているんデスカ?」
「………」
 レミィの問いに、芹香は手に持っていたわらを束ねて作ったらしい物をレミィに見せる。
「え? せっかくわら人形を作ったのに、胴体を束ねるわらが足りなくて困っている?」
「………」
 こくん。
 小さくうなずく芹香。
 レミィは少し迷った。
 わらしべはそれを持ってぶらぶら歩いているだけで幸運を呼び寄せるという、日本の伝統の魔法のアイテムである。
 それを簡単に人にあげてしまって良いのか?
「………」
 レミィはしばらく考え込んだが、やがて手にしたわらしべを芹香に差し出した。
「来栖川サン、これ、あげるヨ!」
「………」
 いいんですか? 大切なものじゃないんですか? と聞いてくる芹香。
「ううん、いいの。確かに大切な物だけど……困っている人を助ける以上に大切な事なんてないモノ!」
「………」
「もしこのワラシベで来栖川サンが喜んでくれるなら、それがこのワラシベの『幸運を呼び寄せる』力だと思うカラ」
「………」
 それじゃあ、お言葉に甘えて。
 そう言って芹香はレミィの手からわらしべを受け取った。
 そしてわら人形の胴体に巻き付ける。
「これで完成デスカ?」
「………」
 こくん。
「ヨカッタネ、来栖川サン」
「………」
 ありがとうございます。
 そう芹香は言って深々と頭を下げた。
 そしてどこからともなく一冊の分厚い本を取り出した。
「え? お礼にコレをあげる? イイヨ。お礼が欲しかったわけじゃないカラ……え? それじゃあ私の気が済まない?」
「………」
「それじゃあ、遠慮なくもらうネ……ところで来栖川サン、その人形は何に使うものなんデスカ?」
「………」
 芹香は真っ赤になってうつむいた。

 レミィは『誰にでもできる悪魔召還の方法・実践と応用編』を手に入れた。
 ピロリラ〜ン!(効果音)
 でも日本語も英語も書いてなくて、レミィはがっかりした。

 『誰にでもできる悪魔召還の方法・実践と応用編』を片手に、レミィは校内をぶらぶらと歩く。
 図書室の前を通りがかったので中に入り、書棚の間を歩いていると、委員長こと保科智子と出会った。
 委員長は書棚の一番上の本を取ろうとして腕を伸ばしているが、届かないらしい。
「保科サン、お困りのようデスネ」
「別に困ってへんわ」
「………」
 委員長の態度は冷たかった。
 レミィは気を取り直して、芹香からもらった『誰にでもできる悪魔召還の方法・実践と応用編』を委員長に差し出す。
「保科サン、代わりにコレを読むといいネ!」
「それ、ウチの読みたい本ちゃう」
「………」
 もっともな話だった。
 三角帽子とマントを着た魔女ルックで、芹香と肩を並べて魔導書を開き、あーでもないこーでもないと議論している委員長……。
 かなり無理があるとレミィは思った。
「でも……そこをナントカ」
「デモもオープニングムービーもあるわけないやろ!」
 そう言って委員長はレミィの手から『誰にでもできる悪魔召還の方法・実践と応用編』を奪い取った。
 そして『誰にでもできる悪魔召還の方法・実践と応用編』を床に置くと、『誰にでもできる悪魔召還の方法・実践と応用編』を踏み台にして自分の読みたい本を取った。
「おおきにな、おかげで助かったわ」
「………」
 でもレミィは悲しかった。
「お礼にこれ、あげるわ。とっとき」
「ウ、ウン……」
 委員長が差し出す大学ノートを受け取るレミィ。
 だけど分厚い『誰にでもできる悪魔召還の方法・実践と応用編』が薄っぺらいノートになってしまって、やっぱりレミィは悲しかった。
「じゃあね、保科サン!」
 レミィは大きく手を振って、図書室を出ていく。
「……っていうか最初からあんたが本を取ってくれれば良かったんやけど」
「………」
 最後まで委員長の態度は冷たかった。

 レミィは『三人組に落書きされたノート』を手に入れた。
 ピロリラ〜ン!(効果音)
 でも悪口などの汚い日本語が汚い字で書いてあったので、最後の最後までレミィは悲しかった。

 『三人組に落書きされたノート』を片手に、レミィは校内をぶらぶらと歩く。
 ばったりとマルチに出会った。
「マルチサン! お元気デスカ?」
「はう〜、ちっとも元気じゃないですぅ〜〜。くしゅん! ぐすぐす……」
 マルチは真っ赤に充血した目から涙を流し、さらに鼻からは鼻水が糸を引いていた。
「どうしたんですか? 風邪デスカ?」
「メイドロボは風邪なんかひかないです〜」
「それはもっともダケド……」
「花粉症ですよ〜」
「………」
 風邪を引かないのはもっともだとしても、花粉症になるのは何故だろう。
 レミィは疑問に思った。
「これは新しく開発された花粉症機能のテストなんです〜」
「………」
 とても無意味な機能だとレミィは思った。
「開発者の人が、自分は花粉症で辛い思いをしているのに、メイドロボは花粉症にならないのが悔しくて、その腹いせなんです〜」
「………」
 とても不憫だとレミィは思った。
 こんな時はやはり、自分が助けなくてはいけない。
「マルチサン、これを使うといいね!」
「そ、それは!」
「保科サンからもらった、『三人組に落書きされたノート』ネ!」
 レミィはノートを開くと、ページを破ってマルチに渡した。
「これで鼻をかむといいデス!」
「あう〜、ありがとうございます〜。ティッシュがなくなって困っていたんです〜。チ〜〜〜〜〜ン!」
 マルチは盛大に鼻をかむ。
「おかげで本当に助かりました……あ、お礼にこれを差し上げます」
「こ、これはマルチさんのトレードマークのモップ!」
「どうせ学校の備品ですから」
「………」
「それでは失礼します〜」
 マルチは深々とお辞儀をしてから帰っていった。
 ……でもレミィはノートに付いていたインクが写り、マルチの顔に蛍光色のしましま模様ができていた事は黙っていた。

 レミィは『学校の備品のモップ』を手に入れた。
 ピロリラ〜ン!(効果音)
 でも腐った牛乳の臭いがするので、レミィはあまり長く持っていたくないと思った。

 『学校の備品のモップ』を肩に担ぎ、レミィは校内をぶらぶらと歩く。
 途中、家庭科室から流れるいい匂いにつられ、中に入ってみた。
 すると、クラスメートの神岸あかりがエプロン姿で料理をしていた。
「ハァイ! 神岸サン!」
「あ、レミィさん」
「あれ? 神岸サンは料理クラブに入っていたんですか?」
「ううん、今日は友達に誘われて遊びに来ただけ」
「ナルホド、ナルホド」
 ちなみにこの時、レミィが持っている汚い『学校の備品のモップ』に、料理クラブの面々が死ぬほどイヤそうな視線を向けていたが、レミィとあかりは気付かなかった。
「ちょうど料理ができたところだったんだけど……あ、そうだ。良かったらレミィさんも試食していかない? こういうのは人数が多い方が楽しいから」
「サンキュー! ぜひごちそうになりマス!」
 あかりの提案とレミィの陽気な返事に、料理クラブの面々の死ぬほどイヤそうな視線が、殺意だけで人を殺せそうな視線になったが、レミィとあかりはまるで気付かなかった。
 そしてテーブルに料理が並べられた。
 レミィとあかりと、そしてかなりイヤイヤな感じの料理クラブの面々もテーブルを囲んでイスに着く。
 白いご飯にアサリのみそ汁、イモの煮っ転がしなどなど、純和風のメニューだった。
「これぞ、ニッポンのワビ、サビね!」
「うふふ、レミィさんって、面白い事言うね」
 それは茶道やろ! 料理クラブの面々は炎よりも熱く、氷よりも冷たくて鋭いツッコミを心の中で入れたが、当然のようにレミィとあかりは気付かなかった。
「それではイッタダッキマ〜〜〜ス!」
 一同、いただきますをする。
 やはりレミィの声が一番大きかった。
 それから一同はしばらく賑やかに料理を食べる。
 そんな楽しい楽しいひとときを打ち破るように、それは起こった。
「あ、レミィさん、お醤油、取ってくれる?」
「イエス!」
 レミィは近くにあった醤油差しを取り、斜め向かいに座るあかりに手渡す。
 その時、何故かレミィは『学校の備品のモップ』を肩に担いだままだった。
 醤油差しを渡す時に身体を捻り、『学校の備品のモップ』は隣の席に座る料理クラブの女生徒Aの後頭部を直撃した。
 さらにその女生徒Aはみそ汁を飲んでいる最中で……。
「キャ〜〜〜〜〜ッ!!!」
 女生徒Aは盛大に悲鳴を上げる。
 けれど慌てる面々をしり目に、レミィただ一人だけは冷静だった。
「こんな時はこれを使うとイイネ!」
「そ、それは……」
 一同は現在の事態とこれから起こりうる未来に対する恐怖と畏怖に震え、固唾を飲んで見守る。
 レミィはまず、『学校の備品のモップ』を床に叩き付ける。
「らんらんら〜〜〜ん♪ おそうじおそうじ〜〜〜♪」
 そして鼻歌など歌いつつ、床に広がったアサリのみそ汁をおそうじおそうじする。
 それからレミィが取った行動は、料理クラブの面々の予想を遙かに凌駕する物だった。
「おそうじおそうじ〜〜〜♪」
「ギャ〜〜〜〜〜ッ!!!」
 床を掃除したモップを、そのまま女生徒Aの濡れた制服に押し付けたのである!
 そしてさらにゴシゴシと上下に動かしたのだ!
「これでおそうじ完了ネ!」
「………」
 一同、唖然としてたったひとつの言葉さえなかった。
 ただ一人、神岸あかりを例外として。
「レミィさん、ありがとう! お礼にこれをあげるよ!」
「ドーイタシマシテ! 神岸サン! それじゃあマタネ!」
 実は最初から最後まで悪いのは宮内レミィだという事に、気付かなかった者はこの場にいなかった。
 ただ一人、神岸あかりを例外として。

 レミィは『神岸あかり特製クマのアップリケのミトン』を手に入れた。
 ピロリラ〜ン!(効果音)
 でもレミィはクマのアップリケよりもクマのハンティングの方が好きだったので、あまり嬉しくなかった。

 『神岸あかり特製クマのアップリケのミトン』を両手にはめ、それを見せびらかすようにしながら、レミィは校内をぶらぶらと歩く。
 ばったりと松原葵と出会った。
「ハアイ! 松原サン!」
「あ、あなたは宮内先輩……」
「ドーシタネ、松原サン、元気ないネ」
「は、はあ……」
「松原サンは元気が取り柄ネ! 元気出さないとダメダヨ! ……あ、元気が取り柄は私も一緒ダネ。お互い様でお奉行様ネ! それじゃあマタネ!」
 そう言ってレミィは葵と別れた。
 ……と思ったら、葵が自分の方をじっと見ている事に気付いて、戻ってきた。
「松原サン、ドーシタネ?」
「あ、あの……宮内先輩、ごめんなさいっ!」
 葵が動いた。
 右、左。
 ワンツーパンチがレミィの両手の『神岸あかり特製クマのアップリケのミトン』にヒットする。
「………」
「あ、あの、すみません。ずっと一人でこういう練習できなかったから……そのミトンを見ていたら、つい……」
 恥ずかしくて真っ赤になってうつむく葵。
「何だ。そういう事だったんだ……イイヨ、私で良ければ付き合うヨ」
「え、本当ですか!?」
「もちろんヨ! 武士に無言はないネ!」
「それじゃあぜひお願いします!」
 拳を胸の前で固めてファイティングポーズを作る葵。
 そして早速、練習を始める。
 まずは右のジャブ。
 間髪を置かずに左のジャブのコンビネーション。
 ここまでは最初と同じだが、さらに右のフックを加える。
「松原サン、トッテモいい感じネ」
「それじゃあ、もう一度、いいですか?」
「オッケーネ!」
「はい、それじゃあ……行きますっ!」
 再び葵が動く。
 右のジャブ、続けて左のジャブ。
 軽く踏み込んでからの右フック。
 ここまではさっきと同じ、簡単なコンビネーション。
 そして、三度目の右フックで動いた体勢を利用し、右足を軸足に残したまま、左足で回し蹴りを放つ!
 最初の三発のパンチまではミット……もとい、ミトンで受け止めていたレミィだったが、最後の回し蹴りはとうてい防げる物ではなかった。
 葵の左足はレミィの側頭部を捕らえ……レミィはあっさりと撃沈した。
「………」
「ああっ! 宮内先輩っ! 大丈夫ですか!?」
「あうっ……今、一瞬だけお花畑と三途の川が見えたような気がしたネ……」
「す、すみません……私ったら、つい調子に乗って……」
「ううん、気にしないで。アタシは大丈夫ダカラ」
「は、はい……あ、そうだ。お礼に……じゃなくてお詫びに、これを差し上げます。それじゃあっ!」
 そう言って葵は走り去っていった。

 レミィは『松原葵愛用テーピング用のテープ』を手に入れた。
 ピロリラ〜ン!(効果音)
 でも今のレミィに必要なのはテープじゃなくて湿布薬だった。

 『松原葵愛用テーピング用のテープ』を手に、レミィは校内をぶらぶらと歩く。
 しばらくしてばったりと出会ったのは、(どういうわけか)セリオだった。
「ハァイ! セリオサン!」
「これは宮内レミィさん。こんにちは」
「何か困っている事とかありませんか?」
「ありません」
「………」
「もしあったとしても、私は人間の役に立つために作られたメイドロボです。人間であるあなたの助けを借りる事など、あってはならない事です」
「………」
 レミィはすごすごと立ち去った。

 『松原葵愛用テーピング用のテープ』を手に、レミィは校内をぶらぶらと歩く。
 一階に下りようと階段を歩いていると、少し前を姫川琴音が歩いていた。
 その背後に忍び寄り、レミィはいつものように明るく元気な声を上げた。
「ハァイ! 姫川サン!」
「きゃあっ!」
 突然のレミィの声に驚き、琴音は悲鳴を上げた。
 その瞬間、階段の窓ガラスが澄んだ音ともに粉々に砕け散った。
「ああ、また超能力を使ってしまいました……」
 力なく琴音がつぶやく。
「イッツ、ファンタスティック!」
「そうじゃないです!」
「ホワッツ?」
「どうしよう……もし私が犯人だと知れたら、窓ガラスを弁償しなくちゃいけません……」
「そういう事なら、これを使うとイイネ!」
「そ、それは!」
 レミィはガラスの破片をかき集めると、『松原葵愛用テーピング用のテープ』でガラスを治し始めた。
「これで完成ネ!」
「……でもバレバレ……」
 窓ガラスは白いテープのせいで蜘蛛の巣のようになっていた。
「細かい事は気にしないネ!」
「はあ……」
 琴音はため息をついた。
「それでは一応、お礼にこれをあげます」
「こ、これは!」
「暖めて飲むとおいしいですよ。それでは」
 そう言って姫川琴音は去っていった。

 レミィは『北海道じゃがバタージュース』を手に入れた。
 ピロリラ〜ン!(効果音)
 でもレミィはあまり飲みたくなかった。

 『北海道じゃがバタージュース』を手に、レミィは校内をぶらぶらと歩く。
 ばったりと長岡志保と出会った。
「ハァイ! 長岡サン!」
「あら、レミィじゃない。ちょうどいいところで会ったわ」
 志保はぽんと手を打った。
「聞いてよ、レミィ。さっきね、のどが渇いたから自販機でジュースを買おうと思ったら、小銭は百円玉一枚と十円玉一枚しかないし、札は二千円札しかなかったから、買えなかったのよ〜」
「へえ……」
「こんな事なら、ヒロに自慢するためだけに二千円札集めたりするんじゃなかったわ。これもきっと日本の政治が良くないせいなのよ」
 確かにその通りだった。
 もっとも、問題は非常に小さかったが。
「それなら、これを飲むとイイネ!」
「そ、それは! 北海道産の厳選された材料だけを使った、幻の『北海道じゃがバタージュース』! なぜそれをレミィが!?」
「姫川サンからもらったヨ」
「姫川さんが……これは意外な人が……」
 レミィにはなんだかよくわからなかったが、志保は驚愕していた。
「ねえレミィ、本当にこれ、飲んでいいの?」
「イイヨ」
「本当に本当に飲んでいいの?」
「武士に二股はないネ」
「そ、それじゃあ……」
 志保は緊張した面持ちでプルトップを開け、口を付ける。
「ドウ?」
「うっ……」
「ウマイ?」
「いや……確かにおいしいって聞いてたんだけど……」
「きっと騙されたんダヨ」
「そうかも……おのれ、ヒロの奴……」
 拳を固く握りしめる志保。
「とりあえず、お礼は言っておくわ。ありがとう、レミィ」
 そう言い残して立ち去ろうとする志保。
 しかしその肩をしっかりと掴み、志保を引き留めるレミィ。
「お礼は?」
「え? ああ、お金なら払うわよ。明日でいい?」
「今すぐ欲しいヨ」
「でも、今、小銭ないし……」
「お金じゃなくて品物がイイヨ」
「そ、そんな事言われても……」
「早く」
「………」
「お礼、早く」
「………」

 レミィは『志保ちゃん愛用黄金のカラオケマイク』を手に入れた。
 ピロリラ〜ン!(効果音)
 っていうか強奪した。

 『志保ちゃん愛用黄金のカラオケマイク』を手に、レミィは校内をぶらぶらと歩く。
 ばったりと雛山理緒と出会った。
「ハァイ! 雛山サン! ドーシタノ? 元気ないヨ?」
「あ、宮内さん……実はもうすぐ弟の誕生日なんだけど……」
「ウン」
「プレゼントを買ってあげるお金がなくて……」
「ナルホド。それならこれをあげるヨ」
 そう言って『志保ちゃん愛用黄金のカラオケマイク』を理緒の手に押し付ける。
「え? こんな高そうな物を? ……いいの?」
「イイヨ。そのままあげるなり、売り払ってお金に換えて別な物を変えるなり、好きなようにするとイイヨ」
「ありがとう、レミィさん……でも私、貧乏だから、お礼にあげるような物、何も持ってないよ」
「それでもイイヨ。困っている人を見たら助けるのはトーゼンネ」
「レミィさん……あ、そうだ。それじゃあこれをあげるよ」
 理緒はどこからか何かの植物の茎らしい物を取り出した。
「ソレハ?」
「これはわらしべっていうの。日本の昔話で、わらしべ長者っていうのがあるの。これを持ち歩いて、行く先々で別な物と交換して、最後には大金持ちになったという話なの」
「へえ……ワラシベチョージャ……」
「それじゃあ、これをあげるから。それじゃあ! 本当にありがとう!」
 理緒は元気に手を振って去っていった。

 ある日の放課後、宮内レミィが校内を歩いていると、クラスメートの藤田浩之が歩いているのに気付いた。
「ハァイ! ヒロユキ!」
 半分とはいえアメリカンらしく、陽気に挨拶する。
「よお、レミィ……ところで手に持ってんの、何だ?」
 浩之はレミィが持っている何かの植物の茎らしい物について聞いた。
「ワラシベチョージャネ!」
 レミィは元気良く答えた。

わらしべレミィの大冒険 了


あとがき

 ど〜も、wen-liです。
 「わらしべレミィの大冒険」いかがだったでしょうか。
 今回は明るく陽気な宮内レミィのお話という事で。
 レミィといえばことわざに凝っているという事で、昔話「わらしべ長者」をモチーフにして書いてみました。
 あとはその他のキャラをたくさん書いて、という感じです。
 さりげなく無限ループなのがミソです。

 あとは「わらしべ長者」について書いてみましょうか。
 「わらしべ長者」のストーリーを簡単に説明すると、ある信心深い男が仏様のお告げでわらしべを手に入れます。
 まず最初に、子供が泣きやまずに困っていた女性と会い、わらしべとミカンを交換します。
 次は喉が渇いて苦しんでいた商人と会い、ミカンと反物を交換します。
 その次は……ちょっとよく覚えていないのですが、反物と馬を交換します。
 最後は、これから旅に出るお金持ちと会い、その人に馬をあげて、「一年経って私が帰ってこなかったら、この屋敷をあげよう」と約束します。
 それでそのお金持ちが帰ってこなかったので、男はお金持ちになりました、というお話です。
 一見すると、仏様のお告げに従った信心深い男が行く先々で人助けをし、最後にはそれが報われてお金持ちになるという、教育的なお話と読み説けるかも知れません。
 しかし現代的な冷めた読み解き方をすると。
 男のやっていた事は、「必要な物を、必要な時に提供した」という言い方ができます。
 それを現代社会に当てはめると、「二十四時間営業していて、多くの人が必要としている物を売っている」場所……そう、コンビニエンスストアがやっている事と共通点が多いとは思いませんか?
 そして今や日本各地にコンビニエンスストアが溢れかえっている状況を思い返せば、「わらしべ長者」が財をなした事は、いわば資本主義的にごく当然と言えるかも知れません。
 まあ、これだけ馬鹿な小説のあとがきにこれだけ立派そうな事を書けるのはすごい事かも知れません。
 ところで「わらしべ長者」に出てくる、旅に出たお金持ちさんは、どうなってしまったんでしょう。

 「私はここにいます。」の前身、「私のほーむぺーじ」の開設から、マルチがメインの「マルチの料理」、琴音の「イエナイココロ」、芹香の「お嬢様と遊園地」、あかりの「髪を切る日」、智子の「手をつないで帰ろ」、志保の「ウソから出たマコト?」、葵の「夕焼けのちVサイン」、そして今回、レミィの「わらしべレミィの大冒険」と、一連のToHeart二次創作小説は8本目を数えました。
 この後、それぞれ理緒と綾香がメインの小説を書く予定でしたが、PC版ToHeart登場から長い時間が経ち、世間のToHeart熱も冷めつつあり、また「私はここにいます。」自体、これからはオリジナル小説を中心に展開していこうと考えています。
 そういった事情なので、ToHeartの二次創作は今回の「わらしべレミィの大冒険」を最後にさせていただきます。

 感想お待ちしてます。
 でわでわ。


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