ウソから出たマコト?
「浩之ちゃん、最近暖かくなってきたね」
「そうだな。もう春だからなあ……また花見にでも行こうか」
「この前行ったばかりだよ?」
「今度はオレ達だけじゃなくてさ、委員長とかレミィとかも誘ってみんなで」
「うん、そういうのもいいよね」
「だろ?」
「でもお酒はダメだよ」
「ちえっ、バレたか」
そんな事を話しながら、オレ、藤田浩之と幼なじみのあかりは学校への道を歩く。
時間に余裕があるわけではないが、ゆっくり歩いても充分に間に合う時間だ。
やはりこんな小春日和の朝には、全力疾走で校門に駆け込むのは似合わない。
たまには春の陽射しに目を細めながら、ゆっくりと歩くのも悪くない……。
「ヒロ! 大ニュースよ!」
……全く、このスピーカー女は。
「誰がスピーカー女よ!」
「お前の事だよ、長岡志保」
こいつはオレの中学校からの知り合いの長岡志保だ。
噂話を集めるのと、集めた噂話を広めるのがこいつの趣味なんだが、その時に余計な尾鰭を付けるのが困りものだ。
普段は付き合いやすい奴なんだが、デマを広めまくるのが欠点だ。
「誰がいつデマを広めたのよ!」
「いつもの事じゃねえか」
「二人ともやめようよ」
エスカレート寸前、あかりが仲裁に入る。
さすがはオレの幼なじみ、心得たものだ。
それからしばらく、オレ達三人は適当に雑談しながら歩く。
校門を抜けたところで志保が一際大きな声を上げる。
「ああっ! 忘れるところだったわ!」
「な、なんだよ、いきなり」
「さっき言いかけた大ニュースよ! 聞きたいでしょ?」
「いや、別に」
「もう、本当は聞きたいくせに、無理しちゃって」
志保はうりうりと肘をオレの脇腹に押し付ける。
「しゃーねーなー。聞いてやるよ。ガセネタだってわかってるけどな」
「ガセネタじゃないわよ!」
「いいから早く言えよ、聞いてやるから」
「くっ……」
志保は少しだけひるんだようだったが、すぐに立ち直って言った。
「いい? 聞いて驚いてよ。
なんと、ヒロのクラスの担任の木林先生が車にはねられて重傷なのよ!」
「何っ!? 本当か!?」
「間違いないわよ! なんせこのあたしの情報なんだからね」
う〜む、まさか木林先生が交通事故とは……あれ?
「ねえ、志保。前にも似たような事言ってなかった?」
あかりが口を挟む。
そうだ。確か二年になる前、山岡先生が交通事故の実験を見てきたのを、志保は何を勘違いしたのか、山岡先生が車にひかれたと言い、まんまと騙されたオレは赤っ恥をかいたんだ。
「それ見ろ。やっぱり今回もガセネタじゃねえのか?」
「違うわよ! 今回は本当よ!」
志保はまだぎゃーぎゃー言ってる。
無視無視。
などとやっている内に教室の前に着いた。
これでやかましい志保とも離れられる。
「やあ、みんなお揃いだね」
おや、向こうから雅史がやってきた。
「よお雅史、どこ行ってたんだ?」
「日直だから日誌を取ってきたんだよ」
日誌か……待てよ、日誌という事は……。
「……それじゃあ職員室に行ってきたのか?」
「うん」
「ウチの担任の木林先生、怪我とかしてなかったか?」
「ううん、全然。元気だったよ」
「だってよ。やっぱりガセネタだったみたいだな」
オレが、それ見た事か、と志保を振り返ると、
「……っぐ」
志保は声をつまらせる。
「ああ、そう言えば……」
雅史が思い出したように声を上げる。
「何よ! 何!?」
志保がわらにもすがる思いで雅史の腕をつかむ。
「先生、車をぶつけたって言ってた。壁にぶつけて、修理代がもったいないって」
「………」
志保ががっくりとうな垂れる。
「これで志保もしばらく静かになるといいな」
「志保、大丈夫かな」
「ねえ、話が見えないんだけど……」
三者三様のつぶやきを漏らして、オレ達は志保を残して教室に入った。
それから自分の席に座って先生が来るのを待ったが、しばらく待っても来ない。
あんまり遅いもんだから、みんな自分の席に座ったままぺちゃくちゃおしゃべりを始める。
「なあ委員長、木林の奴、遅くねえか?」
ヒマだから隣の席の委員長に話しかけてみる。
「……なんや? 早く来て欲しいんか?」
「いや、そういうわけじゃねえけどさ」
オレが苦笑混じりに返事をすると、教室の前のドアが開いた。
木林の奴、やっと来やがったか……と思ったら、木林じゃなくて教頭じゃないか。
どうしたんだ? 一体。
委員長の号令で、起立、おはようございます、着席、とやってから、教頭はひとつ咳払いをしてから口を開いた。
「えー、中には知っている人もいるかと思いますが……」
教頭は歯切れの悪い切り出し方をした。
「このクラスの担任の木林先生が交通事故に遭われました。ついさきほど、病院に運ばれましたが、命に別状はないそうです。
また1時間目の物理は自習になります」
へ? 木林が交通事故に?
どういう事だ? さっき雅史が無事だって言ってたじゃねえか。
教頭はその他にも二、三の話をして教室を出ていった。
オレは急いで教室を出て、廊下で教頭に追い付く。
「教頭先生、どういう事っすか?」
「ん?」
「木林先生の事です」
オレは雅史から聞いた話を手短に話した。
教頭は、ああそうか、と大きくうなずいてから口を開く。
「木林先生は朝の職員会議が終わった後、何か用事があるとかで学校を出たんですよ」
「………」
「きっとすぐに教室に戻るつもりだったんでしょう。ところが車にはねられてしまって……」
「そうっすか……」
「心配ですか? 木林先生の事が」
「い、いえ、別にそういうわけじゃ……」
「そうですか。心配ですか。木林先生は本当にいい生徒に恵まれましたね……木林先生はすぐに元気になって戻ってきますから、それまで勉強をおろそかにせずに待つ事にしましょう」
「………」
教頭先生は感激の涙を流し、ひとしきりオレの肩を叩いたり手を握って上下に振ったりしてから職員室に戻っていった。
いや、別に心配してたわけじゃないんだけどなあ……。
教頭先生の汗ばんだ手でべとべとになった手を気にしながら教室に戻ろうとすると、
「ふっふっふっ……聞いたわよ〜〜〜〜〜」
地獄の底から響いてきた笑い声に、オレは悪寒を感じた。
振り返って、そこに志保の姿を見付ける。
「……何が地獄の底よ」
「気にするな」
「まあいいけど……やっぱり志保ちゃん情報は正しかったのね!」
「は?」
「木林先生の事よ。聞いたわよ。事故に遇ったんだって? やっぱり今朝の志保ちゃん情報は正しかったのよ!」
「何言ってんだよ。事故が起きたのはオレ達がお前から話を聞いた後だったんだぜ?」
「う……」
「たまたま後付けで情報が正しくなったからって、偉そうに言ってんじゃねえよ」
「ぐ……」
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン。
「お、チャイムが鳴ったぞ。早く教室に戻れよ」
「うっさいわねぇ! わかってるわよ!」
志保は負け惜しみに叫ぶと、教室に戻っていった。
さて、オレも教室に戻るか。
二時間目の英語が終わり、机の上に突っ伏していると、ニコニコ顔でレミィが話しかけてきた。
「ハァイ! ヒロユキ、さっきの英語のテスト、どうデシタ?」
「ん? ああ……」
ついさっき、先週の英語の小テストの答案が返ってきたのだ。
「ダーメ、全然ダメ」
「そうデスカ……残念デス……」
まるで自分の事のようにがっかりするレミィ。
「レミィは良かったんだろ? こういう時は羨ましいよなあ、ハーフって」
「そんな事ないヨ。ワタシだってスペルがわからなくて二問も間違えたヨ。だからヒロユキも元気出して!」
「レミィ、もしかして残りは全部あってたのか?」
「ウン」
「それだけあってたら充分にすげえよ」
「あ、そうだネ」
また明るくニコニコと笑うレミィ。
これじゃあどっちが励ましてるのかわからないな。
「じゃあネ、ヒロユキ」
レミィは自分の席に戻っていった。
入れ代わりに志保がやってくる。
「ちょっとヒロ、聞いた〜?」
「おう、聞いた聞いた。すげえよなあ」
「本当にすごいわよね〜……ってまだ何も言ってないわよ」
「言わなくていい。さっさと帰れ」
「冷たいわね〜、せっかく志保ちゃん情報を一番に聞かせてあげようと思ったのに」
「いらねーよ」
「えっとね、この前、英語の小テストがあったでしょ?」
……聞いてねーし。
「それでね、百点を取った人がいるらしいのよ!」
「ふ〜ん」
「で、誰だと思う?」
「そうだな……とりあえずレミィは違うし……」
「そうそう、レミィは違うから……ってちょっと、ヒロ!」
「ん?」
「あたしの情報ネットワークによれば、レミィが百点取ったらしいのよ!」
「ウソつけ」
オレは即座に言った。
「そんな事ないわよ! 今度こそ本当よ!」
今度こそ? こいつ、いつもデマばかり広めているという自覚があるのか?
「さっき本人から聞いたんだよ。二問わからなかったって」
「ほ、本当に!?」
「おう、それじゃあ本人に聞いてくるか?」
「い、いいわよ」
オレは志保を引き連れてレミィの席に行った。
「レミィ、さっきの英語のテスト、見せてくれねえか?」
「オーケー! はい、ドウゾ」
レミィはニコニコ顔でテストを机から引っ張りだす。
羨ましいぜ、こんなに楽しそうに人にテストを見せられるなんて。
「ほら、志保、見てみろ」
「………」
「これに懲りたらデタラメな志保ちゃん情報なんて広めるのはやめるこったな」
「……ちょっと、ヒロ」
「ん?」
「百点じゃない」
「え?」
改めてテストを見る。
そこには大きく「100」と赤ペンで書きなぐってあった。
「………」
「ほ〜ら、見たでしょ? やっぱり志保ちゃん情報は正しかったのよ!」
「………」
「いつもいつも正しい志保ちゃん情報にイチャモンつけたくなるヒロの気持ちもわかるけど……あ、他のクラスでも志保ちゃん情報を広めてこなくちゃ。
じゃあね〜〜〜♪」
志保は大きく手を振って教室を出ていく。
くそっ、何だか悔しいぞ。
これというのもみんなレミィの勘違いのせい……。
「おかしいデス……さっき見た時には確かに九十六点だったのに……」
え? なんだって?
いくらなんでも百点と九十六点を間違えるか?
九十二点と九十六点とかならともかく。
「レミィ、ちょっと見せてみろ」
オレはレミィの手からテストをひったくるように奪って目を通す。
百点の答案には、レミィが言っていた通り、二ヵ所の空欄があった。
そこにも確かにマルがついている。
「………」
採点ミス?
いくらなんでも空欄にマルつけるか? それも二ヵ所も。
「ヒロユキ……」
悲しそうにレミィがオレの名前を呼ぶ。
「ん? どうした?」
「このテスト、先生に見せてきた方がいいのカナ?」
「んな事気にしなくていいって。儲けたと思っておけばいいんだよ」
「ウン、そうだネ」
昼休み、売店でパンを買ってきたオレはそのまま自販機へと向かった。
……だけど昼間のアレはなんだったんだろうな。
一つ目は担任の木林が交通事故に遇った事。
もう一つはレミィのテストの点数。
両方とも、デタラメな志保ちゃん情報が何らかの形で否定されたのに、いつのまにか正しくなってしまっている。
偶然とか記憶違いとかで説明するにも少し無理があるし、ましてそんな事が一日で二回も起きたとなると……。
「……藤田さん!」
「え?」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには俺の後輩の女の子が立っていた。
「あ、琴音ちゃん」
「どうしたんですか? 何回か声をかけたんですけど……」
「わりぃ、気付かなかったみたいだな」
声をかけられた事にも気が付かないくらい、自分の考えに没頭していたのか。
「琴音ちゃん、昼飯は?」
「これからです」
そう言って手に持った女の子らしい柄の小さな包みを見せる。
琴音ちゃん、今日はお弁当なんだな。
「じゃあ、一緒に食うか。中庭でいいかな?」
「はい」
「ちょっと自販機でジュース買ってくるから……」
「あの、藤田さん」
「ん?」
走り出そうとしたオレを、琴音ちゃんが呼び止める。
「自販機、もう通り過ぎてますけど」
「……あ、しまった」
琴音ちゃんが指差す少し離れた場所に、自販機があった。
どうやら琴音ちゃんに声をかけられるより前に、自販機の前を通り過ぎてしまったらしい。
……かなり本格的に考え事に没頭していたみたいだな。
オレは急いで自販機の前に行き、カフェオレを買って戻ってきた。
「じゃあ行こうか」
「はい」
人影のまばらな中庭に着いた。
オレと琴音ちゃんは空いたベンチに座り、それぞれの昼飯を食べ始める。
「藤田さん、何か心配事があるんですか?」
「ん? ……ああ……そうだな」
オレは今日の出来事を琴音ちゃんに説明した。
木林先生の交通事故の事、そしてレミィのテストの点数の事。
「そんな事があったんですか……」
「ああ、その事がずっと気になってて……とても偶然だなんて思えないんだ」
「そうですね」
琴音ちゃんはしばらく考え込んで、それから言った。
「予知能力……でしょうか?」
「え?」
「と言うよりは、長岡先輩の言った通りに未来が変わってしまったような気がします」
「………」
言われてみるとその通りだ。
まるで琴音ちゃんの予知能力のような……。
「って事は、志保も琴音ちゃんみたいに超能力者だったって事か?」
「………」
まずは木林先生の交通事故。
朝、オレとあかりに志保ちゃん情報を教え、雅志に否定された志保は、逆上して念動力を使って木林を動かし、道路に飛び出させて事故を起こした。
そしてレミィのテストの点数。
オレに志保ちゃん情報を否定され、情報の真偽を確かめるべくレミィにテストを見せてもらう事になったが、情報が間違っていてオレに馬鹿にされるのを恐れて、事前に念動力でレミィのテストの点数を書き換えた……。
「……ちょっと無理があるな」
「そうですね」
苦笑気味に琴音ちゃんもうなずく。
「あの、藤田さん、私、余計な事言いましたか?」
「いや、そんな事ねえよ。念動力じゃなくても、志保の言った通りの未来になっている確率が高いのはわかったからな。
琴音ちゃん、ありがとう。参考になったよ」
「お役に立てて嬉しいです」
にっこりと琴音ちゃんが笑う。
この後、オレと琴音ちゃんは昼飯を食べ終え、昼休みの終わりのチャイムが鳴る寸前までおしゃべりを続けた。
そして教室に戻るために別れるところで、琴音ちゃんに呼び止められた。
「藤田さん」
「ん?」
「もし長岡先輩が私みたいに予知能力のせいで孤独になったり不幸になったら……助けて上げられるのはきっと藤田さんだけだと思います。
藤田さん、なんとか長岡先輩を助けて上げてください! 私からもお願いします!」
「……琴音ちゃん」
「失礼しますっ」
琴音ちゃんは勢い良く頭を下げて、軽い足音を響かせながら走り去っていった。
……そう、確かに琴音ちゃんの言う通りだ。
もし今の志保を救う事ができる奴がいるとしたら、それはオレ以外の人間ではないはずだ。
上手くいくかどうかなんてわからない。
しかしできるだけの事はやってみよう。
待ってろよ! 志保! オレが必ずお前を救ってやるからな!
……………。
…………。
………。
……。
…。
しかし、琴音ちゃんの時と違ってイマイチ燃えてこないなあ。
大体、志保が周りの人間を不幸にしたり避けられたりするくらいで、落ち込んだり周囲と距離を置いたりするような、可愛げのある女か?
まあ、志保を助けるというよりは、周りの人間が不幸にならないようにすればいいのかな、とりあえずは。
放課後、帰ろうと教室を出たところで志保に捕まった。
「ちょっとヒロ〜〜〜〜、大ニュー……むぐっ」
志保が何か言おうとするより一歩早く、オレはよく動く志保の口を手の平で塞いだ。
「むぐうぐぐぐぐぐ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………」
志保の抗議の声(たぶん)を無視し、そのまま人が少ない方に連れていく。
「……ぷはっ……ちょっと! いきなり何するのよ!」
「どうせまたくだらない志保ちゃん情報でも聞かせるつもりだったんだろ」
「くだらなくないわよ! 今回のはとっておきの情報なんだから!」
「何がとっておきだ。いつも暇さえあればデマを流しまくっているくせに。たまには好き勝手な想像じゃない情報を教えろよ」
「むき〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! 言ったわね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
地団駄踏んで悔しがる志保。
よし、これで志保の奴も少しは静かになる……あれ? これじゃいつもと一緒じゃねえか。
ダメじゃん、これじゃ。
「志保、ちょっと話がある。来てくれ」
「え? ちょ、ちょっと、何よ、いきなり……」
「いいからさっさと来い」
オレは志保の手を引いて学校を出た。
「……というなんだ。わかったか?」
「まだ何も言ってないじゃない」
「お約束のボケはやめろ」
「あはははは、言ってみただけだってば」
はあ、こいつと話してると頭が痛くなってくる。
とにかく、昼休みに琴音ちゃんと話した事を説明したわけだ。
まあ、ちょっと信じられないような話かも知れないが。
志保は腕を組んでしばらく考え込む。
そして不安そうな顔で切り出す。
「ねえ、それならあたしって超能力者って事?」
「そうと決まったわけじゃねえよ」
「じゃあこれからはあたしの事はエスパー志保ちゃんって呼んでね♪ あと、インタビューはちゃんとマネージャーを通してからね♪」
「……マネージャーって誰だよ。っていうかカッコわりいぞ」
「やっぱり? う〜ん、かっこいい名前考えないと……」
また腕を組んで考え込む志保。
もうちょっと可愛げのある事で悩んだらどうなんだ?
「とにかくそういうわけだから、いつもの荒唐無稽な志保ちゃん情報は控えろよ。周りに迷惑だから」
「何よ。それじゃまるであたしの志保ちゃん情報が人の不幸ばっかりネタにしてるみたいじゃない」
「事実そうじゃねえか。現に木林が入院したのはお前のせいかも知れないんだぜ?」
「う……」
志保は言葉に詰まった。
「そうね、確かに少しは控えた方がいいかも知れないわね……」
そして珍しく神妙な面持ちになる。
かと思いきや、
「それはそれとしてさ、これからゲーセン行かない?」
急に明るい表情に戻る。
「お前なあ、事の重大さがわかってるのか?」
「わかってるわよぉ。だから早くゲーセン行こっ」
そう言って強引に俺の腕を引っ張ってく。
なんだか不安だなあ。
まあ気にしても仕方ないけど。
「それにしてもヤックのてりやきバーガーはおいしいわね!」
「………」
「もぐもぐ……うん、ポテトも相変わらずいい味出してるわね〜」
「………」
「ヒロのおごりだと思うと、なおさらおいしく思えてくるわね〜」
「………」
「ねえヒロ、食べないの?」
「いや、ちょっと食欲がねえんだ」
「ふ〜ん、残念ねえ、おいしいのに」
やたらと嬉しそうな志保の顔を見てると、こっちはやたらと悔しくなってくる。
え? ゲーセンはどうしたのかって?
決まってるだろ。オレの目も当てられないような惨敗で、こうしてヤックでおごる事になったんだ。
原因はわかってる。
ゲーセンに入る直前、志保が「絶対にあたしが勝つんだからっ!!」って力一杯言ったもんだから、そのせいで負けたに違いない。
でなきゃスタート直後のジェットスキーがいきなりひっくり返ったり、最後の直線でデッドヒートを繰り広げていたのが理由もなくスピードが落ちて止まったりするわけがない。
まあそんな事志保に言ったところで、
「あら? 自分の失敗を人のせいにするなんてみっともないわよ?」
とか
「運も実力の内なんだから、いいじゃん、別に」
とか
「これもひとえに志保ちゃんの実力の為せる技よね。別にヒロが弱いわけじゃなくてあたしが強いだけなんだから、落ち込まなくてもいいわよ」
とか言われるに違いない。
だから黙っていた方がいいんだが……。
「そうね〜、あとデザートを二つ三つ注文しようかしら」
人の金だと思ってバクバク食いやがって、ちくしょう。
自分の実力で勝った訳でもないくせに。
「ねえヒロ、あたしさあ、さっきからずっと考えてたんだけどぉ」
「ん?」
「あたしって芸能レポーターとかに向いてると思わない?」
「………」
頭の中が空っぽなところは芸能レポーターそのままだよなあ、と言おうと思ってやっぱりやめた。
泥沼になるだけだ。
「あたしが『話題のトップアイドル森川由綺、電撃入籍!』とか記事を書くのよ。そしたら次の日にはそれが本当になって、スクープ間違いなし!
というわけ。いいアイデアだと思わない?」
近くの親父が読んでいたスポーツ新聞の大見出しを見て、オレははらはらと涙を流した。
グッバイ、オレの森川由綺。
おめでとう、藤井冬弥。
末永く幸せにな……。
「志保! お前は金輪際口を開くな!」
「な、何よ、いきなり……」
ヤックから出るなりオレに怒鳴られて、志保は驚いて目を丸くする。
「お前のせいで、お前のせいでなあ……」
ちくしょう、涙で前が見えない。
「わ、わかったわよ。これから気を付けるから。ね?」
「………」
口先だけはそう言える。
しかし志保の口約束ほどあてにならない物はないからなあ。
「だけどこれじゃあうっかり『ノストラダムスの大予言が的中する!』なんて口を滑らせたら、大変な事になるわねえ……」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「志ぃぃぃぃぃ保ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!」
一方その頃、オカルト研究会の部室では。
「芹香お嬢様、お迎えに上がりました」
「………」
うやうやしく頭を下げるセバスチャンこと来栖川家に仕える執事の長瀬。
しかし芹香は形の良い眉をひそめて困った表情になる。
「………」
「なんですと? 捜し物があるからまだ帰れない、ですと?」
こくん。
小さく、申し訳なさそうにうなずく芹香。
「わかりました。それではこのセバスチャンめもお手伝いしましょう。それで捜し物とはどのような物ですか?」
「………」
「はあ……嘘がつけなくなる薬……ですか? どうしてそのような物を?」
「………」
「毎年エイプリルフールにからかわれる? 確かに薬がないと困りますな。ではさっそく探す事にしましょう」
ウソから出たマコト? 了
あとがき
ど〜も、wen-liです。
「ウソから出たマコト?」いかがだったでしょうか。
えーと、本当はエイプリルフールまでに書き上げる予定でしたが、思いっ切り遅くなってしまいました。
でもそれはPS版ToHeartと輝く季節へをやっていたせいで、私がサボっていたわけではありません。
……ってそういうのをサボリって言うんですね。反省。
でも4月中にできたから、まあいいか。
ってもう30日じゃん。
まあ1999年7月までに完成して良かったですねー、という事で。
今回はタイトルで苦労しました。
第一案「志保ちゃんのエイプリルフール」。
エイプリルフールに間に合わないので不許可。
第二案「ノストラ志保ちゃんの大予言」。
オチがバレバレなので不許可。
第三案「******」。
同じタイトルのがあったので不許可。ヒマな人はあててみて下さい。あたっても何もあげませんけど。
それで第四案「ウソから出たマコト?」に決定しました。
だいたいそのまんまですね。小説が書き上がってから決定したタイトルです。
内容的には……どうなんでしょう。
自分でも面白いんだか面白くないんだかよくわかりません。
いつも書いている時は「うぉぉぉぉぉ! これはすごい面白いぜ! 傑作だぜ!」という感じで、書き終わってから「う〜ん、ああした方が良かったかな……それともこうした方が良かったかな……」とか後悔するんですが、今回は書いてる間に両方ともやってしまいました。
ちなみにもう一個エンディングの案があって、それは感じです。
あかり「志保、最近元気ないよ? 大丈夫?」
志保「そんな事ないわよ。あたしはいつだって元気よ」
雅史「でも、もう一週間も志保ちゃん情報を広めてないんだよ?」
志保「そう……まだ一週間なのね……言いたい事を何も言わないのがこんなに辛いとは思わなかったわ……」
浩之「バカ野郎! そんなに辛いんなら、さっさと言っちまえよ!」
志保「ヒ、ヒロ……でもあたしが志保ちゃん情報を広めたら、みんなに迷惑が……」
浩之「一週間、志保ちゃん情報を聞かなくて、オレはやっと気付いたんだ……。
ウソでもデタラメでもいい! オレは志保ちゃん情報を聞きたいんだ!
志保ちゃん情報を広めない志保なんて長岡志保じゃねえ!」
志保「ヒロ……わかったわ! あたし、命の続く限り志保ちゃん情報を広めまくるわ!」
……なんか別な話ですね、これじゃあ。
感想お待ちしてます。
でわでわ。
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