お嬢様と遊園地
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン。
退屈なHRも終わり、オレ、藤田浩之は手早くカバンに勉強道具を詰め込むと、教室を飛び出した。
「あ! 浩之! ちょっと待ってよ!」
と、思ったら、直前でオレの幼なじみその2、佐藤雅史に呼び止められた。
「なんだよ、雅史、オレ急いでるんだよ」
ちょっと抗議めいた事を言ってみる。
「あ、うん……ねえ、明日はヒマ?」
「まあ今のところ予定はねえよ」
「それなら良かった。パパがね、こんなのもらってきたんだけど」
雅史はポケットから何やら紙切れを取り出してオレに見せた。
どれどれ……。
「デズミーランド一日フリーパス?」
「うん、これがあれば、デズミーランドで一日中タダで遊べるんだ」
「ほほー、これはまたいい物を」
デズミーランドはおとぎの国をモチーフにした遊園地だ。
ファンタジーな演出が多いので、デートスポットとしての人気も高い。
しかし、問題はなあ……。
「明日休みだから一緒に行かない?」
「雅史、お前まさか……」
問題は、雅史の手の中にあるチケットが、二枚であるという事だ。
「デズミーランドに、オレと二人で行こうって言うのか?」
「うん、そのつもりだけど」
「何が悲しくて野郎二人でデズミーランド行かなくちゃなんねえんだよ!」
デズミーランドはデートスポットとして有名な場所だ。
右を向いても左を向いてもカップルか家族連れしかいないんだぜ?
そんなところに野郎二人で行くなんて、虚し過ぎる!
「僕は気にしないけど」
雅史はこういう奴だからな。全く……。
「とにかく、オレは絶対に行かねえからな……そうだ、クラスメートの女の子でも誘ってみろよ」
「うん……でもそんなに親しい女の子、いないからなあ……」
「何言ってんだよ。これを機会に親しくなるんじゃないか」
「だけど……僕、今は興味ある女の子いないから」
はあ……。
雅史はそのルックスのおかげで、結構女の子にモテる。だけど本人にはその自覚がなく、親友のオレも雅史が特定の女の子と付き合っているという話は聞いた事がない。
オレとしてはもったいないというか、助かったというか……。
「そうだ、これ、浩之にあげるよ」
「え? いいのか?」
「うん、浩之にはいるんでしょ? 誘うような女の子」
「まあ……いると言えばいるけど……」
脳裏に一人の女の子の顔が浮かんだ。
「いいのかよ? こんなもん、もらっても」
「うん、浩之が使ってくれれば僕も嬉しいよ」
「そうか、サンキュッ! 恩に着るぜ!」
オレは雅史にそう言って、教室を飛び出した。
げっ! このチケット、明日までじゃないか。
まあ、明日までに使えばいいか。
問題は先輩、いつもの場所にいるかな……お、ラッキー! いたいた!
来栖川センパイはいつもと同じように、校門に寄りかかって迎えの車が来るのを待っている。
「お〜〜〜〜〜〜い! せんぱ〜〜〜〜〜〜い!」
オレが呼ぶと、全力疾走でセンパイの方に走っていった。
センパイはオレに気付くと、ゆっくりとした動作でオレの方を振り返る。
「はあ、はあ、はあ、センパイ、はあ、はあ、まだ帰ってなかったか、はあ、良かった良かった」
するとセンパイはいつもの無表情で、だけどなんとなく心配そうな表情になって、
「………」
「え? 落ち着いてから話せって?」
…こくん。センパイはうなずく。
「わりぃ、わりぃ。すーっ、はーっ、すーっ、はーっ」
オレは大きく深呼吸をして呼吸を整える。
「よし、落ち着いた」
「………」
「何か用かって? うん、センパイ、明日ヒマ?」
「………」
「用事がある? それじゃあ仕方ないなあ……え? 大切な用事ならそっちにしてもいいって?」
…こくん。
「センパイは優しいなあ。だけど大した用事じゃないから。センパイは遠慮なくそっちの用事に行ってくれよ」
オレがそう言うと、センパイはすまなさそうにうつむいた。
「………」
「ごめんなさいって? いや、悪いのはオレの方だから。急に誘われても、センパイにはセンパイの都合があるだろうし……」
まさか「タダ券が明日までだから」なんて理由じゃ無理は言えないよな。
「………」
「え? 来週はヒマだって? それじゃあ来週改めて誘おうかな?」
「………」
あ、センパイ、赤くなった。
くぅっ! 可愛いぜ!
などとやっていると、黒塗りのリムジンが走ってくるのが見えた。
たぶん、先輩を迎えにきた執事のおっさんだろう。
か〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! って怒鳴られる前に退散するか。
「んじゃセンパイ、またな」
オレはセンパイに軽く手を挙げてみせると、そのまま歩きだした。
途中で一度だけ振り返ると、センパイはまだオレの事をすまなさそうに見ていた。
ちえっ、センパイはダメだったか。
う〜ん、他に誘うような女の子はいないし……。
金券ショップで売っちまおうか。
いや、もらったもんを売るわけにはいかないし、そもそも明日までのチケットだ。いくらデズミーランドの一日フリーパスでも買ってくれないだろうなあ。
う〜ん、もったいないけど諦めるか……。
「浩之ちゃん」
制服の袖を引っ張られて、オレは振り返った。
そこに立っていたのはオレの幼なじみ、神岸あかりだった。
「浩之ちゃん、一人?」
「悪かったな」
「ううん、悪くはないけど……一緒に帰ろ?」
「まあ、いいけど」
「うん」
あかりはにっこりと笑う。
「あ、そうだ。商店街に新しいドーナツ屋さんができたんだって。今度、志保と三人で行ってみようよ」
「………」
「浩之ちゃん、どうしたの? ボーッとしてるよ?」
「え? あ、ああ……」
よく考えたら、あかりだって女の子なんだよな。
野郎二人で行くなんて嫌だって雅史には言ったけど、あかりは女の子だからな。
「よし、あかり、明日デズミーランドに行くぞ!」
「え? 浩之ちゃん、急にどうしたの?」
「雅史に一日フリーパスっていうのをもらったんだよ。嫌か?」
「ううん、そんな事ないけど……」
あかりの奴、なんだか歯切れが悪いなあ。
「あかり、嫌なら無理に付いて来なくてもいいんだぞ?」
「嫌じゃないけど……来栖川先輩は?」
「とっくに誘ったよ。だけど用事があるんだって」
「ふ〜ん、それならいいけど……」
あかりの奴、オレとセンパイが付き合ってると思って遠慮してたのか?
いらない気を回しやがって。
「よし! 明日は朝八時にオレを迎えにこい! 弁当を忘れるなよ!」
「浩之ちゃん、デズミーランドは食べ物持ち込み禁止だよ」
え? そうだったのか? 天下のデズミーランドもせこいじゃねえか。
私、来栖川綾香はため息をついた。
右を向いても左を向いてもカップルか家族連ればかり。
こんな所にカッコいい彼氏じゃなくて姉さんと一緒にいるんだから、気が滅入っちゃうわ。
「………」
そんな事を考えていると、姉さんが話しかけてきた。
「え? 姉さんは悪くないわよ。うん。本当に」
「………」
そうは言ってみたけど、やっぱり姉さんはすまなさそうな表情(きっと他の人にはいつもの無表情に見えるだろうけど)でうつむいている。
大体、お祖父様が悪いのよ。急に「せっかくの日曜日だから、二人で遊びに行ってきなさい」なんて言い出すから。
今時の女子高生(姉さんはちょっとタイプが違うかも知れないけど)が、姉妹で遊園地に行って喜ぶと思ってるのかしら?
「……そういえば姉さん、災難だったわよね。せっかく彼氏にも誘われてたのに」
「………」
こくっと姉さんは小さくうなずく。
「え? 浩之さんと一緒に過ごせない事よりも、誘いを断ったのが心苦しいって? もう、姉さんったら優しいんだから」
姉さんは私なんかと大違いよね。
だけど優しいっていうよりは、お人好しかも。
せっかく内気で無口な姉さんにも彼氏ができて、しかも彼氏の方から誘われたのに。
妹の私としても残念だけど……まあ、姉さんと彼氏ならきっとこれからもうまくいくわよね?
「姉さん、まずはどの乗り物にする?」
辺りを見回すと、
「浩之ちゃん、最初はどれにしようか」
「う〜ん……あかりはどれがいい?」
「じゃあ、あれがいいな」
そんな会話を交わしつつ、二人は私の前を横切っていった。
い、今、見てはいけない物を見たような……。
まさか姉さんは見てないわよね?
振り返って姉さんの様子をうかがうと、
「………」
姉さんはいつものように無言、無表情だった。
だけど……どこからともなく黒い三角帽子と黒マントを取り出し、身に付ける。
いわゆる「魔女ルック」という奴よ。
「ちょっと姉さん、何を始めるつもりなの?」
「………」
私の言葉を聞く様子もなく、姉さんは地面に魔法陣を書き始めた。
あかりが選んだのは、オーソドックスなジェットコースターだった。
二人で並んでシートに座ると、バーが目の前に下りてくる。
「もうすぐ動くんだね」
「ああ」
「わくわくするね」
「そうだな」
ゴトン。
ジェットコースターはひとつ音を立て、ゆっくりと動きだした。
徐々に加速していき……。
魔法陣の側に立ち、姉さんは何やら呪文を唱えている。
「ちょっと姉さん! 周りの人が見てるわよ!」
しかし私の声も周りの視線も、姉さんには気にならないらしい。
姉さんはそのまま一心不乱に呪文を唱え、しばらくすると、魔法陣から煙がもくもくと立ち上り始めた。
そして煙は三メートルくらいの高さで渦を巻き、少しずつ何かの形を作っていく。
それは人間のような四肢を持った、生き物らしき存在だった。
しかしそれは人間と呼ばれる存在とは、大きくかけ離れた存在だった。
筋肉の盛り上がった背中には蝙蝠のような翼が生え、太い首の上にあるのは人間の頭部ではなく、山羊のそれだった。
一言でその存在を言い表わすなら、その言葉は「悪魔」以外にあり得ない。
「………」
姉さんが私には理解不能な言葉で悪魔に話しかけると、悪魔は何度か小さくうなずき、どこかに飛んでいってしまった。
「ね、姉さん、そんなの召喚してどうするのよ!」
「………」
「え? ちょっと恐い目に遭わせる?」
…こくん。
ジェットコースターは徐々に加速していき……。
そのまま加速し続ける。
え? おい、ちょっと待てよ。速すぎじゃないか?
「ひ、浩之ちゃん、このジェットコースター、なんか変だよ?」
あかりも気付いたか。
ジェットコースターは普通より速いスピードで走り続ける。
加速し続ける。
ひたすら加速し続ける。
「ひ、浩之ちゃん、恐いよお」
あかりが言うが、こうなっては飛び降りるわけにもいかない。せいぜいしっかりつかまるくらいだろう。
目の前に上り坂が迫っている。
坂を上り切れば、その後はさらに落下するように加速するだけである。
坂の手前くらいで、急にピタッと止まってくれないだろうか。
オレは思った。
それで「びっくりカメラ」と書いた看板を持った男がどこからともなく現れるのだ。
そうすれば笑い話ですむ。
笑い話ですませられる。
しかしジェットコースターは止まらない。
上り坂の頂点に達し……。
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
誰かが悲鳴を上げた。
もしかすると、オレ自身が上げた悲鳴だったのかも知れない。
…もしかしたら私、姉さんを止めるべきなのかしら。
何やら怪しげな道具をひっかき回す姉さんの背中を見ながら、私は思った。
…ま、いいか。悪いのは浩之なんだし。
姉さんに恨まれるのは私も嫌だし。
「ひ、浩之ちゃん、こ、恐かったね…」
「お、おお…さすがはデズミーランドだな」
オレとあかりはふらふらになってジェットコースターを降りた。
降りた後で見ると、ジェットコースターは点検中になっていた。
やっぱり故障かなんかだったのか?
「ねえ、次はどれにする?」
「あかりに任せる…だけどジェットコースターはダメだ」
「私だってもう嫌だよ」
デズミーランドには様々な趣向を凝らしたジェットコースターがいくつかあるが…もうそんなもんに乗る勇気は残ってないぞ。
「じゃああれにしようよ」
「おう」
あかりが指差す方に、俺達は向かった。
今度は姉さんは魔法陣の上から移動し、どこからともなく細長い紙切れを取り出して地面に並べ始めた。
「姉さん、今度は何をするの?」
「………」
「え? 幽霊を召喚する?」
…こくん。
オレとあかりが入ったのは、いわゆるおばけ屋敷だった。
しかしそこいらのケチくさいおばけ屋敷とは格が違う。
なんていったって、ここのは最先端の立体映像を使っているんだからな。
しかし…。
「あんまり恐くないね」
確かにあかりの言う通り、あんまり恐くない。綺麗ではあるんだけど。
「センパイ、こういうの見たら喜ぶだろうなあ」
「来栖川先輩?」
「他に誰がいるんだよ」
「うーん、だけど私には先輩が笑った顔って想像できないよ」
「微妙に違うんだよ、微妙に。慣れれば簡単に見分けがつくって」
「さすがは浩之ちゃん、来栖川先輩の表情の研究家だね」
「結構楽しいんだぞ。あかりもやってみたらどうだ?」
「そうだね。今後の藤田浩之研究の参考になるかもね」
藤田浩之研究? なんだ、それは?
「お、あかり、あの幽霊、結構リアルだな」
「リアル? 浩之ちゃん、本物見た事あるの?」
「おう、この前、志保が肝試しやった時に…」
「えっと、私が熱出していけなくなった時だよね?」
「………」
「浩之ちゃん?」
「………」
…いや、この話はやっぱりやめとこう。
浩之とあかりは平気な顔をして出てきた。
あの二人、案外根性あるのかも。
…いや、おばけ屋敷の中だから、本物の幽霊を偽物だと勘違いしただけね、きっと。
「あかり、次どうする?」
「回転木馬なんてどうかな?」
「三角木馬の方がいいな」
「え?」
「いや、なんでもない……嫌だ、そんなガキくさいの」
「う〜ん…じゃあ……」
あかりは眉間にしわを寄せてパンフレットとにらめっこしている。
「次は観覧車みたいね」
私が言うと、姉さんはこくんとうなずいた。
そして魔法陣の上に立ち、魔道書(らしい)のページをめくる。
「姉さん、今度は何をするの?」
「………」
「え? 観覧車を止める?」
…こくん。
「だけど姉さん…」
ガタンと音を立てて、観覧車は止まった。
「ひ、浩之ちゃん、恐いよう…」
「大丈夫だって、またすぐに動きだすよ」
「で、でも…」
「だってオレがついてるんだぜ? …あかり、お前はそれでも不安なのか?」
「………」
あかりは少しの間だけ黙り込み、
「…ううん、そんな事ないよ。浩之ちゃんが側にいてくれるなら…私、大丈夫だよ」
笑って言った。
「そうか…どうしても不安だったら…」
「あっ」
「オレがこうやって手を握っててやるからな」
「ひ、浩之ちゃん…」
「これで少しは安心したか?」
「浩之ちゃん、大好き!」
二人は狭いゴンドラの中で抱き合った。
そして見つめ合い、潤んだ瞳にお互いの姿を映しだすと…。
「…ってな事になってらどうするの? 姉さん」
「………」
一瞬、姉さんの眉がぴくっと跳ね上がったような気がした。
ガタンと音を立てて、観覧車は止まった。
「…止まっちゃったね。どうしたんだろ?」
「故障かなんかじゃねえか? …しかしさっきのジェットコースターといい、よく故障するなあ」
「そうだね…だけど長く乗ってられるから、ちょっと得した気分だね」
「あかり、そういう考え方はケチくさいぞ」
「そうかな?」
「そんなに観覧車が好きなら、もう一回乗ればいいんだよ。どうせ一日フリーパスなんだから」
「…浩之ちゃんの方がケチくさいよ」
「そうか?」
などと話していると、今まで止まっていた観覧車がすごい勢いで動き始め、
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
オレとあかりは一緒になって悲鳴を上げた。
…よく考えたら姉さん、ヤキモチ妬いてるのよね?
他でもない、無口でいつも人付き合いを避けている姉さんが、よ?
今までと比べたらすごい進歩じゃない。
だけど…。
「パパ、あの人、何してるの?」
「あの人は魔女だよ。白雪姫に毒のリンゴを食べさせる悪い魔女なんだ」
「ふーん、恐いなあ」
「ママはシンデレラに魔法をかける良い魔女だと思うわ」
「ねー、パパとママのどっちが合ってるの?」
「じゃあ聞いてみるか…すいませーん、どっちですかー?」
…周囲をすっかりギャラリーに囲まれていた。
姉さん! 少しは周りの視線を気にしてよ!
「ひ、浩之ちゃん、こ、恐かったね…」
「お、おお…さすがはデズミーランドだな」
オレとあかりはふらふらになって観覧車を降りた。
降りた後で見ると、観覧車は点検中になっていた。
やっぱり故障かなんかだったのか?
「ねえ、次はどれにする?」
パンフレットを見ながらあかりが聞いてくる。
…あれ? あそこに人が集まってるぞ。
「ねえ浩之ちゃん? 聞いてるの?」
「あかり、あそこでなんかやってるみたいだ。行ってみよう」
「うん」
姉さんは三角帽子を脱ぐと、どこからともなく二本のロウソク(しかも火がついている)を取り出し、同じくどこからともなく取り出した白い鉢巻きでおでこに固定した。
そしてどこからともなくわら人形と木槌と五寸釘を取り出すと、近くの木までてくてくと歩いていった。
わら人形を木の幹に押し当てると、五寸釘を立てて木槌を振りかぶる。
「パパ、あの魔女の人、何やってるの?」
「さあ、何を始めるんだろうね」
「あなた、そこの人に聞いてきたら?」
「そうだな…すいませーん」
…もう嫌、こんな生活……。
「………」
その時、姉さんが私の方を向いて何か言った。
「姉さん、何? 聞こえなかったわ
「………」
「え? あかりさんの髪の毛か爪のかけらを取ってきて欲しい? ちょっと姉さん! 私まで巻き込まないでよ!」
私が怒鳴った瞬間、
「あれ? センパイじゃないか」
しまったっ! 浩之に見付かった!
「センパイ、何してんだよ、こんな所で…げっ! ま、まさか、ジェットコースターと観覧車が暴走したのは……」
「そうよ! みんな姉さんがやったのよ!」
私は開き直って叫んだ。
「だけど浩之が悪いのよ! あんたが女の子連れて歩いてるから、姉さんヤキモチ妬いたのよ!」
「ヤキモチって…そんなんじゃねえよ。こいつはただの幼なじみだよ」
「浩之ちゃん、痛いよう…」
そう言ってぺちぺちとあかりさんの頭を叩く。
「そんな事言ったって姉さんは…」
「………」
言いかけた私の言葉をさえぎったのは、他ならぬ姉さんだった。
「………」
「ごめんなさいって? いや、悪かったのはオレの方だよ…ごめんな、センパイ」
「………」
「え? オレは悪くないって? う〜ん、じゃあお互いに悪かったって事でどうだ?」
…こくん。
姉さんはうなずいた。もう、姉さんったら本当にお人好しなんだから…。
「……おいで、先輩!」
浩之が手を広げて言うと、
「……」
…たたたっ。
姉さんは駆け寄って、浩之の腕の中にその体をあずけた。
おお〜〜〜〜〜……。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……。
「ううっ……ええ話やあ!」
「わたくし、こんなに感動したのは生まれて初めてですわ!」
「全くじゃわい。うむうむ」
私達四人を取り囲むギャラリーから惜しみない拍手と歓声が送られる。
だけど…。
いいのかしら、こんなデタラメなエンディングで。
ま、いいのよね、きっと。二人が幸せなら、それで。
この後、姉さんは浩之を連れ回して何回もおばけ屋敷に入ったけど…それはまた別の話よね。
お嬢様と遊園地 了
あとがき
ど〜も、wen-liです。
「お嬢様と遊園地」いかがだったでしょうか。
みなさんお待ちかね、佐藤雅史君の登場です。
え? 違う? そうですね、芹香先輩の登場です。
先輩は「ToHeart」で一番お気に入りのキャラですが、ようやく小説にできました。
ゲーム中ではあんまり恋愛っぽいイベントがなかった気がしたので、先輩がヤキモチを焼くお話にしてみました。
自分で言うのもなんですが、デタラメなストーリーとデタラメなエンディングです。
ですがゲーム中でもホレ薬飲んでHするような二人ですから、こういうデタラメさがいいんじゃなかろうかと開き直っています。
しかし「マルチの料理」の時もそうでしたが、私が先輩を書くとどうして周りの誰かが不幸になるんでしょう。
まあ、先輩に免じて許してやって下さい。
感想お待ちしてます。
でわでわ。
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